【糖華】これは甘いツンデレですか?(森静流 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 あなたは寝る前にカレンダーを見て、ふと、バレンタインまで一ヶ月足らずだと気がつきました。
 ひょっとしたらデパートなどではそろそろ催事場を作り始めたりしているかもしれませんね。
(ああ、あいつがまたうるさそうだな……)
 ウィンクルムの相方の顔をふと思い出して、あなたは苦笑してしまいます。
 まだそんな関係とはっきりしている訳でもないのに、相方はあなたに独占欲を感じているのか、毎年のようにチョコレートを欲しがったり、何かと特別扱いして欲しがるのです。
(バレンタインに友チョコでもチョコやらないとか言ったら、なんだか面倒くさい事になりそうだな……どうしようかな)
 あなたはしばらく考え込みましたが、眠気には勝てず、結局ベッドの中に入ってしまいました。

 その夜、あなたは夢を見ました。
 夢の中で、あなたはどういう訳か、透明な羽を持つお姫様で、同じく透明な羽を持つ相方とダンスを踊っていました。
 どこか見知らぬ城のダンスパーティのようです。
 夢の中であなたは不思議に思いましたが、流れには逆らわず、一通りダンスを踊った後相方とともにバルコニーに出ます。
 相方はあなたの手をうやうやしく取って、まばゆい指輪をあなたの手にはめてこう言います。
「あなたの本心を教えてください」
 あなたは、にっこりとほほえんで、どこからともなく大きなハート型のチョコレートを取り出して、彼に手渡します。
 彼は感激して、そのチョコレートを抱き締めました。
 あなたは彼に本心を言おうとします。本当に心の中ではどう思っているのか……。
 しかし口が動かず、勝手に出てきた言葉は
「お前なんか大嫌い」
 !?


 そこで目が覚めてしまい、あなたは夢の中の動揺を引きずりながらベッドから跳ね起きました。
 ばくばくする心臓を押さえながらあたりを見回すと、寝る前と変わらない自分の寝室です。
 いえ、冷静に見ると、一つだけ違う事があります。
 あなたの机の上に、一口大のハート型のチョコレートが転がっていて、その脇に小さなメッセージカードがあり、「本音で語り合える薬」と子供のような字で書いてあるのでした。
 一体何事かと思ったあなたですが、その一口大のハート型チョコレートを手に取り、ふと思いついた事を実行してみることにしました……。
 そのとき、部屋のどこからかくすくすと妖精の忍び笑いが聞こえましたが、あなたは気にする事はありませんでした。

解説

「本音で語り合える薬」の正体は、「思っている事と正反対の事を言ってしまう薬」です。
 例えば、あなたが相方に告白で「大好きです」と言おうとすると「大嫌いです」と、正に正反対の事を言ってしまいます。
 赤いものは青と言うし、好きな食べ物と嫌いな食べ物は逆になります。
 しかしあなたは、何でも「本当の事を言う薬」だと思っています。
 効果はチョコレートを食べた後、五分以内。
 このチョコレートを、あなた自身が食べるか、ウィンクルムに食べさせるかのプランを募集します。
 そこで正反対の事を言ってしまった後、どんなリアクションが来るかまで書いて下さい。

 ちなみにチョコレートは不審がられないように似たようなサイズの市販のチョコレートと一緒にラッピングし、コーヒーも添えて相方とのお茶を演出しながら食べる事にします。そのため300jrかかりました。

ゲームマスターより

うっかり本音がバレてしまう薬品や魔法……は溢れていますが、そこで正反対の事を言ってしまうというのはどうだろう!? と思いついて書きました。皆さん甘いバレンタインデーを過ごせますように。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆神人がチョコを食べる
フォンダンショコラできたー!
冷めないうちに食べてもらおうっと
喜んでくれるといいな♪(スキル:料理、菓子・スイーツ使用)

(チョコを見つけ)わ、可愛いー!
本音で語り合えるなんて凄い!
いつもは照れくさくて言えない事を彼に伝えられるといいな

☆精霊とティータイム
(精霊の顔を幸せそうに見つめながら)エミリオっていつも私の料理を不味そうに食べるよね
そんなに嫌いならもう食べなくていいのに
とても意地悪だし、ちっとも私のことかまってくれない
こんなに冷たい人だって私知らなかった!
エミリオなんて嫌い、大嫌いだよ!

☆5分経過
ごめんね、ごめんなさい・・・!
本当は好きなの、大好きなの!(泣きじゃくる)


リゼット(アンリ)
  はいチョコレート
バレンタインだから…あげる

マズいですって!?
今回は買ってきたチョコなのよ?

なによ…そこまで言わなくたって…
なら言わせてもらいますけどね
いつも子供扱いばっかりしないで!
私もう子供じゃないんだから
あんたのほうがよっぽど子供だわ
他の女の子とごはんにうつつを抜かしてばっかり!
私の事ほったらかしにするんじゃないわよ!

もう…なんなの、なんなのよ…このバカ犬!
(目を潤ませ包みを精霊に投げつけ

(チョコの正体を説明され
気づいてたの?
本音が聞けるチョコだっていうから…
あんたのことその…信用してる、けど
我慢させてること、あるんじゃないかって
ご…ごめんなさい!

また子供扱い!やっぱりバカ!ほんとバカ!


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  本音を言える薬ですか
…普段ディエゴさんをからかってばかりで、彼への感謝や尊敬の気持ちをはっきりと言葉にできなかったので良い機会です
照れ臭い気持ちはありますが、改めて私の気持ちを言いましょう。

あの、ディエゴさん
私、貴方の事大嫌いです
あれ!?本当の事です!?
そうなんです!心から貴方の事軽蔑してます!!
速く!私から離れてくれませんか!?

