【薫】祝福のチョコ☆フェスタ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●今年も! チョコレートフェスタ!
「今年もチョコレートの季節がやってきたな」
 A.R.O.A.職員の男は、思い出したようにそう言って口元を仄かに緩めた。
「毎年タブロス市内のとある通りでチョコレートフェスタという催しがあるんだが、今年も無事開催されるそうだ。これもウィンクルムの活躍の賜物だな」
 その日は、通り中を数多の露店が賑わわせて、辺りは幸せな甘い香りに包まれる。どの露店も、持ち寄るのは自慢のチョコレート菓子だ。彩り豊かなマカロンは、その半分をチョコレートのドレスでおめかし。やわやわのお餅でとろーりチョコレートを包み込んだチョコ大福も気になるし、一欠片で酔ってしまいそうなほど芳醇に洋酒が香る大人な生チョコも成人しているなら試してみたい。ほっこりと体と心をあたためるホワイトチョコのショコラショーは、フランボワーズの香りがアクセント。生地にもコーティングにもチョコレートを用いたずっしりバウムクーヘンも、きっと格別美味しいに違いない。
「チョコレート専門店『フルール』の幸せを呼ぶボンボン・ショコラ――『しあわせの欠片』も、今年も通りに賑わいを添えるそうだ。色も形も色々で、全く同じものは一つもないというのが売りらしい」
 ボンボン・ショコラとは中に詰め物をした一口サイズのチョコレートのことだと、職員の男が付け足す。
「とっておきのチョコレートを探して回るだけでも楽しめるだろうが、今年は何やら、新しい試みもあるらしくてな」
 贈り物としてチョコレートを購入すると、ふわりとチョコレートの香りがするメッセージカードを添えてくれるのだとか。通りには幾らもメッセージカードに想いをしたためるためのスペースと、それから、色毎に香りの違うとりどりのペンが用意されている。
「例えば、赤色のペンはラズベリーの匂い、黄色のペンはレモンの匂い……というふうで、それがカードのチョコレートの匂いと混じり合って心地良く香るらしい。チョコレートな贈り物のお供に、想いをしたためた香りのメッセージカードをどうぞ、ということらしいな。普段言えないことを伝えるのも、カードの甘い香りが後押ししてくれる……かもしれん」
 気が向いたなら、パートナーと2人でチョコレート色の甘い時間を、と、職員の男は静かに微笑んだ。

解説

●チョコレートフェスタについて
首都タブロスのとある通りで開催される、年に一度のチョコレートの祭典です。
簡単な飲食スペースも用意されていますので、座ってゆったりとチョコレートな時間を楽しむのもOK。

●露店について
プロローグにあるようなチョコレートを露店毎に商っています。
なお、プロローグの洋酒入り生チョコなど、お酒入りの物は成人している方のみご購入できますことご了承くださいませ。

●『しあわせの欠片』について
チョコレート専門店『フルール』が提供する『幸せを呼ぶ』と噂の一品。詳細はプロローグにて。
味や形、色などをプランでご指定いただけましたら可能な限りリザルトに反映いたしますが、全く同じ物は一つとないという性質上、完璧には採用できない可能性がございます。
真っ赤なハート型で! など、外せない、特に重要な部分がありましたらプランに分かるようにご記入くださいませ。
また、プランで指定のない部分はこちらにて選ばせていただきます。

●香りのメッセージカードについて
プレゼントとしてチョコレートを購入すると、チョコレートの香りのメッセージカードがおまけで付いてきます。
通りのあちこちにカードにメッセージを書き込むためのスペースがございますので、ご利用くださいませ。
チョコレートな香りのカードにお好きな匂いのペンで想いをしたためて、メッセージカードを完成させてください。

ペンの色と香りは、
赤系:ラズベリー
ピンク系:苺
橙系:オレンジ
黄系:レモン
青系:ミント
水色系:バニラ
緑系:抹茶
紫系:ブルーベリー
金系:プリン
銀系:紅茶
茶系:メープル
黒系:珈琲
灰色:ミルク
となっております。

●消費ジェールについて
チョコレートフェスタ満喫代300ジェール+プレゼント代(一品につき50ジェール)を頂戴いたします。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

こちらは、寿ゆかりGM主催の【薫】エピソードとなっております。
ということで、3度目のチョコレートフェスタは、チョコだけでなく香りのメッセージカードもお楽しみいただければと。
甘いカードに想いを乗せてチョコと一緒にあの人にプレゼント、いかがでしょうか?
また、昨年・一昨年の様子は『絢爛のチョコ☆フェスタ』『【バレンタイン】魅惑のチョコ☆フェスタ』に詳しいですが、ご参照いただかなくとも今年のチョコレートフェスタをご満喫いただくのに支障はございません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  さー桐華さん、僕は此処で待ってるから、僕にピッタリの素敵なチョコレートのお菓子を探してきてね
え?デジャヴってる?あはは、何のことだか!

