【糖華】シュガー・プランツ(三月 奏 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 町中がキャンディで飾られた『ショコランド』の『キャンディニア王国』にて。
 その一角の大きな広場。そこに構えられた期間限定そうな見るだけでは判断できない謎のお店では、不思議な光景が繰り広げられていた。
 ──ベキッ、ガシャン、カシャン、パリン──
 遠くからでも聞こえる、ガラスを割る様なとても透き通った音がする。
「さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。今年も『シュガー・プランツ』の季節だよ!」
 見れば、声を張り上げている小人が、ガラスと見間違うほどの綺麗な色とりどりの飴を、とげとげ付きのハンマーで砕いている所だった。
(食べないの? 壊してしまうの? そんなに綺麗な飴なのに)
 そんな各々の思いを持ってウィンクルムが集まると、
「さあ、ここからが本番だ!」
 小人はそう言いながら、いくつかの硝子で出来た小瓶を用意した。
 普通の人の親指位の高さに、大きさは手のひらに収まる程にこじんまりとしながらも、デザインはバラエティに溢れている。
 そして、その中に固まりから粗めの砂のように砕いた飴を、薄い青、黄色、緑の順番に色の断層になるように綺麗に流し込めば──
 すると、不思議。瓶の中の飴砂は、綺麗で艶やかな、何とも甘い香りを届けるとても色合い美しいグラデーションのゼリーに変化したではないか。
 驚くウィンクルム達に、小人は楽しげにゴソゴソし始めた。
「そして仕上げに──」
 小人が取り出したのは、手のひら位の大きさしかない小さな切り花──のような、お菓子。
 茎はチョコレート、葉は飴で、花は少し固めのシュガークラフト。
 それを、先程の小瓶に挿し入れると、ゼリー状の甘味の支材に飴で出来た根を伸ばして、あっという間に『全てが、お菓子で出来た鉢植え』の出来上がり。
「これで『シュガー・プランツ』の完成さ! 今は鉢植えの硝子瓶も花も全てオーダーメイドで承ってるよ!
 デートのお供に恋人同士で愛でるもよし、一緒に食べてしまうもよしっ。
 ──そう! そこのウィンクルムのお二人さん、どうだいっ?」
 その小人の目の先には、あなた方お二人の姿がありました──

解説

ショコランドにある王国の一つ、色んな物が飴細工で作られている『キャンディニア王国』
その一番の広場では、どうやらオーダーメイドで出来たお菓子の鉢植え『シュガー・プランツ』が作られていました。
甘さも、色目も、匂いも、味も。全てがウィンクルムお二人のオーダーメイド。
ショコランドのデートのお供として、もしくは空腹時のおやつとして、気まぐれにお一つ如何でしょうか?

○個別描写となります。

○器の形、ゼリー状になるキャンディの色(単色でもグラデーションでも構いません)、
そして、キャンディ・プランツとして植えるお菓子の素材(『葉がチョコレート』等、プロローグ通りでなくとも構いません)
──これらを、行動に支障が無い程度にお書き添えください。
書かれていない箇所につきましては、全て思いつく限りのアドリブを入れさせて頂きます。

○広場には、テラスがあります。
作ってその場で美味しく頂く事も可能です。

○ここで作った『シュガー・プランツ』は、『ショコランド』の外に持ち出すと枯れてしまいます。
味もとても食べられたものではなくなる為、食べて消費も出来なくなります。

○プラン文字数に余裕がありましたら、シュガー・プランツ入手後の行動等がありますと、デートの一環として許す限り詰め込ませて頂きます。

○EXエピソードの為、プラン文字数の関係上、アドリブが大量発生致します。ご了承頂けましたら幸いで御座います。

○『シュガー・プランツ』作成、購入費とフォークをお付けして400Jrを頂いております。

○エピソード、大成功のヒントなど
楽しいデートのお供に鑑賞したり、作ること自体の思い出作りや、午後のおやつに最適です。


ゲームマスターより

この度は、このページを開いて頂きまして、誠に有難う御座います。 三月奏と申します。

今回は『シュガー・プランツ』という、ショコランドのみに存在できる、甘いお菓子植物の鉢植えを作ろうというのが主なテーマになります。
しかし、それを伴ってのデートシーンを入れて下さったりすると、喜びます。大喜びします。

お菓子の花は、その場で小人が作ってくれます。
大きな花はミニチュアサイズで。
創作でもお任せでも、実在の花がモデルでも構いません。

皆様の素敵なデートのお時間のお手伝いをさせて頂けましたら、この上ない幸いで御座います。
皆様の楽しく素敵なプランを、心よりお待ち申し上げております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
エミリオが『シュガー・プランツ』を一緒に作ろうって誘ってくれるなんて
一緒に何かを作るのって久しぶりだから、とても嬉しいな

☆精霊と共に『シュガー・プランツ』作り
ねね、エミリオ、私花は『薔薇』がいいなっ
エミリオも同じことを思ってくれたの? 嬉しい!
小人さん『薔薇の形』をしたお菓子の花、作ってもらえますか?
色はえと、あ、赤でお願いします(はにかむ)
『ゼリーになるキャンディの色』は淡いピンクから赤になるグラデーションがいいな
上手くできるかな
一緒に頑張ろうね(精霊と顔を見合わせ微笑み合う)

☆『シュガー・プランツ』完成
なんだか食べるのが勿体ないね
私も絶対忘れないよ
私も貴方を愛してます(そっと寄り添う)


篠宮潤(ヒュリアス)
 
「え?オーダーしてくれる、の?」
僕、ベンチで待ってる?分かった
どうしたのかな…珍しい…


わ!すごく可愛い感じ、の……
「キス、すると、色が変わった、あの花見たいだね」
え?当たり!?そ、そっか。綺麗だったもん、ね、あのお花
「確、信…え、え、何?」
そりゃ…気持ち受け止めてくれた時に…もしかしてって…思ったけど

「ヒューリ『だから』好き、なんだよ」
開き直ってキパッ(でも顔は赤い
「今更…僕に遠慮とか、いらないから、ね?」
「!?」
確かに言った、けどっ
口ぱくぱく茹でダコ
嬉しいのにっ…ヒューリって…天然?;
うう…これから、ピンクや赤い花見るたび…思い出しそうっ(花びらもぐー
※きっと飴食べても思い出すことだろう


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  甘党な羽純くんの為、とびっきり美味しいものを!

