【薫】花と言葉(こーや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「あ、こんにちはー」
 ミラクル・トラベル・カンパニーの職員のさわやかな挨拶。
 何人かのA.R.O.A職員がげっと顔を歪める中、受付のミシェル・ペペロンチーノは笑顔を浮かべてみせた。
「あらー、いつも変なツアーを紹介してくれる人じゃないですかー」
「どうもー、ご無沙汰してますぅー」
 白々しく、けれどにこやかに交わされるやり取りが怖い。
 仲がいいのか悪いのかは分からないが、とりあえずこの2人が出くわすと碌なことにならないのは確かだ。
 確かだったのだが――
「ふふん、今日はちゃんとしたお店からの案内ですよ」
 今まで持ってきたツアーの案内が変なものばかりだという自覚はあるらしい。
 勝ち誇った様子でミラクル・トラベル・カンパニーの職員は案内書きを取り出す。
 途端、ふわりと花の香りが広まる。
「……薔薇の香り?」
「正解です。これ、見てください」
 案内書きとは別の、小さなメッセージカードをミシェルに手渡す。
 柔らかなピンクの紙は、よく見てみると薔薇のイラストが書かれている。
 光の加減で見えるように印刷されているのだろう。
「『Blume』っていう花屋さんが、花言葉と花の香りを添えたメッセージカードを送り合おうっていうキャンペーンを始めたんです」
 このカードはそのサンプルだという。
 メッセージカードというだけあって、一言くらいが適切なサイズだ。
「花言葉を添えてとは言ってますけど、好みの花を選んで感謝の一言を、とかでもいいらしいです」
 メッセージカードを交換しあうなら後は自由。
 書いている間に紅茶とエディブル・フラワーを使ったゼリーのサービスもあるのだという。
「お茶をしながらの手紙交換って感じですかね?」
「そんな感じです」
 ふんふんと感心するミシェル。
 この職員にしては随分とオシャレな企画を持ってきたものだ。
 そういえば。ふと気付いたことがある。
 ミシェルは顔を上げ、まじまじと職員の顔を見つめた。
「なんです?」
「お名前、なんでしたっけ?」
 ピシリ。
 職員の笑顔にヒビが入ったことは言うまでもない。

解説

●参加費
400jr

●すること
メッセージカードに一言書いて、パートナーと交換してください。
メッセージカードの花に無理に絡めなくて大丈夫です。

紅茶とエディブル・フラワーを使ったゼリーのサービスが有ります。
白ワインを使ったゼリーですが、調理過程でアルコールが飛んでいるので酔う心配はありません。
(調理酒としての仕様なので、未成年の方も食べて大丈夫です)

●メッセージカード
下記のものからお一人に付き一枚お選びください。
()内はメッセージカードの色で、複数ある場合は色も指定してください。
花言葉は他にもありますので、花言葉を使いたい場合は別のものを使って頂いても構いません。

・バラ(ピンク、白、黄色)
 花言葉は「愛」と「美」。色毎に別の花言葉もあります。
 ピンク、白、黄色の三色ありますので、色も指定してください。
 ピンクは「感謝」「幸せ」など。
 白は「深い尊敬」「私は貴方にふさわしい」など。
 黄色は「嫉妬」「友情」など。

・鈴蘭(白のみ)
 花言葉は「再び幸せが訪れる」「ずっと前から好きでした」など。

・沈丁花(ピンク)
 花言葉は「栄光」「永遠」など。

・藤(紫)
 花言葉は「歓迎」「恋に酔う」など。

・ゼラニウム(赤)
 「尊敬」「信頼」「真の友情」など。

ゲームマスターより

どうでもいいネタ
ミラクル・トラベル・カンパニー職員の名前が決まるかもしれない
6面ダイスを1つ振っていただき、一番人数が多かった名前になります
複数あった場合は、先に人数が揃った方
ここはネタなので自由参加
プランには書かなくていいです

