【糖華】シュガーなゲレンデ(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 世間はまだまだウィンタースポーツの季節。
 スキーやスノーボードを楽しむ季節。
 実は、ショコランドにも規模は小さいですがゲレンデがあるのです。
 雪ではなく、お砂糖で出来たゲレンデなんですけどね。
 ショコランドの住人も、ここでウィンタースポーツを楽しんでいる模様。
 現在はバレンタイン期間ということで、ゲレンデの麓にあるログハウス風休憩所では無料でホットショコラとビッグ焼きマシュマロのサービスも行っているそうです。
 ホットショコラはもちろんショコランドの上質なカカオが原料。ビター、ミルクの2種類の甘さにお好みでシナモンパウダーを。
 ビッグ焼きマシュマロは、人間の大人の拳大の大きなマシュマロを竹串に刺し、ハウス中央に設えられた囲炉裏の炎で焼いてくださいね。外側はほんのりこんがり、内側はとろ~りクリーミィなマシュマロの食感を楽しめます。
 ウィンクルムの皆さんも是非どうぞ、とショコランドの三王子からお誘いがありました。
 お砂糖にホットショコラにマシュマロに、と、なんだかすごく甘そうですが、面白そうでもありますね。
 夜には金平糖の流星群が見られるかもしれないそうですよ。
 流れ星と言えば願い事。ところで、金平糖の流れ星でも願い事って叶うんでしょうかね?

解説

 2人分の一日リフト券+スキー若しくはスノボレンタル1000ジェール。
 ナイターの場合800ジェール。
 ゲレンデとはいえ、雪ではなく砂糖ですので、普段着でも充分に温かいです。特別なウエアは必要ありません。
 小さなゲレンデですので、コースは初級コースと中級コースのみ。スノボ用ハーフパイプ等はありません。
 一日リフト券かナイターかをお選びください。また、スキー、スノボのどちらかをお選びください。
 ホットショコラとマシュマロは飲み食べ放題ですが、暴飲暴食は避けましょう。


ゲームマスターより

 冬と言えばゲレンデデート!なんてちょっと安直すぎでしょうか。
 スポーツ好きなお2人で楽しんだり、スポーツ苦手なパートナーに教えたり、いろいろな楽しみかたがありますね。
 基本的に個人描写ですが、他の参加者とすれ違うこともあるかもしれません。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  *ナイターで滑り休憩所で一服

2人でウェアを買ったんだ
だから今冬は何度も滑りに行った
最初は初級者だった俺もランスのお陰で中級者と言える程度にはなったかな

ああ、油断して転倒しないように滑らないとな
有難う、気をつけるよ
過信は大怪我の元…ウィンクルム活動と同じだな

共に風を切るようにすべるのはとても楽しい
晴れて良かった

降りきって坂を見上げる
あそこを降りてきたのだと
シュプールがうっすら照らされて見えるかな
吐く息の白さも心を沸き立たせて、嬉しいよ

休憩所ではビター味とマシュマロを
じんわり甘い
笑みがこぼれる

あ、流れ星
反射的に心で願う
ランスがもっと俺を好きになってくれるようにと

言わない
絶対言わない
「内緒だ」真っ赤


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ナイター&スキーレンタルで参加だ。
シュガーだろ?質のいいパウダースノーって事じゃん!
冷たくないのが新鮮だ!
最初は初心者コースでちみっと様子を見て軽く滑る。
おお、良い感じじゃん!
オレ、こういう雪質(砂糖だけど!)好きだ。

滑る合間に焼きマシュマロ食べようぜ。
そのデカさにテンションあがっちまうなぁ。
オレ、マシュマロ焼くのは得意なんだ(にぱっ。
じっくりゆっくり焼くのが良いんだぜ。
ショコラのお礼にラキアの分も焼くぜ。
この絶妙の焼き加減をとくと味わうが良い(ドヤァ。
ウマー!

