恋色紳士の依頼(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 とある屋敷に住む、一人の紳士。
 彼はにこやかに笑って言った。
「デートをしてきてくれないかな」


 ウィンクルムたちが屋敷へとやってきたのは、穏やかな昼下がりだった。
 呼び鈴を鳴らすと、すぐさま扉が開き、中から紳士が笑顔で出迎えてくれた。
 応接室へ通され、ソファを勧められる。
 そして、紳士はこう切り出してきた。
「僕は恋愛小説を書いているんだけどね」
 穏やかな笑みを浮かべて、紳士は言葉を継いだ。
「想像もいいのだけれど、そろそろ限界でね」
 紳士は相変わらず笑っている。
 言わんとすることはなんとなく分かる。分かるのだが、はっきりと言ってほしいところだ。
 そんな胸中が表情に現れたのか、紳士は軽く詫びる。そして、彼はにこやかな笑顔のまま言った。
「デートをしてきてくれないかな」
 一瞬呆けてしまったが、紳士は大真面目だ。
「君たちならきっと興味深い日常を過ごしていると思ったものでね。無理は承知しているつもりだけど」
 ――僕を助けると思って。
 そう、暗に言われた気がする。
 紳士は物腰こそ柔らかいが、意思をやんわり曲げてはくれないようだ。
 根負けするのも時間の問題かもしれない。具体的な話を聞いてみることにする。
 すると、紳士の表情が露骨なほど明るくなった。
「デートと言っても、大層なことじゃないんだ。街で買い物をしたり、料理を作ったり。普段していることでもいいんだ。そしてその素敵な時間の話を、僕に聞かせてくれないかな」
 にこやかな笑顔は、今や好奇心に満ち溢れていた。

解説

二人でデートをしてきてください。
そしてそのお話を聞かせてください。

◆場所

 基本的に、普通にありそうな店などはなんでも有りと考えていただいて大丈夫です。服でも靴でも装飾品でも。食事などもできます。
 他には、噴水のある広場や教会なども。
 行き先は、ウィンクルムさんたちにお任せします。

屋敷
 屋敷の中は大したものはないですが、屋内も使っていただけます。
 キッチン、客間、書庫もあります。
 庭も綺麗に手入れがされているので、遠出はしたくない、人混みは苦手という場合はこちらも開放しています。
 ちなみに、屋敷をご利用の際は紳士も出かけてくれますので、ウィンクルムさんたちだけとなります。

◆費用
 紳士からほとんどが補てんされますが、紳士宅への交通費だけが出ません。
 交通費としてお二人で300Jrかかります。

デート時間は特に想定していませんが、やりたいことを一つ、二つ程度まで絞り込んでいただければと思います。

ゲームマスターより

初めまして。杜御田菱真と申します。

甘いお話が聞きたいです。
初々しいお話が聞きたいです。
ウィンクルムさんたちは、日常をどんな風に過ごされているのでしょうか。

素敵なお話を聞かせてくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  お伺いした時綺麗に手入れされていたので気になっていたのを天藍が気付いていたみたいで
天藍にしてみたら退屈ではないかと思うのですけど

お花の事お話したら楽しそうに聞いてくれるのですよね
天藍、見え方が多分違うからと
足を止めた時は屈んで私と同じ目の高さの景色を確かめるんです
私も真似して天藍の視線に届くように背伸びしてみたら
小さくて正面から見たら白くてまん丸な小鳥を見つけました

私が小鳥に夢中になっていたからなのですけれど…
(その後を話して良いか言い淀んで隣の天藍見上げる)
その、私も嫌じゃないというか嬉しいと思っていたので、天藍が相当なのなら私もそうなのだと思うのですよね
(はにかみながら笑みを天藍へ向ける)


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  恋愛小説!良いですね!
ってわけでデートに行きましょう!

お買い物は初めは楽しかったんですが
買う物は私たちが使う生活品で
いつもと変わらないな…って思っちゃって
折角のデートなのに退屈、って
ディエゴさんにきつく言って、少し喧嘩になっちゃったんです。

でも、いつもと変わらないのが今まで退屈に感じたことはあったかなって…私は酷いことを言ってしまったようです
「デート」って言葉にこだわり過ぎて…
一緒にお買い物したり、ご飯を食べたりすることが退屈なんて思ったこと無いですよ、もちろん、ごめんなさいディエゴさん。

…と、いうことで
小説家さんにも申し訳ないんですが
私達はいつもの日常で変わったことはできませんでした。



秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  精霊の寝不足を知っている
案件は日延べするべきだったと反省

外出の提案に
…それもいいですが、今日はゆっくり本を読んで過ごしませんか?

