【糖華】チョコっとメッセージ(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「来るバレンタインに向けて、メッセージカードを手作りしませんか!」

 ショコランドの街中を歩いていると、そんな呼び込みの声が聞こえて、貴方とパートナーは思わず足を止めました。
「チョコを原料とした魔法の紙『チョコット』を使って、世界に一つだけのメッセージカードを作りましょう!」
 貴方達に気付くと、大きな明るい声を上げていた妖精が、背中の蝶の羽を揺らして近寄ってきます。
「これ、サンプルです。良かったら是非寄って行って下さい!」
 手渡されたのは、可愛らしいメッセージカードでした。
 仄かに甘い香り。色とりどりの折り紙で折られた花が、カードを鮮やかに彩っています。
「それ、全部チョコットで出来てるんですよ。食べる事も出来るんです」
 妖精は白い歯を見せて笑いました。
「メッセージカードを入れる封筒も、チョコットで出来ちゃうんです」
 精霊は、カラフルな封筒も取り出して見せて来ます。
「チョコペンで文字を書く事も出来るんですよ。どうです? 楽しそうでしょう?」
 確かに……貴方とパートナーが顔を見合わせると、妖精は両手を広げました。
「バレンタイン限定のイベントなんです。是非是非!」
 陽気な妖精に手を引かれ、貴方とパートナーは小さなカフェへと案内されたのでした。

 ──ショコランドの名物の一つに、チョコを原料とした魔法の建材『チョコリート』があります。
 風雨では溶けず、舐めると甘いその建材は、街の至る所で使われているのです。

「これが、チョコを原料とした魔法の紙、『チョコット』です」

 妖精は、色とりどりの紙が入った箱をテーブルに並べました。
 赤、青、黄色、緑に桃色。目にも鮮やかなそれは、手に取ると甘いチョコの香りがします。
「勿論、食べる事も出来るんですよ。因みに赤はラズベリー味です。甘酸っぱくて美味しいですよ♪」
 赤いチョコットを摘まんで、妖精はにっこりします。
「少しぶ厚いチョコットがありますから、それを台紙にしてメッセージカードが作れます。普通のチョコットでお手紙にしてもいいですね」
 分厚いチョコットは、名刺サイズから新書サイズまで、様々な大きさが取り揃えられています。
「チョコペンはこれです。普通のペンと同じ感覚ですので、文字や絵を簡単に書けます」
 普通のサインペンのようなチョコペンが、こちらも色んな色が取り揃えられ、鉛筆立てに華やかに並んでいました。
 妖精は、鉛筆立ての隣に人間用の本を何冊か並べます。
「こちらは、折り紙の折り方が載った本です。自由に見ていただいて、分からない事があれば、何でも私に聞いて下さい。お茶を飲みながら、のんびりと作ってみましょう」
 貴方は一つ頷いて、チョコレートの香りがする紙を手に取ったのでした。

解説

【ショコランド】にあるカフェで、チョコレートな紙を使って、メッセージカードや手紙を作って頂くエピソードです。

<使える道具>
・チョコット…チョコを原料とした魔法の紙。『折り紙』タイプ、ぶ厚い『カード』タイプがあります。大きさ、色も各種取り揃えられています。

・チョコペン…インクがチョコのペン。普通のペンと同じ感覚で、チョコットに文字や絵を書き入れられます。チョコット同様、色も味も色々あります。

・透明なチョコペン…糊のように使用できます。

<場所情報>
・喫茶店の中、テーブル席、またはカウンター席で作業します。
 道具はそれぞれの場所に個別に用意されています。
 希望の場所がある場合は、明記して下さい。(記載ない場合は、テーブル席となります)

プランに以下を明記して下さい。

・作るカードの形状、メッセージを書き込む場合は、その内容。
・カードの材料に使ったチョコットの色や味。(一般的なチョコレートであれば何でも可です。自由にプランに記載して下さい。)
・飲みたいお茶。
・作ったカードをどうするか(パートナーにプレゼントしたり、食べたりするか)