器の形:桜の花
ゼリー状になるキャンディの色:青から桃のグラデーション(青が羽純くんで桃が歌菜のイメージ)
キャンディ・プランツ素材:花弁はチョコ(ミルク、ビター、ホワイト、ストロベリー、抹茶。更にチョコの中にアーモンド、マシュマロ、マカダミアナッツ、ライスパフを贅沢に)
茎はクッキー
葉はポテトチップス

町中がキャンディなんて素敵だよね♪
シュガー・プランツ入手後は、町を見学して回る
陽の光に輝く飴って綺麗…手元のシュガー・プランツも綺麗
出来れば、町が一望できる場所で、ゆっくりシュガー・プランツを食べたいな
珈琲を買って、二人で乾杯して食べます
うん、凄く美味しい


水田 茉莉花(聖)
  ショコランドの外に持ち出せない鉢植え、ねぇ…
ん?ひーくん、食べてみたいの?

へぇ、クマが頭の上でお花を持っているような鉢、よく見つけたわね
ゼリーも蜂蜜色だし、持っているお花もデイジーで、漫画みたい
このお花『ドラジェ』で出来てるって言ってたっけ?

あ、ありがとひーくん…でもね、あたし甘いもの得意じゃないんだ…
だから、花びら1つ分で大丈夫、残りはひーくんが食べて

あたしはひーくんに幸せになって貰いたいんだ
ひーくんはあたし達の所に来るまでのこと、全然言ってないでしょ?
だから、何かあったのかなーって思ってるの、あたしはね

そのお花は、ひーくんがこれから幸せになる分
しっかり食べて頂戴(精霊と鉢植えの写真を撮る)


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
 
盲目の海亀、目が横線
色は甲羅が緑、本体は緑寄りの黄緑
甲羅の上半分を切って(縁は波のように緩い曲線を描く)器にする感じで

ゼリー
色は大海を思わせる青、気泡が入っていると尚良い
流木イメージのチョコの棒を浮かべる

花と味は任せてほしいとの事なのでテラスに移動
どんなのが出来るんだろ…(ワクワク

…あ、ガルヴァンさ…
わぁ…綺麗…!
さらに亀を見
わーリボン付けてもらったんだ可愛い~
…?このチョコの言葉…

…え?
え、そんな…ガルヴァンさんに祝ってもらえる程の事じゃ…

う…

…あっ
そ、そうだ、お返しじゃないけどこれっバレンタインのっ(慌てて渡し
日頃の感謝を込めて…!
初心者なりに、頑張ってみた


食べて
残った硝子亀をお供に散歩



 広場にある、左右に大きく幅を取った一季節限定のシュガー・プランツの店の前。
 それを目にしながら、彼は心の中で胸が高鳴るのを抑え切れなかった。
 月成 羽純──趣味、各地の甘味巡り。
 生粋の甘味好きな彼にとって、シュガー・プランツはまさに好奇心をそそる『未知の甘味』であった。
 そして、神人である桜倉 歌菜には、想いを通じ合わせたそんな羽純の様子が良く分かる。
(羽純くんのそんなところも大好き)
 彼を想うだけで心が浮き立つ。歌菜は、彼を想うだけで幸せになれる。
 心で叫びながら、そんな歌菜は決意した。
(甘党な羽純くんの為、とびっきり美味しいものを!)

「ねえ、羽純くん。シュガー・プランツどんなのにしようっ?」
「そうだな、こんなに多いと目移りする。一緒に決めていくか」
 二人の話を聞いて、店主がカウンターの上に、まずは手持ちの器から、と選びやすいようにそれらを並べていく。
 少し見ただけでもかなりの数。見た目から決めるのは至難の技だ。
 そんな中で、羽純はふと歌菜の姿をじっと見つめてから、一つの器を手に取った。
「器の形は桜がいい。これなんてどうだ?」
「あ、うんっ。可愛い」
「一緒に……出来れば花の形も桜がいい」
「分かった、テーマは桜だねっ。お菓子の桜、素敵だろうなぁ」
 想像を膨らませる歌菜の傍で、数があまりに多すぎて決めかねたから『一番身近で、大切な存在をイメージできる花を選んだ』とは流石に直球では言い難く、この場はこっそり秘密にしておくことにした。
 「羽純くん。ゼリー状になるキャンディの色なんだけどね、青から桃色のグラデーションなんてどうかな。
 青が羽純くんで桃色が、その……私のイメージって、どうかなって……」
 歌菜が少し恥ずかしそうに羽純に告げる。
 もちろん羽純はそれを否定することなく頷いた。桃色も、歌菜のイメージそのものだ。
「ね、花の素材は何がいいかな?」
「そうだな……」
 羽純は脳裏に浮かぶ数多の菓子の種類の中から、しばらく悩んで頷いた。
「好物のチョコが食べたい」
「うんっ!」
 歌菜も、その言葉に嬉しそうに大きく頷き返した。
「店主さん。お花の素材で……まずは花弁に、チョコのミルクとビターにホワイトと、それから──
 それと一緒に、チョコの中にアーモンドとマシュマロと──それから、ライスパフをたくさん贅沢に!」
 歌菜の口から、詠うように驚くほど次々とお菓子の名前があふれ出てくる。
「おっ、ライスパフとは通だね、お客さん! それじゃあ、花びらは少し厚めに作ってやろう!」
 ……出会った当初は、歌菜から率先してこんなに沢山のお菓子の種類を聞くことは無かった。
 今出てきたお菓子の種類は『女の子だから』で片付けるにはとても細やかで──それで、羽純は無意識に思っていた事を改めて実感する。
 歌菜は、自分の為にお菓子の種類を覚えて、そしてその知識を蓄えていってくれているのだと。
 そう思うと、羽純はその幸せに胸が温かさを覚えながら、僅かな微笑と共に己の頬を緩ませた。

 そして出来上がったのは、茎から分かれた幾つかの桜の花。
 それぞれの花の一番の中心には、王道のビターチョコレートでコーティングされたアーモンドと、マシュマロ、マカダミアナッツ。
 その少しボリュームある部分に合わせて作られたチョコの花びらには、ミルク、ビター、ホワイトの他に、更にストロベリー、抹茶と、種類あふれる色が添えられた。
 茎枝はチョコを交えたストライプ模様のクッキー、葉はちょっと塩味の効いたポテトチップスで出来ている。
 それらが、ゼリーの中に崩れ倒れる事無く植えられた様子は、とても不思議なものだった。

