【薫】香り高き美酒に酔え(木乃 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「そうなの~。季節のお酒として桜とか、桃とかのお酒を造ってみたんですよ。とーっても、甘い香りのお酒なので、女の子も飲みやすい逸品なんです~」
 独特のはんなりした口調の女性は受付の男性職員に柔和な笑顔を向ける。
「それで今年の初物だから、ウィンクルムの皆さんにいつもお世話になっていますし、お礼もかねて楽しんでもらえたいいんじゃないかしら? と思ったので、お誘いに来たんです」
「うーん……しかし、未成年者も少なからずいるのですが、その辺りはどうされるので?」
 職員の疑問は当然である。
 未成年者が参加しづらいイベントとなると、肩身が狭い思いをする者は少なからず出てしまう。
 しかし、女性は「問題ありませんよ」とニッコリ。
「お酒はお出しできませんけど、お菓子も用意しますから。お連れさんが未成年の子でも、お菓子なら問題ないでしょう? できればお酒の催しなので、大人の方が一緒だったら嬉しいんだけど……」
 お菓子の方も季節に合わせたものを用意してくれるらしい、なんとも粋な計らいである。
「美味しいお酒とお菓子、用意しますから。ぜひぜひお声がけよろしくお願いしますわ」
 終始、笑顔の女性の対応にすっかりほだされた職員は、これを快諾するとすぐに掲示板に貼り出す告知を用意した。

『絶品! 春のお酒とお菓子を食べよう』
 タブロスからバスで1時間、ウメガハラの酒蔵にて春をテーマにしたお酒が出来ました!
 桜、桃、梅、苺、薔薇と言った豊潤な香りの素敵な一杯が盛りだくさん♪
 出来たて初物のお酒ですので、大人の皆さんはこの機会にぜひご賞味を。
 未成年の方には素敵なスイーツも用意されるので、一緒に楽しんでみましょう☆

 ※お酒は二十歳になってからですよ!

解説

参加費として500Jr消費します。

基本的に1人1つ(神人・精霊で各1つずつ)ですが、
お酒やお菓子を追加したい場合は100Jr追加消費します。

●ウメガハラ
タブロスからバスで1時間移動した先にある小さな町です。
名の通り、梅の咲く平原に出来た町で今は梅の花が見ごろになっています。

当日は天気も良く暖かいので、長椅子や和傘で飾り立てた野点で楽しむ形になります。
時間は昼~夜まで受け付けているので、希望がありましたら昼か夜かプランに明記してください。

☆メニュー
・お酒
桜、桃、梅、苺、薔薇
それぞれの香りや花弁、果肉の入った甘口のお酒です
ふんわりと甘い香りがするので、女性でも飲みやすくなってます
アルコール度数は3%ほどの弱いものですが、飲み過ぎには注意ですよー

外見年齢20歳未満、または自由設定で年齢の補足がない方は未成年者と判断してお酒はお出しできません
(代わりにスイーツが出されます)

・スイーツ
桜餅(いわゆる『どうみょうじ』スタイルです)
桃のムース(ぷるぷるムースに果肉を添えて)
梅ゼリー(ゼリーの中に梅の実がまるまるイン)
苺大福(大粒苺を大福で包んでみました)
薔薇のアイス(薔薇エキスを混ぜて香りも楽しめる)

●お姉さんのお願い
お酒が主役の催しなので、お酒を楽しめる大人の方が一緒に居ると嬉しいとのことです
もちろんスイーツを楽しみたい!という未成年者同士のご参加もOKです

●諸注意
・多くの方が閲覧されます、公序良俗は守りましょう
 (特に過度な性的イメージを連想させる恐れがある場合は、厳しめに判断します)
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります

ゲームマスターより

木乃ですー、春麗らって打とうとしたら某全敗した有名競走馬の名前が出てきました。

今回は春の香りただようお酒とお菓子を楽しむエピソードです!
例のごとく20歳未満の飲酒はスペクルム連邦でも禁止されていますので予めご了承されたし。

お酒やスイーツに関しては実際に販売されてたりします、
気になるものがありましたら画像検索してみると良いかも?

それでは皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルキア・スー(クラウス)

 
梅の花にうっとり
「夜桜ならぬ夜…梅?

