プロローグ
タブロスの裏通りにある、調香師カー・エルの店。
今、カー・エルが調合しているのは、猫に好かれる香り。
気まぐれでクールな猫を香りの力でメロメロにしてしまおうというコンセプトで、新商品ニャン香の開発を進めていた。
マタタビは悪臭でもないが、特に良い香りとも言えない。そこでマタタビを主成分とし、香り要素にマタタビ科の果物キウイフルーツと、猫を惹きつける花のキャットニップを配合してみる。
「……」
カー・エルは理想の香りを求めて、数々の失敗と改良を繰り返した。
試行錯誤の結果、ついに納得のいく出来栄えのものが完成する。
それは人間にとっても心地良く、猫からも懐かれる、両方のバランスを見極めた香りだ。
マタタビそのものを与えた場合、猫は強い関心と反応を示すが、その激しい酩酊状態は数分ほどで終わる。
カー・エルが調合したニャン香の猫メロメロ効果は、比較的マイルドに落ち着くように調整されている。その代わり、猫にとってほんわかと夢見心地の気分が長く続くのが特徴だ。もちろん、人にも猫にも無害な材料でできている。
「よし。これなら新商品として売り出せる……」
「ヒッヒッヒ。ちょいと邪魔するよ」
店のドアが開く。
まるで童話の世界かハロウィンのシーズンから抜け出してきたかのような、いかにも魔女といった風貌の老婆が入ってきた。
その老婆は、魔女のバボラと名乗った。色々と不思議なものを売っているらしい。かなり胡散臭い雰囲気の老婆だが、商売好きなだけで別に悪徳商人というわけではなさそうだ。
「ビジネスの匂いを嗅ぎつけてね。猫に懐かれる香水と一緒に、猫に変身できる魔法の薬も店に置いたら、飛ぶように売れるんじゃないかと思ったのさ」
バボラがカー・エルに見せたのは、飲み薬が入った小瓶。これを飲むと、猫に変身できるそうだ。
「それと使い魔の黒猫の話だと、この店の少し先の小さな空き地で猫の集会があるそうだよ」
猫の集まる空き地にいけば、ニャン香の効果を体感できるはずだ。
また自分かパートナーのどちらかが猫化薬を飲めば、ニャン香にうっとりと酔い、猫のように甘えるというシチュエーションも夢ではない。
こうしてカー・エルの店では新作のニャン香の横に、魔女バボラが手がけた猫化薬が並んだのだった。
解説
・必須費用
ニャン香:1人分300jr
ほんのりとキウイフルーツと清々しいハーブの匂いがする。猫をメロメロにする香り。
香水のように体につけて使う。
2人分買うことも可能。
・プラン次第のオプション費用
猫化薬:1人分150jr
魔女が作った飲み薬。服用して使う。
猫化の程度は
A:完全な猫(会話ができるかできないかは個人差)
B:猫獣人(猫目、爪が鋭い、体がふわふわの毛並みで覆われているなどの特徴。テイルスよりも獣寄りの外見)
C:猫耳と尻尾だけ(テイルスと同じ)
本人の意志で決められます。
毛の色や柄も自由です。
魔法は一日で自動に解除されますが、本人が元の姿に戻りたい、と強く念じれば変身を解除できます。解除後に、もう一度変身し直すことはできません。
自我や記憶は本人のままです。
変身の際に服が破れたり、元の姿に戻る時に裸になってしまうことはありません。
ニャン香と猫化薬を一人で同時に使用することはできません。オプションで猫化するのは、神人か精霊のどちらか片方ということになります。
・場所について
神人か精霊の自宅、または、猫の集会がある空き地から選べます。
猫の集まる空き地は、板塀に囲まれたこじんまりとした空間で、あまり人が通りかかりません。
集会は夕方におこなわれます。
集まっている猫はニャン香が大好きです。香水をつけている人に懐きまくります。
猫化薬の使用者には、空き地の猫からは特にちょっかいは出してきません。平和なのんびりとした空気で、遠巻きに眺めています。
ゲームマスターより
山内ヤトです。
ニャン香をまとったら猫からモテモテに!
オプションで、猫化の魔法薬も売ってます!
