プロローグ
何気なく、一人で立ち寄った超大型ショッピングモール『タブロス・モール』。
特に何かを買おうと思った訳ではない。あえて理由を挙げるならば、年明けからしつこく続いているSALEの文字が気になったから、といったところだろう。
ぶらぶらとモール内を見てまわる。
ふと目についた物。
『アロマの香りでリラックス!アロマハンドマッサージセット』
可愛らしい字体で書かれたポップだ。
『簡単・ハンドマッサージ』と書かれた本、ホホバオイルの瓶、そして、アロマオイルの小瓶。それらがワンセットになって置かれている。
ポップには、セットの煽り文句が続いている。
『最近お疲れかな?というパートナーに。
ストレスがたまってる?そんな雰囲気のパートナーに。
優しい香りのマッサージオイルで、癒しのハンドマッサージをしてあげませんか?
ホホバオイルにお好きな香りのアロマオイルを加えれば、マッサージオイルの出来上がり!さぁ、パートナーの手をとって!
今なら、ハンドマッサージのガイドブック、ホホバオイル、アロマオイルがセットで400Jr!』
「アロマオイルのハンドマッサージ……ねぇ…………」
ポツリと呟き、パートナーの顔を思い浮かべる。
そういえば、最近疲れが溜まっていると言っていたような、いないような……。
そうでなくても、パートナーなのだ。たまにはこんなスキンシップも面白い。あいつにマッサージをしてやろうと、セットを一つ、手に取った。
解説
●概要
アロマオイルでハンドマッサージをしてあげる、または、してもらうエピソードです。
「神人が精霊をマッサージする」または、「精霊が神人をマッサージする」のどちらかになります。
マッサージをする側が、相手のお宅へお邪魔してマッサージをします。
●消費Jr
マッサージセットの購入費として、400Jr消費します。
●アロマオイルの香り
以下から1つお選びください。
A. ベルガモット(爽やかなシトラス系の香り)
B. カモミール(林檎に似たフルーティーな香り)
C. クラリーセージ(やや甘く、スパイシーな香り)
D. ローズウッド(バラに似たフローラルな香り)
E. ユーカリ(清涼感のある香り)
F. イランライン(濃厚で甘くセクシーな香り)
●その他
寿ゆかりGM主催のフレグランスイベント関連エピソードです。
参加者へ全8種類のうち、ランダムで2つの『香水』がプレゼントされます!
https://lovetimate.com/campaign/201512event/gm_frag.cgi
ゲームマスターより
ご覧いただきありがとうございます。りょうです。
寿ゆかりGM主催【薫】関連エピソードです。
皆様、ぜひ香水コンプリートを目指して下さいね!
今回はマッサージのお話です。オイルマッサージって気持ち良いですよね〜。
アロマオイルの香りに癒されながら、ハンドマッサージでスキンシップを楽しんでください。
皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
*する方。カモミール ランスの受験もいよいよ本番目前 報われて欲しいと思う だから今日はコリを解してリラックスして貰いたいなと思ったわけだ でも恥かしいから 「物は試しなんだ。練習台になってくれ」なんて言うけれど… あんまダメダシすんなよ(不安なので予防線 ランスの知ってる本職とは違うんだからな(更に予防線 ええい、いくぞと手を掴む! 教本の通り丁寧に 香りが気持ち良いな 節の目立つ指、俺より大きい手、強い筋肉、少し黒い肌 しげしげと眺めてしまう あ、ペンダコかな、これ 調子を聞きたいけれど、頑張ってるの分かってるから、聞かない 「合格発表はネット?それとも見に行く?」 ああ。良いよ。一緒に行こう 俺達の願い込め、ただ一心に… |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