「羽純くん。こんな素敵な町だから、シュガー・プランツは、どこか町が見渡せる場所で食べたいな。きっと素敵だと思うのっ」
「そうだな。じゃあ町を少し歩いてみるか」
 声を弾ませ、楽しそうな様子を隠さない歌菜の代わりに、鉢植えは羽純がシュガー・プランツを痛める事の無いように、丁寧に片手に持った。
 二人は軽い探索もかねて、キャンディニア王国の町並みを歩き始めて、
「窓枠と屋根にキャンディがついてる! 可愛い……!」
 さっそく歌菜が目を向けたものは、ピンクと白でマーブル模様になっているボタン飾りのついた建物の窓。
 窓枠には同じ模様の丸い棒状の飴が埋め込まれていて、太陽の光にキラキラ輝いている。
 家によって模様や形こそ違うが、その殆どが光を反射している光景はとてもきらびやかだった。
 歌菜はふと、羽純が持っているシュガー・プランツに目をやった。そちらも、光がゼリー部分を通って離れた地面へと、青から桃色へのグラデーションを映し出している。
 そのどちらも綺麗な光景に、歌菜は思わずため息をついた。
 そのまま大きな通りに出れば、その道をキャンディニアの『赤の騎士団』が町の様子を見回り中。
 皆が小さめの猫にまたがり、先の尖ったキャンディの槍を縦に構えて、とっとことっとこ列を作って行進していく。

 ──普通の日常では考えられない、見るもの全てが物珍しいその光景に、歌菜の目は追い付かないとばかりにあちこちへと移動した。
「凄い……! えっ、あれもキャンディ?
 羽純くん、どれも凄く素敵……っ!」
 歌菜はミニチュアサイズに近い家や小人たちを目にしながら、そのひとつひとつを教えるように、受けた感動をそのままに羽純に伝えていく。
 羽純にしても、この国の見る物全てが珍しい。
 同時に、歌菜がその一つ一つを喜んで眺める姿を見られる事が、とても楽しく心に響いた。
「そのままじゃ逸れるぞ」
 そのまま、はしゃぐ歌菜が逸れないように自然と相手へ手が伸びて。そのまま何処かへ行ってしまいそうな歌菜の手をきちんと握る。
 昔なら、赤面では済まない行動も、今なら愛しさの思うままに自然に出来る。それはとても嬉しい事だった。
 手を繋いでも、歌菜の動きは殆ど変わらない。
 可愛らしい不思議なものを見つける度に見受けられる、歌菜の幸せそうな満面の笑顔に、羽純の表情も自然と綻んでいく。
 それも当たり前──歌菜が嬉しい事は、羽純にとっても、とても嬉しい事なのだから。

 今、この期間はショコランドの祭の最中。
 羽純が辺りを見渡せば、道を一本ずれた所にあった屋台の飲み物屋を見つけ、声を掛けた。
「この辺りに、町が一望できるような場所はありませんか」
「ウィンクルム様かい? それなら、あの道をまっすぐ行った所にある丘がお勧めだよ。見渡しがいいからウィンクルム様に使ってもらおうと、あちこちに兵士さんが椅子とテーブルを置いているのさ。
 ついでにうちの店のコーヒーも買ってお行き。絶景に最適な美味しさだよ」
 押しの強い女性の小人だが、こちらも丁度飲み物が欲しかったところ。情報と合わせても、それはとてもタイミングが良かった。
「はい。手にべとつかない『ガラス飴』で出来てるよ。
 ただ、内側からどんどん溶けていくから、コーヒーがお砂糖の味しかしなくなる前に召し上がれ」

 そうして上った丘の頂上。
 そこには先程の小人が言った通り、綺麗な白のテーブルと椅子が2脚きちんと整えられていた。
「あ、羽純くん! お城が見えるよ!
 わぁ……飴の飾りがきらきらしてて綺麗……!」
 丘の上は、城で一番高い見張台の屋根と同じ高さ。飴で装飾された屋根が、ここでも反射した光をウィンクルムの二人に届けていた。
「それじゃあ……乾杯っ」
 お互いが向かい合って椅子に座り、ガラス飴のグラスをぶつけ合う。
 歌菜はストロベリーの花びらを一枚、そっとちぎって口の中へ──
「うん、凄く美味しい」
 思わず零れる素直な感想。
 しかし、味わっている間に同じようにしつつも羽純の方が食べるのが早い。
「チョコの美味しさは勿論、クッキーもさくさくしてて、ポテチの口直しになる塩味もいい」
 堪能している羽純を、歌菜は見つめて──つい、とても幸せそうに微笑んだ。
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」
 しかし、問われても幸せそうな笑顔を隠さない歌菜に、いつしか羽純も一緒に楽しそうに小さく笑った。

 どんどん減っていくシュガー・プランツ。
 しかしそれは、お互いを想いあって出来た、今何よりもの幸せの味──



 キャンディニア王国に遊びに来た、ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツは、珍しいウィンクルムの存在に集まってきた小人からシュガー・プランツの話を聞いた。
 パティシエを目指しているミサ。お店を開いたらエミリオと一緒に働きたい、大切な人と笑顔を届ける仕事がしたい──エミリオはそう語ってくれたミサの言葉を良く覚えている。
 今も、一緒にいる時にミサの作ってくれるお菓子は美味しくて。
 いつも作ってもらってばかりだから、せっかくのこの機会に、2人の手で一緒にシュガー・プランツを作りたい。一緒に作って喜んでくれるミサの姿が見たい。
 エミリオのその提案にミサは『一緒に頑張ろうね?』と、一緒に幸せを形にしたような微笑みを向け合った。

 そして、こんなシュガー・クラフトを作りたい──注文をした後、早速、薄桃から情熱的な赤の飴を砕き始めた店主に、慌てて『自分達で作りたい』と言った2人へ、相手はとても申し訳無さそうな顔をしてみせた。
「すまんなぁ、シュガー・クラフトは秘密の技術なんだ。それで、注文を承って、俺が代わりに作ってるってわけだ。
 だから恩あるウィンクルム様でも、俺と同じ手順で作ってみても上手くいかねぇんだ」
「そんな……」
 ミサが思わず声を漏らす。せっかくエミリオと一緒にお菓子作りが出来ると思ったのに。
「ミサ、それなら仕方が無いよ」
 落ち込むミサをエミリオが慰める。しかし、一番落ち込んでいるのは提案してくれたエミリオに他ならない。
「……でもそうだな、これなら──ちょっと待ってな」
 小人は、急いで作ったグラデーションが映えるゼリーの入った瓶と。
 最初に聞いた注文の通り、透き通ったライムに似た綺麗な花茎と、二人の心の時間を重ねたようなシュガークラフトとは思えない薄い細工の花びらを重ね持つ、深い赤色をした薔薇の花を持って飛び出してきた。
 そして、二人をすぐ側にあるテラスまで案内して、二人を隣に並ぶ椅子の上に座らせる。
「ここだけの秘密だぜ? 花を支える最後の根だけは、技術じゃねぇ。心で作られてるんだ」
「心?」
「そう。鉢植えを渡す相手に、いい事ぁ起こりますように。食べてくれる人が幸せでありますように。
 そんなありったけの感謝と思いを込めて、この細工の花をゼリーの中に挿し入れる。
 技術ってつーよか血筋だから、根を張らすにゃ俺の手は離せねぇが、今回俺は『何の心も込めねぇ』」
「そ、それじゃ、花が倒れちゃうんじゃ……!」
「そうでぇ。
 ──今回は、俺が茎を持ってやるから、お前さん達2人がそっと『心を込めて』花を上から押してゼリーに挿すんだ。
 離すタイミングを間違えちゃならねぇし、更に思いが足りなくても、根が張らなくて目も当てられねぇぐだぐだの失敗品になっちまう。味だってガクンと落ちる。
 試しにやってみちゃどうだい? 失敗が怖けりゃ俺がいつも通りに作ってやるぜ」
「──ミサ。
 普通のだけでもこれだけ綺麗なんだ、無理はしない方がいい」
 エミリオが、既に諦めたようにミサを諭す。
 しかし、
「エミリオ──……やろうよっ。
 せっかくだものっ、きっとできるよ!」
「だけど、失敗したら──」
「それに、店主さんの話を聞く前に言ったよね?
『一緒に頑張ろうね』って。
 一緒なら絶対、大丈夫」

