【助力】お菓子なUMAの調査任務(山内ヤト マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 マシュマロニア王国の小さな村では、段々畑ですくすくと育ったマシュマロの収穫で大忙し。
 畑仕事に精を出す小人たちは、楽しそうな表情だ。

「豊作! 収穫! 良い感じ! いつもより、美味しいマシュマロができたみたい!」

「去年はオーガの瘴気のせいで、どうなることかと思ったけど……」

 小人の一人が顔を曇らせる。
 オーガの瘴気で、この村も被害を受けた。少しでも瘴気の影響を受けたお菓子は酸っぱい嫌な臭いを出し、気持ちの悪い色に変わって腐ってしまった。

「ウィンクルムの人たちが瘴気を払ってくれたおかげで、なんだかとってもバッチグー!」

 小人たちは、去年この村の窮状を助けてくれたウィンクルムのことを思い出していた。
 そこに……。

「ヤベぇぞ! 森の中に、馬型のオーガが潜んでやがる! それも、複数だ!」

 土で汚れてボロボロの格好をした一人の精霊が現れる。小柄なネズミのテイルスだ。彼の名はヴェーザーという。
 散々転ばされたような姿だけど、一応元気はいっぱいありそうだ。血なども出ていない。

「有能なトリックスターの俺としたことが! 休暇のつもりだったから、バトルコーデじゃないんだよな……。油断したぜ!」

 複数のオーガが出没したと聞いて、村人たちは震え上がっている。

「ま、そう心配しなさんなって。至急A.R.O.A.に連絡して武装したウィンクルムを大勢呼んで、馬オーガをボコってもらうから!」

 と、さらに新たな人影が。
 森から出てきたヴェーザーを追いかけるようにして、パートナーらしき神人が登場。彼女はコッペン。

「ちょっと待って! お騒がせしてすみません、村の皆さん。まずは落ち着いてください。その精霊の言ってることは、ちょっとオーバーなんです」

 小人たちに謝ってから、コッペンは怒った顔でヴェーザーに向き直る。

「こら、ヴェーザー! デタラメなことを吹聴しないで! あの生き物には確かに角が生えていたけど、私には危険だとは思えない。オーガだって決めつけるのは早合点じゃないの? 角の生えた生き物ならサイやウシがいるけど、別にオーガではないでしょう?」

 コッペンが言うには、馬はヴェーザーを邪険に扱ったが、命に関わるような深刻な攻撃だとは思えなかったらしい。
 角のある馬は精霊ヴェーザーには辛辣だったが、神人コッペンにはとても親切だった。オーガなら、神人の命を奪おうとするはずだ。

「ああん!? それでゅわコッペンすぁんは、あの生き物が絶対にオーガじゃないって責任を持って言えるんどぅえすかぁ~? 命にかけて誓えちゃうんでゅすくあぁあっ?」

「変な風に絡まないで!」

 ピコハンでピコペシーンと、ヴェーザーをしばいてから、コッペンは少し肩を落とす。

「でも……。絶対にオーガじゃないとか、本当に責任を持ってそう言えるか、って問いつめられると……。私もちょっと自信がなくなってきちゃった」

「だろ!? 未知の存在ってのは怖ぇんだよ。可愛い見た目でもな。最初は神人の前でだけ温厚でいて精霊を排除。安全なフリをしてるんだ。でもって油断しているところで神人を殺す……みたいな邪悪な知恵だか習性やらがある新種のオーガってことも考えられないか?」

 村人にも聞いてみたが、これまであの森の中で角の生えた馬を見たという住民はいない。
 森の近くに住む小人たちの判断で、A.R.O.A.に連絡がいく。
 それは討伐依頼ではなく調査依頼だった。
 マシュマロニアの村人たちは協力的で、調査のために必要なものがあれば渡してくれるだろう。



 A.R.O.A.では、七三分けの髪と眼鏡が特徴の男性職員が、オーガやデミ・オーガ化に関する資料を机の上に並べている。
 興味を持ったあなたは、資料の一部を手にとって読んだ。

・オーガは見境なく人畜を襲い、その魂を喰らいます。
・行動の根源は自分たちを除く生物全てへの憎悪であり、魂を喰らうことは単なる栄養補給以上の意味があるようで、特に人間や精霊の魂を好んで食べるようです。