ラキアも結構滑れるじゃん?
教えるから中級コースにも行こうぜ。

金平糖の流星群見たら
「ずっとラキアと一緒に長生き!」と声に出して唱えるぜ。



李月(ゼノアス・グールン)
  三王子の厚意に感謝
初級コース
ナイター

ヨロヨロすってーん
「お前初心者って嘘だろ!

休憩所
ビッグ焼きマシュマロをちょびちょび食す
小食で甘味もそう得意ではないので食べ切れるか怪しい
「お前、程度ってものを知れよ

反対食われ驚き
逃げんなに闘争心
睨んで食べる

ふとこの先想像
勝負逃げたくないけどこのままでは相棒と…?
ありえない!
焦り思わず目を瞑る

「な訳ないだろ」
お陰で食べ切れたけど…
バツ悪い微赤面

少し滑り見学(疲労
パフォーマンス恰好いいとつい思ったのは内緒

流星群待ち
「願い事…なんかあるか?
相棒の願いは強くなる事
自分といればそれだけで叶うと信じてるらしい
空見上げ願うのは
(今日の日も相棒の願いの一部になればいい


 夜空に一番星が輝き始めたころ。
「三王子の厚意に感謝だね」
 砂糖でできた世にも珍しいゲレンデに、李月とゼノアス・グールンがレンタルしたスノーボードを抱えてやってきた。
「スノボは初めてだぜ」
 ゼノアスがわくわくした様子で言う。
「僕もだよ」
 李月は若干ほっとした。
 自分だけ下手だったら恥ずかしいな、と思っていたのだが、お互い初心者ならばその心配はなさそうだ。
 しかし李月はすっかり失念していた。2人の間には、運動神経の差があるということを。
「実践あるのみ。早速滑ってみようぜ」
 ゼノアスは初心者コースを指さすと、周囲のスノーボード客に倣い、片足にスノーボードを装着する。
「あ、うん。そうだね」
 李月も見様見真似でなんとかスノーボードを装着。まだボードに着いていない方の足で雪面(砂糖面?)を蹴り、2人並んでリフトへと進む。
「うわ……っ、と、と」
 片足が固定されただけでかなり動きにくくなるが、よろけた李月の背中をゼノアスが支えてくれた。
 無事に二人掛けのリフトに腰をおろし、李月はほっと息をつく。
 だが安心するのはまだ早い。
 降り場が近づくにつれ、李月の緊張は高まった。
「どうやって、降りればいいんだ、これ」
 前方リフトの乗客たちは皆、器用にボードで着地しそのまますいっと滑っていく。
「基本はスキーと同じじゃないか?板の先を少し上げてさ」
 ゼノアスのアドバイスに従い、李月はボードの先端を上げ、着地に備える。
「よし、降りるぞ。3、2……」
 有難いことに、ゼノアスが腕を掴んでタイミングを計ってくれた。
「1」
 ゼノアスは立ち上がると共に李月の腕を引く。
 ぼふん、とボードが着地。
「わ、わ、わ!」
 降りた勢いでよろよろと進む李月。
「お……っ、と」
 支えるゼノアスもぐらぐら。
 数メートル進んだ先で、2人とも尻餅をつく。
 顔を見合わせ、ふっと吹き出せば、李月の緊張が解けた。
「初めてだからね、転ぶこともあるさ」
 李月は気を取り直してボードを両足に装着しなおし、気合いを入れて立ち上がる。
 体重移動で斜面を滑り出せば、意外とバランスがとれない。
「これ、どうやれば、良いん……だっ?」
 ヨロヨロしながら滑走し、次第に上がるスピードに身体がついていかない。
 ついには派手に転倒し砂糖を巻き上げながらゴロゴロ転がる。
「ぶはっ!甘い!」
 口の周りについた砂糖を払い、上半身を起こす。そんな李月の前に、ざぁっと小気味良い音をたててターンし、ぴたっと止まるゼノアス。
 先ほど一緒に転倒した仲とは思えない。どうやら彼はすぐにコツを掴んだようだ。
「お前初心者って嘘だろ!」
 李月が叫べば、ゼノアスはニヤリと笑う。
「砂糖まみれで旨そうだな」
「僕は食べ物じゃない!」
 腹立たしさと共に立ち上がると、今度は前のめりにすっ転ぶのだった。