「花言葉?(確か忍耐と高潔と…
花を見直し言葉が沁みてくる様で「うん、本当…

桃酒
苺大福
お互い注ぎ合い「今宵共なる香りに、乾杯
言ってちょっと恥ずかしく

香楽しみ
「甘くておいしい…
チラ見
梅の花の中、お酒を飲む彼の佇まいが眩むほどに綺麗だと感じる
(何故こんな素敵な人が傍に居てくれるんだろう…
梅の花言葉は彼によく当てはまる
彼は神人への忠義を重んじている人
私を立てる為にどれ程の忍耐をしているのか
私は期待に応えられてる…?

苺大福食べ、ついお酒が進む
「ひっく…

抱き寄せられ思考も曖昧で身を任せる
温もりが嬉しいけど(…なんて近くて遠い人、それも今は心地がいい
どうかこのままで…


桜倉 歌菜(月成 羽純)
 
未成年なので、梅ゼリーを注文

お酒が主役の催し…羽純くん、絶対興味あるだろうなと
未成年にはお菓子があるし、一緒に行こうと誘っちゃいました
お酒を飲むなら、やっぱり夜かなと、時間は夜に

うわぁ…夜空の下、梅の花が綺麗だねっ
お菓子も沢山あってどれにするか迷う…!
梅ゼリーにしようかな
視界も味覚も嗅覚も、全部梅づくし!なんちゃって…

ゼリーはふわっと優しい梅の香と爽やかな酸味
凄く美味しい!

羽純くんは、お酒どう?
甘いお酒なんだね…私も成人したら飲んでみたいな
あ、でも最初の一杯は…出来れば、羽純くんが作ってくれるカクテルがいいなって…
(大胆な事言っちゃったかも、話題変えなきゃ)
羽純くんも、ゼリー一口食べてみる?


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  フェルンさんと梅のお花見デートですね(にっこり笑う。
私達は昼間に訪れます。
私、未成年なのでスイーツにします。
春のお花のスイーツ、とっても美味しそう。
どれにしましょうか。ああん、迷っちゃいます。
2つ頼むなんて、カロリーオーバーになっちゃいます。
厳選し、これぞという1品に絞り込むのです。
じーっと全部のスイーツを見て、大いに迷って。
「桃のムースをお願いします」
桃の魅力に負けました。

ふわふわムースが桃の果肉にとても合います。美味しいです。
フェルンさんのお酒も色が可愛い。
香りがとても甘くて、美味しそうですね。
「早く20歳になってフェルンさんとお酒楽しめるようになりたいです」と彼に寄り添います。
梅も綺麗。



御神 聖(桂城 大樹)
 

今日は勇が子供会の行事で日中出掛けて今いないし、梅酒1杯なら飲んでもいいか。
長椅子とかに座って飲みながらのんびり梅を見たいね。
「梅が見事だねー。梅も色々あるみたいだけど、ここどんだけあるんだろ」
死んだじいちゃんが梅も単純に紅や白だけじゃないって言ってたなぁ。
あたしは梅が綺麗ならそれでいいや。
「お酒?強くも弱くもないかな。普段あんま飲まないけど」
酒は許容量範囲内楽しく飲むのが一番だし。
「え?あぁ、教えてくれてありがと」
一応持ってる範囲で梅見っぽい感じにしたけど、大樹的にはデート定義か。
ま、デートと言われても別に悪い気はしない。
前向きに考えてるという奴だろうな。
ま、のんびり、楽しんでいこうか。


風架(テレンス)
 
成人済 苺・梅ゼリー(お酒/お菓子両方)
へえーすごい春っぽい
良いね。こういう雰囲気好きだな
なににしよう…お酒もお菓子も種類いろいろあるんだ。見てるだけで楽しい
お酒は苺で…お菓子は梅ゼリーにしようかな

良い香り。更に春っぽい
…やっぱり、良いなぁこういうの
んー? なに? テレンス
ああ。誰かと一緒にお酒飲むの。あたしの夢だったんだよなぁって
だから、今日テレンスがついて来てくれて嬉しかったんだよ
……。あのさ
迷惑じゃないならさ、また一緒に飲まない?
その言葉を待ってた!
控えめ、だけれど嬉しそうに微笑む


