夢紡ぐ移動図書館(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●移動図書館『ゆめつむぎ号』
「移動図書館、というものを知っているか?」
A.R.O.A.職員の男の口から零れるのは、聞く人によってはちょっと不思議に思うだろう言葉。
居合わせた面々の中に首を傾げる者がいると見るや、男は次の言葉を継ぐ。
「移動図書館というのは、バス等にたくさんの本を積んで色々な場所を巡る、その名の通り移動する図書館だ。その移動図書館が、近々ハト公園にやってくるらしくてな」
やってくる移動図書館の名前は『ゆめつむぎ号』。バスに古今東西の素敵な本をいっぱいに詰めて主の気の向くままに旅をしている、気まぐれな図書館だという。
「『ゆめつむぎ号』には不思議な噂があってな。訪れた者の読みたい本が必ず見つかる、と言われている」
幼い頃ページが擦り切れるまで読んだお気に入りの絵本や心躍る冒険譚は手にした者の心を過去へと誘い、自分の今の心情にぴたりと嵌まる恋物語は読む者の心に共感や一歩を踏み出す勇気を呼ぶだろう。他にも、現在興味を持っていることの専門書や、眺めるだけで楽しい美しいイラスト集や写真集も。とにかく、訪れる者の心にことりと落ちる一冊に、必ず出会えるのだと。
「どうだ? 少し面白いとは思わないか? 興味があるなら、ハト公園へ。折角だから、パートナーと一緒にな」
一冊の本を二人で楽しむもよし、お互いが選んだ本を披露しあうもよし。楽しみ方は、色々とあるだろう。それはささやかな時間かもしれない。けれどきっと、素敵な本は幸せな夢を紡いでくれるから。
不思議な移動図書館での、図書館デートはいかがですか?

解説

●『ゆめつむぎ号』について
ハト公園にやってくる、ちょっと不思議な移動図書館。
本を借りて帰ることはできませんが、その場(ハト公園内)でなら手続き不要で本を楽しむことができます。
ジェールも一切必要ありません。

●本について
プロローグにある通り、読みたい本が何でも見つかると言われています。
(但し、公序良俗に反する内容の本はご用意できませんのでご了承ください)
プランにて読みたい本をご指定くださいませ。リザルトノベルに反映いたします。
神人と精霊で別々の本を選んでいただくのも勿論OKです。

●お約束
ハト公園には屋台もありますが、図書館が舞台ですので今回は飲食厳禁でお願いいたします。
また、公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、こちらもご注意くださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

本が好き、図書館も好き。移動図書館にはいつもお世話になっています。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  本かぁ…昔は結構読んだよ。特に絵本が好きだった
ほら、あんまり文字が読めなくっても、何となく判るでしょ?
辞書とか、図鑑とかも好きだったけど
誰に教わらなくても、知識を教えてくれる
一人でも、世界を教えてくれる
そう言う本が、好き

適当に指を滑らせて、本を出す前にやめる
本選びは桐華にお任せして、ベンチでのんびり
周りの雰囲気を楽しみながら、桐華が本を持ってきてくれるの待ってる
来なくっても良いけどね
ただ僕が、君の世界を知りたいだけ
君が僕の為に選んでくれる本って、何だろうって期待するだけ
…なーんて
そんなことは言ってあげないから、精々不貞腐れたお顔で持ってくるがいい

可愛い絵本でも、僕は何度でも繰り返し読むよ


木之下若葉(アクア・グレイ)
  買出しの途中にハト公園を覗いたら移動図書館が来ていた
そう言えば、この前職員の人が言っていたような……
そうだね。丁度いい機会だし少し寄って行こうか

軽く図書館の人に声をかけて本棚を覗く
色んな人に読まれて、年月を重ねた本達が
古書の香りを纏わせて並ぶ姿は何となく好きだから

ふと、惹かれるように手に取ったのは色あせた小さな本
ページを開いて軽く目で追って
興味を惹かれたのでそのまま近くのベンチまで借りて行く

誰かの手記のような内容のその本は
軽い文体で物語中の誰かに向けた心情が書かれている

読み終わって隣に座っていたアクアに気付いて
しばし考え気がついた
ああ、そうか。この本は
「恋文、だったんだね」



初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
  (「初心者さんのお菓子作り」と書かれた本を手に)
クレームブリュレ……あった
いや別にあいつが喜んで食ってたからとかじゃなく!
そう、あれだレパートリーを増やすためで……(何故か言い訳)
ふーん、意外に簡単に出来そうだ……うお!?(イグニスの声に慌てて本閉じ)
おま、驚かすなよ!!ん、絵本?
(ぱらぱらと中を見て)
なるほど、可憐なお姫様を護る騎士、か

