プロローグ
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この間と同じ職員が、ばばーんとパンフレットをひらひらしていた。
物凄いひらひらして強調していた。
「はい、というわけで、前回の依頼のおかげで無事、お茶会が開けます!」
話がよく分からない、というウィンクルムに、職員がきらりと瞳を光らせる。
曰く、ハイネ村で「2月14日の誕生花のカミルネでお茶会をしよう」という企画が持ち上がったものの、それをリア充爆発しろ派のハーピーに狙われたのを、ウィンクルムが撃退した。
という話である。
ちなみに会場の手伝いもしてくれており、ウィンクルムの皆によって会場の一部はさらに可愛くなったと評判である。
「2月14日の誕生花のカミルネ……カモミールですね、これのハーブティーをお供に、バレンタインを楽しんじゃおう、というお茶会になってます」
毎年毎年チョコばかりというのも……という方向けだという。
「まずは、ハーブティーをお楽しみいただけます。今回はせっかくですからカミルレティーをお勧めしちゃいますが、勿論、ローズヒップとか、普通の紅茶やコーヒーなんかでもいいと思います。
あと、2月の誕生石、アメジストを模した紫色のゼリーや、琥珀糖なる今回は鉱石を模した形にさせたちょっと変わった飴なんかもありますので、バレンタインだからチョコは飽きた! なんていう方にもおすすめです。
とはいえ、勿論勿論、カミルレが載ったチョコケーキやカミルネの押し型のクッキーなんかもあるので、これまたこちらもおすすめですよ!」
で、どういった会場かと言いますと……と写真をばばーんと見せる職員。
「この正面の門はカミルネの造花と風船で彩られてます、ここを通って中に入ると、ぴっかぴかに磨かれた白いテーブルと白い椅子がありまして……。
その一つ一つのテーブルにはカミルネの鉢植えがあります。ハートの形に鉢植えがおかれたりして、可愛いんですよ~。
会場内は甘い香りが広がっていますよ!
カミルネは、林檎の香りだそうですから楽しみですねぇ……。
カミルネの彫られた鈴がおいてありますので、メニューを見て頼むものが決まったらそれを鳴らしてくださいね。
ちなみに、屋台がありますが、それは今回のメニューを作っている調理場ですので、そこに並ぶ必要はありません」
だがしかし、ひょっとしたらハーブティーが美味しくてお土産が欲しいなどそういうこともあるでしょう、と勝手に納得して頷く職員。
「お土産はお土産屋さんがありますので、そちらでどうぞ!
ハーブティーやチョコケーキや、琥珀糖、ゼリーにクッキーなんかも並んでいるようですよ。
ついでにカミルネの栞がおまけにもらえます」
是非是非、行ってみてくださいね!
職員がそう言って、微笑むのだった。
解説
納品の時には、既に14日を過ぎてしまいますが、ちょっと時を戻ってお楽しみください。
・費用
お茶会分としてお一人様 400jr いただきます。
(飲み物+ケーキ等)
お土産を買う際に、さらに+されていきます。
★ハーブティー 100jr
★琥珀糖 50jr
★チョコケーキ 150jr
★クッキー 100jr
★ゼリー 50jr
栞は買った人におまけでついてきます。
・テーブル
2人掛け~6人掛け となっており、必要ならばテーブルを合わせて10人とかも可能です。
ゲームマスターより
ちょっと時期が外れてしまいますが、もしよかったらお楽しみください!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
カミルレティー+紫色のゼリー 昨年、一昨年とバレンタインはチョコ続きでしたが お茶会というのも趣向が違って良いですね…林檎の香りが素敵です… お茶会を楽しんで次の依頼もまた頑張りましょう。 結局チョコケーキを選んでますけど。 カガヤはチョコで良かったのですか? 質より量派ですか、納得です。 ゼリーは2月の誕生石のアメジストの色から来ているそうですよ。 …ある意味大事な事でしたけど教えた事もありませんでしたしね。 来年…また楽しみがひとつ増えましたね。 約束ですよ(指きり バレンタインと遅れてしまったカガヤのお誕生日のお祝いで どうぞ(ゼリーをスプーンで掬って差し出し ケーキ頂きますね。はむ。 …甘くて美味しいです。 |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
