【薫】香る湯(木乃 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「はいはーい! お久しぶりよっ」
 快活そうなスーツ姿の若い女性が勢いよく受付嬢に声をかける。
「SPA☆Relaxia(スパ・リラクシア)のアンジュよ、かなり前に来たからもう覚えていないと思うけど」
 テルラ温泉郷で風変わりなサービスを提供しているという彼女が、再び足を運んできたのだ。
「今回はどういったご用件で?」
「ちょっと新しい企画を始めようと思うんだけど、せっかくだしウィンクルムの皆に試してもらおうかなって!」
 現地集合になるため交通費は自費になるが、入浴料はタダにしてもらえるとのこと。

 アンジュは不敵な笑みを浮かべると単刀直入に話し始める。
「新しく家族風呂を出すんだけど、なんと温泉水に香り付け出来る入浴剤を開発したのよ! 従来の物だと化合物とか添加物とか、ちょっと温泉水に影響しちゃう成分も多少含まれてたんだけど……なんと影響する成分をほぼカットすることに成功したのよね!」
 その開発した入浴剤をつかって、家族風呂で一緒に香りを楽しむサービスを始めようと考えているようだ。

「ウィンクルムの皆も、日頃の疲れが溜まって来てるんじゃないかしら? 良ければうちの温泉でゆっくり休んで欲しいわ! 一応スパ施設だから、水着はちゃんと付けてもらうからね?」
 家族風呂は1組につき1か所貸し出すそうなので、気兼ねなく楽しんでほしいとのことだ。

解説

交通費として300Jr消費いたします
描写は個別となります

●目的
香りを醸し出す温泉を楽しもう

●場所
SPA☆Relaxia(スパ・リラクシア)
過去エピソードの『温泉プールを楽しみ尽くせ!』で出ましたが、該当エピソードとは関連はございませんので参加歴や閲覧の必要はありません
アンジュはこの施設を運営する会社の女社長ですが、基本的にシナリオ内に登場することはありません

●温泉について
家族風呂という個室になります
真っ白なタイルで覆われていて清潔感のある内装となっております

効能は冷え性、筋肉痛、肩こり、美肌、火傷、捻挫などなど。
入浴の際は水着必須ですが、こだわりがある場合はデザインを明記してください

●香りについて
梅:和風の甘酸っぱい香り
松:渋みのある落ち着いた香り
1ラベンダー:独特の甘みのある香り
ローズ:豊潤な高級感のある香り
オレンジ:柑橘系らしいスッキリした香り

上記の頭文字をプランに記載してください
(不明の場合は香りに関連した描写を極力避けさせていただきます)

●諸注意
・多くの方が閲覧されます、公序良俗は守りましょう
(設定上、ウィンクルムは社会的な信頼のある身分です
 性的なイメージを連想させる描写は厳しめに判断します)
・『肉』の1文字を文頭に入れるとアドリブを頑張ります

ゲームマスターより

木乃です、寿ゆかりGM主催のフレグランスイベントエピソードでございます!

今回は香る温泉を楽しむエピソードでございます。
匂いのご指定がない場合は情景などの描写は極端に減ってしまいますのでお忘れなく。

参加者へ全8種類のうち、ランダムで2つの『香水』がプレゼントされます!

それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

 


その、楽しそうですし…い、行ってみませんか…?
(お返事するチャンスがある、かも

スノーくんはどの香りが好きですか?
あ…私も果物の香り好きなんです
楽しみですね

水着はレッドセパ(コーデ)にフリルスカート
髪はお湯に着かないよう纏める

(…個室の家族風呂とは聞いていましたが)
密室感にドキドキしつつ掛け湯をして湯船へ
視線にはおずおずと
…水着、変、でした?
引かれたかと心配
杞憂と知れば赤面

あ…傷跡ですか?
あれから綺麗に治って…スノーくん効果です(依頼61
湯船の中、勇気を出して手に触れる
もう少し出せれば腕にもたれ

…気持ちいい、ですね
香りに少しずつリラックス
今なら、と視線上げれば笑顔に見惚れもじもじ言葉詰まらせて


七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
 

「香りのする温泉……何だかこう、趣がありますよね。とても楽しみです」
勿論、美肌になれるのも気になりますけど。

濃紺地のセパレート水着を着用。
左の胸元には、梅の花が一輪描かれています。

浴室に入る前に、規約ルールや時計がないか確認。
ある場合は、それに従いながら入ります。
(無かったら、いつまでも入ってしまいそうです)