・オーガは、神人の居場所を感知する能力があるとされています。どれぐらい遠くからわかるか、どれぐらい正確にわかるかは、個体差があるようです。

・オーガは瘴気を発します。

・オーガは通常の攻撃で傷を付けることが出来ず、倒すには契約済みでトランス状態になった神人と精霊が攻撃する必要があります。
・デミ化の状態なら、トランスがなくても倒すことは可能です。

「そう、完全なオーガを倒せるのはトランス状態のウィンクルムだけです。トランスをしていない状態では攻撃が通用せず、トランス後に同じ威力の攻撃をしてダメージが通った場合、それはオーガであると判断できます……が」

 男性職員ここで眼鏡クイッ。

「この方法はオススメいたしません。倫理面での問題点は、これではネイチャーに怪我をさせてしまうこと。理論上の欠点は、デミ・オーガとネイチャーの判別ができないことです」

 ネイチャーというのは、この世界に生息する生き物を大雑把にまとめた総称だ。
 ウルフやクマなど獰猛な野生動物から、トレントのように知性があり会話が可能な者、ゴブリンやコボルトのように人間の体型に近い者、トロールやミノタウロスのように下手なDスケールオーガよりも手強い存在までも含んでいる。

「依頼を請けてくださるウィンクルムには、この角のある馬がオーガ類であるかの調査と報告をおこなってもらいます」

 戦う力よりも、考えることや発想がカギとなりそうな依頼だ。
 あなたの知恵が必要とされている。

解説

A.R.O.A.がまとめた資料。
ウィンクルムは、これらの情報を自由に閲覧可能。

・錫杖の効果
ショコランド領内でウィンクルムが戦う際、錫杖の加護によりMPが三割程度増加する。
昨年おこなわれたショコランド王位継承の儀式に参加していないウィンクルムも、この効果の対象となる。

・角の生えた馬
ショコランドのマシュマロ畑のある村近くの森に、複数体出没した。
森に入る村民でさえ、これまで目撃したことはないと言う。
額から伸びる真っ直ぐな角が、オーガやデミ・オーガの特徴と酷似している。
神人に対しては友好的な一面を見せたが、精霊に対しては好戦的な反応を示した。

・手加減
明記することで手加減攻撃が可能。
与えるダメージは0になり、装備品の特殊効果は通常どおりの条件で発動。

・目的
角の生えた馬が、本当にオーガ類であるかの調査



※これよりPL情報
・角の生えた馬の正体
オーガではありません。

この馬はショコランドに生息する珍しい生き物です。外見は伝説の生き物ユニコーンにそっくり。
体温はややひんやりする程度。熱を遮断する手触りの良い体毛で覆われているので、触れても手が霜焼けになる心配はありません。

どんな神人にも友好的に接します。

精霊の場合、魅力のステータスが高いほどこの生き物から嫌われます。尻尾で叩かれたり、軽く頭突きや体当たりをされてしまうかも……。
ただし大怪我をするような攻撃はしてきません。
精霊が上手く女装すると、神人と同様に友好的な反応を示します。
が、女装を見破られた場合、蹄キックが飛んできます……。

・プランについて
この依頼の目的は調査で、報告をする必要があります。
この生物がオーガではない理由をPCの認識に基づき、A.R.O.A.に報告していただきます。
PL情報でオーガでないと判明していますが、それはPCが直接知り得ない情報なので、そのまま報告に書いても根拠となりません。ご注意ください。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

調査メインの個別アドベンチャーです。
基本的には一組のウィンクルムが一体の馬を調査する形式ですが、参加者同士が希望すれば合同調査も可能です。
プロローグに登場した精霊と神人は状況説明役で、リザルトには出てきません。

この角馬には正式名称が決まっていません。文字数に余裕があれば命名しても楽しそうですね。
もし複数の案が届いた場合GMが選ばせていただきます。

2015年の「【メルヘン】Get out! 鬼」とゆるやかに繋がっていますが、こちらのエピソードをご覧にならなくても依頼に支障はありません。

オーガ判別の手段は、GMが思いつく限り十種類あります。装備品を使わない方法が三種類。装備品の特殊効果を利用した方法が七種類。
でも、十種類の方法のどれかじゃなきゃダメってことはありません。
ゲームルールに沿っていてオーガかどうかわかる方法なら、GMの想定外の方法でも全くOK! それどころか尊敬です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  コッペンさんは 優しい生き物だって言ってるもの
それを証明したい
初めて出会う生き物にわくわく
仲良くなれたらいいんだけど