(効果終了)
ど、どうしましょう
怒るかと思ったんですが、幽霊みたいな足取りで出ていっちゃいました
重く受け止められた…!?
…確か彼は嫌なことがあるとAROAの屋上に行く筈
こんな薬に頼らず、薬の効果を含めて勇気を出して本当の事を言います。

ごめんなさいディエゴさん…





八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  告白されてからもうすぐ一年
いい加減、はっきり答えなきゃ

自宅でコーヒーブレイク、チョコとカードを見せる
嘘で答えるつもりはない、との証明のためチョコは自分の口に
「私はアスカ君を家族だなんて思ったことはない。だから恋人になって」
!?
両手で口を押えて首を横に振る
慌てて弁明しようとする
違うの、アスカ君のことは好きだけどそれは家族として、と言おうとして
「アスカ君なんて嫌い」
まずい…混乱してるみたい
私が冷静にならなきゃ

落ち着こうとブラックコーヒーを飲む
「…甘い」
本音で語り合える薬が嘘だと気づく

申し訳なく思ってたけど
振られたのに前向きというか何というか…
でも「そういう所は嫌いじゃない」
あ、効果が切れたみたい


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  「本音で語り合える薬」…告白し合ったとはいえ…何度でも確認したくなるのが乙女心
でも、好きと自ら言うのは…凄く凄く勇気が居るんです
なので…こっそり薬に頼ろうと思いました

羽純くんを自宅に呼んで、チョコレートとコーヒーを出して
薬は私がぱくっと
けど、いざとなると怖い
えっと…話が…(やっぱり言えない、止めよう)
あるの(え?何で?)
(これって…私の本心は言いたいって事なのかな?よし、思い切って言おう)
私…羽純くんの事が…大嫌い(どうしてー!?)
ち、違わないの!(違うの!)
私は羽純くんが…嫌いなの!(反対の事ばかり!泣きたい)
羽純くんの腕の中、嬉しくて声に詰まり
暫く(五分)そのまま…
大好き
本当の言葉がやっと


八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)編

 その日、妖精からもらったチョコレートを手に、八神伊万里はある決意を固めました。目的は精霊のアスカ・ベルウィレッジへの意志表示です。
 伊万里は茶色の髪に緑色の瞳の可愛い女子高生です。学校ではクラス委員長であると同時に、家に帰れば両親の経営している探偵事務所の経理も預かっています。多忙ですが何事にも真剣に全力投球している素敵な少女です。
(告白されてからもうすぐ一年。いい加減、はっきり答えなきゃ)
 伊万里の精霊のテイルス、アスカは、現在では既に八神家で『婿殿』の扱いを受けています。ですが伊万里は彼に恋心を抱いていないと思っているので、気持ちをはっきり表示する必要があります。
 それで、伊万里は、チョコレートとコーヒーを用意した後、アスカを呼びました。
 今日は伊万里はインナーに星空の奇蹟『恋』という浴衣を着ていて、頭には微風の簪という髪飾りをつけています。月見団子の扇子も携えて、全体的に和風の出で立ちです。それでも足下は秘められし肉球というソックス。肉球フェチにはたまらない姿です。
「アスカ君、チョコがあるわよ。一緒に食べましょう!」
 伊万里は自宅でコーヒーブレイクを取り、本音を話し合うつもりです。そのときにカードも見せました。
「本音で語り合える薬なんですって」
 今朝の不思議な夢との繋がりも説明しようか、伊万里は迷いました。知って欲しい気持ちもありましたが、ひょっとして信じてもらえないかもしれないと思い、今は黙っておく事にしました。
「一緒にチョコか……」
 アスカは誘われて素直に寄っていきます。
 アスカの方はノルディックセーターに伯爵ボトムス。足下はストゥズタイツでかなり暖かい格好です。扇子は「サロン・ド・ブラード」を持ち、和風の伊万里に対して西洋の上流階級のような雰囲気です。
(いい機会だし今日は改めて気持ちを伝えておこう)
 一年前に告白して、その後待たされている格好ですが、今でも気持ちは変わりません。それどころかますます好きになっているかもしれません。
 クラスでは委員長を頑張りながら、実家でも経理の仕事に手を抜かない伊万里。何事にも真剣で一生懸命な姿を尊敬もするし愛しています。伊万里の事が好きなので、いつまでも家族から『婿殿』と思われるだけではなく、彼女にも恋人として認めてもらいたいのです。
 そのためには押せる時に押していきましょう。
 伊万里がコーヒーを入れてくれたのですが、アスカは気合いを入れるためにブラックを頼みました。伊万里は自分の分もブラックコーヒーを入れました。
