極彩色の祭(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 色が、溢れる。
 無限に広がる極彩色。
 まるで夢のように鮮やかな世界。


「あそぼ」
 近づいてきたのは、顔も服も色鮮やかになった子供だ。
 この様相はどうしたのだろうか。
 聞いてみると、子供は笑顔を咲かせて言った。
「おまつり! いろの、おまつり!」
 子供は自分の少し後ろ側の人集りを示す。
 そこには笑顔と、溢れそうなほどの色が弾けて舞う。
「いっしょにあそぼ!」
 子供に手招かれ、状況は上手く呑み込めないままではあったが、誘われるままに歩を進める。
 空を舞う極彩色。笑顔を彩り、大地の色を変える。
「いろのおまつり! みんなで、いっしょにあそぼ!」
 差し出されたのは、水の入ったボールと水鉄砲。
 使い方が上手く理解できず、しばらく様子を眺めてみた。
 すると、大人も子供も男も女も構わず、手にしたボールや水鉄砲を互いに向けて撃ち合っている。
 ボールが当たれば小気味よい音と共に弾け、服を染める。
 水鉄砲から飛び出すのは、赤や青の色水だ。
「すてきな、きせつにおめでとう!」
 誘った子供は、嬉しそうにそう言うと、色の中へと飛び込んで行った。

――綺麗。

 見惚れるほど、色を変えた景色は美しい。
 時間すら忘れて見入っていると、視界を色水の入ったボールが遮る。
 隣を見遣る。そこには、嬉々とした――悪戯っぽいような、そんな笑顔があった。

「手加減はしないよ。……それとも、ほかの人たちを狙ってみる?」

解説

色水をかけあって、素敵な季節を楽しみましょう!


◆染まってもいい服で来てください。
色水は大変染まりやすいです。極彩色を楽しめる格好をお勧めします。

◆色水の入ったボール、もしくは水鉄砲を選んでいただけます。バケツで掛け合ってもOKです。
ボールはシャボン玉のような感じです。当たっても痛くないです。

◆神人vs精霊で掛け合ってもよし。
ご希望があればウィンクルムvsウィンクルムでもOKです。
(必ずしもご希望に沿えるものではございませんので、その際にはご容赦ください)

◆色水の量は、それぞれ3回分ずつです。

◆周りにいる一般人たちも時々悪戯をしてきます。
相手の色水を避けたと思ってもご注意を。

◆参加費としまして、300Jrが必要です。

ゲームマスターより

春が近づいてくると、わくわくします。
景色に色が増えていく様がとても好きです。
でも一番は、桜フレーバーが増えることが一番の幸せです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)

  上は白い長袖のカットソー、下は白のスキニーパンツを履きます。
「何だか、自分の服が色水のキャンバスになるのかと思うと、楽しそうで……」

「うーん」
結局、その時に目についた色水の、水鉄砲を手に取りました。
翡翠さんに許可を取った上で、彼のタンクトップに色水を撃ってみます。

「参ります!」
時々は周囲を確認し、ぶつからないように離れましょう。
色水が飛ぶ程度でしたら、敢えて被っちゃいますけどね。
「大丈夫ですよ。ほら、服も華やかになりましたから」

「翡翠さん。お体、冷えていませんか?」
暫くしてタンクトップ越しから、タオルで翡翠さんの体を拭く。

と心配していたら……。
はっ……翡翠さん!?
「……んもう、恥ずかしいです」


リヴィエラ(ロジェ)
  服装は白いワンピース

リヴィエラ:

(わくわくしながら)
折角春めいてきましたし、この水鉄砲には桜色の水を入れておきましょう。
…はわわ、きゃーっ!(ドンくさいので一般の人から色水をかけられ、真っ青の服に)

(ロジェに指摘され)
えっ…? きゃ、きゃああっ!
そ、その…お見苦しい所を申し訳…きゃっ!?