ま、桐華さんがくれる物なんて、何でも嬉しいんだけどね
ふふ、僕の事で頭一杯にするといい
そうやって選んだ逸品なら、特別感満載じゃない

ただ待ってるのもあれだし、僕もこっそり用意しよう
選ぶならしあわせの欠片。甘さ控えめの小粒なやつで…赤色がいいなぁ
カードにラズベリーのペンを拝借
「好きだよ」
…ふふ、味気ないかな
でも、桐華さんも同じ事書いてる気がする

あ、お帰り。中身はなんだろうね。家で確かめようか
あとこれ。いつものと今回のお礼
ホワイトデーは別口だよ。また甘いものよろしくね☆


栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  毎年か…知ってたら去年も来たのにね……そっか、そうだっけ?

どのお店のショコラもおいしそうで迷ちゃうね
…ふふ、僕は君のそうゆう自信満々な所好きだよ

(…あぁ、やっぱりちょっと機嫌悪いかな…先生と契約したのやっぱり怒ってるのかな…)

あ、ここがフルール…かな
本当に同じのが一つもないね
どれにしようかな…
(羊型のチョコを購入
すぐにメッセージを書きに)

何?(後ろから声掛け)うん、休憩しよう

はい、これは君に(カード差し出し)
…僕は君と一緒に居るのが一番落ち着くし、君だから許せる事もあるよ

…ふふ、美味しいって言えばいいのに
君のそうゆうちょっと素直じゃない所も好きだよ

僕の分はアルが作ってくれるでしょ?早く帰ろう?


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  フィンにプレゼントする『しあわせの欠片』を購入
全く同じものは一つもない…オンリーワンをフィンに

味:濃いミルクのイチゴチョコ。洋酒を少し
形・色:赤色の満月(テネブラ)をイメージ

メッセージカードも書く
ペンは黒系:珈琲

『こうしてチョコレートを改めてプレゼントって少し変な感じだけど…
えーと…笑うなよ?
ハッピー・バレンタイン。
俺の大切なフィンへ
…好きだよ(ここだけ文字が小さい)』

飲食スペースで買ったチョコとカードを渡す
…笑うなって書いたのに…
でも、フィンのメッセージが嬉しくて
チョコも俺が好きなオレンジ
…うん、甘くて凄く美味い
嬉しい
一年に一回のバレンタインくらいは、甘やかしてもいいかもしれない
俺も甘えたい


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  チョコフェスタ…イェル来た事あるか?
俺はあいつと結婚前に来た事ある
あいつ研究熱心だったし

リタ?
外見は絵の通り普通の女だったが、中身は爆発物だ
ヒールで全力疾走するし
ま、可愛かったがな
が、イェル、あいつみてぇに跳躍して飛び蹴りとか真似しなくていいからな
てめぇはあいつとは別の可愛い所沢山あって俺は好きなんだし
じゃなかったらプロポーズしねぇ※EP39
またやる?
イェル初婚だろ
省略したくねぇよ

※食べたり飲んだり楽しんだ後しあわせの欠片を贈り合う

しあわせの欠片は葉っぱの形、紅茶フレーバーがないか確認
銀のペンで『Ich brauche dichweul ich dich liebe.』と記す

贈った後軽くキス
側にいるから


信城いつき(ミカ)
  ペン:黒(珈琲)、メッセージ:「ありがとう。大大好き」

ミカと一緒にお店をまわる
(ミカの興味をひいたものをこっそりチェック。香りも含めて大人っぽそうなに見える物を選択)

買ってくるから、ここで休憩してて
(大急ぎでミカへのメッセージ記入)はいっ、これミカの分

俺ね、大好きな人はご近所さんとかいっぱいいるけど
ミカはそれよりもっと特別だから、もう一つ「大」ってつけたんだ
変な事もいっぱいするけど、いっぱい俺に優しくしてくれたし
ちゃんとありがとうって言いたかったんだ

ば、か?
チョコ渡しただけでばか呼ばわりされる筋合いはないよっ
ばかっていう方がばかーっ!