 一口飲んだ後、真剣な面持ちで伊万里に切り出します。
「伊万里、ちょっといい?」
「なあに、アスカ君」
 伊万里はアスカの赤い瞳がいつになく強い光できらめているのを見ました。
「告白して一年経ったけど、やっぱり伊万里が好きだ。いや、前より好きになってる。伊万里も同じ気持ちになってくれたら嬉しい……。やっぱり、家族としてしか見れない?」
 伊万里は、アスカの真剣な様子に打たれました。
 それならば、自分も真剣に応えるべきです。
 嘘で応えるつもりはない。
 その証明のために、伊万里は思い切ってチョコレートを口に入れました。
 それから自分の本当の想いを言葉にします。
「私はアスカ君を家族だなんて思ったことはない。だから恋人になって」
 !?
 口から出てきた自分の言葉に、伊万里は青くなって動揺します。
 そんなことを言うつもりはなかったのに。伊万里にとってはアスカは大事な家族で、恋愛対象ではないのです。それなのに、口からついて来たのは全然違う言葉で。
「え? 恋人!? マジで!?」
 反対に顔を輝かせるアスカ。ついに伊万里に認めてもらえたのだと感激しています。
「じゃあ俺のこと、好き…!?」
 伊万里は両手で口を塞ぎ、首を振ります。
 大慌てで弁明しようとしますが焦っています。
(違うの、アスカ君のことは好きだけどそれは家族として)……
 そう言おうとしたはずが
「アスカ君なんて嫌い」
「……嫌い!?」
 突然の言葉に、アスカは軽くパニックに陥ります。
 先程は家族じゃなくて恋人だと言ったのに、今は嫌いと言うのです。
 乙女心と秋の空と言いますが、いくらなんでも展開が早すぎです。訳が分かりません。
「どうなってるんだ!?」
 目を白黒してあたふたと伊万里を見ているアスカ。
 それを見て伊万里は深呼吸を繰り返しました。自分が訳の分からない事を言っているのは分かっています。何とかしなければ。
(まずい……混乱してるみたい。私が冷静にならなきゃ)
 伊万里は落ち着こうと思い、ブラックコーヒーを一口飲みました。
 苦い大人の味が口いっぱいに広がります。
 そこで思わず出てきた呟きが
「……甘い」
 ブラックコーヒーは苦いはずなのに、口が勝手に甘いと言ってしまったのです。
(これ、本音で語り合う薬じゃないわ。思った事を逆に言ってしまう薬だ!)
 伊万里はその事に気がつきました。
 そういえば夢の中でも、自分は、全くそんなつもりはなかったのに、アスカに嫌いだと言ってしまっていました。
 これは夢を見せた何者かのトリックなのでしょう。
 甘くおいしいチョコレートに見せかけてとんだ悪戯者もいたものです。伊万里は驚き呆れてしまいます。
 伊万里がブラックコーヒーを甘いと言ったので、アスカも首を傾げています。
(思った事と逆! 逆の事を言う薬を飲んじゃったの!)
 伊万里はぶんぶんと首を振り、それから目で必死にアスカに状態を訴えました。口で何か言えば正反対の事を言ってしまうのですから。
 伊万里の目を見て、アスカは彼女の考えを読み取ります。
 ウィンクルムの特別な繋がりか、それとも、アスカの伊万里への想いからか、彼は状況を判断しつつ、伊万里の本当に言いたいことに気がつきました。
「え? それじゃ……」
 アスカは大きく息をつきました。
「様子がおかしいと思ったら、思ったことと反対のことを言ってるのか」
 アスカはなんだかおかしくなってきて笑い出しました。こんなことでもなければ、伊万里に嫌いだなんて言われる機会もないだろうと思ったのです。
「よかった、嫌われたわけじゃないんだな。恋愛感情も持ってないみたいだけど……。でも諦めるわけないだろ。今は駄目でも、いつか本心から恋人になりたいって言わせてやるからな」
 いきなり暴言を吐いてしまい、申し訳なく思っていた伊万里ですが、アスカが笑いながらそんな事を言うので拍子抜けしてしまいます。
(振られたのに前向きというか、なんと言うか……)
 全然落ち込まずに優しい目で伊万里を見ているアスカに、思わず微笑んでしまいます。
「そういうところは嫌いじゃない」
 そのとき、思った事をすんなりと言うことが出来ました。
「……あ、効果が切れたみたい」
 伊万里はそう言ってアスカの方を見ました。
 二人は顔を見合わせて、吹き出して笑い出しました。思った事と正反対の事を言って、二人ともびっくりしてしまったけれど、それでもアスカはめげないし、例え振られても前向きなんです。伊万里もそんなアスカを嫌いではないのです。その意志が通じ合った事に笑ってしまったのでした。
 どんなトラブルも二人で乗り越えられるのが、ウィンクルムの本当の繋がりなのかもしれませんね。仲がよくて何よりです。