最近お疲れかな?というパートナーに。 ストレスがたまってる?そんな雰囲気のパートナーに。 さぁ、パートナーの手をとって! キミにマッサージをさせてやろう! 何一つおかしいところはないね? はいこれ。香りはローズウッドだ優雅だね ソファで読書中のゼクにセットを渡し 僕自身もゼクの腕にダイブ はーやーくー 意外? だってキミ、こういう匂い好きでしょ? そうじゃなくて。僕が甘い香り、させてるの。 作業を手伝うなんてことはせず 背中を預けて、手を出して。さあ、どうぞ? うーん、なかなかに気持ち良いな されるがままに。そっとゼクを窺う。 ……たぶん、僕がするより、こっちの方が リラックスすると思ったんだよね ゼク、こういう作業、好きだし。 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
マッサージされる。ラキアとは彼宅で同居。 毎日筋トレとか、任務に向けて日々鍛錬を欠かさない。 ストレッチしてちゃんと筋肉をほぐしてるけどさ。 ラキアに「少し疲れが溜まってる?」と言われれば、そうかな?という気持ちにもなる訳で。 アロマオイルの香りが何だかリラックスしていい感じじゃん。癒されるぜ。ラキアのマッサージが超キモチいい。 マッサージの威力は凄いな。 自分の体を思った通りに動かせれば、どんなスポーツでも巧くなれる。 武器の扱いもそうじゃん。 一流の選手達は道具の使い方じゃなく、自分の体の操り方が巧いんだと思うぜ。 オレもそういう人達に追い付きたいから、日々頑張るのさ。 ラキアが傍に居てくれて心強いぜ。 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
D ローズウッドは免疫力を高めたり、抗菌作用もあるらしいから、この季節にはぴったりかなと フィンには風邪とか引かず元気で居て欲しいし バラに似た甘さもいい 書き物やパソコン作業、家事で疲れてるフィンの癒しになれば… とはいえ、素直に癒したいというのも恥ずかしい 「今日、イェルクさんと偶々買い物に行ったら見つけて…イェルクさんもカインさんにマッサージしてあげるらしいから、俺もやってみようかなって思ったんだ」と(うん、言い訳完璧) 肩のコリを和らげるマッサージに挑戦 合谷のツボを押す。このツボ、肩こりや疲れ目に効くらしい どうだ?痛いなら、こってる証だ …あんまり無理するなよ? 痛気持ちいいぐらいの力加減で調整して押す |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
バレンタイン、ホワイトデーもあるから最近忙しい 徹夜とかはしてねぇけど、同じ姿勢は肩凝るし …なんて思ってたら、イェルがマッサージしてくれるらしい アロマハンドマッサージ…存在程度なら知ってるな じゃ、頼むわ (手を取るだけで顔真っ赤…可愛い奴)と心の中で呟き ティエン、香り強めだが、大丈夫か? 樹木系だが…あ、見守る姿勢 何かわくわくしてんな 海十と一緒に購入… フィンも海十から施術されんのか あいつも在宅仕事だし、肩凝ってそうだな 今度昼飯誘って詳細聞いてみるか へー、ユーカリはそういう効能か ちょっと痛ぇけど気持ちいいな 終わったら、最後の集中力補給に抱き寄せてキス ※仕事と並行して私的に指輪作成している為(EP31 |
●キミにマッサージをさせてやろう!
ゼク=ファルは本に落としていた視線を、前方に向けた。
「最近お疲れかな?というパートナーに。ストレスがたまってる?そんな雰囲気のパートナーに。さぁ、パートナーの手をとって!」
目の前に立った柊崎 直香が述べるのは、彼がタブロス・モールで見かけたポップの文句である。しかし、その事をゼクは知らない。
ゼクと直香は同居中である。出かけていた直香が帰宅したのは、つい先程のことだ。帰ってくるなり何を言い出すのかと、ゼクは僅かに眉を顰めた。
「キミにマッサージをさせてやろう!」
言って直香が取り出したのは、未開封のアロマハンドマッサージセット。
なるほど、と状況を理解すると、ゼクは読んでいた本に栞を挟み、テーブルへと置いた。
「……つまり俺にマッサージをしろ、ということだな?」
「何一つおかしいところはないね?」
ふふんっと直香が悪戯に笑う。
「はいこれ。香りはローズウッドだ。優雅だね」
直香はマッサージセットをゼクに手渡すと、ゼクの腕に飛び込んだ。当然のようにゼクの膝の上に乗る。
ゼクは目の前に迫った直香から視線を外し、手渡されたマッサージセットを確認する。
