【薫】ブーケとコロン(山内ヤト マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロスのとある花屋では、調香師の店と提携して期間限定で新しいサービスをはじめた。
 それは、お客が買った花束に合わせて小さなコロンをオマケにつけること。

 この花屋では、複数の花を組み合わせたブーケ作りを得意としており、オススメするのはそちらだ。
 一種類の花束でも構わないが、かかる費用は複数の花を使った時と変わらない。
 サービスのコロンは、基本的に花束一つにつき一つつく。しかし二つの花束を買って、その花束を一つに合わせた香りのコロンを作ってもらうことも可能だ。その場合も、やはり代金は変わらない。

 作れるのは生花のブーケのみ。ドライフラワーやプリザーブドフラワーは、取り扱っていない。

 注文の形式は比較的自由だ。
 赤のバラを三本と白のかすみ草を、と具体的な指定をすれば好みの品が手に届く。
 青系メインで清楚な雰囲気の花束を、とある程度イメージだけ決めてあとは店員のセンスに任せるやり方もありだ。ただ、あまりにも抽象的すぎたりわかりづらい表現だと、店員があなたの思惑を正確に読み取れない場合がある。

 注文の形式には様々なバリエーションがあるので、自分の注文内容をよく確認しておいた方が良いだろう。
 それでは、あなたとパートナーにぴったりの花と香りが見つかるように。

解説

・必須費用
花束代:1つ300jr
コロンは花束を買うとサービスでついてきます。
神人と精霊でそれぞれ花束を買っても構いません。花束が二つで600jrかかります。



・ブーケについて
ブーケに使った花を題材にして、コロンの香りが調合されます。

事前注文にすると、花屋のカウンターから完成した注文の品が即座に出てきます。
プランにもよりますが、花を手に入れた後の描写が多くなると思われます。

直接注文にすると、リザルトで花を選ぶところから描写開始になります。
プランにもよりますが、花を選ぶまでの描写が多くなると思われます。

ブーケの注文は次の三点をプランに記載してください。
花の種類or希望するイメージ
事前注文or直接注文
コロンの数(花束一つの場合は、記載不要)



・場所について
花屋の中に、椅子が置かれたスペースがあります。
注文の品が完成するまでの待ち時間を潰すことができますが、品物を受け取った後もずっと長居ができる空間ではありません。

花屋近くに、噴水とベンチのある公園があります。
お店から出た後に、おしゃべりをするのに調度良いです。



・難易度について
このエピソードでは「精霊が神人に花束を渡す」ウィッシュプランがウィンクルム性格やデート系ステータスの高低を問わず、実行可能です。
そのため、このエピソードの難易度は簡単になっています。
「精霊が神人に花束を渡す」以外のウィッシュプランモーションは、通常のハピネスエピソード同様に、ウィンクルム性格やデート系ステータスに基づいて判定がおこなわれます。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

寿ゆかりGM主催のフレグランスイベントのエピソードです。
対象のエピソードの納品時に、参加者へ全8種類のうち、ランダムで2つの『香水』がプレゼントされます!
ブーケとコロンは、このリザルト内でのみ適用されるアイテムです。装備アイテムとしては配布されませんので、ご了承ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆公園にて
ふふ、可愛い、それにとてもいい香り(プレゼントの花束を嬉しそうに見つめながら)
エミリオ、こんなに素敵なプレゼントをどうもありがとうね!
何だか最近 私エミリオからプレゼントを貰ってばかりだよね
私もエミリオに何かお返しできればいいのだけど・・・きゃっ、エミリオっ!?
ど、どうしたの、み、皆みてるよっ(精霊に抱きしめられドキドキ)
え?
ううん、これ以上素敵なものばかりもらっちゃったらバチがあたっちゃうよ
エミリオの気持ちだけで私はとても幸せなんだ
(精霊の気持ちを聞き愛しさが込み上げ)ふふ、おいで?
いいでしょ、いつもは貴方がしてくれていることだよ?(精霊を抱きしめ)
エミリオ・・・大好き、愛してるわ


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  花屋さんに、何の用なんだろ。
え「私、に?」(受け取るも戸惑う
どういう、意味だろう。(意味が飲み込めない