桜倉 歌菜(月成 羽純)編

 その朝、目覚めると、桜倉歌菜の枕元には夢で見たチョコレートのミニマム版がありました。歌菜はそれを見て、あることを思いつきました。
(「本音で語り合える薬」…告白し合ったとはいえ…何度でも確認したくなるのが乙女心。でも自分から好きというのは……凄く凄く勇気がいる……!)
 この際、薬の力に頼ってしまおう! 歌菜はそう思いました。
 しばらくして、歌菜の精霊の月成羽純は歌菜に呼ばれて彼女の家を訪れました。歌菜からおいしいチョコレートが手に入ったのでと誘われたのです。
(部屋に入るのは…何度でもやはり少し緊張するな)
 歌菜の部屋に入ると女の子独特の匂いがします。
 その日の羽純はインナーにナイトメアブラウスを着ていて、ボトムスはイリュージョンボトムを合わせています。貴族的な純白のブラウスにスキニーパンツは、彼の儚げな容貌によく似合っています。バレンタインが近いので、ヘッドアクセにストロベリーチョコレイト、ネックレスにメロウメロウ・キッス。全体的に甘いイメージです。
(女の子という雰囲気の部屋…優しい空気を感じるのは、ここが歌菜の部屋だからだろう)
 羽純が部屋で待っていると、歌菜がお盆にチョコレートと飲み物を用意してやってきました。
 歌菜の方は、インナーはスウィーテスト・バー。甘いバナナチョコレートをイメージしたカーディガンです。それにボトムスにチョコソースチェックを合わせて、ほろとけソックスを履いています。全体的にチョコレート! なファッションです。髪飾りもストロベリーチョコレイト、イヤリングはイチゴに二種類のチョコレートをかけたスウィート・サワー。
 バレンタインで盛り上がっている事が分かる格好です。その彼女がチョコレートを持ってきました。
「はいっ! 羽純くん、食べて!」
「ああ、ありがとう」
 羽純は歌菜の勧めるチョコレートを一つつまんで食べました。
「チョコレート美味いな」
 ほどよい甘さに顔をほころばせていると、歌菜の方も思い切った仕草でチョコをパクッ。
 薬を食べて、羽純に好きというつもりです。
 羽純に、どれぐらい彼の事が好きか分かってもらいたいのです。
「えっと……話が……」
「俺に話ってなんだ?」
 羽純は歌菜が緊張して赤くなっているのを見ておもむろに彼女のすぐ前に座ります。
 歌菜はそれで一挙に心臓が高鳴るのが分かりました。破裂しそうなぐらい心臓がドキドキいっています。もう既に思いを伝え合っているし、指輪だって受け取っているのに、それでも、自分の口から彼に好きと言うのは勇気がいります。
 知って欲しい、分かって欲しいと思うのに、なかなか言えない--。
 それが、乙女心なのです。
(やっぱり言えない、止めよう……!)
 本当に好きなんだけれど、だからこそ、口には出せない……。
 そのまま歌菜は口を閉じようとしました。
「あるの」
 ところが口の方が勝手にそう言ってしまいました。
(え? 何で?)
 自分で自分にびっくりして目を大きく瞬きます。
 目の前では羽純がきょとんとして歌菜の事を見ています。
 歌菜が一人で驚いている表情をしているからでしょう。
 歌菜は羽純の事よりも、自分が思った事と違う事を言ったことについて考え込みました。
(これって…私の本心は言いたいって事なのかな? よし、思い切って言おう)
 歌菜は自分で自分を勇気づけます。本当は自分の気持ちを伝えたいと思って、羽純をわざわざ自分の部屋に呼んだんですから。女は度胸。自分の思いを伝えるのみ。
 歌菜は思い切って顔を上げ、羽純に真正面から向かいます。
「私……羽純くんの事が……大嫌い」
 ところが出てくるのはそんなセリフ。
(どうしてー!?)
 パニック。
 それから、歌菜は大慌てで言葉を否定しようとします。ところがまたもや口から出てくるのは信じられないセリフ。
「ち、違わないの!」
(違うの!)
 歌菜はあたふたしながら呆然としている羽純の事を見つめ、必死に自分の本当の想いを告げようとします。
 羽純の方は思考停止している様子です。全くの無表情になって固まってしまっています。
 歌菜は固まっている羽純に触ろうと手を伸ばし、その手を止め、パタパタと体の前で左右に振り、それから、自分の口を両手で塞ごうとします。凄く挙動不審です。でも本人は、必死です。
「私は羽純くんが……嫌いなの!」
 必死の面持ちで歌菜はそう言い切ってしまいました。
(反対の事ばかり! 泣きたい)
 泣きたいどころか、実際に歌菜の目からぼろぼろと涙がこぼれてきます。
 本当は大好きな人なのに、自分は何でこんな事を言っているのでしょうか。辛くて、もどかしくて、なりません。
 本当の想いを伝えて、そうしたらきっと羽純も「好きだよ」と言ってくれて、甘いチョコレートを食べながら、楽しい時間を過ごすはずだったのに。朝からそのつもりで、ずっとわくわくしていたのに。
 何でこんなことになってしまったのか、歌菜には分かりません。
 自分の口から羽純に対して嫌いと言ってしまったことがあまりにショックで、歌菜は手をパタパタしながら泣き続けます。
 放心していた羽純ですが、歌菜が泣き顔になって慌てふためいているのを見て、次第に正気に返りました。
(これは……逆だ)
 羽純は、歌菜が何故慌てているのか、何を言いたいのか、悟る事が出来ました。
 自惚れかもしれませんが(自惚れではないのですが)、羽純は歌菜には嫌われる事がないという確信があります。何故か、歌菜は自分の真剣な気持ちと逆の事を言わなければならなくなっていて、それが辛くて泣いているのでしょう。
 羽純は無言で歌菜を強く抱き締めました。
 嗚咽を上げていた歌菜ですが、びっくりして声を止めました。
 固まっている歌菜の頭をぽんぽんと叩き、羽純は安心させるように背中を撫でました。大丈夫だ、全部分かっているから--というように。
 歌菜は次第に落ち着きを取り戻し、羽純の広い胸に顔を埋めました。すっかり泣き止んだ頃には五分ほど時間が経過していました。
 羽純の腕に包まれながら、歌菜は泣き止んで落ち着いた声でこう言いました。
「大好き」
 本当の事がやっと言えました。
 羽純はほっと一息をついて、歌菜をそっと自分の体から起こしました。
「俺も好きだ」
 本当の笑顔を見せて羽純もそう告げます。
 歌菜は幸せな気持ちを取り戻して、それから自分にふりかかった災難の事を思い、昨夜見た不思議な夢から話し始めました。
「……そういうことで、起きたらチョコレートがあったの。それで、羽純くんに私の本当の気持ちを伝えたくて……」
「……そうか」
 羽純はトラブルの元になったチョコレートを一口食べ、歌菜の口にも放り込みました。
「そのチョコレートは誰かの悪戯だな。思った事と正反対の事を言わせる魔法がかかっていたんだろう。歌菜はからかわれたんだ」
「ええっ! そうだったのっ!?」
 歌菜は仰天して目をまんまるにしました。ですが、本当に、思った事と逆の事を言っていたのです。
「歌菜はからかうと面白いからな。なんだか気持ちが分かる」
 羽純はそんな意地悪を言います。
「そんなあ……」
 しょげてしまう歌菜。
「馬鹿。からかうと面白いのは、可愛いからだよ」
 甘い笑顔で羽純はそう言いました。それから、本人には絶対言えない事を思いました。
(俺の事が好き過ぎて泣いている歌菜、可愛かったな。いつも元気な歌菜が泣いているところなんて、滅多に見られない。歌菜には言えないけれど、ちょっと得した気分。歌菜に嫌いなんて言われたのはショックだけれど、本当は好きって言いたかったんだよな。薬を飲んでまで、俺に好きって言いたかったんだよな……)
 歌菜も可愛いと言われて悪い気はしません。二人は幸せな気持ちで微笑みをかわしあいました。結局はラブラブなウィンクルムです。

