プロローグ
「あー金平糖探し飽きたな~」
「飽きたとか言ってる場合ですか、真面目に探して下さい」
一組のウィンクルムが、山道を歩いていました。
ここは、ショコランドにある『ブランチ山脈』の山の一つ。
女神ジェンマ様の力で、降り注いできた『祝福の金平糖』を集める為、ウィンクルム達は付近を探索しています。
クッキーの木に、ソーダ水の川。
チョコレートの草に、きな粉な土……等々の、甘い匂いとパステルカラーの世界は、優しい雰囲気なのですが……。
「景色があんまり変わらないのって、眠くなるだろ?」
「『祝福の金平糖』は、悪しきものが触れると邪悪な力を持つ『怨嗟の金平糖』に変わってしまうんです。そうなる前に、我々で確保しなければ……」
「あーハイハイ。ちゃんと探しますよっと……」
拳を握る精霊に、眠そうな顔で返事を返して、神人は気付きました。
「あ。見つけた」
「何処ですか?」
「あそこ。ちょっと行ってくるわ」
崖に咲く雑草に、キラリと輝く金平糖が引っかかっています。
神人は迷うことなく、崖っ縁にしゃがみ込むと、目一杯手を伸ばしました。
「ちょっと、危ないですよ……」
「へーきへーき。もうちょいで届く……」
その時、グラリと神人の体が傾きました。足元の土が崩れたのです。
──なんてお約束だ……!!
精霊は慌てて手を伸ばし、神人の手を掴みます──。
※
「いやーびっくりしたな」
「笑ってる場合ですか……」
朗らかに笑う神人を、精霊はじとっと半眼で見つめました。
二人で落ちた崖の下、運よく綿あめの木がクッションとなって弾んだ体は、クリームの池へと落ちて無傷でした。
「かーあめぇ!」
「クリームですからね……しかし、ベタベタします……」
精霊は恨めしそうにクリーム塗れの身体を眺めます。
がおー。
不意に緊張感のない獣の声がして、二人は同時に顔を上げました。
そこには、猫のような──けれど猫にしては大きく、でも猫みたいにまるっとしている不思議な白い生物が居ます。
「あれって……」「キラリンタイガー?」
神人と精霊は顔を見合わせました。
『キラリンタイガー』は、ショコランドに住む、お菓子で出来た不思議アニマルの一種で、猫のようなホワイトタイガー。
主成分はバニラアイスで、黒い模様は黒あんです。
リンゴの形の肉球は虹色で、これはリンゴ飴で出来ているのだとか。
がおー。
キラリンタイガーは、まるで二人に付いてこいというように頭を振ると、のっそのっそと歩き始めます。
神人と精霊は、誘われるまま虎の後を追いました。
やがて、虎が足を止めた先には、虹色に輝く温泉があるではありませんか。
「何だかいー香りがするな……!」
「何だか心が安らぎます」
二人がお湯に触れていると、キラリンタイガーはじゃぶんとお湯に飛び込みました。
何とも気持ち良さそうにしている虎を見て、二人は目を合わせます──。
解説
『祝福の金平糖』を集めていたら、事故でクリームの池に落ちてしまいました。
キラリンタイガーの導きで辿り着いた、不思議な虹色の薫る温泉で、過ごしていただくエピソードとなります。
温泉に入って汚れを落とすもよし、服を洗ってみるもよし、自由にお過ごし下さい。
荷物は無事でしたので、木の枝などを集めたら、火を起こし服を乾かす事も可能です。
<不思議な虹色の薫る温泉>
・虹色に輝く湯で、浸かるとホッと安らぎます。
・浸かった人の好む香りが、ふわっと漂う不思議な湯です。
・温泉を囲む岩はスコーンで出来ています。
<プランに明記して欲しいこと>
不思議な虹色の薫る温泉から、薫る香りについて、記載をお願い致します。
<おまけ要素>
・キラリンタイガーは、温泉に浸かったり、岩の上で寝てたり自由に行動しています。絡みはなくとも問題ありません。
・ただし、イチャイチャシーンを見せてくれたウィンクルムには、自らの顔のアイス(バニラアイスと黒あんのハーモニー)を少し千切ってプレゼントしてくれます。
※TPOにはご注意ください!