紫のパンジー。それに、オレンジ色のバラ。(じぃっと手元のブーケを見る
「あの、」これ。(意を決し、下から覗くように見上げる
覚えて、くれてたんだ。(好きな花
(バラの下りで自分の発言を思い出し、羞恥で俯く

どうしよう。(潰さないように、けれどしっかりブーケを握る
(一つ一つ考えてくれたのが解り、胸が詰まる
お礼、言わなきゃ。じゃないと、勘違いされる。
(嬉し過ぎて、なかなか言葉が出ない
「あり、がとう」すごく、すごく嬉しい。(花束に憧れてたのもある
もっとちゃんと伝えたい、のに。(うまく言えず、コロンを受け取る


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  直接注文、花束2つ、コロン2つ

フェルンさんと花屋さんに行ったんです。
フェルンさんが花束を作っている間、お店の花達を見ていたら、とても綺麗なヒヤシンスが眼にとまって。
お店で品物に何かを感じる事、ありますね。
とてもこのヒヤシンスに惹かれて。彼にとても似合う感じがして。
「私も花束をひとつお願いします」と。
青色のヒヤシンスをメインに、紫色のフリージア、青のトルコキキョウを2-3本ずつ添えて下さい。

「変わらぬ愛」と「憧れ」と「清々しい美しさ」が花言葉なのです。色々と気遣ってくれるフェルンさんに感謝と敬愛の気持ちを込めて贈ります。

フェルンさんからの花束はとても嬉しいです。良い香り。
元気が出ました。笑顔。






小鳥遊 光月(甲・アーダルブレヒト)
  ※神人・精霊アドリブ歓迎
花が好きなので事前注文をし、受け取りに来たところ。
花→ピンクの薔薇5本に白いライラック2本の花束一つ。

ウィンクルムとして親密度を上げなければならないが甲が仏頂面なためどうしていいか分からない。花束持ったままぼんやりしている。
甲の方から花が好きかどうか切り出してきたため、祖母が華道をしていた事を言う。
「えっとこれは花言葉がよくて……」
五本の薔薇→あなたと出会えた事の心からの喜び
ライラック→友情、青春の想い出、初恋

そのまままた沈黙。恐る恐る見上げると甲の口元が笑っている。

「あの、これ、よかったら……」
ピンクの薔薇を一本、甲にプレゼント。
受け取ってもらってほっとする。


紫月 彩夢(神崎 深珠)
  直接注文。実際にお花を見ながら考えたい
ていうかサプライズで驚く人じゃないし、なんていうか最近読まれてるし、
連れて直接行くのが一番確実よね
コロンは二つ、それぞれを

深珠さん、好きな花ってある?
あたし?あたしはマリーゴールド
深珠さんはネモフィラかー。んーと、じゃあそれにもう一色違う色の花を添えてもらいましょ

中の椅子でのんびり待つわ
そういえば、何でネモフィラなの?
へぇ、素敵。そんな場所があるのなら見に行ってみたい
深珠さんのそういう思い出話聞くの初めてかも
あたしの知らない深珠さん、もっと知りたいよ
あ、出来たみたい

それじゃ、交換ね
…?あぁ、あたしの、ね
昔、家で育ててたの。咲姫と二人で、ね…それだけよ


●ピンクの薔薇一輪
 ポブルスの精霊『甲・アーダルブレヒト』は適合する神人『小鳥遊 光月』とウィンクルムになったばかりだ。
 ウィンクルムの契約は、今のところ甲には正直言って面倒くさい。パートナーとの絆を深めるという行為も、親密度上げというウィンクルムの義務か作業のように感じられた。
「花束を受け取りに行くのをつきあってくれ?」
 なので、少し怯えたように光月に頼まれた時も、なんで俺がという気持ちがわいてきた。内心では若干不本意に思いながらも、甲はその頼みを聞き入れて、一緒に花屋にいくことにした。

 光月は花が好きだ。事前注文をしているので、店員はすぐにブーケを手渡してくれた。ピンクの薔薇が五本に、白いライラックが二本。
「どうぞ、お客様。こちらのコロンはキャンペーンのサービス品です」
 店員に見送られて二人は店を出た。