カミルネの造花と風船の門、綺麗だね♪ んーいい香り♪私、カミルネの香り大好きなんだ 羽純くんと席に座り、メニューと睨めっこ カミルレティーでしょ 琥珀糖、チョコケーキ、クッキー、ゼリー…制覇しちゃいます! だって、全部美味しそうですし…甘党な羽純くんだって、全部食べてみたい筈… 二人でシェアすれば余裕で食べられる…よね? 羽純くんに笑われてしまった…食いしん坊と思われたかも(恥 (鉢植えを見ながら) 羽純くん、カミルネの花言葉って知ってる? 「逆境に負けない」 凄く逞しい花で 謙虚さと忍耐の象徴って言われてるんだよ 甘い香りも大好きなの 今日は凄く幸せ お土産に一緒にハーブティを買っていく 夜寝る前に飲むのがお勧めなんだって |
ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
※『彼』=エミリオ ☆心情 『彼』には「アイツ(エリオス)には近づくな」って言われているけれど 私この間シュトルツさんをとても怒らせてしまったから…ちゃんと謝りたいんだ ☆2人掛けの席 わ、私貴方に謝りたくて この間は失礼なことをしてしまって、ごめんなさい え? は、はい、忘れます! (チョコケーキを見て沈黙する精霊を見て)シュトルツさん、もしかして…甘いもの苦手だったりします? ぷっ、あははっ! ご、ごめんなさい、だ、だって、『彼』が苦手な野菜を前にしていった言葉と同じだったから…っ かわいいなって…あうっ、ごめんなさい(頭おさえる) (この人は『彼』を苦しめる悪い人の筈なのに どうしよう…分かんなくなってきちゃった) |
マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
今日はウィンクルムとして参加しているのでユリアン様呼び 心情は旦那様 エスコートされ恐縮 門の飾りや会場の香りに感嘆 「ご無事に開催できて良かったですね 以下順適宜 待つ間 カミルネの鉢植え観察 微笑ましく感想ぽつり(アドリブ期待 琥珀糖に宝石を見る様にうっとり 食べるのがもったいない 飲食適宜 紅茶話 コクリ 赤面 心情 チョコは十分な方よね… 今朝屋敷に大量のチョコが届いた 有力者のご子息で人柄も良くお美しい 大勢の女性が心を寄せるのは当然 私は神人という立場だけでこんな時間を過ごさせて頂いてる …私が出来るのはいつも通り真心を尽くす事だけ お土産は自分に持たせて頂く 2つのケーキ? 「はい!とっておきを 驚きと喜び 栞は紅茶の本に使います |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
ハーブティーとケーキ 買 琥珀糖 まず係の人に挨拶 無事に開催されたようでなによりです 良かった…頑張って磨き上げた甲斐がありました お土産買い 自分が磨いた机にお客さんとして座る …?どうしたの? そ、そんなに似てた…? そっか… えと…ガルヴァンさんみたいにビシッとしなきゃって思ったら…つい無意識的に真似しちゃったのかも…? とは言え他の人達に敬語じゃなかったのは失礼だったかな… お、俺状態って… う… あ…も、もしかして、嫌、だった…? そ、そうなんだ…良かった… 琥珀糖 ガルヴァンさんの目の色に似てる気がして… !? えええそ、そう言う事じゃなくてっ(わたわた じょ、冗談って… ふと気付く この人に冗談言われたのって初めてかも…? |
●
マーベリィ・ハートベルの眼鏡越しの灰色の視線の先では、白いカミルレが施された門が見えた。
きらきらと瞳を輝かせるマーベリィをエスコートしながら、ユリシアン・クロスタッドは、今日はウィンクルムとしての参加だと伝えてよかったと思うのだ。
もしもいつも通りの関係で来たならば、恐縮して今のように瞳を輝かせる姿をみるのもなかったかもしれない。
