プロローグ
●穴場
「あ~……いい湯加減だなぁ」
「……ああ」
仲の良い男二人での温泉旅行に選んだ場所は、テルムの温泉郷から少し離れた場所にある温泉宿で穴場だと人から聞いた場所だった。
確かに人は少なく、余計な気を遣う必要がなかった。ただ――
「……虫が浮いてるなぁ」
「ふ、風流じゃん」
「一桁ならね!?」
確かに人は少ないが、露天風呂に異常に虫が浮いているのが気になった。
湯船に虫が浮くのは、山が近い場所での露天風呂では良くある事であり、言ってしまえば季節限定のものなので前向きに捕らえれば趣があると言える。
しかし、あまりに浮きすぎていた。湯は循環しているため、虫がこれほど浮くには短時間で虫が飛び込む以外にない。
「……なぁ、なんか変じゃねぇか?」
「下ネタはやめろ!」
「いや、下ネタじゃ――っ!?」
一人が異変に気づいたが、いささか遅すぎた。
●情報不足
「全裸で救出された二人の男が言うには、無数の木の化け物が襲ってきたと」
A.R.O.A.の職員は二人で事件の情報をまとめていた。しかし、オーガ襲撃の報告があった付近は『穴場』としての環境を作るために意図的に交通、通信の都合が悪く、いささか情報不足であった。
「虫が沢山死んでいた、ねずみが死んでいたという報告があるし、デミ・トレントだろうなぁ。……最近この近くで似たような報告があったよな?」
「はい、何件か」
思い返せば事件が起こった近辺でデミオーガの襲撃報告が何件かあった。しかし、緊急事態のためこの二人の職員は思考を切り替える事にした。
まずは俺たちの仕事を。報告はするから、それ以上の作戦はもっと上の人間の考える事だ。
「気になるが……。ところで件の温泉宿、全員避難したんだろう?」
「はい。ただ、避難勧告が伝わらなかった温泉宿が近くにありますね」
「ウィンクルムを急がせよう。自主避難してなかったら救助の必要もあるだろうしな。今からで間に合う場所か?」
「おそらく間に合わないでしょう」
「じゃあ、急ぎでいかせるのは第一陣にする」
「はい。デミ・トレントの数は不明なので、避難と救助を最優先で。可能ならば撃退もするように」
「それでいい。まず人命を優先。第一陣は避難・救助が終わるまでは撃退と防衛をさせて、こっちで第二陣を編成しておいて増援を送る。よし、全身隠れるタオルを持っていかせろ。服を着てもらう時間はないかもしれないからな」
解説
●目的
1)避難勧告が伝わらなかった温泉宿宿泊客の避難・救助。
2)第二陣到着までの被害拡大阻止(防衛)
●温泉宿
想定される救助対象者は約20名。男女比不明。
宿から道路までの距離は一般人が歩いて5分程度の距離。
二階建ての施設で、広くはないが付近は木が生い茂っており、湯煙とあわせて露天風呂付近は特に視界不良。
時間は夕暮れ。
●敵情報
デミ・トレント 数不明。
木のような化け物。動きは遅いが木が多い場所では発見が難しく注意が必要。
●支援
タオルを積んだ馬車が4台(1台約5名収容可能)と、馬車の運転手がウィンクルムの行動を支援。ウィンクルムの指示に従う。
ゲームマスターより
OP閲覧ありがとうございます。マスターのタクジンです。
このお仕事は宿泊客の保護が主目的です。混乱している裸の男性や女性に手こずるかもしれません。
敵は倒しきる必要はありません。数が不明の鈍いデミオーガなので、救助対象に被害が広がらなければ第二陣にまかせておいて大丈夫です。
皆様のご参加、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