神人か精霊が猫化する場合、全年齢の範囲のメロメロでお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【自宅にて】 日課のトレーニングをしましょう ディエゴさんはもう起きてるかもしれないからジョギングはまた後で… タオルを用意していたら、黒猫が足元によってきました どこから入ったんでしょうか? というか、ディエゴさんどこかに行っているみたいですね 彼が戻ってくる間は大人しくしてるならミルク飲んでていいですよ(なでなで) トレーニングするのであまり構ってあげられないですが …日頃から鍛えておかないと ディエゴさんとの力量に差がつき始めてますし 私がけがをしてしまったら彼は傷つくでしょうし、しっかりしないとですね。 休憩を入れたところで先ほどの猫が膝に乗ってすりよってきました 可愛いですね …ディエゴさん!? 重い!! |
クロス(オルクス)
☆猫化 C 毛並みも良い薄めの蒼色で桜柄 ☆心情 (なんか、オルクが企んでる様な気配を感じる… いやまさか、な… 気のせいだろ…) ☆行動 ・オルクの自室で寛ぎいつの間にか猫化薬が入った紅茶を知らずに飲み猫化になり驚く ・ツンデレの様な甘え方 「オルクの紅茶は相変わらず美味いな ……っ!? ちょっ、なっ、なぁぁああ!? オルクっ!! おまっ何か入れたなっ!? 何で俺に猫耳と尻尾生えてんだ!? たっ確かにオルクと同じテイルスで嬉しい、けど…(赤面 うっうっさい! しっ仕方が無い、そう言うなら暫くこのままにしといてやる…っ(プイッ うぅ…丸め込まれた気がする…(優しく包み込まれながら擦り寄る オルクだから安心するんだ… 愛しているから」 |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
ニャン香:夕方、空き地の猫集会 こう?(首と手首にワンプッシュ わ、わ。(囲まれたら、屈んでからそっと撫でる 「君、どこから顔出して」 他より毛並みいい。(ふと周りを見て、割り込んできた猫を見る 「もしかして、ルシェ?」(首傾げ 猫化薬買ってたんだ。 猫になってもきれい。「触っても、いい?」 触り心地もすごくいい。(そっと抱き上げる 「あったかい」(微笑み、頬を寄せる 猫のルシェを落とさないように、しっかり抱っこして座る。 左腕で抱えて、右手でゆっくり撫でる。 周りの猫も、偶に撫でたり顎を軽くかいてあげる。 なんで猫化薬飲んだのかわからないけど。 抱っこできるの、嬉しいな。 猫なら、くっついてもいいよね。(幸せそうに微笑む |
ルイーゼ・ラーシェリマ(オリヴァー・エリッド)
ニャン香一人分 空き地 普段はツンツンな猫さん達がメロメロに…ああ、楽しみっ それに身内以外との初お出かけ…! 集まるまでは隠れて様子を見守るわ 私、あまり猫さんに好かれないの 頃合を見てニャン香をつけてみるわね …わ、いい香り! ほら、オリヴァーくん。とっても素敵な香りよ! オリヴァーくんも買ってくればよかったのに にゃーにゃー ふふ、可愛い 幸せ… …はっ 何だか私ばっかり楽しんでいるわ オリヴァーくんは暇じゃない?ほら、猫さんよー 猫抱き上げ あ、あれ… …ね、次はニャン香二つ買いましょう 私、猫さんに囲まれてすごく幸せな気分だったの だからオリヴァーくんもきっと幸せな気持ちになれるわ あの、だから…また一緒に出かけてくれる? |
周(ディム=シェイド)
ニャン香/神人宅 うーん、ニャン香……使って、みましょうか… ディムが消え……へっ? 足元にすりすりしてくる黒猫が居て困惑 ね、猫…? あ、まさかあなたディムですか…? 黒猫が相方なのを分かっているが、可愛いので抱きかかえ し、シェイドさんぐすぐったいですって…! あら…どうかしましたか…? あのとっても可愛いんですが…くすぐったいです… …。ふふっ 相方を抱く力を強め 犬派なんですが猫も良いですね…爪立てると痛いらしいですが癒し系の動物なんでしょう? あなたで猫がどんな存在なのか分かった気がします ディムはどっちが好きですか? あ、あら…分かってましたか… でも猫のディム、なかなか可愛らしかったですよ。ありがとうございます |