浴室で予め、体の汚れや垢を落としてから入浴。
髪の毛はヘアゴムでフルアップにして纏めておきます。
しばらくお湯に浸かりながら、梅の匂いを嗅いでみる。

「理由?梅を見ると、春を感じたくなるからです」
私、梅って聞くとなぜか春のイメージがありまして。

うふふ、そうですね。
今日は素敵な日になりそうです。


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  肉  オ 白のタンキニ
冷え性…美肌……結構色々効果あるみたい?
あ。あんたって武器振りまわすじゃない? 肩凝ってるんじゃないの?
でしょ。丁度良いじゃない。…別に私は振りまわさないし
あー…まあ、そうね…

え、なによ? 髪? あ、本当……
良いわよ別に自分でできるし…
そう、ね。…ならお願い。だんご…ああ、シニヨン
…犬種……
……終わったならもうちょっと離れなさいよバカ…
は? 顔? …お湯のせいに決まってるでしょ…!
バカ。分かったら別の方向見てなさいよ
…にしても、良い香りね。オレンジ…だっけ。柑橘系の甘酸っぱさっていうの? 良いわねこういうの


クロス(ディオス)
 

☆フリル付青桜ビキニ

☆心情
「温泉…!(目を輝かせる
ディオ、一緒に行こう!」

☆松
「ふぃ~…
やっぱり温泉は良いなぁ(ニコニコ
ディオ? どうかしたか?
なら良いが…
アレ? この胸と腹に出来た十字架の傷?(傷痕触る
そっか、ディオって強いな…
ってディオ、何謝ってんだ?
この傷はディオのせいじゃねぇから謝んなくても良いのに…
そりゃ最初は背中の傷を人に晒すのも嫌だったけど、此処の系列のプールに行った時にオルクの全身の傷痕を見て感じたんだ
人がどうこう言おうが自分が誇れる勲章だと、恥じる事は無いと…
その時のオルク、格好良か…っ!?(抱き寄せられ驚く
ディ、オ…? 俺、は…(見つめられ胸が高鳴っている事に戸惑いを隠せない」


マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
  参加動機
誘われたので
一緒に等滅相も無いと辞退懇願したが押し切られた

「美肌でございますか?
一介のメイドがとも思うが
旦那様に恥をかかせない為に必要な事だと考えをもっていく
覚悟決め入浴

薔薇の香りは好きなので香りに感嘆
贅沢過ぎる状況に恐縮するも
肌を晒す彼が居るので何かある筈もないと思いつつも落ち着かない
(い…いいのかしらこんな大胆な事
自然と体が横向きになり彼と向き合わない様に微妙な距離

心配と言われ自分の態度が良くないと悟り
おずおず彼の側へ
肩抱かれビクッ
でも慣れた距離感と視界に入る彼が減ったので少し落ち着いたかも
相槌「よい香りです…好き
思わず漏れた言葉にはっと
聞こえなかったみたいで安堵
(香りに酔ったかな


●苦き思い出
 クロスは本部の掲示板を見つめ、目を輝かせていた。
 好みの香りを自分で選べるというのも、魅力を感じられる。
「ディオ、これ行ってみないか?」
 一緒に訪れていたディオスに瞳をキラキラ輝かせたままを向ける。
「あぁ、一緒に行こう」
 嬉々として顔をほころばせるクロスに、ディオスもフッと笑いをこぼす。

