プロローグ
その日やってきたウィンクルム達は、職員がきょろきょろあたりを見渡しているのに気がついた。
どうしたのかという問いに、ぱぁっと笑顔になる職員。
「えっとですね、この間、オーガに襲われた街があるんですが……そこで、桜を摘む人を募集してるんですよ」
よくよく聞くと、農園自体に被害はなかったものの、従業員で怪我人がでてしまったようだ。
そのために、人を募集しているのだが……街全体が被害を受けているために、なかなか集まらないらしい。
「その桜は、色んな所に桜の花弁を出荷しているところでして……。
桜のお茶の原料や、桜塩や、あとは押し花なんかにもなるみたいですね」
もちろん、自分たちの所でも色々やっているようなのだが。
とにもかくにも、この桜の盛りのこの時期に人が足りない、というお話である。
「で、もしよかったら、皆様はボランティアとして参加していただけませんか……?
今回は、被害がかなり大きいですし、復興支援もかねて、午後からは栞作りか、お菓子作りをしていただければと」
具体的どういった感じなのかという問いに、職員が言葉を紡ぐ。
「午前中に桜摘みをしてもらいます。
あまり高くなくなっておりますが、それでも高い所は枝切り鋏で切ったりしますよ。
お花は籠の中に入れて、所定の場所に置いて下さいね。
午後からは、栞作りかお菓子作りを楽しむコーナーがありますので、其方で是非是非、遊んで行って下さい!
時間的に、栞作りか、お菓子作りのどちらかになりそうですね」
楽しんでくださいね、と微笑んだあと、あ、そうだったと微笑む。
「午前の方は、視界いっぱいの桜の木になっていますから、お花見気分も楽しめると思いますし……皆様は一つの場所に固まって作業することになりますから、是非他のウィンクルムの皆様とお話なんか楽しみながらやってくださいませ」
新しい出会いがあるかもしれませんね? と微笑むのだった。
解説
・午前
桜を摘もう!
ここは全員で同じ場所を担当します。
視界いっぱいの桜でとても美しいです。
皆様同じ場所担当なので、お喋りしながらやるのも楽しいかもしれません。
・午後
どちらもお一人様、300jr頂きます。
★栞作り
桜の花をメインに、色々なお花で貴方だけの栞を作ります。
台紙は、ハート・星・長方形がありますが、自分で紙を切って作るのも可能です。
お一人様5枚まで、作れます。
★お菓子作り
桜の塩漬けをいれたマフィンを作ります。
出来あがったマフィンはお持ち帰りできます。
ゲームマスターより
そろそろお花見な季節ですね!
よろしくお願い致します。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
こういう話は依頼と関係なくても積極的に参加するよ 復興の役に立つなら嬉しい限りだ 俺も、両親が殺された時に色々な人に助けて貰ったからさ 何かさせて貰えるのは歓迎っていうか…さ(照 と、兎に角 摘むぞ、俺達は(てってってー ◆摘む 花弁を痛めない様に丁寧に 必要な枝は傷つけない様に 取ってそっと摘んでいく 高所はランスが 下では俺が あ、頭に花弁が付いていたのか(ふふ 見上げると見事な桜… ランスの話も耳に優しい 深呼吸して春の香りを体の奥まで入れよう ◆マフィン 御揃いのエプロン いつも二人が使ってる物 休日があえば一緒に作ったりもするんだよ ランスもかなり手伝ってくれるようになってさ 美味しいな ほら…頬に欠片が付いているよ(手伸ばし |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