トランスはなし
シリウスの忠告には目を丸くした後笑顔
今回はあなたの方が気をつけなくちゃ

ユニコーン(仮)を見つけたら
周りの様子を確認
自分たちや植物や小動物に異常がなければ瘴気はない
怖がられないよう笑顔で近づく
そっと撫でたり 嫌がられなければ抱きつく
見てシリウス とっても可愛い!
彼を攻撃しそうな素振りを見せたら慌てて止める
ダメよ 彼も私も何もしないわ
あなたたちが怖い生き物じゃないって 証明しにきたのよ
一生懸命説得

調査報告
瘴気もなく 危害を与えるようなこともされませんでした
危険な生き物ではありません


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  まずディエゴさんの女装はどう転んだって無理でしょう
彼も即答で拒否してます

村の人に、祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコを少し分けてもらえないか頼みます。
畑に近づき馬を含め全体を観察
(他の動物の有無、近くのマシュマロの変化)
そこからオーガ・ナノーカを放ち、馬に近づけてみます
ナノーカの瘴気に反応し、遠ざかった場合…
私が静かに馬の目の前まで行ってチョコまきですね
デミやオーガからしたら喧嘩を売っているようなもの、それでも友好的ならネイチャーとほぼ確定して良いでしょう。

調査とはいえナノーカで驚かせてごめんなさい
触ってもよさそう?鼻先や首筋を優しくなでます
名前は…ジェラートかな
ひんやりして白いから。



シルキア・スー(クラウス)
  事前に小人達に
調査の挨拶
プロローグの顛末を聞く
お菓子を少し貰う

ほぼネイチャーだろうと思う
仲良くなれる事をお守りに祈り背に乗せて貰えないかなと期待

角馬発見時見えない様にトランス(驚かせない為
「こんにちはお馬さん
穏やか声掛けながらゆっくり左側から近づく
近づき過ぎない距離で反応伺う

判定
①オーガ類特有の神人への攻撃姿勢
取らなければ
②お菓子を出し瘴気の影響
無ければネイチャー確信

寄ってくれたら首撫で「ふわー手触り…
さり気に怪我有無調べる
治癒するか観察

お菓子食べながら角馬と楽しく過ごしたい
可能なら背に乗りたい※無理はしない
マニュ本「特殊騎乗」

報告
①②の結果を以ってオーガ類ではない
③④の結果を補足として報告


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  申請 マシュマロ
開始トランス

1本角の馬
男に攻撃的で女に友好的
確かに伝説のユニコーンの習性に酷似しています

自らを囮に出没周辺の木陰で待機
ユニコーンと同習性なら誘き出せ
オーガなら頼まずとも襲来
乙女を演出するため清楚なワンピース着

伝説の様に膝に甘えて眠ってくれれば…

マシュマロが腐れば瘴気有り=オーガ
腐らない

よかった
鬣を撫でる
まるで本当に伝説のユニコーンのようです…

いつからこの森に?
村の人とも仲良くできると良いですね
…あなたと、言葉が交わせればいいのに

最後に…抱きしめても良いでしょうか?
柔らかい微笑みを浮かべ満足

礼を言う
ジューンも…その、とても美しいです
夢のように素敵な体験でした…また、会いたいです


(ディム=シェイド)
  ディム。馬の目に着かないように隠れてくれますか?
情報通りか、試してみようと思って
友好的態度の馬に首傾げ
相方を呼んで近寄らせたら、態度一変に困惑
あ、あら…
怪我ないですかディム…?
待って下さい。オーガじゃなかったらどうするんですか…?
確かにあなたの言う通りです。…でも、もう証明できましたから
ほら、武器から手を離して下さい
…ありがとう
でもディム、馬は本当にオーガじゃないですよ

報告
馬の被害報告、ありましたか? 今までで
確かオーガは人間や精霊の魂を好んで喰らうんでしたよね
けど馬は精霊に頭突き以上のことはしませんでした
現に私のパートナー、ピンピンしてます
だからあの馬、オーガじゃないんじゃないでしょうか


●周の調査報告
 ショコランドの村へと赴いた『周』と『ディム=シェイド』。
 調査を開始する前にまず周は、パートナーの精霊にこう頼んだ。
「ディム。馬の目に着かないように隠れてくれますか?」
 怪訝な表情を浮かべ、ディムは少し偉そうな口調で問い返す。
「は……? 隠れろって、なんで?」
「情報通りか、試してみようと思って」
 周は、事前に目を通してきた資料の内容を思い出していた。
 ディムは周のことが心配だったが、ここで彼女と言い争っても有益だとは思えない。黙って頷くと、その場から離れ、木陰から気配を殺して成り行きを見守った。