ふふ、でも楽しかったですね♪
(ロジェの服に自分の水鉄砲をコッソリとかけて、ちょっと意地悪く微笑む)
ほら、ロジェの服は桜色になっていますよ。
まるでロジェの所に真っ先に、春の季節がやってきたみたいです。

(はわわわ…ロジェの服が透けて体のラインが見えてしまってます…
な、何だかやっぱり年上の男の人という感じです…)


藍玉(セリング)
  ウサミミパーカーをかぶりながら嘘臭い笑顔で
「せっかくのお祭りです、全力で行きましょう」
開始同時にバケツで全力で精霊にぶっかける
「いきなり何をするんですか!」
「か弱い女子相手に手加減も出来ないんですか?!」
「やめてください離してください!」
言い合いながら相手の足をゲシゲシ蹴ったりもう一杯ぶっかけたりそのままもみくちゃで喧嘩

暫くしたら休戦
「ここまでびしょ濡れになるとは…!」
パーカーを脱いだら頭から色水被せられる
「…休戦って言いませんでしたっけ?」
精霊の笑顔に毒気を抜かれパーカーを脱がせてバケツ(水色の水)を思い切りかける
「私の色です」
笑いあう

「何か食べますか?」
「ああ、私も何故か食べたいです」


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  サンドレスにカーディガン(白

最初は呆然と飛び交う色を眺め
太もも辺りに当たって広がる黄色
まるで花の様できれい…ですね

手を取る精霊の肩に当たってはじけた紫色
精霊の頬に飛んだ紫を袖で拭い、笑って
紫も似合いますね

ボールを投げ合い染まる服
ひとしきり笑って
兄様が姿を消してから、私の日常は灰色とノイズばかりで…辛くて、苦しくて…
世界が、こんな風に色で溢れていると…ジューンに出会うまで、ずっと忘れていたんです
これからもあなたの隣で、色付く世界を見ていたい、です…

…ジューンも、色を?
精霊の言葉の意味が分からない

相変わらず大袈裟な言葉に目を伏せ、照れながらも礼を返す
…私も、同じ気持ちですけれど…
呟くように小さく


風架(テレンス)
  捨てようと思ってた白いパーカーにショートパンツ
水鉄砲
うわぁ童心に戻った気分になれそう
え、武器先に選んで良いの…?
んー…じゃあ水鉄砲で
テレンスーわざと外そうとしてない? そんな努力いらないから思いっきり投げてごらんよ? 怒らないから
からかうように笑ってみせる
一般人からの突然の来襲に驚く
ほわっびっくりした……っやっぱりなかなか不便なのかも…?
なにが、なのか言わないが左耳のこと

無地な服が色とりどりになっていい感じ。捨てる予定だったけど捨てずに取っとこうかな
良いんじゃない? 思い出の品はできるだけとっといたら良いよ。後でこんなことあったなって思い出すじゃん
そんなこと言わずもがな。楽しかったよ