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)編

 朝、起きるとハロルドは「本音を語れる薬」を手に入れていました。
(本音を言える薬ですか)
 それでハロルドがまず思い出したのは精霊のディエゴ・ルナ・クィンテロの事でした。
(……普段ディエゴさんをからかってばかりで、彼への感謝や尊敬の気持ちをはっきりと言葉にできなかったので良い機会です。照れ臭い気持ちはありますが、改めて私の気持ちを言いましょう)
 そういう訳で、ハロルドは思い切って薬のチョコレートを口に放り込みました。
 それからリビングでくつろいでいるディエゴの元に行きました。
 リビングではディエゴが読書をしていました。その日のディエゴはアウターに神衣「タラサアミール」を着て、ボトムスに飛翔・朱雀演舞を着けていました。ブレスレットに紅梅白梅。指に梅運ブ蛇ノ指輪。全体的に和風、オリエンタルなコーディネイトです。
 そこに改まった表情のハロルドが近づいていきます。ハロルドの方は振袖「花吹雪」を着てボトムスに馬の馬乗り袴。元々騎手だったからぴったりですね。ソックスは新春祝足袋、インナーも【半襦袢】手長猿で油断なく和風です。アウターは【カーディガン】南天の駿馬です。
「ディエゴさん--」
 ハロルドは真面目な顔で切り出しました。ディエゴはその表情を見て真顔になりました。
「どうした? 何か相談事か?」
 彼はいつだってハロルドの事なら真剣になってくれるのです。心配してくれているのです。
 そこでハロルドはより、はっきりと迅速に自分の感謝や尊敬や愛情を告げなければならないと思いました。きっぱりと口を開いて、勢いこんで想いを告げます。
「あの、ディエゴさん。私、貴方の事大嫌いです。あれ!? 本当の事です!? そうなんです! 心から貴方の事軽蔑してます!! 速く! 私から離れてくれませんか!?」
「えっ……」
 いきなりそんなことを言われたディエゴは、一瞬にして、真っ白な無表情になってしまいます。
 ハロルドの方も、何で自分がそんなことを言ったのか分かりません。自分で自分の言ったことにびっくりして固まってしまいました。
「……………………」
「……………………」
 両者、真っ白になって見つめ合う事数秒。
「……少し外に出る」
 ディエゴは本を置いて、そのまま何も言わずにハロルドの前から立ち去ってしまいました。
 ハロルドはディエゴがいなくなったところで正気に返りました。
(私は思っていた事とまるっきり反対、正に正反対の事を口走っていました。あのチョコレートは、誰かの悪戯で、考えている事と正反対の事を言う薬……? それをディエゴさんに言ってしまいました……!)
 元々は直観力の高いハロルドは自分でそのことに気がつきました。それから素早く思考をめぐらします。
(ど、どうしましょう。怒るかと思ったんですが、幽霊みたいな足取りで出ていっちゃいました。重く受け止められた……!? ……確か彼は嫌なことがあるとA.R.O.A.の屋上に行く筈。こんな薬に頼らず、薬の効果を含めて勇気を出して本当の事を言います!)
 慌てながらも、ハロルドはディエゴの事を追いかける事にしました。本当の事を自分から言わなければ、ディエゴと自分の絆が大変な事になってしまいます。ハロルドはなんとしてもディエゴとの絆を守るつもりでした。
 一方、ディエゴは、
(……いつもの所に行こう)
 ハロルドの読み通りにA.R.O.A.の屋上に向かっていました。
 貧血を起こしているように足下がおぼつきません。
 それを心配して声をかけている職員もいましたが、ほとんど耳に届いていませんでした。そのため、幽鬼のような状態で職員も無視してふらふらと屋上に上っていきました。
 屋上に上ると、隅の方に寄っていって、柵に両腕をかけて放心。それからぼんやりと考え込みます。今にも身投げしそうな人の表情になっています。
(何故あんなことを言われたのか……思い返してみれば、当然の事かもしれない……あいつには愛情表現ができているかと問われれば自信がないし……仕事ばかりで、ろくに守ってやれなくて……)
 惚けた表情で、彼は自分とハロルドの今までの事を振り返りました。
 脳裏を過ぎるのは、失敗した時の事……ハロルドと喧嘩した時の事……そんなことばかりです。こういう時に限って、楽しかった時の事は何も思い出せません。
「ディエゴさん!!」
 そこに、息せき切ってハロルドが追いつきました。屋上の戸口を開けた途端に、ディエゴに向かって叫びます。
「ディエゴさん!! 聞いてください!! 本当の事を言いますから!!」
「……ハル……? いや、もう……どうとでもなれ……」
 さっきのがハロルドの本音だと思っているディエゴでしたが、もう抵抗する気力もなく、彼女の言うことを聞く事にしました。逃げる事も出来ませんでした。
 ハロルドは、ディエゴの側に駆け寄ってきて、胸の前で手を組み、これ以上無く真剣な表情でゆっくりと語り始めました。
「ディエゴさん。私は今朝、”本音を言う薬”と書いたチョコレートを手に入れて、それをさっき食べたんです。私が日頃、どれだけディエゴさんに感謝して、尊敬しているか言おうと思って……。本音を言うなんて勇気がいりますから。でも、口から出てくるのは全て逆の事でした。あんな事思ってないんです。本音を言う薬の正体は、思った事と逆の事を言う薬だったんです。あれは、全て、私の本音の逆の事、正反対の事なんです……」
 いつも無口なハロルドが、ここまで一気に言いました。
 ぽかんとしていたディエゴでしたが、徐々にその表情に生気が戻って来ました。ハロルドの言った言葉が脳に浸透していったのです。
 あれは、何もかもが、逆の意味。
 大嫌いは、大好きということ。
 軽蔑は、尊敬。
 離れていては、側にいて欲しい。
 そういう意味だったのです。
 正反対だからこそ、よりわかりやすく伝わりました。
「ごめんなさい、ディエゴさん……」
 薬のせいとは言え、とんでもない事を言ってしまったと、ハロルドは反省しています。悔やむ表情で謝りました。
「……そうか。明らかに様子がおかしかったし、気にしてないけどな」
 ディエゴはクールを装ってそう言いました。種明かしをされて謝罪を聞いたら、もう安心出来ます。
 気にしてないと言いつつ、安堵の表情がもろに出ています。
 滅多に喋らないハロルドは、珍しく沢山喋って、少し疲れています。普段言えない本音を言った事や、その前に本音と逆を叫んだ事で、疲労感を見せながら、じっとディエゴを見上げました。
(……本当に?)
 目がそう聞いています。
「……嘘だ。俺はお前に嫌いだと言われたら、どうしたら良いかさっぱりわからない」
 男の照れを見せながら、ディエゴは素直にそう応えました。
 そのディエゴの表情を見て、ハロルドはくすりと笑いました。彼も自分も大人で、素直ではないところがあります。だからこそ、素直な気持ちを伝えたいと思ったのです。とんでもない回り道をしてしまったけれど、今はちゃんと、本音を言い合えて、本当によかったと思っています。
(私も無口で、その上ディエゴさんの事をからかってばかりで、本当の気持ちなんてなかなか言えないけれど……だからこそ、本音を伝える事を大切にしていきましょう。薬になんて頼らずに、ディエゴさんの事を好きなら好きと自分で言う事にしましょう……)
 それが本当に、大切な事なのです。