 森にいた角の生えた馬に、周は近づいてみる。
 馬は大人しくその瞳は優しげだ。
「……?」
 この友好的な態度に周は首を傾げる。
(なんだあれ……。けど攻撃してきそうな雰囲気でもねぇな……)
 遠くで様子を見ていたディムにも、角の生えた馬が周に穏やかに接していることがわかった。
「ディム。こっちにきてください」
 そう呼ばれて、ディムが姿を現して近づこうとすると……。
 馬の態度が一変した。不機嫌そうに鼻息を鳴らし、ディムを体当たりで追い払おうとする。
 攻撃をくらいそうになるのをディムはかわして、驚いたように馬を凝視する。
「こいつ、ただのツノ生えた馬か……?」
「あ、あら……。怪我ないですかディム……?」
 精霊を見たとたん攻撃的な態度をとった馬に、周も困惑した。気遣うようにディムにそう尋ねる。
「怪我? ……ない。アンタもねぇか?」
 周が静かに頷いたところで、ディムがいきなり武器にその手をかけた。
 不穏な気配を感じ取ったのか、馬はディムを睨みつけて慎重に後ずさりをはじめる。
「……トランス状態に入ってないこっちの方が手っ取り早い。デミか否かはこれで決める」
 ディムはそう言っているが、周がそれを止める。
「待って下さい。オーガじゃなかったらどうするんですか……?」
 完全なオーガはトランス状態のウィンクルムでなければ有効なダメージを与えられない。
 デミ状態のオーガはトランスをしていなくても攻撃が通じる。ネイチャーも同様。
 ディムはチラリと周に視線を向けた。
「逆にこの馬がオーガの類だったらどうすんだ。……被害が加わるだけだ」
「確かにあなたの言う通りです。……でも、もう証明できましたから」
「……証明?」
 いつの間に証明できるだけの調査をしたのだろうかと、ディムは怪訝そうに周を見た。しかし、周には自信があるようだ。
「ほら、武器から手を離して下さい」
 彼女が本気であると悟り、ディムは二丁拳銃をホルスターに収めた。
 それを見て、馬も警戒態勢をわずかに解く。
「……分かったよ。ったく、頑固だな……」
「……ありがとう。でもディム、馬は本当にオーガじゃないですよ」
「もう分かったって」
 周への別れの挨拶をするかのような優しい鳴き声をあげてから、馬はショコランドの森の奥へと姿を消した。

 A.R.O.A.職員に周が報告をおこなう。
「馬の被害報告、ありましたか? 今までで」
「いいえ。被害報告以前の問題と言えますね。何しろ、近隣の村人でさえ目撃例のない存在ですから」
「確かオーガは人間や精霊の魂を好んで喰らうんでしたよね。けど馬は精霊に命に関わるような攻撃はしませんでした。現に私のパートナー、ピンピンしてます」
 周はディムの姿を職員へ見せる。
「だからあの馬、オーガじゃないんじゃないでしょうか」
 この報告でディムは気づく。ごく早い段階で、周がこの馬はオーガではないと確信していたことに。
「たしかに精霊のディムさんは、大きな怪我はしていませんね」
 そこで、少しの間会話が途切れた。
「……報告は以上の内容で終わりですか?」
「はい」
 ある理由から職員になりたいという強い願いを持つ周は、A.R.O.A.職員の仕事をしばらく眺めていた。

●秋野 空の調査報告
 調査に使うために『秋野 空』は、マシュマロ二人分をショコランドの村人からわけてもらった。
 『ジュニール カステルブランチ』は本気で女装をおこなう。……だが女装の具体的な内容は欠けていた。苦労して、時間をかけて、なんとか女装を仕上げる。今回は緊急性の薄いとても簡単な依頼だったので、時間をかける余裕があったのが幸運だった。
「Im here to celebrate you」
 女装したジュニールにトランスのキスをするのは、複雑な心境だ。

