【薫】薫りを、羽織れ(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 貸衣装店『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナーであるルイーズは作業机の上で頬杖をつく。
 今の仕事は貸衣装用の新作ドレスのデザイン。既に何枚かは描き上げているが、まだまだ考えなくてはならない。
 とはいえ、煮詰まってきているのも事実。息抜きがてらに大きく伸びをして、お気に入りのマグカップに入ったコーヒーを啜る。
「香水モチーフでデザインするの楽しかったなぁ」
 ルイーズは時折、神人をモデルにドレスのデザインをする。完成したデザイン画はモデルの好きにしていい代わりに、デザインそのものはルイーズの自由にさせてもらうという条件で。
 少し前にやった時は、神人の希望の香水に合わせてドレスをデザインしたのだ。完全に自分の自由だけでデザインするのも楽しいが、ちょっとした制約があるのも楽しかった。
 その時のことを思い出したせいで、ルイーズはまたやりたいとウズウズしてきてしまった。
 幸い、今の仕事の締め切りにはかなりの余裕がある。ここで気分転換をするのもいいだろう。
 善は急げ。ルイーズは他のスタッフに話を付けるべく席を立つのであった。


『お好みの香水に合わせた神人さんのドレスをデザインします。
 完成したデザイン画は差し上げますので、後はご自由に。
 デザイン中は店内のドレスを見て回っていただいても構いません。
 紅茶と珈琲もありますので、ご希望であればお声掛け下さい。

 貸衣装店ソレル・ルージュ』

解説

○参加費
デザイン料300jr

○すること
【薫】エピソードキャンペーンアイテムの八種類の香水からお一つ好きな香水を、『神人のプランの冒頭』にご記入ください
その香水と神人に合うドレスをルイーズがデザインします
最終的にはデザイン画を見てきゃっきゃして頂ければ幸いですが、それまでは下記のどちらかをどうぞ

・待合室でお茶をしながら待つ
珈琲と紅茶が出ます
のんびり雑談でもどうぞ

・店内のドレスを見て回る
軽く体に当てたり、ドレスを見てきゃっきゃしてください
試着はできません
どんなドレスを見てきゃっきゃするか、色と大体のイメージもしくは形を指定してください
店内のドレスに関するお任せはNGです
駄目、絶対

ドレス指定の例:ピンクの可愛らしいドレス、グリーンのマーメイドライン等

○登場NPC
・ルイーズ
『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナー
気さくな人です

○注意
ルイーズがどんなドレスをデザインするかは指定できません
こーやが趣味と趣味と趣味と趣味で考えますので御了承ください
『赤く、彩る』『茜を、濡れ』『【薫】薫りを、纏え』の続編になりますが、前回のことを知らなくてもまったく問題ありません

ゲームマスターより

調子に乗って香水ドレス第二弾です。

キャンペーンアイテムが「今年の新作」というのはこーやの独自設定ですのであしからず。
【薫】エピソードキャンペーンページ
(https://lovetimate.com/campaign/201512event/gm_frag.cgi)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  スイートスノウ

意外?そうかな、確かに春は大好きだけど冬も好き
月や星が特別きれいに見えるもの
…おかしいかしら?
ちらりと不安そうに 首を振るのを見てほっとしたように笑う

店内を見て待つ
様々なデザインのドレスに目を輝かせて
ロングトレーンの水色のドレスを見つけ ため息
手は触れず憧れの目でじっと見つめる
長い裾がすてきね
…ふふ、無理よ 
これは大人っぽい 背の高い人のドレスだもの
私みたいな体形だと似合わないわ

少し残念そうにドレスから離れようと
急にドレスを押し当てられ目を瞬かせる
思ってもみなかった言葉にぽかんと その後頬を染めて笑う
…ありがとうシリウス
鏡越しにふたり視線を合わせ

デザインに目を見張り 弾んだ声でお礼


和泉 羽海(セララ)
  スイートスノウ

待ってる間は店内を見て回る
……こういうの(ドレス)着ないけど……見るのは、好き、かも…
キラキラ、ひらひら……どれも映画に出てくるお姫様みたい…
あたしには……きっと似合わない……

(精霊の持ってきたドレスに首を振って拒否)
『そういうのは、お姫様が着るんだよ』(筆談
……この人、頭沸いてんのかな……
(連れられるままに鏡の前へ
…やっぱりお姫様には、見えないけど…
でも、この人が言うと…悪くない、かも…って思えるから、不思議…
…ホントに…魔法使いなのかな…

