プロローグ
「見てってください……どうぞ見て行って……」
フラーム神殿の前の大通りでは、お祭りを祝って様々な屋台が出ています。
あなたは神殿に参拝するついでに、屋台の一つ一つをのぞいているところです。おいしそうな綿飴ややきそばなどもありますが、女神ジェンマ様の木彫りや印章を用いた小物など、様々な雑貨もあるので見ていて飽きません。
あなたはそのうち、一人のおばあさんが出している屋台の前で立ち止まりました。
おばあさんは長い帽子をかぶり、黒いローブを着込んで、いかにも「魔女」という雰囲気です。
おばあさんが販売しているのはガラスの小瓶に詰められた様々な色合いの金平糖ですが、何だかとてもいい匂いがしてくるのです。何の匂いとはすぐには言えないのですけれど。
「いらっしゃい、見ていきな。おや? あんたはウィンクルムだね。それなら、この祝福の金平糖を買っていくといいよ。愛が高まるんだからね」
魔女のおばあさんは、小瓶を一つ取り上げてそう言いました。
「ただの祝福の金平糖ではありませんよね」
あなたが聞くと、おばあさんはにやりと笑いました。
「当然だろう。ジェンマ様がそこらに降らせてくれた金平糖は、ただで拾えるんだから、売り物にはならないからね」
「どんな金平糖なんですか」
「この金平糖は、私の魔法で様々な香りに変化するんだよ。どんな香りにだって注文通りに変えてあげるよ。香りは一年ぐらいは持つからね。アロマストーンのかわりに飾っておいたっていいさ。勿論、食べてもおいしいよ」
「へえ……!」
見た目も可愛らしい金平糖のガラスの小瓶。確かにそれなら、部屋に飾って置いてもいいかもしれません。
それに、食べても甘い香りのする金平糖です。
「おまけにウィンクルムの愛も高まる。どうだね、一つ、買っていかないか」
「どうしようかなあ」
「はっきりしないねえ。それなら、一つサービスしてやろう」
魔女のおばあさんはなにやら屋台の中でごそごそしています。
すぐに、見慣れない薄紫色の不思議な模様の紙を持って来ました。
「これは愛の願いを叶える紙だよ。ここに一言、愛する人への願いを書いて金平糖を一粒くるんでおくんだ。身につけておくと何よりの愛の御守りになるからね」
「えっ本当!?」
「その御守りを、相方に渡すと愛の願いは叶うよ」
「本当ですか?」
「さあ、そういう言い伝えを私の母から聞いただけで、本当かどうかはあんたがが確かめることさ」
「そ、そうですか……」
解説
【解説】
好きな香りのする金平糖です。
プランの方には「どんな香りがよいか」注文を書いてください。
花の香り、フルーツの香り、あるいはお菓子の香り……何でもOKです。
そしてそのフレーバー金平糖を一粒、おばあさんの渡してくれた紙にくるんでください。紙には相方へのお願い事を一つ。
それを神人から精霊へ、もしくは精霊から神人へ渡してください。
相方へはあなた好みのするあなたの願いが書かれたカードが届く事になります。それを見た相方の反応もざっくり書いてください。
残りの金平糖は食べても雑貨として飾ってもOKです。
金平糖購入代金として300Jrいただきます。
ゲームマスターより
みなさんの告白や想いに限らず、「お願い事」を読んでみたいです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
甘いものが苦手な彼だけど御守りなら… スミレの花の香りをお願い 作ってもらえば嬉しそうに笑顔 ありがとうございます! ぺこりとおじぎ ごめんね 遅くなっちゃった? 自分を見る柔らかな双眸に頬を染め はにかんだように笑って 魔女のおばあさんが 金平糖に魔法をかけてくれたのよ そっと彼の手に御守りを置く 御守りごと彼の手をぎゅっとにぎり目を閉じる 願い事をもう一度 心の中で唱えて 少しきょとんとした彼の顔が いつもより子どもっぽく見えて笑う スミレの花の香りにしてもらったの 花言葉は「小さな幸せ」というのよ 小さくてもいい たくさんの幸せがあなたに降り注ぎますように ーうん あなたが疲れた時に安らげる灯になれたら嬉しい そっと目を閉じる |