精霊の視線に慌てて付け足す
こ、こちらの書庫には希少本があると伺ったので…!

少しでも早く精霊を休ませたいとよく見ず書庫から数冊持参
カーテン越しに淡い光が差し込む窓の側のソファへ
改めて見ると昔兄から読んでもらった童話の初版本が

興味を持った精霊に読み聞かせ

肩に重みを感じてふと見れば寝息を立てる精霊
こんな幸福がいつまでも続けばいいと泣きそうに

あなたの穏やかな時間を、ずっと守れますように…
いつも精霊が自分にするようにそっと髪へキスをして
私も眠く…少し、だけ…
寄り添うように眠る


藤城 月織(イリオン ダーク)
  …でぇと?
精霊を見上げ
正直一緒に過ごすことがない
共通の話題もほぼない
趣味嗜好に重なる点もない
と思い当たり、軽くショック

詳しい話は何もしないイリオンの後ろをついて、辿り着いたのは射撃場
「…イリオンさん、今から銃を撃つの?」
「…って、えっ私がっ?!」
無理!無理!!無理…!!!
結局威圧感に耐えきれず撃つことに…

「…じゃ、じゃあ、イリオンさんの銃を貸して」
見慣れている分、怖くない気がする
吹っ飛ぶ、肩を脱臼という不穏な言葉にガクブル

渡された銃を恐々扱い
「…撃てって言われても…」
途方に暮れる姿に、イリオンの助け舟

支えられ何度か撃つうちに、不可思議な安心感
…イリオンさんが支えてくれてるから、なのかな?


アリシエンテ(カデンツァ)
  依頼を受けて以下の話を

街で花屋に行って、家中を花で飾り付けて、目覚めたばかりのカデンツァの快復を祝うの!! もうそれしか頭になかったわねっ!

大きな花屋に一緒に向かって、徹底的に花を買おうとした
あれもこれも、これも、あれも
抱えきれない花束を沢山頼んで あふれる思いの分だけ花束を作って……
そうしたら、突然カデンツァが止めたわ
困った様に笑ってた