●抱っこニャン
「うーん、ニャン香……使って、みましょうか……」
自宅の一室で、『周』は猫をメロメロにするという香水を体につけてみた。
(猫化、ね……)
同じ部屋に、精霊『ディム=シェイド』の姿もあった。彼が手に持っている小瓶は猫化薬。
中身をくいっと飲み干せば、ディムは蜂蜜色をした瞳の黒猫へと変わっていた。毛の一部に、赤いメッシュが入っているのが印象的だ。
「ディムが消え……へっ?」
混乱する周の足元に、温かでなめらかな何かがすり寄ってきた。艶やかな毛並みをした黒猫だ。
(アマネが驚いてる。なんだか面白い)
最初にすり寄ったのはニャン香の効果がきっかけだったが、周の反応に気を良くして、ディムはもっとゴロゴロとまとわりつく。
「ね、猫……? あ、まさかあなたディムですか……?」
猫化したディムは返事をしようとしたが、口を開いて出た声は。
「にゃー」
としか言えなかった。驚いて口をつぐむ。
「可愛いですね」
蜂蜜色の瞳も、黒の中に燃えるような赤いメッシュが入っているのも、髪質や毛並みがとても良いのも、どれもディムの特徴と合致する。
猫の正体はディムだと見当がついていたが、純粋に猫姿が可愛いので、周は優しく抱きかかえる。
(……!)
その行動はディムをさらに驚かせる。
でも、周のどこか安心した表情を見るうちに、ディムはこれで良いか、と思えるようになった。周へのすりすりを続ける。
(癒し系というか、アマネの側にいると安心するんだよな。オレのオアシスだ)
「し、シェイドさんぐすぐったいですって……!」
その言葉にちょっとムスッとしたように、ディムが顔を上げた。
「あら……どうかしましたか……? あのとっても可愛いんですが……くすぐったいです……」
周から「シェイドさん」と、苗字で呼ばれた。
(名前で呼べって言っただろうが……。ったく……)
元の姿に戻りたいと念じる。
たちまち、ディムはディアボロの青年へと戻っていた。
直前まで猫状態の彼を抱っこしていたので、周の腕はディムの体に軽く触れたままだ。
「……。ふふっ」
相方を抱く腕の力を周が強めた。
スレンダーな周の色白で繊細な指先と、細身の筋肉がついたディムの右腕に彫り込まれた鷹の翼の刺青。二人の腕は対照的で、その差異がより互いの個性を際立たせていた。
「犬派なんですが猫も良いですね……爪立てると痛いらしいですが癒し系の動物なんでしょう?」
周はディムのことをしげしげと眺める。
「あなたで猫がどんな存在なのか分かった気がします」
そう言って、周はおっとりと微笑んだ。それからこう質問する。
「ディムはどっちが好きですか?」
「猫、ねぇ……犬の方が良いな」
質問に答えた後で、ディムが少し不満気な口調で指摘する。
「さっき、苗字で呼んだろ。聞き逃すわけねぇだろう」
ディムは美しい蜂蜜色の目で、周の顔にジッと視線を合わせる。
「あ、あら……分かってましたか……」
頬に左手を添えて、少しだけ困り気味の周。けれど、ディムの黒猫姿を思い出したら、自然と笑みがこぼれてきた。
「でも猫のディム、なかなか可愛らしかったですよ。ありがとうございます」
「……なにが『ありがとうございます』だ……」
ぶっきらぼうにそう言うディムだったが、内心悪い気はしなかった。
(猫になったことでお礼言われるとは思ってもみなかった)
それから。
人の姿に戻った時、周の腕の抱く力が強まった時のことが、どういうわけか深くディムの印象に残っている。
「……」
ニャン香を使った周の体からは、まだほのかにキウイフルーツとハーブが柔らかく香っていた。
もう猫ではないのだから効果はないはずなのだが、ホッと癒されるような心地良い匂いだとディムは感じた。
●ほっぺにキスニャン