 まずは足慣らしに、と初級者コースに降り立ったアキ・セイジとヴェルトール・ランス。
「ウエアじゃなくて滑れるってのも新鮮だ」
 ランスの言葉に、セイジはそうだね、と相槌を打ちつつも内心少し寂しかったりもする。
 なぜなら、せっかく買ったペアのスキーウェアを着られないから。
 しかし、今シーズン始まってから何度もそのウェアで滑りに行っているし、今日だってもこもこパーカー白うさぎ&黒うさぎのペアコーディネートなのだから、まあ、良しとしよう。
「セイジはかなり上達したよな」
「ランスのおかげだよ」
 最初はスキー初級者レベルだったセイジだが、ランスの指導を受けているうちに、中級者程度には滑れるようになった。
 スポーツが上手な人は、他人に教えるのも上手なのだ。
「俺も先生として鼻が高いよ」
 ランスは胸を張って笑った。
「でも気を抜かずに滑ろう」
「ああ、油断して転倒しないように滑らないとな」
「雪と一寸質感も違うしさ」
「有難う、気をつけるよ」
 過信は大怪我の元……ウィンクルム活動と同じである。
「しっかし、本当に砂糖なんだなー」
 ランスはコースの端まで滑っていくと、雪山の雪を指でひと掬いして、ぺろりと舐める。
「甘!」
 そう言って笑うと、セイジを手招きする。
「セイジも試しに舐めてみろよ」
 安定した滑りでランスの隣に並んだセイジに、ランスは砂糖を掬った指を差し出す。
「どれどれ」
 ごく普通にその指を口に含もうとして、はっと気づく。
 他にもスキー客がいる中で、何をしようとしているのか自分は!
「だ、だから、砂糖だって最初から聞いてたじゃないか」
 真っ赤になって、慌てて顔を逸らす。
「遠慮しなくてもいいのに~」
「馬鹿なこと言ってないで!ほら、時間がもったいないから早く滑ろう」
 真っ赤な顔のまま、セイジはゲレンデを滑りだす。
 滑り出せば、風が涼しくて気持ちいい。火照った頬を丁度冷やしてくれる。
 後から来たランスも並んで滑りはじめる。
 2人は視線を合わせると、どちらからともなく微笑んだ。
 共に風を切って滑る。最高に楽しい時間。晴れて良かった。
 初級者コースはなんなく滑り終えた2人。
 セイジは麓からコースを見上げる。
「だいたいあの辺りを滑ってきたのかな」
 薄暗くなったゲレンデを照らすライトが、斜面にいくつも残るシュプールを浮き上がらせている。
 自分たちのはどれだろう。
 2つ寄り添うように残っている、あれがそうだろうか。
 ゲレンデのシュプールも、吐く息の白さも、胸に吸い込んだ空気の冷たさも。
 全てが心を沸き立たせてくれる。
「もう1回、滑ろうか」
「今度は中級コースな」
「構わないよ」
 ランスの提案をセイジは快諾する。
 そして2人はまた、リフト乗り場へと向かった。