「──それは、『日常』じゃないだろう?」

反論した私に、いつの間に買ったのだろうカデンツァは一輪の花を買っていた


私に告げて、白い花弁の小さめの花を差し出した
それを手に取りじっと見つめた
見つめた私の何故か胸が熱くてじわりと泣きそうになった

彼の言葉は、本当なのだと思った


 紳士は、依頼を引き受けてくれたウィンクルムが戻ってくると客室に招き、ウィンクルムから語られる話に耳を傾けた。


 花に視線を落とす。
 想いが少しでも伝わることを願って――。

「あの花もお願いします」
 アリシエンテは、街で一番大きな花屋に来ていた。
 店にある花を、目についたものから文字通り手当たり次第に選んで、店員に注文していく。
 赤も、白も、黄色も。重なり、交わり、色を成す花の束は、ひとつ、ふたつと数を増す。
 喜びと、祝福を束ねていく。
 家中を埋め尽くすほどの花を買って、飾る。そして、七年もの間眠っていたカデンツァの快復を祝う。
 彼女の頭には、それしかなかった。
「それも……あと、これもお願いします。あ、その赤い花には、こっちの白い花も入れてもらえますか」
 溢れるほどの想いを、どんな風に示せばいいだろう。
 なんと言えば伝わるだろうか。
 きっと、幾千の言葉を重ねたところで、幾許も伝わらないのだ。だから、想いの一片を花に託す。
 少しでも、カデンツァに届くように。
 願いながら、祈るように。
 夢中で花を選んでいた。しばらく黙って側にいたカデンツァの様子を、この時ばかりは気に留めなかった。
 彼は彼で花を眺めて、時には手に取っていたようだったから。
 もっと選ぼう――。
 そう思って奥に並ぶ花を見ようと、カデンツァから少し離れようとした刹那だった。
「アリシエ」
 優しい声が、アリシエンテを呼ぶ。
 思わず、顔を上げた。
 赤い瞳と、視線が交わる。
 その顔を見るたびに、今でも夢なのではないかと、時々錯覚することがある。けれどそんな錯覚は、すぐさま安心へと変わる。
 カデンツァの声を聞くたびに。
 その笑顔を見るたびに、これは現実だと理解する。
 カデンツァは、少し視線を逸らした。
 そして、
「今回の依頼は、『日常』を求められてるんだ」
 ぽつりと言った。
 外された視線に、アリシエンテは言い知れない感情を覚えた。
 それを察したのか、再びゆっくりと赤い瞳がアリシエンテに向けられる。
「――それは、『日常』じゃないだろう?」
 カデンツァが、困ったように笑う。
 その瞳はとても優しく、温かかった。
 膨大な花束を飾る事も、カデンツァの快復を祝うことも、アリシエンテには当たり前の事ではあったけれど、『日常』という言葉からは少しだけ遠い。
「でもっ、でもっ!」
 微かに感じる胸のつかえに、アリシエンテは抗うように反論の声を上げる。
 するとカデンツァは小さく笑って、一輪の花を彼女の前に差し出した。
「覚えておくといい」
 やんわりと。
 何かを解いていくような、優しい声。
「こういう時、人は――『その思い出と、花一輪で十分』だとな」
 指先が僅かに触れる。
 手渡された花は、白いスイートピーだ。
 アリシエンテは小さなその花を見つめた。
 まるで胸につかえたものが感情をかき乱すように、せり上がってくる言葉にできない感情に、思わず俯く。
 伝わる優しい想いに、泣いてしまいそうだった。
 数多を集めれば伝わると、どこかで思っていたのかもしれない。
 一つでは伝えられないと思っていたのかもしれない。
 だから――。
 小さな花の、たった一輪に込められた彼の想いに、戸惑うほど感情が揺れた。
 だから――。
 彼の言葉が、偽りではないと思えた。


 ハロルドは、いつも以上に張り切っていた。
 デートに行こうと気圧され気味なディエゴ・ルナ・クィンテロは、逆らわないほうがいいと理解している。
「ショッピングモールに行こう。なんでもあるし、あそこが良い」
 だから、そう提案した。
「お買い物、良いですね!」
 ハロルドも嬉しそうに、その提案を受け入れる。
 ショッピングモールへ着くと、ディエゴが目当てのものを口にする。
「ちょうどな、卵と牛乳が切れてたんだ」
「そういえばそうでしたね」
「あと、柔軟剤と飲み物も買っておこう。安い時に必要なものを買う。これが一番だよな」
「そうですね……――」
 ディエゴは次々と商品を選んでいく。
 清算を済ませ、手際よく荷物を仕分けると、荷物の一つをハロルドに渡した。
「お前は軽いものを持っててくれ」
 そう言って、当たり前のようにディエゴは柔軟剤や飲み物などの重い荷物を持つ。
 ハロルドは、そんなディエゴに不満はなかったのだが、緩やかに気持ちが傾いでいくのを感じていた。
 休憩をすれば、少しは気分も変わるだろうか。
「……ディエゴさん、少し休みましょう」
 ショッピングモールの休憩所に備えられたベンチに荷物を置き、腰を下ろす。
 いつもより言葉少ななハロルドを見遣って、その機嫌が芳しくないことに気付く。
「ハル。何か買いたいものでもあったのか?」
「え? ……いえ、買いたいものがあったわけではないんですけど……」
「けど?」
 ディエゴが言葉を誘うように尋ね返すと、ハロルドは胸の内を吐き出すように言葉を紡いだ。
「お買い物は、初めは楽しかったんです。でも、買うものは、私たちが使う生活品で。いつもと変わらないな……って思っちゃって。折角のデートなのに、退屈、って……」
「――……なんだよ、それ」
「えっ?」
 黙って聞いていたディエゴが、不機嫌そうにハロルドを見つめる。
「俺との買い物は退屈だったのか?」
 ハロルドは言葉が出なかった。
 いつもと変わらないことをしていただけだ。それを退屈だと感じたことはあっただろうか。
 一度とてなかった。
 なのに、今日はなぜそんな風に感じてしまったのだろうか。
「俺は退屈なんかじゃなかった。だいたい、いやなら一人で来ていたさ」
 ディエゴの瞳が、ハロルドを覗き込む。
「お前は、今まで楽しくなかったのか?」
 先ほどの不機嫌さなど感じさせない、柔らかな声にハロルドは頭を振った。
「一緒にお買い物したり、ご飯を食べたりすることが退屈なんて思ったこと無いですよ、もちろん」
 退屈だと感じた理由にハロルドは思い至った。
 デートと言う言葉に、こだわり過ぎたせいだ。だから、いつもと変わらないことに憮然としてしまったのだ。
「ごめんなさい、ディエゴさん」
 ハロルドは、しゅんと肩を落とした。
「……ん、まあ、俺も気が利かないデートプランだったな。悪い」
「そんなこと……!」
 思わず、ハロルドは縋るようにディエゴの手を取った。
 ディエゴは何も謝るようなことをしてはいないのに。
 すると、ディエゴがその手をそっと握る。
「今度はちゃんと遊びに行こう」
 優しい目を向けられ、ハロルドは頷く。
「約束ですよ。楽しみにしてますから」
 今度の約束を交わし、帰路につく。