護身用の武器は忍ばせ 通信機を借りて 助ける事が目的ならば 場合によって逃げるが勝ちって事も忘れない まずは玄関 靴や下駄等があったら確保してから露天風呂へ 追加の状況説明はするけれど 初めに行って状況説明をするのはアクアの方が適任だろうから 「宜しければ、どうぞ」 素足のままじゃ痛いしね 靴等が確保出来た場合はそれを 無い場合はタオルを厚く巻いて縛って ほら、無いよりましでしょ 紐も持って来たからタオルが落ちそうな人は使ってね 待つ時も誘導する時も 木々が込み入ってる場所はなるべく避けて お客さんには触れさせないし 道路から先へは行かせないよ 後は通信機の内容や状況に応じて臨機応変に対応 危ういと感じたり変化があったら連絡するよ |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
持ち物 通信機(人数分申請)、ランタン、筆記用具 宿へ向かう前に通信機を全員分渡しておく できたら救助者の正確な人数を把握しておきたいな 従業員の方がいれば宿帳を借りたい旨を伝え、 不在の場合は受付で探す…緊急事態だから大丈夫だよね? ラセルタさんと協力して宿の2Fの捜索にあたるよ 「救助に来たウィンクルムです、どなたかいらっしゃいませんか!」 視界不良な場所では声と明かりで位置を知らせる 部屋を調べ終えたら救助者を馬車へ誘導、先頭を歩く 負傷者や足腰の悪い方がいたら、おぶっていく 誘導完了後は馬車周辺に留まって宿帳と救助者を照らし合わせよう デミ・トレントが現れたら救助者の安全を優先 前衛には出ずに護衛を行う |
大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
露天風呂に避難誘導。 タオルをてんこもりに持って行く。 うっせ、俺はどうせ戦力になれないからな。 説明と誘導はしていく。 混乱してるようなら任せるぞ、多分。だけど。 ガロンの話し方の方が咄嗟に受け入れられやすい。 (イケメン爆発しろ(とほい目 露天風呂に避難誘導する際に手分け。 場所として人員が不足している場所があるなら其方に変更 後・・・(ぶつぶつ、きっ、と顔を上げて ガロン、ちょいちょい (引き寄せトランス …悪いけど、頼むな。また、危険な役させちゃうけど ・・・・・問題は、あそこ、だよな・・・女風呂(汗 い、行くか・・・・ 通信で連絡取り合えるなら取る |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
職員さんの言いかけた周辺の話も気になるけど 目の前のお仕事に集中。被害は、出させないよ 手分けして温泉客を捜索・救助し馬車へ誘導 馬車は4台まとめて待機させとく なにかあれば通信機で仲間と連絡 僕らの担当は建物1階の捜索。まず受付。 宿自体に連絡が行ってないなら従業員も残ってる可能性? いるなら現在の客の数を把握 宿帳調べることになったら千代さん、任せたー あと鍵もできたら確保 近辺でデミオーガ発生のため避難してください と声掛け、ノックで1階の部屋をまわる。 一通りまわったら人数を通信機で連絡 お客さんたちを馬車までご案内 僕はいつも通りの態度で不安を与えないように 森側を僕らが歩き 無理に対処せず馬車へ送り届けるを最優先 |
ノクト・フィーリ(ミティス・クロノクロア)
夕方だし、暗くならないうちに救助しないとね! ぼくとミティスは馬車のまわりを警戒する担当だよ。 あと、救助された人はビックリして混乱してたり怖がってるかもしれないから、落ち着かせてあげないと。手を握って、大丈夫だよって伝えたいな。 ぼくはまだまだ子供だけど、手の甲のウィンクルムの印を見てもらえば少しは信用してもらえるかな。 怪我をしている人がいるかもしれないから、救急セットを借りていけないかなあ。 本格的なことは出来ないけど、何もしないよりはいいと思うんだ。 通信機は千代さんが借りてくれたから、それでみんなと連絡しあうつもりだよ。 何かあったら駆けつけられるように準備はしておかないとね。 |
●ウィンクルム到着
最初に馬車から飛び出したのはノクト・フィーリとミティス・クロノクロアのペアだった。
「ミティス、僕らは馬車を守るんだよ。ほら、ちょっと屈んで」
