プロローグ
あなたはタブロスのショッピングモールにいる。すでに目当てのものは買い終えて、今は家に帰る前にちょっとモールをぶらぶら見て回っているところだ。
雑貨を扱うコーナーに立ち寄る。そこには、相手をビックリさせるようなパーティグッズがずらりと売られている。
なんでこんなものがたくさん? と一瞬疑問に感じるが、あなたはすぐに思い出した。
そろそろエイプリルフールだ。
それで、こんな色々とパーティグッズが売られているというわけ。商魂たくましい。
雑貨コーナーには色々な商品が並んでいる。
オモチャの巨大タランチュラだとか、札束にそっくりなメモ帳だとか、ウソの小道具に使えそうなものがいっぱい。
ラバーマスクや、簡単な特殊メイクセットなど変装ができるグッズもある。
パーティグッズを見ているうちに、パートナーをちょっとからかってみようかというイタズラ心があなたの中にふいに芽生えた。
グッズは使わないで、自分のウソだけでパートナーを驚かしてみるのも、けっこう面白そうだ。
エイプリルフール。一日限りの、無邪気なウソとイタズラ。
途中で相手をビックリさせることはあっても、最後には二人で笑い合えるような、そんな楽しいエイプリルフールになればきっと素敵だ。
解説
・必須費用
買い物代:300jr
プロローグのショッピングモールでの買い物代です。
雑貨コーナーのグッズをプランで利用してもしなくても、消費ジェールは変わりません。
・プランについて
エイプリルフールに、パートナーにウソをついたり、イタズラやドッキリをしかけるという趣旨のエピソードです。
GMは、騙された側も笑える範囲で丸くおさまる程度のウソを想定しています。
舞台は、それぞれの自宅、雑談のできるA.R.O.A.のロビー、公園など、無料で利用できる場所から自由に選べます。
プロローグでは「あなた」と書かれていますが、騙す側は神人でも精霊でも、どちらでもOKです。
神人も精霊もお互いに相手を騙すつもりだった……! というのも、面白い展開が期待できそうですね。
ゲームマスターより
山内ヤトです。
普段の日常生活ではウソや隠し事というと悪いイメージがありますが、エイプリルフールということで!
ウソやイタズラが、二人の関係のスパイスになったら良いですね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
今日はエイプリルフール 嘘をついても良い日、でしたね、確か なんだか日常茶飯事な気もしますが、少しからかってあげましょう と、いってもどうしましょう 流石に傷つけるような嘘はつきたくないですし 仮病…は、相手は医者ですし無理ですよね、ここはアドリブでいくしかありません!いつもやってることですしね。 と、家に帰ったところでディエゴさんの異変に気づきました もしかして病気ですか!?大丈夫ですか…? 立ってないで大人しく暖かくして寝ててください!熱があるなら氷嚢作ってきますからね! え…嘘? うーん…今回は負けました っていうかそれ私がやろうとしたネタ… でも、健康そうで安心しました。 後日私が風邪をひいたのはまた別の話。 |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
今日は弓弦さんのお家にお邪魔しているよ もう4月、春だね 庭木の桜を眺めてお花見しようと、お茶とお茶菓子の用意で台所に 縁側から普段聞かない弓弦さんの焦り声に慌てて向かうよ! 弓弦さん!猫ちゃんたちがどうしたの!? 駆けつけた先に見えた弓弦さんの後ろ姿に不安を覚えつつ ね…猫ちゃんが…わんちゃん…に… 想像もしていなかった状況に直ぐには頭が追いつかなかったけれど… わんちゃんになった(?)猫ちゃんたちと、弓弦さんの顔を見比べていく内に…っふふ! あははは!可愛い!何これ! 思わず猫を撫でようとするよ そっか今日はエイプリルフールだったね …弓弦さんのお家にお邪魔する日だったから、忘れてたや ふふ、ひっかかっちゃたね |
水田 茉莉花(八月一日 智)