 ――今度はネタにできないかもな。
 そんなことを小さく呟くディエゴに、ハロルドが首を傾げると、何でもないと首を振った。


 明け方までレストアの仕事に追われていたジュニール カステルブランチは、いつもと変わらない様子だった。
 秋野 空は、ちらりとジュニールを見遣る。
「ソラ。以前話していた歴史小説が原作の映画が、今公開されているそうですよ。観に行きませんか?」
 今日は仕事とはいえ、久しぶりのデートだ。ジュニールの提案は、正直嬉しかった。けれど、ジュニールが寝不足であることを、空は知っていた。
 少しの後悔と反省をしていたところだ。
 しばし逡巡した後。
「……それもいいですが、今日はゆっくり本を読んで過ごしませんか?」
 遠慮がちに視線を合わせてくる空に、ジュニールは意外そうな顔で空を見つめ返した。
 すると、慌てたように空が言葉を接いだ。
「こ、こちらの書庫には希少本があると伺ったので……!」
「……ソラがそう言うのでしたら、俺に異存はありません」
 その様子に、気遣われているのだと薄っすらと気づけば、ジュニールは嬉しそうに目を細める。
 空はすぐに書庫へと向かい、しばらくすると両手に数冊の本を抱えて戻ってきた。空の手から本を取ると、ソファへと並んで腰を下ろす。
 カーテンで遮られ、柔らかくなった日差しは心地良かった。
 活字は苦手だと言って、ジュニールは美しい風景写真を手に取る。
「あ……」
 本を選ぶ空が、小さく声を上げた。
「どうかしましたか?」
「この本……」
 空が手にしたのは、一冊の童話だった。
「よく見ないで持ってきてしまったので気づかなかったのですが……昔、兄が読んでくれたものなんです。初版本なんて、珍しいです」
 懐かしそうに本を開く。
「どんな話なんですか?」
「え?」
「ソラが読んでもらった童話がどんなものか、俺も知りたいです」
 ジュニールが本を覗き込む。
 思いがけず縮まった距離に、空は言葉を探す。そして、
「読みましょうか……?」
 口をついた言葉に、やはり意外そうにジュニールが空を見つめる。
「わ、私も……兄に読んでもらったので」
「ソラが読んでくれるなら、嬉しいです」
 笑顔を咲かせたジュニールに、空は表紙を開き、読み始めた。
 静かで、心を穏やかにする声が紡ぐのは、小さな少女と妖精の王子の淡い恋物語。
 空は、この恋物語が好きだった。だから、ジュニールが興味を持ってくれたことが嬉しかった。
 読み進めながらページを捲ったところで、肩に不意の重み感じた。
「ジューン……?」
 目を向ければ、ジュニールが静かな寝息を立てている。
 珍しい。
 彼がうっかり寝入ってしまう場面など、一体どれくらいあっただろうか。
 たったこれだけのことが、ひどく嬉しい。
 いつまでも続けばいいのに――。
 思って、目頭が熱くなる。胸に溢れる幸福感を抑えきれない。狂おしいほど切ない、どこにでもあるような幸せに、泣きそうになった。
「あなたの穏やかな時間を、ずっと守れますように……」
 そっとジュニールの髪へとキスをする。
 いつも、彼がそうするように。
 温かな季節の日差しは、空をも眠りへと誘う。
「私も眠く……少し、だけ……」
 緩やかに微睡んでいく。