ミティスに指示を出しながら、トランスするために少し背の高いミティスの肩をつかんで引っ張るノクト。ミティスは微笑みながら少し屈む。
「光を、この手に……ん。木に注意しよう、ミティス」
「そうだね。よし、頑張ろう!」
馬車からは続々とウィンクルム達が飛び降り宿に向かって走っていく。周囲を警戒している二人がいるため飛び出すときに警戒をしなくてもよかった。
「いらっしゃいませぇ」
「ウィンクルムです。近辺でデミ・オーガが出現したため避難誘導に来ました」
宿屋に突入した柊崎 直香は、迎えてくれた従業員に状況を説明する。しかし、直香の子供のような容姿からか半信半疑といった様子だった。
「表に馬車を待たせてあるから、それに乗って逃げてくれ。そこまでは護衛する」
彼の精霊であるゼク=ファルがフォローする。武人のような雰囲気を醸し出しているゼクに言われ、従業員はウィンクルム達の指示に従うことにした。
「しかし、珍しいもんが見れたな」
「む。僕だって真面目になるときくらいあるんですよ」
「自覚はあるんだな」
「それじゃあ、早くトランスしよ?」
「……あ、あぁ」
ゼクはあたりを見回した。人目を気にしていた。直香は特に気にする事なく、ゼクの腕を引っ張った。随分身長差があるためゼクに立たれていては頬まで口が届かない。
「スペルに依りて叶えよ。事、総て、成る……よし、準備かんりょー」
「あぁ。それじゃあ、早いとこ避難させちまおう」
木之下若葉は女湯を前にして立ち止まった。トランスしてないことに気づく。精霊であるアクア・グレイを呼ぶ。
「外に出れば敵がいてもおかしくからね。トランスするよ」
「はい、ワカバさん。どうぞ」
若葉は身体を低くしてアクアの肩をつかむ。
「貴方の思い、お借りします」
トランス状態になり脱衣所へ進むが、誰もいなかった。脱衣所にタオルが用意されている事を確認する。二人はタオルを大量に抱えてきてはいるが、足りるかどうかはわからなかった。
「アクア、状況の説明を頼むよ。裸の女性が相手だ、俺みたいな青年よりも少年のアクアのほうが話を聞きやすいだろう」
「はい。わかりました」
頭をなでられながら了承するアクア。
お母さんだと思えば、恥ずかしくありません!
本当、撫でやすいところに頭があるなぁ。
「じゃ、いこうか。オーガがいつ出てもおかしくないからな」
「はい、ワカバさん!」
タオルを抱えた大槻 一輝は男湯の前で立ち止まり、精霊であるガロン・エンヴィニオへ振り向く。下を向いてなにかをつぶやいている一輝を見てガロンは察した。彼の思ったとおり、一輝は指で彼を招いていた。
「さて? 急がなくてはいけないのではないのか、カズキ」
「ト、トランスしなきゃ、だろ……!」
ガロンは一瞬だけ微笑んだあと、一輝に身体を傾けた。
「絶えざる光を我等が上に……ん。悪いけど、頼むな。また、危険な役させちゃうけど」
「危険なのは何処とて同じだろう、それは、カズキも、だぞ」
そう言ってガロンは一輝の前に立ち、男湯へ侵入した。
任務参加のウィンクルム達は全員、共通の通信機を持っていた。羽瀬川 千代が準備したものだった。
「はい。聞くと今の時間は女湯のほうが広い浴場に入れ替わっているようなので。はい。男湯の避難が終わりましたら大槻さんはそちらのほうで。はい」
彼は二階に向かいながらも、館内地図と宿帳を見ながら通信を頻繁に行っていた。通信が途切れたところで彼の精霊であるラセルタ=ブラドッツが笑顔であることに気づいた。
「いや、ばあやを思い出してな。電話を切ってため息でも吐けば完璧だったのだが」
「避難誘導に来てるのですから、それなりの表情をしていてくださいよ」
「俺様を誰だと思っている? 周囲の警戒はおこたっておらん。……む。千代、あちらのほうだ。鳥か虫か、沢山羽ばたいたぞ。逃げるように、だ」
千代はどうだと言わんばかりのラセルタに呆れたように微笑み、通信機でそのことを知らせた。
「では、トランスと行こうではないか、千代」