 馬が目撃された森にきている。
「一本角の馬。男に攻撃的で女に友好的。確かに伝説のユニコーンの習性に酷似しています」
 空は冴えた頭を働かせる。
「安全なフリをしている疑惑もあります。オーガ類なら、知恵の働く種」
 そして、もしそれほど知恵が回る敵ならば……。
「精霊排除までは神人への危険は低いでしょう」
 森の中、ジュニールは空から少し離れたところで気配を消して様子を見守った。オーガとわかれば、すぐにアプローチⅡを使えるように準備。
 空は自らを囮に、木陰で静かに待つ。
 角のある馬が伝承のユニコーンと同じ習性なら、これで誘き出せるはずだと空は考えていた。オーガなら神人の存在を感知してやってくるだろう。
 空は乙女を演出するために、清楚なワンピースを着ている。
 ジュニールは、空がそのワンピースを選んだ時のことを覚えている。
 ――ユニコーンは、その……き、清らかな乙女を好むと言いますから。同じ習性を持つなら恐らく誘き出せるかと……――
 そう言葉を濁した空。
(清らかな乙女……? 思いがけず貴重な情報が……)
 ジュニールは、自分で導き出した推論に動揺した。が、すぐに表情を引き締める。馬が空のいる方へ姿を現したからだ。
 気配を消していたため、ジュニールには気づいていないようだ。
 馬は優しい目で、空に近づいてくる。
(伝説の様に膝に甘えて眠ってくれれば……)
 馬はそっと座り、その頭を空の膝へと乗せた。
 ここで空はマシュマロを取り出す。瘴気の反応を調べるためだ。馬にマシュマロを近づけても、腐るようなことはなかった。
「よかった」
 慈しむようにつぶやき、白いたてがみを優しく撫でる。馬の体温は少しだけひんやりとしていた。
 馬の方も気持ち良さそうにくつろいでいる。
「まるで本当に伝説のユニコーンのようです……」
 伝説のユニコーンと本当によく似ているが、実はわずかな違いもあった。この馬はユニコーンほど好みが厳密ではなく、どんな神人にも友好的に接する。
 だからといって、空が清らかな乙女であることに変わりはないが。
「いつからこの森に? 村の人とも仲良くできると良いですね。……あなたと、言葉が交わせればいいのに」
 心を込めて、空は馬に話しかける。
「最後に……抱きしめても良いでしょうか?」
 言葉での返事ができない代わりに、馬は好意的な眼差しで意思を示した。
「ふふ」
 柔らかい微笑みを浮かべ、満足そうに白馬の体を抱きしめる空。
 馬とわかれた後、木陰からジュニールが出てくる。
「ユニコーンとソラ……。幻想的で美しく、まるで一枚の絵のようでした」
 褒め言葉に少し照れながら礼を言う。
「ジューンも……その、とても美しいです」
 それから森の奥を見つめ。
「夢のように素敵な体験でした……また、会いたいです」
「また会えますよ、きっと」

 要点をまとめた話し方でジュニールが報告する。
「男に攻撃的で女に友好的。ユニコーンに似た習性を有す一角馬。マシュマロの変質なく瘴気がないことを確認。結論、オーガ類ではない」
 職員は瘴気の有無に興味を示した。
「オーガでないか見極める際に、有益な情報が判明しましたね」
 ジュニールは馬の名前を二つ提案する。
 氷結を意味するコンジェラシオンと、霜を意味するジーヴル。
 新種の馬の名称は、ショコランドの住民が選んで決めることになるだろう。

●ハロルドの調査報告
「精霊が女装したら、この馬はどんな反応を示すのでしょうか」
 そんな疑問が『ハロルド』の頭によぎった。そしてパートナー精霊の『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』の方をチラリと。
「拒否する。バレるに決まっているだろう」
 ハロルドも、女装させるのは本気ではなかった。
「まずディエゴさんの女装はどう転んだって無理でしょう」
 村でお菓子をわけてもらう。
「祝福の魔法がかけられたアーモンドチョコはありませんか?」
「ごめんなさい、今はないんです。普通のアーモンドチョコでよければお渡しできます」