 微睡みの中で聞いた空の言葉に、彼は声を返せなかったけれど。
 ――ソラ。俺も、同じ気持ちですよ。


「……でぇと?」
 精霊を見上げる。
 イリオン ダークは、その視線を軽く受け流す。
 意外な申し出だった、と言えばそれまでなのかもしれない。
 が。
 デートと言われ、一般的なデートを思い描いた藤城 月織は、思考を全力で巡らせる。
 正直、一緒に過ごすことがない。
 共通の話題もほとんどない。
 趣味嗜好に重なる点もない。
 何も共通点がない……。
 思い立って、頭の中が白くなるほどショックを受けた。
 ――顔に出過ぎだ……。
 イリオンは、目まぐるしく変わる月織の表情に、軽くため息を吐く。
 思考が止まってしまったのか。あるいはまるで考え至っていないかだろうか。
 いずれにせよ、返事を待っていても埒が明かないだろう。
「ついて来い」
 イリオンは詳細を話すことはせず、いつも訓練に使っている射撃場へと月織を連れ出した。
「……イリオンさん、今から銃を撃つの?」
 月織の言葉に、未だ理解できていないことを悟ると、イリオンは月織を指差した。
 撃つのは、月織だ。
「って、えっ、私が!?」
「……どんな事態が起こるか分からん。扱いに慣れておけ」
「無理! 無理! 無理……!!!」
 月織は初心者だ。撃ったこともなければ、触ったことすらないに等しい。
 それをいきなりやってみろと言われたところで、頭を横に振るのが精一杯だ。
「誰でも最初は初心者だ」
 イリオンはそう言った後、これ以上の反論は許さないと言うように、月織に無言の圧力をかけた。
 月織が、その圧力に耐えきれるはずもなく、渋々ながらに受け入れる。
「……じゃ、じゃあ、イリオンさんの銃を貸して」
 そう申し出たのは、見慣れている分、怖さも軽くなる気がしたからだ。
 もちろん、イリオンが扱う銃は彼に見合った大きさと火力を備えている。
「冗談いうな。俺のを撃ったらアンタが吹っ飛ぶ。訓練で肩を脱臼されちゃ、洒落にならん」
 小柄な月織に扱えるはずがない。
 イリオンは真実をそのまま口にしただけなのだが、必要以上に月織を怖がらせてしまったようだ。
「……アンタでも扱える銃はある。心配するな」
 そう言って取り出したのは、小さな月織の手でも扱える、護身用として持つ者も多い自動式拳銃だ。
 これなら、月織が吹っ飛んで脱臼をする心配は薄い。
 月織に銃を渡すと、恐る恐るといった様子で扱う。
「……怖がるな。きちんと扱えば問題ない。撃ってみろ」
「撃てって言われても……」
 助け舟を求めると、イリオンは月織の後ろへ回り、その身体を支える。
「肘は伸ばし過ぎるな。身体を正面に向けろ」
「……こう?」
 アドバイスに従って、何度か撃つ。イリオンが後ろで支えているという安心感からか、月織は思ったよりも飲み込みが早かった。
 何発目かを撃って、再びイリオンが月織の身体を支える。
 ――……しかし、思った以上に……華奢だな。
 触れた時に驚いた。月織は見るからに小柄なのだが、ここまで華奢だとは思わなかった。
 そして、契約ももちろんだが、やはり、守らねばならない対象なのだと、イリオンは改めて感じた。