ミカが謝った…?その後は?(てっきりその後オチがあると警戒)


●特別な君に贈る
「毎年か……知ってたら去年も来たのにね」
 チョコレートフェスタのパンフレットを手に、栗花落 雨佳は当たり前のことのように呟く。その声を耳に、雨佳の傍らに立つアルヴァード=ヴィスナーは、呆れの色が覗くため息を唇から零した。
「って、去年の今頃からちょくちょく体調崩して寝込んでたじゃねぇか……」
「そっか……そうだっけ?」
 緩く小首を傾げる雨佳。アルヴァードの口からまた細い息が漏れ、その様子に雨佳は薄く微笑した。そうして、視線をぐるり、通りの賑わいへと巡らせる。
「それにしても、どのお店のショコラもおいしそうで迷っちゃうね」
「何処でもいいだろ、好きなの選べよ」
 まぁ、俺が作ったやつの方が美味いだろうけどな、と威風堂々付け足したアルヴァードの姿に、雨佳はふうわりと目元を柔らかくして。
「……ふふ、僕は君のそうゆう自信満々な所好きだよ」
「……!」
 雨佳の言葉に金の眼を寸の間見開いた後で――アルヴァードはそのかんばせに格別苦いような色を乗せ、手のひらで眉間を抑えた。
(好き、とか。簡単に言いやがって。俺がどんな思いで居るかも知らねぇで……)
 想いは、声に乗って生まれ出ではしなかった。けれどアルヴァードの表情に、雨佳が思うのは新しい契約精霊のこと。
(……あぁ、やっぱりちょっと機嫌悪いかな……先生と契約したの、やっぱり怒ってるのかな……)
 その時、頭を抱えるアルヴァードの肩越しに、雨佳は話に聞いた店の名前を見留めた。
(あ、あそこが『フルール』……だよね)
 そのまま、雨佳はふらりと小さな幸せを商う露店へと。店に並ぶボンボン・ショコラの数々に、雨佳は双眸を瞬かせた。
「わ、本当に同じのが一つもないね。ええと、どれにしようかな……」
 悩んだ末に選び取ったのは、羊の形のホワイトチョコレート。雨佳は近くのスペースで、チョコレートの小箱と共に受け取ったメッセージカードへと紫インクのペンを走らせた。

 アルヴァードは狼狽していた。ふと思案の世界に沈み込んでしまい、気づいてみれば雨佳の姿がどこにも見えなかったのである。
「雨佳ッ!」
 人混みの中、半ば叫ぶようにして名前を呼ぶ。と、その時。
「何? どうしたの、アル?」
 背後から、声が掛かった。振り返って声の主を確かめる。不思議そうな顔をしてそこに立っていたのは、まぎれもなく雨佳その人だった。
「……居たか……買い物か?」
「うん、終わったから休憩しよう」
 雨佳の姿を見つけた安堵も束の間、アルヴァードの胸にまたもやもやとしたものが過ぎる。
(……あいつにも買ったんだろうか)
 2人並んで座った飲食スペースで、『もうひとり』を思って僅か目を伏せたアルヴァードへと、
「はい、これは君に」
 なんて、さらりと差し出されたのは1枚のメッセージカード。仄かブルーベリーとチョコレートの香りがするカードには、紫色の文字で『君は特別』と綴られていた。
「……僕は君と一緒に居るのが一番落ち着くし、君だから許せる事もあるよ」
 すっと身を寄せた雨佳の華奢な指が、チョコレートの羊をアルヴァードの口元へと運ぶ。口を開けろと言わんばかりの行動に、添えられた言葉を咀嚼するのに精一杯のアルヴァードは、流されるままに唇を開いた。爽やかなレモンのガナッシュとホワイトチョコレートが、口の中で混ざり合う。
「……まずくない……」
「……ふふ、美味しいって言えばいいのに。君のそうゆうちょっと素直じゃない所も好きだよ」
 特別だと紡ぎ、何度も好きを繰り返し。天の邪鬼な一言を零したっきり形容し難いような表情で黙り込んでいるアルヴァードへと、雨佳はしっとりと微笑み掛ける。
「ねぇ、僕の分はアルが作ってくれるでしょ? 早く帰ろう?」
 声に、アルヴァードの顔にようやっと彼らしい自信の色が過ぎった。
「……っああ、作ってやるよ! 飛切り上等なヤツをな!」
 材料買って帰るぞ! と、アルヴァードが勢い良く立ち上がる。ふっと口元を淡く綻ばせて、雨佳は彼の背中を追い掛けた。