「うわぁ、童心に戻った気分になれそう」
 目の前の光景を眺めて、無邪気にはしゃぐ大人たちの姿に、風架も子供のころの記憶を重ねたのだろうか。
 テレンスがそっと風架の肩に触れる。
「え?」
 顔を、色水の入った武器に向け、先に選ぶように示す。
「先に選んでいいの?」
 頷いて、目深に被っていたパーカーのフードを更に下げる。
「んー……じゃあ、水鉄砲で」
 風架が暫く思案した後に、水鉄砲を選んだ。
 周囲を見ていると、ボールならば痛くはない様だ。ならば、と、テレンスはボールを選んだ。
「じゃあ、行くよー」
 少し離れて、風架が合図をする。
 やるからには本気だ。
 風架が水鉄砲を放つ。
 上手く避けたつもりだったが、脇腹のあたりに水が当たる感触があった。
 黒いパーカーだ。汚れたところで、さほど目立たないかと、テレンスがボールを構え、投げる。
 すると、風架があっさりと避けた。驚いたのは、どちらかと言えばテレンスだった。
「テレンスー、わざと外そうとしてない? そんな努力いらないから、思いっきり投げてごらんよ? 怒らないから」
 外そうと思って外したわけではない。癖で無意識に外してしまったのだ。
 とはいえ、だ。
 当てろと言われて当てられるものでもない。かと言って、当てないわけにもいかない。
 からかうような風架の笑顔に、観念して狙いを定めてボールを投げる。
 楽しそうに彼女は水鉄砲を撃ち返す。
 ――分からない。
 風架が、何を考えているか、テレンスには分からない。
 知りたいと思うのに、まるで指の間をすり抜けていくように掴めない。
 風架は手加減を好まない嫌いがある。
 男の自分相手に本気でぶつかってこいと言ったり、今も、だ。
 それさえも、テレンスには理解ができない。
 捕まえられない。
「――!」
 テレンスの腕が、風架に伸びる。
「ほわっ」
 風架の左側から、一般人が色水を投げた。
 それを咄嗟にテレンスは腕を掴んで、庇った。
 ――手を伸ばせば、こんなに容易く捕まえられるのに。
「びっくりした……っ。やっぱりなかなか不便なのかも?」
 白いパーカーは、テレンスの投げた色水以外でも染まっている。
 それを見ると、どうしてか。腕を掴む手を、離せなかった。
 風架が、そんなテレンスを見上げる。
「やっぱり、きれいだね」
 テレンスの髪に手を伸ばし、触れた風架が笑顔を見せる。
「色水、ついてるよ」
 分からない。
 知りたい。
 だが――。
 今はまだ、風架が笑ってくれることが全てでいい。
 風架がテレンスから離れると、染まった服を眺める。
「無地な服が色とりどりになっていい感じ。捨てる予定だったけど、捨てずに取っとこうかな」
 色水を投げつくしたテレンスは、脇に置いておいたスケッチブックにペンを走らせた。
『捨てないのか?』
 喋らない代わりに、スケッチブックに言葉を乗せると、風架がそれを見て、頷く。
「うん、捨てないよ」
 不要になれば捨てるもの。けれど、風架は、捨てるはずだったものさえ手元に残す。
 分からない、な。
 それでも。
『色水がついたこのページも捨てずに取っておいた方がいいのだろうか』
 考えもしなかったが。
「良いんじゃない? 思い出の品はできるだけ取っといたらいいよ。後でこんなことあったなって思い出すじゃん」
 思い出――。
 風架と刻む、1ページ。
 彼女が、自分と過ごしたこの時間を思い出として残してくれるのなら、自分も、また……。
『ほんの記念に』
 風架が笑う。
 その笑顔は、胸の内に取っておこう。
『楽しめたか』
「そんなこと、言わずもがな。楽しかったよ」
 フードをそっと引き下ろす。
 風架が笑うだけで、こんなにも心が温かい。