1・2:サラ
3・4:グレイシー
5:パエリア
6:マッスル☆ロリちゃん

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  カード:バラ・ピンク
メッセージ:特別な貴方へ

色々種類がありますね
どれにしようか悩ましいですけれど

渡すまでは何を書いたのか内緒ですから、覗き見は駄目ですよ
此方の様子を窺う天藍から手元のカードを隠すように

お茶とゼリーを楽しみつつ、天藍がカードを書き終えた所で交換
メッセージを見て少し首を傾げる天藍に
ピンクのバラは感謝と幸せという花言葉があるので、その言葉に天藍と出会えた事や今一緒にいれる事とか沢山の事への気持ちを込めてみましたと

カードの中でかのんらしいかと思ったと選んだ理由を言う天藍に
私も貰ったメッセージと同じ事を思っていました
天藍に同じ事を考えていてもらえるのは嬉しいです
白バラの花言葉と同じですね


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  好きとか愛してるというのは
普段から態度や言葉ではっきり示してるので今更表す必要はないでしょう
あちらもそれを受け止めてくれていますしね。

今回送るのは白い薔薇
メッセージカードにはそれこそ普段口には言わない事を改めて伝えます
どう考えても異常な浮浪者でしかなかった私に声をかけて身柄を引き取り
一人前の人間になるまでいろいろ教えてくれた恩は、一生忘れません

無口だし不愛想ですから、あなたを誤解する人も沢山いると思います
ですが私は優しい貴方を心から愛し尊敬しています、戦いのパートナーとしても男性としても。

まさかディエゴさんからこんな…
薔薇って本数で意味が変わってくるんですよね
調べたんでしょうか、う、嬉しいです


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  ルシェにあげるの、どれがいいかな。(カードを眺める
これかな。(ゼラニウム

おしゃれ。(光に透かし、こっそり匂いも確認した感想
メッセージ、どうしよう。
伝えたいこと……。
『いつも ありがとう』(文字間隔に悩み、慎重に記入
やっぱり、同じことしか浮かばない。(少し自己嫌悪

(カードを受け取り、首を傾ぐ
花言葉が、大事なのかな。どれだろ。(一つずつ頭に浮かべる
ルシェ、なんか楽しそうだから。
たぶん、聞いても教えてくれなさそう。(貰ったカードを光に透かして思う

「きれい」(ゼリーの感想
色々おしゃれなお店。
花(ゼリー)を食べるルシェは、似合ってて。やっぱりきれい。
(目が合い、少し赤くなる
何で。(顔が熱いのを自覚し、俯く


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  カード
ピンクの沈丁花
【萌ゆる心】

行動
ラダさんからのカードを見てにっこり。
でもその後、ラダさんは少し悲しそうな顔で話をしてくれました。

質問の返事に悩みます。
言葉で説明するのは難しいんですよね……。
上手く言葉にできなくて、ごめんなさい。

うふふ。そのゼリー、気に入りましたか?
なんだかラダさんが幸せそうにしていると、私の心も一緒にあたたかくなるんです。
冷たく乾いた私の胸に、新緑が芽吹くような、そんな気持ちがします。
だから私は、ラダさんのことをもっと幸せにしたい。大切にしたいです。

私があなたを好きだと気づいた時、心の中は悪い予感だらけで。
特別な存在を作ることが怖かった。

そうですね、と不気味な笑みを返す。


ユズリア・アーチェイド(ロラン・リウ)
  ゼラニウムのカードに「過去にとらわれずに進むことにしました」と書く

先日気づいたのですけれど
この婚約は私の親が決めたこと
親なき今、婚約を破棄する道もあるのだと

ロラン様も過去の約束など無視してもっとふさわしい女性を探して下さいまし
私では幼すぎましょうし
…急な話で申し訳ございませんけれども
約束を破る事で、茨の道に進むかもしれないことは覚悟しております
それでも、私は他の生き方を考えようと思ったのです

(覚悟していたのに心が揺らいで…兄様が嫌いなわけではないから尚更…!)
えっ
(報復ではなくそう出るとは…兄様は、私の事を何とも思っていないのではないのですか!?まさか兄様が私を好…?)