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)編

 毎年、バレンタインになると、ミサ・フルールは精霊のエミリオ・シュトルツのためにチョコレートを作ります。
(ミサはお菓子作りが得意な子だから毎年楽しみにしているんだよね。例え得意でなくともミサが作ってくれたものなら何だって嬉しいけど。今年はどんなものをくれるのかな)
 甘い物が大好きなエミリオは、ミサが今年は何を作ってくれるのかと本当に期待しています。
 ミサはエミリオの気持ちを知ってか知らずか、キッチンで奮闘を続け、今年も美味しいチョコレートケーキを作り上げました。パティシエを目指すミサはケーキ作りもかなりの腕前です。
「フォンダンショコラできたー! 冷めないうちに食べてもらおうっと。喜んでくれるといいな♪」
 ケーキがうまく完成出来て、ミサは上機嫌です。
 これからエミリオを呼んで楽しいティータイムにするつもりです。その前に、ミサは自室に戻って着替える事にしました。ケーキ作りの最中は、汚れてもいい服を着ていたのです。
 ミサはプリマヴェーラエプロンドレスにフェアリーテールスカートを合わせ、ソックスはフローラルステップを履きました。いかにも普段ウェイトレスをしている料理作りが得意そうな可愛い女の子と言った雰囲気です。ヘッドアクセは髪飾り「月光蝶」でロマンチックに、ネックレスはスノーホワイトで冬の雰囲気も出します。
 着替えをしていて、ミサは、ベッドのサイドテーブルに小さなチョコレートが置いてある事に気がつきました。子供が書いたようなメモもついています。
「わ、可愛いー! 本音で語り合えるなんて凄い! いつもは照れくさくて言えない事を彼に伝えられるといいな」
 天真爛漫なミサは、素直にそのチョコレートが本音で語り合える薬だと信じ込んでしまいました。
 エミリオの事をどんなに大好きで信頼しているかという事は、気持ちだけはどんなに言っても言い足りないほどあるけれど、実際に口に出した事はありません。
 今日はせっかくのバレンタイン。これを機会に、薬の力を借りて、本当の気持ちを彼に告げてみよう。ミサはそう決めたのでした。
 さあ、エミリオとの楽しいティータイムです。
 上手に出来たフォンダンショコラをあたたかいうちに持ってきて、コーヒーも入れて。
 エミリオは嬉しげに顔をほころばせます。
 今日のエミリオは狐神御服「黒衣大和」を着て「シルバーウルフ」を履いています。着物をガウンのかわりにしているような着方をしてボトムスを見せています。着物の黒は彼の黒髪によく合っていました。ソックスはミサと同じフローラルステップ。また、護りの詩「ユーカラ」もミサとおそろいです。
 ヘッドアクセにクリスタルコサージュ「アクエリア」、ネックレスは「人魚姫」で甘いのにクールなコーディネートになっています。
 エミリオはミサの作ったケーキを食べて言いました。
「ハートの形をしたフォンダンショコラか、とても美味しそうだね、いただきます。……うん、凄く美味しいよ。苦めのコーヒーもチョコによくあうね」
 ケーキを心から褒めてくれるエミリオに、感謝の気持ちと愛しさがわき起こります。
 何しろ彼に喜んでもらうためだけに、朝から準備をして一生懸命作ったものなのですから。やはり、料理は「おいしいよ」と食べてもらうところまでが料理なのです。エミリオの褒めてもらう事を考えたのなら、これからどんどん料理のスキルがアップしていきそうでした。美味しそうに食べてもらえてありがとう。大好き。
 その気持ちを素直に告げたいと思い、ミサはチョコレートを口に放り込みました。
 エミリオの顔を幸せそうに見つめながら
「エミリオっていつも私の料理を不味そうに食べるよね。そんなに嫌いならもう食べなくていいのに。とても意地悪だし、ちっとも私のことかまってくれない。こんなに冷たい人だって私知らなかった! エミリオなんて嫌い、大嫌いだよ!」
「……ミサ?」
 その言葉を言いながら、幸せそうだったミサの顔はたちまち歪み、涙顔になっていきます。
 泣きながら酷い事を言い続けるミサの様子を、エミリオは愛しそうに見つめ続けました。
 ミサは慌ててなんとか口を止めようとしますが、自分の思っている事と正反対の酷い言葉が次々放たれて止まりません。止めよう、止めよう、と思えば思うほど、過激で辛辣な言葉がほとばしります。そのため、ミサは目から涙をぼろぼろとこぼし、顔を歪ませ、喉から焼けるような嗚咽を上げました。
 それから五分が経ち、チョコレートの効果が切れました。
「ごめんね、ごめんなさい……! 本当は好きなの、大好きなの!」
 ミサは何で自分がこんな酷い事をしてしまったのか分かりません。ほんの五分前まで、エミリオとともに本当に幸せだったのに。
 特別な相手には独占欲の強いエミリオは、そのぶん、ミサに対しては甘く優しい精霊です。いつもミサの側にいてくれて、見守ってくれる存在です。ミサのためなら本当に暖かく包み込んでくれるような愛情を見せてくれるのです。
 そんなエミリオに暴言を吐いてしまった事が辛くて苦しくて、泣き続けます。
「またお前はおかしなことに巻き込まれたね? ふふ、仕方ないな」
 ですが、ミサを信じているエミリオは、泣いているミサの側に来て抱き締めて、目元、頬、首筋に優しくキスをしました。彼が笑っている事に驚いて、ミサは大きく栗色の瞳を見開きます。
 エミリオは赤い瞳に甘い輝きを見せてミサの顔を間近から見つめ、囁きかけるように告げます。
「大丈夫、ミサの気持ちはちゃんと伝わってるよ。泣くお前も可愛いけれど、俺の一番好きな表情を見せてほしいな。さ、笑って」
 エミリオにキスをされて、ミサは次第に泣き止み、落ち着きを取り戻しました。自分の動揺と興奮に対して、エミリオが揺らぐ事がなく、冷静で大人な空気を全く崩す事がなったのが、安心感を促したのでした。
 優しく髪の毛を撫でてくるエミリオの頬に、自分からもそっと口づけます。自分の言葉に偽りがない事を示すために。
「ありがとう、エミリオ……本当に好きなの」
 ミサは昨夜見た夢やチョコレートのメモの事を思い出して、そのことをエミリオに話しました。エミリオはしょうがないなというように笑っています。部屋の中に誰かが放り込んだチョコレートをそのまま信じ込んで食べてしまうなんて、本当にミサらしい。
「きっとそれは誰かの悪戯だったんだろう。ミサは思った事の反対を言ってしまうような……。ミサが天真爛漫で幸せそうだから、傷つけたくなったんだね」
 エミリオはミサの栗色の長髪に指を絡めてそっと引っ張るような仕草をします。綺麗な髪を撫でるのもいいけれど、引きちぎってしまいたくなる心理も分かる……とでも言うように。ですが、ミサはその手の動きをミサへの愛撫だと信じて疑う事がありません。
 本当に優しくとろけてしまいそうな雰囲気で、エミリオはどこか残酷さを思わせる事を言っています。だけどミサは、自分の栗色の髪を優しく撫でるエミリオの手つきと、先程のキスで甘い幸せに酔っているのでした。興奮状態が過ぎ去って、安らかな笑みを見せながら、ミサはエミリオの言葉だけを聞いています。
 この世の全ての残酷な事は、夢の中の出来事。どうか、この幸せが醒めないで……。