 思いを込める……思いなら、想いなら誰にも負けない。
 ミサは、エミリオと一緒にいて確かに色々な事があった。それでも、その都度言い続けてきた。
『大丈夫』と『好き』と『愛している』……時間を連れ添うにつれて、深くなる想いを偽りない気持ちで伝えてきた。『感謝している』も『幸せになって欲しい』も、その中に溢れんばかりに含まれた。
 エミリオが『幸せ』である事の中に、ミサの幸せも含まれている事には、最初は驚きで信じられなかったけれども、今なら分かる。
『一緒に、幸せになる』──それは、今のミサにとっての絶対条件。
 これらに行き着いたその心は、ミサにとっての『もう一つの戦いの軌跡』だ。
 今エミリオとここにある平穏は、ミサが必死に戦い、勝ち取ってただ強く守ってきた争いの結果。
 だからこそ、自信を持って言える。相手を思い想う心なら、絶対負けない、失敗なんかしない。

「ねっ、エミリオ」
「ミサがそう言うなら。
 もう失敗しても知らないよ」
 エミリオが知らない、ミサの心の押しに負けて苦笑を浮かべる。
「よぉーし! ウィンクルム様のお手並み拝見と行こうかい!」
 小人が、透き通って強く持てば折れてしまいそうな、お菓子とは思えない透き通ったつややかな茎の上部を摘むように持って、二人が花の部分に指を当てる。
 二人同時に、飴から出来たゼリーに茎を押し込んだ。
 やった事がないのだから、力加減なんて分からない。それでも、ふと『ここだ』と思った瞬間が心に浮かぶ。
 それと同時に2人同時に、薔薇からそっと指を離した。
 沈めた深さは3分の2程、これから傾くのではないかと2人が緊張の面持ちで見つめる中。
 綺麗に、透明な飴で出来た根が、ゼリーを動かし張り巡らされた。
 そして、そこにあったのは──花瓶に活けられ、凛と咲き誇る、お菓子とは思えない艶やかで情熱的な赤い薔薇。
「おお! 本当に出来るもんなんだな! こんな荒業成功したのは初めてだぜ。流石ぁウィンクルム様だ!」
 店主が、神人と精霊の為に、2本のフォークを持ってきてくれる。
 しかし、テーブル中央に置かれたシュガー・プランツを挟んで、即それを食べようという気にはなれなかった。

「……なんだか、食べるのが勿体ないね」
 緊張と、しっかりと根を張る薔薇の美しさにミサが呟く。
「じっくり鑑賞した後に、2人一緒に食べようか」
 エミリオが、2人で作り出した宝物を見つめるまなざしで、それを瞳に入れる。
 幸せそうな穏やかな瞳とは裏腹に──否、その確かにある幸せゆえか。
 瞼に脳に焼き付けるように、エミリオがシュガー・クラフトという2人の想いの結晶を見つめる。
 エミリオの胸にまた一つ、焼印のような痛みを生む『ミサとの幸せ』──それでも、その全てを、何があっても忘れないようにその胸に抱きしめた。
「……ねえミサ、今日は凄く楽しかったよ」
 心に万感の思い。かみ締めるようにエミリオが告げる。
「私もだよ。
 エミリオから、一緒に作ってくれるって言ってくれた時には嬉しかったし、大変だったけれどもこんなに素敵なものが出来たから」
 ミサも、茎と葉が日の光で照り返し、一層透明感を増してその花を咲き綻ばせ、その存在を誇張する中央に置かれたシュガー・プランツを見つめてエミリオに笑顔を向けた。
「ミサも同じ気持ち? ……よかった」
 白いテーブルの上に乗せられていた、隣に座るミサの手を幸せに満ちる心でそっと触れた。
「ミサ。
 ……俺、今日の思い出絶対忘れない」
「──私も、絶対忘れないよ」
 声はいつも通りの大きさ。しかしエミリオの宣言するその言葉は、ミサにはまるで、いつかその思い出を全て集めて、今すぐ遠くに行ってしまいそうな錯覚を受けて。
 ミサはそれを打ち消すようにと、その愛しさで相手を包み込むような言葉で同意する。
 そして、エミリオにとっては、季節はまだまだ冬なのに、ミサが両手を広げた空間だけは、その陽だまりのような温かさで心に安らぎを満たしてくれるのを実感できる。
 その事実をかみ締め、エミリオはその感情を一つに集約させた。
「ミサ、愛してる」
「……私も、貴方を愛してます」
 それに応えたミサの肩が、その身体が、そっとエミリオに寄り添った。