 それから数日後、テルラ温泉郷にやってきたクロスとディオスは件の温泉へやってきた。
「ふぃ~……やっぱり温泉はいいなぁ」
 クロスは湯船に浸かりながら深呼吸。
 身に付けている青い桜の模様の入ったビキニは、フリルで縁どりされている。
 深く息を吸い込めば、湯煙と共に立ち込める松の独特な香りが感じられた。
 渋みのある少しクセのある香りだが、嫌な感じはしない。
「良い香りだな、ディオ」
「あぁ、そう、だな……」
 ヒト一人分、微妙な隙間を空けて腰をかけるディオスはぎこちない返事を返す。
 黒に近い紫色の、十字架のワンポイントが入った水着を覆う肢体は、細く引き締まっている。
「どうかしたか?」
 緊張した様子のディオスに、クロスが眉をひそめて視線を向ける。
「いっ、いや何でもない!」
 慌ててディオスは弁解するが、「ならいいが……」と返したクロスは怪訝な表情。
「ん? ディオ、その傷痕って」
 視線を僅かに下げると、ディオスの胸板と腹部にある十字の傷痕が目に付いた。
 興味本位で触れてみようかと思ったが、今のクロスは恋人の居る身。
 幼馴染と言えど異性に触れるのは、恋人を想うとためらわれる。
「……姿を消した後に付けられた、戒めの傷だ」
 自嘲気味に語るディオスは、曖昧な微笑を浮かべる。
「そっか、あれから別の場所でずっと戦っていたのか……強いな」
「強くなんかないさ」
 ディオスはなんとも言えない様子で、苦笑を浮かべる。
「謙遜するな、ディオはよくやっている……私ももっと励まなければな」
 クロスは同じ体勢が窮屈になったのか、脚を伸ばして爪先を掴むように身体を前に傾ける。

 何気ない動作だった。
 しかし、湯船の縁に寄りかかり隠れていた背中が露わになると、ディオスの表情が変わった。
(クロの、背中の傷……これが)
 彼女に背負わせてしまったものなのか、一気に血の気が引いていくような感覚を覚える。
「クロ、すまないっ、俺のせいで、消えない傷を残してしまい……っ!」
「? ディオ、何謝ってんだ?」
 別にディオスのせいではないのだろう、と身に覚えのない謝罪にクロスは首を傾げる。
「俺が、俺の……!」
「落ち着け。 戦っていれば傷の一つや二つ、ついてもおかしくないだろう?」
「! ……そう、だな」
 そう言われてもディオスの表情は沈んでいた。
「最初は、背中の傷を人前に晒すのも嫌だったんだ」
 今も必要以上に人前に出す必要はないと思うが、それでも止むを得ない状況もままある。
 そういった状況に、クロスは苦手意識があった。
「ここの系列のプールに以前来たんだけど、あいつの全身の傷跡を見て感じたんだ」
 他人がどう思おうと『自分が誇れる勲章』なのだと、だから恥じる必要はないのだと。
(あいつ、あいつと来たのか……奴が、クロと共に)
 話に耳を傾けていたディオスの表情は、次第に険しくなっていく。
「そう言ってた時、格好良か……っ!?」
 クロスが話を続けられなかったのは、鋭い視線を向けるディオスに両肩を押さえ付けられたから。
「クロ、俺といると言うのに奴の話をするのは御法度では無いか?」
「ディ、オ……?」
 クロスが顎を掴まれクイと上げさせられると、ほの暗い感情を宿した双眸に意識を絡めとられる。
「今は奴が好きでも、俺は諦めていないから」
 必ず惚れさせてみせるというディオスの言葉に、ドクドクと鼓動が騒がしい音を立てるのは驚きなのか、別の感情なのか――クロスには解らなかった。