「そうですね、しておいたほうがいいでしょう」
わずかに千代のほう背が低いのだが、それをフォローしようとしないラセルタにトランスするために千代は踵を浮かせた。
「静かに、微睡みが近寄るように……」
「よし、行くとしようか、千代」
「はい、急ぎましょう。救助に来たウィンクルムです、どなたかいらっしゃいませんか!」
ウィンクルム達は全員避難誘導を開始していた。まだ、デミ・オーガは現れていない。
●デミ・オーガ到着
「……来たね、ミティス」
「ええ」
馬車の周辺を警備していたノクトとミティスが、まずデミ・オーガを見つけた。血をすったような色の、ゆったりと近づいてくる木の化け物だった。ある程度の脅威を持っているものの動きは遅いため、戦力不十分だったら逃げることも手だった。
しかし、二人は皆が逃げる為の馬車を守らねばならなかった。
「こちらから接近して、馬車に近づかれる前になるべくダメージを与えよう」
「うん。避難は始まってるみたいだし、守らないと、だね」
「……あぁ。守る」
ミティスは馬車と、ノクトを見た。
ミティスは飛び出し、敵の攻撃を誘う。敵が攻撃してきたら、すかさずシャイニングアローで攻撃を反射しダメージを与える。隙をついてノクトも小刀で切りつける。
「結構タフみたい」
「ええ。遅いとはいえ、数が揃うと厄介そうだ」
避難誘導はまだ、始まったばかりであった。
女湯から聞こえた悲鳴は男のウィンクルム二人が登場したからではない。まずは森から飛び出してきた虫や小動物に驚き、そして血の色をした葉を蠢かす樹木に恐怖したのだった。
一人の女性に枝が襲い掛かる。
「アクア!」
「はい!」
湯煙から飛び出したアクアは襲い掛かった枝を撃ち落とす。若葉は湯船に飛び込み襲われた女性を救助する。
「ウィンクルムです! 救助に来ました! 表の馬車まで避難誘導をします!」
アクアは出来るだけ大きな声で、何者か、何をしにきたのか、なにをするのかを口にした。宿泊客たちの反応は理解3割、混乱7割といった様子だった。
「アクア、敵を引き付けてくれ。俺は誘導する」
「はい。大丈夫ですよ。必ず守りますから」
アクアはやわらかい笑顔で女性客に約束した。若葉は混乱と羞恥の度合いが高い順に対応していった。タオルを渡し、玄関に靴が広げてあること(玄関で準備しておいた)を伝えた。
「宜しければ、どうぞ」
若葉は誘導しながら、風呂場を見渡す。風呂場はまだ奥に続いている。視界は悪い。避難は始まったばかりであとどれだけ人が残っているかは不明。
「やれやれ……しんどいな」
ドアをノックする。これで三部屋目だった。
「ウィンクルムだよ。近辺でデミ・オーガ発生のため避難して」
直香は少し扉の前で静止し、耳を澄ます。開けるよと言ってから従業員からもらった鍵を刺し、部屋へ入る。
「いないようだな」
「うん。ご飯の時間は終わったみたいだし、時間的にお風呂にいった人が多いのかもね」
「次の部屋――の前に、トイレがあるぜ」
宿自体は広くないが、それゆえに見逃しがちなスタッフ用の扉など、細かく注意をして確認していく。一階の捜索をしているため、風呂場や二階から避難してきた人ともよく遭遇するため、戦闘が起こっている場からは遠くとも二人は忙しかった。
異常に気づく人間が増えていくにつれ、混乱は大きくなりがちになる。
一階よりも狭い二階の探索を早々に終えた千代とラセルタは、玄関に向かい宿泊客を落ち着かせることを優先した。ウィンクルムが来たことで安心する人もいれば、ウィンクルムがくるほど危険なのではないのかと動揺する人もいる。
「いま、どうなっているのですか……?」
「財布を脱衣所に置いてきちゃって」
「大丈夫なのかよ!?」
二人には矢継ぎ早に質問が投げかけられる。その間にも他のウィンクルムからの連絡が来て、丁寧に説明している余裕はない。
ラセルタが大きく足を踏み鳴らし、注目を集める。
「我々は、みなを無事に避難させるために行動している! それには、落ち着きとみなの協力が必要なのだ!」