・イチャイチャ度は三段階評価。評価が高い程、たくさんアイスをくれます。
一段階 :一口サイズ
二段階 :一人前
三段階 :二人分
交通費として、一律300Jr発生致します。予めご了承下さい。
なお、基本的に個別描写となりますが、グループアクションも歓迎致します。
その場合、掲示板で宣言の上、プランに明記頂けますと幸いです。
※『祝福の金平糖』は、クリームの池に落ちる前に集めていたので、特にプランで集める描写は不要です。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく『温泉でまったりしたい』雪花菜 凛(きらず りん)です。
寿ゆかりGM様主催の『フレグランスイベント』と、『エピソードキャンペーン・祝福を蝕みしオーガの徒』の混合エピソードです。
温泉で良い香りに包まれるのって素敵かもと、キラリンタイガーが羨ましくなりつつエピソードを出させて頂きました。
まったりと楽しんで頂けますと嬉しいです。
皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
柊崎 直香(ゼク=ファル)
お湯はスパイシーな薫り メルヘン嗜好なゼクはどう? さて。 着衣のまま蹴りいれられるのと 全裸になったのち突き落とされるの どっちが好き? 温泉に手を浸し振り向けば脱衣するゼクの姿 あ、全裸が好み? だってゼクのせいでしょ 僕はすぐ退いたのに代わりに落ちるんだもん 巻き込まれたよ 僕の脱ぐシーン追加? 高いよ? あっ料金プラン提示前とか反則 不本意ながらお湯の中。虎に近づいてみる がおー。 アイス溶けないのかにゃ。触っていい? キラリン、ゼク爺さん酷いんだよ 僕を無理やり脱がしたんだ、と毛並み(?)撫で お爺さんはさっさと洗濯へ出掛けたまえ 言いつつ、クリームの落ちきらないその髪に手伸ばし いや良い毛並だなって キラリンには負けるけど |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
!?あれ…?平気? タイガは素早い(目を逸らし 念願のキラリンタイガーに会って早々大事にならなくて良かった ◆家は虎グッツの宝庫(タイガの影響 待って。このままじゃ帰れないから洗濯するよ (駄目だったら謝ろう)慣れない洗濯に苦戦 あれ、置いてたの…? (手際良いなあ もうくるよ。あっち向いてて いいから!(赤面 虎兄弟みたい(微笑 へえ、飴やドリンクはあるけど効果はしらなかった。この温泉もそうなのかな ■キラリンと目が合う ありがとう。おかげで助かったよ (撫でようと大丈夫ならハグ 本当かわいい… わっ タイガは いつもしてるじゃない 甘えんぼ(逆上せそう…でもホッとする アイス反応(依頼98 いいっ いらないから!…顔戻るんだ(呆気 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
温泉がそこにあるならば! 入らずにはおれようか! (バッ!と勢いよく真っ裸) そのまま勢いよくざぶーんと入るぜ! 広々露天風呂で気持ちイイじゃん。 誰か見ている訳じゃなし、ラキアも来いよ。 クリームまみれよりずっといいぜ。 湯に入るとふんわり花の香りが穏やかで心地いい。 何の花の香りか判らないけど、色々な花の香りっぽい。 「好きだぜ」ラキアをまっすぐ見て言う。 「こういう香り。ラキアの庭みたいじゃん?」 温泉にじっくり浸かり体を温める。 ラキアをじーっと見て。 「この香りは好き。ラキアの事は愛してる」とにっこり。 さっき「アレ?」って顔してたじゃん。 好きって言葉はどれだけ言ってもいいじゃん!って思うし! いつでも言いたい。 |
ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
温泉気持ちよさそうだな…クリームでべとべとだし。入るか? ん、林檎みたいな香りだな。 とりあえずクリームを落としてゆっくり浸かってみるか。 なんだ、服くらい家でも脱ぐだろう?そんな風に焦って…そういうのは女の子と風呂場で鉢合わせした時にしろ。典型的なラッキースケベだぞ。 っておわ、なに腰回り触ってんだ。くすぐったい? もっと太れ?そんな事言われてもなぁ…俺、お前が来てから多少太ったと思うんだが。甘いものばっかは胸焼けするし変に偏った太り方しそうだから嫌だ。 …お前の作った飯ならたべるよ。それでいいだろう? お前の腹がゆるゆるなら断るところなんだが意外に筋肉ついてるんだよな…。 |
レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
なんであんたは全く被害ないのよぉ!? 私ドロドロなのにぃ! 早く洗い落したい… あの状態で歩き回る方が無理! 浸かりながら服も洗濯よ でも不思議ねぇ、林檎の香りがする …ルードも入ったら? でもオッサンだし恥ずかしいわよね(ニヤ …なん、だと…? 予想外に整った体で愕然 (やっぱ体は中年だって笑ってやろうと思ったのに… 誰がマヌケだクソ猫耳!? こんの…!(ギリリ (いちいちムカつくわー! ようやく落ちた…さっさと乾かそ もうのぼせそうだからいい…へくちっ …何? なんで肩に手ェ回してんだよ!? …服着ればいいじゃない(寒いよりマシだけど あんた、こっち来る?(キラリン手招き 私の周り猫ばっかねぇ(撫で じゃあ遠慮なく… …普通に食え! |
●1.