菫 離々(蓮)
おかえりなさい、ハチさん。 朝の身支度を終えた頃合いに帰宅した彼を出迎えて。 今日はいつもと様子が違いますね 気づかぬ振りで見ていると ポケットから取り出されたのは瓶入り金平糖。 ふわりと香るそれに良い匂いですね、と返そうとしたら 紙包みも渡されて……逃げられました? 包みを開けば殊更香る果実の甘さ。 そうして紙に書かれた一行に思わず笑みが。 ハチさん、まだ起きてらっしゃいます? 部屋の扉をノックして室内へ。ベッド脇に腰掛け。 あれは私へのお願いごとですね? 一言の挨拶でいいんですか もっと我儘言ってください 頭?――ああ、こういうことですね ハチさんの額にそっと口付けを。 今日もお疲れさまでした。おやすみなさい、ハチさん。 |
クロス(ディオス)
☆貰う側 ☆渡された時 ・自分の部屋に精霊が来る ・金平糖は食べずに置いておく選択 「ディオ? 珍しいな、お前から来るなんて 勿論! 今は用事も無いしな ん? 俺に渡したい物…? これって、金平糖…? わぁ、良い香りだなぁ…! この香り胡蝶蘭…? ふふっ故郷の村にもあって育ててたからな(微笑 ? 盗人萩? 何で刺激が…? えっディオ…? 行っちまった… そういや手紙も入ってるって言ってたし読んでみるか… それと調べてみるか」 ☆手紙 ・ストレートな手紙に動揺 「ディオ…俺には、オルクが…っ 胡蝶蘭は『あなたを愛している』、盗人萩は『奪略愛』か… ははっ、こりゃ刺激が強いね… ディオの事は好きだ でもどっちの感情で好きなのか、分からないんだ…っ!」 |
八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
そーちゃん、やってみるの? どんなのにするか教えてくれなかったから できるまで少し離れて待ってる 受け取ってそっと開いてみる 私はシトラス系のさっぱりした香りが好きだけど この甘い香りも素敵… 紙に書かれた言葉には首を傾げる 耳元で喋られてびくっ お願いって、そんなのでいいの? お月見じゃなくて、直接月に、か… そーちゃんは本当に月が好きなんだなあ 分かった、一緒に行こうね 今度は絶対に忘れないから う、うん…香水つけてみたの、どうかな? 香りが混ざる?(嗅いでみて 自分ではよく分からないけど…なんだかそーちゃんに染められたって感じが… 今日の二人の思い出の香りになるのかなって わ、私何言ってるんだろう(自分で言って照れる |
秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
ショコラオレンジ 過日のデートで寝不足の精霊が転寝 幸せな時間で親近感すら感じた けれど精霊は聊か不本意だったようで頻りに謝罪された 早すぎた到着 偶然見えた件の屋台 まさか自分が彼に対してこんな願いを抱き しかもそれを文字にするとは思いもしなかった けれどこれは今の素直な気持ち だから迷いなくカードに書いた 『これは素直になるお薬です もっと頼って、甘えて、我儘を言ってください 私はあなたの心に触れたいです』 大切にされているのは分かっていますが、時々…あなたの心を遠く感じます もっと私に、本当のあなたを見せてくださいませんか あなたに求められるのは、私の幸せでもあるんですから…悪い理由なんてありませんよ いつもと形勢逆転 |