とはいえ、マーベリィ本人はこうやってエスコートされているのも、恐縮してしまうのだけれど。
やってきた案内係りにほっと息を零し、話しかける。
「ご無事に開催できて良かったですね」
「綺麗な会場だね」
ユリシアンの褒め言葉にぱっと笑顔に花が咲いた。
ウィンクルムのお陰で開催出来た上に、こうやって来てくれるのがうれしいんですよ! と微笑む案内係りに誘導されながら、席へと向かうのだった。
メニューを見終えればユリシアンの白い指先が、ベルを持ちあげた。
「注文はぼくに任せて」
洗練されたその指先が紡ぐ動きに、マーベリィがほぅっと溜息を零す。
(チョコは十分な方よね……)
そんな彼が注文する姿を見ながら思う。
今朝がた届いた大量のチョコ、それは目の前に居る彼が有力者のご子息で人柄も良く美しいからこそだろう。
(大勢の女性が心を寄せるのは当然よね)
こうして、神人として傍に居る時間ができた今、自分に出来るのはいつも通り真心を尽くすことだけだ。
「マリィ、どうしたんだい?」
甘味好きの彼女のためにセレクトした物を注文しおえたユリシアンはマーベリィにと問いかける。
瞳を瞬かせた彼女は、にこりと微笑みを浮かべ、視線をカミルレの鉢植えにと向けた。
「ハートの形に置かれてるなんて、素敵でございますね」
ふっと視線をユリシアンへと向ける。
「誰かに恋をしている方がされたのでしょうか」
ふわりと風に揺れるカミルレは、ほんわかと甘い香りを二人へと運んでくれる。
「どうだろうね」
ただ、こういった中で愛を囁くと言うのも、きっと素敵だろう。
二人の視線が絡み合う……と、その時、頼んでいたものがやってくるのだった。
やってきたのはカミルレティーに、琥珀糖、そしてクッキーだった。
「綺麗……」
光を浴びて輝く紫や青や薄い緑色の琥珀糖。
それはまさに、宝石のようだった。
マーベリィの瞳が宝石のように、いや、それ以上に輝きを見せる様を、ユリシアンは微笑んで見守る。
彼女の反応がとても愛らしい。
「食べられる宝石なんて格別だろう?」
「えぇ、ユリアン様」
食べるのが勿体ないと思いつつも、ここで食べないと逆に「勿体ない」ことになりそうだ。
二人、のんびりと紅茶を飲み、甘味を楽しむ。
「最近きみの紅茶が更に美味しくなったね、勉強してるんだろ?」
しゃりり。
琥珀糖をかみ砕いた瞬間のその言葉に、顔が赤くなっていく。
その様子を、ユリシアンが微笑ましく見守る。
(ぼくの為……だよね)
顔が赤くなるのを見れば、うぬぼれではないだろう。
チョコをくれる気配のない彼女。
(ぼくがチョコを待ち焦がれるなんてね)
そんな気持ちもあるのだけれど、こくんと頷くマーベリィに今はまだ……いいかとそっと微笑むのだった。
マーベリィとユリシアンは二人、お土産を一つ一つ見ていた。
それらは一通り買われたのだが……。
ケーキだけ二つという事実に、マーベリィが首を傾げる。
「一緒に食べてくれる? もちろんきみの紅茶で」
「はい! とっておきを」
お土産はそっと宝物のように大事に大事にマーベリィが受け取る。
驚きと、喜びと。
その思いをそっと胸に秘めて、微笑めば、さらなる喜びがもたらされた。
「栞は、マリィに」
それは、紅茶の本に挟まれることとなるだろう。
楽しい時間をいまだ味わうように二人、ゆっくりと門へと向かっていく。
●
カミルレの造花と風船が飾られた門を潜り抜ける耳に、鈴の優しい音色が聴こえてくる。
その音色を聴きながら、桜倉 歌菜は月成 羽純にと微笑みかけた。
「カミルレの造花と風船の門、綺麗だね♪」
そうだなと頷く彼に、歌菜は係りに案内されるままに共に席へと歩いて行く。
辺りを漂う甘い香りに、歌菜は隣を歩く大切な人との時間を思い微笑みを零すのだった。
「んーいい香り♪ 私、カミルレの香り大好きなんだ」
「本当に林檎みたいな香りなんだな。俺もこの香りは嫌いじゃない」
ふわりと甘い林檎の香りをかき分けながら、メニューを羽純と共に覗き込む歌菜。
「カミルレティーでしょ」
それは絶対にはずせない! とばかりに目にとめる。
「琥珀糖、チョコケーキ、クッキー、ゼリー……制覇しちゃいます!」