 白いウサミミパーカを被りながら、藍玉は笑顔を見せた。これ以上ないほどの、嘘くさい笑顔だ。
「せっかくのお祭りです。全力で行きましょう」
「んー、そうだね、全力で行かないと失礼だよね」
 黒いウサミミパーカーを被り、同じく嘘くさい笑顔でセリングも応える。
 にこやかな雰囲気とは裏腹に、一般人が茶々を入れられるような笑顔ではなかった。
 暫く笑顔の応酬が続いた後、開始の合図を告げるものが何もない中で、二人の勝負は突然始まった。
 シンクロしているのではないかと思うほど、ぴったりと合った動きでバケツを握る。
 そして、バケツに入った色水を遠慮なく互いにぶつける。
「いきなり何をするんですか!」
 いきなり何かをした藍玉が言えたセリフではないはずなのだが。
「はぁ?! こっちの台詞なんだけど!」
 どちらも同じセリフを言っていることに、おそらく二人は気づいていない。
「か弱い女子相手に手加減もできないんですか?!」
「あんたの! どこが! か弱い女子?!」
 か弱いは嘘だろう、とセリングが首を横に振り続けている。
「私の! ここが! か弱い女子です!」
 と言いながら、セリングに掴みかかっている。
 挙句に、藍玉に物理的に押されて倒れたセリングを足蹴にしている。
 ……か弱いのだ。
 間違いない。
 そんなか弱い女子である藍玉に、セリングももちろん黙ってはいない。
 掴み合って、頭をガシッと掴み、ガクガクと揺する。
「やめてください、離してください!」
「うっせー! じゃあ蹴るのやめろ!」
 くどいようだが、藍玉はか弱い女子だ。たとえセリングを本気の眼差しで蹴っていても、だ。
 そして、ここで再び恐ろしいほど息の合った動きで二人がバケツを手にした。
「か弱い女子ってのは! 人を足蹴になんかしないんだよ!」
「足を上げたらセリングさんがいただけです!」
「はぁ?! あんたそんなに足長くないだろ!」
「足の長さは今は関係ありません!」
 バケツの水が勢い良く放たれたと思えば、二人はもはやもみくちゃ状態だ。
 色水を掛けに来たのか、喧嘩をしに来たのか分かったものではない。
 ただ、息が合っていることだけは、傍目にも分かった。
 しばらく掴み合った後、やはり同じタイミングでぐったりと疲れを見せる。
「少し、休戦しましょう」
「あー、それ賛成」
 のろのろと身体を起こし、藍玉は自分のパーカーの惨状を眺めた。
「ここまでびしょ濡れになるとは……!」
 バケツの水はパーカーをぐっしょりと濡らしている。
 藍玉は、重くなったパーカーを脱ぎ捨てた。
 上着に守られて、下に着ていたワンピースまで色が通っていない。藍玉は今、無傷の白ワンピース姿だ。
 これに悪戯心を刺激されないはずがない。
 セリングは近くにある、紫の色水が入ったバケツを引き寄せると、そのまま藍玉の頭からダバーッとかけた。
「っ?!」
「俺の色ー」
 掛けられた水と同じ色の瞳が、心底楽しそうに揺れる。
「……休戦って言いませんでしたっけ?」
「そうだっけ?」
 折角の白いワンピースが染まり、藍玉はややむっとした表情をする。
 そして、セリングの上着を無理やり剥ぎ取る。
 セリングも、下に着た服にまで色は通っていない。藍玉は、バケツを引き寄せた。
「うわっ?!」
 水色の水をセリングの頭から掛ける。
「私の色です」
 色水と同じ色の目が、楽しそうに細められた。
「まあ、おあいこか」
 濡れた髪を持ち上げるようにかき上げ、セリングが笑う。
 掴み合って蹴り合っていた二人が、和やかな雰囲気に満たされた。
「あー、お腹すいた」
「何か食べますか?」
「んー、なぜかイカ料理が食べたい」
「ああ、私も何故か食べたいです」
 やはり定番はイカ焼きだろうか。
 青と紫の色を咲かせ、二人はイカ料理の争奪戦に向かった。