真っ白なクリームが服に張り付いている。
「なんであんたは全く被害ないのよぉ!?」
レオ・スタッドは、全く汚れていないパートナーを睨んだ。
「私ドロドロなのにぃ!」
「備えを怠らなかっただけだ、うつけが」
ルードヴィッヒはレオを一瞥すると、さりげなく彼から距離を取る。
「ラクな仕事だと慢心するからだろう」
レオは震える拳を握った。
抱き着いてクリーム塗れにしてやろうか!
その時、前方でがおーと緊張感のない鳴き声がした。
白い虎が、虹色の温泉で泳いでいる。
レオには温泉が輝いて見えた。
このような状態で歩き回るのは無理だ。
迷わず服を脱いで、温泉へ足を踏み入れる。お湯は少し温めで柔らかい感触。
「浸かりながら服も洗濯させて貰うわね」
虎に声を掛け、レオはクリーム塗れの服も温泉に入れる。
「不思議ねぇ、林檎の香りがする……」
爽やかな果物の香り。心地良い香にささくれ立った心も落ち着く。
レオはちらりとルードヴィッヒを振り返った。彼は木の枝を集めている。
「何してるの?」
「火元を用意してる……裸で火起こしする気か?」
「……ありがと。少しは気が利くのね」
「手の掛かる男だ」
ムカッ。
レオはちゃぷんとお湯を指先で弾いて、彼を見上げる。
「……ルードも入ったら?」
案の定、何を言い出すのやらといった視線が返された。レオの口元が上がる。
「でも……オッサンだし恥ずかしいわよね」
(安い挑発だな……いいだろう)
レオは木の枝を置くと、ループタイに指を掛けた。
「そんなに見たければ、見せてやる」
ばさりと服を脱ぐルードヴィッヒに、レオの思考は停止する。
(……なん、だと……?)
現れたのは、予想外に引き締まった身体。
(やっぱ体は中年だって笑ってやろうと思ったのに……)
整った身体は、躊躇なくレオの隣にやって来た。
「どうした、マヌケ面を晒して」
指先で湯の感覚を確かめて、ルードヴィッヒが笑う。
「誰がマヌケだクソ猫耳!?」
バシャアと湯を殴るようにし、レオはルードヴィッヒを睨んだ。
「ふん、俺の裸体を拝めて満足か?」
「こんの……!」
誰が!と視線を強くし、レオはギリリと奥歯を噛む。
(いちいちムカつくわー!)