●不意打ち
 白いタンクトップ・ビキニに着替えたシャルティは、湯船に浸かりながら効能の書かれた立て札に目を向ける。
 真っ白なタイル張りの家族風呂には、もいだばかりの新鮮なオレンジの香りが立ち込めている。
「冷え性、美肌……結構色々効果があるみたい?」
 グルナ・カリエンテも横から覗きこむ。
「香りによって違うとか、そんなんはねぇんだな」
「温泉水に影響が出ないようにって書いてあるし、効能まで変えるのは難しいんじゃないかしら」
「それもそうか」
 肩を竦めるグルナは、大きく息を吐きながら腰を落ち着けた。
「そういえば、あんたって武器振りまわすじゃない? 肩凝ってるんじゃないの?」
 シャルティは効能の中に『肩こり』という単語を見つけ、グルナに振ってみた。
 鉄塊のような大剣を操るのだ、それなりに負担がかかるだろう。
 シャルティに対し、グルナはチラリと視線だけ向ける。
「武器を振るうのなんか慣れてっし、たかが知れてる……でもまあ、それはあるな」
 素直ではないというか、指摘をそのまま受け入れることが苦手なのか。
 グルナは遠回しに肯定し、向けられた言葉をそっくり返す。
「でも、お前も凝ってんじゃねぇ? 肩」
 シャルティは怪訝そうな表情を浮かべた。
「別に、私は振りまわさないし」
 戦闘狂を自負するグルナに、戦いをほぼ任せっきりだという自覚はある。
 守られているだけは嫌だ、そう思うだけに歯痒い思いを何度もしてきた。
 ――しかし、シャルティの言葉にグルナは溜め息を吐く。
「武器限定じゃねぇよ、任務とか常に肩に力入ってんだろ」
 不器用な言葉選びだったが、シャルティを気遣ったものに変わりはない。
 ――緊張状態が続き、身体を強張らせていれば嫌でも凝り固まってしまう。
 それが戦慣れしていないのであれば、かなりの重圧だと言える。
「あー……まあ、そうね……」
(珍しいわね、グルナが気を遣ってくるなんて)
 あまり他者のことを気に掛けないようなタイプだと思っていただけに、シャルティは内心驚いた。

 グルナが視線をチラ、と僅かに逸らすと眉間のシワを寄せる。
「なによ?」
「……髪、ほどけそうだぜ」
 指摘を受けて、シャルティが自身の髪に手を伸ばすと、確かにほどけかけていた。
「後ろ向け。くくり直してやる」
 シャルティが自らほどいていると、グルナが手直しすると言って手を伸ばしてくる。
「良いわよ、別に自分で出来るし」
「つべこべ言うな、自分じゃ上手く出来ないだろ」
 この場に鏡がないだけに、グルナの言う通り一人では上手く結べないだろう。
 シャルティもそれに気づくと、グルナにヘアゴムを手渡した。
「……お願い」
 シャルティはスッと背中を向ける。
「あー……だんご? で良いだろ?」
 グルナは白い髪を手でまとめながら唸り声を上げる。
「……シニヨンのこと?」
 シャルティが答えると「そうそう、その犬種みたいなやつ」と、それだと疑問が解けてスッキリしたようだ。
 そんなグルナの発言に、シャルティは呆れの溜め息。
 手早くまとめられていくと――不意に、耳たぶに吐息がかかる。
「っ!?」
「うっし、これでいいか」
 吐息がかかる距離で聞こえるグルナの声に、密着しかけるほど近くにいるのだと気付く。
 勢いよく振り向くと、シャルティはキッと睨み付けた。
「……終わったならもうちょっと離れなさいよ、バカ」
 急に怒りだしたように見えたグルナは、怪訝な表情を見せる。
「? 顔真っ赤だぜ?」
 それが余計にシャルティの機嫌を損ねた。
 ブルブルと肩を震わせ、湯水に細かな波が立つ。
「お湯のせいに決まってるでしょ、バカ。解ったら別の方向見てなさいよ」
「バカバカ言いすぎなんだよお前はっ! ……ったく」
 言い合う声が浴室に響く。
 不毛だと判断したグルナは不機嫌な顔をよそに向ける。
 微妙な空気と沈黙の流れる中、甘酸っぱい柑橘の香りだけが音もなく空間に広がる。
「……にしても、良い香りね。オレンジ……だっけ」
 先に口を開いたシャルティだった。
「良いわね、こういうの」
「……嫌いじゃねぇけど、好きでもねぇ匂いだ」
 シャルティの言葉に、グルナはいつものぶっきらぼうな態度で返した。