 大切な存在、お互いにとっての幸せな時間。
 またひとつ、2人だけの思い出が出来た。
 大切な彼との思い出は──また一つ、ミサの心を強くする。



 ショコランドのキャンディニア王国へ遊びに来ていた、アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルド。
 そこで見つけた、一つのお店。
「お菓子を作ってくれるんだ……」
「期間限定の『シュガー・プランツ』というのだそうだ。興味深いな」
 カウンター越しにお店の中を目にする二人に、店主の小人が出迎えるように小走りで向かってきた。
「ああ、今なら器もオーダーメイドだ!
 とは言え、注文も多いから、まぁまずどんな形の器も『無いものは無いっ』って位に胸張れるがな!」
 店主から併せて作り方まで聞いたアラノアは、その言葉を聞いてからしばらく、何かを思いついたように目を輝かせた。
「……それじゃあ、『亀』って出来ますか?」
「え……?」
 予想外の注文に店主の顔色が変わる。記憶の中から亀の器はあっただろうかと慌てて記憶を漁っている様子が伺える。
「目の見えない亀で、目の部分は横線で──甲羅の上半分を波線みたいに切って器にする感じで」
「う~ん、そこまでいくと、本格的に『ガラス飴』からの作り出しだな。大して掛からねえが、少し時間をもらってもいいかい?」
 二人が頷くと、店主は急いで店の奥へと消えていった。
「んー……やっぱり、少し難しかったかな……」
「──だが、それが良いと思ったんだろう? 最初からオーダーで作ると言っていた。ならば、それで良いのではないか?」
 ガルヴァンの言葉に、アラノアが少し安心したように頷く。
 その後、本当にあっという間に、店主が甲羅の上部が器になっている緑色を主軸に作られた亀の器を両手に持ってきた。
「我ながらいい出来だぜ……! 嬢ちゃん、これでどうだい!?」
「はい、イメージ通りです。
 それに、大きな海を思わせるような青のゼリーを。気泡が入っていると尚良いです。
 その上に『流木を思わせるような』穴あきのチョコの棒を浮かべてもらえると」
「何だか良く分からねぇが、具体的なイメージがあるのも芸術家魂に火がつくぜ!!」
 もう既にアラノアの中で決まっているのであろう詳細なイメージに、店主は冷や汗を流しながらも気合を入れ直す。
 その最中──アラノアの精霊であるガルヴァンは、彼女が何を作ろうとしているのか直ぐに悟った。
 ……それは、とても馴染みがあるが故に。

「──アラノア。せっかくだから、二人で作らないか?
問題なければ、花と味はこちらに任せて欲しいのだが……」
 ガルヴァンの発言に、アラノアは驚きと喜びに瞳を染めて相手と、亀の器を見比べた。
「……! うん、ガルヴァンさんの花……楽しみにしてる」
「少し考えるから、先にテラスで待っていてくれるか」
「うん、分かった」
(どんなのが出来るんだろ……)
 頷いたアラノアが楽しみに高鳴る胸の内を隠しながらテラスに向かったのを確認して、1人になったガルヴァンはカウンター越しに、四苦八苦の上、何とかアラノアが頼んでいたシュガー・プランツを形にしてきた店主に話し掛けた。
「店主。すまんが……これを神人の誕生日プレゼントとしたいが……いいだろうか」
「おおっ、神人様へのプレゼントか! いいじゃねぇか!!
 だけど、これは殆ど神人様のデザインだがいいのかい?」
 のほほんとしたイメージの亀の首に、少し華やかめなピンク色のリボンをあつらえながら店主が尋ねる。
「ああ、アラノアは恐らくこれに『花』をつけようとしていたはずだ。それを俺が作ろうと思っている」
「すげぇ、ウィンクルム様ってのはそこまで分かるもんなんだな」
「──……難しい事を承知の上で言うんだが……店主、『優曇華の花』というのを知っているか」
 店主が手を止める事しばし、悩みに悩んでから、観念した様子で頭を抱えた。
「すまん、俺にゃあ学がないからなぁ『ウドンゲのハナ』つーのも、どんなものかさっぱりだ」
「大丈夫だ。知っている方が珍しい。
 ……とある宗教経典で、3000年に1度だけ花が咲く……と言われている伝承の花だ」
「ぅおい、精霊様! 流石に実在してねぇ花は分からねぇよ!」
「一応、モデルと呼ばれた花はある。店主、普通の紙とペンはあるだろうか?」
 そう言ったガルヴァンが、渡された紙にペンを滑らせ、見るからに珍しそうな植物を描いていく。
 デザインに慣れていなければ、綺麗に伝達する事は難しかっただろう。しかし、筆慣れしたその手は、そのイメージを上手く店主へ伝えることに成功した。
「モデルはイチジク属の『フィクス・グロメラタ』という花だということは分かっている。
 描いた通りの……いや、イメージの花をプレゼントしたい」
「おお! これだけのデザイン画がありゃ十分だ! ──で、色と味はどうするんだい?」

「……あ、ガルヴァンさ……
 わぁ、綺麗……!」
 ガルヴァンが戻ってくるのをテラスで待っていたアラノアは、そのイメージで作られた花を見て目を見張った。
 漂う香りと味は、統一して『無花果』。
 花弁の色の内側はアメジストと見間違えそうな紫色と、はっきりと見える外側は──アラノアの瞳と同じ赤。
 葉の素材は、表にストロベリーと裏にビターを使用した2層のチョコレート。
 アラノアが指定していなかった甘いゼリーの味は、全体の統一を取る為に塩気をやや強め。
「こっちの亀の首にもリボン……! 付けてもらったんだ可愛い~」
 花と同時に、亀の首に付けられたリボンにアラノアの顔が綻ぶのを見て、一つ安心したようにガルヴァンが向かいの椅子に腰をかける。
「あれ……? このチョコの言葉……」
 そして、アラノアがゼリーに置かれたチョコのプレートをじっと見つめた。
 ガルヴァンが店主から『プレゼントであるなら』と、おまけでもらった甘いチョコプレートに綴ったその文字は、

『出会えた奇跡に感謝を』

「もう誕生日だろう? それに合わせて作ってもらった」
 慣れずにちょっとぶっきらぼうになりながら告げられた言葉に、アラノアは瞳を大きくする。
「……え?
 え、そんな……ガルヴァンさんに祝ってもらえる程の事じゃ……」
「俺が勝手にやった事だから気にするな」
「う……
 ──あっ」
 申し訳なさや恥ずかしさで、どのような顔をしていいのか分からないアラノアは、はたと我に返ったように、バッグから小さめの一つの箱を取り出した。
「そ、そうだ、お返しじゃないけどこれっバレンタインのっ」
 アラノアは慌てふためいた様子で、ガルヴァンにそれを強く押し付ける。
「日頃の感謝を込めて……!」
 その言葉に、ガルヴァンが了解を得て不思議そうに箱を開ければ、そこには小粒ながらも丸型から三角、四角……花の形に至るまでの様々な形のチョコレートが納まっていた。
「……チョコ……?」
「初心者なりに、頑張ってみた」
 若干、挙動不審気味に告げた視界に入るアラノアの姿と共に、そのチョコレートへと目を向ける。
(俺のために作ったのか……)
 目の前のチョコレートを見つめる中に、何処か未だに信じられないという思い。
(俺の、ために……?)
 ガルヴァンは、自分の胸がざわめく音を聞いた気がした。
 疑っても、信じられなくても──それでも、手の中には、消えたりしない相手の思いが。
 おそるおそる、チョコの一口を手に取り、食べる。
 その客観視した味は『普通』だと告げていた。
 ……だが。
「……美味い、な」
 心から零れたその言葉。それに嘘も偽りも無い。
 普通以上に、美味く感じるのは何故なのか、どうしてなのか──まだ、その答えには辿り着けないけれども。