(分かり易い男だ)
ふーと深呼吸して、レオは握ったままの服を再びごしごし擦った。
「ようやく落ちた……さっさと乾かそ」
レオはルードヴィッヒを残して温泉を出る。焚き木に火を灯し、服を乾かしに掛かった。
ルードヴィッヒはその様子を眺めていたが、一向に温泉に入り直そうとしない彼に眉根を上げる。
「湯冷めするぞ」
「もうのぼせそうだからいい……へくちっ」
言い返すなりくしゃみを一つ。ルードヴィッヒは気付かれないよう溜息を吐いた。
(先日カゼを引いた奴がよく言う)
ルードヴィッヒは温泉から出ると、ハンカチで水気を拭きとって下着を身に付ける。
そしてレオの隣に歩み寄った。
「……何?」
「長湯は好かんのでな」
剣呑な眼差しが向くのに口の端を上げ、ルードヴィッヒはレオの肩に腕を回した。ふわり、伝わる熱。
「なんで肩に手ェ回してんだよ!?」
「湯冷めして風邪を引きたくない」
跳ねる体を離さぬよう僅か力を込めれば、レオの動きが止まる。
「……服着ればいいじゃない」
(寒いよりマシだけど)
(偶には立ててやらんとな)
がおー。
気付けば、白い虎がこちらを見ていた。
「あんた、こっち来る?」
レオが手招きすれば、虎は直ぐに近寄ってくる。
「私の周り猫ばっかねぇ」
虎の頭を撫でると、虎は徐に自らの顔を千切ってレオに差し出した。
こんもり二人分はある。レオは瞬きした。
「貰っておけ。欲しいのだろう?」
「じゃあ遠慮なく……」
レオは手渡されたアイスに口を付けた。
「美味しいわ」
虎に微笑んだ時、ルードヴィッヒの指先が伸びてきて……。
「……甘いな」
口元に付いたアイスを掬って食べたと気付いた時、レオは顔が熱くなるのを感じていた。
「……普通に食え!」
「少し味見しただけだが?」
虎が何だか嬉しそうに鳴いた。
●2.
虹色に輝く温泉からは、温かな空気。
「温泉気持ちよさそうだな……」
「温泉気持ちよさそうだねー」
二人の声はほぼ同時。
「クリームでべとべとだし。入るか?」
ロキ・メティスが、クリーム塗れの髪を掻き上げ言うと、
「そうだね、とりあえずクリームも落としたいし入ろうか?」
ローレンツ・クーデルベルは、大きく頷いた。
がおー。
温泉の中で、先客の虎が鳴く。
「キラリンタイガーも可愛いし、気持ちよさそう」
ローレンツは靴を脱いで温泉に足先を入れた。少し温いくらいの心地良い熱さ。
ざぶざぶ湯に入れば、思わずほっと吐息が零れた。
「ん、林檎みたいな香りだな」
腰の辺りまで湯に浸かり、ロキは掌に光る湯を掬う。
「ロキは林檎の香り?」
ローレンツもロキを真似て湯を掌に取った。
「俺はさくらみたいな匂いがする」
「個人個人で感じる香りが違うのか……面白いな」
「それに……ふわー……気持ちいい」
肩まで湯に浸かり、ロキは大きく伸びをした。
「とりあえず……クリームを落としてゆっくり浸かってみるか」
幸せそうなロキの表情に口元を上げて、ロキは徐に上着に手を掛ける。
「って、うわーロキ! なんで上着脱ぐの!」
躊躇なく上着を脱いで、更にその下も脱ぎ始めるパートナーに、ローレンツはバシャバシャと湯の中で両手を上下させた。
「いや洗うんだから脱ぐのか!!」
不思議そうなロキの目を見て、意図は理解出来たのだが……。
(……一緒に住んでるし、家でもこういう事はあった筈なんだろうけど……なんかドキドキする)
心臓がばくばくと音を立てていて、湯を伝ってロキに伝わらないかと、ローレンツは顎まで湯に浸かって彼を見上げた。
「なんだ、服くらい家でも脱ぐだろう?」
ロキはクスッと笑み零すと、シャツも脱いでしまう。
「そんな風に焦って……そういうのは女の子と風呂場で鉢合わせした時にしろ。典型的なラッキースケベだぞ」
ロキの言葉は、ローレンツの耳に上手く入って来なかった。
白い肌から、目が離せない。
(それに……)
ローレンツは無意識に手を伸ばしていた。
「んー…やっぱりロキは細いよねぇ」
さわさわ。
「っておわ、なに触ってんだ」