そんな(言葉が出ない)


●白と赤
 七種類のメッセージカードの中からハロルドが選んだのは白い薔薇のカード。
 『愛』や『好き』を伝える花言葉もあったが今更だ。普段から態度で示し、言葉で伝えているのだから。
 ディエゴ・ルナ・クィンテロもそれを受け入れてくれている。それなら、今日は違う言葉を送りたかった。
「さて……」
 うっすらと店内の照明がメッセージカードの薔薇を浮かび上がらせる。
 指を口元に当てながらハロルドは考えた。
 伝えることは決まっている。
 どう考えても浮浪者でしかなかった自分に声をかけ、食べるものをくれて、休ませてくれて、身柄を引き取ってくれて、そして一人前の人間となるまでたくさんのことを教えてくれた。
 消えた『記憶』をなぞって読んだ、かつての『自分』の日記にはおさらいのようにそのことが書かれていた。
 消えた『記憶』と引き換えに得た今のハロルドにも、ディエゴはたくさんのものをくれた。
 この恩は一生忘れてはならないもの。
 だから、改めて伝えたかった。けれど、いざペンを取ると上手く言葉が紡げない。
 ちら、と向かいに座るディエゴを見る。彼も苦戦しているようだ。
 甘い香りがする薔薇の中でも、特に優しい白薔薇の香りがハロルドの鼻をくすぐる。
 ここは一度、紅茶を飲んで、ゼリーを食べて休憩しよう。その間に何か思いつくかもしれないと考えて、ハロルドはティーカップに指をかけた。

 赤い薔薇のメッセージカードを前に、ディエゴは深く考え込んでいた。
 薔薇は渡す本数で送る意味が異なるという。
 わざわざこんなことを自分が調べたのだと思うと驚きが勝るが、こういう場でもなければ気持ちを伝えられないのもディエゴという男だ。
 一言くらいが丁度いいサイズのメッセージカードだが、ディエゴは浮かんだ言葉を何一つ省きたくはなかった。
 浮かんだ言葉全てが伝えたい言葉で、改めて知っていてほしい言葉だからだ。
 小さな字で丁寧にカードに収めていく。多少詰まって見えるが、伝えたいものの前には瑣末なことだった。

『無口だし不愛想ですから、あなたを誤解する人も沢山いると思います。ですが私は優しい貴方を心から愛し尊敬しています、戦いのパートナーとしても男性としても』

『出会った頃と違ってお前は減らず口も増えたし、俺をからかってくる事もあるが、変わらず愛している。軽々しくこの言葉を使いたくない。だからお前を不安にさせるかもしれない、だが、信じてほしい。この気持ちは本当のものだという事を』

 ディエゴは薔薇の色で花言葉が変わるということも、薔薇の本数の意味を調べている時に知った。
 『深い尊敬』が、白薔薇の香りと共にメッセージカードから強く薫る。
 ハロルドに視線を向ければ、彼女はゆっくりと噛みしめるようにメッセージカードに目を通している最中だった。
 表情の感情の色があまり出ないハロルドだが、親しいものだからこそ分かる喜びの色。
 目の前で読まれることを気恥ずかしく思いながら、ディエゴは咳払いをした。
 ハロルドは読むのを止め、顔を上げた。
「帰りに花を買って帰ろう」
「花、ですか?」
「ああ。薔薇を十二本な」
 予想していなかった申し出は、驚きもしたが嬉しい事でもあり。
 ハロルドの目尻が嬉しそうに下がる。
 意味が通じたのだと分かり、ふっとディエゴも微笑を浮かべた。
 十二本の薔薇の意味。それは『日増しに愛が強くなる』。まさに今のディエゴを示す言葉であった。