参加費用として、一律「400Jr」掛かります。
あらかじめご了承下さい。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『この季節、チョコレートが美味し過ぎて体重計が怖い』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

チョコレートの紙【チョコット】再びです。今回はメッセージカードを作っていただきます。
バレンタインのチョコレート替わりに、普段はなかなか素直に言えない言葉や、面と向かっては言い難い言葉をカードに託してみるのはいかがでしょうか。
または、己の誓いのようなものをカードに記して、それを食べるなんて事も素敵だと思います。
お気軽にご参加頂けますと嬉しいです!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  このチョコ、折り紙してもいいのね
何か折る?
アップルティーを頼んで折り紙開始

そういえば契約したのもバレンタインの頃だったわ…と思い出す
アルとどう関わったらいいか判らなくて、思い切って渡したチョコ
もう2年も経つのね

アルも何か折るみたいだから、後で見せ合う約束をして
とりあえず白い定番の鶴を折ってみて感覚を取り戻してから
青いチョコットに「2年前の事覚えてる?」と書いて小鳥を折って
アルに差し出したら代わりに飛ばされてきた紙飛行機
笑顔でこっち見てるんだけど…えっと

広げて読んで、嬉しくて頬が綻んで
でも最後の言葉に動揺
慌てて食べてお茶で流し込む
もうっ!いつもそうなんだから!
でも2年前と違って嫌じゃない、のよね


上巳 桃(斑雪)
  今回も作ったものをお互いに取り替えっこしようか、はーちゃん
お茶は温かいほうじ茶にしてもらおう

私、折り紙って結構好きなんだよね
裏が白(ホワイトチョコ)で、表が普通のチョコの色した、折り紙タイプのチョコットはありますか?
パンダを折ろうかなと思って
手先が器用なわけじゃないから、上手く折れるか分かんないけど

メッセージはパンダのお腹にこっそり書いちゃおう
『はーちゃん、いつもありがとう』…うーん、私ってこればっかりだなあ
それじゃ芸が無いから、パンダの背中に、座右の銘をおまけに付けちゃお
『果報は寝て待て』
本当は『寝る子は育つ』も書きたかったんだけど

そいじゃ、お待ちかねの交換会
おー、やっぱりはーちゃん上手だね
「はーちゃん、いつもありがとう」…うーん、私ってこればっかりだなあ
それじゃ芸が無いから、パンダの背中に座右の銘もおまけに
「果報は寝て待て」
本当は「寝る子は育つ」も書きたかったんだけどね


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  チョコット:カード(スマホくらいのサイズ、色は普通の茶色)
メッセージ:Siempre gracias.(スペイン語でいつもありがとう)
      ↑読めないだろうと思って書いた
      文字の周りにピンクのチョコペンで描いた桜
お茶の種類:ミルクティー(二人共)

・カードをどうするか
普通にユークに手渡すわ。
まぁどうせ読めないでしょ…うちでもそうそう使わないスペイン語だし。
「あ、これスペイン語ですね~。エイミーさんにしては珍しいですね。」
読めるのは想定外。
取り返そうとするけど、ユークの鉄壁ガードに邪魔されて取り返せない~!
く…悔しい…恥ずかしい…。
でも…喜んでる顔が、なんか凄く…嬉しい…。
いよいよ、これは…ヤバい、かも…?


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  ・ミルクティーが飲みたいです。

・フェルンさんと作ったカードを交換することにしました。

・ビターブラックのチョコットカードを台紙にします。
ミルクチョコで木を作って、緑のチョコペンで葉を描いて。
森の風景をイラスト風に作ります。
自然な感じがいいかなって。
凝った絵は書けないのでデフォルメして描きます。

・『森のように包み込んでくれるフェルンさんに感謝を』
とメッセージ記入。

・カードを交換。その場でお互いカードを確認。
面と向かって言いにくいメッセージを書きましたが、良く考えたら目の前で見られちゃうんでした。
面と向かって言うのと同じですね…照れて頬が赤くなっちゃいます。