マッサージ、しかもアロマオイルのマッサージなど、やった事が無い。幸い、セットにはハンドマッサージのガイドブックが含まれている。
ゼクはガイドブックを開いた。そこには、マッサージオイルを使用してのハンドマッサージのやり方が、図付きで載っていた。マッサージオイルの作り方についても書かれている。
「はーやーくー」
駄々をこねるように直香が身を揺する。ゼクはサッとガイドブックに目を通すと、それを閉じて傍らに置いた。
「今からやるから大人しくしてろ」
直香を抱き上げ、後ろ向きに座り直させた。直香が背中を預けてくる。オイルの準備など、手伝うつもりは無いらしい。
ゼクはホホバオイルの瓶の蓋を開けた。蓋は計量カップになっている。膝に直香が乗っているため、零さないように気をつけつつ、ホホバオイルをカップに出す。次に、アロマオイルの瓶の蓋を開け、カップの中のホホバオイルへと数滴垂らした。
ローズウッドの香りがゼクの鼻孔をくすぐる。甘い、バラのような香りだ。
「意外だな……」
思わず言葉を漏らした。
「意外?だってキミ、こういう匂い好きでしょ?」
背中越しに直香が問う。
「別に、それ程甘い香りを好むわけでは……」
「そうじゃなくて」
直香はくすっと笑ってゼクを仰ぎ見た。
「僕が甘い香り、させてるの」
「お前が?——まあ、嫌いじゃない」
バラのような甘い香りを纏う直香を思い浮かべて、ゼクは静かに微笑んだ。
ゼクは、ホホバオイルとローズウッドのアロマオイルで出来たマッサージオイルを手に取った。とろりとした液体を掌で温めてから、どうぞ、とばかりに差し出された直香の手を取る。
直香の掌と甲にオイルをのばしていく。手全体にオイルが馴染んでから、直香の手の甲を丸めるように親指を滑らす。ガイドブックに書かれていた事を思い出しながら、力加減に気をつけ、丁寧に、優しく包み込むように揉み解していく。
「うーん、なかなかに気持ち良いな」
満足そうな直香の声に、ゼクの頬も緩む。
直香は、そっとゼクの様子を窺った。彼の注意は手に向いているようで、直香の視線には気づいていない。
直香の手を見つめるその目は、とても優しい。
(……たぶん、僕がするより、こっちの方がリラックスすると思ったんだよね)
ゼクの表情を見る限り、それは正しかったようだ。
(ゼク、こういう作業、好きだし)
直香は視線を自分の手——ゼクの大きな掌に包まれている手へと移した。
黙々と丁寧にマッサージを続けるゼク。彼の手は、直香の小さな手を愛おしそうに、慈しむように包み込んでいる。
辺りにはローズウッドの香りが満ちている。甘く、静かな時間が流れていった。
●願いを込めて
アロマハンドマッサージセットをテーブルに置いたアキ・セイジは、ちらりと時計を見た。そろそろ、同居中であるパートナーのヴェルトール・ランスが、仕事から帰ってくる時刻だ。
すると、ガチャリと扉が開く音がした。
「ただいまー」
「おかえり」
セイジは立ち上がってランスを迎えると、彼から背広を脱がし、ネクタイを解いた。僅かに酒の香りがしている。それは、ランスの仕事上、仕方の無い事だ。今日は別の香りでリラックスしてもらおうと、セイジはマッサージセットが用意されたテーブルへとランスを誘った。
「今日は何事?」
リビンングのテーブルの上に置かれた、見慣れない物。興味津々なランスは嬉しそうに尻尾をパタパタと振った。
「ハンドマッサージ?」
ガイドブックの表紙を見たランスの問いに、セイジは頷いた。
ランスは大学受験を控えている、受験生である。仕事と勉強の両立は間違いなく大変で、疲れもたまっているだろう。だから、今日は凝りを解してリラックスしてもらおうと、セイジは思ったのだ。
しかし、そんな事をストレートに言うなど、恥ずかしくて出来はしない。だから、セイジは態と意地悪く笑って言った。
「物は試しなんだ。練習台になってくれ」
「あー、練習台ね」
ランスは承諾してセイジの隣に座る。そして、ガイドブック片手に、熱心にマッサージの準備をするセイジを眺めた。練習台と言った割りには真剣なその眼差しと、慎重な手つき。
(気まぐれの振りしても分かってるさ。俺のためだろ)
ランスは小さく笑った。