 白いワンピースの裾が、ひらりと揺れる。
 リヴィエラの目は、好奇心を隠すことなく映している。
「せっかく春めいてきましたし、この水鉄砲には桜色の水を入れておきましょう」
 そう言って、手にした水鉄砲に色水を入れる。
 ロジェも水鉄砲を手に、水色の水を入れた。
「リヴィー、さっそく……」
「はわわ、きゃーっ」
「おい、リヴィー……」
 リヴィエラが、まさか一般人に集中砲火されるなど、予想できただろうか。
 思わず天を仰ぎ、額に手を当てた。
 懸命に避けようとくるくる回るリヴィエラは、どんどん青に染まっていく。
 回れば回るほど当たってることに気付いてほしい。
「まったく……、――!?」
 やれやれと溜息を吐こうとした時、気配を感じた。
 ロジェは咄嗟に身をかわす。
 今度の標的は、ロジェだ。
「このっ……」
 水鉄砲を一般人へと向けて放つ。
「プレストガンナーを舐めるなよ!」
 玩具の、まして水鉄砲であっても、そう易々と外したりはしない。
 完璧なまでに的中させると、ふぅっと息を吐いた。
 白いワイシャツは、未だ清潔そうだ。
「まったく、一般人も容赦ないな」
「ロジェも容赦なかったですよ」
「そうか……、っておいリヴィー!」
「えっ……?」
 リヴィエラを見て、ぎょっとした。
 色水のせいで、服が透けてしまっている。
「この、バカ! なんでそんな透けやすい格好で……!」
「きゃ、きゃああっ!」
 リヴィエラの悲鳴に、面白がるように一般人が二人を狙って色水を放ってくる。
「ああ、もう、くそっ!」
「そ、その……お見苦しいところを申し訳……きゃっ!?」
 掻き抱く様にリヴィエラを腕に納める。
 ――お見苦しい、だと?
 これのどこをどう見れば見苦しいのか、まずは問い詰めるところから始めるべきか。
 それともこの警戒心のなさを叱るべきか。
 ああ、それよりも……!
 一般人がリヴィエラの服が透けて、面白がって狙っていることの方が問題だ。
 リヴィエラを庇いながら、一般人相手に本気の応戦をする。
 暫く打ち合ったところで水が尽きたのか、色水が止んだ。
 さすがに数に負けて全てを回避することはできなかったが、リヴィエラがこれ以上濡れなくて済んだのは幸いだ。
「まったく、そんな透けた服で……」
「申し訳ありません」
「帰ったら説教だからな」
「えっ!?」
「当たり前だろ」
 潮らしく俯くリヴィエラの顔に手を伸ばす。
 大切な、大切なリヴィエラ。
 ずっと子供だと思っていた彼女が、やはり女なのだと気づいて焦った、なんて、とても言えない。
 君はもう、子供じゃない。だから――。
 そっと額を、リヴィエラの額に付ける。
「ロジェ……」
「まったく」
 ――そんなところすらも愛しいんだ。
 縮こまるリヴィエラに、ふっと笑いかけると、リヴィエラの表情もぱっと明るくなる。
「ふふ、楽しかったですね」
 言いながら、リヴィエラが手元に残った色水をロジェに掛ける。
「このっ……やったな?」
「ほら、ロジェの服は桜色になっていますよ。まるでロジェのところに真っ先に、春の季節がやってきたみたいです」
 リヴィエラの言葉に、頬が緩む。
「ふふ、でもそうだな……俺が桜で、君が澄み渡る青空で……まるで本当に春がやってきたみたいだな」
 身体を離し、青空を仰ぐ。
 ふと視線を感じ、リヴィエラを見遣ると、少し顔を赤くしている。
(はわわわ、ロジェの服が透けて体のラインが……な、なんだかやっぱり年上の男の人と言う感じです……)
 リヴィエラを覗き込む。
「どうかしたか?」
「えっ!?」
「顔が赤い……?」
「い、いえ、はい、え!?」
 動揺しているリヴィエラへの言及は、とりあえずやめておくことにする。