ちょっと待って…ほづみさんのスマホからのメールで間違いないわよね… 『たすけて』って、どういう意味なのよ! ほづみさん、今日は有休で自宅に居るはずでしょ? (大慌てで会社から帰ってくる) ほづみさ…ち、血がっ! ちょっ…ほづみさん、大丈夫ですかほづみさん! 良かった…ほづみさん、生きてたぁ…(へなへな) いったいどうしたんですか、その血! …あー、あのおチビさんの仕業かぁ その張本人は(室内を見渡す)『また』脱走したわね ところで、2人で何を作ってたんですか? えっとー…あたしそんな事一度も言ってないわ 多分おチビさん情報よね? でも待って、こういうケーキなら、大丈夫かもしれない (味見し)うん、大丈夫…かも、おいしいね |
ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
☆近況 両親を殺めたのは最愛の人でした その真実を思い出した神人は部屋に閉じこもったまま誰とも会おうとしません ☆突然現れた男に な、なに、わ、私、部屋、鍵かけて・・・ない! だ、だれ、ですか・・・!? お嬢様さま・・・!?(ぽかーん) 確かに私はミサですけど人違いです う・・・お忘れも何も私貴方のこと知らない・・・え、ええ!?(街に連れ出され) (クラウスさん悪い人じゃないみたい 新米の執事さんなのかな面白い人) (クリームたっぷりのクレープを頬ばり、ひげをつくる彼を見て)クラウスさん、おひげができてますよ、ふふ シュトルツさん!? そうか今日ってエイプリルフール(恋人の誕生日を思い出し名前を呟きながら泣きじゃくる) |
マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
彼のお仕事の休憩時間 気分転換のよい一時を送って頂きたく思う 執務室に備えたテーブルで真心込めて淹れた紅茶をお出しし、お菓子はマフィンをご用意 はにかみ「ありがとうございます、各地のお茶会に旦那様が私を連れて行って下さるのでそのおかげでもあります 褒められ嬉しいフワフワ気分 髭話に「お髭?でございますか… 困惑(このお美しいお顔に髭はどうなのかしら、想像がつかない… 付髭は口周りに黒毛の毛むくじゃら 強烈ギャップに固まり頭真っ白 暫く沈黙ののち「…いや、嫌です!私整えますからっだからこんなの嫌です!! 半泣き ネタ晴らしされ(エイプリルフールのジョーク… 「お髭は…無い? 「カタログをご用意致します 「ジョークです くすっ |
●衝撃! 猫達の異変
『降矢 弓弦』の家に『日向 悠夜』は招かれた。
縁側のある古風な造りの家だ。庭には桜が咲いている。
庭の桜でお花見をしようということになり、悠夜は弓弦の家の台所を借りてお茶とお菓子の用意をしているところだ。
「もう四月、春だね」
「ああ」
弓弦の口元にちょっとイタズラっぽい笑みが浮かぶ。
今日は四月一日。エイプリルフールだ。
(今回は僕が悠夜さんを驚かそうか。そして、和んでもらいたいものだね)
縁側に移動して、可愛らしいイタズラの準備へ。弓弦の家には猫の姿が多かった。
弓弦はよく縁側で本を読む。読書家の弓弦のポケットには今も、怪奇小説「麗しの伯爵」と童話「狼少女」が忍ばされていた。
本と同じくらい昼寝も好きで、そのまま寝入ってしまうこともしばしば。猫達とは昼寝仲間の関係だ。
今日はこの猫達に仕掛け人ならぬ仕掛け猫として協力してもらう。弓弦はショッピングモールで買ってきたあるものを猫達につける。
(よしよし……。これで準備完了だ)
準備が済んだところで、弓弦は台所にいる悠夜を呼んだ。
「悠夜さん! 猫が……猫達が大変な事になっているんだ! 早く、来てくれ!」
会話術が堪能で、初歩的なフェイク技能も持つ弓弦。これなら、なかなか上手く騙せそうだ。
台所にいた悠夜は鬼気迫る弓弦の声を聞きつけた。
「弓弦さん! 猫ちゃんたちがどうしたの!?」
普段は穏やかでのほほんとした弓弦があんな大声を出すなんて……。これはよほどのことが起きたに違いない。
そう考えて、悠夜は慌てて縁側へ急ぐ。
「大丈夫!?」
位置と間取りの関係上、台所から来た悠夜には猫の姿はすぐには見えない。視界に移るのは、立ち尽くす弓弦の背中だけだ。
「……」
緊張して悠夜はゴクリと息を呑む。
スリルと緊迫感をキープしながら、弓弦がゆっくりと振り返った。迫真の表情で悠夜に告げる。
「猫達が……犬になっているんだ……!」
「へっ!?」
きょとんとする悠夜。
弓弦は悠夜に猫達が見えるようにスッと体をずらす。