しばらくすると、辺りに漂うのは林檎に似た甘い香り。
「カモミール?」
くんくんと鼻を動かし、ランスは訊いた。
「ああ。カモミールにはリラックス効果があるらしいからな」
セイジはガイドブックの通りに掌でマッサージオイルを温める。
「言っておくけど、あんまダメダシすんなよ」
「はいはい」
「ランスの知ってる本職とは違うんだからな」
「わかってるよ」
予防線とばかりに矢継ぎ早に言うセイジに、ランスはニコニコと応える。
手の中のオイルは十分に温まっている。いくぞとばかりに、セイジはランスの手を掴んだ。
(俺より大きい手、強い筋肉、少し黒い肌……)
ランスの手をしげしげと眺めながら、ガイドブックに習って、丁寧にマッサージを行う。
節の目立つ指を、一本ずつ、指の付け根から指先に向かって揉み解していく。
(あ、ペンダコかな、これ)
中指の第一関節あたりが僅かに膨れ、固くなっている。
ペンダコが出来るほど、勉強に勤しんでいるのだろう。受験勉強の調子はどうか、などと訊く必要はない。
程よい力加減で真剣にマッサージをしてくれているセイジの姿を、ランスは見つめた。
僅かに影を落とす睫毛、綺麗な鼻筋、丁寧にマッサージをしてくれる指先……。
セイジが特に右手の中指を気遣ってくれている事に気づき、カモミールの甘い香りの中、ランスは幸せそうに微笑んだ。
身だしなみを気にする職業であるから、普段から爪や手の手入れは欠かさないのだが、うっかりできてしまったペンダコ。そこに、優しく触れる指先。
マッサージを続けながらセイジが言った。
「試験、もうすぐだな」
「ああ」
「合格発表はネット?それとも見に行く?」
「発表は見に行きたいな」
以前に見た、ドラマのワンシーン。掲示板に張り出された合格者の受験番号、その中に自分の番号がある事を祈って掲示板を見つめる。そんな体験をしてみたいのだ。大切な人と共に。
「一緒に来てくれるか?」
「ああ。良いよ。一緒に行こう」
「サンキュ!」
セイジの答えに、ランスの表情はぱーっと明るくなる。
(セイジのためにも、俺、頑張るからな……)
ランスの決意に気づいてでもいるのだろうか。セイジは願いを込めるかのように、ただ一心にランスの手を優しくマッサージするのだった。
●俺得
「手を出せ」
夕食後、リビングで落ち着いているところだった。蒼崎 海十の言葉に、フィン・ブラーシュは驚いた。
どういうことだろうかと首を傾げると、海十はホホバオイルとアロマオイルの瓶、ハンドマッサージのガイドブックを取り出した。
「今日、イェルクさんと偶々買い物に行ったら見つけて……イェルクさんもカインさんにマッサージしてあげるらしいから、俺もやってみようかなって思ったんだ」
アロマオイルの香りはローズウッド。免疫力を高め、抗菌作用もあるらしいそれは、この季節にはぴったりだろう。フィンには風邪などひかず、元気でいて欲しいという海十の思い。
また、ローズウッドはバラに似た甘い香りがする。フィンは職業がらパソコンでの作業が多い。加えて、在宅仕事であるから家事もしてくれているのだ。きっと疲れがたまっているだろう。この甘い香りが彼の癒しになれば良い。
とは思うが、そんな事を素直に口にするなど、恥ずかしくて海十にはとても出来そうにない。イェルク・グリューンの話を出したのは、照れ隠しと言い訳だ。
幸い、フィンはこの言い訳をすんなり受け入れてくれたらしい。
「カインさんは職人さんだからね。きっと凄く喜んでると思うよ」
カイン・モーントズィッヒェルはアクセサリー職人である。肩凝りなどに悩んでいる可能性は高い。それは、ルポライターであるフィンも同じだ。パソコン作業とは、存外に肩が凝るのだ。
フィンは、海十の顔を見て言った。
「俺も、すっごく嬉しい」
にこりと微笑む。その笑顔に海十は照れたのか、顔を背けてしまった。それを誤摩化すように、マッサージの準備を始める。
慣れない手つきで、マッサージオイルを作る。ホホバオイルにローズウッドのアロマオイルを数滴垂らすと、甘い香りが辺りに広がった。
海十の姿を眺めながら、フィンは親しいウィンクルムの姿を思い浮かべる。あちらはどんな風にマッサージをしてもらっているのだろうか。
(ふふ、今度カインさんにも感想を聞いてみようっと)