 スキーをレンタルしたセイリュー・グラシアは、すぐに滑りたくてたまらないといった様子だった。
「シュガーだろ?質のいいパウダースノーって事じゃん!」
 スキー板を装着する前に、セイリューはその場に屈むと雪を掬う。
「冷たくないのが新鮮だ!」
 ふっと息を吹きかけると、粉砂糖の雪はふわあっと広がった。
「シュガーだからホント冷たくないね」
 ラキア・ジェイドバインもセイリューと同じように、雪の質感を楽しむ。
「コースは2つあるみたいだけど、ラキアはどっちがいい?」
 板を装着しながらセイリューが訊く。
「俺は、初心者コースでまったり行きたいな」
「そうだな!やっぱり最初は初心者コースで様子見しながら滑りたいな」
 早速初級者コース行の二人掛けリフトに乗り込む。
 浮遊感が気分をさらに高揚させていく。
「リフトからだと、ゲレンデが見渡せるね」
 ラキアに言われ、ゲレンデを眺めると、セイリューはそこに知った顔を見つけた。
「おっ、セイジとランスさんだ!おーい!」
 セイリューが大声を出すと、ゲレンデの2人は手を振って応えてくれた。
 初級者コースに降り立つと、セイリューは早速、軽く数メートル滑って雪の感触を確かめる。
「おお、良い感じじゃん!」
 ラキアを振り返り、にかっと笑う。
「オレ、こういう雪質好きだ。雪っていうか、砂糖だけど」
「てことは、雪質じゃなくて砂糖質、かな?」
 ラキアがくすくす笑う。
「転んでも冷たくなさそうだし、あまり痛くもなさそうだから安心だね」
 とラキアは言うが、初級者コースなので、油断さえしなければ転倒の心配はなさそうだ。
 雪を舞い上げながら軽々とターンしシュプールを描くセイリューの後をついて行くラキア。
 セイリューは時折止まってラキアを待ってくれる。
「砂糖でも滑り心地は最高だな!」
 瞳をキラキラさせてセイリューが笑う。
 スポーツが好きで身体を動かすことが好きなセイリューは、珍しいゲレンデでのスキーがとても楽しいようだ。
「麓まで降りたら、一旦マシュマロ食べようぜ」
「うん、そうだね」
 セイリューの瞳はいつも正直で、楽しい時とか、嬉しい時とか、そして美味しいものを目の前にした時とか、そういう時にはいつもこんな風にキラキラと輝く。
(そういうところがまた、可愛いんだよね)
 ラキアはそんなセイリューを微笑ましく見つめる。
「ホットショコラも楽しみだね」
 ラキアが言うと、セイリューは待ちきれないとばかりに、麓の休憩所目がけてまた斜面を滑り降りるのだった。


 休憩所には、話に聞いたとおり大きなマシュマロとホットショコラが用意されており、スキー客たちが囲炉裏を囲んでマシュマロを焼いている。
「マシュマロデカい!テンション上がる!」
 ラキアの予想通り、ここでもセイリューの瞳が輝く。
「どれが一番大きいかな」
 容器にいっぱいに用意されたマシュマロの中から、大きそうな(どれも同じだが)マシュマロをいくつか選び皿に盛る
 ラキアはその隣に用意されているポットから、ビターのホットショコラを紙コップに注ぐ。
 そこにシナモンを入れて。
(もちろん、セイリューの分もね)
 ラキアが2人分のホットショコラを注ぎ終えると、セイリューは既にマシュマロを焼き始めていた。
「オレ、マシュマロ焼くのは得意なんだ」
 ラキアが隣に座ったのに気付き、セイリューはにぱっと笑う。
「じっくりゆっくり焼くのが良いんだぜ」
 長い竹串に刺したマシュマロを、炎に近づけすぎないように注意しながら、均等に焼けるようにゆっくり回す。
「ポルタのスイーツフェスタの時も、上手に焼いていたものね」
 ラキアはそう言って、セイリューにホットショコラの紙コップを差し出す。
「オレの分も持ってきてくれたのか?サンキュー、ラキア。お礼にラキアの分も焼きマシュマロ作るぜ」
 セイリューは皿からもう一つ新たに大きなマシュマロを取って、焼き上げる。
「この絶妙の焼き加減をとくと味わうが良い!」
 どうだ、と言わんばかりの表情で、ラキアに焼きマシュマロの刺さった竹串を渡す。
「いただきます」
 2人同時にマシュマロに口をつける。パリッとした外側を齧ると、とろりと甘い内側がクリームのように溢れる。
「ウマー!」
「セイリューのマシュマロ、焼き加減が絶妙で美味しい。さすがずっと練習しただけあるよ」
「あの話、覚えてたのか」
「もちろん」
 一口マシュマロを味わったところで、ホットショコラを飲む。
「こっちも、ウマー!」
「マシュマロが甘いからビターショコラで丁度いい感じ。ビターにして正解だったね」
 甘いマシュマロとホットショコラで気持ちも休まったところで、2人はもうひと滑りしに、休憩所を出た。