●幸せを描く
「チョコフェスタ……イェルは来た事あるか?」
 チョコ大福に齧りついた後で、カイン・モーントズィッヒェルは傍らを歩くイェルク・グリューンへと問いを投げる。白いショコラショーのカップで手のひらを温めていたイェルクは、かんばせをカインの方へと向けるや首をゆるりと横に振った。
「私はございませんね」
「そうか。俺はあいつと結婚前に来た事ある」
 あいつ研究熱心だったし、と続いた言葉に、イェルクは思案する。
(奥様が調理師だっただけあり、来た事あるのか)
 違和感がどれだけ死んだのだろうな……と寸の間遠い目になった後で、以前絵に見た『彼女』のことを思い、イェルクは再び口を開いた。絵姿からは汲み取り切れないものを、知りたくなって。
「奥様はどういう方でした?」
「リタ? 外見は絵の通り普通の女だったが……」
 中身は爆発物だ、と事もなげに答えるカイン。
「爆発物って……」
 想像と違う、と思ったのがそのまま顔に出ていたのか、カインはイェルクの顔を見遣って少し面白がっているように笑った。
「そう、ヒールで全力疾走するし……ま、可愛かったがな」
 『彼女』のことを語るカインの声音は優しい。そんなことをイェルクが思っていたら、
「が、イェル、あいつみてぇに跳躍して飛び蹴りとか真似しなくていいからな」
 なんて、話は殆ど唐突に、自身の方へととんできた。不意を突かれたイェルクを余所に、淀みなく音を紡ぎ続けるカイン。
「てめぇはあいつとは別の可愛い所沢山あって俺は好きなんだし。じゃなかったらプロポーズしねぇ」
 話題はもうすっかり、イェルクのことへと切り替わっている。嬉しいけれども恥ずかしい、と仄か俯いて、イェルクは言葉を返す。
「再婚なのにまたやるって思わなかったんです?」
「またやる? イェル初婚だろ、省略したくねぇよ」
 当たり前だと言わんばかりにカインがさらりと応じれば、イェルクの頬は見る間に朱に染まって。誤魔化すようにショコラショーを喉に流すけれど、今のイェルクにはその味がわからなかった。そんなイェルクの様子にくつと喉を鳴らしたカインが、チョコ大福の残りを口に運ぼうとして、ふと手を止める。
「イェル。見つけた、『フルール』だ」
 目当ての露店へと2人で向かい、互いに贈り合うための『しあわせの欠片』をそれぞれに吟味する。カインが選び取ったのは葉っぱモチーフのミルクチョコレートで、中にはアールグレイガナッシュが隠れている。対するイェルクは、チョコレートの形で少し悩んだ。
(リースにするか、封筒にするか……)
 いずれも隣に立つ大切な人との思い出が詰まったモチーフだからこそ、中々一つには決め難い。結局、イェルクはラズベリーのジャムが詰まったリース型のダークチョコレートを選んだ。今度は自分が、彼に永遠の象徴を。メッセージカードにも思い思いの言葉をしたためれば、2人は飲食スペースへ。
「これは、私から」
 イェルクが差し出した小箱の中身を検めチョコレートの形に軽く口元を緩めた後で、カインはカードに目を通した。金色の文字とプリンの香りもまた、2人の思い出を呼び起こす。

『das beste gefuel ist in dich verliebt zu sein.』

 カードは、愛しい人に恋をすることの幸せを歌う。対して、チョコレートに添えてカインが贈った言葉は、

『Ich brauche dichweul ich dich liebe.』

 という具合で、イェルクを必要としていること、愛していることを囁くものだった。銀色の文字の羅列は、淡い紅茶の香りと共にイェルクの胸へと温もりを運ぶ。目元を柔らかくするイェルクへと、
「側にいるから」
 と囁いて、カインはそっと口づけを零した。照れ臭さこそあるけれど、ごく軽い甘やかなキスは、イェルクの心を幸福な温度で満たして止まない。
(少しだけ甘えたい……初婚、だし)
 カインの先刻の言葉を思い出し、イェルクはまたその頬を色付かせた。