海十はフィンの手を取った。緊張しているのだろうか、フィンの手にオイルを馴染ませる海十の手は、僅かに震えている。その様子にフィンはふふっと小さく笑う。
緊張で震えるその姿は愛らしいが、口に出して海十の機嫌を損ねたくはない。この事は黙っておくのが良いだろう。
慣れない手つきながらも、海十は慎重にマッサージをしていく。
辺りに漂う甘い香りは心地好く、フィンをリラックスさせる。
(香りも俺の好みで選んでくれたんだろうな……)
それがまた嬉しくて、フィンは再び笑みを浮かべた。
フィンのために、海十が挑戦するのは肩の凝りを和らげるマッサージだ。手の甲を円を描くように揉んでから、親指と人差し指の間に、自分の親指をあてた。合谷と呼ばれる、肩こりや疲れ目に効くツボだ。そこをぐっと押す。
「どうだ?」
フィンの顔をうかがう。
「ん、ちょっと痛いかも……」
「痛いなら、凝ってる証だ」
フィンは海十の健康管理に気をつけている。けれど、フィン自身の健康はどうか。
海十はガイドブックの内容を思い出す。そこには、痛くなりすぎないように力を入れる、とあったはずだ。痛気持ち良いくらいの力加減、と意識しながらツボを押す。
「………あんまり無理するなよ?」
「うん、有難う」
フィンは頬を緩めてそう答えた。
両手のマッサージを終え、海十の手が離れる。
「はい、終わり」
「海十に沢山癒して貰ったから、オニーサン、頑張れるよ」
にこりと笑ってフィンが言うと、海十は気恥ずかしそうに頬をかいた。
「俺からのお礼、受け取ってくれる?」
お礼?と此方を見上げた海十を引き寄せ、キスをする。
俄に赤くなる海十の顔。フィンは唇を離し、ふふっと笑った。
(これだと俺得なだけかな)
フィンはローズウッドの香りの中、真っ赤なバラのように色付いた海十の顔を見つめた。
●集中力補給
仕事部屋から出たカインは大きく伸びをした。
(さすがに、同じ姿勢は肩が凝るな……)
オーダー専門のアクセサリー職人である彼にとって、バレンタイン、ホワイトデーと恋人達のイベントが続く今の時期は忙しい。徹夜とまではいかないにしろ、作業に没頭してしまっていた。
気分転換にリビングへと向かうと、そこには常とは異なる香りが満ちていた。
カインは、ソファーに座っていたイェルクに問いかける。
「何の香りだ?」
「ユーカリのアロマオイルですよ。カインも仕事が忙しくて、お疲れと思いますし、今日は私がマッサージをしようと思いまして……」
テーブルの上には、マッサージオイルの入った小さな器。
カインはイェルクの横に腰掛けた。
アロマハンドマッサージの存在は知っているが、体験したことはない。これが初体験となる。
「じゃ、頼むわ」
イェルクは差し出された手を取った。
(手……)
いつも自分の頭を撫で、抱きしめてくれる手。そう意識してしまうと、途端に気恥ずかしさを感じてしまう。
手を取ったまま動かないイェルクの顔を、カインは覗き込んだ。
(手を取るだけで顔真っ赤……可愛い奴)
赤く染まったイェルクの顔を眺めているのも悪くないが、いつまでもこのまま、というわけにもいかない。
「イェル」
名前を呼んでやると、彼はハッと我に返ったようだ。頬を染めたまま、気恥ずかしさを誤摩化すように口を開く。
「これ、海十さんと一緒に買ったんです」
仕事帰りに立ち寄った、タブロス・モール。そこで、気が合う海十と共に見つけたのが、このアロマハンドマッサージセットだった。
「海十と一緒に購入……。それじゃ、フィンは海十から施術されんのか」
きっとそうだろうと、イェルクは頷いた。
カインは、海十の精霊であるフィンの姿を思い浮かべた。フィンもカインと同じく在宅仕事であるから、同じように肩が凝っているだろう。海十のマッサージはどうだったのか、今度、昼食に誘って詳細を聞いてみようと算段する。
室内に満ちるアロマの香り。その香りは自分には心地好いが、犬に似たレカーロにはどうなのだろうか。
「ティエン、香り強めだが、大丈夫か?」
カインは、ティエンと名付けたレカーロへと視線をやった。ティエンはソファの側に座って、イェルクの手元をわくわくした様子で見つめている。香りを嫌がる様子は無い。
「どうして、ユーカリの香りを選んだんだ?」