そう。よくよく見てみると、そこにはペットサイズの犬耳頭巾をかぶった猫達がいた。準備をする時に、優しい弓弦は頭巾を嫌がる猫には無理にかぶせることはしなかった。
どの猫も、弓弦からもらったオヤツを食べて、くつろいだ様子である。
縁側と庭先には、のどかで平和な光景が広がっていた。
「ね……猫ちゃんが……わんちゃん……に……」
想像していなかったほのぼのとした状況に、悠夜は口をパクパクさせる。すぐには頭が追いつかず、ポカーンとした表情でしばし弓弦と犬耳の猫達を交互に見つめる。
「……っふふ!」
やっと笑い出した悠夜を見て、弓弦はホッと胸をなでおろす。笑ってくれて良かった。
「あははは! 可愛い! 何これ!」
「ふふ、可愛いだろう?」
悠夜はにこにこして犬耳の猫に手を伸ばす。猫は逃げたりせず、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らして悠夜の手に撫でられている。
それから、悠夜はふと思い出す。
「そっか今日はエイプリルフールだったね」
四月一日はエイプリルフール。それをつい忘れてしまうくらい、今日の悠夜はすっかり他のことに気を取られていた。
「……弓弦さんのお家にお邪魔する日だったから、忘れてたや。ふふ、ひっかかっちゃたね」
奥ゆかしい関係の二人。弓弦の家にいくというだけでも、なんだか特別なことのように思える。
いや、二人にとってはきっと特別な日になるのだろう。
微笑みながら弓弦が促す。
「さあお花見を始めようか、悠夜さん」
「うん!」
縁側に美味しいお茶とお菓子を持ってくる。
人懐っこい犬耳の猫達に見守られながら、悠夜と弓弦はのんびりとしたお花見の一時を楽しんだ。
●愉快! 不思議な執事登場
うららかな春の陽気とは対照的に『ミサ・フルール』の心には暗澹とした雲が立ち込めていた。
ある残酷な真実がミサを容赦なく苦悩へと突き落とす。最愛の人物と、両親を殺害した罪人が、同一人物だという真実を彼女は思い出してしまった。
「……」
ミサは借りている宿屋の部屋に閉じこもり、誰とも会おうとしない。
この状況を見兼ねて『エリオス・シュトルツ』が動いた。
「ミサお嬢様!」
コンコンとドアがノックされる。声からすると男性のようだが、ミサには聞き覚えがないような気がした。
(な、なに、わ、私、部屋、鍵かけて……ない!)
謎の人物からの突然の呼びかけに動揺するミサ。体をこわばらせる。ミサが鍵をしめるよりも、ドアが開く方が早かった。
「だ、だれ、ですか……!?」
「ああ、よかった、こんな所にいらしたのですね! ミサお嬢様!」
ミサの姿を見て顔を輝かせる来訪者。執事風の身なりをしている。
「お……お嬢様……!?」
思わず唖然とするミサ。
「あの……確かに私はミサですけど人違いです……」
そう説明したが、執事はわかってくれない。他人行儀なミサの態度に執事はガーンと傷ついたようだ。
ミサからしてみれば、本当に見知らぬ人なのだが……。
執事は無垢な子犬のように悲しげに瞳をうるうるさせた。
「そんなぁ、このクラウスをお忘れですか? ミサお嬢様!」
「う……お忘れも何も私貴方のこと知らない……」
「もう家出なんてしたら駄目ですよっ」
「え、ええ!?」
執事はミサの手を引っ張り、ぐいぐいと部屋から連れ出し街へと向かった。
結局、不思議な執事に引っ張られてタブロスの街まで来てしまった。
「……」
ここしばらく部屋にこもりがちだったミサには、春の陽射しとそよ風がとても暖かく、そして切なく感じられた。
「お嬢様何だか元気ありませんね」
そんなミサの心の機微を感じ取ったのか、執事クラウスはにっこりと笑顔で励ます。
「屋敷に帰る前に甘いものを食べに行きましょうか。お嬢様は甘いものお好きですもんね!」
タブロスの街角に停まったクレープ屋のワゴン。店員が春の新商品の試食を配っていた。
「タダでクレープが食べられるなんてラッキーですね!」
クラウスは店員のところにいって、自分とミサの分のクレープをもらう。
「はい! ミサお嬢様!」
「……ありがとうございます」
軽く会釈をしてミサはクレープを受け取った。新商品のクレープには、桜風味のクリームともちもちの白玉が入っていた。この悲しい気持ちは簡単には消えそうにないけれど、優しい甘味はミサの心にそっと寄り添うかのように染み渡っていった。
ふと見ればクラウスは幸せそうにクレープを頬張っている。