怒鳴るような声ではなく、単純に聞こえやすい大きな声を出した。ラセルタは不敵な笑みを浮かべる。
「安心しろ、俺様がいる限り全員無事に帰してやる」
避難しなきゃいけない状況だが安心しろ。根拠は俺様がいるからだ。
普通ならば安心できたものではないが、ラセルタの貴族ゆえの雰囲気と、なにより彼の自信に満ちた表情が人々を落ち着かせた。
「……では、避難状況を確認するために、お名前を伺って行きます」
千代は宿帳を見ながら何人避難して、どこの部屋の人間がまだ残っているのかを確認していった。
ありがとうございます、ラセルタさん。
その言葉は最後に取っておこうと思った。
風呂場が女湯に比べて小さかったことと、男性であるということ、デミ・オーガがこちらには出現しなかったことが幸いして一輝とガロンが向かった男湯の避難はそこまで苦労しなかった。タオルで隠したい面積が少なければ、着替えたとしても基本的にはすぐ終わった。
「お、女湯が苦戦中らしい。多分最後の避難客が、そこにいるはずだって」
「律儀に入り口を往復したのでは時間がかかる。仕切りを壊して行けば早いな?」
ガロンは一輝に確認をとって、男湯と女湯を仕切っていた木の壁を破壊する。女湯にはアクアと若葉、ゼクと直香がいた。精霊二人は戦っている。神人の二人は非常に恰幅のよい女性を運び出そうとしていた。女性は気絶しているようであった。
「僕じゃむりぃいいいい!」
「ぐっ……。ん? 応援か、助かるよ。手を貸してくれ」
恰幅の良い女性はバスタオルを前と後の二枚を紐でまきつけてあった。紐は若葉が用意していたものだった。一輝は女性のもとへ、ガロンは戦っている二人のもとへ駆けていった。
「玄関まで連れて行けば、リアカーを用意してくれてるみたいだよ」
「彼女で最後だから、精霊たちにはみなが宿から離れるまでここで敵を引き付けてもらうことにしたんだよ」
「わ、わかった。じゃあ、せーのっ!」
精霊たちも苦労していた。のろいデミ・オーガ相手とはいえ風呂場での戦闘でずぶ濡れになっており、汗ではなくお湯が目に垂れてきて戦いづらかった。さらに、長時間同じ場所で戦闘していたため敵は集まりつつあった。
「数を減らすぞ!」
ゼクは弱っている敵目掛けて乙女の恋心を発動し身体の内部を焼いた。ガロンはゼクの攻撃の隙をフォローするためシャイニングアローで攻撃を反射する。
「二人とも! 皆宿からの避難を開始しました!」
最後の女性を避難させる三人を攻撃から守っていたアクアが叫ぶ。ゼクとガロンは戦闘をやめ後退する。今回の目的は撃破ではなかった。避難する人々の姿が見えてから、ゼクは宿のほうへ身体の向きを変えた。
「殿は俺が勤めるぜ。二人は急いで合流しろ」
アクアとガロンはうなずき、そのまま前進する。直香がゼクと合流する。
「無事でなによりだよ。じゃあ、踏ん張り時だね」
「ああ。馬車までなら、あの女湯にいた敵は追いつかないだろう」
「周り中木だらけだから、影の動きに注意だね。あーも、びしゃびしゃだよ。温泉にきたのに、帰ったらお風呂に入らなきゃ」
それを聞いて、ゼクは小さく笑った。
●撤退
宿から馬車までの移動速度は、遅くはなかった。靴の用意やタオルを渡したことで、裸からの避難だったがそこまでの支障はない。しかし、馬車に向かってゆったりと移動しつつあるデミ・オーガとの遭遇はあった。
「っ! デミ・オーガが道をふさいで……」
「俺様の前に現れるとは傍若無人なやつだ。俺様が引き付けるから、千代は避難者を誘導しろ。森に入りすぎるなよ」
「はい。ラセルタさん、無茶はしないでください」
「目的は撃破ではないからな。殿が追いついたらすぐ追いつく」
ラセルタはダブルシューターで注意を引き付け、デミ・オーガに駆け寄る。ラセルタの武器は射撃系だったが、注意を引く為の行動だった。
デミ・オーガの傍を抜けるときは、ガロンが避難者との間に入った。攻撃がきたらシャイニングアローを使うつもりだった。