デザイン画
こ、こんなドレス……あたしに、似合う、かな…?
そ、そうだよね…うん(大事そうに抱える
『あ、ありがとう…ございました…』(口パク


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  ☆香水
アスピラスィオン

☆待合室でお茶をしながら待つ
『紅茶』を注文。
あ、あの、シュトルツさん
どうして今日はここに連れてきてくださったんですか…?(うさぎのようにふるふる震えながら)
な、何も、笑わなくても…(ふくれる)
いただきます…おいしい(ほっと一息)
えっ、じゃ、じゃあっ、う…!(言いかけ精霊の言葉に遮られる)
(申し訳なさそうに)でもでも! そんな高価なお返し、受け取れませ・・あいたっ!?(精霊にチョップされる)
あ、有難く いただきます(頭を押さえながら)

☆デザイン画完成
可愛らしいデザインなら喜び、違うのなら新しいジャンルに挑戦してみようと勢い込む
今日は有難うございました(精霊の思惑に気づかず笑顔)


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  トゥ・ザ・ムーン
現在愛用中

ドレスに興味はあるが、自分が着る自信はない
今回は精霊にデートと誘われ、押し切られる形で参加

ドレスをあてる他の方々を見て目の保養
可愛らしいドレスもシックなドレスも、どれも皆さん良くお似合いですね

恥ずかしさにドレスに手を伸ばし誤魔化す
ボルドーの大人っぽいマーメイドライン
シルエットの美しさに溜息
ただ自分には似合わないと諦めモード

デザイン画に思わず息を飲む
ただ、自分の着用イメージが湧かない
せめて額装して飾っておきましょうか…

精霊の言葉に内省
自分では見えないこともあるかも

照れ
左手の革ブレスに触れ
ジューンがそう言うのでしたら…そうしましょうか
このドレスを着ると思うと心が浮き立つ


●甘く暗い香り
「了解、アスピラスィオンね。それじゃ、ちょっと待っててね」
 ミサ・フルールの希望を聞いたルイーズは早々に作業机へと向かっていった。
「さて、これからどうする?」
 どこか怯えたようなミサはエリオス・シュトルツの様子を窺う。ドレスを見ることに興味が無い訳ではないのだが、この相手と一緒というのは気が進まない。
「え、えっと、お茶にしたい……です」
「では待合室だな」
 つかつか、靴音を鳴らしエリオスが先導すると、ミサは緊張を孕んだ足音で後に続く。
 テーブルを挟んで向かい合わせになって座る。隣り合って座るよりかはまだいいが、それでも相手から自分の表情が見えやすいのだと思うと緊張せざるを得ない。
「あ、あの、シュトルツさん」
 スタッフが運んできたティーカップから立ち上る細やかな湯気越しにミサはエリオスを呼ぶ。こうやって呼びかけることにも不安を覚えるほどに、ミサは緊張していた。
 少しでも温もりを得ようとティーカップに添えた手が震えるせいで、紅茶が細かく波打っている。
「どうして今日はここに連れてきてくださったんですか……?」
 ミサの問いかけに、エリオスはそんなことかとばかりに鼻で笑う。
「くくっ、捕食される前の小動物のようだぞ。紅茶、好物なのだろう? 冷めてしまうぞ」
 紅茶をミサに勧めながら、エリオスはコーヒーカップを持ち上げる。湯気で眼鏡が曇り、刹那、エリオスの瞳を隠す。
 何も笑わなくともと、拗ねた様子でミサは呟き、紅茶をすすった。
「いただきます。……おいしい」
 熱を持った紅茶を嚥下すると、少し緊張がほぐれる。少し甘くしてあったのも良かったのかもしれない。
 そんなミサを見るエリオスの目が細められた。
「今日は『バレンタイン』の礼をしにきただけだ。義理堅いお前は前に俺を怒らせてしまった侘びだとかなんだで茶会に誘ってくれたではないか」
 エリオスはカチャリ、とわざと音を立ててコーヒーカップをソーサーの上に戻す。
「完成したデザイン画をもとに職人にドレスを作らせ、贈ってやる」
「えっ、じゃ、じゃあっ
「今日の礼をしようだなんて思うなよ?」
「うっ」
「いたちごっこじゃあるまいし、素直に受け取っておけ」
 反論を読まれたミサの言葉が詰まる。しかし、申し訳無さがすぐに感情を言葉へと変えた。
「でもでも! そんな高価なお返し、受け取れませ――あいたっ!?」
 エリオスがチョップでミサの言葉を遮った。頭を抑えるミサを尻目に、エリオスは椅子に座り直す。
「受け取れ」
 にこり。有無を言わせぬ笑みだ。ミサはこれ以上の抵抗は無駄だと悟った。
「あ、有難く、いただきます」
 まだ頭を抑えたままのミサの言葉に、エリオスは満足気に珈琲をすするのであった。