「ユーカリも幾つか種類ありましたが、こちらは集中力アップの効果があるみたいなので……」
その声は徐々に小さくなる。そこに続けたかった『カインが素敵な仕事をしてくれたら』という言葉は彼には届けられなかったが、効能はしっかり伝わったようだ。カインは関心したように言った。
「へー、ユーカリはそういう効能か」
確かに、仕事部屋に籠っていた時とは違い、頭がすっきりしている。
香りに加えて、イェルクのマッサージがまた良い。丁寧にカインの手を揉んでくれている。
僅かな痛みがあるけれど、気持ち良い。肩凝りに効くツボでも押してくれているのだろうかと、カインはぼんやり考えた。
両手のマッサージを終え、イェルクが顔を上げた。
「終わりま……」
イェルクが言葉を言い切る前に、カインは彼を抱き寄せ、口づけた。
唇を離せば、今日一番の赤い顔で、目を白黒させているイェルクの顔。
「最後の集中力補給」
ふっと笑ってイェルクを離してやる。
「補給って、あ、あなたって人は……!」
イェルクは両手で顔を覆った。どうしたのかと、ティエンが鼻先を押し付けてくる。
「ティエン、今の私の顔を見てはダメです」
イェルクはティエンに背を向け、ソファーに身を預けた。
(嬉しい……けれど、恥ずかしくて死にそうだ)
カインは笑ってソファから立ち上がると、リビングを後にした。
最後の集中。それは仕事のためではない。
カインは自分の手を見つめた。この手を優しく包み、丁寧にマッサージをしてくれたイェルク。彼にふさわしい指輪を作るため、カインは仕事部屋へと向かった。
●疲れた身体にマッサージ
「ハンドマッサージ?」
セイリュー・グラシアは目をぱちくりさせて、そう言った。
パートナーのラキア・ジェイドバイン宅のリビングだ。同居中であるため、セイリューにとっても我が家である。
「セイリューの疲れた筋肉を揉み解してあげよう」
ラキアが手にしているのは、ホホバオイルと、アロマオイルの瓶。
「少し疲れがたまっているでしょ?」
毎日の筋トレと、任務に向けて日々の鍛錬を欠かさないセイリューだ。鍛錬の後には毎回ストレッチをして、筋肉も解している。正直なところ、疲れているという自覚は無い。しかし、ラキアに疲れがたまっているのではないか、と言われると、そうかもしれない、という気になってくる。
そもそも、セイリューにマッサージを断る理由などないのだ。お言葉に甘えて、マッサージをしてもらう事にする。
リビングに敷かれたラグの上に向かい合わせに座る。
ラキアは、ローテーブルの上に置いた器にホホバオイルを注ぐと、そこに、アロマオイルを数滴垂らした。彼が選んだのは、カモミールのアロマオイルだ。
辺りに林檎の様なフルーティーな香りが広がる。その香りが、セイリューをリラックスさせる。
「何の香り?」
「カモミールだよ。リラックス出来るのが良いよね。精神的にもとっても癒されるし」
「ああ、確かに癒されるぜ」
にっこり笑ってセイリューが言えば、ラキアも笑顔になる。
ラキアはオイルを手に取ると、しばし掌でオイルを温めた。そして、セイリューの手を取り、慣れた手つきでオイルを馴染ませ、マッサージをはじめる。
小指から順に、指を一本ずつ少し引っ張るように力を加えながら揉んでいく。それが終わると、掌の真ん中辺りを円を描くように揉みだした。
「ここはね、労宮といって疲れを癒してくれるツボだよ」
「んー、超キモチいい」
そう感じるという事は、ラキアに言われるまでは自覚がなかったものの、本当に疲れがたまっていたという事だろう。
その後も、ここは肩凝りに効く、ここは足に良い、ここは代謝を良くすると、ツボを教えながら、ラキアはマッサージをしていく。手だけでそんなにツボがあるのかと、セイリューは感心してしまう。ツボを押さえる事で身体が楽になるのだから凄い。
「マッサージは凄いな」
素直な感想を述べると、ラキアが笑った。
「セイリューってば猫やレカーロと遊ぶのも全力だもの。毎日の運動会も凄いと自覚してよ。その疲れは鍛錬だけじゃないよ」
最後は諭すように言われ、セイリューはばつが悪そうに笑った。
両手のマッサージが終わる。血の巡りが良くなったらしく、セイリューの身体はポカポカと温かい。
セイリューは軽くなった身体を、んーっと伸ばした。