リゼット(アンリ)編

 バレンタインデー。
 リゼットは精霊のアンリにバレンタインデーのチョコレートをプレゼントする事にしました。
 プレゼントの中身は、実は、今朝、ベッドの脇に置いてあった小さなハートのチョコレートです。彼の本音を探るための薬なのです。
 アンリが本当はリゼットの事をどう思っているか……それを知るための大作戦なのでした。
 リゼットはアンリの事が好きなのでしょうか?
 否、恋心はないとリゼットは信じています。
 それなのに、何故か彼の事に関してモヤモヤすることがあるのです。その感情の正体を知りたくて、逆にアンリの本心を知ってみたら自分がどうなるだろうと思ったのでした。
 そのチョコレートを綺麗な紙で丁寧に包装しなおし、リゼットはアンリを探しに行きました。
 A.R.O.A.でリゼットはアンリを見かけたので、裏庭に呼び出しました。
「はいチョコレート。バレンタインだから……あげる」
 今日のリゼットはインナーにブルートフラウ、ボトムスはラブリーフリルスカートを履いています。アウターにロゼッタケープ。足下はオーバーニーのコルセットストッキングにバックルベルトブーツ。赤頭巾ちゃんのようなケープにミニスカートで可愛らしく、それにオーバーニーの絶対領域で健康的なお色気を出しています。アクセサリーもネックレスのツインロザリウムをはじめとして赤で統一して、女の子らしいコーディネートです。
「すんなりチョコをくれるとは。こりゃ今日は大雪が降りそうだな?」
 見た目は素敵な王子様なのに中身ががさつなアンリはそんな事を言っています。
 アンリの方はノルディックセーターにヴァンプスプリンス。それにリゼットと同じオーバーニーのコルセットストッキングを合わせています。確かに高貴な王子様らしい格好です。アウターは幸福のコート「調和のプリス」でやはり格調高く。ネクタイは「雪精霊の悪戯」、帽子は中折れ帽子「朝顔」と、どちらかというとモノトーンの出で立ちです。
 憎まれ口を叩き、それでもアンリは、包装を破かないように丁寧に開封しました。
 中からはハート型の小さなチョコレートが出てきます。
 小ささも相まってとても可憐でいじらしい雰囲気です。
(なんかある。こんなのくれるはずない)
 リゼットは周囲には育ちのよいお嬢様ですが、アンリに対してだけどういう訳かわがまま放題のツンツンお嬢様。それがなんでいきなりこんな可愛らしい事を。
 アンリはそう疑いますが、流石にバレンタインに女の子がくれたチョコレートにそんな事を言う訳にもいかず、口には出しませんでした。
 普段通りの様子でチョコをぱくり。
「げ! マズっ! すっげーマズっ! こんなマズいもん、くれなくてもよかったのに。しかもハート型とか最悪だ! さっさと食べきって箱捨てたい!!」
 途端にアンリはそんな暴言を叫び始めました。
「マズいですって!? 今回は買ってきたチョコなのよ!?」
 リゼットは料理には自信がありません。そのためアンリとの料理の件で悲惨な事になった事もあります。何しろ、お嬢様は台所に入れさせてもらえないのですから。
 でも、そのチョコレートは自分が作ったものではないのに?
 そうしている間にも、アンリは何故か酷く困った顔で、チョコレートやリゼットの事をくそみそに言いつのるのでした。
 アンリは自分で言っていることに戸惑ってうろたえて、困り切った表情をしていますがリゼットに向かっては本当に暴言としか思えない事を連発してくるのです。
 リゼットには訳が分かりません。彼女は本音を言うチョコレートを渡したと思っているのですから。
 それで、アンリの暴言をこれこそ彼の本音だと思って受け止めました。アンリが困っているのも、言ってはならない本音を言ってしまったからだと。
「なによ……そこまで言わなくたって……なら言わせてもらいますけどね。いつも子供扱いばっかりしないで! 私もう子供じゃないんだから。あんたのほうがよっぽど子供だわ。
他の女の子とごはんにうつつを抜かしてばっかり! 私の事ほったらかしにするんじゃないわよ!」
 これでは売り言葉に買い言葉だと思いつつ、心の中で不満に思っていた事を吐き出してしまいます。
 自分が言ってしまったことに罪悪感を抱き、苦しくなり、自棄になってリゼットは包装をアンリに投げつけました。
「もう……なんなの、なんなのよ……このバカ犬!」
 投げつけた事で、すっきりするどころか、心はますます締め付けられて苦しくなります。怒った態度を取りながら、目には涙がにじんでいます。
 そうこうしているうちに五分経ちました。
 リゼットの投げた包みがアンリの顔面を直撃しました。
「こら! 大事に取っとこうと思ってた箱が潰れる!」
 突然、アンリがそう叫びました。
 大事に、という言葉でリゼットが紫色の目をまんまるにします。
「こんな妙なチョコ仕込まなくても俺はいつでもホントの事しか言わねぇよ。でも、さっきのはホントじゃなかった」
「え?」
 そこでアンリは、チョコレートを食べた後の自分に起こった出来事を言いました。