 李月はぜいはあと肩で息をしながら、衣服についた砂糖を払う。
「やっと……麓だ」
 かなりの時間をかけて、初級者コースを滑り降りた李月。途中幾度となく転倒したことが、その姿から窺える。
 ゼノアスは、そのうち李月が「もう嫌だ」と言い出すのではないかと思っていたのだが、李月は何度砂糖まみれになろうとも、果敢に立ち上がり滑り続けた。
 そんな李月にゼノアスも、なかなかやるな、と思わざるを得なかった。
 しかし、続けてもう1本滑るほどの体力は残ってなさそうだな、と判断したゼノアスは、一旦休憩することを申し出た。
「ああ、そうだな」
 もちろん李月もそれに反対する理由はない。
「休憩所はマシュマロが食べ放題らしいぜ」
 一瞬、きらりとゼノアスの眼光が鋭くなったような気がした。

(よく食べるなぁ……)
 食べ放題をいいことに、マシュマロにホットショコラを暴飲暴食気味のゼノアスを横目で見つつ、李月は焼きマシュマロをちょびちょび食べる。
 李月はもともと小食で甘味もそう得意ではないので、正直食べ切れるか怪しい。
 焼いてとろりとしたマシュマロは甘味が増す。外側のパリパリした部分の方がまだ甘味が控えめだ。
 なので李月は、少し齧っては火に炙り、を繰り返し、ぱりぱり部分を剥がすようにして食べていた。
「焼いてもいいが、そのままでもいけるな」
 ついには焼かずにマシュマロを食べ始めるゼノアス。
「お前、程度ってものを知れよ」
 さすがに李月はゼノアスの食べすぎを諌めると、ゼノアスは食べかけのマシュマロを咀嚼し飲み込む。
「じゃ、これラストにしとくわ」
 ゼノアスが、ぐいっと李月に接近して。
「は?」
 あーんと開けた口で、李月の食べかけのマシュマロに、李月が食べている反対側から齧りついた。
「お前、何を……」
 少し身を引いた李月にゼノアスは挑発的な視線を送る。
「逃げんな?」
 口角を上げるゼノアスに、闘争心を刺激された李月はぐっと睨み返し、マシュマロを齧る。
 その気になった李月を楽し気に睨みながら、ゼノアスはマシュマロを食べ進める。
 睨みあう2人の間で小さくなっていくマシュマロ。
 接近すればするほど、ゼノアスから甘い香りが漂うようで。
 ふと李月はこの後のことを想像する。
(勝負は逃げたくない……けど、このままでは……?)
 マシュマロがなくなってしまえばどうなるのか。
(ありえない!)
 眼前に迫るゼノアスから視線だけでも逃れるように、李月はぎゅっと目を瞑る。
「なんだオマエ目なんか瞑って、キス待ちか?」
 からかう声。
「な訳ないだろ!」
 咄嗟に目を開け叫ぶと、丁度ゼノアスが最後の一口を食べるところだった。
 くくく、と楽しそうに喉を鳴らして笑うゼノアスをじとりと睨む。
(お陰で食べ切れたけど……)
 バツの悪さに頬がほんのり紅潮する。
 ゼノアスが、(本当にキスしたらどんな反応したんだろうな)なんて考えているとは、李月には知る由もない。


 存分に滑ったセイジとランスが、そろそろ一休みしようと休憩所にやってきた。
 丁度休憩所から出て来る李月とゼノアスに出会い、2人は軽く手を挙げ挨拶する。
「これからまた滑りに行くのか?」
「ああ」
 ランスとゼノアスがそんな会話をしている後ろで、まだ先ほどの動揺が残っている李月が、なんとか平静を保とうとしていることには誰も気付かなかった。