・チョコ美味しいです。





(ディム=シェイド)
  カウンター/カードタイプ(ビターチョコ)/ペン(ホワイトチョコ)/紅茶

メッセージ…えーと……
大丈夫です…こういうの苦手ですが嫌いじゃないです
ええと…手紙だと、相手の思いや気持ちが伝わりにくいから、ですかね…
…あなたなら面倒だと思った手段は選ばないと思ってました
そうですね無理すること、ないですね
…これからはもっと文章、書けるように頑張ります
…そういうわけで、なんとか書けました
『色々迷惑かけるかもしれませんが今後もよろしくお願いします。』
シェイドさんもくれるんですか…?
あ…あら?
いえ、でも
は、はいっ
じゃあ、これ…あなたが食べてください
なら、ありがたくいただきますね。…ディムさん
呼び捨てるのかと困惑


●1.

 ミルクティーの甘い香り。
 エメラルドグリーンの髪がふわりと揺れて、瀬谷 瑞希の前に紅茶のカップが置かれた。
 瑞希は隣の席に座る彼に微笑む。
「フェルンさん、有難う御座います」
 ターコイズブルーの瞳と目が合えば、フェルン・ミュラーは嬉しそうに口元を上げた。
 彼の手元には、コーヒーカップ。深褐色が揺れて、コーヒー豆独特の香りが漂う。
「どんなものを作るか……決まった?」
 フェルンはカップに口を付けた。余分な味が入らないブラックは、酸味と苦み、その中に甘みが調和した豊かな味わいだった。
 瑞希もまた、カップを持ち上げて香りを楽しみながら、一口紅茶を口に含む。
 深みのある香り豊かな味にほっとした。
「はい、大体決まりました」
 ゆっくりカップを置きながら、瑞希の視線は、机に置かれているカードタイプのチョコットに向いている。
「フェルンさんは?」
「俺ももう決まったよ」
 瑞希の唇が己の名前を紡ぐ──何時聞いてもとても甘美な響きだ。
 フェルンはカップを置くと、にっこりと笑う。
「それじゃ、お互い完成するまで、相手の手元は見ないという事で」
「はい」
 瑞希は真剣な眼差しで、これからはフェルンの方を見ないとばかりに視線を自分の手元に固定する。
 そんな彼女の横顔をずっと見ていたい欲求を振り払って、フェルンも手元に視線を下ろした。
 これから二人は、お互いの為にチョコットでカードを作るのだ。

 瑞希がまず手に取ったのは、ビターブラックのぶ厚いカードタイプ。
(これを台紙にします)
 続いてミルクチョコなチョコット──こちらは紙タイプだ──をカードの上に当ててみる。
 大きさを調整しながら、折り紙の要領で折ったり、切ったりして、カードの上に乗せ、透明なチョコペンで固定する。
 それから、緑のチョコペンで葉っぱを書き込んでいった。
(自然な感じがいいかなって……凝った絵は書けませんけど……)
 可愛らしい緑の葉が、ミルクチョコの幹を賑やかに飾っていく。
 ちょっぴりメルヘンで温かな森の風景が出来上がった。
 チョコペンで慎重にメッセージを書き入れたら、カードの完成。

 フェルンは、ミルクチョコのカードタイプを選んでいた。
 色んな色のチョコットを折ったり、切ったりして星の形を作っていく。
 そうして出来上がった星達を、ミルクチョコのカードへ置いた。イメージは、星空だ。
 フェルンはアクセサリーの知識を活かして、器用に美しくカードを飾っていく。

 完成を告げる声はほぼ同時に。
 お互いカードを隠して、視線を合わせる。
「ミズキ、準備はいいかい?」
「はい」
 瑞希はこくんと小さく頷いてから、速くなる鼓動を感じた。
(面と向かって言いにくいメッセージを書きましたが、良く考えたら目の前で見られちゃうんでした)
 フェルンがカードを差し出してくるのに、瑞希は小さく深呼吸して自らもカードを差し出す。
 それぞれの手にカードが渡った。