●二人酒
 暖かな日差しの中で無数の紅梅と白梅がそよ風に揺れる。
「へえーすごい春っぽい、タブロスの近くにこんな町があったんだね」
 野点に案内された風架は、感嘆の声をあげた。
 ここは梅の木々が立つ平原に出来た町であり、町中も梅の花が咲き乱れ、独特の雰囲気を醸し出している。
 酒蔵の近くも例外ではなく、隣に腰掛けているテレンスも目深に被ったフード越しに見つめていた。
「良いね、こういう雰囲気好きだな」
「気に入ってもらえました? 景色を楽しみながらゆっくり品定めしてくださいな」
 女性から『お品書き』と書かれたメニューを受け取ると、テレンスと風架は一緒に覗き込んだ。
「なににしよう……」
 お酒もお菓子も5種類ずつ、どれも春の花や果物を使用したもので魅力的に感じられる。
(これだけあると、見てるだけで楽しいかも)
「テレンスはどれにする?」
 物言わぬ、寡黙な相方に聞いてみると、顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。
 どうやら決めかねていたようで、数秒の間をおいて、テレンスは『桃』を指差した。
「それも美味しそうだよね。折角だし、あたしは両方頼みたいかも……お酒は苺で、お菓子は梅ゼリーにしようかな」

 風架が酒蔵の女性を呼ぶと、すぐに用意してもらえた。
 お酒はそれぞれ果肉が荒ごしされており、黄桃の鮮やかな黄色の酒と、赤みの強い苺の酒が運ばれてきた。
 梅のゼリーは緑がかったゼリーの中に、青梅が丸々一粒入っている。
 風架はグラスに顔を近づけると、甘い香りを確かめてみた。
「甘酸っぱくて良い香り、さらに春っぽい」
 感心して呟く風架を見ていたテレンスも、それを倣ってグラスに顔を近づけると僅かに頷く。
 同じ仕草をするテレンスに、風架は思わず笑みがこぼれる。
(お酒は後の楽しみとして、ゼリーから食べちゃおうかな)
 木のスプーンを手にとると、梅の実を包むゼリーを掬いあげて口に運ぶ。
 爽やかな口当たりと、梅の上品な風味や甘さが口いっぱいに広がっていく。
「んー、美味しい。梅酒もきっとこんな感じかな……さて、お酒の方は」
 汗を流すグラスの水滴を払いつつ、少しだけ口に含んでみる。
 苺の酸味よりも甘みが強く、触感もあってお酒っぽさを感じさせなかった。
 ――テレンスの方を一瞥すると、グラスの中身が少し減っている。
 口元を僅かに動かしており、果肉を味わっているようだ。
(テレンスも楽しんでるようで何より……やっぱり、良いなぁこういうの)
 一人酒は味気ないと思っていたものの、飲みに誘える相手はこれまで居なかった。
 こうやって楽しみを共有できるのは、嬉しいことだと風架は改めて感じる。
 風架が物思いに耽っていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「んー? なに?」
 視線を向けると、テレンスがサッと愛用のスケッチブックを取り出してきた。
『どうかしたのか』
 どうやら考えこむ風架の様子が気になったらしい、フード越しでも解るほど真っ直ぐ見つめてきている。
「ああ。誰かと一緒にお酒飲むの、あたしの夢だったんだよなぁって」
 テレンスが一緒に来てくれたおかげで、念願叶ったことが嬉しいのだと。
「……」
 テレンスは僅かに俯くと、スケッチブックをめくって新しいページにペンを滑らせる。
 少し長い文章を書いているようで、風架も次の言葉を待った。
 ようやく書きあがった文章を、テレンスは風架に差し出す。
『誘ってくれて、よかったと思う』
 一行目は喜びの言葉。
『自分は、こういったことはよく分からない故』
 二行目はテレンスの本音。
『だから誘ってくれてよかった』
 三行目は、今日は来てよかったと思っているころ。
 ――風架にとって嬉しい言葉が連なっていた。
「……、あのさ」
 風架はスケッチブックから顔をあげ、テレンスを見遣る。
「迷惑じゃないならさ、また一緒に飲まない?」
 テレンスはすぐに新しいページを開き、風架はペンの動きを緊張した様子で見つめる。
 くるりとスケッチブックが反転した。
『承知。自分で良いのならば』
「その言葉を待ってた!」
 風架は控えめに、けれど嬉しそうに小さく笑みを浮かべてグラスを口に運ぶ。
 会話と言える会話はなくとも、風架とテレンスの空気は穏やかなものだった。