桜を摘むぜ。中途半端に高い枝の花は脚立を使って摘む。 高枝鋏でバッサリ枝を斬るより花だけ良い感じに採りたいからさ。 今年も桜が見れてとても嬉しいぜ。またラキアと一緒だし。 また来年も一緒に摘みに来れると良いなぁ。 今度は人手不足だから、って事じゃなくて、季節の体験ツアーとかで。人の被害は気の毒だったけど、桜達が無事でよかったよな。 樹が痛むと回復するのに時間がかかるんだろ。 長寿の樹が枯れると悲しいしさ。 なんて話をしつつ摘むぜ。 今回の思い出にしたいから、作るのは栞だ。 ごく薄い空色の台紙へ草の緑も少し入れて、桜の花びらをふわっと配置してみるぜ。お、良い感じ? ラキアがよく本読むから5枚作ってプレゼントするぜ。 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
桜、凄く綺麗だな こんな近くで桜が見れるなんて、贅沢で得した気分 摘んでしまうのが勿体ないくらい… 花を傷めないよう丁寧に、大事に大事に摘もう 桜のお茶って飲んだ事ないかも 桜塩も興味ある 今度、売ってる所を探してみたいとフィンや皆と話しながら、気付けば夢中になって桜を摘んでた 栞作りに参加 今日の記念に、桜を手元に残したいなと思った ハート・星・長方形全種類作ってみるか 自分とお揃いでフィンの分も作りたい フィンは仕事柄、本はよく読んでるみたいだし… 俺を星みたいと言ってくれた事を思い出して、星の型紙に、桜の花を中央に薔薇と勿忘草で周囲を飾る こっそりサインも入れ フィン、いっぱい作ったから、一個やる(さりげなく渡そう |
西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
☆午後・栞 ☆心情 「わぁ…! 桜が満開で凄く綺麗なのだよ! カズちゃんも来れれば良かったのに…」 ☆午前 ・参加者達と一緒に雑談をしながら桜摘み ・自分で届かない場所はルーカスに肩車や抱っこ等してもらい取る 「えーっと、こうやれば取れるかなぁ? はーい、分かってるのだよ~ パパも怪我には気を付けてね?」 ☆午後 ・ハート、星、長方形の栞作成 ・ハートは和翔で桜と向日葵 ・長方形はルーカス用で桜と鈴蘭 ・ハートは自分用で桃の花と桜 「ねぇねぇパパ、カズちゃんにお土産で作ろう! 勿論ユズ達用も作って交換するの! 完成するまでは見ちゃダメだかんね!」 ☆完成 「完成~ わぁ有難うなのだよパパ! はいユズも! うんこの栞でいっぱい読む!(ニコ」 |
鳥飼(鴉)
桜の盛りとは言ってましたけど、出荷するだけあってたくさん植わってますね。 「頑張って摘みますね」(両手をぐっと握る 「そこまで考えなしじゃないですよ?」 できることからこつこつと、ですね。 本当に綺麗に咲いてます。(見上げて目を細める 「あ、鴉さん。髪に花びらついてます。取りますから動かないでくださいね」(摘まんで取る 午後はお菓子作りに参加です。 桜の塩漬けのマフィンは食べたことがありませんけど。 美味しく作れたら嬉しいです。 「春をいただく感じがして素敵ですね」(マフィンを見てにこにこ (ふと、鴉を見て笑いかける 「僕は、僕にできることを頑張ります。これからもよろしくお願いしますね」 やっぱり鴉さんは優しいです。 |
●
ぽかぽかと暖かな日差しの中、目の前に広がるのは、一面のピンクという光景だった。
薄いピンクに濃いピンク、光の当たり具合でも全然見せる表情が違い、それはグラデーションとして美しく桜を演出している。
西園寺優純絆と、ルーカス・ウェル・ファブレは、その光景に瞳を瞬かせる。
「ほぉ……、これは見事な桜並木ですねぇ……」
ルーカスの隣でぱぁぁっと笑顔になる優純絆。
「わぁ……! 桜が満開で凄く綺麗なのだよ!」
ふわりとどこか甘くも感じる空気の中、少し瞳を伏せれば、毀れる思い。
「カズちゃんも来れれば良かったのに……」
やんちゃ坊主な精霊を思い浮かべながら言うのにルーカスが苦笑を零した。
「カズは用事がありましたからね、仕方がありませんよ」
されど、三人でみれたらきっと綺麗だっただろうと笑う。
きっとそうですね、と相槌を打つ傍ら、セイリュー・グラシアやラキア・ジェイドバインは一面の桜に瞳を細めた。
「綺麗だな」