「ありがとう、ラキア。明日からの鍛錬も頑張れるよ」
笑顔で礼を言う。
「その様子だと、またすぐに疲れがたまりそうだね」
どうして、そこまで鍛錬に取り組むのか、ラキアは訊いてみたくなった。
「毎日頑張っているけど、どうして?」
「自分の体を思った通りに動かせれば、どんなスポーツでも巧くなれる。武器の扱いもそうじゃん」
そうだね、とラキアは頷く。
「一流の選手達は道具の使い方じゃなく、自分の体の操り方が巧いんだと思うぜ。オレもそういう人達に追い付きたいから、日々頑張るのさ」
だから鍛錬を欠かさないのだと、セイリューは言った。
なるほど、とラキアは思う。日々の鍛錬をストイックに頑張っているとは思っていたが、それにはちゃんと理由があったのだ。色々と考えているのかと感心する。
「セイリューは辿り着きたい目標に向かって真っすぐ努力する姿が凄く良いよね。君のそういう所、とても好きだな」
日々努力をするセイリューに自分がしてあげられる事は何だろうか。ラキアは考えて言った。
「疲れたら、またマッセージをしてあげるよ」
「ラキアが傍に居てくれて心強いぜ」
微笑むラキアに、セイリューが明るく言った。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | りょう |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月17日 |
出発日 | 01月24日 00:00 |
予定納品日 | 02月03日 |
参加者
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
会議室
-
2016/01/23-23:52
プランできたー。
ラキアがマッサージしてくれるから超楽しみさ。
皆もいいひと時を過ごしてくれ! -
2016/01/23-23:06
文字数の関係上、買う場面をどうしても入れることが出来ず、自宅からスタートになった。
なので、皆とは関わらないと思うけど、リザルトで皆の様子が読めるのを楽しみにしている。
俺とあいつはルームシェアしているので、訪れる以前に同居。
とりあえず、俺がマッサージするほうだ。
ためしにやってみたかったし、やるには実験台というか練習台が必要だからな。
(PL:と言うわりには真剣である) -
2016/01/23-21:51
-
2016/01/23-19:26
-
2016/01/23-00:41
-
2016/01/23-00:41
-
2016/01/23-00:40
>イェルクさん
こちらこそ、有難う御座います!
買い物、凄く楽しみです。
癒す事ができるよう、お互い頑張りましょうね!(ぐっ -
2016/01/23-00:33
-
2016/01/21-08:47
イェルク:
>海十さん
ありがとうございます。
海十さんとなら楽しい買い物になると思いますし、マッサージ、お互い頑張りましょう。 -
2016/01/20-23:00
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願い致します!
>イェルクさん
俺がフィンをマッサージしようと思ってましたので、宜しければ是非!
フィンも職業柄、肩こりありそうですからね。
イェルクさんと一緒だと心強いですし、その…イェルクさんと一緒に買ったと言えば、フィンにも切り出しやすいですし…。
是非ともよろしくお願いします!(ぐっ) -
2016/01/20-22:44
イェルク:
イェルク・グリューンです。
パートナーはカイン・モーントズィッヒェル。
既知の方も初めての方もよしなに願います。
マッサージは、コホン、私が担当します。
カインも在宅仕事で肩が凝っていると思いますし。
>海十さん
あ、良ければ、ですが。
フィンさんも在宅仕事ですし、良ければ、アロマオイルを一緒に買いに行っていいでしょうか。
マッサージの話ですから、海十さんと一緒に行くという行動ではなく、海十さんと一緒に行ったという話をカインにマッサージしながらする形になると思うのですが…。
海十さんは他人事に見えないのです。相手に翻弄されるという意味で(ぼそ) -
2016/01/20-04:19