……可愛いお嬢ちゃんなら見栄えもしただろうに
悪いな、折角のパートナーがこんなおっさんで(苦笑しつつ)

……いや、俺が姫はないだろうよ……
まあ、なんだ、
……ありがと、な



ノクト・フィーリ(ミティス・クロノクロア)
  移動図書館だって!どんな本があるのかな?
いろいろ見てみたいなあ。

ぼくは知らないこといっぱいだし、本も読みながらミティスにも聞いてみようかな。
あっ、もちろんミティスが集中して本を読んでたら声はかけないよ?本は今だけだけど、ミティスに聞くのは後でもいいんだし。
でも、あんまり本ばっかりに夢中になってたら、いたずらしちゃうよっ。



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  『応急手当読本』を見つけた。
何かあった時、手当てできた方がいいじゃん?
と思って中をチラ見したら「役立ちそうじゃん」
と熱中して読んでしまったぜ。
色々と物騒な話も聞くし。万一何かあった時に何もできないのは悔しいからな。
「オマエの綺麗な肌に傷が付いたら大変だろ?」とラキアに笑顔を向ける。
何があっても護るっていうのは簡単だけれど、あった時の対処を考えておかないのは結局相手の事を大切にしてるって言えないじゃん。
怪我させないのが一番いいけど。何かあった時の事を考えておかなきゃ。自分達は大丈夫、なんて思ってたら駄目だぜ。
ラキアは花の伝承の本見てたのか。本当に花好きなんだな。何か知らない花の話、見つけたか?




●ようこそ『ゆめつむぎ号』へ
「あれ……?」
買い出しの途中ハト公園を覗いた木之下若葉は、その景色の中に見慣れぬ物を見とめ、ふと足を止める。公園に停まっていたのは、深いオリーブ色のバスだった。バスの側面が開いていて、そこにずらりと本が並んでいる。
「――ああ、移動図書館か」
そういえば先日、A.R.O.A.の職員が移動図書館の話をしていたような……と、若葉は得心した。
「寄り道、ですか?」
移動図書館に気を取られていた若葉を見上げて、パートナーのアクア・グレイがどこかわくわくしているような調子で問う。菫の瞳の輝きに、若葉は仄かに目元を柔らかくして。
「そうだね。丁度いい機会だし少し寄っていこうか」
「はいっ!」
風が吹き、本たちがさわりとさざめく。
ようこそようこそと、歌うように。

●愛し恋しと唄う本
移動図書館の主に軽く挨拶をして、若葉は手近な本棚を覗く。そこには、たくさんの人に愛されてきたことが窺えるような古い本たちが、古書特有の香りを纏って誇らしげに並んでいた。自分好みの趣に、若葉は静かに驚く。
(読みたい本が必ず見つかる移動図書館、だったっけ)
成る程その不思議も真実かもしれないと思いながら、若葉は本の背表紙に視線を走らせる。と、1冊の本にその目が止まった。元は鮮やかな赤色を誇っていたと思われる色褪せた小さな本。惹かれるようにその本を手に取れば、心地良い重みが手のひらにすとんと収まった。ぱらぱらとページを捲り、文章を軽く目で追えば。
(うん、面白そうかも)
興味を引かれて、その本と共に時間を過ごすことに決める。手近なベンチに腰を下ろせば、そのまま本の世界へと誘われて。

一方のアクアは溢れる本に目移りし、手に取る本も決まらぬままに、バスの周りをうろうろぐるぐる。
(あ、ワカバさん!)
アクアがぐるぐるしている間に、若葉はもう本を選び終えていた。慌てて後を追い、ベンチに座った若葉の隣にちんまりと収まる。既に読書に没頭している若葉は、傍らのアクアには気づかない。
(ワカバさん、どんな本を読んでいるんだろう?)
表紙を覗いてみるも、古い古いその本の題名は、擦れて読めなくなってしまっているのだった。