「本当に……」
頑張らないとな? と笑うセイリューに、ラキアも微笑んで頷いた。
はらり、と落ちる花弁を視界にいれつつ、鳥飼が桜を見上げる。
「桜の盛りとは言ってましたけど、出荷するだけあってたくさん植わってますね」
色鮮やかなその桜たちは、圧巻だ。
「頑張って摘みますね」
鳥飼は自然と力が籠り拳を握る、そんな様子を見て鴉が小さく微笑む。
主殿の事だから、頼まれたら断れないと思っていたと思う。それは嫌では勿論ないけれど、でも一つ、主殿に注意を。
「張り切るのは良いですが。張り切り過ぎて倒れないように」
「そこまで考えなしじゃないですよ?」
心外だと言わんばかりに首を傾げる鳥飼に鴉が視線をちらりと向ける。
(思っていたより、表面上は落ち込んではいませんね)
「知ってますよ」
二人のやりとりを聞きつつ、アキ・セイジは今回、ちょっと思う所がある様子。
ヴェルトール・ランスが僅かに首を傾げたのに気が付き、小さく笑みを浮かべる。
自分の両親が殺されたとき、色々な人に助けてもらったという記憶。
それは、アキにとってとても大切なもので……だからこそ、依頼とか関係なしに積極的にこういうのには参加したいし、復興となるのならば、とても嬉しいのだと伝えれば、ヴェルトールがゆらりと尻尾を揺らし頷いた。
「何かさせて貰えるのは歓迎っていうか……さ」
(そっか……それであんなにヤル気なんだな)
アキから感じる雰囲気の違いに、合点がいったようだ。
(よおし俺も一肌脱ぐか)
僅かに頬を染めたアキに笑みを零し、ヴェルトールにもさらに気合が入る。
「と、兎に角……、摘むぞ、俺達は」
「ああ、山盛り取ろうぜ」
アキとヴェルトールが向かう先。
「そうだな、待っているようだし」
蒼崎 海十の視線の先には、手を振る職員の姿。
「頑張らないとね」
フィン・ブラーシュが頷きつつちらりと海斗をみれば、当然だというように頷く姿。
「ユズも~!」
走り出す優純絆を追いかけるルーカスともども、皆が職員の元へ。
満面の笑みを浮かべた職員は、総勢十名のウィンクルム達を出迎えたのだった。
●
ふわり、ふわりと風に揺れる桜を指先で追いかけて摘む作業は、普通の花見とはまた違った風情だ。
「今年も綺麗に咲いたね、少し採らせてね」
桜の花に話しかけながら、花を摘むラキア。
褒めた方が花は綺麗に咲くし、黙って花を採られたら桜だって良い気はしないだろう。
そんな思いで話しかけながら摘むのに、花もどこか嬉しそうにも見える。
ラキアの傍では、高枝鋏で枝をバッサリ斬るよりも、花だけを採りたいと脚立に足をかけ、セイリューが花を摘んでいた。
「今年も桜が見れてとても嬉しいぜ。またラキアと一緒だし」
摘み取りながら言えば、ラキアがセイリューを見上げる。
桜の花の間から見えるセイリューの笑顔が見え、微笑みを返した。
「また来年も一緒に摘みに来れると良いなぁ」
「来年も?」
セイリューが手をとめ、咲き誇る桜をじぃっと見つめる。
「今度は人手不足だから、って事じゃなくて、季節の体験ツアーとかで。人の被害は気の毒だったけど、桜達が無事でよかったよな」
ぽんぽんと幹を激励するかのように叩いてやれば、心地の良い肌触りが返る。
「樹が痛むと回復するのに時間がかかるんだろ。長寿の樹が枯れると悲しいしさ」
そうだね……とラキアも頷き、見事な花を咲かせる桜の木を見つめる。
そっと伸ばした指先が、桜をとらえ微笑みを零した。
「君達がとても綺麗だから、その姿を残したくて、色々と作りたい人が居るんだよ」
だから、採らせてね。
籠に入れながら、セイリューを見上げる。
「綺麗だね、桜」
本当に、綺麗だ。
そう言って微笑むセイリュー達に、近くで桜を採っていた海斗とフィンから同意の声が掛かる。
皆が居る場所の桜も、本当にとても美しい。
さわさわと揺れる花々に、舞う花弁。
「桜、凄く綺麗だな」
「うん、本当に素敵な景色」