 飛び込んできたのは、満点の星空。
『ずっと君の傍に居るよ』
 瑞希は何度も瞬きする。

 優しい緑が、語り掛けてくるようだ。
『森のように包み込んでくれるフェルンさんに感謝を』
 フェルンは緩む頬を抑えられない。

「可愛いカードを作ってくれて嬉しいな」
 大切にまじまじとカードを見つめながら、フェルンが笑った。
「そんな風に思っていてくれていたなんて……更に嬉しいよ」
 瞬間、瑞希は頬に熱が集まるのを感じる。
(面と向かって言うのと同じですね……)
 思わず押さえた頬は熱かった。
(照れて赤くなる所がまた可愛いよね)
 フェルンは優しく瑞希の髪を撫でる。
「傍に居たら、色々な君の表情が見られて楽しいし」
 だから、メッセージに託した──。
 瑞希は瞳を伏せ気味にしたまま、肩を揺らして笑う。フェルンの言葉がとても嬉しかったから。
 瑞希の笑顔が増えて来た事が、フェルンの何よりの幸せ。
「折角だし、チョコット食べてみる?」
 フェルンの差し出すチョコットを受け取り、瑞希は一口食べた。
「美味しいです」


●2.

 高温で焙煎されたお茶の芳ばしい香り。
「うん、ほうじ茶美味しいー」
「ほうじ茶を飲むと、ほっと一息付けますよね」
 上巳 桃と斑雪は、テーブル席に向かい合って座り、ほうじ茶の入った湯呑を手にほぅと息を吐き出した。
 窓の外から差し込む陽の光も温かくて、ぽかぽかお昼寝日和。
 桃は眠気を感じ始めた目元を擦って、目の前の鮮やかなチョコレートを眺める。
「私、折り紙って結構好きなんだよね」
 そう言って、箱からチョコットの束を取り出し捲ってみる。チョコレートの香りがふわり漂った。
「今回も作ったものをお互いに取り替えっこしようか、はーちゃん」
「はい、主様!」
 桃の提案に、斑雪は二つ返事で頷いた。
「両面タイプってあるかな?」
 桃は通りすがった店員を手を挙げて呼び止める。
「裏が白で、表が普通のチョコの色した、折り紙タイプのチョコットはありますか?」
「こちらの箱の両面タイプをどうぞ♪」
 店員は、直ぐに折り紙の入った箱を持って来てくれた。
 桃はその中から、表が普通のチョコ、裏がホワイトチョコになっているものを選ぶ。
(パンダを折ろうかな、って。手先が器用なわけじゃないから、上手く折れるか分かんないけど)
 まず頭を作って、それから胴体──最後にドッキング。手順を確認しながら、桃は慎重に紙を折り始めた。
(主様は何を作るのでしょう?)
 わくわくと桃の手元を見遣ってから、斑雪は片面タイプのチョコットを手に取る。
(拙者は鶴にします。1羽じゃ寂しいですから、ちっちゃめのチョコットで沢山折りますよー)
 一番小さいサイズの束から、抹茶味のグリーンと苺味のピンク、蜜柑味のオレンジなど、色とりどりの紙を抜き取った。
 そして一羽一羽丁寧に、段々とスピードを上げて折り上げていく。
 暫し時が過ぎて──斑雪が鶴を量産している間に、少し悪戦苦闘しつつ、桃の手の中で、パンダが完成した。
 立っているパンダをイメージしたそれは、ころっとして可愛らしい。
 桃はちらりと斑雪の様子を窺った。斑雪は、すっかり鶴作りに集中しているようだった。
(メッセージはパンダのお腹にこっそり書いちゃおう)
 素早くチョコペンを手に取ると、パンダのお腹にメッセージを書き入れた。

『はーちゃん、いつもありがとう』

(……うーん、私ってこればっかりだなあ)
 素直に心から出たメッセージではあるのだが。
(よし、それじゃ芸が無いから、もう一個おまけのメッセージを書いておこうっと)
 今度はパンダの背中に、メッセージを記す。