 花束を持ったまま、光月はぼんやりと歩いていた。隣には甲がいる。勇気を出して誘ってみたけれど甲はあいかわらずの仏頂面で、どうしていいかわからない。
 落ち着かない気持ちで、光月はその視線をブーケへと向ける。
「……」
 しばらくして、甲の方から会話を切り出してきた。
「お前、花が好きなのか?」
「あ……うん。あたしの祖母が華道の先生だったんだよね。だから……」
 もともと口数が少ないことと、まだ甲に対して距離感……いや、多少の怖さすら感じていることから、光月の話は短く終わった。
「ふうん……。その花束の花言葉は?」
 そう話を振るが、甲自身あまり興味はない。会話の場繋ぎぐらいの軽い気持ちだ。
「えっとこれは花言葉がよくて……」
 ちょっとぎこちなく、でも一生懸命に光月は答える。
「薔薇は色だけでなく、花の本数でも花言葉が違って……五本の薔薇なら、あなたと出会えた事の心からの喜び」
 この時、光月と甲の視線が一瞬だけ交差した。が、すぐにどちらからともなく目をそらす。
「それから、一つの花に複数の花言葉があるのも珍しいことじゃないんだよね。ライラックの花言葉は、友情、青春の想い出、初恋だよ」
 花言葉の説明が終われば、そのまま沈黙。

 ちょっと重苦しい空気。
 でも、うららかな陽射しと光月が持っているブーケが、のどかな春の情緒で二人の間の緊張感を緩和してくれた。
 珍しく日向ぼっこをして、薔薇とライラックの芳香を嗅いでいるうちに、甲は自分でも意識しないままリラックスしていたようだ。
(こんなに暇なのも珍しい)
 甲は口元をゆるめ、自然に微笑んでいた。

 恐る恐るといった様子で光月は甲の顔を見上げる。
(……!)
 仏頂面ばかりで怖いと思っていた甲の口元が笑っていることに、光月は気づいた。
 もっと仲良くなれるチャンスの到来だ。自分から行動を起こそうと光月は決意する。
 でも、どうすれば甲が喜ぶのか見当がつかない。二人の関係はスタートしたばかりで、お互いにまだわからないことが多かった。
「あの、これ、よかったら……」
 悩んだすえに光月はブーケからピンクの薔薇を一本抜いて、甲にプレゼントしようと考えた。
 が、あまり嬉しそうには見えない甲の表情を見て、薔薇を差し出した光月はだんだんうつむきがちになってしまう。
「……そうか、悪いな。貰っておく」
 光月の手が諦めて下がりかけた時に、甲が手を伸ばして薔薇を受け取った。
(良かった……)
 ホッとする光月。勇気を出したプレゼントを受け取ってもらえた。

(しかし、男にピンクの薔薇ってお前……)
 それが甲がプレゼントの受け取りを躊躇していた理由なのだが、先ほどの花言葉を思い出して気が変わった。
 光月は打ち解けようと努力している。そう理解して甲はこの花を受け取った。
「……家の近くまで送ろうか」
 光月の勇気と努力に応えて、甲からもそう申し出る。