こんな近くで桜が見れるなんて、贅沢な気分だと笑う海十に、フィンもこんなに近くで観れることなんて早々ないと微笑みを浮かべる。
ゆるりと指先を伸ばし、桜を摘みながら思う。
じっくりと鑑賞させて貰おうか、と……勿論、仕事をこなしながらだけれども。
フィンが籠に入れる隣で、一輪、一輪、丁寧に摘んでいく海十。
摘んでしまうのが勿体ないような景色だけれども、だからこそ花を痛めぬように、大事に大事に扱う。
そして思うは、この花たちの行方だ。
「桜のお茶って飲んだ事ないかも」
「桜のお茶も色々あるよ」
また一輪……と摘みながらフィンが思い出すように言葉を紡ぐ。
「緑茶と紅茶は飲んだ事あるな。桜が優しく香るんだ」
今みたいに、と海十に微笑みかける。
「今みたいに……」
海十がそれを感じ取ろうとするかのように息を大きく吸い込めば、どこかほんのりと甘く香った気がした。
「へぇ……桜の紅茶、美味しそうだな」
フィンの言葉に耳を揺らし、ヴェルトールが言えば、フィンが今度ぜひどうぞ、と答えを返す。
「アキ、今度飲んでみようぜ!」
「そうだね」
フィンと海十がみえる位置。
ヴェルトールは脚立に立ち、摘んだ桜を入れた籠を紐で下に降ろしていた。
アキはそれを下で受け取って大籠に移し替えた後、フックにまた籠をつけてやる……という上はヴェルトール、下はアキという共同作業を行っていた。
上で採っている間、アキも傷つけぬように注意を払い、丁寧に一輪一輪籠へと入れて行けば、はらり、はらりと舞う桜。
ヴェルトールも丁寧にとっていることから、彼が落としたわけではないのは分かっている。
自然と毀れ落ちる花弁は、二人の間をはらり、はらりと舞い踊るように地面へと落ちて行った。
お互いにその花弁を追うように視線を向けていれば、目が合って。
自然と笑みが浮かび合うその時間は、とても優しい。
二人の間に流れる空気は、どことなく甘い……。
そんな優しい雰囲気の隣では、優純絆がルーカスと共に桜の花弁を採っていた。
背伸びをして、一輪。
隣で伸ばされたルーカスの腕は、自分のはるか上だ。
それでも、採れる範囲は決まってしまう。
ヴェルトールのように高い所を……と視線を彷徨わせるのに気がついたルーカスが、微笑んだ。
「これでどうですか?」
抱っこされれば、ぐんっと高くなる視線。
「ヴェルトールお兄ちゃんやセイリューお兄ちゃんたちみたいなのだよ!」
どこか誇らしげな優純絆の言葉に、名を呼ばれた二人だけでなく皆からも笑みがこぼれる。
「えーっと、こうやれば取れるかなぁ?」
さらに手を伸ばせば、とても高くまで採れた。
「あぁユズ、桜を摘む時は怪我に気を付けるんですよ」
そんな優純絆にルーカスが声を掛ける。
「枝で手を切ってしまう時がありますからねぇ」
「はーい、分かってるのだよ~」
あちら、こちらとルーカスに抱っこや肩車をしてもらって高い所を採って行けば、鳥飼達の近くへ。
一旦降ろしてもらった優純絆が、次は自らも採りはじめるルーカスへと視線をやった。
「パパも怪我には気を付けね?」
そんな優しい大切な我が子の言葉に、ルーカスが笑みを深かめるのだった。
親子の楽しげな声を聞きながら、鳥飼はできることからこつこつと……と、桜を摘んでいく。
指先をくすぐるように揺れる桜を丁寧に摘んで、鴉はゆるりと視線を辺りの木々へと移す。
管理されているからか、それは見事なまでに美しい。
出荷されるというのだから、日々大切に世話をされているに違いない。
そう思うのは鳥飼も一緒だった。
「本当に、綺麗に咲いてますね」
桜の花弁が頬をくすぐり、自然と見上げた先にはとても美しいピンク色。
細めた瞳に、はらり、はらりと花弁が舞っていく。
「あ、鴉さん」
それを追うように視線を落としていた鳥飼は、隣で作業に勤しむ鴉へと視線を向けた。
何事かと視線を向ける鴉に伸ばされる指先。
「髪に花びらついてます。取りますから動かないでくださいね」
髪からそっと一枚、花弁を摘まみあげ、ほら、とれましたよ、と微笑む鳥飼に、鴉の視線が注がれる。