●春一番
「梅が見事だねー。梅も色々あるみたいだけど、ここどんだけあるんだろ」
 御神 聖は長椅子から遠くを見るように背伸びして、梅の木々を見つめる。
 今日は息子が子供会の行事で昼間はお出かけ中、のんびり羽を伸ばそうと桂城 大樹とやってきた次第だ。
 装いも着物『小春日和』と和リボン『桜花』でバッチリ和風コーディネイトである。
「僕も詳しくないけど、色々な種類ありそうだね」
 大樹もたくさんの梅が咲いている景色を、興味深そうに眺めていた。
「死んだじいちゃんが梅も単純に、紅とか白だけじゃないって言ってたなぁ……黄色いのもあるって言ってたっけ」
「ああ、確かに先生はお詳しそうだ」
 聖の祖父は大樹に教鞭をとっていた恩人であり、聖の言葉に懐かしさを覚える。
「2月頃なら見れたかな……ま、あたしは梅が綺麗ならそれでいいや」
 小難しいことは抜きにして、純粋に梅見を楽しめればいい、と言う聖に大樹は思わず笑みを浮かべる。
「お待たせしました、桜と梅のお酒でございます」
 出されたグラスには澄んだ桜色と、透明感のある梅色のお酒が注がれていた。
 桜色の酒には花弁が浮いており、揺れるたびにヒラリと酒の中を泳ぐ。
 梅の酒には丸々とした青梅がコロリと転がっている。
 大樹は早速、口に運んでみると桜の独特の甘みが感じられ、桜の花が近くに咲いているような錯覚を覚える。
「お酒、香りが良いし、飲みやすいけど……聖さん、お酒飲める人?」
 今更ながら聖が飲めない人ならば、折角来たのに楽しめないのでは……と不安に駆られ、大樹は聖の様子を窺う。
 グラスの中の梅を転がしていた聖は、大樹に目を向けると首を傾げる。
「強くも弱くもないかな。普段あんま飲まないけど」
 おそらく子供が居る手前、いつもは控えているのだろう。
 母親としてしっかりと自覚を持っているのだろうと思えて、大樹は感服した。
「お酒は許容範囲内で楽しく飲むが一番よ」
 という訳で今日は一杯だけ、と聖がグラスを傾けると梅の実がコロンと揺れる。
「ん、良い酒だね。梅の良い香りがするよ」
(普通って所かな? 普通の基準はよく分からないけど……下戸で飲めないって訳じゃなさそうだね)
 用意されているモノはアルコール度数3パーセントの果実酒、余程ハイペースで飲み続けない限りは問題ないだろう。

 ――不意に、ビュウゥ!と突風が吹きつける。
「おっ、と」
 聖は慌てて前髪を押さえるが、セットした髪が崩れてしまった気がする。
 風がようやく収まると、乱れた髪を手櫛でサッサと直していく。
「あ、聖さん、リボン曲がってる」
「え? あぁ、教えてくれてありがと」
 大樹の指摘を受けてリボンに手を当てると、確かに先ほどより位置がズレている。
 折角選んできたのだから、身嗜みが崩れてしまうのはしのびない。
 ……手直しを済ませると、大樹がじっと見つめていることに気づいた。
「なに?」
「その装い、ちょっと新鮮だよね。梅見デートに和装も中々」
 聖としては、自分の持っている物で梅見に良さそうな衣装を選んだだけだったり。
(大樹的にはデート定義か、これ)
 とはいえ、聖としても別に悪い気がする訳ではなく。
 『女性』として意識されていることは、まんざらでもない。
(ま、のんびり、楽しんで行こうか)
 大樹も桜酒を飲む様子は、上機嫌に思える。
(聖さんには、悪い印象を持たれてはいない……かな)
 きっと想像とは違うのだろうけど、今日着飾ってきてくれたのは――なんて、少し期待してしまいそうになる。
(久々に好きになれそうな人だね)
 これから、ゆっくり、頑張って口説いてみようかな。