●可愛いピンクのブーケ
「はい、ミサ。この花束は俺の気持ちだよ」
 『ミサ・フルール』の腕の中へと、『エミリオ・シュトルツ』は花束をそっと渡した。
「ふふ、可愛い、それにとてもいい香り」
 うっとりとした表情で、ミサはブーケを受け取った。
 淡いピンク色のシャクヤクを主役に据えたブーケ。幾重もの花弁から形作られた丸みのあるフォルムが、可愛らしさと同時に豪華さも感じさせる。サイズ差のアクセントに入れられた、八重咲きのチューリップも彩りを添える。
「エミリオ、こんなに素敵なプレゼントをどうもありがとうね!」
 素直にプレゼントのお礼を言うミサの笑顔が、エミリオにはとてもまぶしくて愛おしかった。
「お前のその顔が見たかったんだ……可愛い」
 エミリオは手を伸ばし、優しい微笑みを浮かべているミサの頬に軽く触れた。
「何だか最近、私エミリオからプレゼントを貰ってばかりだよね。私もエミリオに何かお返しできればいいのだけど……」
 何気なくミサが口にした言葉。
 その言葉に、エミリオは率直な反応を見せた。節度や人目も気にせず、不安定な感情の赴くままに動く。
 エミリオの腕がミサの体をしっかりと抱きしめる。
「きゃっ、エミリオっ!? ど、どうしたの、み、皆みてるよっ」
「……ねえ、ミサ、他には何が欲しい?」
「ううん、これ以上素敵なものばかりもらっちゃったらバチがあたっちゃうよ」
 恥ずかしさから一旦抱擁から逃れようとするミサ。が、手首をがしりと強く掴まれた。
 エミリオの赤い瞳に美しくも危険な輝きが宿る。ガラスのように壊れてしまいそうな儚さと、ディアボロが抱くという強い独占欲が、彼の中に同時に存在していた。
「お前が望むものなら何だって買ってあげる、俺が叶えてあげるよ。だから俺から……っ」
 そこから先は、声にならないエミリオの心の叫び。
(離れていかないで)

「エミリオ……? どうしたの? 一度落ち着いて」
 突然の強い抱擁にドキドキしながらも、エミリオを優しくたしなめるミサ。
 エミリオはハッと我に返る。
「……ごめん、少し焦りすぎた」
 腕の力をじょじょにゆるめ、ぴたりと密着していた体を少しだけ離す。
「最近お前アイツと共に行動することが多くなったでしょ」
 エミリオが口にしたアイツという言葉には、深い憎悪の念が込められていた。彼の父親のことを指しているのに。
「ミサが離れていかないか不安になったんだ」
 その一方でミサの名を口に出す時はとても優しい響きだった。
「……あ、花弁一つ散っちゃったね」
 押しつぶされて形が崩れてしまったピンクのブーケ。
「俺が突然抱きしめたせいだ……ごめん……」
 ミサはスッとしゃがみこんで、落ちた花びらを手にとった。大切なものを拾うように。
「エミリオの気持ちだけで私はとても幸せなんだ」
 エミリオからのプレゼントなら、落ちた花びらの一枚でさえ、ミサは丁寧に扱った。
「そんなに大切にしてくれるなんて……ありがとう、ミサ」

 さっきは人目を気にしていたミサだったが、エミリオとの会話で彼の気持ちを聞くうちに、とめどない愛しさが胸の奥から込み上げてきた。
「ふふ、おいで?」
 ミサの方から両腕を広げて、エミリオを抱きしめようと誘う。
「え、ミサ……? でも……」
 少しだけ戸惑っているエミリオに、優しく声をかける。
「いいでしょ、いつもは貴方がしてくれていることだよ?」
「……ありがとう。ミサは本当に優しいんだね」
 広げたミサの腕の中に、エミリオはふんわりと包まれる。
 ミサのぬくもり。ミサの鼓動。ミサの香り。エミリオはその全てに身を委ねる。
「エミリオ……大好き、愛してるわ」
 エミリオの体をぎゅっと抱きしめて、ミサは迷いのない愛の言葉を口にした。

●トリアードのミニブーケ
 前をいく『ルシエロ=ザガン』の背中を見つめながら『ひろの』は黙々とタブロスの通りを歩いていた。ワインレッドのロングヘアが、サラサラと揺れるのを眺める。
「ここだ」
 ルシエロが足を止めたのは一件の花屋。
(花屋さんに、何の用なんだろ)
 不思議に思いながらも、ひろのはルシエロの後に続く。

 花屋に入ると、みずみずしい花と緑の香りがひろのを包んだ。
 ルシエロはカウンターで店員に話しかけている。どうやら注文した品を受け取りにきたらしい。
 オレンジと紫と緑。三色のバランスにこだわったミニブーケだ。
「良い仕事をしている」
 店員に礼を言い、ルシエロはブーケをひろのへと渡す。
「私、に?」
 とりあえずブーケを受け取ったものの、ひろのは戸惑いがちに尋ねる。
 ルシエロは当然だと言わんばかりにただ一言。
「オマエ以外に渡す気は無い」
(どういう、意味だろう)
 その言葉の意味が、ひろのには飲み込めなかった。