「可愛い……」
 渡されたデザイン画を見てミサは嬉しそうに微笑む。
 淡い黄色とパステルピンクのバイカラー。ハイウェストなデザインで、ウェストマークはハッキリしたアザレアピンクの太いリボンだ。
 白に近い黄色の上半身は出るアメリカンスリーブ。ネック部分だけはウェストマークと同じ濃いピンクだ。背面のデザインを見る限り、体のラインがハッキリ出るような形になっている代わりに背中の露出は抑えられているようだ。
 膝下までのピンクのスカートは、シフォンのようにたっぷりとフリルが四段に重ねられている。ウェストマークのリボンはスカートよりもやや長く、ふくらはぎまでの長さになっている。
 手袋は二の腕までを覆う、スカートと同じ色のフィンガーレスグローブ。靴は上半身よりも濃い黄色のパンプスだ。沈丁花か、入手できなければウェストマークと同じ色の花のクリップをつけるといいと添えられてある。
「髪は、今みたいなリボンを編みこんだダウンスタイルかハーフアップがいいね。ハーフアップにするならシフォン系の小さい髪飾りをたくさんつけた方が華やかになるよ」
 そう言うと、ルイーズは次の人が来るからと言って去って行った。
 その背中を見送り、エリオスはミサを見遣る。
「ドレスが完成したらそれを着て息子に見せてやるといい……きっと喜ぶ」
 ミサは笑顔でエリオスを見上げた。
「今日は有難うございました」
 素直な謝意にエリオスは目を細める。ミサは再びデザイン画をじっくりと眺めていて、気付かなかった。
 眼鏡の奥のエリオスの目が暗い輝きを宿していることに。その唇が不吉に歪んでいることに。
 さて。大事な娘が自分と過ごしたと知った息子は、どんな顔をするだろうか?
 その時のことを考えれば考えるほど、エリオスの笑みは深く、暗く、重くなっていくのであった。



●甘い雪の香り
「スイートスノウでお願いします」
「スイートスノウね。OK」
 ルイーズはリチェルカーレの頭の天辺からつま先までしっかり眺めてから作業机へと向かっていった。
 さて、とリチェルカーレは不思議そうにシリウスを見上げる。香水を決めた時、シリウスが僅かに首を傾げていたのが気になったのだ。
「どうしたの?」
 大したことではない、とシリウスは軽く首を振るが、リチェルカーレは視線を逸らさない。
 隠すことでもないので、シリウスは素直に思ったことを告げた。
「……いや、春めいたものを選ぶのかと思ったから」
「意外? そうかな、確かに春は大好きだけど冬も好き。月や星が特別きれいに見えるもの」
 言って、リチェルカーレは少々不安そうに、こてりと首を傾げた。
「……おかしいかしら?」
「別におかしくはないと思う」
 シリウスが再び首を横に振るのを見て、リチェルカーレはほっとしたように笑った。やはりパートナーの反応は気になるものだ。
 問題無いと分かれば、あとは時間を潰すだけ。折角だし、とリチェルカーレとシリウスはドレスを見に行くことにした。
 ドレスへと向かうリチェルカーレの足取りは軽い。今にもスキップしそうなほどだ。一着一着違うドレスを見るたびにその目が輝く。
 その半歩後ろをシリウスは静かに歩く。リチェルカーレの瞳は嬉しそうで、自然とシリウスの表情もやわらかなものになっていく。
 リチェルカーレが一着のドレスの前で足を止めると、ひときわその表情が華やいだ。
 マーメイドラインの水色のドレス。レースを織り交ぜた非常に長いトレーンが特徴的だ。
 けれど、リチェルカーレは体に当てるどころか触れようともせず、ただ憧れを胸に抱いてじっと眺めているだけ。
「気になるなら体に当ててみればいいだろう」
 シリウスの言葉にリチェルカーレはふふっと笑った。本人は隠しているつもりなのだろうが、ほんの少し諦念がにじみ出ている。
「無理よ。これは大人っぽい、背の高い人のドレスだもの。私みたいな体形だと似合わないわ」
 名残惜しそうに離れようとしたリチェルカーレだが、華奢な手首をシリウスが掴んだ。
 驚きから目を見開いたリチェルカーレが足を止めた隙に、シリウスは水色のドレスを手に取り、リチェルカーレに当ててみせた。
「……悪くないんじゃないか?」
 丈に関しては分からないが、と付け加えながら、シリウスは鏡の前へと誘導する。
 思っても見なかった行動と言葉にリチェルカーレは呆気にとられ、そして、嬉しそうに頬を染めて笑う。
「……ありがとう、シリウス」
 静かな水色に、赤いリチェルカーレの顔が映える。つられてシリウスも口元をほころばせる。鏡越しに三色の瞳が混ざり合った。