 夕暮れまでの時間、中身を食べてしまえば溶けてしまう事はないと聞いた、ガラス飴の亀をお供に、二人は珍しいキャンディニア王国の町並みを散歩する事にした。
「これ、宝物にしようと思うんだ」
 それに入っていた、お菓子で出来た『盲亀の浮木と優曇華の花』
 彼女達のインスパイア・スペルの元にもなっているそれらの言葉の意味は、

 どちらも──『奇跡に近い程の出会い』の意味を指し示すもの。

 アラノアの手の中にある、盲目の硝子亀はそのまま宝物になるらしい。
 同じように、彼女からの貰い受けたチョコレートが収められていたその箱も──当分ガルヴァンには捨てられそうに無い──



「さぁ、シュガー・プランツを売ってるよ! オーダーしてくれるだけで、このショコランド限定の食べられる花の鉢植えを販売して売っているぜ!
 ここで買わなきゃ損するぜ! さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
 威勢の良い小人の姿をした店主の掛け声。
 任務の息抜きにショコランド特有の光景を堪能していた神人である水田 茉莉花と精霊の聖は、その声に足を止めた。
「ショコランドの外に持ち出せない鉢植え、ねぇ……」
 周りの風景は目新しく、一つ何か見る度に心を動かさせるが、その全てがお菓子で出来たシュガー・プランツに、茉莉花はいまいち乗り気ではない。
 しかしそれを見ていた聖は、その珍しいデザートに目を光らせた。
「ママ、ぼくこれ食べてみたいです、作ってみたいです」
「ん? ひーくん食べてみたいの?
 ひーくんが食べたいんだったら、チャレンジしてみてもいいんじゃないかな」
 ママと呼ばれた茉莉花の許可を得て、ひーくんこと聖が小走りでカウンターへ向かう。
「小人さん小人さん、シュガー・プランツ、クマさんの入れ物ってありますか?」
「おっ、作っていくかいっ? クマなら確か在庫で──」
 そう言うと、店主が奥の棚から次々と透き通った瓶を運んできた。可愛らしいものからリアリティ溢れるものまで。カウンターはあっという間に、クマという題材の瓶でいっぱいになる。
「ここになけりゃ、オーダーメイドでちょちょいっと作っちまうがな。
 加工瓶は『飴ガラス』で出来た特殊なヤツなんだが、それでも少し時間掛かっちまうが、いいかい?」
「そうですね、あまりママをまたせたくないので、ここにりそうのがあれば──あ、ありました!
 これです、これで作って下さい」
 カウンターに所狭しと並べられた瓶の中から、聖がそれを見つけて、瞳を輝かせその一つを持ち上げる。
 それを脇で眺めていた茉莉花が、興味深そうにその瓶を見つめた。透明かつ結構細かい造型の為、横目ではいまいちどんな形か分かり辛い。
「これで、ぼくがママのおどろくような花を作ってみせますよ。ちょっとまってて下さい」
 茉莉花にはテラスの椅子で待っていてもらい、聖は再びカウンターに向き直る。
「それでは、さいしょのあめのゼリーは──
 それと花のちゅうしんに『ドラジェ』をつかって下さい。きいろがいいです。
 花びらはホワイトチョコレートに、それから」
 見事な手際、聖は最初からイメージが全て決まっていたかのように、小人の店主に次々に指示を出していく。
「おう、ちびっ子! 良いセンスしてんな! なかなか良い統一感じゃねぇか。早く、母ちゃんに見せてやんな!」
 ウィンクルムどころか、『子供』という一括りにされて、精霊とすら思われていない気がする……そんな状況をひしと感じながら、聖は完成したシュガー・プランツをママ──神人である茉莉花に見せに行った。
「ママ、こんなかんじになりました。
 このあいだ、ママが作ってくれた『いちばんおいしかった』おかしと比べると、それをこえる物なんてあるはずないですが、見て下さい」
 7歳の聖の両手に収まるクマの瓶を、テラス席に座って待っていた茉莉花に渡す。
「へぇ、クマが頭の上でお花を持っているような鉢、よく見つけたわね。
 ゼリーも蜂蜜色だし、持っているお花もデイジーで、漫画みたい。
 このお花『ドラジェ』で出来てるって言ってたっけ?」
 ここから店まで大して離れていない。零れてきていた言葉を茉莉花は聖に問い掛ける。
「はい、ドラジェです『幸せのおかし』って言われているらしいですよ。
 花のちゅうおうの部分をきいろのドラジェで作ってもらいました」
 そして聖は、テラステーブルの反対側にちょんと座って、テーブル中央に置かれたシュガー・プランツをそのまま茉莉花へ差し出した。
「ママにこのお花ぜんぶあげます、食べて下さい」
 その言葉に、茉莉花はピタリと止まって。
 それから今までに見ない程に、申し訳無さそうな表情で聖に答えた。もしかしたら自分の為に、と確信は無いものの、心のどこかで気付いていたのかも知れない。
「あ、ありがとひーくん……。でもね、あたし甘いもの得意じゃないんだ……
 だから、チョコレートの花びら1つ分で大丈夫、残りはひーくんが食べて」
「え、でも……」 
 これは自分がママと呼ぶ人──神人の為に作ったものだから。
 選んだ瓶も金色のゼリーの色も『幸せのおかし』も、全て相手の為に選んだものだったから。
 それを、自分が食べる事は全く考えなかった。
「………………」
 無言できちんと椅子に座り直して、シュガー・プランツを見つめる聖。
 その様子に、沢山の思案を巡らせた茉莉花は、少しずつ思っている事を口に出し始めた。
「あたしは、ひーくんに幸せになって貰いたいんだ」
「──ぼくは、じゅうぶんしあわせですよ。
 目のまえにママがいて、それにいっしょのパパがいて……こうして、ママとお出かけもできて……」
「でも、ひーくんはあたし達の所に来るまでのこと、全然言ってないでしょ?
 だから、何かあったのかなーって思ってるの、あたしはね」
「………………」
 正面の自分を見つめる茉莉花の瞳から、聖は可能な限り違和感が無いように、その目を下へと落として逸らした。
 言葉なんか無い。
 茉莉花と新しく契約した聖は、契約成立と同時に茉莉花を『ママ』と、最初から戦ってきていた精霊を『パパ』と呼んだ。
 そして、その余りに不可思議な関係を、茉莉花は驚きと共に自然と受け入れてくれた。
 ──だが同時に、ふと『どうしてそうなったのか?』という当たり前の疑問が浮かび上がる事に、何の不思議があるだろう。