 ルシエロからさり気なく促され、花屋を出て公園に移動。
「ヒロノ」
 ひろのをベンチに座らせてから、ルシエロはその隣に腰かけた。
 座りながら、ひろのは改めて手元のミニブーケを観察する。中央が黄色の紫パンジー。赤みの強いオレンジの薔薇が四本。緑色のカーネーション。
「あの……」
 意を決し、下から覗くようにルシエロの顔を見上げる。

 その控えめな動作から、ルシエロはひろのが何が言いたいか読み取った。
(プレゼントの解説をいちいち言うのは野暮だが、さすがに今回は説明が必要か)
 ルシエロは体をひろのの方へと傾けた。ひろのが持つミニブーケに手を伸ばし、花を軽く指し示しながら話していく。
 まず、紫のパンジー。
「紫パンジーは好きだと言っていたからだ」
 ルシエロの指先が動き、今度は薔薇を示す。
「薔薇はオマエが好きだと言ったオレの目に近いものを」
 タンジャリンオレンジの瞳が、今もひろののことを見つめている。
「カーネーションは色をまとめる為だな」
 珍しい緑色のカーネーション。着色されたのではなくこういう品種だ。ブーケ全体の色のまとめ役。
「ミニブーケにしたのは、その方が好みだろう?」
 ルシエロはそう締めくくった。ミニブーケは、相手のことを思いやる段取りに優れているルシエロらしい配慮だ。

 ひろのの心がほわりと温かくなる。
(ルシェ。覚えて、くれてたんだ)
 好きだと言った花のこと。
(あ、だから薔薇の色……こんなに綺麗……。でも思い出すと恥ずかしい……)
 自分の発言を回想して、ひろのは羞恥で顔を伏せる。
(どうしよう)
 潰してしまわないように、けれどしっかりと贈り物のブーケを握った。
 パンジーも、薔薇も、カーネーションも。どれも一つ一つ意味があった。ルシエロが、ひろののことをしっかり考えてくれたのだとわかる。
 だから、胸が詰まった。
 ごく親しい相手を例外として、ひろのは周りに興味がないし、周りもひろのに関心を持っていないと認識している。
(ルシェにお礼、言わなきゃ。じゃないと、勘違いされる)
 だが、嬉しさのあまりなかなか言葉が出てこない。
 そんなひろのを急かすことなく、ルシエロはゆったりと待ってくれた。

「あり、がとう」
 やっと出てきた感謝の言葉。花束はずっと憧れだった。
「どういたしまして」
 言わずともわかる。微笑んだルシエロは、そんな顔をしていた。
(もっとちゃんと伝えたい、のに)
 ひろの本人は、上手く言葉が出てこない自分に対して不満を抱いている。
 そしてルシエロからにひろのに、もう一つのプレゼント。
「その花のコロンだ。ハンカチにでも染み込ませて使うと良い」
 自分へのもどかしさを感じながら、差し出された小瓶をひろのは静かに受け取った。

●ネモフィラとマリーゴールド
 A.R.O.A.のロビー。ここの掲示板には、ウィンクルムへのオススメイベントやお店の広告がよく貼りだされている。
 『紫月 彩夢』はタブロスの花屋のキャンペーンに目を留めた。
「へえ。注文形式は、事前と直接の二種類があるのね。なら、あたしは直接選びたい」
 脳裏に『神崎 深珠』のことが浮かぶ。
(深珠さんにプレゼントする……? ていうかサプライズで驚く人じゃないし、なんていうか最近読まれてるし、連れて直接行くのが一番確実よね)
 そう結論付けて、彩夢は深珠に一緒に花屋にいかないかと誘った。