クロス(ディオス)編
その三月のある日、クロスは自室でぬいぐるみの手入れをしていました。埃を払って毛並みをなでつけて可愛く整えてあげています。
そこにノックがされ、声をかけると精霊のディオスが入って来ました。
「ディオ!? 珍しいなお前が来るなんて!」
「クロ、少し、良いか……?」
ディオはなんだか慎重に窺うような表情です。
「勿論! 今は用事も無いしな」
クロスはぬいぐるみを脇に置いて快活に言いました。
「実は、クロに渡したい物があってな」
ディオスは両手に大切そうにリボンをかけた小瓶と手紙を持ちながら言いました。
「ん? 俺に渡したい物……?」
クロスは不思議そうな顔をします。
「あぁ、これだ」
ディオスは両手に持っていた小瓶と手紙をクロスの方に差し出しました。クロスは小瓶を受け取って中身を確かめました。
「これって、金平糖…? わぁ、良い香りだなぁ…!」
「香りを纏った金平糖だ」
広がる匂いにクロスの顔もぱっと輝きます。
「この香り胡蝶蘭……?」
「良く分かったな」
クロスの鼻の良さにディオスが驚きます。
「ふふっ故郷の村にもあって育ててたからな」
クロスは懐かしげに、楽しそうに微笑みました。その笑顔を見て緊張気味だったディオスの表情も和らぎます。
「本当なら盗人萩にしようかと思ったが、刺激が強いと思ってな」
「? 盗人萩? 何で刺激が……?」
咄嗟に意味が分からず、クロスはディオスに問いかけました。
「あぁ花言葉が、な……」
ディオスは食えない不敵な笑みを見せました。クロスはきょとんとしてしまいます。
「知りたいなら調べてみろ、胡蝶蘭と一緒に……。それと手紙を読んでくれ」
そう言い残して、ディオスはついとクロスに背中を向けて、足早に彼女の部屋を立ち去って行きました。
「えっディオ……? 行っちまった……」
突然やってきて、金平糖を渡して、訳の分からない事を言って消えた幼なじみに、クロスは戸惑いを隠せません。追いかけようかとも思いましたが、それよりもまず彼に言われた事をやってみようと思いました。
「そういや手紙も入ってるって言ってたし読んでみるか……それと調べてみるか」
そういう訳で、クロスはディオスの手紙を開封し、それから花言葉の意味を調べてみることにしました。
ディオスからの手紙はこうでした。
『クロへ
俺の想いは幼き頃から変わらない……
例え奴―大尉殿-の事が好きだとしても、構わない
だから、想わせてくれ……
そして、いつかこの想いが叶うなら……
愛していると伝えたい……』
赤裸々な想いを告げられてびっくりしてしまうクロス。それからネットで花言葉の意味を検索してみます。すると分かった事は、胡蝶蘭の花言葉は「あなたを愛している」、盗人萩の花言葉は「略奪愛」でした。
「ディオ…俺には、オルクが…っ」
思わず声を詰まらせてしまうクロス。
「花言葉の意味も……! ははっ、こりゃ刺激が強いね……ディオの事は好きだ。でもどっちの感情で好きなのか、分からないんだ……っ!」
クロスは自分でも自分の感情の意味が分からないのです。だから辛いのか嬉しいのか分からなくて迷います。
一方、クロスの部屋を去ったディオスは、迷いのない表情で一言呟きました。
「クロ……俺はアンタだけを……愛してる……」
彼の愛が迷いのないひたむきなものであればあるほど、クロスは迷い惑います。愛とは時に残酷なものなのかもしれません。
ですがその一方、胡蝶蘭の花言葉はまだあります。「変わらぬ愛」「永遠の幸せ」「純愛」。また、「美」「優雅」「上品」、などなど……。
ディオスの変わらない純愛の果てには永遠の幸せが待っているのかもしれません。その幸せの形がどんなものかは、神様しか分からないのだけれど……。