(クラウスさん悪い人じゃないみたい。新米の執事さんなのかな面白い人)
ミサの穏やかな視線に気づいたのか、ちょっぴりユーモラスな仕草でクラウスが首を傾げる。
「ふぁい? なにかひぃましたか?」
彼の顔には、クリームでできた髭がついていた。
「クラウスさん、おひげができてますよ、ふふ」
「やっと笑ったな」
クラウスの声色がガラリと変わる。いや、元に戻ったというべきか。
「シュトルツさん!?」
エリオスは変装もフェイクも超一流。準備の時間もたっぷりとれたので、かなり本格的な変装ができた。彼はおっちょこちょいな執事クラウスを演じて、ミサを外へと連れ出した。
「そうか今日って……」
ミサの瞳からポロリと涙が零れ落ちる。
「……エイプリルフール」
皮肉なことに、今日は恋人の誕生日だった。
「泣くのを我慢しても辛いだけだぞ」
「……っ」
彼の名前をつぶやきながら、ミサは感情のまま泣きじゃくる。
「大丈夫だ、俺が傍にいる」
エリオスはそっとミサの背中に触れた。
●看病! 健康第一
「今日はエイプリルフール。嘘をついても良い日、でしたね、確か」
そうつぶやいて、腕組みをする『ハロルド』。
「なんだか日常茶飯事な気もしますが、少しからかってあげましょう」
ここは一つ、可愛いイタズラを仕掛けて『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』を驚かせてやろう。
もっともハロルドが自覚しているように、彼女がディエゴをからかって翻弄するのはそう珍しいことではなかった。
「と、いってもどうしましょう。流石に傷つけるような嘘はつきたくないですし」
少し考え込む。
「仮病……は、相手は医者ですし無理ですよね、ここはアドリブでいくしかありません! いつもやってることですしね」
ハロルドは知らなかったが、ショッピングモールにいたディエゴもエイプリルフールのネタを練っていた。
(いつもはあいつにからかわれてばかりだから今日はなんとかしてやりたい)
そう、日頃のリベンジだ。しかしハロルドは聡い少女だ。おそらく彼女を騙すのは簡単にはいかないだろう。
(言葉での応酬はきっとこちらが不利だ)
だから態度で騙す。
ディエゴは風邪にかかったふりをすることにした。小道具としてマスクを使う。リアリティを出すために、パーティグッズではなくドラッグストアで普通に売られているものを買った。
家へと戻ったディエゴ。ハロルドの姿はない。外出しているようだ。
(声はかすれ気味で、だるそうにしていよう)
マスクをつけてハロルドの帰宅を待つ。
ハロルドが玄関のドアを開ける。
「ただいま……って、ディエゴさん?」
ハロルドはすぐにディエゴの異変に気づいた。
「もしかして病気ですか!? 大丈夫ですか……?」
熱を測ろうとして彼の額に手を近づけたが、ディエゴは軽く首を横に振りながらすいと避けた。
苦しげにかすれた声で、ぼそりと。
「ダメだ、エクレール。うつってしまうから……」
そう言われても、具合の悪そうなディエゴのことを放っておくわけにはいかない。
ハロルドは慌てながらディエゴの看病をし始めた。
「立ってないで大人しく暖かくして寝ててください! 熱があるなら氷嚢作ってきますからね!」
部屋で安静に寝ているように指示してから、パタパタとキッチンに向かうハロルド。氷嚢を作ったり、風邪の時にも口にしやすい食事を調べにかかる。
「ディエゴさん、体調はどうですか? 入りますよ」
心配そうな顔をしたハロルドが、氷嚢とタオルを持ってディエゴの部屋に訪れる。
(うつるかもしれないのに傍にいて治そうとしてくれるんだな)
ハロルドは甲斐甲斐しく看病をしてくれる。
(……心温まるが居た堪れない、午後になったら嘘だと正直に言おう)
お昼になると同時に、ディエゴはベッドから起き上がる。
「どうしました? 今は休んでいてください」
「いや、エクレール。実はな……」
頭を軽くポリポリと掻きながら、エイプリルフールのイタズラだったとネタばらし。
「え……嘘?」
しばらく呆然としていたハロルドだが、やがて観念したような苦笑を浮かべた。
「うーん……今回は負けました。っていうかそれ私がやろうとしたネタ……」
「なんだ。同じようなことを考えていたんだな」
「ええ。ディエゴさんに仮病は通じないと思ったので、違う案をアドリブでする予定だったのですが」