「も、もうすぐ馬車ですから」
一輝は避難者を安心させるために何度も言葉をかけていた。彼の性格を知っているガロンは小さく微笑んだ。
ラセルタの抜けた先頭には、アクアが立っていた。頻繁に避難民をみる。
「もう少しですから、大丈夫ですよ」
子供のような見た目のアクアが行動していることで、女性や子供は勇気をもらっていた。若葉は口数は少ないものの、周囲の警戒、足元の注意などを行っていた。子供が不思議そうに若葉に話しかける。
「ねぇ、戦わなくていいの?」
そう言葉が聞こえていたアクアは声を出さずに笑った。若葉がなんと答えるのか創造がついたのだった。
「逃げるが勝ち。そういうときもあるのさ」
避難者全員が抜けたあたりで、ゼクと道をふさいでいたデミ・オーガとの戦いを代わったラセルタが先頭を駆け抜けて行った。そのままダブルシューターでなにかを撃っている。馬車を守っていたノクトとミティスが戦っていたデミ・オーガに攻撃していた。そのまま振り返る。避難民たちは馬車を確認していた。
「ほら、大丈夫だっただろう」
避難者たちは小さく歓喜した。千代は宿帳をとりだす。
「では、あの馬車には1号室の――」
馬車へ避難者たちを誘導していった。宿帳を見ながら部屋ごとに馬車に乗り込ませるのは、逃げ遅れた人がいないかの最後の確認であった。
「直香くん、ゼクさん、あなた立ちで最後ですよ」
ノクトが殿を務めていたゼクと直香を呼ぶ。ノクトとミティスは全員が乗り込むまで馬車を警戒するつもりだった。
「乗るぞ、直香」
「うん――ひゃわぁ!」
直香はゼクにお姫様抱っこされ馬車に乗り込んだ。ノクトとミティスは二人が乗り込んだのを確認して、馬車に飛び乗る。すべての馬車が動き出す。出現したデミ・オーガは動きが遅いため、こうなればもう襲われる心配もなかった。
「ミティス、ぼくにはあれしないの?」
安全になってから、ノクトはミティスにお姫様抱っこのことを尋ねた。とくに意味のあるものではなく、見かけたから聞いて見ただけのものだった。それがわかったため、ミティスは面白くなった。
「そうだね、惜しい事をしたのかもしれない」
そんな二人をみて、避難者たちは安全になったのだと深く安心した。
●馬車の中
危険な場所から脱し、あとはA.R.O.A.が手配してくれた病院に向かうだけとなった。大きな怪我をした人はいないが、念のためということであった。
「あなたがたがいなければ、どうなっていたことか」
「皆さんが無事で、なによりですよ」
千代は馬車のなかで一人の老人にあつく感謝されていた。この老人は千代とラセルタが二階を捜索したときに誘導させた人であった。
「ふぅ。なんとかなりましたね。これもラセルタさんのおかげですよ」
「そうだろう。だがな、評価は正当にするべきだ。千代の働きもたいしたものであった。それはこの老人や避難者皆が教えてくれているだろう」
千代は驚いた顔をして見せた。ラセルタがなんだその反応はと言うと、いえいえとだけ返した。
アクアの乗っている馬車で、アクアは女性に人気者であった。アクアはどこかぬいぐるみ的なかわいらしさがあった。アクアはいやな気持ちではなかった。避難者たちの緊張が解けた証拠だったからであった。
「っわふ」
「お疲れ様」
若葉はアクアの頭を撫でた。
アクアは今日一番の笑顔を浮かべた。若葉の緊張も解けていることが感じ取れたからであった。
一輝は馬車のなかでおとなしくしていた。しかし、ガロンは一輝が内心あまり落ち着いていないのではいかと考えていた。馬車の中は知らない人、立場的に気を遣わなくてはいけない相手ばかりだったからだ。
ガロンは小さな声で一輝に語りかけた。
「カズキ、もうすこしこちらに寄るといい。馬車は狭いのだから」
「ん、ああ」
一輝にだけ聞こえる声というわけではなかった。緊張の切れた馬車のなかでバスタオル一枚の人もいる為、手を離してしまっていらぬ恥を欠かせないようになどなどの考えからのものだった。