タブロスの調香師の店で、『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は二つの商品を購入した。一つは猫に好かれるというニャン香。『ハロルド』へのプレゼントだ。
(これがなくても懐かれると思うが、喜ぶはず)
それからもう一つは猫化薬。
(猫になってエクレールのそばにいてみようと思う。一日の時間ほぼ一緒に過ごしているから、俺がいないときの様子も見てみたい)
そう考え、ディエゴは猫化薬を飲んだ。猫の姿へと変身する。
ハロルドは、自宅内で日課に勤しんでいるところだった。スポーツと乗馬のセンスが非常に卓越しており、ダンスも得意。今はストレッチの専門知識に基いて柔軟運動中だ。
(ディエゴさんはもう起きてるかもしれないからジョギングはまた後で……)
スポーツタオルを用意していると、一匹の黒猫がハロルドの足元に近づいてきた。
「……黒猫? どこから入ったんでしょうか?」
ハロルドはキョロキョロと家の中を見回した。そして、ディエゴの気配がないことに気づく。
「というか、ディエゴさんどこかに行っているみたいですね」
黒猫の近くでハロルドが静かにしゃがみ込み、驚かせないようそっと手を差し伸べた。黒猫の頭を優しくなでなで。
「彼が戻ってくる間は大人しくしてるならミルク飲んでていいですよ」
猫がお腹を壊さないよう、牛乳は水で薄めてお皿に入れて置いておく。
ハロルドはしばらく黒猫をなでていたが、やがてスッと立ち上がり去っていった。
猫ディエゴは、彼女の行動の理由を考えていた。動物は好きなはず。
(エクレールは俺のことを怪しんだが、追い払うことはしなかった。だが、構いすぎることもなかった、何故か……)
ナゾを解き明かすべく、ディエゴはハロルドが何をしているのか確かめにいった。ラッキーなことに、ドアで閉じ込められたりはしていない。ハロルドが気を利かせて自由に動けるようにしておいてくれたのかもしれない。
ディエゴは忍び足で、ハロルドのいる部屋へと向かった。肉球のついた猫の足は、気配を消して移動するのにとても適している。
そこで、一人で黙々とトレーニングをしているハロルドを見つけた。ハードなメニューで腹筋や腕立てをしている。その表情は真剣で、肌には汗が滲んでいた。
彼女が隠れてこんな努力をしていたことをディエゴは知った。
何セットか終えたところで、タオルで汗を拭きながらハロルドが独り言をこぼす。
「……日頃から鍛えておかないと。ディエゴさんとの力量に差がつき始めてますし……。私がけがをしてしまったら彼は傷つくでしょうし、しっかりしないとですね」
その口ぶりから、ハロルドがディエゴの足を引っ張らないように頑張っていることがわかった。
(……エクレール)
ディエゴは複雑な気持ちだ。毎日のトレーニング自体には反対ではない。むしろ、その頑張りは尊敬する。
だがハロルドが、自分がディエゴの足を引っ張るのではないか、と思い悩んでいることが気がかりだ。
猫の体のディエゴは、休憩中のハロルドの膝に軽やかに飛び乗った。
(そんなことはない)
そう思いを込めて、彼女の頬にキスをする。
「可愛いですね」
にっこり微笑むハロルド。
(元の姿でこういう事をしてやれたらな……)
元の姿で……。と強く思ったことでディエゴの変身が解ける。
「……ディエゴさん!?」
突然の出来事にビックリするハロルド。膝の上に猫を乗せていたはずが、急にディエゴに変わったのだ。驚いて当然だろう。
そして、ハロルドがこう叫ぶ。
「重い!!」
ディエゴは、ハロルドの隠れた努力を知った。
ハロルドに、ディエゴが猫に変身していたことがバレた。
明らかになった二つの秘密は、二人の関係をどのように彩っていくのだろう。
●好奇心ニャン
夕方、裏通りの空き地。そこに『ひろの』と『ルシエロ=ザガン』の姿があった。
聞いたウワサは本当だった。たくさんの猫が、いたるところで座り込んでいる。
