プロローグ
「山鳥の串焼き一丁あがり! 煮込みシチューね、はいよ! 兄さん方、ビールやワインのおかわりは?」
店の親父のドラ声が響く。
大勢の宿泊客で賑わう『金のリンゴ亭』は、南の砂漠より首都タブロスへ向かう街道筋にある旅籠の一つだ。
料理上手な店主の経営が評判を呼び、タブロスに用事はなくとも店にはあると、わざわざ此処にだけ訪れるファンもいる。
森が近い『金のリンゴ亭』は大組みの丸太作りで、中央には大きな鋳物のストーブが、常時赤々と燃えていた。
一階が酒場兼食堂、二階と宿周辺に建てられた小屋が客室になっており、満員の時は店の敷地に天幕を張る場合もある。
二階の大部屋で旅の話や世間の噂を語り合うも良し。
少しばかり金額を上乗せすれば、プライバシーの守れる個室も選べる。
商人、傭兵、若い者同士や家族連れなど客層も様々。
今夜も『金のリンゴ亭』は大入り満員だ。
「大変だァーッ!」
バタバタと騒がしい足音に、皆が一斉に入り口を向く。
転がるように駆け込んできたのは、袖無しの長衣を着た商人風の男。
取り乱した様子で店の中を見回し、ゼイゼイと荒い息を飲んで、カウンター内でぽかんとしている店主に縋る。
「あああ、あんた、親父さん、助けてくれ!」
「どうしたこんな夜更けに」
明かりに照らされた男の顔は真っ青だった。
「今其処で荷車をひっくり返されて、商売用の荷を奪われた! かみさんや子供達も一緒だが、私一人ではとても敵わなくて……!」
「なにィ!?」
店の親父は壁にかけてある猟銃を取り、憤然とカウンターを飛び越えた。
熊のような巨漢にもかかわらず、実に素早い動きであった。
腕に覚えのある客達も、各々得物を手に立ち上がる。
「強盗か? 盗賊団か? 俺の店の側で汚ぇ真似しやがって、ぶっ倒してやる!」
「気をつけてくれ、敵は人間じゃない。何かこう、もっと邪悪で汚らしい生き物だった!」
「なんだそれは」
「わからない。咄嗟のことで、私もはっきりとは見ていないんだ」
「むむ……こうしていても仕方がない。取り敢えず、現場へ行くぞ!」
彼らはたいまつを掲げ、勇ましく出発した。
いざ現場に着いてみると、敵は既に去った後だった。
街道の脇に座り込み、途方に暮れている商人の妻と、顔に泥をつけてわんわん泣く子供が三人。
いずれも怪我はなかったが、荷物は粗方盗まれてしまっていた。
「今日はもう遅い。暗くて周囲も良く見えない。宿へ戻ろう……」
商人の家族と合流した一行は、『金のリンゴ亭』に戻ってきた。
家族の無事を喜びつつも、荷を奪われた商人は浮かぬ顔であり、店主も渋い顔を崩さない。
それから『金のリンゴ亭』周辺の街道で、頻繁に強盗騒ぎが起きるようになった。
襲われるのは必ず夜。
狙われる荷は様々で、特に価値が高いものでもなく、手当たり次第。
木材や油といった、傍目にも分かる大荷物は手を着けられていない。
襲われた者はいずれも軽傷で、命を奪われるような大怪我に至った者はないが、被害額は相当なものである。
強盗にあった者達はは荷を回収するまで『金のリンゴ亭』より先に進む事が出来ず、非常に難儀していた。
暗い顔の客ばかりで、商売が滞ると店主も困っていた。
「これじゃ商売どころじゃない」
「みんな相当参ってるねえ」
カウンターに腰掛け店主と話しているのは、近くの森を狩り場にする猟師。
仕留めた獲物を売りに訪れたのだが、普段と違う店の様子に少々落ち着かない様子だ。
「しかし妙だな。盗賊なんてここしばらく見てないぞ。街道沿いで仕事する奴らは大抵あの森に根城を構えるから、すぐ目に付くんだが」
過去何度か似たような事件はあったものの、いずれもこの猟師が不届き者の本拠地をタブロスの警察に通報し、大きな事件にはならずに済んでいた。
「山側の洞窟はどうだ?」