それと一輝と身体をくっつけ休ませるためでもあった。
ノクトは乗った避難者のなかに足を捻挫した人がいたため診ていた。ミティスは揺れる狭い馬車の中で捻挫を見るために絶妙なバランスで移動しているノクトを注意深くみていた。
石を轢いたのか、馬車が大きく揺れる。
「わっと」
「おっと」
ミティスは倒れかけたノクトのことを抱きかかえるように受け止めた。
「ありがと、ミティス」
「うん」
ミティスはあと何度こうなるだろうかと思っていた。
「……放っておけば乾くだろ」
「だめだめ。風邪ひいちゃうよ」
ゼクは直香に髪の毛を拭かれていた。普通に恥ずかしがっていた。
とうとう耐え切れなくなったのか、ゼクは腕をつかんで座らせた。
「あ、僕の頭も拭いてくれるのー?」
「……風邪をひくからな」
なぜそういう流れになったのかゼクには予想外だったが、彼は反射でそう応えてしまった。これはこれで、恥ずかしかった。
「どのみち、帰ったらお風呂だよぅ」
「ああ」
帰ったら。避難者たちはその言葉に改めて、無事に帰れるのだとため息を漏らした。
目立った怪我人はなく、彼らから多くの情報を得られたため第二陣も危なげなくデミ・オーガを撃滅することができた。
全員が無事、家へと帰る事ができた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:木之下若葉 呼び名:ワカバさん |
名前:アクア・グレイ 呼び名:アクア |
名前:ノクト・フィーリ 呼び名:ノクト |
名前:ミティス・クロノクロア 呼び名:ミティス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | タクジン |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 05月05日 |
出発日 | 05月12日 00:00 |
予定納品日 | 05月22日 |
参加者
会議室
-
2014/05/11-23:54
宿の方、宜しくお願い致しますだね。
俺の方はタオルが玄関に寄って靴の確認と
タオルと……あと念のため紐も持って来てみたよ。
タオルが落ちそうで逃げられないって嘆かれたら困っちゃうからね。
後は臨機応変に対応を。
何かあったら連絡する。
パートナーのアクアの方も保護する方への
状況説明頑張って来るって言ってたよ。 -
2014/05/11-23:00
受付あるだろうから、従業員いればの対応、宿帳、
あとすぐに見つかりそうなら鍵を確保したいなーとはプランに盛り込み。
ただ宿帳とかの書類関連は千代さんの方が得意そうだから任せるー。
なにかわかったら連絡くださいです?
僕の方はぱっと見て無理なら声掛けしながら部屋総当たりってとこで。 -
2014/05/11-22:43
皆さんの反応が早くて助かりました、俺は「宿の2F」の捜索を希望します。
トランスをせずとも対応可能な敵ではありますが、同じジョブの
精霊さんが近くに固まるより、ばらけた方が対応の幅が広がりそうですし。
それと個人的に、救助者の正確な人数を把握出来たらと考えています。
従業員の方が残っていれば聞いてみて、
そうでなければ帳簿などを探してみようかな…? -
2014/05/11-22:10
>玄関
なるほど、有難う。
それなら入口(玄関)に寄ってみて確認。
もし無かったら(又は見つからない判定だった場合)
フェイスタオルの大きさのものを足に巻いてもらうことにするよ。
そうだね。タオル一枚で避難の状態だものね……。
-
2014/05/11-21:11
(ちなみに発言番号飛んでるのは僕が発言削除したからですと白状。
盛大に誤字って意味取り違えられる可能性があった、た、めー。orz) -
2014/05/11-21:05
靴かー、たしかに裸足じゃ危ないかにゃー。
露天風呂に向かう前に宿の入口(玄関)に寄ってく、とか?