 渡されたデザイン画にリチェルカーレは目を見張った。
「わぁ……」
 腰までの青いケープはスイートスノウのボトルの柄そのままに。首元には留め具代わりのウルトラマリンのリボンが飾られている。
 ケープの下はふくらはぎまでの白いドレスだ。Aラインと呼ぶには細く、スレンダーラインと呼ぶには膨らんでいる。ウェストマークはリボンと同じウルトラマリンのサッシュ。
 スタンドカラーと袖口にはほんのりと水色が乗っていて、ボタンは雪の結晶モチーフが良いと添えられている。
 靴は太いストラップの付いた、ウルトラマリンかグレーのパンプス。分厚いチャンキーヒールが良いらしい。
 髪は白とウルトラマリンのリボンを編みこんだアップスタイルで描かれている。
 シリウスの目が数度、デザイン画とリチェルカーレを往復する。
「似合うと思う」
 小さな声で簡潔な感想だが、それが本心からくるものだとリチェルカーレは知っている。それを裏付けるかのようにシリウスは微笑んでいる。
 うん、とリチェルカーレは小さく頷いて、ルイーズへ視線を向けた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
 ルイーズは満足そうに笑って二人から離れていった。
 リチェルカーレはもう一度、デザイン画に視線を落とすも、すぐにシリウスを見上げる。
 陽光を受けた雪のようにキラキラと輝く瞳が細められる。シリウスは眩しそうに見つめ返すのであった。



●新月の香り
 秋野 空は聞かれるがまま、希望の香水を告げた。愛用している『トゥ・ザ・ムーン』だ。今もうっすらと、空からは金木犀の香りが漂っている。
 その甘さに反して空の顔には戸惑いの色がある。
 ドレスには興味があるが、自分が着るとなると別だ。正直に言えば自信がない。それでもここに来たのはジュニールに押し切られたからだ。
 ジュニールとしては空を着飾りたいところ。普段の地味な装いも良いが、たまには華やかなドレスを纏った空も見たい。
 だから、ジュニールは待合室ではなくドレスのコーナーへと空を誘った。
「時間まで、あちらを見ておきませんか?」
「そう、ですね」
 店を彩るドレスそのものには空も惹かれていたから、抵抗せずに誘いに乗る。
 今は広い店内にスタッフ達と空、ジュニールしかいないが、ドレスを着たモデルの写真がところどころ飾られていた。
 写真を一枚一枚眺め、空はほうっと息を吐く。
「可愛らしいドレスもシックなドレスも、どれも皆さん良くお似合いですね」
「確かに皆さんとてもお似合いですが……」
 同じようにジュニールも一枚一枚を眺めるも、小さく首を傾げた。さらり、纏めた金の髪が音を立てる。
「クリスマスに贈ったドレスを纏ったソラは、俺にはもっとずっと輝いて見えましたよ……?」
 囁きは微かな声だったが、それでも空にはしっかりと聞こえた。
 ぴくり、空の眉間に小さな皺が入る。しかしそれは不愉快だからではなく、恥ずかしさを誤魔化すためのもの。ほんのりと熱を持った顔を見られぬよう、空はドレスへと手を伸ばす。
 触れたのはボルドーのマーメイドライン。細く、体の線を強調する大人の女性向けの優雅なデザインだ。
 美しいシルエットに空は溜息を吐く。自分には似合わないと思っている空は、体に当ててみようとさえしない。他のドレスも同じで、手にはとってもあくまでも見るだけ。
 ジュニールはその理由が分かっているからこそ、残念そうに苦笑いを零す。
「デザインやカラーを選べば、十分似合うと思いますが……」
 空に聞こえぬように呟く。少しだけ、空が自分からドレスを当てることを期待しているからだ。
 いきなり派手な色は落ち着かないだろうから、くすんだパープルや濃いグレーのドレスはどうだろうか。ジュニールは空が自分からドレスを合わせようとした時に備えていくつか見繕っておいたものの、結局その時は来なかった。