八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)編
三月のある日、八神伊万里は精霊の蒼龍・シンフェーアとフラーム神殿の祝祭に来ていました。
「へえ面白そう。僕ひとつ買っちゃおうっと」
屋台の前で足を止めて香り付き金平糖を買う事にした蒼龍。
「そーちゃん、やってみるの?」
伊万里が隣からのぞき込んでいます。
「イマちゃんは少し離れて待っててね」
そう言われて、伊万里は素直に離れました。どんなものにするのか教えてくれなかったので、出来るまで離れて待っている事にします。
「おばあさん、『トゥ・ザ・ムーン』っていう香水の香りにできる? 金木犀に似た甘い香りだよ。紙には『Fly me to the moon』って書くんだ。これで金平糖を包んでイマちゃんに渡すよ」
「はいはい……」
屋台のおばあさんは快く引き受けて、蒼龍の注文通りの金平糖とカードを作り上げました。
蒼龍は機嫌よくそれを受け取り、伊万里の方へ持って行きます。
伊万里は金平糖の小瓶を受け取ってそっと開けてみました。
「私はシトラス系のさっぱりした香りが好きだけど、この甘い香りも素敵……」
伊万里は嬉しそうに微笑んでいます。ですが、紙に書かれた言葉には首を傾げました。
その伊万里の顔に蒼龍は顔を近づけます。
「イマちゃんはルーメンに行ったことあるんだよね。報告書で読んだよ、羨ましいなあ。ねえ、僕ともう一つ約束しない?」
「え?」
蒼龍はにっこりと笑って、伊万里の耳元に唇を近づけささやきかけました。
「僕を月に連れてって」
伊万里は耳元がくすぐったくてびくっとなります。
それでも、不思議そうに蒼龍を見上げました。
「お願いって、そんなのでいいの? お月見じゃなくて、直接月に、か……。そーちゃんは本当に月が好きなんだなあ。分かった、一緒に行こうね。今度は絶対に忘れないから」
そうして体を近づけた時、蒼龍は何かふわっとした香りに気がつきました。
「あれ? イマちゃん今日香水つけてる? 金平糖の香りと混ざってすごくいい匂いがするよ」
「う、うん……香水つけてみたの、どうかな? 香りが混ざる?」
伊万里は自分の洋服の袖口をかいでみたりします。
「自分ではよく分からないけど……なんだかそーちゃんに染められたって感じが……今日の二人の思い出の香りになるのかなって。わ、私何言ってるんだろう」
伊万里は自分で言っていて照れてしまいました。今日の伊万里はインナーの星空の奇蹟『恋』という着物の上にショコランドのマシュマロトレンチを着ています。頭はホイップヘアピン、足下はスイートホイップステップ。エクシーズクロスリボン、マカロンコインケース、カカオクッキング、インナーのフリルドロワーズまで隙がなくホワイトデーを意識したスタイルです。そんな白くてふわふわと可愛らしい彼女から、ふわっと甘い匂いが香り立ちます。
蒼龍の方も、伊万里とおそろいのマカロンコインケースや、リングミルククラウンなど小物のところどころにホワイトデーの気分を取り入れています。そして和服「ムサシ」と彼女と同じく和風も取り入れて、似通ったファッションから二人の甘い雰囲気が伝わってきます。
(このままぎゅってしたら、帰る時にイマちゃんの香りが移ったりしないかな。そういうのはまだ早いかなあ)
笑いながら蒼龍は危険な事を考えています。しかし隠れSの彼はそんな危ない欲望はすっかり隠して、伊万里と二人で祝祭を楽しむことにしました。伊万里はまだ大人になりかかりの高校生。大学生の蒼龍は一足先に大人になった立場から、彼女の成長を優しく見守る事だって出来るのですから。
リチェルカーレ(シリウス)編
今日、リチェルカーレは、精霊のシリウスとフラーム神殿の祝祭でデートです。