 森近くのマシュマロ畑に移動。
 待っていると、森の方から一本角の馬が姿を見せた。
 卓越した騎乗技術を持ち、それなりに動物学を修めているハロルドには、馬の感情がよく判断できた。前方にやや傾いた馬の耳は好奇心を示している。
 他の動物の姿があるか、マシュマロに変化はないか。注意を払うポイントを定めて、的確に周りを観察するハロルド。今のところ不穏な兆候は見つからない。
 アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」を取り出す。このアイテムは瘴気を帯びている。それを馬へと近づけた。
 ディエゴはハロルドの行動を補佐するように動く。畑全体を観察し、警戒役を担う。
 馬は驚いたように「オーガ・ナノーカ」を見ていたが、だんだん飽きて興味を失っていったようだ。
 瘴気への反応というよりも、単なるオモチャとして認識している模様。「オーガ・ナノーカ」は瘴気を帯びているものの、その濃度は微量なのかもしれない。
 これではオーガナノカそうでナイノカ、ハッキリわからない。
「そうなると、私が静かに馬の目の前まで行ってチョコまきですね」
 ディエゴは臨戦態勢で構える。
 瘴気を払う力は、ウィンクルム自身のもの。ハロルドは祈るようなポーズで希望や愛情などの気持ちをアーモンドチョコに込め、それを角のある馬に向けてパッと撒いた。
 覆面「サイレントナイト」をつけたディエゴが、神経を研ぎ澄ます。馬が殺気を秘めていないか確認するためだ。殺気は感じられない。
「デミやオーガからしたら喧嘩を売っているようなもの、それでも友好的なら……」
 言葉の途中で、馬の親しげないななき。
「ネイチャーとほぼ確定して良いでしょう」
 一本角の馬を見るハロルドの表情は嬉しそうだった。
 安全だとわかったところで、離れていたディエゴが合流するが……。
「……俺は予想以上に嫌われているようだ」
 馬はディエゴにイーッと歯をむいて、不機嫌そうに尻尾をひゅんひゅん振っている。
「まあいい、ヴェーザーにされたことがどれだけの程度大げさだったのか確認する機会だ。傷を負わない程度なら受け止める。それ以上はさすがに避けさせてもらうが」
 これも調査の一環だと、ディエゴは馬の仕打ちを受け止めてみることにした。
 精霊には意地悪なのは事実だった。馬は鼻先でドスンと突いてきたり、服を引っ張り転ばせようとしてくる。
 ただ、馬の動きを見てわかったことがある。角で刺さないように注意して動いているようだ。
「調査とはいえ色々と驚かせてごめんなさい」
 ハロルドが馬の鼻先や首筋を優しく撫でる。ちょっぴり冷たい。白っぽい色合いの体毛。
「名前は……ジェラートかな。ひんやりして白いから」

 報告はディエゴがおこなう。
 観察の結果、馬がいる場所には瘴気の影響が見られなかった。
 精霊には攻撃的だったが、大怪我にならないよう馬が明らかに手加減をしていた。
 そして神人が瘴気を払う思いを込めてチョコを投げた時に、馬から殺気を感じなかった点。
「以上の点をまとめ、報告とする」
 職員が感心したように頷く。
「馬が殺気を隠している素振りはなかったというのは、新たな発見ですね。安全なフリをしているという疑惑への、一つの回答になるでしょう」
 ジェラートという命名案は、ショコランドの住民へと伝えられた。

●シルキア・スーの調査報告
 『シルキア・スー』と『クラウス』は、事前に村人に挨拶を。この依頼を出すことになった事の顛末を詳しく聞く。
 小人達はヨレヨレの精霊の話を愉快そうにしたが、不安な声でこうも言った。オーガの可能性があると思うととても怖い、と。
 村人にお菓子をわけてもらえないか頼めば、快諾と共にマシュマロが差し出された。
 それを受け取り、シルキアは明るい笑顔を見せる。話を聞いた限り、ほぼネイチャーだろうと思えた。
 任務である以上、説得力のある理由を見つけなければならない。二人は複数の判定方法を考案してきた。
「背に乗せて貰えないかな」
 シルキアは御守「月ノ兎」に祈る。
「騎馬や動物の習性については、俺に心得がある」
 中級の騎乗技術と初歩的な動物学の知識を持つクラウスが、馬への接し方を教授した。
 ショコランドには風変わりな生物も多い。持参した初級マニュアル本「特殊騎乗」も役に立つはずだ。