びくっと跳ねるロキに構わず、ローレンツはその細腰を確かめるように触れてくる。
「こら、くすぐったいって」
「もっと太った方がいいよ」
ローレンツは、真っ直ぐにロキを見つめてそんな事を言う。
「そんな事言われてもなぁ……」
ロキは己の体を見下ろしてみた。
「……俺、お前が来てから多少太ったと思うんだが」
「全然足りないよ!」
バシャンと湯に手を付いて、ローレンツが身を乗り出す。
「甘いものならここら辺にいっぱいあるし、好きなの食べたらいいよ」
「甘いものばっかは胸焼けするし……変に偏った太り方しそうだから嫌だ」
ロキは近付いたローレンツの眼差しから、視線を逸らした。少し早い鼓動を感じる。
ローレンツは顎に手を当て少し考えてから、パッと瞳を上げた。
「じゃあ、帰ったら俺が何か作るからそれ食べて!」
ロキはゆっくりと視線をローレンツに戻す。真剣な眼差しとぶつかると、瞳を伏せるようにして頷く。
「……お前の作った飯なら食べるよ。それでいいだろう?」
「うん! 約束」
ローレンツは小指を出してくる。子供かと思いながら、ロキは小指を絡めた。
「ほら、お前も早く服を脱いで、クリーム落とせ」
クリームの付いた上着を指差せば、ローレンツはぱぱっと服を脱ぎ捨てた。
と同時、突き刺さる視線に首を傾けると、ロキが僅か眉を顰める。
「お前の腹がゆるゆるなら断るところなんだが……意外に筋肉ついてるんだよな……」
「意外にって……」
へにゃりと眉を下げるローレンツに、冗談だとその肩を叩けば、虎の声がした。
振り向けば、たっぷり二人分のアイスを差し出す虎の姿が。
「貰っとくか」
「そうだねー」
(ロキがそんなに細いから……ドキドキするんだ、きっと)
アイスを口にするロキを横目に、ローレンツは心でそっと呟いた。
●3.
「ナイス!きらりん!」
ぐっと親指を立てるなり、火山 タイガはクリーム塗れの服を脱ぎ捨てた。
虹色の温泉にバシャーン!と水飛沫が上がる。
「ぷはっ! こんな所で温泉にありつけるたあ!」
湯から顔を出して、タイガはぷるぷると頭を振った。隣に白い丸い虎が並ぶ。
「汚れた俺らに案内してくれたんだよな!さんきゅー!」
がおー。
(タイガは素早い)
タイガと虎を見つめて、セラフィム・ロイスはクスッと笑みを零した。
それから目を逸らす。タイガの裸に鼓動が速くなってしまった。
(それにしても、念願のキラリンタイガーに会って早々大事にならなくて良かった……)
崖から落ちた際は、本当に焦った。
「セラもこいよー!」
タイガが手を振る。隣で白い虎も尻尾を振っていた。
ほんわりとセラフィムの胸は高鳴る──彼の家は、タイガの影響もあって虎グッズの宝庫で……虎と名の付く生き物に、とことん弱い。
「待って。このままじゃ帰れないから洗濯するよ」
セラフィムは、タイガの服を拾い上げた。自分も下着以外脱いで、温泉の湯を使って洗う事にする。
「わーった」
タイガの返事を聞きながら、セラフィムは恐る恐る服を湯で濯いでみた。
(駄目だったら謝ろう)
ごしごし擦ってみるものの、正しい洗い方なのか自信がない。
タイガは真剣なセラフィムの様子を眺めた。
(待ってるのも悪いよな。そうだ)
人差し指を口元に立てて虎にウインクしてから、タイガはそっと湯を上がる。
慣れた手つきで集めた小枝で火を起こし、木の枝にロープを張った。
そして、セラフィムが手を付けていない服をさっと洗ってしまうとロープに干してしまう。
「こんなものかな……」
漸く上着のクリームを落として、顔を上げたセラフィムは目を丸くした。
パチパチと跳ねる火と、風に靡く服。
「はーやーくー」
温泉を泳ぐタイガから、急かす声がした。タイガがやったのだと確信すると、セラフィムは思わず吐息を吐いた。
(手際良いなあ)
タイガの干した服の隣に、丁寧に皺を伸ばして上着を干す。
「まーだー?」
「もうくるよ。あっち向いてて」
セラフィムはタイガに背を向けてから下着に手を掛けた。