(だって、全部美味しそうですし……甘党な羽純くんだって、全部食べてみたい筈……)
「二人でシェアすれば余裕で食べられる……よね?」
そう零す彼女にくすりと笑みを零す。
(羽純くんに笑われてしまった……食いしん坊と思われたかも)
「もしかしなくても、俺が全部食べてみたいと考えてたのを感じ取ってくれたのか」
甘党である自分をよく分かってくれている……と羽純の歌菜へ注ぐ眼差しは優しい。
伸ばした指先で、ぽんっと優しく頭を撫でれば、ぱっと花咲くように微笑みを浮かべる。
そんな彼女に微笑みを深くしながら、羽純は注文するのだった。
最初にやってきたのはハーブティーだ。
職業柄、ハーブティーが気になっていた羽純は、目の前に置かれたハーブティーを興味深げに見つめる。
ハーブティーに酒を加える、ハーブティーカクテルが気になっているために、今日、このカミルレティーは味わい所だ。
一口飲んで見れば、ほんのり甘く、どこかさわやかな口当たり。
続いてきた琥珀糖とゼリーは、宝石のようにきらきら輝いていた。
「わぁ、綺麗!」
歌菜の瞳もそんな宝石にも負けないぐらい輝くのを、カミルレティーを飲みながら見つめる羽純。
クッキーにチョコケーキもやってくれば、もうテーブルの上はお菓子の山だ。
どこか夢のような光景に、一つ一つわけあいながら、美味しさと幸せを半分個していく。
感想を言い合いながら食べるのは、凄く楽しい。
特に気に入ったチョコケーキを食べながら羽純は瞳を細め、そう思う。
「あ、羽純くん」
しゃりしゃりと琥珀糖を食べ終え、歌菜は目の前に置かれた鉢植えにと視線を落とす。
「カミルレの花言葉って知ってる?」
「花言葉?」
それはね、と瞳を細めて歌菜が囁く。
「逆境に負けない」
「へぇ……見た目、可愛らしい花なんだがな」
「凄く逞しい花で、謙虚さと忍耐の象徴って言われてるんだよ」
甘い香りも大好きなのと微笑む歌菜に、羽純の瞳が細められた。
「我慢強く咲いて、見た目でも香りでも俺達を楽しませてくれてるんだな」
視線は、カミルレから……歌菜の元へ。
「俺も、好きになった」
(歌菜みたいな花だ)
ぱっと歌菜が、今日は凄く幸せだと笑顔になったのをみて、羽純も微笑みを浮かべるのだった。
先程の時間を二人で思い返しながら、お土産用にハーブティーを求めることに。
「夜寝る前に飲むのがお勧めなんだって」
心身ともにリラックスできるハーブティー。
さらに、今日という思い出もついてくるとなれば、その効果も絶大ではなかろうか。
こちらも、どうぞ!
差し出された栞を受け取る羽純。
カクテルの本などに挟んで使うのも、いいかもしれない……。
買ったお土産と、貰った栞。
新しく「好き」になった記憶と共に二人、帰路へとついていった。
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さんさんと暖かな光が降り注ぐ中、手屋 笹とカガヤ・アクショアはカミルレと風船の飾られた門をくぐってお茶会会場へやってきた。
甘い香りが当たりを満たしており、その甘さはチョコの甘さではなくて。
昨年、一昨年とチョコ続きだった二人のバレンタイン。
(お茶会というのも趣向が違って良いですね……林檎の香りが素敵です……)
席につけば、ハート型に並べられたカミルレからとても甘く香ってくる。
(お茶会を楽しんで次の依頼もまた頑張りましょう)
そんな笹の思いと共に、メニューを開くのだった。
「ウィンクルムのおかげでお茶会が出来るって何だかありがたい……」
ゆるりと視線を向ける先には、沢山の人々が楽しげに笑いながら今日という日を楽しんでいる。
それは勿論、お客さんだけじゃなく、店の人や村人たちもだ。
(ここを助けたウィンクルム達に感謝しなくちゃ)
「俺達が今まで依頼解決した場所でも、また誰かが楽しくお茶したり平和に楽しんでくれていたりするのかな」
その言葉に、きっと楽しんでくれているに違いないと笹が頷く。
「そうだったら何だか嬉しいね」
いつか、また行けるだろうか……。
そんな風に思う二人の元へ、注文品を持ってやってくる人影が見えてきた。
届いたのは、カミルレティーとゼリー、そして珈琲とチョコレートケーキだった。