●ずっと前から好きでした
 ユズリア・アーチェイドが選んだのは赤いゼラニウムのカード。
 選ぶ時に、首元を飾る花がちり、と音を立てた気がしたが、ユズリアは気にしなかった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 ロラン・リウは恭しく椅子を引き、ユズリアを座らせる。丁寧なやり取りだが、どこか事務的に交わされる言葉。
 決心した以上は進むのがユズリアという少女。
 ロランも席についたことを確認すると、ユズリアは迷わずにペンを取った。
 さらり、さらりとペンを滑らせ、整った字をカードに刻んでいく。
 柔らかな赤いメッセージカードの中。うっすら見えるゼラニウムの花がユズリアの言葉をしかと受け止める。
 ロランも迷いなくペンを走らせた。
 一文字書く度に、優しく甘い、けれど薔薇やラベンダーのような強い個性が無い香りが広がる。
 先にペンを置いたのはロラン。数拍遅れてユズリアもペンを置く。
 ユズリアはカードを伏せてからロランへ差し出した。
 ゼラニウムのカードを裏返して目を通すやいなや、ロランの翡翠の瞳は細められ、眉間に皺が寄る。
『過去にとらわれずに進むことにしました』
 カードに書かれた言葉の意味を、ロランは正しく理解した。
 ユズリアに視線を向けると、彼女は強い眼差しで真っ直ぐにロランを見ていた。
「先日気づいたのですけれど、この婚約は私の親が決めたこと。親なき今、婚約を破棄する道もあるのだと」
「婚約破棄すると?」
 ユズリアはティーカップに指をかけた。小さな指先を温めるように、そっと両手でカップを包む。
 カップを満たす琥珀色が静かに揺れる。
「ロラン様も過去の約束など無視してもっとふさわしい女性を探して下さいまし。私では幼すぎましょうし……急な話で申し訳ございませんけれども」
「親の約束とはいえ俺の親は存命ですよ。一方的な婚約破棄の代償のことは考えた上で仰せですか?」
 細く、白いユズリアの指先に、僅かに力が加わる。ロランが言う『代償』のことはユズリアもよく分かっているのだ。
「約束を破る事で、茨の道に進むかもしれないことは覚悟しております」
 か細く小さな体躯にビスクドールのような肌は儚く、脆い。
 常ならば、それでもラベンダー色の瞳は強く輝いている。けれど、今は僅かに陰っていた。
 覚悟はしていたのに、心が揺らぐ。ロランのことが嫌いではないからこそ、だ。
 しかし、ユズリアはその動揺を押し殺すように、常を装って真っ直ぐにロランを見据える。
「それでも、私は他の生き方を考えようと思ったのです」
 ぶつかり合うニ人の視線は拮抗している。先に逸らしたのはロランだった。正確に言えば、ロランは笑ったのだ。
 ユズリアがこのようなことを言い出した理由はすぐに分かった。
 ユズリアと契約しているもう一人の精霊。ディアボロの小童が何か吹き込んだのだろう。しかし、負ける気はしない。
「では約束ではなく、俺と望んで結婚したいと言わせなくていけませんね」
「えっ」
 放たれた言葉がユズリアに強い衝撃を与えた。色素の薄い肌が更に色を無くしていく。
 ロランが報復ではなくこう来るとは予想もしていなかったのだ。
 自分のことを『障害』とも『道具』とも見なしていない――なんとも思っていないということなのだろうか。
 いや、まさか。
 先の言葉を紐解いていく。意味を深く考えてしまえば、行き着く先にあるものは『好意』。
 自身の考えを打ち消そうとするユズリアだが、先手を打たれた。
 ロランはゆっくりと、あえて見せつけるようにカードを差し出す。
「どうしました? 好き合って結婚するなら何の問題もありませんでしょう」
 白い鈴蘭のカードには『式はいつになさいます?』。
 かちゃり、ユズリアの手中のカップが音を立てる。動揺を押し殺すことも出来ないのだ。
 その姿にロランはほくそ笑む。動揺のあまりユズリアは鈴蘭の花言葉に気づいていないようだ。
 いつ気付くのか。気付いた時は、どうするのか。そして、ディアボロの小童はどう出るつもりか。
 面白くなってきた。
 ロランは満足気に紅茶をすする。その味は美酒のようでもあった。


●一つと全て
 こてり、こてり。並ぶ数種類のカードをひろのは首を傾げながら見比べる。
 首を動かす度に姿を見せる模様をじっくりと眺める。
 同じ白でもバラの白はクリームがかっていて、鈴蘭は純白。沈丁花のピンクは白に近く、バラのピンクは柔らかなベビーピンク。
 どれがいいのだろうか、悩むひろのを眺めるルシエロ=ザガン。彼は既に決まっているらしい。
「これかな」
 ひろのが赤いゼラニウムのカードを選ぶと、ルシエロはすぐに落ち着いた紫色の藤のカードを手に取った。
 ちら、とひろのを一瞥する。ひろのはカードを光に透かしてみてみたり、漂う香りを楽しんだりしている。そんな様子もルシエロには愛しく思えて仕方がない。
 去年は少しばかり抑えきれなかったが、今年も同じことになりそうだと予感させられた。