調香師の店で買ったニャン香。これは体につけて使うものらしい。
「こう?」
試すように、首と手首にそれぞれワンプッシュ。
マイルドなキウイフルーツと清涼感のあるハーブのアロマをひろのがじっくり嗅ぐ間もなく、空き地の猫達が嬉しそうに殺到した。
「わ、わ」
猫に囲まれるが、ひろのの表情は柔らかい。ちょこんと屈んでから、そっと手を出してなでれば、猫の方からご機嫌で頭をすりつけてきた。
ひろのはすっかり猫にモテモテ状態だ。
(ヒロノは見事に囲まれてるな)
その様子を見守っていたルシエロ。それから、こっそりと猫化薬の瓶を取り出した。
(さて、試すとするか)
ルシエロが薬を飲んだのは、ほぼ好奇心からの行動だった。
ことわざでは「好奇心は猫をも殺す」などと言うが、ルシエロの好奇心は彼に何をもたらすのだろうか。
猫化薬を飲んだルシエロは、ソマリという種類の猫になっていた。毛の色はルディ。赤みがかった毛に、こげ茶色のグラデーションがかかっている。夕日に似合う綺麗な色だ。
猫へと変身した途端、ルシエロの鼻を魅力的な芳香がくすぐった。
ニャン香の匂いに誘われるまま、ひろのの近くへ。他の猫をなでているひろのの腕の下に潜り、腕と脇腹との隙間からひょこっと顔を出す。
「君、どこから顔出して」
そう言って、小さな違和感。空き地にいる他の猫と、割り込んできたソマリを見比べる。
(他より毛並みいい)
空き地には、一緒にいたはずのルシエロの姿が見当たらない。ひろのは、ソマリに尋ねてみる。
「もしかして、ルシェ?」
首を右側に傾げるのは、状況がよく理解できない時のひろのの癖だ。
その問いに肯定の返事をするように、ソマリは一声鳴く。
猫になったルシエロは、抗い難い心地好さにゴロゴロとノドを鳴らした。
(猫化薬買ってたんだ)
調香師の店で、ニャン香の隣にそんな薬が陳列されていたなと、ひろのは思い出した。
改めて、ひろのは猫の姿になったルシエロを見る。
(猫になってもきれい)
ふさふさとした上質な毛並み。自信を感じさせる佇まい。
「触っても、いい?」
遠慮せず撫でると良い、と言わんばかりに、ルシエロはお腹を頭で軽く押す。
ひろのの手が、小さなルシエロの体を包み、そっと抱き上げた。
「あったかい」
微笑んで、頬を寄せる。
ルシエロを落としてしまわないように、しっかり抱っこして、ゆっくり座る。左腕で抱えて、右手で丁寧になでていく。
(なんで猫化薬飲んだのかわからないけど。抱っこできるの、嬉しいな)
無防備なほどに、純粋で幸福な笑顔を見せるひろの。
(猫なら、くっついてもいいよね)
特等席はルシエロの場所だったが、他の猫にも、ひろのは時々なでたり顎を軽くかいてあげた。
香に酔いながらも、ルシエロはひろのを見ていた。いつになく警戒心のない笑顔。どうも普段のひろのと違う。
考えて、ふと腑に落ちた。
(ああ……。コイツはヒトが怖いんだろう)
ルシエロの頭の中で、今までの出来事が線で繋がった。
今のひろのは、この猫がルシエロだと理解している。それなのに、この反応。おそらくヒトの姿が駄目なのだとわかる。
(線引きの基準までは不明だが、ようやく知れた。僥倖だな)
ルシエロは機嫌良く尻尾を揺らす。
彼の好奇心がもたらしたのは発見。
それも、ひろのと深く関わる上で、とても大きな意味を持つ発見だ。
(陽が落ち切る前には元に戻るか)
名残惜しいが仕方がない。ルシエロが猫の姿のままでは、傍目にはひろの一人で夜道を歩いてるように見えるだろうから。
(まあ、まだ時間はある)
ルシエロはひろのにすり寄った。
●一服盛るニャン
(クククッ、面白いもんを手に入れたぜ……)
職場内にある自分の部屋で、『オルクス』は悪人めいた笑顔で何事かを企んでいた。その手にあるのは二つの瓶。片方はニャン香で、もう片方は猫化薬だ。
パートナーの『クロス』のことを思い浮かべて、オルクスはニヤリと口元の笑みを深めた。怪しい……。
(クーを猫化させたら、その後にこの香水で存分に甘えてもらおう……!)