「穴が小さすぎるよ。子供の頃はよくあの辺で遊んだものだがね」
猟師は昔を懐かしむように目を細める。
「親父に大目玉をくらったさ。あの穴はかなり深いところまで、森のあちこちに続いているらしいからな。今は子供が入って遊んだりしないよう封鎖してある」
「ただの盗賊なら事は簡単なのに」
商人が金は払う、と言っても奴らの手は止まらない。
片っ端から荷を盗んで、車をひっくり返し、通りかかる旅人を威嚇する。
人の言葉が通じない。
そもそも人ではないらしい。
数は五~六体、多くて十体程だが、暗闇に紛れ、素早い動きで用心棒達を攪乱し、毎回見事逃げおおせてしまうのである。
「やはりタブロスの警察に知らせるしかないか……」
それからしばらくして、不届きな強盗を捕らえるべく、タブロスより討伐隊が派遣されてきた。
周辺の森や、賊が潜んでいそうな場所の捜索は空振りに終わってしまい、小屋一つ見つけることが出来なかった。
なので武装した兵が夜の街道沿いをパトロールし、荷を運ぶ者が居れば護衛を務めようという向きになった。
街路にずらりとたいまつを並べ、万全の体勢で不届きな賊共を討とうとした彼らはしかし、ものの見事に返り討ちにあい、戻ってくる羽目になる。
『金のリンゴ亭』では大勢の兵士が頭に傷をこさえ、不意の襲撃と姿を消す盗賊の不可思議さに首を捻っていた。
「襲われたという場所に明かりを立て、交代で見張りについた。そのうち何処からかパタパタと足音が聞こえてきて、気がついたら目の前にあいつらが居たんだ!」
「ひとまわり図体のでかい奴がいて、ごちゃごちゃと訳の分からん言葉で怒鳴っていた。すると周囲のちっこいのが、荷車をひっくり返して物を次々奪っていく。捕まえようにも奴らすばしっこくて……! どうも未だに信じられんのだが、森に入った途端いきなり消えるとしか言いようがない」
「ボロを着た汚らしい小男だった。一瞬だけ、月明かりで見えたんだ。そいつが杖を振り回したかと思うと、何にもない空からたくさんの小石が降ってきた! 俺の頭は見ての通りたんこぶだらけさ。あれは魔法じゃないのかね?」
中でも一番怖ろしかったのは、討伐隊を束ねる隊長の言葉である。
「体の大きな一体と剣を交えたのだが……そうだ、奴め剣を持っていた! 受けた時、かなりの手応えがあった。額に一本角がある……あれはデミ・オーガだろう」
事件はすぐにA.R.O.A.本部へ伝わった。
首都に近い街道で頻発している強盗事件。
それにデミ・オーガが係わっているという情報が含まれていたからである。
数日後、正式に『金のリンゴ亭』の主人から依頼が届き、受理された。
内容は次のようなものである。
街道沿いに出現する正体不明の強盗を退治し、旅の安全を取り戻して欲しい。
盗まれた荷の行き先を確かめ、可能ならば回収を。
この犯人は貴重品に限らず実に様々な物を盗み、荒らしていく奇妙なところがある。
現場では人語ではない何かを喋る、小柄で怪しい影の目撃情報あり。
指示する者が居るなど奴らは明らかに組織だっており、中には魔法を使う者、更にデミ・オーガと思われる個体も含まれる。
犯人の逃げ足は速く、森の中へと追いかけると、その姿はまるで霞のように消えてしまう。
A.R.O.A.から依頼を受け取った貴方は、急ぎ旅支度を調えた。
街道に潜む怪しい影の正体を暴き、退治して、奪われた荷を取り戻すために。
目指すは『金のリンゴ亭』、旅人が集う憩いの宿場へ――。
解説
『金のリンゴ亭』をホームに、街道沿いに出る盗賊(ゴブリン)を発見、退治するクエストです。
酒場には被害者が大勢いて、情報を得る事ができます。
ゴブリン達はいずれも森の中に入り、姿を消します。
その消えた現場を丹念に調べると、怪しい穴が見つかります。