「結局チョコケーキを選んでますけど。カガヤはチョコで良かったのですか?」
先程まで悩んでいたカガヤに言えば、カガヤが笑う。
「ボリュームが欲しくてケーキにしちゃった」
「質より量派ですか、納得です」
確かにチョコケーキは他のものよりも量がある。
その点、笹の目の前に置かれた紫色のゼリーなんかは、質重視だろうか。
そんな紫のゼリーをみて、カガヤが首を傾げた。
「笹ちゃん、その紫のゼリーはなあに?」
これ、ですか? と、紫水晶を模したゼリーにと視線を落とす。
鉱石を模したものだからか、言われてみなければそれがなんなのかは分かりにくいかもしれない。
「ゼリーは2月の誕生石のアメジストの色から来ているそうですよ」
「誕生月……あれ、もしかして笹ちゃん2月生まれだったの……?」
もしかしてと聞けば、笹が頷く。
「……ある意味大事な事でしたけど教えた事もありませんでしたしね」
初めて知った事実にカガヤの瞳が瞬く。
よくよく考えれば、と呟く。
「お互いの誕生日祝った事無かったね……俺も1月で過ぎちゃってた……」
でも、と瞳が輝いた。
今年は無理でも、「これから」がある。
「来年はお祝いしよう! 約束だよ!」
差し出すのは小指。
それは、未来への約束の証。
「来年……また楽しみがひとつ増えましたね」
伸びた小指が、絡み合う。
小さく口元を緩めて微笑み、笹も頷いた。
「約束ですよ」
指切りげんまんされた約束は、きっと来年叶うことだろう。
新しい約束が増えた後……。
スプーンを手に取り、暫しゼリーを見つめた後、笹はそれを掬い取る。
バレンタインと、そして遅れてしまったカガヤへの誕生日のお祝いということで。
「どうぞ」
カガヤの口元へ紫色のゼリーを運ぶ。
「ゼリーくれるの?」
視線は紫色のゼリーから、笹の元へ。
僅かに頷くその姿に、にこりと笑みを零した。
「それじゃ遠慮なく」
一口貰ったそのゼリーは、なんだかとても甘く感じられた。
それは「笹の気持ち」が込められているからだろう。
ほわんとした甘さを楽しみながら、カガヤもフォークでケーキを食べやすい大きさにして、笹の口元へと差し出した。
「笹ちゃんもケーキもどうぞ!」
「ケーキ頂ますね」
はむ。
と唇に含んだそのケーキ。
笹にもそれがとても甘く感じられて。
きらきらと笹を見つめるカガヤの気持ちが込められているからだろう。
「……甘くて美味しいです」
カガヤから返ってきたのは、とても嬉しそうな、そんな笑顔だった。
●
ミサ・フルールは今日共にやってきたエリオス・シュトルツを見る。
彼……恋人であるエミリオには、エリオスに近づくなと言われているものの、今日ばかりはきちんとした謝罪をしたいと、共に来てもらったのだ。
今日このお茶会できちんと謝罪しないと。
そう心に誓い、ミサはカミルレの花々が飾られたテーブルの間を係りの人に案内されながら、歩いて行く。
共に向かうエリオスの表情からは、何を思っているかは伝わってこない。
二人掛けの白く輝く椅子とテーブルの元に案内され、席に座ればテーブルに置かれたカミルレがふわりと甘い香りを二人の間に漂わせた。
エリオスの赤い色の瞳はじっとミサを見つめていた。
「こういう場は息子と来ればいいだろうに、何故この俺を誘った?」
「わ、私貴方に謝りたくて」
謝る? という視線を受けて、ミサは頭を下げる。
その動きに合わせてカミルレの花もまるで頭を下げるかのようにふるりと揺れた。
「この間は失礼なことをしてしまって、ごめんなさい」
「ふっ、律儀な娘だな」
小さく口元を緩め、……もう怒ってなどいないさ、と続く言葉は周りからなる鈴の音にかき消され、ミサの耳に、意味のある音として届かなかった。
「え?」
されど、何か言ったであろうはその表情から分かるから、不思議そうに首を傾げるミサ。
ぱさりとそれに合わせて揺れる栗色の髪を視界に収めつつ、エリオスは先ほどとは違う言葉をミサに伝える。
「あの時の事はもう忘れろと言ったんだ、いいな」
「は、はい、忘れます!」
勢いこんで頷くミサを見つめるエリオスの元に人が近づいてくる気配がした。
お待たせいたしました、と係りの人が持ってきたのは甘い香りを放つカミルレティー。