その本は、誰かの手記のような内容だった。軽い文体で綴られるのは、『誰か』への想い。薄い本だったので、読み終わるまではあっという間だった。
「面白かったですか?」
いつの間にか傍らに座っていたアクアが興味津々の様子で問う。若葉は僅か目を見開いた。
「アクア、ずっとそこにいたの?」
「はい、いましたよ。でも、ワカバさん、全然気づいてくれないから」
「そっか……。ごめんね」
「大丈夫です。本を読んでるワカバさんをずっと見てたから、退屈しませんでした」
ふんわりと笑うアクアにもう一度ごめんねを言って。若葉は先の問いに答える代わりに、軽く首を傾げた。
「君に、逢いたい。って書いてあったんだ」
「あいたい?」
「そう、逢いたいって。……ああ、そうか」
不意に、ことりと胸に落ちるものがあった。そうか、この本は。
「――恋文、だったんだね」
気づいて思い返してみれば、本が繰り返し囁くのは紛れもなく愛の言葉で。
「何だか、本に惚気られてしまった気分だよ」
妬けちゃうなと苦笑いを漏らしながら、若葉は本の表紙をそっと指で撫でた。
「……逢いたい、か」
どうして俺は、この本を選んだんだろう。どうしてこの本は、俺を選んだんだろう。
この本は、その答えを知っているのだろうか。
遠く遠くへと想いを馳せながら、若葉はアクアの頭を優しく撫でる。
「? ワカバさん……?」
今度はアクアが、首を傾げる番だった。

●君が選んだ一冊を
「本かぁ……昔は結構読んだよ。特に絵本が好きだった。ほら、あんまり文字が読めなくっても、何となく判るでしょ?」
読む者を選びそうな本が並ぶ棚の前に立つ桐華の傍らで、叶はぺらぺらとお喋りを始める。
「あ、辞書とか図鑑とかも好きだったなぁ。誰に教わらなくても、知識を教えてくれる。ひとりでも、世界を教えてくれる。そういう本が、好き」
返す言葉はなくとも、ひとり話し続ける叶。桐華はため息をついた。
「……叶」
「ん? なになにー?」
「五月蠅い。野外とはいえ図書館だぞ、ここは」
「わかってるって。ちゃんと声量落としてるじゃん。ね?」
にこーと笑いかけられて、桐華はまたまたため息を零す。桐華の眉間の皺が濃くなるのを見て、叶はくすりとした。それからやっと棚に整列した本の背に指を滑らせ始め――けれど、ふと何か面白いことを思いついたというふうに、唐突に本選びを止める。
「ねぇ桐華。僕あそこのベンチで待ってるから、何か適当に、本を持ってきてよ」
「は?」
「桐華の昔読んでた本とか興味あるー」
「おいこら、ちょっと……」
「嫌なら嫌でいいけど……桐華に見限られたら僕、悲しくて泣いちゃうかも……」
よよよと袖で涙を拭う仕草をしてみせれば、桐華の顔にこれ以上ないというほど渋い表情が浮かんで。それを見て、叶はくすくすと笑みを漏らす。
「いや、勿論嘘ですけど、そんな露骨に嫌そうな顔しなくっても!」
ひとしきり笑った後で、叶は手をひらひらとさせて桐華と『ゆめつむぎ号』に背を向けた。
「それじゃ、あそこのベンチで待ってるからよろしくー。懐かしさに浸って、一人で読み耽っててもいいよ。僕はその間、鳩さんと戯れてるから」
でも僕が満足するまで帰らないんだからねと、不穏な言葉を付け足して。きっと桐華は、呆れたような不機嫌なような顔で自分の背を見送っているだろうと叶は思う。
(でも、面倒臭いなって言って、それでも素直に持ってきてくれるって、僕、信じてる)
足取り軽く、叶はベンチへと向かった。