「何で?全てみた仲じゃん」
「いいから!」
耳まで赤くなるのを感じる。
「えー」
タイガはニヤニヤと笑いながらも、それ以上言ってくる事は無かった。
「きらりん慰めてくれーいじらしいよなーセラのやつ」
白い虎の頭を撫でてそんな事を言っている。
セラフィムは跳ね上がる胸を押さえた。
忘れる訳もない。豪華客船の中、彼の甘い笑みも触れて来た手の熱さも。
首を振って、セラフィムは漸く温泉に入った。仲良く湯に浸かる二つの影に、セラフィムは微笑む。
「虎兄弟みたい」
「セラ、俺分かったぞ。何の香りかなーと思ったけどわかった。はちみつレモンだ」
湯の香を吸い込んでタイガが言った。
「母さんがよく『疲労回復や栄養補給、風邪にもいいから』って檸檬の蜂蜜漬けや飲まされたっけ」
「へえ、飴やドリンクはあるけど効果はしらなかった。この温泉もそうなのかな」
セラフィムも湯を手に顔を近付けてみる。安心する香り。
顔を上げると、白い虎と目が合う。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
セラフィムは両手を広げて白い虎を抱き締めた。
「本当かわいい……」
「セーラ」
うっとりするセラフィムを、タイガは後ろからがばっと抱きかかえた。
「わっ」
「寂しいぞ。甘えさせろ」
「タイガは いつもしてるじゃない」
「いーや、やきもち焼きだから足りねえ」
すり寄れば、二人の体温が繋がる感覚。
「甘えんぼ」
(逆上せそう……でもホッとする)
その時だった。白い虎が自らの顔に前足を伸ばし──。
「いいっ、いらないから!」
慌ててセラフィムが止めようとするも遅く、虎は顔を千切って、たっぷり二人分のアイスを差し出してきた。
「顔が……あれ?」
虎が顔を振れば、千切れた部分がぽよんと盛り上がる。
「……顔戻るんだ」
「思った通りだ」
タイガは満面の笑みでアイスを虎から受け取って、二人で口に運ぶ。
甘い幸せの味が広がった。
●4.
温泉がそこにあるならば!
「入らずにはおれようか!」
セイリュー・グラシアの行動は、舌を巻く程に早かった。
すぽぽぽーんと擬音が出そうなくらいの勢いで、セイリューはクリーム塗れの服を脱ぎ捨てた。
下着も勿論躊躇なく──温泉に下着を着て入るなんて言語道断!──勢いよく全裸である。
鍛えられ引き締まった身体を惜しげもなく陽の光に晒して、セイリューはとぅっ!と飛んだ。
ざぶーん!
虹色の水飛沫が上がり、次の瞬間には、彼は温泉の中で至福の表情を浮かべている。
その間、果たして何秒だっただろうか。
早過ぎて数える間も無かった。
ラキア・ジェイドバインは、ふっと笑みを漏らす。
セイリューの脱ぎっぷりは、時々、ボッカに勝るとも劣らないんじゃないかと思う。
(だって、気が付いたらセイリューもう脱いでるし、温泉に飛び込んでいるし……羞恥心は相変わらずドコへ行ったのやら)
思わずボッカマントに身を包んだ(中は全裸だ)なセイリューまで想像した所で、ラキアは思考を閉ざした。
「広々露天風呂で気持ちイイじゃん~」
セイリューは、同じく湯に浸かる白い虎に話しかけながら、すいーっと湯の中を漂っている。
「誰か見ている訳じゃなし、ラキアも来いよ」
そして、ラキアに手招きしてきた。
「確かに他に誰も居ないね」
ラキアは辺りを見渡して頷く。セイリューとラキア以外に人の気配は無い。温泉は貸し切り状態だ。
ラキアの中で、白い虎は人数にカウントされていない。
「クリーム塗れよりずっといいぜ」
「そうだね」
ラキアは頷いて上着に手を掛けた。
(クリームで髪べとべとだもの)
ラキアが脱ぎ出すのに、セイリューは何となく視線を他へ外した。決して見たくない訳ではない。でも、これは見ちゃオトコとしていけないと思った。
程なくして、ラキアがセイリューの隣にやって来る。
赤い髪が虹色の湯に光って、セイリューは僅か鼓動が跳ねるのを感じた。
そして、漂ってくる香りに気付く。
(花……の香り?)