「主殿の方が桜まみれですよ」
自分の方が? と慌てて髪に手を伸ばす鳥飼に、ふぅっと溜息を吐いた鴉は、仕方がないなと指先を伸ばしていく。
そんな風に桜をとってもらってる中、ヴェルトールの視線がアキへと注がれる。
不思議そうに首を傾げたアキに、ヴェルトールが微笑みをした。
「セイジの頭にも桜が咲いてるぜ」
あ、と声をあげてそっと髪に手をやれば、ピンク色の花弁。
ふふっと微笑みを零し、視線をあげれば……満開の見事な桜が視界いっぱいに広がっている。
そして、その先にはヴェルトールの優しい笑顔も。
「こっちは桜の香りがすげえんだけど、そっちはどうだ?」
耳に優しく響くヴェルトールの言葉に、アキは答えを返す代わりに深呼吸すれば、春の香りが体いっぱいに広がって行く。
つられて深呼吸したヴェルトールと、アキの視線が合えば、毀れ落ちるのはやはり笑顔で。
今、二人には春が沢山詰まっていることだろう。
春を感じながら、頑張っているウィンクルム達。
そろそろ籠もいっぱいに。
最後のひとしごとと、皆で固まりあって作業を進める。
自然と午後から体験する、マフィン作りや栞作りの話へ……。
そんな中、海十が桜塩も興味がある、と口にすれば、フィンが言葉を紡ぐ。
「桜塩はおにぎりやお茶漬けに合うよ」
「へぇ」
頷く海十の隣で鳥飼が瞳を瞬く。
「桜塩、美味しそうですね」
「主殿、食べてみたいんですか?」
鴉に言われ、気になると答えを返す傍らで、優純絆がルーカスを見上げる。
「ユズも食べてみたい!」
「そうですね」
ルーカスが迷う仕草を見せれば、フィンが微笑む。
「帰りに売ってる所を探してみようか」
「お、いいなー」
セイリューがラキアを見れば、それもまたいいかもね、と頷くのだった。
そんな話をしながら最後の籠も桜を詰め終わり、ラキアが置きに行く。
(来年、皆で満開の桜をまたみに来よう)
「また来年も可憐な姿を沢山見せてね」
そんなお願いに、桜たちがわかった、とでもいうように風に揺れるのを、ウィンクルム達は見詰めるのだった。
●
暖かな日差しが入る部屋の中、優純絆とルーカスは、栞を作っていた。
並べられた紙型は、ハートに星に、長方形だ。
テーブルの上には色々な押し花が入った箱が置いてある。
「ねぇねぇパパ、カズちゃんにお土産で作ろう! 勿論ユズ達用も作って交換するの!」
「そうですねぇ、お土産には丁度良いですねぇ。ではそうしましょうか」
瞳を細め賛同するルーカスに優純絆が栞を囲みこむ。
「完成するまでは見ちゃダメだかんね!」
「えぇ分かりましたよ」
そうして、二人とも作業を開始する。
どの花が合うのか、迷って、悩んで、組み合わせを格闘して。
真剣に栞と向き合って暫し後、二人とも出来あがった栞を前に、笑みをこぼした。
「完成~!」
ぱぁっとお花が散る勢いで優純絆が言えば、ルーカスも頷く。
「無事に完成しましたね」
ルーカスが作ったのは長方形の三つの栞だ。
自分用には花菖蒲と鈴蘭をあしらった栞。
そして、お土産には向日葵とコウホネをあしらった、黄色い栞。
最後の一枚は……。
「ユズ、これをどうぞ」
差し出された栞に、ぱぁっと笑顔になる優純絆。
「わぁ有難うなのだよパパ!」
「この栞で沢山本を読んで下さいね、ユズ……」
「うん、この栞でいっぱい読む!」
桃の花と蓮華草の花が咲く栞を抱きしめ、微笑む。
そして、そっと差し出されるのは優純絆からルーカスへの桜と鈴蘭の長方形の栞。
ルーカスを思って作られたその栞を受け取り、微笑みを零す。
「ありがとうございます、ユズ」
笑顔を零した優純絆の手には、ハートの栞が二枚。
お土産用の桜と向日葵が並ぶ栞と、自分用の桃の花と桜の花の栞。
これを見れば、楽しかったね、と笑い合う今日の思い出が色鮮やかに思い出されることだろう。
今日の記念に、桜を手元に残したいと思う海十はマフィン作りではなくて栞作りへときていた。