「ほう、ハーブティーか美味そうだ……な」
だがしかし、運ばれてきたのはカミルレティーだけじゃない。
カミルレの花が可愛いチョコケーキも目の前に置かれていく。
ではごゆっくり。と係りの人が去って行くのを感じながら、不自然に途切れたエリオスの言葉に首を傾げるミサ。
だがしかし、それがなぜなのか思い至る。
「シュトルツさん、もしかして……甘いもの苦手だったりします?」
「ふん、甘味など食わずとも生きていけるわ」
その言葉は、ミサにとっては初めてではなかった。
とても近くて、愛おしい人も同じことを言っていて……親子というのだから、当たり前かもしれないのだけれど。
「ぷっ、あははっ!」
「なっ……」
花が咲いたように笑うミサに、エリオスが瞳を見開いた。
鳩が豆鉄砲を喰らったような衝撃というべきか、初めて恐怖以外の感情を向けるミサに、面食らう。
「ご、ごめんなさい、だ、だって、『彼』が苦手な野菜を前にしていった言葉と同じだったから……っ」
「……」
「かわいいなって」
続けて言われた言葉は、最後まで言えなかった。
「目上の男に可愛いとは何事だ!」
頭に走った衝撃……エリオスがチョップしたのだ……に、頭をさする。
「あうっ、ごめんなさい」
そんな彼女の指先が止まった。
甘い物が苦手なはずなのに、ケーキを唇に運ぶ仕草は優雅だ。
「何を驚いている。この茶と茶菓子はお前の詫びなのだろう?」
出されたものはちゃんと食すのが礼儀だ。と少々ぶっきらぼうな言い方ながらも、食べてくれる姿に小さな笑みが口元に浮かぶ。
自分もチョコケーキを唇に運び、甘い味を堪能するのだった。
そろそろ帰ろうかとそんな時、さっとエリオスの指先が伝票にとかかり、ミサが気付く間もなく会計へと足を進めてしまう。
「あ、シュトルツさん」
慌ててミサが声をかければ、エリオスが振り返った。
「俺が払う」
そこで待っていろ、と言われミサは小さく頷いた。
「ありがとうございます」
お礼を言い、その背中を見送りながら思う。
(この人は『彼』を苦しめる悪い人の筈なのに。
どうしよう……分かんなくなってきちゃった)
その心の中はとても複雑だった。
ミサと同じように……いや、それ以上に複雑なのはエリオスだったかもしれない。
(この感情はただの気まぐれだ。
あの女の娘と共に過ごして穏やかな気持ちになるなどあってはならないことなのだから)
こんな風に言い聞かせないといけないという事実が、エリオスにとっては少々腹立たしい。
されど今日という時間が、今後二人に対してどんな影響を与えるのか。
それはもう少し後にならないと、分からないことかもしれなかった。
●
アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルドは、再びこの地に足を踏み入れていた。
この会場設置の手伝いをした記憶もまた、新しかった。
カミルレと風船の門を潜り抜ければ、前回の時に話をした女性が気がついて駆け寄ってくる。
「無事に開催されたようでなによりです」
ありがとうございます、と頭を下げる女性と暫し歓談をする彼女たちの目の前では、白く輝くテーブルや椅子。
そして、そこに腰かけ楽しい時間を過ごす人々の笑顔が見えた。
「良かった……頑張って磨き上げた甲斐がありました」
そんな様子を見た後、アラノアとガルヴァンはまずは土産屋へと向かうのだった。
土産屋は、人でにぎわっていた。
「土産は何を?」
ガルヴァンの問いかけに、視線は一つのお土産に。
アラノアの視線の先には、ガルヴァンの瞳の色のような琥珀糖が袋に入れられ置いてあった。
綺麗な琥珀色……。
手にとって琥珀糖を見せる。
「ガルヴァンさんの目の色に似てる気がして……」
それ聞き、ガルヴァンが切れ長の瞳を細めた。
「お前は俺の目をイメージしながらそれを食べるのか……」
「!? えええそ、そう言う事じゃなくてっ」
わたわたと手を振り首を振りをしていれば、くすりと笑い声が聴こえた。
目の前のガルヴァンは口元を緩めて微笑んでいる。
「……冗談だ」
「じょ、冗談って……」
吃驚した、と胸をなでおろしている所で、ふと気がついた。
(この人に冗談言われたのって初めてかも……?)