昼間の公園には、幸せそうな人たちがいっぱいだ。元気な子どもを連れた母親に、仲の良さそうな老夫婦。腕を組んで歩くカップルに、楽しそうに駆け回る子どもたち。
見ているだけで退屈しないなとそんな人々をぼんやり眺めながら、叶は桐華をのんびりと待った。
(来なくっても、いいけどね)
胸の内で呟く、言葉は。
(ただ僕が、君の世界を知りたいだけ。君が僕のために選んでくれる本って、何だろうって期待するだけ)
ふふ、と叶は笑った。そして、小さく零す。
「……なーんて、ね」
そんなことは言ってあげないから精々不貞腐れたお顔で持ってくるがいいと、ちょっと意地の悪いことを思う叶である。
と、不意に、視界に影が落ちた。
「あ、桐華。お疲れー」
不機嫌顔で目前に立つ桐華に、叶はへらりと笑いかける。返事の代わりに、ずいと本が差し出された。ありがと、と本を手に取り、叶は桐華チョイスの本を吟味する。本は、お姫様と騎士が出てくる絵本だった。
「なんていうか……可愛いね?」
「要らないなら今すぐ返却する」
「あ、待って、読む読む! 読むから返さないで! 引っ張らないで!」
叶が絵本に目を通し始めると、むすっとした顔のまま桐華が言葉を紡ぎ出す。
「……どんな本でも見つかる、というのはあながち嘘じゃないのかもな。子どもの頃に読んだ覚えのある本が、出てきた」
『特に絵本が好きだった』なら丁度いいだろうと続いた台詞に、叶は寸の間目を見開き、それからくつくつと笑みを漏らした。
「……そんなに可笑しいなら返してきてやろうか?」
「や、待って待って! 読むよ。全部読みたいんだ。何度でも繰り返し読むよ」
興味のないような顔をして僕の話をちゃんと聞いていてくれたんだねと、そのことが、叶には何だか酷く嬉しかった。

●私のお姫様・俺の騎士様
「秀様。それでは、しばしのお別れです……」
移動図書館の前。イグニス=アルデバランは、捨てられた子犬のようないじらしさでパートナーの初瀬=秀にそう告げた。ため息をつき、秀はイグニスの額にデコピンを決める。あうっと叫んで、イグニスが額を抑えた。
「何がしばしのお別れだ。別々に本選びにいくだけだろうが」
「そうですけど……折角秀様と一緒におでかけなのに……」
「絵本のコーナーに、探したい本があるんだろ?」
秀の言葉に、イグニスは瞳を輝かせる。
「はいっ! その本をぜひ秀様に見せたくって!」
「じゃあ、解散だな。目当ての本見つけたら合流。以上!」
言い切って、秀は飲食関係のコーナーへと向かってしまう。その背中を名残惜しげに見送って、イグニスもまた、子どもの本のコーナーへと急いだ。
「どうしても、秀様に紹介したい本があるんですが……」
読みたい本が必ず見つかる不思議な図書館。ここでならあの本にも出会えるはずだと、イグニスはたくさん並んだ絵本の背表紙に目を走らせる。そして。
「あ、あった!!」
イグニスは、見つけたその本をそっと抱えて、秀の元へと急いだ。

一方その頃、秀は『初心者さんのお菓子作り』という本を手に取っていた。
「クレームブリュレ……あった」
吸い寄せられるように手に取った本のページを捲れば、そこには目当てのスイーツのレシピが秀を待っていたかのようにぴたりと載っていて。便利なもんだな、と秀は密やかに笑みを漏らす。
そして、秀が何故クレームブリュレのレシピを探していたかというと。
(いや別にあいつが喜んで食ってたからとかじゃなく! そう、あれだレパートリーを増やすためで……!)
誰に何を聞かれたわけでもないのに、言い訳めいたことを考えてしまう秀である。
と、気を取り直して。改めて、じっくりとレシピに目を通す秀。
「ふーん、意外に簡単に出来そうだ……」
その時。レシピを覚えることに没頭する秀の後ろに、影が迫る。
「秀様ー!」
「うおっ!?」
イグニスに声をかけられて、秀は慌てて本を閉じる。
「あれ、何読んでるんですか?」
「な、何でもない、何でも! おま、驚かすなよ!! ……ん、その絵本」
「あ、そうだったこの本を!」
ぱああと顔を輝かせて、イグニスは秀へと一冊の絵本を差し出した。秀はその絵本を受け取って、ぱらぱらとページを捲る。
「……なるほど、可憐なお姫様を護る騎士、か」
「そうなんです! これ、私が小さい頃によく読んでた絵本なんですよ! こんな騎士になりたいなって! 思いまして!!」
見つかってよかったと、にこにこ嬉しそうに語るイグニス。しかしページを捲る秀の胸の内には、どろりと重い塊が落ちて。ふっと目を伏せた秀の変化を、イグニスは見逃さない。
「……秀様元気ないですか?」
心配そうな顔で問われて、秀は苦笑した。
「いやなに、可愛いお嬢ちゃんなら見栄えもしただろうにと思ってな。悪いな、折角のパートナーがこんなおっさんで」
予想外の言葉に、イグニスがくるりと目を丸くする。そしてイグニスは、真剣な顔でぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。
「ええと、可愛い女の子がいいとか、そういうのじゃなくて。私は秀様がパートナーで、すごく嬉しかったですよ?」
曇りのない青い瞳は、真っ直ぐに秀を見つめている。
「私にとっては、秀様が一番のお姫様です!」
力強く言い切られて、秀は思わずふっと笑みを漏らす。
「……いや、俺が姫はないだろうよ。……まあ、なんだ、ありがと、な」
柔らかく笑み零せば、イグニスの顔も見る間に明るくなった。