●薔薇色の頬
 マーベリィ・ハートベルは複雑な表情を浮かべていた。
「とても大きな施設だね」
 誘ったユリシアン・クロスタッドは対照的に、少し興奮した様子が窺える。
 ――ひとえに『下心』があるから、とも言えるが。それとは別に、マーベリィの眼鏡を外した姿を堪能したかった。
(主人とメイドが、湯浴みを共にするなんて)
 滅相もない、と丁重に断りを入れていたが――結局、押し切られてしまった。
 生真面目な彼女にとって、旦那様と混浴などあってはならないこと。
「香りは、マリィの好きなローズにしようか」
 ユリシアンも辞退を懇願するマーベリィに、無理強いしたことを気にしていた。
 せめて良い思い出になれば――と、あれこれ思考を巡らせている。
「ここの温泉には色々な効果があるそうだ。肩こりに冷え性、美肌とか」
「美肌、でございますか?」
 ようやく興味を示してくれたと、ユリシアンはニッコリと笑顔を浮かべる。
「古くなった角質を落として、スベスベの肌になれるんだよ。保湿効果もあるから、今の時期なら肌荒れにもいいだろうね」
 美肌効果について特に説明するユリシアンに、マーベリィは内心、困惑していた。
(一介のメイドに、美肌なんて不必要に思えますが)
 いまだ納得できない自分を押し込もうと、マーベリィは合理的な思考に切り替える。
(これも、ユリアン様に恥じぬメイドである為に……必要なこと)
 覚悟を決めたマーベリィは更衣室に向かうと、小さく溜め息をついて眼鏡に手をかけた。

 合流して向かった浴室に広がる、豊潤な薔薇の香り。
 真っ白い室内だというのに、深紅に染まる薔薇の園にいるのではないか、と錯覚させられる。
 湯船に浸かったマーベリィは、自身の身体を抱くようにして、身を縮こませていた。
(とても素敵な香り、温泉も気持ち良くて……私には贅沢過ぎます)
 しかも、傍らには水着姿のユリシアンがいる。
 なにかあるはずもない、頭では理解しているのだが……緊張して落ち着かない。
(い……いいのかしら、こんな、大胆な事)
 一方、ユリシアンも必死で自分を抑え込んでいた。
 目の前に居る愛しいメイドの髪は湯気でしっとり艶やかで、頬は火照り桜色に。
 恥じらいに潤む灰色の瞳は、なんと悩ましげなことか!
 ――ほんの少し、手を伸ばせば触れられる。
 恥じらうあまり身体を背ける、素顔のマーベリィに触れてしまいたい衝動と理性がせめぎ合う。
(ダメだ……何か話を)
「――こっちに、来ないかい」
 口から出た言葉に、発した本人であるユリシアン自身が目を見開いた。
 紳士の誓いを胸に自制をしようと、心に決めたのに……保てる自信も、すでにないというのに。
 それを聞いてマーベリィは、戸惑いながらと視線だけ向ける。
「マリィが寛げているのか、心配なのだよ」
(……あ)
 マーベリィは『心配』と言うユリシアンが、今日の為だけにどれほど気遣ってくれていたか思い出した。
 香りも自分の好みに合わせてくれて、温泉だって――日頃の疲れを一緒に癒そうと、誘ってくれたのだ。
(メイドである私が、旦那様にご心配をおかけしてしまうなんて)
 折角の気遣いを無下にしてしまうところだった、そう悟ったマーベリィは自分の態度を恥じた。
「……失礼、いたします」
 か細い声で断りを入れると、マーベリィはおずおずとユリシアンの傍へと少しずつ近づいていく。
 拳ひとつ分、隙間を空けて腰を下ろすと、マーベリィは膝を抱えた。
 ユリシアンも顔をほころばせ、マーベリィが寄り添ってくれた喜びを密かに噛みしめる。
「……っ!」
 不意に肩に触れられ、マーベリィの身体がビクリと強張る。
 慣れた距離感であるものの、互いに水着姿とあって、いつも以上に肌が触れ合い落ち着かない。
(ダ、ダメ……気をしっかり保たないと)
「いい香りだ……」
 ぽつり、呟くユリシアンの言葉が耳に入る。
「よ、よい香りですね……」
(香りに、酔ったかな)
 恥じらうマーベリィの頬は、先ほどよりも熱を帯びている。
 少しずつ落ち着きを取り戻していく彼女の姿を、ユリシアンは静かに見つめていた。