待ち合わせの場所に向かう途中、リチェは魔女のおばあさんが香り付き金平糖を売る屋台に立ち寄りました。
今日のリチェは、ホワイトデーを意識して、インナーに【カットソー】マカロン&アラザン、ボトムスに【スカート】スウィートミルフィーユ、アンダーにフリルドロワーズ、アウターにマシュマロトレンチ、そして足下はスイートホイップステップです。全体的に白と淡いピンクでとても女の子らしい仕上がりになっています。その他にも、アダルティック・チョーカー、エスティアイヤリング、ホワイトディーレット、シャンティグローブ、マカロンコインケースと、小物類でも隙が無くこの恋人達の日を祝っています。
(甘いものが苦手な彼だけど御守りなら……)
そう思ってリチェは金平糖を買いました。
「スミレの花の香りをお願い」
そう頼まれるとおばあさんは快く引き受けて、すぐに注文通りの香りの金平糖を瓶に詰めてくれました。
「ありがとうございます!」
リチェはぺこりとお辞儀をして、小走りにシリウスとの約束の場所に向かいました。
約束の場所ではシリウスが既に来ていて駆け寄ってくるリチェを出迎えました。
シリウスの方はホワイトデーをアウターの連合軍制服「青の旅団」、それに【手袋】スパイシー・スウィート、金時計「グローリア」で意識しています。そして彼は、春見のメガネ、Sエフェメラ・イヤリング、運命の糸、ソックス「クッキーステップ」、さわやかポケTなど小物類で春の季節感を演出していました。
「待った?」
リチェが尋ねるとシリウスは軽く首を振って微笑みます。
「ごめんね遅くなっちゃった?」
自分を見つめる柔らかな双眸にはにかんだように笑うリチェ。彼は恋人を見つめる瞳だけはいつだって甘く優しいのでした。
「何か気になる店でもあったか?」
シリウスが問いかけるとリチェは先程作ってもらった金平糖の小瓶を差し出します。
「魔女のおばあさんが 金平糖に魔法をかけてくれたのよ」
そっと彼の手に御守りを置きます。
シリウスは差し出した手の上に置かれたものを静かに--表情に出ないだけでその実不思議そうに--見つめます。
「……リチェ?」
リチェは御守りごと彼の手をぎゅっとにぎり目を閉じました。
控えめだけれども柔らかく優しい花の香りがします。
書かれていたメッセージは
「あなたの進む道が光に満ちたものになりますように」
リチェは願い事をもう一度、心の中で唱えました。
少しきょとんとした彼の顔が、いつもより子どもっぽく見えて、リチェは微笑みます。彼のそんな表情や感情を知っているのは自分だけだという自信が、リチェにはあります。
「スミレの花の香りにしてもらったの。花言葉は「小さな幸せ」というのよ。小さくてもいい たくさんの幸せがあなたに降り注ぎますように」
シリウスは金平糖に添えられた丸めた紙を開いて、書かれたメッセージに目を見開きます。
「お前がいてくれたら、それでいい。……俺の道を照らす灯りはお前だ」
掠れた声でシリウスは、リチェの耳にそう囁きました。
「--うん。あなたが疲れた時に安らげる灯になれたら嬉しい」
そう告げてリチェはそっと目を閉じます。
返された言葉にシリウスはふっと笑顔を見せて、繋いだ彼女の手を持ちあげて、指先に口づけました。
春の恋人の日。女神の慈愛が金平糖となって降り注ぐ神殿で、彼らは何度目かに互いの心を確かめ合います。それこそが女神の望み、愛の希望。彼らの未来に多くの幸いが降り懸からん事を……!
菫離々(蓮)編
春のある日、菫離々の精霊蓮は、一人でぶらりとフラーム神殿の祝祭に立ち寄りました。そこで、金平糖の小物を買いました。
(お嬢への、お願い。なんて)
最初はそう思ったのですが、後でためらいます。
(そんな大それた事を……!)