『果報は寝て待て』

 座右の銘である。
(本当は『寝る子は育つ』も書きたかったんだけど……)
 残念ながら、書くスペースが足りない。

 一方、斑雪は折り終えた鶴を並べていた。
(鶴さん達は家族なんですよ)
 輪になって並ぶ鶴達は凛と前を向いている。
「あ、メッセージを忘れるところでした」
 斑雪は慌ててチョコペンを手に取った。のだが。
(えーと……?)
 何を書けばいいのか、考え込んでしまう。
(主様が喜んでくれる事……)
 その時、稲妻のような閃きが斑雪を襲った。

「おー、やっぱりはーちゃん上手だね」
 斑雪から折鶴を受け取って、桃は微笑んだ。
「でも……何で100点?」
 羽に『100点』と書かれている事を確認し、桃の首が傾く。
「……だ、だって、いい言葉が思い付かなかったんです……。だから、100点を主様にあげれば、喜んでもらえるかと思ったんです……」
 しゅんと肩を落とす斑雪に、桃は緩く首を振った。
「嬉しいよ、はーちゃん、いつもありがとう」
 にっこり笑って、あ、また同じ事を言ってしまったと、桃は口元を押さえる。
「主様のは、とっても主様ぽいですね。ざゆうのめいってかっこいいです!」
 器用に座るパンダを手に、斑雪は嬉しそうに笑った。
「座右の、拙者も考えますよっ……『忍者一番』……あ、あれ?」
 なんかヘンと今度は斑雪の首が傾く。
「せ、拙者、主様の一番の忍者になるってそういう意味なんです!」
 慌てて手を振りながら訴えてくる斑雪に、桃の胸に温かな感情が広がった。


●3.

 甘酸っぱいアップルティーの香りと、甘い中に爽やかさもあるレモンティーの香り。
「美味しい……」
 林檎の甘みが紅茶に溶け込んだ贅沢な美味しさが口の中に広がって、月野 輝は瞬きした。
「こちらもレモンの酸味と紅茶の渋みが調和していて……実に美味い」
 輝の隣では、カップを手にアルベルトが瞳を細めている。
「良い香りで……チョコレートの甘い香りと合うわよね」
「そうだな」
 輝が首を傾ければ、アルベルトは深く頷いた。
「このチョコ、折り紙してもいいのね。何か折る?」
 紅茶を味わってから、輝はチョコットへ手を伸ばした。
「折り紙なんてあまりやったことはないんだが……チョコレートの折り紙を折る機会なんて、中々無いだろうしな」
 アルベルトは小さく笑って、ミルクチョコの白い折り紙を選ぶ。
「ふふ、じゃあ、お互い折ったものを見せ合いっこしましょ」
「ああ、分かった」
 早速折り始めた彼の長い指を眺めてから、輝も己の手元に視線を落とした。
 アルベルトが選んだのと同じ、純白のチョコット。
(私も折り紙なんて久し振りなのよね)
 折り方を思い出すように、輝は折り鶴を折ってみる。折り始めてみれば、案外指は折り方を覚えていて、鶴は無事に完成した。
(良かった、ちゃんと出来たわ。ここからが本番ね)
 輝は慎重にチョコットの束を捲って、そこから一つ選んだ。
 鮮やかな青のチョコット。
 ちらりと隣のアルベルトを見遣る。アルベルトは真剣な眼差しで折り紙と向き合っていた。さっと視線を戻し、チョコペンを手に取る。
 そして、メッセージを書き入れた。

『2年前の事覚えてる?』

 輝がアルベルトと契約したのは、バレンタインの頃だった。
 折り紙と向かい合っていると、何故かその時の思い出が込み上げてくる。
(それはきっと……チョコのせい)
 アルベルトとどう関わったらいいか判らなくて、思い切って渡したチョコレート。
 彼が受け取ってくれた時は、嬉しかった。そう、嬉しかったのだ。あの時の彼の笑顔は今も覚えている。