●寒梅は春を想う
「なにか、利用規約ってありますか? あと浴室に時計はあるでしょうか?」
 七草・シエテ・イルゴは、律儀に受付カウンターで質問していた。
 従業員は嫌な顔もせず、ニッコリと笑顔を浮かべる。
「施設内で騒いだり暴れたり、他に利用される皆様にご迷惑をおかけするような行為がなければ大丈夫ですよ。あと使ったタオルは指定の洗濯カゴに入れてお帰りくださいませ。個室のお風呂には申し訳ないですが、ゆっくり楽しんでもらう為に時計はお付けしておりません」
 閉館時間まで余裕があるので、時間を気にする必要はないと従業員は言う。
「長風呂でのぼせないよう、気を付けてくださいね。ごゆっくりお楽しみください」
 受付でタオルセットを受け取ると、先に済ませていた翡翠・フェイツィの元に向かう。
「……はぁ、時間が解らないと、いつまでも入ってしまいそうなのですが」
 眉を垂れるシエテは、長居してしまうのではないかと少し心配になる。
「俺が一緒に入るだろ。寝ても抱えて出るから安心しな」
 ニヤニヤと笑みを浮かべ冗談交じりに言う翡翠に、シエテは「もうっ」と頬を膨らませる。
「それにしても、香りのする温泉……何だかこう、趣がありますよね」
 更衣室へ向かう道中、シエテはとても楽しみだと笑みを浮かべる。
「シエはなにがいい?」
「うーん、梅の香りがいいですね」
 シエテの返答に、翡翠は指先で顎を撫ぜる。
「なるほど……松も良いなって思っていたんだけど、梅も良いね」
 そう言うなら梅の香りにしよう、と賛同する翡翠にシエテは心配そうな表情をみせる。
「良いんですか?」
「大丈夫だ、後悔なんてしてないから」
 更衣室の傍まで来ると「また後でな」と言って翡翠がその場を後にし、シエテも肩を竦めながら着替えに向かう。
 シエテは髪をフルアップにまとめ、濃紺のセパレート水着に着替えた。
 十数分後、一緒に浴室に入ると、早速かけ湯で身体を馴染ませる。
 パシャ、と湯をかけた水着の胸元には梅花が一輪。
「へぇ、筋肉痛にも効果があるのか。最近は任務やら仕事やら、身体を動かしてばかりだったしな……ゆっくり身体を休ませてもらおうか」
 膝丈の黒い競泳水着姿の翡翠は立て札を見つめながらかけ湯を済ませると、シエテと共に湯船に足を入れる。
 揺れる水面の中で、金龍のワンポイントがうねっているようにも見えた。
「すー、はぁ……梅の香りが心地いいですね」
 シエテはもうもうと上がる湯気を大きく吸い込み、混じる梅の香りを確かめる。
 ――ふと、翡翠に素朴な疑問が湧く。
「そういえば、なんで梅の香りのお風呂を選んだの?」
 なにか特別な理由でもあったのだろうかと、尋ねてみた。
「理由、ですか?」
 シエテは首を傾げたが、すぐにそれは元に戻る。
「梅を見ると、春を感じるからです」
「そうなの? 俺、春といえば桜だと思ってたから、意外な感じ」
 意表を突かれたように、両目をぱちくりさせる翡翠を見て、シエテは苦笑いを返す。
「私、梅って聞くとなぜか春のイメージがありまして……すみません、ちょっと変わってますよね」
 申し訳なさそうに肩を下げているシエテに、翡翠はムッと片眉を吊り上げる。
「そこ、謝るところじゃないだろ? ……それに梅の見頃もこれからのハズさ」
「翡翠さん……ふふ、お気遣いありがとうございます」
 フォローしてくれたことに顔を綻ばせながら、もう一度深呼吸。
「……あ、そうなるとしたら俺達、春も一足早く楽しめてるんだね」
「そうですね」
 厳しい寒さはもう少し続きそうだが、過ぎれば暖かな春の季節がやってくる。
 春告鳥が梅の木で、ホーホケキョと鳴くのも、そう遠くない日に訪れるだろう。

●甘酸っぱい密室
「その、楽しそうですし……一緒に、い、行ってみませんか……?」
 夢路 希望は林檎のように赤く染まる頬を、持っていたパンフレットで隠しながら、スノー・ラビットに温泉へ誘っていた。
 これまでずっと保留にしていた返事、誰かが入ってくる恐れのない個室と考えると……またとないチャンスだ。
「温泉……うん、行こう」
 スノーは一瞬、驚いた表情を浮かべたが、それはすぐに笑顔に変わった。
 また水着姿が見られるのも――なんて、口に出してしまったら、きっとノゾミさんは顔を赤くしてしまうから。
 心の中でひっそり期待を込める。
「よかった、スノーくんはどの香りが好きですか?」
 快諾してもらえたことにホッとした希望は、パンフレットを開いてスノーに見せた。
「うーん……じゃあ、オレンジ、かな」
 果物の香りが好きだと語るスノーに、希望も「……あ」と小さく声をもらす。
「私も果物の香り、好きなんです」
(楽しみ、ですね)
 ドキドキと、期待と緊張で希望の胸は高鳴っていた。