 ルシエロはさらっとカードに言葉を記す。
 予想通り、ひろのはまだ悩んでいるようだ。椅子に深く腰掛け、ルシエロはいつも通りひろのを急かすこと無く、ゆっくりと眺めて待つことにした。
 ひろのはペン尻を口元に当て、伝えたい言葉を探す。
 朝露を受けた花がゆっくりと開いていくように、じわじわと形になった言葉を慎重に書いていく。文字の間隔に気をつけながら、一文字一文字丁寧に。
 出来栄えは悪く無い、と自分では思う。けれど、同じことしか浮かばないことに少しばかり自己嫌悪してしまう。
「書けたか?」
「あ……うん」
 ハッと我に返ったひろのは差し出されたルシエロからのカードを受け取り、代わりに自分のカードを差し出す。
「花言葉を添えてというより、メインだな」
 ひろのは藤のカードに書かれた言葉を読み取ると、首を右に傾げた。書かれていた言葉は『just for you』。
 花言葉が大事ということだろうか。『歓迎』『恋に酔う』――先ほど見た花言葉を一つ一つ思い浮かべる。
 どれだろうか。悩み、ちらとルシエロを窺うも彼は楽しそうに笑っているだけで、教えてくれそうにない。
 既にルシエロはカードに目を通したようだ。満足気に見えるので、あれで良かったのだとひろのはほっとしつつ、カードを光に透かす。
 鈴生りの藤の花が描かれたカードからは甘いけれど爽やかな香りがする。ひろのの笑みがほんのりと花開く。
 ひろのは花のカードを随分と気に入っていたようで、来て正解だったとルシエロは思う。
 そして、ひろのを真似てカードを光に透かしてみる。
 添えられたゼラニウムの花言葉は『信頼』といったところだろうか。ルシエロは再び書かれた言葉に目を走らせる。
『いつも ありがとう』という言葉は実にひろのらしく、そこがまた愛おしいのだが、もう少し何か欲しいと思うのもまた確か。
 まあ、今はそれでもいい。近づけていることは間違いないのだから。

 赤、白、黄色、オレンジの花々に添えられたグリーンのミント。エディブルフラワーのゼリーは花を敷き詰めた宝石箱のようで。
「きれい」
 ひろのは花を崩さぬよう、慎重にスプーンを入れる。
 花のカードといい花のゼリーといい、随分おしゃれな店だ。食べ物とはいえ、最後まで綺麗な形を堪能したいとひろのは思う。
 ひろのは紅茶をすすり、ルシエロを見た。
 ルシエロの食べ方は男性的だが粗野ではなく、むしろ丁寧だ。華やかな彼が花を食べるのは、とても似合う。やっぱり綺麗だと、思わず見入ってしまう。
 そんなひろのの視線に気づいたルシエロが笑みを返せば、ひろのは頬を僅かに染める。
 何故、とひろのは思う。顔が熱い。どこか気恥ずかしくて俯いてしまう。
 良い傾向だ、とルシエロは思う。自分を意識するようになってきたのだと分かる。
 ルシエロの笑みが愉しげなものへと変わる。
 ひろのが求めてくるのを『歓迎』する。ひろのに『酔っている』自覚もある。『離す気もない』。
 藤の花言葉全てを乗せた思いそのままに、ルシエロはひろのの様子を堪能するのであった。


●紅は白にして桃
 並べられた七種類のメッセージカードをかのんと天藍は二人で眺める。
「色々種類がありますね」
「バラで赤があれば良かったが無い物は仕方ないな。どれにするか」
 赤いバラは愛情と言った系統の花言葉があったような覚えがある。そのことを天藍に教えたのは恐らくかのんだ。
 はっきりとは覚えていないが、植物の知識――特にバラであればかのんしかいない。
 かのんは悩ましいと呟きながらも、スッと淀みない手つきでカードを取る。どのカードを選んだのかはかのんの体に隠れて見えなかった。
 先に着席したかのんの様子を見ていると、天藍の視線に気づいたかのんは腕でカードを囲い込むようにして隠した。
「渡すまでは何を書いたのか内緒ですから、覗き見は駄目ですよ」
 かのんにしては幼くみえる仕草に天藍は苦笑を零してから、改めて彼女の為のカードを選び始めた。