新しい一面を知ったかもしれない。
そう思う彼女の視線の先では、ガルヴァンも土産……カミルレティーを手に取っていた。
「どうした?」
「ううん、じゃぁ買おうよ」
二人、会計へと向かえば、そちらでも話をした男性がいらっしゃいと嬉しそうに声を掛けてくれる。
次は、お茶会を楽しもうか、と買ったお土産を手に会場へと向かうのだった。
自分が磨いたテーブルに今日はお客さんとして腰掛けアラノアとガルヴァンは、お土産を買い終わりカミルレティーと、そしてアラノアはケーキも楽しんでいた。
そんな二人の傍らには先程買ったお土産が置いてある。
(やはり美味い物は良い)
紅茶を飲みつつ、視線をアラノアへ移し、気になっていたことを問いかける。
「……不思議に思った事がある」
どうしたの? という問いかけに、視線を合わせるように見詰め、ガルヴァンは言葉を紡いだ。
「アラノア……あの独り身ハーピーの討伐の際、俺と同じような口調になっていた気がしたが……あれは何故だ?
特に運転手に声を掛けるところなぞ俺がもう一人いるのかと思ったぞ」
もう一人、と呟き、アラノアはケーキから手を離す。
「そ、そんなに似てた……?」
アラノアがあぁ、と頷くガルヴァンの言葉に瞳を瞬いた。
「そっか……えと……ガルヴァンさんみたいにビシッとしなきゃって思ったら……つい無意識的に真似しちゃったのかも……?」
とはいえ、他の人達に敬語じゃなかったのは失礼だったかな……と呟くアラノア。
無意識、という言葉に今度はガルヴァンが瞳を瞬く。
「無意識に……か。まあ、結局手伝い終了まで俺状態だったからな」
「お、俺状態って……」
「事実だからな」
う、と言葉に詰まったアラノアに小さく口元を緩めるガルヴァン。
「あ……も、もしかして、嫌、だった……?」
そんな彼の表情に気がつかなかったアラノアが問えば、軽く首を振る。
「嫌と言うよりかはそうだな……アラノアの中の俺のイメージが垣間見えたようで……悪くは、なかったな」
そして、噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「……寧ろ、無意識的にでも真似したいと思えるほどの人物でいれたのが、心から喜ばしく思う」
「そ、そうなんだ……良かった……」
ほっと息を吐きながらそう言い、今度こそちゃんと唇にケーキを運ぶ。
甘い甘い香りと笑顔が広がるお茶会。
暖かな日差しが二人の元へと降り注いでいった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 如月修羅 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月12日 |
出発日 | 02月18日 00:00 |
予定納品日 | 02月28日 |
参加者
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- 桜倉 歌菜(月成 羽純)
- ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
- マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
- アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
会議室
-
2016/02/17-23:45
あまり時間が無くてスタンプにしてしまいました…
プラン終えましたので改めてご挨拶を。
手屋 笹とカガヤです。
皆様、よろしくお願いします。
お茶会、のんびり楽しみたいですね。 -
2016/02/17-20:37
-
2016/02/17-02:36
-
2016/02/17-02:35
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2016/02/17-01:57
-
2016/02/17-01:57
-
2016/02/15-18:04
アラノアとパートナーのガルヴァンさんです。よろしくお願いします。
プロローグ読み
(…会場のテーブル磨いたのは私ですっ(キリッ)
…っと、どうでもいい事を思ってしまいました。
前回に引き続き、今回は純粋に楽しみたいです。 -
2016/02/15-14:18
よろしくお願いいたします。
素敵な会場…
楽しいひと時になりそうですね。 -
2016/02/15-00:40
-
2016/02/15-00:39
桜倉歌菜と申します。
パートナーは羽純くんです。
皆様、宜しくお願い申し上げます!
カミルネなお茶会、とっても楽しみです♪
ハーブティに…うーん、全種類制覇したいくらいですっ(迷)
良い一時になりますように!