ふんわりと鼻先を擽る花の香りが、穏やかで心地良い。
セイリューは瞳を閉じて香りに集中する。
(何の花の香りか判らないけど、色々な花の香りっぽい)
これって、まるで──……。
ぱちっと瞳を開ければ、不思議そうにこちらを見てくるラキアと目が合った。
「好きだぜ」
(……え?)
どきりと。ラキアの胸が跳ねる。
真っ直ぐこちらを見てくるセイリューの菫色の瞳。眩しくて目が離せない。
「こういう香り、ラキアの庭みたいじゃん?」
続いた彼の言葉に、ラキアはふっと緊張が解けるのを感じた。
(一瞬自分の事かと……うん、温泉の香りの事だよね)
少しだけ残念に思う感情に胸がざわめく。
(でも、俺の庭を思ってくれるのはとても嬉しいな)
ラキアは笑顔で頷いた。
「春の花達の香りだね」
ラキア自身も、温泉に入った瞬間、春の花の香りがふんわりと舞うのが好ましいと思っていた。
「別の季節には違う花達の香りになるかも?」
湯を指先で撫でれば、華やかな香りが湧きたつ。
「全部の季節で試してみたくなるな」
「場所、覚えておかないとね」
暫く二人は、温泉にじっくりと浸かって身体を温めた。
二人の近くで、白い虎ものんびり泳いでいる。
「ラキア」
不意に名前を呼ばれて、セイリューを見遣れば、彼の真剣な眼差しとぶつかった。じっと見つめる視線。じわっと体温が上がるような感覚。
「この香りは好き。ラキアの事は愛してる」
今度こそ、ラキアは頬が紅くなる己を自覚した。
(何その不意打ち)
セイリューといえば、にっこりと満面の笑顔。
「さっき『アレ?』って顔してたじゃん」
ラキアは思わず片手で頬を押さえる。そんなに露骨に感情が顔に出ていたというのか。
「好きって言葉はどれだけ言ってもいいじゃん!って思うし!」
だから、何時でも言いたいのだと、彼は朗らかに笑う。
(本当に、もう……)
ラキアは熱い息を吐き出した。心臓に悪い。
白い虎がたっぷりのアイスの山を差し出すまで、あと数秒。
●5.
「スパイシーな香りがするね」
柊崎 直香は、虹色の湯から漂う香りに瞳を細めた。
「メルヘン嗜好なゼクはどう?」
「甘い薫りがするが?」
メルヘンという単語に眉間に僅か皺を刻みながら、ゼク=ファルは静かに返す。
「人によって感じる香りが違うんだ……」
直香は虹色の湯と、その中で泳ぐ虎を見てから、くるりとゼクを振り返る。
「さて」
腰に片手を当てて、人差し指を立てた。
「着衣のまま蹴りいれられるのと、全裸になったのち突き落とされるの──どっちが好き?」
華やかな笑顔と共に提言された内容に、ゼクは痛むこめかみを押さえた。
ツッコミを入れる気力も湧いてこない。
直香はゼクに背を向け温泉の淵にしゃがみ込むと、指先で湯の温度を確かめる。
「丁度良い温度みたいだよー」
これなら、落ちても大丈夫☆──そう言われる前に、ゼクは上着に手を掛けた。
「──あ、全裸が好み?」
振り返った直香は、クリームに塗れた服を脱ぎ捨てているゼクに瞬きする。
「そういう問題じゃない」
ゼクはクリームだらけに長い髪に少しうんざりした様子で、服を脱いでしまうと自ら温泉へ入った。
「だってゼクのせいでしょ」
温泉に浸かるゼクを見て、直香は両手で頬杖を付き、じとっと半眼になる。
「僕はすぐ退いたのに代わりに落ちるんだもん。巻き込まれたよ」
やだやだとクリーム塗れの髪に触れる直香に、ゼクは言葉に詰まった。
(あいつの身軽さを失念していた……)
焦って手を伸ばした先、直香は軽やかに身を引いていたのに──勢いは止まらず、彼を道連れにする形で落ちてしまった。
「……とにかくその格好ではいられないだろ」
「僕の脱ぐシーン追加?」
直香はふふっと口の端を上げた。
「高いよ?」
ゼクは一先ずクリームに付いた髪を洗い落として、直香の元へと歩み寄る。
「まずは──……」
「いいから脱げ」
「あっ、料金プラン提示前とか反則」
ゼクは半ば強引に、直香からクリームの付いた服を剥ぎ取った。余計な雑念が入る前に、機械的に素早く。
「ほら、湯に入れ」
「むー……温泉に入るのもオプション料金頂きます」