 天藍が席についた頃には、既にかのんはカードを書き終えていた。
 けれど紅茶とエディブルフラワーのゼリーは手付かずのまま。どうやら天藍を待っていたらしい。
「小さな庭みたいですね」
 ふふ、と笑い、ゼリーに手をつけ始めるかのん。
 天藍も紅茶を口にし、喉を潤してからペンを取る。
 言葉はカードを選んでいる時に決めた。カードが華やかなのだから、飾らず天藍らしい言葉を記していく。
 その間、かのんは努めてゼリーを見るようにしていた。天藍が何を書いているか、どのカードを選んだのか。気にはなるが、渡すまで内緒と言ったのはかのん自身だ。
 ことり、ペンを置く音がしたので、かのんはちらと天藍を窺う。
「見ても大丈夫だ」
 天藍はそう言って、伏せたカードをかのんへと差し出す。受け取ったかのんも同じようにカードを差し出した。
 先にカードを見た天藍は首を僅かに傾げた。甘く香るピンクのバラのメッセージカードには『特別な貴方へ』と書かれている。
「ピンクのバラは『感謝』と『幸せ』という花言葉があるので」
 だから。
 言いながら、かのんはメッセージカードの香りと同じように甘く笑う。
「その言葉に天藍と出会えた事や今一緒にいれる事とか沢山の事への気持ちを込めてみました」
 天藍の頬が緩む。『特別』な関係になって一年が経つが、それでも『特別』という言葉は嬉しい。
「俺はかのんらしいカードを選んでみた」
「私らしいとは?」
 天藍が選んだのは白いバラのメッセージカード。
「前に、白バラの花言葉に相思相愛という物があると言っていただろう」
 目指す空色の為に育種するかのんは、度々バラのことを口にする。
 いつ聞いたか。どんな時だったか。そんなことまでは覚えていないが、かのんが語るバラの知識は一つ一つ、天藍の中に根を張っている。
 花言葉もその一つだ。
「俺が想うのと同じようにかのんが想っていてくれる事に、そのとおりだと思ってな」
 メッセージカードを差し出された時、かのんは香りでバラだと見当がついていた。けれど、記されていた言葉については違う。
 何が書かれているのかは見るまで分からなかったが、気持ちは同じ。
 違う色のバラだけれど、同じ色のバラ。
 それがかのんには嬉しくて、喜ぶかのんの姿が天藍も嬉しかった。
 白いバラのメッセージカードに書かれた言葉は『これからも共に』。
 去年、かのんはもう一人の精霊と契約したが、これからも自分がかのんの傍にいれるならと天藍は思う。
 そして、もらった言葉通り、これからも共にあるのだと、かのんは思うのであった。