 茉莉花は、その沈黙をただ見つめていた。
 語らない聖の理由を問い質したい訳ではない。
 ただ、予想がつく範囲で……彼が今までに得られなかった幸せがあるのなら。

「そのお花は、ひーくんがこれから幸せになる分」
 シュガー・プランツの器が、聖の手元に向けられる。
「ぼくが幸せになる……です、か?」
 信じられないような瞳が、目の前のシュガー・プランツを見つめる。
「──ひーくんの幸せの分が、あたしの幸せだから。
 だから、しっかり食べて頂戴」
「……ぼくが幸せになると、ママも幸せになる、です、か?」
 その言葉に、聖が驚きを隠しきれずに、茉莉花に顔を向けて問い掛ける。
 茉莉花は、その聖の言葉に真剣な表情で一つ頷いた。
「じゃ、ぼくが食べますね……」
 本当は、ママである神人の茉莉花だけに食べて欲しかった。最初からその為に作ったのだから。
 でも、それで喜んでくれると思った茉莉花は、聖本人に食べてくれた方が幸せになるという。
 ──それはとても温かで、今の聖にはほんの少しだけ落ち着かない──その感情は、今は名前も何も全く分からない。けれども。

「あ、ひーくんちょっと待って!」
 茉莉花が取り出したのは、自分のポケットに入っていた携帯電話。
「はい。ひーくん、笑顔笑顔!」
「えっと、きねんしゃしん、です、か?
 は、はい」
 茉莉花の言葉の勢いに押されて、聖が笑顔を作る。
 それを茉莉花が手元の携帯で、美味しそうなお菓子のデイジーと並んだところをフィルターに収めて、パシャリと一枚。
「……。もしかして、このしゃしん、パパにおくったりします?」
「ん? もちろん──」
「それはしないで下さい!」
 聖は茉莉花の傍に駆け寄り、頬を膨らませながら、その携帯を持つ手を押さえた。
「パパに見せるなんてもってのほかです! これはっ、ママのまちうけだけにして下さいねっ」
 念を押す。
 ママに向けた笑顔、それにママが好きなパパに恥ずかしさや弱みを見せたくない──そんな、心の幼い子供のように。

(ママがいるって、こんなかんじなのかなぁ……だとしたら、うれしい、なぁ……)
 今確かに、ここにある幸福──聖はその慣れない思いを胸に収め、己の瞳を静かに伏せた。



 とある女性が、特別な花にキスをした。
 想い人がいると、花弁が薄いピンクから赤へと染まる花。
 それを知らずに、口付けた。

 とある男性が、特別な花にキスをした。
 想い人が真赤に染めた花に口づけると、淡く光を放つ花。
 抱く想いを確認する為、それに唇を寄せた。

 その花は、綺麗な深紅に染まり、
 そして仄かに、しかし存在を明確にするように煌めいた。


 それは、とても珍しい事柄だった。
「え? オーダーしてくれる、の?」
「ああ、行って来よう。少し、気になるものがあってね」
「う、うん…それじゃあ僕、ベンチで待ってる?」
「そうしてもらえると有難い」
「分かった……それ、じゃあ……向こうのテラスに、いる、ね」
 篠宮潤は、『気になる』を若干越した、心配にも似た眼差しをヒュリアスの背中に向けて、その姿を見送った。
(どうしたのかな……珍しい……)
 その様子は、今まで一緒に過ごしてきた中では本当に珍しく、しばらく潤はヒュリアスの後姿から目を離せなかった。

 こうして一人になったヒュリアスは、店主に肝心な希望箇所以外はお任せでシュガー・クラフトを注文した。
 店主が忙しく動く中、カウンターの前で作成されるまでの間──ヒュリアスは無意識に己の右手を見つめ眺めた。
 ……思えば、それはとても長い長い『問い』だった。
 己に、喜怒哀楽の存在を必要とされてこなかった幼少期。
 その世界を一変させた流星融合後には、結果、何一つ無い己の姿だけが取り残された。
 それから、その異質を消す為に足掻きもがいて、それでも迷走を続けた自分に……運命の女神は微笑んだ。

 ──感動含め、感情は意識するものではなく、
 共有し、分け与えてくれていたのだ、と。

 運命の女神は、ヒュリアスにそう教えてくれる存在と巡り合わせてくれた。
 出会いを経て、それを自分に教えてくれたのは、一人の女性。
 そう、これは──ずっとずっと、自分の側でそれを教え続けてくれた存在への──
「お待たせ! いや、手の動くままに作っちまったけど、こりゃ綺麗な花だねぇ」
 出来上がったのは、菱形に擦り模様の入ったガラス瓶に、地面をイメージした飴砂が流し込まれたチョコレート色をしたゼリーの大地。合わせてしっかり植えられたかのように立つ、棘のないつややかな飴細工の深い緑をした茎と葉の色。
 そして淡いピンクと深紅の薄い花弁を、芸術的にあしらえた存在感を露にする花が2輪。
 寄り添うように咲く全てが飴細工で出来たそれは、可愛らしくもありながら、まるで芸術作品のようなきらめく美しさを湛えていた。
 今まで、自分が見つめて来た手の平をゆっくりと結ぶ。そして、クリスマスに彼女を抱き引き寄せた手をもってして、そのシュガー・プランツを丁寧に手に取った。
 一度瞳を閉じて、そして開く。
 この想いは──今までずっとひたすらに、自分の為等に、今まで様々な心と思いを無償で与え続けてくれた、彼女への感謝と気持ちに応える為に。