 輝が楽しそうに何かを書いている──アルベルトは横目にその姿を盗み見て、そっと口の端を上げた。
(2年前のバレンタインを思い出すな)
 あの時も輝は楽しそうに花火を作ってはいたが、どこかぎこちなかった。
 今は自然に笑うようになった。それはきっと己も……。
 彼女の笑顔が嬉しい。そう、嬉しいのだ。
 2年前の己には、想像が出来なかった温かな時間を、今彼女と過ごしている。
 アルベルトはチョコペンを手に取る。溢れる想いをチョコに託す為に。

「アル、出来たわ」
 輝の掌には、青い鳥。アルベルトに差し出したのと同時、ふわりと白い紙飛行機が、彼女の前に落ちてくる。
「えっと……?」
 きょとんと瞬きすると、アルベルトはにっこりと笑った。
 それから、アルベルトの指が青い鳥を攫っていって、輝は白い飛行機を手に取る。何かメッセージが書かれていた。
 丁寧に広げてみれば、輝の視界にアルベルトの字が飛び込んでくる。

『私にだけ見せる表情をもっと見たい。またどこかに泊まりに行くか?』

 嬉しくて頬が綻んで──でも最後の言葉に輝の顔が真っ赤に染まる。
 予想通りの反応に、アルベルトは小さく笑った。
(寝台列車の旅──あの時の私の大変さを思えば、これくらい許されるだろう)
 理性との闘いは熾烈を極めた。
 ……割といつもの事のような気もするが、気にしない方向だ。
 不意に、輝が飛行機だったそれを口に放り込んだ。もぐもぐと噛んで紅茶で飲み込む。
「やれやれ……そんなに一気に食べなくてもいいのに」
「だって……アルが……」
 そこで輝は言葉に詰まって、わざと呆れた視線を投げてくる彼を軽く睨む。
「もうっ!いつもそうなんだから!」
 アルベルトは声を上げて笑って、青い紙をひらっと振った。
「同じ事を思い出してた」
「!」
 その言葉に、輝の頬はまた熱を持って──。
(でも2年前と違って嫌じゃない、のよね)
 胸に響くのは、甘い甘い感情。
「美味しいよ」
 青いチョコを齧って、アルベルトが微笑んだ。


●4.

 甘くて優しい香り。
 アメリア・ジョーンズは、温かいミルクティーの甘さに吐息を吐き出した。
 ミルクが濃厚で、優しく身体を温めてくれる。
「いやあ、美味しいですね!」
 隣から嬉しそうな声がして、アメリアはそちらを見遣る。
 同じくミルクティーのカップを手にしたユークレースが、にこにこと笑みを浮かべていた。
「随分とご機嫌ね」
「だって、本当に美味しいですし。ねえ、アメリアさん、折角ですし何か作りませんか?」
 ユークレースは、目にも鮮やかなチョコットの束を取って、アメリアに差し出してくる。
「……別にいいけど」
 アメリアはふわりと香るチョコレートの匂いを感じながら、横目にユークレースを見た。
 本日も、いきなりユークレースに『行きましょう、エイミーさん』と引っ張って来られた訳だが、悔しいけど紅茶は美味しいし、紙のチョコレートにも興味がある。
「けど、完成するまでこっちを見ないでよね。見たら……コロス」
「もう、エイミーさんてば物騒なんですから。はいはい、わかりましたよ」
 ユークレースは軽い様子で笑顔を見せて、早速折り紙タイプのチョコットで何かを折り始めた。
 その動きは器用なもので、あっという間に鶴を折り上げる。
「あ、エイミーさんだって、こっちを見ては駄目ですよ」
「わ、わかったわよ!」
 思わず見惚れていた所に指摘されて、アメリアは慌てて視線を逸らした。
(大きさ、色々あるんだ……)
 目に留まったのは、カードタイプのチョコット。
 スマートフォンと同じくらいの大きさで、普通のチョコレートのものを選ぶ。
 それから、ピンクのチョコペンを手に取った。
(メッセージカード……なんて、柄じゃないけど……)
 隣から聞こえるユークレースの鼻歌。それが不快じゃないなんて、どうかしてると思う。
(けど……読めないなら、いっか……)
 少し躊躇してから、思い切ってカードにメッセージを書き入れた。