温泉宿ならスリッパなり、一時外出用の下駄なり置いてありそうな気はする。
脱衣場になら自分の靴があるんだろうけど、建物の位置が現状わからないからね。
服を着る時間すらないかもって言われてるし。 -
2014/05/11-20:44
有難う。
じゃあ、俺も露天風呂でアクション一度書いてみるよ。
変更・追加等は可能だから何かあったらどしどし言ってね。
……ふと思ったのだけれど、温泉から上がったお客さんは素足なんだよね。
小さめのタオルを持って行って足に巻いてもらう等しようかな。
歩いて5分の距離を素足で行かせるのは忍びないし……。 -
2014/05/11-20:20
ふむふむー…。
じゃあぼくは馬車周辺でー、かな? -
2014/05/11-18:44
時間との勝負な部分もあるから、千代さんの振り分け箇所でいいと思うー。
自分の担当が早く終わったら別のとこ手伝えばいいんだしね。
ということで、僕は「宿の1F」担当希望しとく。
23時までに言ってくれれば変更も可能だよー。
ノクトくん若葉くんの担当は適材適所って感じ? -
2014/05/11-18:10
まとめ有難うだね。
そうか、今日出発日か……早いね。
>手分け
ゲームマスターのコメントを読むと露天風呂には女の人も居るみたいなんだよね。
だから数人行くなら俺のパートナーにもタオル持参で行かせようと思って思ってるんだけれど、どうかな。
ほら顔の幼さで乗りきれそうと言うか。警戒心抱きづらいと言うか。
精霊だから敵が来てもそれなりに自衛出来るって言ってるしね。
>馬車・通信機
それなら羽瀬川さんから通信機を借りるとして
呼ばれたら何時でも駆け付けられるように準備って形でいいかな。
柊崎さんやフェーリさんの意見のように馬車の周りは守る形を取って。
大槻さんの言う通り動きの遅い敵みたいだしね。 -
2014/05/11-10:06
あいさつぎりぎりになっちゃった!ごめんよう。
パートナーがライフビジョップだから、守るのにはいいかなあって思うんだけどどうだろ?
まとめたすかるのー。ありがとっ -
2014/05/11-02:51
今日が依頼の出発日でしたか、早いなぁ…。
プランの調整などがあると思いますので、少し話を進めていきますね。
>馬車について
近辺でデミオーガの襲撃報告が幾つかあったようですし、
救助者の方の安全を考えると個別の出立は控えた方が良いかもしれませんね。
柊崎さんの馬車周囲の警戒とケアを担当する人員を作る案に賛成です。
>手分けについて
大まかな担当場所を考えてみました。
宿は広くないとの事なので、もしかしたら階を分ける必要はないでしょうか…?
【宿の1F・宿の2F・露天風呂(2組?)・(馬車の周辺)】
それと通信機については俺の方で人数分、借りておきますね。 -
2014/05/10-02:00
クキザキ・タダカですよ。よろしくどうぞ!
道路に停めた馬車は定員になり次第、順次発車させた方がいいかな?
デミ・トレントは動きが遅いから振り切ってもらえばいいけど、
途中で道路塞ぐかたちで来られたら運転手さん対処できないだろーし悩む。
逆に4台まとめとくなら、捜索&救助するひとの他に
馬車と一緒に道路で待機するひとがいれば警戒・対処もできるかな。
お客さんたちだいぶ混乱してるからケアも含めてー。
救助に関しては大まかに担当場所決めて、あとは個々の判断で馬車まで誘導?
自分だけじゃ手に負えないと判断したら近くの仲間に応援頼んでさ。 -
2014/05/10-00:02
大槻です。
…宜しくお願いします。
トレント・・・木…
動きが遅い様なのが救いですね。
救助優先、賛同です。
しかし…これ、何処までするべきなんでしょうか。
多分、宿から道路まで。道路にある馬車に救助者を収容できれば良いんですかね?
其処からはお任せしていいものかどうか。
もしそうなら一度5名集めるまで別所で待機、
若しくは馬車に人員を乗せて待って貰う、ですか…
手分け…するんですか?
分かりました。では、その様に手筈を整えます。 -
2014/05/09-22:44
こんばんは、木之下だよ。
こちらこそ宜しくお願い致しますだね。
俺は羽瀬川さんの案、賛成だよ。
夕暮れなのもそうだし、露天風呂付近は
ただでさえ視界が悪いみたいだしね。
戦う必要に迫られたとしても、
味方や守る方の位置も解らないんじゃ迂闊に動けなくなっちゃうし。
出来たら協力して動ければなぁって思うよ。 -
2014/05/09-02:18
こんばんは、羽瀬川千代と申します。
初めましての方も何度かご一緒した方も宜しくお願い致します。
目的は取り残された宿泊客の避難と救助が最優先。
想定される人数は約20人前後、時間帯は夕暮れ。
あまり時間をかけると夜になってしまいますね…。
通信機などで連絡を取って情報を共有しつつ、
手分けをして探していくのはどうでしょうか?
敵は木に紛れると発見が難しいようですから、
露天風呂や宿の周辺を探す場合は特に注意が必要ですね。