●大好きよりも特別な
(ミカ、どんなチョコが好きなのかな?)
 そんなことを思いながら、信城いつきはミカのほんの少しだけ後ろを歩く。傍らを行かないのは、彼がどんなチョコレートに興味を持つのかをこっそりと、けれど余さずチェックしたいから。なので、
「へえ、こんなのもあるのか」
 という具合に、金の眼差しが捉えた物にはすかさず食いつくいつきである。対するミカは、てっきりいつきは別の相手に贈るチョコレートを探しているのだと思い込んでいて、
「レーゲンだったら、こっちの方が良いんじゃないか?」
 なんて、いつきが見ているのと同じ物を覗き込んでは口を挟むのだ。それを何とかやり過ごして、いつきはこれというチョコレートを見つけ出す。最終的な彼のチョイスは、芳醇な香りまでちょっぴり大人なカフェ・トリュフだ。
「ミカ! 買ってくるから、ここで休憩してて!」
 ミカを半ば無理やりに飲食スペースのベンチに座らせて、いつきはチョコレートを購入すると、急ぎメッセージカードに黒のペンを走らせた。そうして、カードを添えたチョコレートの小箱を大切に抱えて、ミカの元へと戻る。
「おい、何で俺だけ待たせ……」
「はいっ、これミカの分」
 ミカの文句を遮るようにして、いつきは満面の笑みで小さな贈り物を差し出した。ミカの金の双眸が、ほんの僅か、常とは違う色を映す。
「……俺に?」
 しかもカード付きなのかと、いつきからのメッセージに目を通すミカ。ふうわりと珈琲チョコレートの香を漂わせるカードには、『ありがとう。大大好き』との文字が踊る。
「……何で『大』の字が二つあるんだ?」
 ミカの問いに、いつきはどこかちょっぴり得意げにも見えるような、とびきりの笑顔を零してみせた。
「俺ね、大好きな人はご近所さんとかいっぱいいるけど、ミカはそれよりもっと特別だから、もう一つ『大』ってつけたんだ」
「特別……?」
「うん、変な事もいっぱいするけど、いっぱい俺に優しくしてくれたし。ちゃんとありがとうって言いたかったんだ」
 にこにことして、いつきは自分の気持ちを音にして紡ぐ。ミカはその言葉を、内心驚きながら耳に聞いた。いつきの答えが、ミカにはあまりにも予想外すぎて。胸の内を表情にこそ出さないが、それでも、常から彼の存在を彩っているにやりとした雰囲気は鳴りを潜めている。
(いつきのことは、普段からからかいまくってるし)
 だから、嫌がられることはあっても、特別なんて言葉がこんなにも真っ直ぐに向けられるとは思わなかったミカである。
(よほどの物好きか……それとも)
 思わず、ミカの唇からぽろりと音が零れ落ちた。
「お前……よっぽどのばかだろ」
「ば、か?」
 いつきの顔から、彼の表情を輝かせていた笑顔が消える。しまった、と思った時には時すでに遅く、いつきの幼さの残るかんばせには、怒りと傷心の色が明らかに滲んでいて。
「チョコ渡しただけでばか呼ばわりされる筋合いはないよっ! ばかっていう方がばかーっ!」
 叫ぶや、今にも自分に背を向けて去っていってしまいそうになるいつきの手を、ミカはしかと掴んだ。今のは流石に拙かった、と思う。いつきも、彼が向けてくれたあたたかな想いも、きちりとここに引き留めたい。
「悪かった、いつき」
 口をついたのは、真摯な謝罪の言葉。いつきの手から力が抜け、その青の瞳が驚きにくるりと見開かれる。
「ミカが謝った……? その後は?」
「後って何だ、後って」
「いや、何かオチがあるのかと思って……」
 何故だか警戒した様子のいつきがもう常の調子を取り戻しているのを見て取って、ミカは呆れたように細い息を漏らした。
「あのな、俺だって悪いと思ったらちゃんと謝る。……お返しはホワイトデーにな」
「え、あ、ありがとう……?」
 未だ調子を狂わされている様態のいつきに見咎められないように、ミカはカードをそっと胸ポケットに仕舞う。甘くほろ苦い香りが、優しく鼻孔をくすぐった。