 囲炉裏の炎が揺れるのを眺めていると、なんだか心が癒される。
 ふう、と息をつきセイジはビターのホットショコラを一口飲む。
「お疲れ。セイジ上手くなってたから、一緒に滑っていてすごく楽しかった」
 ランスはマシュマロがいくつか入った皿を手にセイジの隣に腰を下ろす。
「頑張ったセイジの為に、マシュマロを焼いてあげよう」
 ランスは大きなマシュマロを竹串に刺すと、炎で炙る。
 香ばしい匂いと共に、マシュマロの外側が薄茶色に変わっていく。焼けるのが待ち遠しい。
 と、その時、ランスは皿の上に乗ったまだ焼いていないマシュマロをひょいっと摘まんでぱくっ。
「ちょ……ランスっ」
 苦笑するセイジに肩で小突かれはっとするランス。
「だって腹減ったんだもん」
 滑り疲れはお互い様。セイジとランスは声をあげて笑った。


 2本目の初級者コースを滑り終え、セイリューは後から来るラキアを待つ。
 ラキアの滑りはセイリューほどスピードはないにしても安定していて、もっと難しいコースも行けるのではないかと思う。
「ラキアも結構滑れるじゃん?中級者コースでもいけそうだぜ」
 降りて来たラキアにそう言うセイリューの目には、「中級者コースに行きたい」と書いてあるようだった。
 ラキアも、セイリューは初級者コースでは物足りないのではないか、でも自分に合わせてくれているのだろうか、と思っていたところであった。
「中級コースでも滑れるとは思うけど、セイリューほどは無理だよ」
 躊躇うラキアに、セイリューは
「教えるから中級コースにも行こうぜ」
 と笑顔で誘う。
 その笑顔が、ラキアの背を一押しした。
「ん?教えてくれるなら、行く」
 セイリューが教えてくれるなら、なんとかなりそうだ。ラキアも笑顔を返し、2人で中級者コースへのリフトに乗り込んだ。
「セイリューはスポーツ全般得意だからどんな所でもすいすい滑れちゃうのが凄いね」
「大丈夫!ラキアだって、きっとすぐに滑れるようになるぜ」
「うん、頑張るよ」
 それから2人は、しばらく中級者コースを楽しんだ。


 セイジとランスがマシュマロを味わいながら疲れた身体を癒していると、休憩所内がなんだかざわついてきた。
 客たちがこぞって窓に張りついたり外に出たりしている。
「俺たちも、行ってみようぜ」
 ランスに誘われ、セイジは頷き休憩所の外へ出る。
 外ではショコランドの小人や妖精たちが、期待に満ちた目で空を見上げている。
「流れ星!」
 2人の歓声が重なった。
「すげぇ!」
 ランスはただただ感動していたが、ふと気づくとセイジは目を瞑り一心に何かを祈っているようだった。
(しまった!願い事か!)
 流れ星と言えば願い事と相場は決まっているではないか。
「もう一回流れないかなぁ」
 ランスは夜空に目を凝らすと、さらにもう一筋、二筋と光が流れていく。
(俺たちが幸せでいられますように)
 ぎゅっと目を瞑り、強く願う。
 目を開けると、笑顔でこちらを見守っているセイジの姿。
「な、セイジは何をお願いしたんだ?」
「えっ」
 ランスの質問に、セイジの顔が一気に赤くなる。
「い、言わないよ?」
 そんなセイジが可愛くて。ランスの胸についつい湧き上がってしまう悪戯心。
「そう言わずにさ、教えてよ」
 にまにましながらセイジの顔を覗き込む。獣耳と尻尾が楽しそうにパタパタ動く。
「絶対言わない!」
「教えてよ~」
「内緒ったら、内緒!!」
 ランスがもっと俺を好きになってくれるように、と。反射的に願ってしまったなんて、そんなことは内緒。