 森で待っていると、角を持った馬の方から近づいてきた。
 目の前でトランスをしたら驚かせてしまうかもと、シルキアは心配した。馬から見えない位置に移動する。
「光と風、交わり紡ぐ先へ」
 インスパイアスペルを唱え頬にキスをすれば、二人に神秘的な力が満ちる。
「こんにちはお馬さん」
 穏やかに声をかけながら、シルキアがゆっくりと左側から近づく。
 クラウスもその後ろに続く。馬から拒絶反応のない境界線を探っていた。また非常時に対応できるように、神人から離れすぎないよう注意している。
 馬は少し不満そうにクラウスを睨んだが、シルキアには親しげに耳をピンと向けた。
「……」
 精神を安息させるマジックブック「癒手」を持ちながら、クラウスは動向を伺っている。
(明確にオーガとしての攻撃姿勢を見せたならば、シャインスパークで眩ませ即座にシルキアと退散する)
 馬が大人しかったため実行することはなかったが、彼の思慮深さと責任感の強さが表れている。
 攻撃姿勢がないことを確認し、シルキアはマシュマロを取り出す。瘴気による変化は見られない。ネイチャーだと確信する。
 クラウスは警戒体勢を解き、離れた場所でシルキアと馬を見守った。
 馬の方から近づくのを待ち、シルキアはそっと首を撫でる。
「ふわー手触り……」
 撫でるついでに、馬の体に怪我がないか調べる。目立った怪我はないようだ。クラウスにそう伝える。
 クラウスがシャインスパークを使った。味方には治療効果、敵には光で視力を一時的に奪う効果がある。
 馬は光に驚いたが、目がくらんだ様子はない。これで少なくとも敵ではないと判明した。
「効果の有無は神の裁定。この結果は最も確かな物だろう」
 信頼できる結果が出たところで、二人はお菓子を食べて和やかな時を馬と過ごした。
 馬の様子を見ながら、背に乗れないか試すシルキア。
 鞍や手綱といった馬具はなく、この馬は野生動物だ。さすがに最初から乗馬クラブのようにはいかない。
 しかしシルキアの希望に応えたいのか、角ある白馬も騎乗に協力的だ。
「わあ!」
 慎重な足取りで短い距離だったが、馬は確かにシルキアを乗せて歩いた。
 嬉しそうなシルキアの顔を微笑ましく眺めるクラウス。

 ショコランドの馬と別れ、A.R.O.A.に戻る。
 シルキアが告げる。仕事の報告ということで、敬語で話すことにした。
「観察した限り、攻撃姿勢はありませんでした。お菓子を使ったテストでも瘴気の影響は皆無です。二つの結果を以ってオーガ類ではないと報告します」
 クラウスが捕捉。
「シャインスパークを使用したところ、馬の視界がくらんだ様子は見受けられません」
 職員はこの判別方法に深く感心した。
「ライフビショップならではの方法ですね。ジョブスキルの効果を用いて判別するとは意表を突かれました。それに判明した結果も朗報のようです。貴重なご報告、感謝いたします」

●リチェルカーレの調査報告
「……とりあえずどんな生き物か調査してくればいいんだろう?」
 依頼を請けた『シリウス』は、仕事内容を確認した。
「コッペンさんは優しい生き物だって言ってるもの。それを証明したい」
 そう言ったのは『リチェルカーレ』。
 角馬の性質については、最初に遭遇した神人と精霊の間で見解が真っ二つにわかれている。どちらの主張が合っているのか、理屈に基いて調べる必要がある。
「瘴気の有無。俺の装備品の対オーガ効果が出るか出ないか。主にその二点から判断しようと思う」
 任務の流れを口にするシリウスの隣では、リチェルカーレがほんわかと微笑んでいた。
「仲良くなれたらいいんだけど」
 リチェルカーレは、初めて出会う生き物にわくわくするのを隠しきれない。
「はぁ……」
 と、シリウスのため息。
「……どんな生き物かわからないんだ。気をつけろ」
 その言葉に、リチェルカーレは左右で色の違うその目を丸くした。その後、柔らかな笑顔でユーモアを含んだ忠告を返す。
「今回はあなたの方が気をつけなくちゃ」
 角のある馬は、神人には友好的で精霊には敵対的だという話だ。
 リチェルカーレにそう言われて、シリウスは軽い苦笑を浮かべる。