自分にはそんなことを出来ないと思うのですが、夜の仕事の間中、ずっと、金平糖の小物とお嬢様の事ばかりを考えていました。
ちなみに、金平糖の香りは甘くて可愛いイチゴです。
朝日が眩しい夜勤明け。
「おかえりなさい、ハチさん」
離々は、朝の身支度を終えた頃合いに帰宅した彼を出迎えました。
離々は春見のメガネにスリジエ・ワルツ、シューズ「マーブルデイズ」、ストッキング「素足でお散歩」と、もうすっかり春らしい装いです。それに手にはお嬢様らしいミニハット「カンカン」。いつみても品良く愛らしい姿です。
お嬢様の声に、蓮はただいま帰りましたと返します。
蓮の方は見かけだけは、ビターゴジャールジャケットにフェイクレザーグローブ、ダブルスネークベルト、銀狼の遠吠え、それに頭にヘッドフォンと、一目見た感じはとても肉食なのでした。中身は違うんですけれど。
「今日はいつもと様子が違いますね」
そこで、
(--ひとつ、思いつきました)
蓮はその場で薄紫の紙に願い事をしたためました。
『おやすみなさい、の挨拶を、ください。』
離々は蓮の不審な行動を気づかぬふりで見ていました。
ポケットから取り出されたのは瓶入り金平糖。
ふわりと香る金平糖に
「良い匂いですね」
そう言葉を返そうとしたら、離々は紙包みも押しつけられてしまいました。
そして素早く立ち去る蓮。
(……逃げられました?)
どうしたのだろう、と包みを開けば殊更香る果実の甘さ。
そうして紙に書かれた一行に思わず離々は笑ってしまいます。
(これ、お嬢に似合うかなって……)
まずは瓶を、それから金平糖一粒包んだ紙を渡したなら、蓮は逃げるように自室へ飛び込みました。そのままベッドダイブです。
そこにノック音が聞こえます。
「ハチさん、まだ起きてらっしゃいます?」
部屋の扉をノックして離々は室内へ入ります。それからベッド脇に腰掛けて。
「あれは私へのお願いごとですね?」
(えっと、些細な日常を噛み締めたいというか……おはようからおやすみまでお嬢とありたいというか)
蓮は布団に突っ伏したまま口の中でもごもご言うので離々には聞き取れません。人を見た目では判断してはいけません。彼にはこれが精一杯なのです。
「一言の挨拶でいいんですか。もっと我儘言ってください」
「また俺を甘やかす……じゃあ、あの、頭、……」
(撫でて貰いたいとかさすがに拙いですかね)
聞き取れるような聞き取れないような声でもごもご言う蓮。
「頭?――ああ、こういうことですね」
平気で離々は蓮の頭を優しくなでつけました。
それから微笑んで、蓮の額にそっとくちづけを落とします。
「今日もお疲れさまでした。おやすみなさい、ハチさん」
「って、え?」
蓮はにわかに何が起こったのか、信じられません。お嬢様が何を考えているのか、分からないのです。
(これ確実に眠れないやつ)
蓮はたちまち目がぎんぎんに冴えてしまいますが、お嬢様の方は何食わぬ顔で部屋の外へ出て行き、朝の支度を始めました。
蓮は全く平穏ではない心境でベッドの上で一人ジタバタしますが、世界は今日も平和です。うららかな春の日射しの中、金平糖が甘く匂い立って、ウィンクルムの愛を高め、世界を本当の幸福へと導いていくのでした。
秋野 空(ジュニール カステルブランチ)編
その三月の日、秋野空は精霊のジュニール・カステルブランチとフラーム神殿の祝祭で待ち合わせの約束をしていました。
空の事を待ちながら、ジュニールは祭の人混みを眺めるともなしに眺め、今までの事を振り返っていました。
(昔……名前を変えて、姿も変えて、旅をしていた時に……俺は空と出会った)
遠い記憶が呼び覚まされています。
(俺達は、互いが恩人。空にとっては俺が、俺にとっては空が--助けてくれた人)
空にとってジュニールは命の恩人。
ジュニールにとっては、空が、心の恩人。
ジュニールは、空がいたからこそ、精霊として生きていく決意が出来たのです。
(胸を張って彼女の隣に立てる男になりたい。空を、彼女を守る存在になりたいと思い続けて今の俺がある)
空とジュニールがウィンクルムとして適合したのは全くの偶然です。ジュニールは空が”彼女”であることに気がつきましたが、空はジュニールの正体にはまだ気がついていません。
今日はジュニールは空との約束で待ち合わせの場所に来ています。過去の事を思い出しながら……。
一方、空は祝祭に早く来すぎてしまったので、ある屋台の前に来ていました。
今日の空は、スウィートファーコートにスイートホイップステップを纏って真っ白なホワイトデースタイルです。その他にもスワンシューペンダント、エスティアイヤリング、キャンディホイップブレス、ホワイトディーレット、カカオクッキング、マカロンコインケースと細かいところまでホワイトデーの小物を身につけて、抜かりがありません。とても女子らしい出で立ちです。