 中級者コースを滑り終えたセイリューとラキアは、麓にスキー客が集まって空を見上げているのに気付いた。
「もしかして」
「金平糖の流星群!」
 2人は顔を見合わせる。
 急いで他の客に混じり空を見上げ、しばらく待つと、すい、すすい、と2つ3つの流れ星。
(セイリューとずっと一緒に)
 流れ星の美しさに感嘆しつつラキアがそう願いかけたところで。
「ずっとラキアと一緒に長生き!」
 セイリューの大きな声が響いた。
 あまりにも大きな声だったから、他のスキー客たちの視線が集まる。
「願い事声に出てるよ」
 ラキアが苦笑するも、セイリューは全く気にしていない様子の笑顔。
(一緒に長生き、か)
 ラキアはセイリューの願い事を胸の内で反芻する。
 ウィンクルムとして生きる以上、いつ何時、どんな危機が迫るかもわからない。命の危険すらある。
 だから、「一緒に長生き」なんて言葉はそう簡単には口にできない。
 にもかかわらず、セイリューは事もなげに言ってみせる。
 彼の真っ直ぐな瞳は、願い事通りの未来が間違いなく訪れることを信じて疑っていない。
 ラキアは、ふっと笑みを零す。
 この真っ直ぐな瞳が、きっと2人の未来を導いてくれるに違いない、と。


 休憩の後も少し滑った李月だったが、さすがに疲労がピークとなり、ゲレンデに腰を下ろす。
「仕方ないな」
 ゼノアスは李月を置いていくことも出来ず、その場でスノボパフォーマンスの練習をすることにした。
「腹ごなしには丁度いい」
 ゼノアスがターンしたりジャンプしたりする度に、粉砂糖の雪が舞う。まるで、映画やドラマの主人公のようだ。
 ぼんやりしている李月の前で、砂糖を舞い上げターンし止まると、一言。
「見惚れてろよ」
「……なっ」
 見惚れてなんか……いたけど。恰好良いと思ってなんか……いたけど。
 素直になれない李月が視線を逸らすと。
「あれ?」
 ゲレンデに極端に人が少なくなったことに気付く。
 よく見ると、麓の方に集まって、空を見上げている。
「ゼノアス、みんな流星群を見に行ってるんじゃないのか」
 李月は麓を指さす。
 ゼノアスは李月の隣に腰を下ろす。
「ここからでも見えるんじゃないか?」
 李月はゼノアスと並んで座ったまま、流星群を待つことにした。
「願い事……なんかあるか?」
 李月が訊ねる。
「無いな、望みは毎日叶ってる」
 ゼノアスはきっぱりと答えた。
「お前のお陰でな」
「ゼノアスは、強くなりたいんだっけ」
 ゼノアスは頷いて、空を見上げた。
 李月といることで、「強くなりたい」という願いが叶う。ゼノアスはそう信じているのだ。
「そうか……」
 李月もゼノアスに倣い空を見上げ、思う。
(今日の日も相棒の願いの一部になればいい)
 
 ショコランドに金平糖が降り注ぐ。
 皆の願いを乗せて、降り注ぐ。



依頼結果:大成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月08日
出発日 02月14日 00:00
予定納品日 02月24日

参加者

会議室

  • プラン提出できた。
    オレ達もナイターの予定さ。
    金平糖の流星群、キレイに見えると良いな!
    すれ違ったときはヨロシク。
    良い時間を過ごそうぜ。

  • [4]李月

    2016/02/13-19:11 

    みなさんよろしくお願いします!

    僕等もナイターです。
    遊んだ後流星群見られればいいですが。
    どこかですれ違うかもしれませんね。
    バカやってる所見られたら恥ずかしいですが…

  • [3]アキ・セイジ

    2016/02/13-02:09 

    俺達はナイターの予定だよ。

    この冬は沢山滑った。
    だから、こういう変わった所で最後のひと滑りができるとあってとても楽しみにしているんだ。
    マシュマロを炙りながらじんわりとした時間が流れるのもな。
    滑ってる時にすれ違うかもしれない、滑る前にランスが何かたべてるのが見えるかもしれない。
    そんな感じで、どうぞよろしく。

  • [2]アキ・セイジ

    2016/02/13-00:20 


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