「庭で過ごそう」
 天藍はかのんを庭へと誘った。
 かのんが最初から庭を気にしていたことは知っていた。
 手入れが行き届いた、綺麗な庭だ。かのんが嫌いなはずがない。そう思っての事。
「私は楽しいのですけど、天藍にしてみたら退屈ではないかと思うのですけど」
「いや、全く」
 天藍は首を横に振る。きっぱりと否定をされた。
「正直、楽しそうなかのんの様子が見れるだけで十分なんだが、草花の種類や特徴を分かりやすく説明してくれるから、知らないことを知ることができるのも楽しいな」
「それなら、良かったです」
 かのんが天藍に控えめな笑顔を向けた。
 頭上から足下にまで、色々と咲く花を眺める。
「天藍、見てください。スノードロップです」
 足下の小さな花をかのんが示す。
「可愛らしいですよね。人に贈ってはいけない花と言われていますけど」
「そうなのか?」
 天藍は、かのんと同じ目の高さまで身を屈める。
 他にも草花を示してみせると、天藍は同じようにかのんの目の高さまで屈んで合わせる。
 少し、不思議に思った。だから、尋ねてみれば、
「目線の高さ?」
 と、こちらも不思議そうな天藍の返事だ。
「いつも屈んで確かめているようなので、どうしてかと思いまして」
「ああ、並んで同じものを見ていても、かのんと見る高さが違うだろ」
 くすりと笑って、天藍はさらに続ける。
「かのんにはどう見えているのか知りたくてな」
 成程と思った。
 そんな理由を聞かされては、かのんも天藍と同じ景色を見てみたいと思う。
「かのん、あれ、梅の花だろ?」
 天藍は少し高い木の枝の蕾を指した。
 花を見上げて、天藍を見上げる。そして、これを好機とばかりに彼の目の高さに届く様に背伸びをしてみる。
 とても足りる高さではなかったが、少しでも近づきたい。
「かのん?」
「私も、天藍と同じ景色を見たいと思いましたので」
「……可愛いことをするな」
 そう言って嬉しそうに天藍が微笑むと、かのんは頬を赤く染める。そんな様も、やはり可愛いと思う。
 再びかのんが背伸びをする。
「あ……」
 小さな声を上げて、天藍の服を軽く引く。
「天藍。あそこ、見てください」
 木の合間から見える白い鳥を見つけたかのんは、飛び去ってしまわないように、声を少し落とす。
「可愛らしいです」
「本当だな」
 ふわふわとした、白い小鳥が顔を覗かせたり、景色を見る様だったりと、動いている。
「雪の妖精みたいですね。天使にも見えますけれど」
 あまりの愛らしさに、かのんは白い小鳥に夢中だ。
 天藍は、思わずかのんを引き寄せた。
「天藍……?」
 驚いたように見上げるかのんの視線に、天藍は片手で顔を覆いながら、言葉を探しながら言いにくそうにしている。
「……自分でも相当だと思うんだが」
 僅かに、かのんを抱き寄せる腕に力が籠る。
 小鳥にかのんを取られてしまったようだ、と天藍が呟く。そして、彼の腕に完全に納められていた。
 そんな彼の言葉や行動を嬉しいと思う。
 ――天藍が相当なのなら、私もそうなのだと思うのですよね。
 天藍と笑い合い、そっと抱き締める。


 全ての話を聞き終えると、紳士は満足そうに笑顔を見せた。
 そして、
「ありがとう。素晴らしい時間を共有させてもらったよ」
 と、相変わらずのにこやかな笑顔で感謝を述べた。

 後日。
 件の紳士が、軽やかに執筆速度を上げていると、噂を耳にした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月24日
出発日 03月03日 00:00
予定納品日 03月13日

参加者

会議室

  • [8]秋野 空

    2016/03/02-23:46 

  • [7]かのん

    2016/03/02-20:05 

  • [6]ハロルド

    2016/02/28-19:16 

  • [5]かのん

    2016/02/28-15:20 

  • [4]かのん

    2016/02/28-15:17 

    かのんとパートナーの天藍だ、よろしく

    ……まさか2人のデートの様子を聞かせてくれとはな
    ま、奇をてらう必要もないんだろうし、普段どおりでいいか

  • [3]藤城 月織

    2016/02/27-21:46 

    こんにちは藤城月織です
    パートナーはイリオンさんです
    皆さんよろしくお願いします!

    それにしても、デート……ですか
    うーん、どうすればいいんでしょう(途方に暮れる

  • [2]アリシエンテ

    2016/02/27-06:00 

  • [1]秋野 空

    2016/02/27-01:39 


PAGE TOP