●甘えて、甘えさせて
(全く同じものは一つもない……オンリーワンをフィンに)
 『フルール』の露店に並ぶ数限りないチョコレートたちを前に、蒼崎 海十は夜空の瞳に真剣な色を宿している。そんな海十をちらと横目に見遣って、フィン・ブラーシュはそっとその目元を和らげた。
(特別な海十には、特別な一つをあげたいからね)
 と、眼差しを売り物へと戻したフィンもまた、青空の瞳で『たったひとつ』を探す。やがて2人は、互いに贈り合う『しあわせの欠片』を数多の色の中に見出した。
「ふふ、海十がどんなチョコを選んでくれたのか、楽しみだな」
「フィン、こっち見るなよ。渡すまで秘密なんだから……」
 軽やかに笑み零せば、返るのはじとっとした視線。けれど、愛らしい秘め事さえもフィンにとっては愛おしい。
「メッセージも、まだ秘密?」
「当たり前だろ」
 想いをしたためるためのスペースにて、海十は黒のペン、フィンは橙のペンをメッセージカードに走らせる。そうして2人は、とびきり甘い秘密を抱えて飲食スペースへ。
「それじゃあ、これは俺から」
 ベンチに腰を下ろして、フィンは海十へと先刻選んだばかりのチョコレートの小箱とメッセージカードを手渡した。フィンに促されて、小箱を開ける海十。中には、黄色のチョコレートに銀粉をあしらった一等星が、夜空のそれのように輝いていて。
「わあ……」
 海十の唇から感嘆の息が漏れる。その様子に、フィンはにっこりと柔らかく微笑んだ。
「早く食べてみて……って言いたいところだけど、メッセージも読んでほしいな」
 こくと頷いて、海十はカードに目を通す。清々しいようなオレンジ・チョコレートの香りがした。

『俺の大切な恋人さんへ
 実はこんな風に誰かにチョコレートを渡すのって、人生初かもしれない。
 俺の初めてが海十でよかった。
 これからも海十と沢山の初めてを味わいたいな。
 愛してるよ。
 フィンより』

「……俺の気持ち、伝わったかな?」
 刻み込むように何度もメッセージを読み返す海十へと、フィンは小首を傾げてみせる。返事の代わりに手渡されたのは、チョコレート入り小箱とメッセージカードだ。チョコレートは、テネブラをイメージした赤い満月。カードからは、珈琲とチョコレートが心地良く香った。

『こうしてチョコレートを改めてプレゼントって少し変な感じだけど……、
 えーと……笑うなよ?
 ハッピー・バレンタイン。
 俺の大切なフィンへ。
 ……好きだよ』

 最後の一文だけは、幾分小さな文字で綴られていた。それさえも海十らしいと、フィンの顔は緩みっぱなし。
「……笑うなって書いたのに……」
 そう呟いて頬を膨らませる海十だが、その胸の内は灯を点したようにあたたかい。フィンからのメッセージが、心底から嬉しかった。そんな海十の前で、大事に大事にチョコレートを味わったフィンが益々相好を崩す。
「わ、洋酒入りなんだね。俺の好み、考えてくれたんだ」
 満月の中には、洋酒の香りを纏ったミルクの濃い苺ガナッシュが隠れんぼ。にこにことしているフィンの姿にそっと口元を緩めて、海十も星の一欠片を口に運んだ。綺羅星の中身は、ピール入りのオレンジガナッシュ。海十の好きな味を、フィンは選んでくれていた。
「海十、チョコ美味しい?」
 フィンの問いに頷き一つ、海十は素直に感想を伝える。
「……うん、甘くて凄く美味い」
「良かった。じゃあ、味見」
 味見と称して零されたのは、チョコレートよりも甘い口づけ。嬉しいけれど照れ臭いと頬を朱に染める海十へと、フィンは優しく笑い掛ける。
「ふふ、前も同じ事したね。でも、仕方ないじゃない? 海十に甘えたくなったんだ」
 恋人の言葉に一層頬を赤くして、それでも海十は、小さく、けれど確かに言葉を紡いだ。
「……一年に一回のバレンタインくらいは、甘やかしてもいいかもしれない」
 だけど。
「俺も、甘えたい」
 消え入るような囁きにフィンは青の双眸を寸の間見開いて――それから、とびきりの微笑を浮かべてみせた。