二人の騙し合いは、今回はディエゴの勝利で幕を閉じた。
「でも、健康そうで安心しました」
ホッとした笑顔を見せるハロルドに、ディエゴの心も温かくなる。
「……ありがとうな」
風邪のふりをしていた時、ハロルドの手を避けてしまった。その埋め合わせをするかのように、ディエゴはそっとハロルドの頬に触れた。
「本当に俺が弱った時は頼む。弱みは人に見せたくないがお前は別だ」
●驚愕! 彼の付け髭
『ユリシアン・クロスタッド』は楽しげな笑みを浮かべた。そして、パートナー神人でもあり屋敷に奉公するメイドでもある『マーベリィ・ハートベル』のことを思う。
(ちょっと悪戯を仕掛けてみようか。真面目な彼女を怒らせるか呆れさせるかそれとも……)
マーベリィのリアクションをあれこれ想像してみる。
(楽しくなってきた)
ユリシアンの仕事は一族の土地の管理。今はその休憩時間だ。ユリシアンにとって気分転換の良い一時になるようにと、マーベリィは真心を込めて紅茶をいれる。それから、お茶と一緒に出すお菓子はマフィンをセレクト。
「ユリアン様」
執務室のテーブルに、静々とした所作でティーカップを置く。ビターホワイトシリーズのヘッドドレスとゴシックドレスがよく似合っていた。清楚な印象で、メイドらしいコーディネートだ。
ユリシアンは紅茶の香りと水色を楽しんでから口をつける。
「また腕を上げたね、とても美味しいよ」
そう素直に褒めた。マーベリィの紅茶の知識は上達してきている。
マーベリィははにかんだ。
「ありがとうございます、各地のお茶会に旦那様が私を連れて行って下さるのでそのおかげでもあります」
ユリシアンからの褒め言葉が嬉しくて、フワフワと幸せな気分に包まれる。
しかしフワフワ気分と和やかな空気は、唐突なユリシアンの発言で少し雲行きが変わった。
「所で突然な話だけど髭を生やそうと思うんだ、どう思う?」
いきなりそう話を振られ、マーベリィは戸惑いがちに受け答える。
「お髭? でございますか……」
言葉には出さないものの、彼女は内心とても困惑していた。端正なユリシアンの顔立ちをそれとなく見つめる。
(このお美しいお顔に髭はどうなのかしら、想像がつかない……)
ユリシアンの眉はきりりとしているが、瞳はパッチリしていて睫毛も多い。女性的な顔立ちをした美青年だ。
マーベリィが戸惑っているのをユリシアンは見逃さなかった。
(困惑してる、ここだ!)
追い打ちとばかりに、こんな言葉をかける。
「そうだ。想像つかないだろうから試しに見てくれる?」
顔を下に向け、このために用意していた付け髭を手早く装着。顔を上げる。
「どうかな? マリィ」
ユリシアンの口周りに、黒い毛むくじゃらの髭が生えた。紳士風の髭ならまだしも、これではまるで山賊の髭である。
「……!?」
強烈なギャップに固まってしまうマーベリィ。頭の中はもう真っ白だ。
しばらく沈黙した後で、半泣きになりながら必死に主張する。
「……いや、嫌です! 私整えますからっだからこんなの嫌です!!」
「ああっ、マリィ! 泣かないで!」
彼女の涙に焦って、ユリシアンは慌ててネタばらしをした。
「ごめん、本気じゃないよ。エイプリルフールのジョークだったんだ」
そっとマーベリィのそばに近づき、優しく声をかける。
(それにしても珍しい、マリィがこんなに率直な発言をするとは)
(エイプリルフールのジョーク……)
マーベリィは安堵した。念のため確認するようにユリシアンに問いかける。
「お髭は……無い?」
苦笑しながらユリシアンが頷く。
「ああ、でもきみに整えて貰えるなら髭も悪くないね」
その言葉に、マーベリィは真顔で大きめの丸眼鏡をスッとかけ直す。
「ではカタログをご用意致します」
「え!?」
驚くユリシアンの表情を眺めてから、くすっと微笑み。
「ジョークです」
「やられた」
天を仰ぎ額に手を当て、ユリシアンがつぶやいた。
こんな風にマーベリィと冗談を言い合えたのは新鮮だった。なんだか二人の目線が近づいた気がする。
いつかは二人の身分差を取り払いたいと考えているユリシアンには嬉しかった。
●仰天! 流血昏倒クランベリー
会社にいた『水田 茉莉花』は、スマホに届いた不穏な文面のメールに顔をしかめた。
(ちょっと待って……『たすけて』って、どういう意味なのよ!)