●乙女心
 瀬谷 瑞希は鼻歌交じりにお品書きに目を通していた。
「嬉しそうだね、ミズキ」
 フェルン・ミュラーの声に、瑞希は顔を上げてにっこりと笑う。
「はい、フェルンさんと梅見のデートですから」
 天候に恵まれ、青い空の下に紅と白のめでたい色が良く栄える。
 まさに行楽日和と言うには、ふさわしい日だった。
「それにしても春のスイーツ、とっても美味しそうですね」
 瑞希はまだ成人を迎えていない。
 故に、今日はお酒が飲めない人向けに用意されているという、スイーツを堪能することにした。
 桜餅や苺大福の定番のお菓子から、梅ゼリーや薔薇のアイスといった一風変わったものまで揃っている。
(どれにしましょうか、魅力的な物ばかりで……ああん、迷っちゃいます)
 眉を寄せ、真剣な眼差しをお品書きに送る瑞希をフェルンは不思議そうに見つめ……視線の先を確かめると、すぐに理由を察した。
「2つ頼んでもいいんだよ?」
「……2つ頼んだら、カロリーオーバーになっちゃいます」
 瑞希も年頃の女の子である、体重計の数値の増減が気になってしまうのは致し方なし。
 眉をハの字に下げて困ったように呟く瑞希に、フェルンは苦笑する。
「カロリーか……それは強敵だね」
「なので、これぞという一品に絞り込むのです」
 それからじーっとメニューを凝視し続けて、瑞希は迷い続けている。
(そんなに気にしなくても……と思うけど、女の子には大事な問題なんだよね)
 しばし、梅を眺めて待つことにしよう――フェルンは風に揺れる紅白の花に視線を向けた。

「うふふ、随分お悩みのようでしたけれどお決まりになりました?」
 しばらくして酒蔵の女性が伺いに来ると、ようやく瑞希は決まったようだ。
「桃のムースをお願いします」
「俺は桜のお酒で」
 女性が了承すると一度下がり、数分してお酒とお菓子を運んできた。
 瑞希が苦心しながら厳選したムースは、薄桃色のムースの上に鮮やかな黄桃の角切りとソースが添えられている。
 待ちに待ったムースをスプーンで掬い、ソースと果肉と合わせて口に運んでいく。
「……ふわふわムースが桃の果肉ととても合います」
 幸せそうに頬を緩ませてムースを頬張る瑞希は、もう一口。
「ムース、美味しい?」
「美味しいです」
 こっそり瑞希の百面相を堪能していたフェルンは、満足そうな様子を微笑ましく見つめる。
「フェルンさんのお酒も色が可愛いですね。澄んだ桜色って、不思議です……」
 桜色のお酒の入ったグラスを見つめる瑞希に、フェルンは首を傾げる。
「早く20歳になってフェルンさんとお酒楽しめるようになりたいです」
 不満そうに拗ねた様子の瑞希は、フェルンに寄りかかって身を預ける。
「急がなくても、ゆっくり大人になって良いんだよ? 瑞希が思っている以上に、大人の時間は長いのだから」
 理屈では解っていても、気持ちは急いてしまうもので――瑞希は複雑そうな表情で梅の木を見上げる。
(こうやって色々な表情を見せてくれるのも今しかないかもしれない、なんて言ったらミズキは怒るかな)
 出会った頃に比べ表情豊かになっていく少女の姿。
 自分だけが知っている表情が増えていく場面をもう少しだけ楽しめるなら、時間があと少しゆっくり進んでもいいかな……と、密かに思う。