(この間のデートでジューンは寝不足で転た寝してしまっていた。彼と親近感を感じて、とても幸せだった。それなのに、ジューンは私にしきりに謝っていた……)
そのときの幸福感を思いだして空ははにかみます。
(まさか、自分が彼に対してこんな願いを抱くなんて……。そしてそれを文字に書き表すなんて。だけど今は、これが一番素直な気持ち)
空は迷う事無くその気持ちをカードに書き付けました。
それからジュニールとの待ち合わせの場所に急ぎます。
祝祭の人混みから離れた場所で、ジュニールは空から甘いショコラオレンジの香りの金平糖と、カードを渡されました。
ジュニールの方はアダルティック・チョーカーやエクシーズクロスリボンでホワイトデーの気分を出し、春見のメガネ、トリプレット・トリコロール、空とおそろいの運命の糸、さわやかポケTなどで春らしさを演出していました。
カードにはこう書いてありました。
『これは素直になるお薬です
もっと頼って、甘えて、我儘を言ってください
私はあなたの心に触れたいです』
その文章を読み、愕然としてジュニールは空の顔を見つめました。
「ソラ、これは……?」
空は真剣な顔をして言いました。
「大切にされているのは分かっていますが、時々…あなたの心を遠く感じます。もっと私に、本当のあなたを見せてくださいませんか」
ジュニールは、傍に居られることが幸せで、見返りなど考えたこともなく、ただ献身的に愛を注ぐことだけを思っていました。
しかしそれは、あまりにも独り善がりだったかもしれません。
「……俺の方からあなたを……求めても、いいのでしょうか?」
「あなたに求められるのは、私の幸せでもあるんですから……悪い理由なんてありませんよ」
そこで、形勢が逆転してしまいました。いつもと反対になってしまいます。
ジュニールの頬を涙がこぼれ落ちていきました。
空はこんなにも、彼の事を思ってくれていた……。
空は素直になれる薬、ショコラオレンジの金平糖を一粒つまんで彼の口に持っていきます。ジュニールに食べさせてから、自分も金平糖を口に運びます。
ショコラオレンジの匂いに包まれながら、彼らは素直な気持ちをかわしあうのでしょう。
愛を高める女神の金平糖を口にして、ジュニールと空は接吻よりも甘い気持ちで互いの瞳を見つめていました。甘く尊いホワイトデーです……。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 森静流 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月02日 |
出発日 | 03月11日 00:00 |
予定納品日 | 03月21日 |
参加者
会議室
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2016/03/10-23:07
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2016/03/10-22:49
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2016/03/10-21:57
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2016/03/10-20:57
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2016/03/10-20:56
蓮:
挨拶しそびれるところでした。
スミレ・リリ嬢と、ハチスです。よろしくお願いします。
お嬢へお願いを! と、はりきって買ったまではいいのですが、
よく考えずとも大それた願い事なんて俺には書けませんでした、という。
あ、香りは熟れたイチゴにして貰いました。食いたくなりますね。
皆さんの願い事も、叶えられますように。 -
2016/03/06-07:26
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2016/03/06-00:08
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2016/03/05-19:21
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2016/03/05-15:52