メールアドレスをもう一度よく確認する。何度見直しても『八月一日 智』からのメールで間違いない。詳しい状況を聞くために茉莉花からもメールや電話を入れたが、智の応答はなかった。
(ほづみさん、今日は有休で自宅に居るはずでしょ?)
不安がよぎる。智の身に何か大変なことが起きているのかもしれない。
メールを見た茉莉花は大慌てで会社から帰った。
家ではショッキングな光景が茉莉花を待ち受けていた。
「ほづみさ……ち、血がっ!」
床には鮮烈な赤が溜まっていた。そしてそこに倒れ伏している智。
「ちょっ……ほづみさん、大丈夫ですかほづみさん!」
茉莉花は血相を変えて呼びかける。
「んあー……いってって……」
切羽詰まった茉莉花に対し、気の抜けるような調子で智が目を開けた。
「あのクソチビ、ナニしやがるん……」
クソチビ……もう一人の精霊への不平を口にしながら、頭をさすりさすり起き上がる。智は茉莉花に気づくと驚いた顔をした。
「アレ? どーしたみずたまり、ずいぶん早かったじゃねーか」
「良かった……ほづみさん、生きてたぁ……」
安心して、茉莉花はへなへなとその場に座り込んだ。
「いったいどうしたんですか、その血!」
「ち?」
茉莉花に指摘されて、智は床に広がる赤に気づいたようだ。
「ウワァ! ナニコノ赤いの……って、これ、クランベリージャムじゃね?」
智はくんくんと赤いものの臭いを嗅いだ。
言われてみると、たしかに血の臭いはしない。フルーティで甘い香りがする。茉莉花が血だと思ったものは、鮮やかな赤い色をしたクランベリーのジャムだった。
「ジャムってことは、ほづみさんは無傷なんですね?」
「おれは何とも……いったった……おー痛て後頭部」
痛そうに頭をさすってはいるが、特に大きな怪我はないようだ。
智が少しずつこうなった経緯を語る。
「あのな、チビと一緒にプレゼント作っててみずたまりにメールするって言ったからスマホ貸したら……」
突然の理不尽な仕打ちを思い出し、智はぐぬぬと歯噛みした。
「アンニャロ、おれの頭ブン殴って来やがった!」
「……あー、あのおチビさんの仕業かぁ」
なるほど、というように茉莉花が頷く。
「その張本人は……」
部屋を見渡す。茉莉花と智の他に、人の気配はしない。
「『また』脱走したわね」
やれやれとため息。
気を取り直して茉莉花が尋ねる。
「ところで、二人で何を作ってたんですか?」
「ああコレ、クランベリータルト」
クランベリージャムまみれになった智が答えた。台所には、完成したタルトが無事に置かれていた。料理上手な智が手がけただけあって、立派な出来栄えだ。
「フルーツいっぱい系のケーキなら喰えるんだって、みずたまり?」
そう言われた茉莉花は不思議そうな顔をする。
「えっとー……あたしそんな事一度も言ってないわ。多分おチビさん情報よね?」
「ニャロウ、まーたウソつきやがったな!」
憤慨する智。
どつかれたりウソを教えられたり……。もう一人の精霊から散々な目にあわされた。何も悪いことをしていないのに気絶するほど強く殴られるとは、なかなかに可哀想な災難である。
「今日は晩御飯、野菜尽くしにしてやる!」
そう固く復讐を決意する。
「でも待って、こういうケーキなら、大丈夫かもしれない」
智達が作ったクランベリータルトを少し味見する茉莉花。
「うん、大丈夫……かも、おいしいね」
智を労るように茉莉花が微笑みかける。
「え、あ……アリガトゴザマス」
智は散々な目にあったが、どうやら結果オーライだ。
依頼結果:成功
MVP:
名前:ミサ・フルール 呼び名:お前、ミサ |
名前:エリオス・シュトルツ 呼び名:エリオスさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月27日 |
出発日 | 04月01日 00:00 |
予定納品日 | 04月11日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
- 水田 茉莉花(八月一日 智)
- ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
- マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
会議室
-
2016/03/31-22:41
-
2016/03/31-22:34
-
2016/03/31-15:45
よろしくお願いいたします。
-
2016/03/30-20:48
-
2016/03/30-16:34
-
2016/03/30-16:34