●貴方を想う、貴方に探す
「さー桐華さん、僕は此処で待ってるから、僕にピッタリの素敵なチョコレートのお菓子を探してきてね」
 ごく軽いノリで零された叶の言葉に、桐華はちょっと難しいような顔を作る。
「おいそのフレーズ二年ぶりくらいに聞いたぞ」
「え? デジャヴってる? あはは、何のことだか!」
 一応一言意見は述べてみるものの叶はころころと笑うばかり。なので、桐華は諾と応じる代わりにため息を一つ漏らした。
(言い出したら聞かないのは分かってる)
 だから素直に、飲食スペースのベンチへと叶を残して、桐華は通りの雑踏の中へと足を踏み入れる。
「いってらっしゃーい」
 なんて、気の抜けるような調子で叶は桐華の背中を見送った。
(ま、桐華さんがくれる物なんて、何でも嬉しいんだけどね)
 ならば、この遊戯めいたチョコレート探しにどんな意味があるのかというと、
(ふふ、僕の事で頭一杯にするといい。そうやって選んだ逸品なら、特別感満載じゃない)
 という具合で、叶の求めるものはチョコレートであってチョコレートではないのだ。
「さて、と」
 ベンチから、ひょいと立ち上がる。
(ただ待ってるのもあれだし、僕もこっそり用意しよう)
 そんなことを胸に思って、通りに見留めたのは『フルール』の露店。数多商われている小さな幸せの中に、叶は自分が手に取るべきそれを探す。
(甘さ控えめの小粒なやつで……赤色がいいなぁ)
 イメージが決まっていたから、チョコレート選びはさして難航しなかった。叶が手にした『しあわせの欠片』は、深紅の宝石を模したダークチョコレート。中にはジンジャーガナッシュが詰まっている。すぐ近くのスペースで、叶は受け取ったメッセージカードに赤色のペンを走らせた。チョコレートの香にラズベリーが混じり、叶の鼻孔を柔らかにくすぐる。カードを彩る言葉は、『好きだよ』のたった一言。
「……ふふ、味気ないかな」
 ほんの少し、口元を緩める。彼もきっと同じ言葉を甘やかなカードに綴るだろうと、そんな気がして。

 一方の桐華は、時間を掛けてじっくりと露店を見て回った。
(……味もだけど形にも拘るタイプだし……程々に量があるとなおよし、か)
 と、ごく真剣に叶からのミッションをこなそうとする桐華である。そうして彼が選び取ったのは、チョコレートのドレスがよく似合うカラフルマカロンだ。プレゼント用にと買い求めれば、品物と共に手渡されたメッセージカード。その上に、桐華もまた言葉を描く。『好きだ』というところまで紫のペンを進めたところで――桐華の手は、ぴたりと止まった。
「これ以上思いつかないな……まぁ、良いか……」
 ごく小さくひとりごちて、桐華は手に取ったカードを自身の口元へと運ぶ。零すのは、口付け一つ。ブルーベリーとチョコレートの甘くて優しい匂いが、ふうわりと香った。
(香りが微量だから、確かめる時に叶の唇が触れれば良い)
 なんて、これは桐華本人とカードだけが知っている内緒事。マカロンのきちりと並ぶ箱と甘いカード、それから少しの秘密を連れて、桐華は叶の元へと戻るのだった。

「あ、お帰り。ごくろーさま」
 ベンチに座っている叶へとずいと贈り物を差し出せば、へらりと零される笑顔が一つ。
「中身はなんだろうね。家で確かめようか」
「……開けないのか。家で、ね。解った。それなら、今からはもう少しフェスタを満喫してけよ」
「うんうん、りょーかい。あとこれ。いつものと今回のお礼」
 何気ない様子で手渡されたのは、プレゼント用の小箱と見覚えのあるメッセージカード。驚きに赤の双眸を見開く桐華へと、
「あ、ホワイトデーは別口だよ。また甘いものよろしくね☆」
 と、叶は口元に弧を描いてみせた。その様子に軽く息を吐いて、桐華は叶へと空いている方の手を差し伸べる。
「ほら、手。迷子にならないよう繋いでてやるから、安心しろよ」
 間もなくして、桐華の手に、叶の手の温度がそっと重ねられた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:栗花落 雨佳
呼び名:雨佳
  名前:アルヴァード=ヴィスナー
呼び名:アル

 

名前:信城いつき
呼び名:チビ、いつき
  名前:ミカ
呼び名:ミカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月07日
出発日 02月14日 00:00
予定納品日 02月24日

参加者

会議室

  • [13]栗花落 雨佳

    2016/02/13-23:09 

  • [12]蒼崎 海十

    2016/02/13-22:38 

  • (何となく察した)
    おー、いつきは(色んな意味で)頑張れよー。
    (色んな意味で)楽しく過ごせるよう期待しておく。

    ってことで、俺も…

  • [9]信城いつき

    2016/02/13-21:49 

    プラン提出したよ。

    >カインとイェルク
    指輪、綺麗だね…(ため息)
    俺はねピアス作ってもらったよ、見て見て(ホワイトサファイヤに、小さなルビーまたはサファイヤが付いてる)
    みんな同じ鉱物なんだって。理由は…うぐっ(ミカに首根っこひっぱられる)