二人は恋人同士なので、アイディアそのものは仲の良いカップルらしいものといえるだろう。
ただ……、オルクスはクロスに無断で猫化薬を飲ませる気だ。
そんな計画はつゆしらず、クロスはオルクスと同じ部屋で、くつろぎの一時を過ごしていた。
「あぁ、そうだ。ちょっと用事がある。すぐ戻るから、待っててくれ」
と、オルクスがそそくさと席を外す。
突然クロスの頭に漠然とした嫌な予感がよぎった。
(なんか、オルクが企んでる様な気配を感じる……。いやまさか、な……。気のせいだろ……)
雑念を振り払うように、フルフルと軽く頭を振った。
しばらく待っていると、オルクスが戻ってきた。彼が手に持つ銀のトレイには、紅茶の入ったティーカップが乗っている。
「ありがとう、オルク」
オルクスから差し出された紅茶に口をつけるクロス。心がホッとする味だ。
「オルクの紅茶は相変わらず美味いな」
こんなに美味しい紅茶を用意してくれたオルクスのことを理由もなく疑うなんて。と、クロスは軽く反省の苦笑を浮かべる。
しかし、クロスのパートナーへの信頼と感謝の気持ちは、次の瞬間に崩れ去る!
「……っ!? ちょっ、なっ、なぁぁああ!?」
体の異変に、驚きの叫び声をあげるクロス。
紅茶に混ぜられていた猫化薬の影響で、クロスは猫のテイルスのような格好に変身してしまった。耳と尻尾の色は薄めの蒼色で、珍しい桜の柄だ。
「オルクっ!! おまっ何か入れたなっ!? 何で俺に猫耳と尻尾生えてんだ!?」
「あぁ最近面白いもん手に入れたからクーに使わせたくてな」
悪びれた様子もなく、それどころか妖艶な笑みさえ浮かべるオルクス。
「ん、オレと同じ種族みたくなったな。とても似合ってるぞ、クー」
似合っていると言われ、クロスはほのかに赤面して小声でつぶやく。
「たっ確かにオルクと同じテイルスで嬉しい、けど……」
その返事に、オルクスは気を良くしたようだ。ニヤニヤと笑っている。
「そうかそうかぁ♪ オレと同じで嬉しいかぁ」
「うっうっさい!」
ふしゃーっ、と猫っぽく毛を逆立ててプンプンと怒る。
「とは言えオレが見たかっただけだから元に戻っても良いが……」
「元に……?」
元に戻りたい、と本人が強く念じれば猫化薬の変身効果は解ける。
クロスの猫耳と尻尾はまだ消えていない。本気で拒否しているわけではないとわかる。
「しっ仕方が無い、そう言うなら暫くこのままにしといてやる……っ」
クロスはプイッと顔をそむける。そんな反応が、なんだかツンデレっぽくて、気まぐれな猫の雰囲気にも似合っていた。
「そうか」
ニヤニヤ笑いを続けながら、オルクスはニャン香を自分の体に吹きつけた。部屋の中にふわりと漂った香りに反応して、クロスの耳がピクッと動く。
「ほら、おいで?」
オルクスは大きくその両腕を広げて、クロスを待っている。
「うぅ……丸め込まれた気がする……」
そうぼやきながらも、クロスの体は自然と香りに誘われオルクスの腕の中へ。
「ククッ」
オルクスはそう笑って、腕の中のクロスを優しく包み込んでなでる。
はじめはツンと意地を張っていたクロスだが、ニャン香の効果とオルクスへの思いから、次第に可愛らしいデレ部分を見せてくる。クロスの方から、オルクスへぎゅっとすり寄った。
「オルクだから安心するんだ……。愛しているから」
「ホント可愛い奴……。オレは愛してるぞ……」
●初お出かけニャン
「普段はツンツンな猫さん達がメロメロに……ああ、楽しみっ」
興奮して喜んでいるのは『ルイーゼ・ラーシェリマ』だ。
(それに身内以外との初お出かけ……!)