 タブロスの花屋で、彩夢と深珠はじっくりと花を選んでいる。花の数が豊富で、直接見ながら選ぶのは楽しい体験だった。
 出来上がったブーケは交換して、キャンペーンのコロンはそれぞれの香りにする予定だ。
「深珠さん、好きな花ってある?」
 何気ない問いかけだったが、深珠は素直に答える前に少々もったいをつけた。
「教えてもいいがお前の好きな花も教えろ」
 質問に交換条件をつけられた彩夢だが、特に動じずサラリと答える。
「あたし? あたしはマリーゴールド」
「……マリーゴールド、か。俺は、ネモフィラだ」
「深珠さんはネモフィラかー」
 軽く目を閉じて、ブーケの色合いをシミュレーションしてみる。ネモフィラは青空に似た色の小ぶりな花だ。
「んーと、じゃあそれにもう一色違う色の花を添えてもらいましょ」
「添えるなら……白かピンクあたりか……」
 深珠は少し考えて、白のミニ薔薇とまとめてもらうことに決めた。

 希望する花の種類を店員に告げて、ブーケの完成を待つ。花屋の一角には、お客が利用できる椅子が備え付けられていた。
 椅子に腰掛け、彩夢はのんびりとした気持ちで出来上がりを待つ。
「そういえば、何でネモフィラなの?」
 深珠は懐かしそうな表情で答えた。
「随分昔だが、ネモフィラが群生している場所に連れて行ってもらってな」
 過去に見た美しい風景を思い出しながら、深珠は話す。
「丘一面を覆う花が、綺麗だったんだ」
 彩夢が感嘆のため息をついた。
「へぇ、素敵。そんな場所があるのなら見に行ってみたい」
「あぁ、機会があったら行こう」
 椅子から少し身を乗り出して、彩夢は深珠に視線と興味を向ける。
「深珠さんのそういう思い出話聞くの初めてかも。あたしの知らない深珠さん、もっと知りたいよ」
 彩夢にそうせっつかれ、深珠はかすかに首をひねる。
「……そんなに、話してなかったか? お前には色々聞かれてばかりだった気がしていたが……」
「そう?」
「で、ちなみに彩夢のマリーゴールドは何で……」
 彩夢は素早くカウンターの方を振り向いた。
「あ、出来たみたい」
 カタッと椅子から立ち上がり、深珠との会話を切り上げる。
 深珠は苦々しい小声でぼやく。
「……はぐらかされた気が、するんだが」
 その声は、彩夢に聞こえただろうか。

「それじゃ、交換ね」
 二つのブーケと二つのコロン。
「交換、だな」
 二人はブーケをお互いに贈る。
 彩夢の手には、深珠が選んだネモフィラと白いミニ薔薇のブーケ。青空と白い雲を連想させる、爽やかなブーケだった。
 そして深珠は、マリーゴールドのブーケ。
 さっきはタイミングが悪くて最後まで聞けなかった質問を改めて彩夢に投げかける。
「彩夢は、どうしてマリーゴールドが好きなんだ?」
「……? あぁ、あたしの、ね」
 ごくわずかに言い淀んだのを深珠は聞き逃さなかった。
「昔、家で育ててたの。咲姫と二人で、ね……それだけよ」
「『それだけ』か……。……いいさ。今はまだ、それで」
 お互いに探り合いと駆け引きをするような彩夢と深珠。物言わぬ花は二人の腕の中で、ただ静かに香り立っていた。

●カラフルブーケとヒヤシンス
 『瀬谷 瑞希』と『フェルン・ミュラー』は一緒にタブロスの花屋まで来ていた。
「花は心を和ませてくれるからね」
 そう言って、フェルンは瑞希の顔を見て微笑んだ。明るい色合いの花束を見て、瑞希が喜んでくれれば良い。そう思って、フェルンは彼女を花屋に誘ったのだ。

 色とりどりの花を見ながら、フェルンは友の言葉を思い出していた。
(花は『新たな命が生まれる』とか『次世代へ繋がっていく生命の連鎖を連想しやすい』……と昔友人が言っていたっけ)
 直接花を見ながらブーケに使う種類を選んでいく。フェルンが贈りたいのは、心を晴れやかにするような明るい色合いのブーケだ。
 まず、ピンクのチューリップをメインにしようと決める。そこに形が個性的なスイートピーを添える。花束用としてオーソドックスなガーベラの赤、白、オレンジを二輪ずつ加えれば、鮮やかで華やかなブーケになる。