「色水を掛け合うのか」
「なんだか、自分の服が色水のキャンバスになるのかと思うと、楽しそうで……」
 翡翠・フェイツィを誘った七草・シエテ・イルゴは、白い長袖のカットソーに、スキニーパンツを併せて、極彩色の祭りに積極的だった。
 が、ふと不安になったのだ。いい大人が、はしゃいでいいものかと。
 だが、この場所には、シエテ達よりもずっと大人がいる。そんな様子を翡翠は見遣り、
「大人も楽しんでるくらいだ。俺たちもできるよ」
 シエテの不安を取り払うように声をかける。
「童心に帰れそうだし」
 周囲を見ていると、そんな気がする。
 翡翠が色水の入れられた道具を眺める。
 これが、掛け合うための、いわば武器だ。参加しているすべての人々が、色水を掛けてくる。
 願いを込めて。
 祈りを込めて。
 なにより、お互いに掛け合う為に、必要なものだ。
「どれを使う?」
 翡翠が道具を一通り手に取りながらシエテに尋ねる。
「うーん」
 シエテは悩んだ末に、目についた水鉄砲を手にする。
 翡翠はボールを選んだ。
「せっかくだからね。一球入魂するつもりでぶつけるよ」
 手加減はしないよ、と翡翠がボールを手の中で弄ぶ。
「シエ、先に撃っていいよ」
「いいんですか?」
「どこへでもどうぞ」
 先に攻撃を仕掛けるのを躊躇い、翡翠は両手足を広げてシエテを促す。
 白いタンクトップと、ハギーパンツ。綺麗なキャンバスをめがけて、シエテは水鉄砲を構える。
「参ります!」
 周囲を気にしながら、少し離れて翡翠の服をめがけて色水を放つ。
 ひとつ。
 色が広がると、シエテにぱっと笑顔が灯る。
「いいね、これ」
 翡翠も満足そうだ。
 服を、しかも白い服を敢えて染めることなど、あまりない。だからか、新鮮な気持ちと、子供のころに感じていたわくわくした気持ちが芽生える。
 大人たちでさえ、夢中で色を掛けあうのも、道理だ。
「シエ、回ってみて」
「こうですか?」
 言われるままシエテはくるりと回ると、翡翠ボールを放り投げる。シャボン玉のように弾けて、シエテの服に色の花を咲かせる。
「わっ……、ふふ、綺麗……!」
 シエテと翡翠が色水を掛けあう。
 側にいた一般人も、二人に色水を掛けて染める。
 時には思いきり真正面から浴びせられ、シエテは翡翠を見上げ、笑い合った。
「仕上げようよ」
 残りが1回分になったところで、シエテと翡翠は道具を交換して掛け合う。
 少しずつ色を吸い、重さも増していく頃、二人で少し離れた場所へと移動した。
「随分濡れたけど、大丈夫?」
 シエテを覗き込むと、彼女は服を見せるように回る。
「大丈夫ですよ。ほら、服も華やかになりましたから」
 白いカットソーは綺麗な色で模様を描いたように染まっている。
「翡翠さん。お体、冷えていませんか?」
 シエテが翡翠の身体をタオルで拭く。
 春めいてきたとはいえ、まだ濡れれば芯まで冷える。
 翡翠が風邪をひいたりしないか。
 そんなシエテの心配をよそに、翡翠がくす、と笑う。
「翡翠さん?」
「俺は大丈夫だよ」
「そうですか……?」
 そう言われても、やはり心配だ。
 翡翠の身体を丁寧に拭いていると、肩を抱き寄せられる。
「っ……翡翠さん!?」
「俺には、シエっていう温もりがあるからね」
 耳元に落とされる声に、内側から熱くなる。
「……んもう、恥ずかしいです」
 恥ずかしい、けれど。
 抱き寄せる腕にそっと触れ、翡翠の体温を感じる。
 幸せを感じる瞬間だ。