●少年は未だその恋情を覚えず
「わあっ、移動図書館だって! ほら、A.R.O.A.の職員さんが言ってたじゃない? 面白い移動図書館がやってくるって。読みたい本が必ず見つかる、不思議な図書館!」
『ゆめつむぎ号』の姿を目に留めて、きっとあれがそうだよと、ノクト・フィーリは弾んだ声を出した。
「どんな本があるのかな? いろいろ見てみたいなあ」
子どものように目を輝かせるノクトに、パートナーのミティス・クロノクロアは柔らかく目を細めてみせて。
「ちょっと寄っていこうか、ノクト」
「うんっ! えへへ、ミティスと図書館、嬉しいなっ」
早く行こうと急かすノクトの背を、ミティスはゆっくりと追いかける。さて、どんな本が自分たちのことを待っているのだろうかと、ほんのりと胸の内を弾ませながら。

ずらりと並ぶ本の中からノクトが選び出したのは、神人と精霊について記された本。それは神人として顕現した女性が著者の、自身の体験等を纏めた本だった。
契約した相手の感情を少しでも理解したい。意識的にかそれとも無意識の内にか、ともかくそういう想いを抱いているノクトの気持ちに、偶然手に取ったその本はぴたりとはまる1冊だった。けれど。
ぱらりぱらりとページを捲るも、詩のような著者の言葉は、ノクトには些か難解すぎて。そのうちにノクトは、その本を読むことにすっかり疲れてしまった。ため息が口をつく。
「変なの。読みたい本が見つかる図書館なのに。この本よくわからないし、分厚いし」
でも、何故かその本を棚に戻してしまおうという気も湧かなくて。ノクトは本を手にしばし考えて――そうして、ふと、とてもいいことを思いついた。
「そうだ! ぼくは知らないこといっぱいだし、この本のこと、ミティスにも聞いてみようかな」
そうと決まればと、ノクトはきょろきょろとミティスの姿を探す。
「あ、いた!」
ミティスは近くのベンチに腰を下ろし、自身が選び出した本に夢中になっていた。ノクトが近寄っていっても気づかないくらいの熱中っぷりだ。ノクトは、ミティスの本を覗こうとベンチの後ろに回った。ミティスの本は、どうやら小説のようだ。
(集中して読んでるみたいだし……声はかけないよ。本は今だけだけど、ミティスに聞くのは後でもいいんだし)
うんうんと、ひとり頷くノクト。しかし、しばらく待ってみたもののミティスが自分に気づく気配はなく。
(……あんまり本ばっかりに夢中になってたら、いたずらしちゃうよっ)
ミティスの耳元にそっと顔を近づけて……。
「わっ!」
「うわっ?!」
大きな声を出せば、ミティスはやっとノクトに気づいた。ミティスの緑の瞳がやっと自分を映してくれたことが嬉しくて、ノクトはころころと笑う。
「ごめんね、驚かせて。でも、ミティスったら全然気づいてくれないんだもん」
「ああ、それで……」
「あのね、ミティスに聞きたいことがあるんだ」
ノクトは件の本をミティスへと差し出す。
「この本を書いた人のね、言ってることがよくわからなくって」
ノクトがそう零せば、ミティスはぱらぱらとページを捲り、それからふんわりと微笑んだ。
「ああ、これは……この人はね、パートナーのことが好きだったんだよ」
「好き?」
得心がいかない様子のノクトを見て、ミティスが言葉を足す。
「恋、してたんだと思うよ。その人は、パートナーにね」
「……恋?」
ノクトはきょとんと首を傾げた。
恋。それは今はまだ、少年の心が自覚できていない感情で。
くすりと、ミティスが笑う。
「いつかノクトにも、この本が心に響く日が来るんじゃないかな」
ミティスがそう言うのならばそうなのだろうと、ノクトはミティスの隣にそっと腰掛け、また本のページを捲り始めた。