てっきり食べ物へ行くかと思いきや、栞作りだというのに意外性を感じていたフィンは、それでも海十が桜を見つめる眼差しに、手元に残したいと言う意志を感じとっていた。
それならば、栞を選ぶのも納得だと、全部の種類を挑戦しようという海十に笑みを零す。
(仕事柄、本はよく読むし……作れるだけ作ろうかな)
自分も作れるだけ作ってみようと手を伸ばすのは、ハート型。
海十とお揃いで持つのも、とても素敵だろう。
視線が、押し花たちへと向けられれば、海十に似合う……そして、今日の思い出になるものはなんだろうか。
暫し、迷う時間もまた楽しいのだった。
数枚作った後、1枚は思い人へ。
(フィンは仕事柄、本をよく読んでるみたいだし……)
同じように、お揃いで作りたい……と悩む海十は、自分ことを星みたいだと言ってくれたフィンの言葉を思い出す。
それならば、星型で……と、星型の栞を作りはじめる。
周囲には勿忘草と薔薇、そしてその中央には今日の思い出の桜を配置して。
こっそりと入れたサインに、フィンは気がつくだろうか。
「できた?」
フィンの声にはっとそちらを見れば、フィンが微笑みを浮かべていた。
問いかけに、あぁ、何枚か……といった後、たったいま出来あがったばかりの栞をそっとフィンへと手渡した。
「フィン、いっぱい作ったから、一個やる」
「海十、これ……え? くれるの? 嬉しい」
さりげなさを装って渡した栞を嬉しそうに受け取るフィンに、海十はほっと息を吐く。
大事に使うよ、と微笑みを浮かべた後、彼が手に取るのはハートの栞。
桜と薔薇と、勿忘草がちりばめられている。
それは、どこか海十が作った物と似ているようにも感じられて。
「これは俺から。参考書とか読むでしょ?」
使ってくれたら嬉しい。
そう言って差し出された栞を受け取り、ありがとうと笑みを口元に乗せる。
手元に残るこの桜の入った栞は、今日という時間を2人の元に残し続けるだろう。
今日の思い出にしたいから、桜の姿を残したいから、栞を作る……。
そうしてやってきたセイリューとラキアは、星型やハート、長方形の紙から、1枚を選びとる。
選んだのはごく薄い空色の台紙。
草の緑もいれて、桜の花弁をふわっと配置すれば、青空の下に舞う桜のようにみえて。
「お、良い感じ?」
セイリューが上手く作っていて、ちょっと意外だと瞳を瞬いてラキアが微笑む。
「草の緑を入れるのは良いね」
だよな! と笑うセイリューに微笑みを深くしながら、自分ももう1枚作ろうと、先とは違い星型のを手に持つ。
選んだのは濃い藍色。
「桜を散らせば、夜桜みたいになるだろうね」
「お、いいなー!」
セイリューの青空と、ラキアの夜空。
どちらの桜もとても美しく、二人の手元に今日という時間を残してくれるだろう。
ラキアのために、あと4枚、栞を作ろうと台紙を選びながら、セイリューはそう思うのだった。
●
お揃いのエプロンをつけているのはアキとヴェルトールだ。
いつも2人が使っているそのエプロンは、いつも休日さえ合えば一緒に作っている時に使っているためにとても2人になじんでいた。
ヴェルトールも近頃はかなり手伝ってくれるようになったようで、アキの手伝いをするその様子は常日頃2人で料理をしているのが良くわかるのだった。
(俺は菓子が大好きだ)
両手に持ってガブリと食べるのは、体を動かした後なんかに最高である。
今日も午前はめいっぱい働いたことから、きっと美味しく食べれるに違いない。
出来あがるのが楽しみだ。
出来あがったマフィンは、刻まれた桜と、上にちょこんと塩漬けの桜が載ったものだった。
ふっくらと美味しそうな焦げ目が出来たマフィンは、ふわりと甘い桜の香りを2人の元へと届けてくれる。
ゆらりと揺れる尻尾が、その香りをとても「素敵な物」として認めているものの証のようにも思えた。
ぱくりと一口食べれば、口に広がるのはほんのりと桜かおる味。
「美味しいな」
甘くもしょっぱく感じるそれは、いつもとはまた違うマフィンの味だった。