「お待たせ。こんな感じにしてみた」
 ルイーズが差し出したデザイン画を見た空は息を呑んだ。
 膝までのエンパイアライン。『トゥ・ザ・ムーン』のボトルと同じ紫だ。
 細かいギャザーによってふんわりしているが、すとんと真っ直ぐに落ちたラインが落ち着いた印象を与える。キャミソールタイプなので、肩紐は随分と細い。
 三日月型の金具をつけたサッシュベルトがウェストマークになっている。金具から垂れる、余ったサッシュはスカートの丈よりも僅かに長い。『ラメの入った黒がいいけど、落ち着かないなら明るめのグレーで』と書かれている。
 靴はラウンドトゥでゴールドのパンプス。デザイン画はピンヒールで描かれているが、こちらにも『落ち着かないなら低めのヒールで』と添えられている。
 黒いショートグローブで、左手にはゴールドのブレスレット。
「手袋が黒で描いちゃったけど、サッシュと色を合せるのが無難だね。グレーにするならそのブレスレットもいいよ」
「あの……ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃねー」
 ぎこちなく礼を言う空に手を振ると、ルイーズは早々に退散していく。
「あまりイメージが沸きませんね。……せめて額装して飾っておきましょうか」
 どうしてもこのドレスを自分が着用するイメージが空にはどうしても沸かない。
 だからこその空の呟きだったが、ジュニールは聞き逃さなかった。
「ソラ、自らの手で可能性の芽を摘んではあまりに勿体無いですよ」
 ジュニールを見ると、いつものように柔らかな笑みを浮かべている。けれど、眼差しはとても真摯なものだ。
「背筋を伸ばして自信を持って着るだけで、ドレスは空に寄り添うはずです。何しろルイーズさんがソラに合わせてデザインしてくださったのですから、似合わないはずはありません」
 自信に満ちた言葉だった。
 空は思わず目を伏せる。自分では見えない、気づいていないこともあるのかもしれない。
 そんな空の内心を見透かしてか、ジュニールは笑みを深めた。
「折角ですから仕立ててみてはどうでしょう。俺は見たいです、このドレスを纏ったソラを」
「……ジューンがそう言うのでしたら……そうしましょうか」
 再び空の頬に赤みがさす。落ち着きを取り戻そうとするかのように、左手首につけた革のブレスレットに触れる。
 けれど、平静は戻らない。それどころか、このドレスを着るのだと思うと心に波が生まれる。その波は決して嫌なものではなく、むしろ心地よさすら感じるものであった。



●魔法の香り
 ルイーズに希望を伝えた和泉 羽海は店の奥へと足を進めた。ドレスを見て待つことにしたのだ
 ドレスを着ることはないが、見るのは好きかもしれない。
 ドレスを飾るビジューやスパンコールは店内の照明を反射してキラキラしているし、ふんわりしたスカートはひらひらしている。どれも映画に出てくるお姫様が着ているみたいだ。きっとお姫様の衣装部屋はこんな感じなのだろう。
 自分にはきっと似合わない、と羽海は思いながらドレスを眺める。
 本人は気づいていないが、セララはきちんと気付いていた。パープライトと同じ色の瞳が宝石のように輝いていることに。
 こういうのに惹かれるあたり、やはり羽海も女の子だということだ。
 それならば、とセララもドレスを見る。勿論、羽海に似合いそうなドレスを探す為に。
「あ、これなんてどう? きっと似合うよ」
 セララが手に取ったのはクリーム色のプリンセスライン。薔薇をモチーフにしたカットレースがスカートの裾を飾っている。
 羽海は一瞥してすぐに首を振った。厚い表紙のリングノートを取り出して、さらり。
『そういうのは、お姫様が着るんだよ』
「羽海ちゃんはオレのお姫様だよ?」
 心底不思議そうにセララは首を傾げると、有無を言わせず羽海の手を取った。
「ちなみにオレは王子様兼魔法使いだよ!」
 途端、羽海の目から熱が抜け、氷点下まで。頭沸いてるんじゃなかろうか、そんな考えがバッチリ出たわけである。
「うん、その冷たい目が素敵」
 Mなんだろうか。
「じゃなくて! 嘘じゃないから! お姫様になれる魔法かけてあげるよ」
 セララはドレスを片手に、羽海の手を引く。その先にあるのは鏡だ。
「3、2、1、はいっ、しゃらーん! ……鏡を見てごらん!」
 羽海を鏡の前に立たせたセララは、杖を持っているかのように手を振るい、ドレスを羽海の体に当ててみせる。
 クリーム色のドレスがふわりと広がって羽海の視界を覆ったかと思うと、鏡の中にドレスを合わせた羽海が現れた。
「ね、本物のお姫様みたいでしょ? よく似合ってるよ! マジ可愛い!」
 ニカッと笑うセララ。
 鏡に写る自分は、やはりお姫様には見えないけれど。でも、セララが言うと悪く無いかもしれないと思えるのが不思議だ。
 本当に魔法使いなのかもしれない。そのことを伝える気は無いけれど。
 羽海の眦がほんの少し下がったことに気付いたセララは、羽海が『うるさい』と言うまで延々と可愛いと言い続けるのであった。