 そうしてヒュリアスを待っていた潤の目の前に差し出されたのは、2輪の花が挿されたシュガー・プランツだった。
(わ! すごく可愛い感じの……)
 潤は薄桃色の花を見て真っ先に可愛いと感じて。
 そして、すぐに目に入った深紅の艶やかさに驚いた。
 先程と同じ種類と思える花なのに、こちらは情熱的な赤に水滴でも伝うような、周囲を巻き込んで輝くような淡い光を灯しているようにも見える。
 淡いピンクは無垢な可愛らしさを。
 深い赤は、透き通った飴によってくど過ぎない情熱を。
 潤は過去そのシュガー・プランツそっくりである、その花に覚えがあった。
「キス、すると、色が変わった、あの花見たいだね」
「──……記憶の範囲ではあるが、そうあるようにと作ってみた」
「え? 当たり!?
 そ、そっか。綺麗だったもん、ね、あのお花」
 何も知らずに口づけをしたら色が変わったあの花を思い出す。
 『想い人のいる人がキスをすると花の色が真赤に変わる』と、後から店員からそう教わった時には手遅れで、既に顔共々真っ赤に変えてしまった花を片手にうろたえたのは、今をもっても恥ずかしく、そしてどうしていいか分からない思い出だ。
「あの花で、俺も確信させられたのでな」
 僅かな情けなさを伴いながら、ヒュリアスは純白のテーブルの反対側に腰掛ける。
 ──潤は知らない。潤がヒュリアスに気軽に色が変化した赤の花を渡した後、彼がその花にこっそり唇を触れさせた事。
 ヒュリアスは潤に対して、浮かび続けてきた感情とは何か──それを確かめたいという方向性の一つのつもりで、口付けをした。
 しかしそれは、方向性の一つ程度どころか、仄薄く光り、ヒュリアスの中にあった『たった一つの感情』を指摘して、それを自覚させるに至ったのだ。
 当時のヒュリアスは、それらを冷静の中に押し込めて隠すのでいっぱいだったけれども。
「確、信……え、え、何?」
 潤が目を泳がせながら、分からないというように言葉を誤魔化す。
 それでも──本当は知っている。これしかないと思っている。
「さて。何だと思うかね」
 そのような潤の心を見透かすように、ヒュリアスは『知っているのに答えない』冗談を交えた少し意地悪な笑みで、明確な感情をあえて逃して答える。
「………………」
 潤の中には、幾ら考えても一つしか思い至らない。
 クリスマスのその時に、告白して恥ずかしさに耐え切れず、逃げようとした自分の手を、その胸に引き寄せてくれた。
 思いの丈を告げた、その応えこそはまだであるけれども……その時、引き込まれた胸の温かさだけは、もう十分、分かっていたから。
 二人でテラステーブルとシュガー・プランツを挟んで、僅かな時間座り込んで言葉を捜して、そして最終的に沈黙を生み出してしまう。
 潤は何を言っていいのか分からない……そんな中、先に口を開いたのはヒュリアスだった。
「確認するが……俺でいいのかね?」
「ヒューリ『だから』好き、なんだよ!」
 ヒュリアスの躊躇いがちながらも冷静な問いに、潤は強く反論するように、テーブルに大きく手を突いて相手の方へ重心を傾け立ち上がった。
 当たり前だ。他になんていない。他には有り得ないからこそ、こうして今向き合っているのだ。
「今更……僕に遠慮とか、いらないから、ね?」
 正面を向けた恥ずかしさに、向き合っていたヒュリアスからそっぽを向く。
 ヒュリアスは驚いた様子で、目の前の潤を見つめていた。そして、驚きから見開いていた透き通った金の瞳をゆっくりと細める。
「成程……」
 ヒュリアスは口許に優しく浮かべた微笑で、その横に向けられた頬に向かって、触れるだけとはいえ、相手の存在を確かめるように口付けた。
「──!?」
「──……一応気は遣ったのだがね」
 ばつの悪そうにヒュリアスが告げる。
 ──本当は唇に、触れたかった。しかし、それでも彼なりの思いで、その思いを遠慮はいらないと言った相手に避けた。
 その思いは潤に確かに伝わった。だが──
(確かに、遠慮はいらないとは言った、けどっ)
 それで、不意打ちで口付けが届くだなんて思わなかった──こちらは、万が一何かあったとしても恥ずかしい言葉位しか考えていなかったのに。
 潤は顔を真っ赤にしながら、幸せを通り越した持て余す嬉しさと、その唐突なヒュリアスの行動に、開いた口からは声すら出せず。何も思いつかないのにその唇が何かを訴えるように動くだけ。
 自分を落ち着かせようと手を伸ばしたシュガー・プランツ。無意識に赤の花弁に一枚手を伸ばして、目が白黒するような恥ずかしさを隠すように口の中に押し込んだ。
(うう……これから、ピンクや赤い花見るたび……思い出しそうっ)
 つややかな甘い飴細工の花弁。きっとその甘さに、潤は飴を食べても思い出すことだろう。
 そんな仕草の一部始終を、ヒュリアスは無言ながらも胸に幸せを収めながら眺めていた。
 そして、ヒュリアスは恥ずかしさに俯き花弁を食べている潤へその身を寄せて、
 その言葉を、心から初めて、そっと相手に向かって囁いた。

「……好きだ」

 ──それは、クリスマスに受けた告白の応えでもあったけれども。
 同時に……否、それ以上に。
 ヒュリアスから潤へとあてた、初めての出逢いと共に受けた過去、そしてこれからずっと続く未来への、
 ずっとずっとあふれて変わることの無い、たった一つの想いの言葉──




依頼結果:成功
MVP
名前:篠宮潤
呼び名:ウル
  名前:ヒュリアス
呼び名:ヒューリ

 

名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 新月 竜  )


エピソード情報

マスター 三月 奏
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月08日
出発日 02月13日 00:00
予定納品日 02月23日

参加者

会議室

  • [11]桜倉 歌菜

    2016/02/12-22:45 

  • [10]桜倉 歌菜

    2016/02/12-22:45 

  • [9]ミサ・フルール

    2016/02/12-22:30 

  • [8]ミサ・フルール

    2016/02/12-22:30 

    こんばんはー!
    ミサ・フルールです、パートナーのエミリオと参加します(ぺこり)
    残念ながら絡みはないけれど、皆のシュガー・プランツがどんな風になるのか楽しみにしてるね!

  • [7]アラノア

    2016/02/11-22:40 

    アラノアとパートナーのガルヴァンさんです。よろしくお願いします。

    綺麗なお菓子の植物…
    食べるの勿体ないけど、食べないともっと勿体ない事になるのでしっかり味わいたいです。
    あ、硝子瓶は持ち帰っても大丈夫…ですよね?流石に硝子は食べられないですし。

  • [6]水田 茉莉花

    2016/02/11-21:54 

    聖:みなさんはじめまして、ひじりです。
    今日は、ママといっしょにあそびに来ました。
    (潤さんの方をじーっと見つめ)
    えっと、ママのお友だち、ですか?こんにちは!(礼儀正しくぺこり)

    ゆう名なおかしなら、食べなきゃソンですよね!
    ぼくが作って、ママといっしょに食べたいと思います!

  • [5]水田 茉莉花

    2016/02/11-21:47 

  • [4]篠宮潤

    2016/02/11-11:36 

  • [3]篠宮潤

    2016/02/11-11:35 

    皆、お久しぶり、だ。
    篠宮潤と、パートナーのヒュリアス、だよ。
    …………、
    え、と、水田さ、ん…の精霊さんは初めまして、だね。
    (にこ、としつつ。内心『え、え?お子さん……!?おめでとう、って言うべき、かな!?』 ←)

    なんだか、ヒューリが珍しく、自分がオーダーするって…
    ……♪(どんなお菓子で形になるのかな、とワクワク楽しみ)

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/02/11-00:58 

  • [1]桜倉 歌菜

    2016/02/11-00:15 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願いいたします!

    シュガー・プランツ、凄く凄く楽しみですっ♪
    オーダーメイドのお菓子の鉢植え、どんなものが出来るのかワクワクします!

    よい一時となりますように!


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