「何でいちいち料金が発生するんだ」
ゼクに追い立てられるようにして、直香は不本意な顔で湯に浸かった。
身を浸すと、一層漂うスパイシーな香りは心地良く、湯加減も丁度良い。
すいーすいーと湯を泳ぐ白い虎に、直香は近寄って行った。
「がおー」
虎もがおーと鳴く。
「アイス溶けないのかにゃ。触っていい?」
がおーと頷く白い虎を、直香はふんわりと抱き締めた。アイスで出来ている筈の毛並みは、ふわふわしていて冷たくも無い。
「不思議だにゃー」
がおー。
直香はふふっと瞳を細めると、虎の毛並みをゆっくりと撫でた。
「キラリン、ゼク爺さん酷いんだよ。僕を無理やり脱がしたんだ」
「誰が爺さんだ」
直ぐに降って来たツッコミに、直香は振り返ってゼクを見る。
「お爺さんはさっさと洗濯へ出掛けたまえ」
「それを言うなら柴刈り……」
ゼクはハァと溜息を吐き出して、周囲を見渡した。
幸い、焚き木に使えそうな小枝も多いし、荷物も無事だ。火は簡単に起こせるだろう。しかし──。
「柴刈りも洗濯もこなすとか俺一人重労働じゃねえか」
言いながら、ゼクは直香の服を手繰り寄せ、湯に浸けて石鹸で洗い始めた。
「……何だ?」
すっと直香の手が髪に触れて来たのに、ゼクは首を傾けた。直香の指は落ちてなかったクリームを払い髪を撫でる。
「いや良い毛並だなって。キラリンには負けるけど」
「毛並みってお前……」
ゼクは半眼になりながら、濡れた直香の髪に手を伸ばす。
「お前もまあ、指通りはいいよな」
やや乱暴に、黒髪をかき混ぜて。さりげなく、さりげなく……彼を引き寄せる。虎から距離を取るように。
(……そんな格好のまま、他の奴に構うな)
苛立ちの混じる感情の意味は。
がおー。
虎の声に思考が停止した。
「わ、くれるんだ。ありがとー」
山盛りのアイスに微笑む直香に、ゼクは眉間の皺を緩ませたのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
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マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月06日 |
出発日 | 03月12日 00:00 |
予定納品日 | 03月22日 |
参加者
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
- レオ・スタッド(ルードヴィッヒ)
会議室
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2016/03/11-23:56
プラン提出できた。
温泉でゆったりまったり。
良い時間が過ごせそうだ。 -
2016/03/11-23:45
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2016/03/11-23:45
がおー。
クキザキ・タダカと、そっちで頭痛薬飲んでるのがゼク=ファルである!
よろしかったら覚えておいてくれたまえ。特にテストには出ない。
直香くんは温泉に虎と戯れに、お爺さんは洗濯と柴刈に出掛けましたとさ。
めでたしめでたし? -
2016/03/11-23:27
:タイガ
よーしプラン提出完了っと!俺、タイガとセラだ
馴染みの奴も久しぶりな奴も皆たのしめるといいよな~ -
2016/03/11-23:10
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2016/03/11-23:08
出発直前でごめんなさいねぇ! 私はレオよぉ、そこのクソ猫耳中年親父がルードヴィッヒ。
もうっ、クリームに塗れるなんて最悪よぉ…あっちで顔を合わせることはなさそうだけど、皆も気を付けてちょうだいねぇ。 -
2016/03/11-06:54
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2016/03/09-05:20