 半袖のボレロは『スイートスノウ』のボトルと同じ青。白と銀で大小の雪の結晶が散りばめられている。細やかな丸襟と裾、袖口には白いレース。
 ベアトップのドレスはほんのりと水色がかっている。しっかり膨らませた膝丈のバルーンスカートだ。胸元は思いっきりビジューとスパンコールで飾るか、白いカットレースを付けてもいいと書かれている。
 手袋は無く、代わりに左手首だけ濃紺の布地を使った腕飾りで彩られている。白い華奢なレースが重ねられているのがアクセントになっている。
 靴は腕飾りと同じ濃紺だが、右足はリボンの編み上げで、左足は普通のパンプスだ。髪はヘアピンで飾るくらいがいいとのこと。
「手と足はアシンメトリーにしてみました。ちゃんとしすぎてると貴女、落ち着か無さそうだし」
 ルイーズの説明を聞きながら、羽海はデザイン画を眺めている。こんなドレス、自分に似合うのだろうかと気後れしてしまうが――
「羽海ちゃんの為にデザインされたのに、似合わないわけないじゃない!」
 セララは笑って羽海の不安を一蹴した。何度もデザイン画と羽海を見比べてはうんうんと一人頷いている。
 その言葉に励まされた羽海はぎゅっと大事そうにデザイン画を抱え込んだ。
 ゆっくりと顔を上げ、ルイーズと目を合わせる。声は出ないが、文字ではなく口で伝えたい。
 その一心で羽海はパクパクと口を動かした。分かりやすいように一音一音ゆっくり区切って、ありがとう、と。
 羽海の声にならない言葉を聞き届けたルイーズは嬉しそうに笑ってサムズアップしてみせた。
「こちらこそ、どういたしまして」
 ルイーズはセララにもサムズアップしてすぐに手を振って作業机へと戻っていった。
「いつかちゃんと仕立てて貰おうね」
 セララがそう言うと、羽海が小さく頷く。
「自信なかったら、また魔法かけてあげるから!」
 魔法使いがそう言うと、お姫様はやっぱり小さく頷いてみせた。
 魔法が解けても、魔法使いは何度も魔法をかけるて見せるから――



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 山神さやか  )


( イラストレーター: 皆瀬七々海  )


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 02月19日
出発日 02月24日 00:00
予定納品日 03月05日

参加者

会議室

  • [7]秋野 空

    2016/02/23-22:44 

  • [6]秋野 空

    2016/02/23-22:44 

    ロイヤルナイトのジュニール・カステルブランチと
    パートナーの秋野空です
    改めまして、よろしくお願いいたします

    香水と空をイメージしてデザインをおこしたドレス…
    ルイーズさんのデザインならば間違いはないですから
    正直、俺の方が楽しみです!

  • [5]リチェルカーレ

    2016/02/22-22:45 

  • [4]和泉 羽海

    2016/02/22-21:57 

  • [3]秋野 空

    2016/02/22-17:20 

  • [2]ミサ・フルール

    2016/02/22-02:06 

  • [1]ミサ・フルール

    2016/02/22-02:03 

    こんばんは、ミサ・フルールです。
    自分好みの香水に合わせてプロがドレスのデザインを考えてくれるなんて素敵だよね、ドキドキしちゃうよね!
    今回はシュトルツさんに誘われてきたのだけど……。
    …………………………。
    の、のんびり雑談できる自信ないよ…っ!(ガクブル)
    と、とにかく、皆よろしくねっ


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