「俺、思っていた事と正反対の事ばかり、口から出てくるんで困っていたんだよ。あのチョコレートなんなんだ? お前、買ってきたって言うけれど、どこのどんな店で買ったんだよ」
「え……その……買ったんじゃなくて……」
 チョコレートがおかしいと言われて、リゼットは朝の出来事を思い出しました。
 そういえば、昨夜見た夢も不思議だったと思います。夢の中で、自分はアンリに本当の気持ちを告げようとしたのに、「大嫌い」と言ってしまったのですから。
 その夢の事と、チョコレートが朝起きたら自室にあった事、子供が書いたようなメモの事をリゼットは正直にアンリに話しました。
「それ、誰かの悪戯だろ。本音どころか、本音とまるっきり逆の事を言っていたぜ、俺。変なもの食わすな!」
「本音が聞けるチョコだっていうから……あんたのことその……信用してる、けど、我慢させてること、あるんじゃないかって。ご……ごめんなさい!」
 どうやら、自分に原因があったようだと気がついて、リゼットは素直に謝りました。
「俺の方こそ酷い事言ってすまん。今年もチョコもらえて嬉しいぞ。さんきゅ」
 アンリは王子様っぽい笑みを見せてリゼットに謝罪と礼を言いました。
 アンリの顔は大好きだと心から認められるリゼットは、キュンと胸が高鳴ります。
「つかお前こそ本音だだ漏れだったな。ほんと、まだまだリズはお子様だな~♪」
 胸がときめいたのも一瞬。アンリはリゼットの事をからかい始めました。
「また子供扱い! やっぱりバカ! ほんとバカ!」
 たちまちリゼットは表情を変えて怒り始めました。アンリはリゼットが怒るのを面白がっています。
(よかった……気にする事ないみたい……)
 いつものようなやりとりが出来て、リゼットは内心ほっとしています。彼に暴言を吐かれた事も傷ついたけれど、薬で本音を言わせようとした事を、アンリは怒るかもしれないと思ったのでした。だけど、彼はいつものがさつで気のいい兄貴です。彼に対するモヤモヤの正体が何かは分からないけれど、こうして普段通りのやりとりが出来るのなら、これはこれで楽しいし素敵な事だと思えるのでした。
 あんまり子供扱いされるのは、腹が立つんですけれどね。
 一風変わったバレンタインになってしまいましたが、これはこれで仲がよくて、とても可愛らしいウィンクルムなのでした。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 森静流
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月20日
出発日 01月28日 00:00
予定納品日 02月07日

参加者

会議室

  • [11]桜倉 歌菜

    2016/01/27-22:44 

  • [10]八神 伊万里

    2016/01/27-07:34 

  • [9]桜倉 歌菜

    2016/01/27-00:46 

  • [8]ミサ・フルール

    2016/01/26-10:48 

  • [7]桜倉 歌菜

    2016/01/24-00:38 

  • [6]桜倉 歌菜

    2016/01/24-00:38 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    ふふ、顔なじみの方々ばかりで何だか心強いです…!(ぐっ)
    絡みはありませんが、皆様、宜しくお願い致します!

    「本音で語り合える薬」…かぁ…(ドキドキ)

  • [5]ミサ・フルール

    2016/01/23-18:29 

    ミサです、エミリオと参加します(ぺこり)
    お久しぶりの方が多いですね、絡みはないですけども、どうぞよろしくお願いしますー!

  • [4]八神 伊万里

    2016/01/23-16:26 

    アスカ:
    アスカと伊万里だ。なんかすごい久しぶりに見る顔があるな。
    元気そうで何よりだ、今回もよろしく頼む。

  • [3]ハロルド

    2016/01/23-08:00 

    最近顔を見なかったからどこで油売ってるのかと思っただけだ
    チョコってなんだそりゃ…(けど貰えるものは貰ってポケットに入れる)

  • [2]リゼット

    2016/01/23-01:34 

    おいっす。久しぶりだな。
    はてさて、今回は何を食わされることやら。

    ようディエゴ。寂しかったのか?
    俺様がチョコをやろう(懐から小さいチョコを取り出し)

  • [1]ハロルド

    2016/01/23-00:08 

    宜しく頼む

    アンリ、久しぶりだな
    元気にしてたか?


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