●夜梅尽
 陽が落ちたウメガハラは提灯や行燈に火が灯り、咲き誇る梅を柔らかな光で照らしている。
 夜の色に差す紅白は昼と違い、艶やかさを感じさせた。
「うわぁ……夜空の下、梅の花が綺麗だねっ」
 桜倉 歌菜は月の光を受ける梅の木々に目を輝かせる。
 月成 羽純も歌菜の言葉に同意し、大きく頷いた。
「本当に綺麗だ、梅の紅白が闇夜に栄えている」
 桜とはまた違う、優雅な景色にうっとりしているが、今日の主役はそれだけではない。
(お酒が主役の催し……羽純くん、絶対興味あるだろうなと思って誘ったら同じチラシ見てたんだよね)
 未成年にはお菓子もあるし一緒に行こうと歌菜が誘ったとき、羽純も同じことを考えていたようで。
 今年の初物の酒を是非飲んでみたいと考えていたところだった。
(お酒を飲むなら、やっぱり夜かなと思って提案したけど……)
 こんなにも妖しく、美しい姿の梅を羽純と見られるとは思わず、思わぬ誤算だったと喜びを噛み締める。
「酒も色々あって、どれにするか迷うな……歌菜はどれにする?」
 羽純に勧められ、お品書きに目を通す。
「お菓子も沢山あってどれにするか迷う……!」
 お酒の材料に使用した素材と、同じ物を使った春のお菓子。
 女子としては目移りしてしまい、嬉しくも悩ましい時間である。
「じゃあ、梅ゼリーにしようかな。視界も味覚も嗅覚も、全部梅尽くし! ……なんちゃって」
 いっそ梅を楽しみ尽してしまおう、という歌菜の言葉に羽純はマジメに受け止めていた。
「成程、梅尽くしか……なら、俺は梅のお酒にするか」
 そうすれば一緒に楽しめるだろう、と羽純が嬉しそうに顔をほころばせると、歌菜もつられて頬が緩む。

 早速運ばれてきた梅酒と梅ゼリーを覗き込んでみる。
「すごい……梅の優しい香りがする」
「確かに、女性でも飲みやすそうだ」
 そして一緒に一口。
「凄く美味しい!」
 柔らかなゼリーが口の中で爽やかな酸味と、クセのない甘さが広がっていく。
 羽純は味を確かめるように、初めの一口をじっくりと味わっていた。
 ゴクリと喉を上下させると、小さく頷く。
(梅の甘みと酸味のバランスが良くて美味い、これをカクテルにするなら……)
 さすが酒蔵で造られただけのことはあると、羽純は一人感心し、他に良い組み合わせはないものかと考えてしまう。
「羽純くんは、お酒はどう?」
「ああ、こちらも凄く美味い。甘くて飲みやすいから、飲み過ぎないようにしないとな」
 羽純の言葉に、歌菜の視線がグラスへと向いた。
「甘いお酒なんだね……私も成人したら飲んでみたいな」
 ポツリと呟いてから、上目遣い羽純に視線を戻す。
「あ、でも最初の一杯は……出来れば、羽純くんが作ってくれるカクテルがいいなって……」
 羽純は僅かに目を見開き、すぐに微笑を浮かべた。
「そうだな。歌菜が成人したときは、特別なカクテルを作ろう」
 ――それは『自分の為の一杯』を約束されたようで。
(大胆なこと言っちゃったかも)
 改めて恥ずかしさがこみ上げてきて、歌菜は慌てて話題を変えようと考えていると……手元のゼリーが視線に留まる。
「は、羽純くんも、ゼリー食べてみる?」
 スプーンで一口取ってみせると、羽純の前に差し出した。
「じゃあ、遠慮なく貰おうか」
 羽純の手が伸びてきた、と思うと……スプーンを持つ手を掴まれた。
 歌菜がドキリと硬直している間に、羽純はそのままぱくりと食べてしまった。
「は、羽純くん?」
「……甘いな」
 耳元で囁かれてしまうと、なにも言えなくなってしまい。
 頬の熱ばかりが高まっていく。
「顔、赤いぞ」
 間近で覗き込む羽純は、歌菜の赤く染まる頬をみて悪戯っぽく笑顔を浮かべた。