 二人は馬の目撃情報があった森に立ち入る。トランスはしていない。
 ふと見ると、森の奥から白馬が姿を現した。その額には、真っ直ぐに伸びた一本の角。調査対象に間違いない。
 リチェルカーレとシリウスは、まず周囲の様子を確認した。自分達にも森の中の植物にも異常はない。
 周辺に瘴気の影響は見られず、この馬はオーガの類ではなさそうだと判断する。
「怖がらないで」
 微笑みながら、リチェルカーレが馬へ近づく。最初はそっと撫でてみる。
 シリウスはリチェルカーレを見守りつつ、携帯を取り出した。
 馬を刺激しないよう、フラッシュなしに設定する。シャッター音を消す機能は見つからなかった。
 仕方なく、シリウスは離れた場所から馬の写真を撮影する。これで調査対象生物の写真資料を手に入れることができた。
「見てシリウス、とっても可愛い!」
 角馬はリチェルカーレと仲良くなったようだ。ぎゅっと抱き着いても、馬は少しも嫌がらず大人しくしている。
 が、シリウスに注意が向いた途端、角馬の敵対的な一面が表れた。歯をイーッとむき出した意地悪な顔つきへと変わる。
 荒っぽいイタズラをしてやろうと、シリウスのいる方へ角馬が接近する。引っ張って転ばせてやろうと企んでいるのか、シリウスの服をくわえようとした。
「……」
 それをかわすシリウス。
(かわすのは楽だが……。回避できたのが、装備の元の性能なのか、オーガ類への補正があったからなのか、わかりづらいな)
 シリウスの持つWウェルテックスソードには、オーガ類にだけ反応する効果がついていた。これで手加減して軽く攻撃すれば、もっとハッキリわかることがあったかもしれない。が、こちらから攻撃はしない方針だ。
 リチェルカーレが馬をなだめた。
「ダメよ。彼も私も何もしないわ。あなたたちが怖い生き物じゃないって、証明しにきたのよ」
「大丈夫だ」
 と、軽く手を振るシリウス。
 リチェルカーレの一生懸命な説得があれば、精霊でも角馬に触れるのではないかと思ったが、どうやら馬は格好良いシリウスのことが嫌いらしい。
「残念ね」
 リチェルカーレが慰めた。

 職員に調査報告をする。
「瘴気もなく、危害を与えるようなこともされませんでした。危険な生き物ではありません」
 リチェルカーレが結論を述べた。瘴気のチェックは、基本的かつ重要だ。
 今度はシリウスが写真を見せる。
「すごい! 写真を撮ってきてくれたんですね。助かります」
「……」
 A.R.O.A.に対し思うところのある彼は、できるだけ私情を排して話すようにした。
「精霊には交戦的だったが危害を加える意図はなさそうだった」

●三つの名前
 五組のウィンクルムの調査のおかげで、角の生えた馬がオーガではないと判明した。村の小人達から、これで安心して畑仕事ができるとお礼の手紙が届いた。

 角の生えた馬の種族名は、ハロルドのアイディアから「ジェラートユニコーン」に決定。
 甘い感じが、ショコランドの住民の心をグッとキャッチ。

 ジュニール案の「コンジェラシオン」は凍りついたような蒼白な毛並みの個体、「ジーヴル」はたてがみが霜に似ている個体の名前として、村の小人達が使うようになった。



依頼結果:成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:シルキア・スー
呼び名:シルキア
  名前:クラウス
呼び名:クラウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 02月07日
出発日 02月14日 00:00
予定納品日 02月24日

参加者

会議室

  • [9]リチェルカーレ

    2016/02/13-23:16 

  • [8]リチェルカーレ

    2016/02/13-23:16 

    最終日ですがあらためまして
    リチェルカーレです。パートナーはマキナのテンペストダンサー、シリウス。
    見知った方もはじめましてな方も、今回はよろしくお願いします。

    名前は私も良いものが思いつかず…。
    絵本に出てくるユニコーンのような生き物なんて、どきどきします。
    仲良くなれたら素敵ですね。
    無事調査を終えて、危ない生き物ではないと証明できますように。

  • [7]秋野 空

    2016/02/13-22:24 

  • [6]秋野 空

    2016/02/13-22:24 

    改めまして、秋野空とパートナーのジュニール・カステルブランチです
    どうぞ宜しくお願いいたします

    事前情報を信じるならば、まるで本当にユニコーンのようですね
    神話や伝説の世界にしかいないと思っていましたので
    願わくはオーガでないと断定されますように…

  • [5]シルキア・スー

    2016/02/11-21:21 

    シルキアとクラウスです
    よろしくお願いします

    仲良くなれたら背中に乗せてもらえないかな…と思ってるんですが、どうかな(無理はしない
    名前は文字数的に諦めました
    どなたかが素敵な名前を提案される事期待しています

  • [4]周

    2016/02/10-20:41 

    よろしくお願いします。私のことは周とお呼びくださいね。
    あと精霊はプレストガンナーのディムさん。

    あら、馬ですか…。もしオーガだとするなら変わってますね…

  • [3]リチェルカーレ

    2016/02/10-19:47 

  • [2]ハロルド

    2016/02/10-19:37 

  • [1]秋野 空

    2016/02/10-18:54 


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