    ミカ:同じ鉱物なのはカインの方が詳しいだろう。さぁそろそろ出発するぞ
    (「仲間」をイメージしてるとか…恥ずかしいので口にされる前に退場)

    いつき:え?まだ早くない……?引っ張らないでよ
    みんなみんな素敵な一日になりますようにー(フェイドアウト)

  • [8]栗花落 雨佳

    2016/02/12-14:31 

    こんにちは。
    挨拶が遅れましたね。栗花落雨佳とアルヴァード・ヴィスナーです。よろしくお願いしますね。

    叶さん、桐華さんはお久しぶりです。僕もまたお顔を見れてうれしいです。
    カインさんとイェルクさんは初めまして。ふふ、そうですね。楽しい時間が過ごせるといいですね。

    他の皆さんもお久しぶりです。または初めまして。皆さんにとって素敵なひと時でありますように。

  • おっと、雨佳とアルヴァートは完全はじめましてか。
    お互いいい時間過ごせるといいな。

    >いつき
    場所や時間帯なんかも違うと、顔を合わせてたりすれ違いもあるだろうってのも今回はないからな。
    まー、でも、あれだ、いつきとレーゲンは任務でも一緒だったが、いつきとミカというのははじめまして(の組み合わせって言い方も変だが)だから、会話見る限り微笑ましそうなんで、色んな意味で期待しておく。

    >ミカ
    こっち方面の同業ってウィンクルムでは珍しいだろうからなー。
    軍に所属してたとかそういうのだとまた違うかもしんねぇけど。
    本業関係で絡む機会とかあったら、楽しそうだよな。
    俺もベテランって程でもねぇけど、ミカの作品もゆっくり見る機会が欲しいね。
    人の作品を見るのも好きなんでな。
    俺のは……そこの嫁が婚約指輪着けてるんで見ていいぞ。

    イェルク:
    (自分も同じデザイン着けてると思いつつ、繊細で美しい細工の指輪(雪花菜GM描写)を見せる赤面の精霊)
    ……こういう感じの指輪、です。

  • [6]叶

    2016/02/12-11:17 

    はろはろー。叶と愉快な桐華さんだよ。どうぞよろしくねー。
    いろんな種類のチョコレートのお菓子が一杯だなんて、どれもこれも気になって目移りしほうだいだねぇ。
    楽しみ。ふふー。

    ミカさんとは初めましてー…なのかな?ぽいね。
    いつき君とは仲良しさんなんだねぇ。
    そんで、雨佳君たちはすっごく久しぶりー!
    交流場の方でちらっとお見かけした時からちょっとそわそわしてたけど、
    さっそくお顔見れる機会があるなんて、なんだか嬉しいや。

    最近ちょいちょいご一緒のみんなも、お互い、楽しい時間になると良いね。

  • [5]信城いつき

    2016/02/11-21:29 

    こんばんは、信城いつきと相棒のミカだよ。今回もどうぞよろしく。

    俺は顔見知りばかりだけど、ミカの方は(一緒の依頼でも個別行動多いし)
    海十のところ以外はほぼ初めてって感じかな?
    ちょっと変わってるけど、みんなの邪魔はしないから大丈夫……大丈夫、だよね?

    ミカ:
    馬鹿だなぁ、俺はチビちゃんしか目に入らないに決まってるだろ
    ……チビちゃん小さいから、目を離すと見えなくなりそうだし(にやにや)

    (いつき:むかむかむかっ!)

    カインは同業らしいな。こっちはまだ駆け出しではあるけど。
    もし仕事でからむ機会なんてのがあれば、楽しそうだな


    良い香りと共に、みんなが良い時間を過ごせるといいな

  • [4]蒼崎 海十

    2016/02/11-00:18 

  • [3]蒼崎 海十

    2016/02/11-00:18 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。

    見知った方々ばかりで、心強いです!
    チョコレートは大好きなので、目一杯楽しめたらなと…
    香りのメッセージカードも素敵ですよね。

    カインさんとイェルクさんも、よい一時を!

    楽しく甘い時間となるといいですね。

  • カインとイェルクだ。
    チョコレートを楽しんだりなんだりするぜ。
    まだ確定してないが、挨拶ということで。

    海十とフィンはよーっす。
    そっちも楽しめよー

    叶と桐華は久し振り。
    戻って良かったな。

    いつきとミカははじめましてだ。
    いや、ミカの方は同業…だよな?
    ウィンクルムで同業者に会うってのも珍しいが。

    ってことで…


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