●不安感
 シルキア・スーはふと疑問に思った。
「夜桜ならぬ、夜……梅?」
 夜空の下で咲き誇る梅の花は『夜梅』と呼ぶのか?
 あまり聞き慣れない言葉だと首を傾げている隣で、クラウスは感心したように大きく頷いている。
「夜闇に忍ばれし気高き佇まい、見事だな」
「……花言葉?」
 確か梅の花には『忍耐』とか、『高潔』という花言葉がついていたような気がする、シルキアは確かめるようにクラウスに視線を向ける。
「ああ、花言葉がそのままそこにあると思ってな」
 そう言って視線を戻すクラウスにつられて、シルキアももう一度見つめる。
 暖かな陽気の中で見る梅の可愛らしさと打って変わり、夜の闇の中に佇む姿はまた違うものを感じさせた。
「うん、本当……」
 改めて、クラウスの言葉を意識してみるとそんな気がしてくる。
「お邪魔してすみません、お決まりですか?」
 配膳係の女性がすでに決まったかと伺いに来ていた。
(そういえば一人1つずつだっけ)
「お酒って瓶で出してもらえるのですか?」
「申し訳ございません、温くなると味が悪くなってしまうので一杯ずつお出ししてますの」
 果実酒と言うのは存外痛みやすい、酒蔵で出しているとなれば職人達も初物の酒が傷んでしまうのはしのびないだろう。
 ひとまず注文を済ませると、穏やかな夜風に揺れる紅白の梅花を楽しむことにした。

 桃酒と梅酒、苺大福が運ばれてくると互いにグラスを掲げる。
「今宵共なる香りに、乾杯」
「乾杯」
 グラスのぶつかる高い音が鼓膜を震わせると、互いに杯を口元に寄せる。
(すごい、瑞々しい桃の香りが……)
 鼻腔をくすぐる桃の風味に、シルキアは頬を緩ませる。
 口に含めば桃の甘さが後に引くことなく、喉ごしもスッキリとして飲みやすい。
「甘くておいしい……」
「梅の爽やかな香りが、なんとも風流だ」
 クラウスはどうだろう、横目で見ると――視線がかち合った。
 まさかこちらを見ているとは思わず、慌てて視線を前に戻す。
「あ……すまない、不躾だったな」
 クラウスが申し訳なさそうに視線を逸らすと、月夜を前に花開く梅を見上げる。
(何故、こんな素敵な人が傍にいてくれるんだろう……)
 梅の花言葉はクラウスに当てはまっているように感じる。
 神人への忠義に重んじ、どれほど忍耐をしているのか
(私は期待に応えられている……?)
 湧き上がる不安と背に押しかかる重圧に、シルキアの心臓が縮み上がった。
 少しでも気を紛らわそうと苺大福をかじり、桃酒の甘さに身を任せていく。
 ――神人が焦燥に駆られているとは知らず、クラウスも物思いに耽っていた
(シルキアは何を思っているのか)
 物思いに耽る横顔は美しい。
 これまでも時折見ていた、あの横顔は好ましく感じる。
 しかし、その思考の中に渦巻いている『モノ』は語られたことはなく。
(話してはくれないのか)
 いつか聞かせて欲しいものだ――見上げる横で「ヒック」と間の抜けた声が聞こえる。
 見ると顔を赤くしたシルキアと、その脇に4つもグラスが並んでいる。
「その辺にしておけ」
 まだ頼もうとするシルキアに、こればかりはクラウスも眉をひそめ制止した。
 放っておいては地面に転げてしまいそうだと感じ、ふらつくシルキアの肩を抱き寄せた。
「うぅん……」
 酔いが回って焦点の定まらない瞳が、クラウスを見上げる。
 心配そうに覗き込むクラウスをぼんやりと見つめると、ゆっくりと瞼を閉じた。
(どうしてこんなになるまで)
 頼られていることは精霊としての本懐を果たせていると思うものの、酔うほど酒を飲んでいた神人に、なによりも心配を感じていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月24日
出発日 03月29日 00:00
予定納品日 04月08日

参加者

会議室

  • [7]瀬谷 瑞希

    2016/03/28-23:59 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    私達は昼間に訪れる事にしました。
    私はスイーツ、フェルンさんがお酒を。
    素敵な時間がすごせますように。

  • [6]桜倉 歌菜

    2016/03/28-23:53 

  • [5]桜倉 歌菜

    2016/03/28-23:52 

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/03/28-22:27 

  • [3]桜倉 歌菜

    2016/03/28-22:26 

    ご挨拶が遅くなりました!
    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願い申し上げます!

    羽純くんはお酒、私はお酒は飲めないのでスイーツを楽しみたいと思います♪
    夜にお伺いする予定です。

    良い一時になりますように!

  • [2]シルキア・スー

    2016/03/28-13:12 

    よろしくお願いします

    お酒もいいけどスイーツも気になる…
    私達は夜に参加予定です

  • [1]風架

    2016/03/27-18:08 


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