また森を狩り場にしている猟師に話を聞けば、山の洞窟の話をしてくれ、現場へ赴くと封鎖されている筈の入り口が壊されているのが発見できます。
山の洞窟はよく茂った草むらや倒れた巨木の中など森のあちこちに通じています。
ゴブリン達(デミ・ゴブリン含むゴブリン、ゴブリン魔法使い、ゴブリン王)は狭い洞窟を拡張し、その奥を本拠地にしています。
盗んだ後森の中へ逃げ、すぐに穴に入ってしまうので、追っている人間には姿が消えたように見えています。
洞窟を発見し、奥へ進むとゴブリン王と戦闘になります。
勝利すればゴブリン達は逃げ出し、プレイヤーは宝物庫の中を検めて奪われた荷を発見できます。
敗北すれば盗賊の正体と、本拠地の情報を持って帰還、後に討伐隊がゴブリンを退治します。
額の違いはありますが、いずれも報酬を得られます。
他に面白いプランやプレイヤー側の希望があれば、バランスを見つつ随時エピソードを足していく予定です。
ゲームマスターより
はじめまして、榎くむと申します。
ファンタジー大好き、RPG大好き、王道どんと来いの妄想GMです。
皆様と一緒にらぶてぃめっと世界を旅し、冒険できる事を楽しみにしております!
どうぞよろしくお願いします。
このシナリオは酒場の親父さんと、被害に遭った商人達からの依頼です。
皆さん思うように商売ができず、大変困っているようです。
姿の消える盗賊の正体を暴き、奪われた荷を取り戻してあげてください。
盗賊達は小柄ですばしっこく、人語ではないものを話すという噂。
また彼らが消えるのは、いずれも旅人を襲い、荷を奪って森に逃げ込んだ後のようです。
成功のあかつきには報酬の他、金のリンゴ亭名物『親父の手料理』が存分にふるまわれる筈です!
勇敢な食いしん坊さん、お待ちしております。
エピソード情報 |
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マスター | 榎くむ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 02月16日 |
出発日 | 02月24日 00:00 |
予定納品日 | 03月06日 |
参加者
会議室
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2014/02/23-22:56
もう出発目前だけど、よろしくな。
よくよく確認してみると、シンクロサモナーは防御力と素早さが最低値に
近い感じだったので、パートナーには中衛位置から、首領相手に攻撃力の高さを活かして
貰う感じで書いてみた。初めての実戦だから上手くいくかどうか分かんないけどさ。
オレの方は前衛で雑魚を相手にさせて貰うんで、強そうな奴やとどめは任せた!
あと、奪われた品がどこにあるか分からないから、少し触れておいた。
それにしても、どうなるかドキドキするなー。 -
2014/02/23-22:00
これで定員か。
こちらこそ、よろしくお願いします。
前衛が増えるのは頼もしいな。首領戦闘のサポート、よろしく頼む。>シルヴァ君
さて、いよいよ明日が出発か。
オヤジの手料理食べられるように、みんなで頑張ろうな。
・・・・間違っても、田中さんが撃たれたり、殴られたりしませんように。
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2014/02/23-17:11
最後になったが、シルヴァだ。よろしくな。
昼は情報収集、夜に作戦決行。
スターリングさんが囮役で神居さんが狭い所での行動と
パブリカさんの纏めで、ゴブリンは殺さないと……(メモ)
うちの相棒はシンクロサモナーでおそらく前衛だし
首領戦闘のサポートさせて貰うつもりだが、良いか?