『Siempre gracias.』

(アイツは意味なんて分からないだろうし)
 アメリアは一つ頷いて、文字の周りに桜の花を描き入れていく。可愛らしいカードが完成し、彼女はそっと微笑んだ。
「ユーク」
 名前を呼べば、彼は直ぐにこちらを向いてくる。
「あげるわ」
 無造作にカードを差し出せば、ユークレースは軽く目を見開き受け取った。
「──『いつもありがとう』、ですか。エイミーさんにしては珍しいですね」
「……え?」
 さらっと言われた言葉に、アメリアは硬直する。今、何て言った?コイツ。
「有難う御座います。嬉しいです」
 ほんのり頬を染めて、ユークレースが微笑んだ。
 瞬間、アメリアの全身が沸騰する。
「い……今のなし! それ返して!」
 ユークレースの手にあるカードを取り上げようと手を伸ばした。
「えー? ヤです」
 ユークレースは身を捩って回避する。
「いいから、返しなさいよ!」
「もう頂いたので、僕のモノです」
 続けて伸ばされたアメリアの手首を掴んで、ユークレースはにっこり笑った。更にアメリアの頬が熱くなる。
「は、離しなさいよッ」
「離したら、もう取り上げないでくれます?」
「そ、それは……」
「じゃあ、こうしましょう」
 ユークレースはパチンとウインクすると、持っていたチョコを唇に咥えた。
「はい、あーん♪ 半分だけ、エイミーさんにあげます」
「!!? だ、誰がそんな事ッ」
 ぷるぷる震え出したアメリアに、ユークレースはクスッと笑って手首を引き彼女を引き寄せる。
「冗談です」
 咥えていたカードをテーブルに大事に置いて、アメリアの耳元に囁いた。
「勿体なくて……食べられません。宝物にします」
 刹那、頬に温かな感触。
 キス、された──なのに、唇から抗議の言葉は一向に出てこなかった。
 悔しいのに、恥ずかしいのに。
(でも……喜んでる顔が、なんか凄く……嬉しい……)
 ユークレースの腕の中、アメリアは瞳を閉じる。
(いよいよ、これは……ヤバい、かも……?)


●5.

 紅茶の優しい香りにホッとする。
 カウンター席に座り、周はその味を堪能した。
 琥珀色の温かな紅茶は、香りのとおりの優しい味だ。
「何か作ってみるか?」
 隣に座るパートナーからそんな言葉が飛んできて、周は小さく目を見開いた。
「アマネ、嫌いか?こういうの」
 ディム=シェイドの蜂蜜色の双眸が、周を映し出している。
 眩いくらいの綺麗な瞳だと、周は思った。
「メッセージ……えーと……」
 即座にディムから視線を手元に逸らして、周は考えながら言葉を紡ぐ。
「大丈夫です……こういうの苦手ですが嫌いじゃないです。ただ……」
 カップを持つ手に僅か力が入った。
「ええと……手紙だと、相手の思いや気持ちが伝わりにくいから、ですかね……」
「そうか」
 ディムは小さく頷くと、目の前の箱に詰まった紙を手に取る。
「けど、別に伝えられないんなら……良いだろ、手紙でも」
 ホワイトチョコの紙を手に、ディムはきっぱりと言った。
「オレは、伝えられないなら手紙を選ぶな」
 周は思わず顔を上げて、ディムを凝視する。
「ん? なんだよ?」
「……あなたなら、面倒だと思った手段は選ばないと思ってました」
「……まあな。オレだって面倒はごめんだ」
 ディムは喉を鳴らして笑い、軽く肩を竦める。
「けど、口で言えないなら、無理する必要ないだろう」
 彼の言葉は不思議だと、周は思った。胸に落ちるように響いてくる。周はそっと胸元を押さえた。
「そうですね……無理すること、ないですね」
 一つ頷いて、周はディムを見上げて微笑む。
「……これからはもっと文章、書けるように頑張ります」
「ん」
 ディムも笑って、周にチョコットの入った箱を差し出した。
「取り敢えず、今日は練習してみるか」
「はい」
 二人は、思い思いにチョコットとチョコペンを手に取る。