ルイーゼはちょっと浮足立った気持ちで、隣りにいる『オリヴァー・エリッド』の姿を見た。
家の都合でこれまで友達と呼べる存在がいなかったことから、ルイーゼの人付き合いの仕方は手探り状態だ。ルイーゼは、オリヴァーと仲良くなれたら良いと思っている。
「猫がめろめろに……。不思議な効果ですが、需要はあるようですね」
オリヴァーが落ち着いた声でそういった。穏やかな話しぶりから、育ちの良さを感じさせる。
ルイーゼが楽しそうなので、オリヴァーもつられて笑顔になる。
「集まるまでは隠れて様子を見守るわ。……私、あまり猫さんに好かれないの」
少し残念そうに、ルイーゼがそう打ち明ける。
「……」
オリヴァーの脳裏に、猫に構いすぎて逃げられているルイーゼのビジョンが、ぼんやりと浮かんできた。
「では、今回はたくさん猫と遊んでいけるといいですね。ニャン香もありますから、きっと大丈夫でしょう」
空き地にはたくさんの猫がいた。夕焼けの中で、各自思い思いに過ごしている。
頃合いを見計らい、ルイーゼはわくわくしてニャン香をつけてみた。
「……わ、いい香り!」
漂う芳香に、ルイーゼが顔をほころばせる。
「ほら、オリヴァーくん。とっても素敵な香りよ!」
勧められて、オリヴァーも素直に香りを嗅いでみた。キウイフルーツとハーブをメインにした、キツすぎない穏やかな香り。
「本当だ、清々しい香りですね」
「オリヴァーくんも買ってくればよかったのに」
「そうですね」
オリヴァーは曖昧な笑顔で優しくごまかした。
(二人同時にニャン香を使えば、ルイーゼさんのところにいく猫の数が分散してしまいそうだ。そうなったら可哀想かと若干思ってしまって……)
そう遠慮して、オリヴァーは自分の分は買わなかったのだ。
ニャン香の効き目は明らかで、ルイーゼの周りに見る間に猫達が親しげに集まってくる。
「にゃーにゃー。ふふ、可愛い」
猫に囲まれて戯れるルイーゼの姿をオリヴァーは静かに見守っていた。
ルイーゼがちょっぴり構いすぎても、猫はちっとも逃げていかない。それどころかご機嫌に尻尾をピンと立てて、もっとなでてと人懐っこく寄っていく。
香水の効き目に、オリヴァーは感心しながらその光景を眺めていた。
「ああ……。幸せ……」
猫達から人気者になって、ルイーゼが至福のため息をもらす。
「……はっ。何だか私ばっかり楽しんでいるわ」
ルイーゼが、オリヴァーのいる方へと振り向いた。
大丈夫、というように、オリヴァーは軽く手をあげて応えた。
「いえ、俺は大丈夫ですよ。それなりに楽しんでいますから」
「オリヴァーくんは暇じゃない? ほら、猫さんよー」
ルイーゼが猫を一匹抱き上げて、オリヴァーの方へと、優しく丁寧に差し出した。
けれども……。
「あ、あれ……」
猫はオリヴァーにはそっぽを向いた。ニャン香を体につけていない人には、あまり興味がないようだ。
「残念、振られちゃいました」
ユーモアを含んだ口調で、オリヴァーは軽く肩をすくめた。
「……ね、次はニャン香二つ買いましょう」
オリヴァーの顔を見ながら、ルイーゼがそう提案する。
「私、猫さんに囲まれてすごく幸せな気分だったの。だからオリヴァーくんもきっと幸せな気持ちになれるわ」
そう言った後で、ちょっとぎこちなく、でも一生懸命にこう誘ってみた。
「あの、だから……また一緒に出かけてくれる?」
オリヴァーの顔色を伺いながら、もじもじと言葉を紡ぐルイーゼは、年上のはずなのだがまるで妹のようだ。
気になる返事は……。
「はい、ぜひ」
穏やかな微笑みと共に、オリヴァーは頷いた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:ハロルド 呼び名:ハル、エクレール |
名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ 呼び名:ディエゴさん |
名前:ひろの 呼び名:ヒロノ |
名前:ルシエロ=ザガン 呼び名:ルシェ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月12日 |
出発日 | 02月17日 00:00 |
予定納品日 | 02月27日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- クロス(オルクス)
- ひろの(ルシエロ=ザガン)
- ルイーゼ・ラーシェリマ(オリヴァー・エリッド)
- 周(ディム=シェイド)
会議室
-
2016/02/16-01:02
こんばんは、私はルイーゼ。
どうぞよろしくね。
ニャン香……、不思議だけど素敵な香水ね。
-
2016/02/15-20:24
ひろの、です。
よろしくお願い、します。
ニャン香と猫化薬は、両方を一人で使うのは無理なんです、ね。
どっちも気になる、けど……。(考え込む -
2016/02/15-11:09
周です。よろしくお願いします。
ニャン香、ですか。
……なんだかすごいですね… -
2016/02/15-10:45
-
2016/02/15-09:38