田中さんを、オーガと間違って殴らないように注意はしとく! -
2014/02/23-16:03
おとり作戦! あったまいー!(目をキラキラさせながら)
よーし!ぼくも頑張るぞー! 夢霧にも伝えておくね! -
2014/02/23-10:58
居場所探しは任せたぞい!
私はただ。仲間の情報等、ゴブリンの居場所と話を聞けば。とりあえずそこに行く!
ですました! ガッハッハッハ! 不殺やよしとした! -
2014/02/22-18:40
おっと、文字数が足りなかった。長くなりすぎたな。
ゴブリンを殺さない、ですか……。
そうですね。これ以上強盗しないようにすればいいわけですから、
一網打尽は撤回して、首領を狙うようにします。
まぁ、懲りなかったら、次はどうなっても知らないってことで。 -
2014/02/22-18:39
お、メンバーが増えた!
こちらこそよろしくお願いします>スターリングさん
じゃあ、昼間のうちにある程度情報収集して、夜にスターリングさんのプランを実行する感じかな。
そうなると、ランタン持って行かないとだな。
後衛はプレスガンナーのベルトーネに、責任もってやらせるんで、
スターリングさんペアに前衛してもらっていいですか?
狭い場所は神居くんペアにお任せしようかな。
田中さんペアは……できれば敵をかく乱してもらえれば……。
-
2014/02/22-17:43
スターリングだ。
相棒のアキラ共々よろしく頼むぞ。
私は商人にでも化けて囮をやってみるつもりだ。
盗賊ゴブリン達が出てきたら適当なところでわざと荷物を盗ませよう。
荷には発光材を塗布しておいて目印にし追跡してみたい。
上手く行くかは分からないが、その場で捕らえるよりも彼らの巣穴を発見、本拠地ごと叩くのが良いと考えている。
戦闘に勝ったらゴブリンを痛め付けはするが殺すのは考え物。
出来るならあまり殺生はしたくないな。
懲りてくれれば良いのだが。 -
2014/02/22-16:34
フハハハハ!!!
触ってもいいのだぞ! むしろ私と一緒に筋肉しないか?
>>神居 -
2014/02/22-10:08
ふわぁ、すっげぇ……。(太郎の筋肉を眺めつつ)
ハッ……!(我に返る)
やっほー! 神居<カムイ>だよ、二人ともよろしくね!
人の物をとるなんて悪い奴ら、懲らしめてやる!
洞窟? 狭いところならぼくにまかせてよ! -
2014/02/22-02:08
うぬ。細かい事は任せた!
ならばワシは聞き出した場所に向かうのみじゃ!
フン! フン! フン! (筋肉ピクピク) -
2014/02/21-17:26
田中さん、キレてる!(ボディビル的な意味で)
詳しい場所と敵の数を割り出さないとですかね。俺たちで猟師たちに聞き込みしてみますね。
洞窟内は、暴れられるくらいの広さがあればいいですけど……その辺も聞き込みかな。
退治は夜にしましょうか?それとも活動のない昼間にします?
個人的には一網打尽にしたいですけど、無理そうな数なら、首領を狙い撃ちしようかと思ってます。 -
2014/02/20-14:04
フン! ウン! ヌゥゥゥウン! (筋肉ポーズ)
我輩は田中太郎である。
おやじ様の食事とやらが楽しみである!
盗賊の場所が判明しているのであれば。そのまま進むのみである!
我が筋肉に敵はないのである! -
2014/02/19-22:10
初めまして、アオイ・パブリカです。よろしくお願いします。
ああ、野菜のパプリカじゃなくて、「ぶ」だから間違えないように。
魔法を使うゴブリンに、デミ・オーがね。洞窟からあぶり出せればいいんだけどな。
宝があるから、穴に逃げた後に入口塞いであぶり焼きってわけにもいかないか…。
名物「親父の手料理」が食べられるように、頑張ろうな。