●本はかくも雄弁に語る
花を愛するラキア・ジェイドバインは、花の神話や伝承に関する本を手に取っていた。
(知っている話も多いんだけど、ね)
それでも、本の中に知らない花やその花に纏わるエピソードが載っていると嬉しくなるラキア。その花に込められた願いや、その花たちがどう人々に愛されてきたのかを知るのは、彼にとってあたたかな喜びだった。
「――さて、セイリューはどうしているかな?」
目を通し終えた本をそっと閉じると、ラキアはベンチから立ち上がり、ぽつと呟く。
パートナー神人のセイリュー・グラシアが本を読む姿は、あまり見たことがない。彼と図書館の組み合わせは、ラキアの中ではっきりとした像を結ばなかった。
(きっと、退屈しているんだろうな)
そんなことを思いながら、移動図書館の周りにセイリューの姿を探す。と、探し人を見つけて、ラキアは目を見開いた。本棚の前に立ったセイリューが、酷く真面目な顔をして1冊の本と向き合っていたから。
(彼があんなに真剣に本を読んでるところ、初めて見た)
予想外の事態に驚きながらも、ラキアはセイリューへと歩み寄る。彼がどんな本を読んでいるのか、興味が湧いてきていた。

「セイリュー、何を読んでるの?」
声をかけられて、セイリューははたと顔を上げた。ラキアがちょいと小首を傾げて、こちらを見やっている。セイリューはそのかんばせに笑みを乗せながら、手にした本の表紙をラキアの方へと向けてみせた。
「『応急手当読本』? 何を読んでいるのかと思えば、実用書?」
しかも医療関係なんだねと、ラキアは意外そうな顔をする。セイリューはへへと笑った。
「何かあった時、手当てできた方がいいじゃん? って中をチラ見したら、役立ちそうだなぁって思ってさ。熱中して読んでしまったぜ。色々と物騒な話も聞くし。万一何かあった時に何もできないのは悔しいからな」
オマエの綺麗な肌に傷が付いたら大変だろ? と軽口を叩けば、何故かラキアは困ったような、ちょっぴり傷ついたような顔をした。
「……セイリューがそんなに『何かあった時』のことを真剣に考えてるって気がつかなかったよ。少し、反省」
ラキアがあんまり真面目にそんなことを言うものだから、セイリューは何だかむずがゆいような心地になる。自分の考えを知ってもらえるのは嬉しいけれど、そのためにラキアに傷ついてもらいたいはずはない。
「そんな難しく考えなくていいって! 何があっても護るっていうのは簡単だけど、いざという時の対処を考えておかないのは結局相手のことを大切にしてるって言えないじゃんって、それだけの話。勿論、怪我させないのが一番いいけど。でも、何かあった時のことも考えておかなきゃな」
自分たちは大丈夫、なんて思ってたら駄目だぜとあくまで軽い調子で言葉を零せば、やっとラキアの表情が柔らかくなって。その顔を見て、ほっとするセイリューである。
「ラキアは花の伝承の本、見てたのか。本当に花好きなんだな。何か知らない花の話、見つけたか?」
「うん。でも今日は、もっと嬉しいものを見つけた気がするよ」
それが何とは、ラキアは言わない。首を傾げるセイリューに、ラキアは柔らかい微笑みを向けて。
「セイリューのこと、少し見直したかな。単純で乱雑な奴って思ってた。ゴメンね」
「……って、オマエ、結構酷くないか?」
「そうかな? 気にしない気にしない」
ねえ、その本俺にも見せてよと、ラキアが笑う。読書の時間は、まだまだ続きそうだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:初瀬=秀
呼び名:秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス

 

名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 紬凪  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月23日
出発日 05月04日 00:00
予定納品日 05月14日

参加者

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