「なんとか書けました」
 周はふーと息を吐き出し、大事そうにカードを抱えた。
「……オレも書いた」
 ディムがチョコペンを置いたのを見てから、周は出来上がったカードを彼へ差し出す。
「どうぞ。シェイドさん宛てにさせて頂きました」
 ディムは驚いたように瞬きしてから、口の端を上げて、自分の作ったカードを周へ手渡す。
「じゃあ、これは俺から」
「シェイドさんもくれるんですか……?」
 周は目を丸くして、彼からカードを受け取った。

『ディムって呼べ』

「あ……あら?」
 ホワイトチョコに、イチゴチョコのピンクで書かれた言葉に、思わず動揺が声に出て、周は片頬を押さえる。
 そんな周の反応に喉を鳴らして笑って、ディムは受け取ったカードに視線を落とした。

『色々迷惑かけるかもしれませんが今後もよろしくお願いします。』

 ビターチョコにホワイトチョコで書かれた文字は、少し硬く微笑ましかった。
 ディムは緩む口元を押さえる。
「いえ、でも」
 動揺している周の声にコホンと咳払いしてから、まだ硬直している彼女に声を掛けた。
「良いから、そう呼べ。どの道、長い付き合いになるんだろうし」
「は、はいっ」
 周は思わず頷いてから、早鐘を打つ胸を押さえて彼を見つめる。
「じゃあ、それ……あなたが食べてください」
「……ん? オレが?」
 ディムはカードと周を交互に見てから、微笑んだ。
「……じゃあアンタもそれ食え。
 食うからには書いてる通り呼んで貰うけどな。そもそもアンタにやるつもりで書いたんだから食って貰わねぇと困る」
 ふふ、と周が小さく笑う。
「なら、ありがたくいただきますね。……ディムさん」
「待て。さん付けするな」
「え? 呼び捨て、ですか?」
 困惑する周に、ディムは大真面目に頷いた。
「でも……」
「言ったろ? 食べるからにはその通りに呼んで貰うって」
「……」
 周は大きく深呼吸する。
「わ、わかりました……ディム……」
「よし、合格だ!」
 ディムの大きな温かい手が周の髪を撫でる。
「く、くすぐったいです……ディム……」
 周は跳ねる胸を押さえた。
「あ、わりぃ……。食うか」
 少し照れた様子でディムが周を解放し、チョコのカードを掲げる。
「はい……」
 二人で齧ったチョコレートは、とても甘い味がした。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:アメリア・ジョーンズ
呼び名:エイミーさん
  名前:ユークレース
呼び名:アンタ/ユーク

 

名前:
呼び名:アマネ
  名前:ディム=シェイド
呼び名:ディム

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月30日
出発日 02月05日 00:00
予定納品日 02月15日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2016/02/04-23:55 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    プランは提出できています。

    素敵な時間を過ごせますように。

  • [4]月野 輝

    2016/02/02-18:36 

    こんばんは、初めましてとお久しぶり。
    月野輝とパートナーのアルベルトです。

    メッセージを書くのも折り紙も楽しそうよね。
    皆さん、良いひとときを過ごせますように。

  • [3]上巳 桃

    2016/02/02-15:32 

    上巳桃と精霊のはーちゃんだよ、よろしくー

    私は折り紙をやりたいな
    何を折ろうっかな…なんとなくパンダがいいな

  • アメリアよ、よろしくね。
    えっと…アイツになんか言うこととか特にないけど、
    せ、せっかくのバレンタインだし…って!
    別になにもする気なんてないし!
    お茶飲めるみたいだから…そ、それくらいね楽しみなのは!


    …なに書けってゆーのよ、もう…。

  • [1]周

    2016/02/02-09:43 

    初めましてよろしくお願いします。周(アマネ)です。
    こちらは一緒に活動します精霊のディムさん。

    メッセージカード、ですか…素敵ですね。こういうのはあまり得意じゃないんですが頑張って、みます。


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