 呆然と、辺りを飛び交う色を眺める秋野 空に、ジュニール カステルブランチは笑みを零した。
「ソラ」
 ボールを空に手渡す。その驚いたような表情に、感情をゆっくりと押し留める。
 この世界に、空は戸惑っている。
 どうしてか、ジュニールにはそう思えた。
 サンドレスに、カーディガン。空は今、喩えるなら真新しいキャンバスだ。
 飛び交う黄色い色水が、空の太もものあたりを掠めて、染めた。
「まるで花の様できれい……ですね」
 見惚れるように、花を咲かせた服を見つめて空が呟く。
「黄色いガーベラのようですね」
 空には、無限の色彩が似合う。
「もっとカラフルなドレスにしましょう」
 手を差し出したジュニールの肩に側から飛んできた色水が当たり、白いTシャツを染める。
 肩を見遣り、嬉しさが加速する。
 空が手を伸ばし、ジュニールの頬に飛んだ色水を袖で拭う。肩を染めたのは、愛しい色。
「紫も似合いますね」
「ソラの瞳の色……ですからね。似合うと思いますよ?」
 くすりと悪戯っぽく笑って見せる。
 空が、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「さあ、ソラ。俺と勝負です」
 たくさんの色を咲かせよう。
 ボールを投げ合い、一つ、一つと色の花が散っては咲いていく。
 周囲の大人や子供からも投げられて、混じり合う色は、まさに極彩色。
 ジュニールが、ふっと双眸を眇める。
 眩しい光に、目が眩む。
 知らなかった。
 空が、そんな風に笑うなんて。
 どんな色よりも美しい笑顔を咲かせる空の姿に、胸が締め付けられるような幸福感を覚える。
「最後のボールです、ジューン」
「えっ?」
 空が最後の一つをジュニールに投げると、服に色が散った
「ふふっ、降参です。俺はボールをもう持ってませんからね」
 両手を広げて見せると、空は今日一番の晴れやかな笑顔を見せた。
 今の空の笑顔は間違いなくジュニールが与え、ジュニールに向けられたものだ。
 切なく募る幸せが溢れてしまわないように、笑顔を作る。
 ひとしきり笑った後、飛び交う色を見つめて空が口を開いた。
「兄様が姿を消してから、私の日常は灰色とノイズばかりで……辛くて、苦しくて……」
 睫毛を震わせる彼女の手を、優しく取る。
「世界が、こんな風に色で溢れていると……ジューンに出会うまで、ずっと忘れていたんです」
 色のない世界。
 無感情な景色。
 憶えのある、モノクローム。
「これからもあなたの隣で、色付く世界を見ていたい、です」
 色付く世界をくれたのは、他でもない空なのに。
 どれほど救われたことだろう。
 空が与えてくれる幸せに、温かさに、すべての色彩に、どれだけ救われているかなんて……――。
 きっと、彼女は気付いていない。
「俺にも、色はなかったんです」
 空の手をゆっくりと引き寄せ、その指先にキスをする。
「……俺に色を与えてくれたのは、ソラですよ」
 鮮やかな色に囲まれている事に気付いたのは、いつだっただろう。
「……ジューンも、色を?」
 不思議そうに揺れる瞳を覗き込んで、頷く。
「ソラが隣にいてくれるから、世界に色が溢れているんです。光があって初めて、色が見えるんですから」
 この光を知ったとき、だ。
 厳しい冬を超えた植物が花を開く様に、世界に色が灯っていくのを感じた。
 ジュニールの言葉に目を伏せ、空は照れたように懸命に言葉を紡ぐ。
「ありがとうございます。……私も、同じ気持ちですけれど……」
 消え入りそうな声に、ジュニールは笑顔で応えた。
 同じ気持ちでいてくれることは、至福の喜びだ。
 ――でもね、ソラ。ソラは俺にとって……
 世界そのものだ――とは未だ、言えず。
 込み上げる愛しさの切片を、飲み込む。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: シラユキ  )


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月14日
出発日 03月21日 00:00
予定納品日 03月31日

参加者

会議室

  • [8]秋野 空

    2016/03/20-20:45 

  • [7]秋野 空

    2016/03/20-20:45 

    秋野空とジュニール・カステルブランチです
    少し早いですが、プランの提出が済みました
    同じく個別で参加するつもりです

    カラフルなお祭りって、初めてで楽しみです
    よろしくお願いいたします

  • [6]風架

    2016/03/18-08:47 

    よろしくね
    あたしたちはプラン関係で、同じく別々での予定
    色水、キレイだよねちょっとわくわく

  • [5]藍玉

    2016/03/18-02:05 

    こんにちは、藍玉といいます。
    精霊はディアボロのセリングさんです。

    私のところは神人VS精霊で行く予定です。
    色まみれにしてやりますよ……!

    よろしくお願い致します。

  • [3]リヴィエラ

    2016/03/17-20:39 

  • [2]風架

    2016/03/17-10:04 

  • [1]秋野 空

    2016/03/17-00:25 


PAGE TOP