「ほら……」
アキの声に耳が動くのと、アキの白い指先がヴェルトールの頬に伸ばされるのは同時だった。
「頬に欠片が付いているよ」
一瞬動きが止まり、追った視線の先。
頬についた欠片をとる指先が離れたあと、ヴェルトールの頬に朱が掛る。
「なんか……」
うん? と不思議そうに首を傾げるアキに、ヴェルトールが照れくさそうに笑いながら、言葉を紡ぐ。
「こういうのって、いいよな」
その言葉に、アキも少し恥ずかしそうに微笑むのだった。
ところ狭しと棚に調理器具や食器が並んでいる。
そんな調理室へやってきた鳥飼と鴉は、テーブルの上にすでに用意された材料をみていた。
「桜の塩漬けのマフィンは食べたことありませんけど……」
どういった物なのだろうという鳥飼は隣の鴉を見る。
そんな彼といえば、一からお菓子作りをしたことがないと、テーブルの上に置かれた作り方を確認している。
場合によっては職員が手伝ってくれることもあるようだが、手順に沿えさえすればなんとかなりそうだ。
「まあ、手順に従えば妙なものにはならないでしょう」
そうだね、と頷き、さっそく鳥飼は手順通りに器具へと手を伸ばし作りはじめる。
鴉が主導となり、作られたマフィン。
刻んだ桜の塩漬けと、上に桜が飾られたそれは、ふんわりと美味しそうに出来あがっていた。
「初めてにしては上出来ですか」
その言葉通り、初めてにしてはいい出来だろう。
「春をいただく感じがして素敵ですね」
黄色い焦げ目がはやくはやく美味しくたべて! と二人を誘うようにも見えて、にこにこと笑みがこぼれる。
そして、ふっと視線を鴉の方へと向ければ、鴉も気が付き視線を寄こす。
視線が絡みあえば、ふわりと微笑み掛ける鳥飼。
「僕は、僕にできることを頑張ります」
だから……と言葉を紡ぐ。
「これからもよろしくお願いしますね」
それを受け、鴉は黒くもみえる、濃い紫の瞳を細めた。
前向きなのは悪い事ではありませんが。
と前置きして、鴉が視線を合わせる。
「気負い過ぎないようにして下さい」
あなたは優しすぎる。
その言葉に、鳥飼の笑みが深くなった。
(やっぱり、鴉さんは優しいです)
二人、並んで食べるマフィンは、桜の香りと甘い中にもしょっぱさが混じる。
春を食しながら、時間はゆっくりと流れていく……。
和気あいあいと過ごした後、帰路に就くウィンクルム達。
彼らが摘んだ桜は、今日自分達が楽しんだ時間と同じ時間を、皆に届けてくれることだろう……。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 如月修羅 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月28日 |
出発日 | 04月03日 00:00 |
予定納品日 | 04月13日 |
参加者
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
- 鳥飼(鴉)
会議室
-
2016/04/02-23:28
プランは提出できているよ。
>皆様同じ場所担当なので
とあるので、ランスがひやかしたりしてチョッカイかける…かもしれない。
別個でも絡んでも、どちらでも楽しいリザになりそうだと思う。 -
2016/04/02-22:18
-
2016/04/02-01:19
-
2016/04/02-00:53
あらためまして、蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願い致します!
俺達は、午後は栞作りに参加する予定です。
一緒になる方々が居れば、宜しくお願いします!
楽しい一時になりますように。 -
2016/04/02-00:23
-
2016/04/02-00:08
-
2016/04/02-00:06
-
2016/03/31-23:37
-
2016/03/31-23:06