 瑞希は、フェルンがブーケに使う花を選んでいる間、何気なく店の花を眺めていた。最初は特にこれといって何かを買うつもりではなかったのだが……。
 ふいに視界に映った綺麗な青にハッとした。
(ヒヤシンス……?)
 青いヒヤシンス。その花になぜかグッと惹きつけられた。インスピレーションのようなものを感じた。
 フェルンにとてもよく似合う気がして。
(お店で品物に何かを感じる事、ありますね)
 フェルンに気づかれないようにこっそりと、瑞希は静かにカウンターに近づいた。小声でそっとオーダーを。
「私も花束をひとつお願いします」
 気に入った青のヒヤシンスを主役に据えて、紫色のフリージアと青のトルコキキョウを二、三本配置して脇を固める。寒色系でまとめたブーケだ。
 瀬谷にはフェルンをビックリさせたいという意図があった。店員もそれを察して、プレゼントの直前までブーケを隠せるようにと、目立たない紙袋に入れてくれた。

 花屋から出て、瑞希とフェルンは公園まで散歩した。噴水のあるオシャレな雰囲気の場所だ。
「ふんわりと春のイメージで作った花束を、君に贈りたかったんだ」
 フェルンは鮮やかなブーケを瑞希に差し出した。強気な姿勢でリードをしつつ、紳士的に振る舞っている。
「それから、これも」
 コロンの小瓶をフェルンは瑞希の手に握らせた。
「花束に合わせたコロンはどんな香りだろう。甘い感じになるのかな」
 チューリップとスイートピーにガーベラが織りなす、賑やかな香りが楽しめそうだ。
 フェルンは少しの間沈黙した後、ポンと軽く瑞希の背中をなでた。
「色々と気持ちを切り替えて、前向きに行こうよ」

「そうですね」
 朗らかに微笑みながら、瑞希もサッとプレゼントを取り出した。ヒヤシンスをメインにした青いブーケ。花屋でヒヤシンスを見てから、どうしてもフェルンにこの花を贈りたくなった。
「ミズキが俺に……? ありがとう、嬉しいよ!」
 瑞希から花束がもらえるとは、フェルンは思っていなかったらしい。予想外のプレゼントにフェルンは喜んだ。
 ブーケの花一つ一つを視線で示しながら、瑞希がこう説明する。
「『変わらぬ愛』と『憧れ』と『清々しい美しさ』が花言葉なのです。この花をフェルンさんに贈りたくて」
 日頃から自分のことを優しく気遣ってくれるフェルン。そんな彼への感謝と敬愛の気持ちを込めて、瑞希はブーケを手渡した。
 それぞれ贈り物のブーケを手にして、優しい気持ちで見つめ合う。
「良い香り」
 明るい彩りの花は、瑞希の腕の中で甘く香っている。
「フェルンさんからの花束はとても嬉しいです。元気が出ました」
 陽光を浴びてキラキラと水が光る噴水と、その向こうに広がる春の青空。それに負けないぐらい、瑞希も輝くような明るい笑顔を見せた。



依頼結果:成功
MVP
名前:ミサ・フルール
呼び名:ミサ
  名前:エミリオ・シュトルツ
呼び名:エミリオ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月14日
出発日 03月19日 00:00
予定納品日 03月29日

参加者

会議室

  • [4]瀬谷 瑞希

    2016/03/18-23:57 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    よろしくお願いいたします。

    プランの提出はできています。
    皆さま、良いひと時がすごせますように。


  • [3]紫月 彩夢

    2016/03/18-21:59 

    紫月彩夢と、深珠おにーさん。
    こないだ不意打ちでホワイトデーされちゃったし、あたしも何か贈りたくなって。
    好きな花で、上手く纏められると良いな。

    皆のブーケも、素敵な花束と香りに満たされますように。
    どうぞ、よろしくね。

  • [2]ひろの

    2016/03/17-22:37 

    ルシエロ=ザガン:

    オレはルシエロ=ザガンだ。よろしく頼む。

    ブーケか、そうだな。
    複数の花の組み合わせが得意だというなら、一つ頼むとしよう。

  • [1]小鳥遊 光月

    2016/03/17-09:35 

    レベル1のはじめてです。よろしくお願いします。


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