●いつかのやり直し
「エリーは決まってる?」
「はい。ラダさんは?」
「ボクも決まってるよぉ」
 エリー・アッシェンは迷わなかった。
 ラダ・ブッチャーも迷わなかった。
 二人はそれぞれカードを選び、ペンを取る。
 書いている間、相手のことを思いながらも相手のことは気にしなかった。それは伝える言葉と受け取る言葉を大切にしたいという気持ちの表れ。
 エリーは白く、細い指でラダは黒く、大きな手で。記す文字こそ違えど、丁寧にカードに刻みつけていく。
 ことり、ことり。先にエリーがペンを置き、僅か数秒遅れてラダもペンを置く。
 テーブルのエディブルフラワーのゼリーが少しばかり気になるが、ラダはそれよりも先にとカードの交換を促した。
 エリーが受け取ったのは赤いゼラニウムのカード。
 赤い色に惹かれたというラダの声を聞きながら、カードに目を通す。
 柔らかな甘い香りと記された言葉にエリーしばし酔う。『アンタは愛をくれた人』。
 エリーはニッコリと笑う。
 一方で、ラダはエリーからの言葉に悩む。
 沈丁花のピンクのカードに書かれていたのは『萌ゆる心』。一見すると分かりにくく、けれど実に直接的な言葉。
「エリーがボクのこと好きだって言い出した時ねぇ、悪い冗談だと思ったんだよ」
 ぽつり、紡ぎだされたラダの言葉。エリーは静かに続きを待つ。
「ボクが誰かの特別な存在になれるなんて、考えたこともなかったから。エリーはボクのどういうところが好きなのかな?」
 どこか不安そうな声音に隠れているのは期待。存在肯定されたい、褒め言葉が欲しいといった打算があることに、ラダ自身は気づいていない。
 エリーは静かに目を伏せ、悩む。探せども探せども、答えを明確な言葉には出来ない。
「言葉で説明するのは難しいんですよね……。上手く言葉にできなくて、ごめんなさい」
「そっかぁ……」
 期待はずれの言葉にラダの大きな体が僅かに萎む。けれど、なんで残念がる理由は無いと自分に言い聞かせた。
「じゃあ、ゼリー食べよっか」
「そうですね。頂きましょう」
 気を取り直して、ラダはゼリーを掬う。
 華やかな見た目通りの濃い甘さがあるのかと思いきや、口に含んだゼリーはあっさりとした爽やかな甘さで。パッとラダの顔が輝く。これならチョコチップクッキーを食べながらでも美味しく頂ける。
「幸せだよぉ」
「うふふ。そのゼリー、気に入りましたか?」
「二つ目もいけちゃうくらいだね」
「それはよかった」
 ティーカップを持つエリーは目を細め、幸せそうにゼリーを食べるラダを見守る。
「なんだかラダさんが幸せそうにしていると、私の心も一緒にあたたかくなるんです。冷たく乾いた私の胸に、新緑が芽吹くような、そんな気持ちがします」
 ぽかぽかと、指先から伝わる熱とはまた違う。
 冬の窓辺の陽だまりのように。外で感じる春の日差しのように。雪を溶かし、氷を溶かす、そんな温かさ。
「だから私は、ラダさんのことをもっと幸せにしたい。大切にしたいです」
 エリーはそう言って柔らかく笑う。
 スプーンを咥えたまま、ラダは顔を赤くする。エリーの愛の言葉は、先ほどラダが欲しがった言葉そのものだった。
 ふいにエリーの瞳に影がさす。
「私があなたを好きだと気づいた時、心の中は悪い予感だらけで。特別な存在を作ることが怖かった」
 エリーの脳裏を過るのは母や祖母、曾祖母の姿。ああはなるまいと誓えども、やはり怖かった。
 けれど――
「あれ? 怖いのはエリー大好きでしょ?」
 エリーが抱えた苦しみは既にラダも知っている。二人で分かち合い、共に流したもの。
 だからラダは冗談めかして言う。
「そうですね」
 エリーは不気味に笑った。迎え撃つように、わざとらしく不気味に笑った。
 その笑顔を見て、ラダはアヒャヒャと彼らしく笑うのであった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月14日
出発日 01月19日 00:00
予定納品日 01月29日

参加者

会議室

  • [7]ひろの

    2016/01/18-23:00 

  • [6]かのん

    2016/01/18-22:52 

  • [5]ハロルド

    2016/01/18-00:06 

  • [4]かのん

    2016/01/17-16:36 

    こんにちは、かのんとパートナーの天藍です

    お花のカード、種類が沢山あってどれを使うか悩んでしまいます……
    エディブル・フラワーのゼリーも華やかで素敵ですね
    よろしくお願いします

    あっと、さいころ……結果が少し楽しみです

    【ダイスA(6面):1】

  • [3]ひろの

    2016/01/17-11:55 

    ひろの、です。
    よろしく、お願いします。(小さくお辞儀

    サイコロ。(ぽい

    【ダイスA(6面):3】

  • [2]エリー・アッシェン

    2016/01/17-00:38 

    ラダだよぉ! 参加者の皆、よろしくねぇ。
    花とか香水も良いけど、ボクはエディブル・フラワーのゼリーも気になってるよぉ。美味しそ~。


    振ったサイコロで、名前が決まるんだってね~。
    受付の人がペペロンチーノさんなら、カンパニー職員さんの名前は、5のパエリアさんを推すよぉ!

    【ダイスA(6面):6】


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