 当日、希望は一念発起して大胆な真っ赤な水着『レッドセパ』とフリルスカートを用意していた。
(ちょっと……派手、だったかな)
 髪が濡れないように結いながら、鏡に映る自身の姿を見る度に、希望はつい視線を逸らしてしまう。
 いそいそと支度を済ませ、更衣室を後にすると、スノーはすでに支度を終えて待っていた。
 夕日に染まるゴールドビーチをイメージした水着で、金色に輝く海辺の柄が美しい。
「あ、ノゾミさ――」
 慌てて希望が駆け寄ると、スノーは間髪入れず背中を押してきた。
「行こっか」
「え、は、はい」
 驚いている間にそそくさと押されて行き、目的の家族風呂に到着。
 すでに件の入浴剤も入れてもらっていたらしく、ふわりと甘酸っぱいオレンジの香りが迎え入れてくれた。
(……個室の家族風呂、とは聞いていましたが)
 正方形の湯船に、真っ白な内装、僅かに視界を曇らせる温泉の湯煙――普通の密室ともまた違う空間に、希望の緊張が少しずつ高まる。
「家族風呂ってこんな感じなんだね」
 実は初めてだったスノーは、ウサギ耳をぴょこりと揺らしながら、静かに瞳を輝かせている。
 希望とスノーは一緒にかけ湯を済ませると、オレンジの果汁で満ちたように香りを放つ温泉へそっと身を沈める。
「年末に行ったルミノックスでも二人きりではあったけど……」
 なんだかドキドキしちゃうね?
 そう言って視線を向けるスノーに、希望も恥じらいまじりにおずおずと顔を上げる。
(こころなしか、スノーくんが近いような……)
 ルミノックスに比べると、個室の家族風呂は手狭で密室だと意識させられる。
 チラ、とスノーの瞳に目を向けると、所在なさげに右往左往している様に見えた。
「……水着、変、でした?」
 もしや、と思い口に出してみる。
 先ほども様子が変だったことを考えると、心当たりは限られる。
 今日は勇気を出して着てみたものの、スノーに引かれてしまっては本末転倒。
 ――しかし、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「ううん、似合いすぎてて……僕の前以外では着てほしくないな、って」
 よく見ると、スノーの頬も赤みを帯びていて。
 それが風呂の熱気だけのものではなかったのだろうと、すぐに解った。
「あ、ありがとう」
 杞憂だと理解すると共に、希望は茹でタコのように顔を真っ赤にした。
「あ」
 スノーの手が真っ赤に染まる希望の頬に触れ、体が強ばる。
「綺麗に治ってる」
「あ、傷跡ですか?」
 僅かに残っていた刃の跡が消えていたことに、スノーがホッと小さく息を吐く。
「スノーくん効果ですよ」
 おかげで綺麗に治った、と希望は微笑を浮かべる。
(――今なら、言えるかも)
 触れるスノーの手に手を重ねると、不意に体を傾け、とんと腕にもたれ掛かられる。
「気持ちいい、ですね」
 酸味の効いた芳香が気持ちを落ち着けるからか、希望の穏やかな声色が響く。
「っ、うん……凄く、いい気持ち」
 珍しく緊張しているのか、スノーは上ずった声を返した。
 希望が目線をあげる。
「あの――」
 目の前にはスノーの笑顔、視線が交わると僅かに強張っていた表情が和らいだ。
 笑顔で見つめられ、ドキドキと高鳴る鼓動が言葉を詰まらせる。
「……あり、がとう」
 詰まらせた言葉の代わりに、今日の感謝を。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 越智さゆり  )


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月23日
出発日 01月28日 00:00
予定納品日 02月07日

参加者

会議室


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