【祝勝/船旅】プリンセスにガラスの靴を(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「ダンスホールで待ち合わせをしましょう。そうね、約束は19時がいいわ」
 お互い着替えて準備も整っているのに、そんなことを言うから、おかしいと思ったのだ。

 ホールの壁にもたれて、精霊は、パートナーがやってくるのを待っている。
 壁掛けの時計を見上げれば、約束の時間、きっちり。
 ふいに、ホールに響いていた音楽が止まった。
 互いに身を寄せ踊っていたカップルが、すっとホールの外側へ。
 反対に中央へとやってきたのは、シルクハットをかぶった老紳士である。
 丁寧に腰を折って挨拶をして、彼は言う。
「皆さん、ゲームをしませんか」
 そこで出てきたのは、パートナーの神人だ。
「えっ……なんで、あんなところにいるんだ」
 驚き声を上げるも、彼女は答えず。
 紳士がにこりと笑い、唇の前に指を立てた。
 黙って見ていろ、ということか。
 口を閉ざすと、彼は納得したように頷いた。
 それと同時に。
 かつん、と彼女たちが、ハイヒールの踵を鳴らす。
 つられて注目してみれば、はいているのはクリスタルガラスの靴だ。
 ホールの光を集めて輝く、透明な靴。
 しかし片足。もう片方には、色鮮やかなヒールをはいている。
 彼女たちは、ホールの中央に運ばれた椅子に、ゆったりと腰を下ろした。
 はらりと鮮やかなヒールだけを脱いだところで。
 紳士が、ぱん、とひとつ、手のひらを打つ。
「さあ、プリンス。プリンセスがお待ちです。彼女にぴったりの靴を見つけて、お届けしてあげてください」
 名指しをされているわけではない。
 だが、彼女のプリンスというならば――。
 精霊はホールへと一歩を踏み出した。
 座る彼女たちの前に並んだ、片足だけのガラスの靴のもとへと。

解説

 まずは乗船代として、400jrいただきます。

 神人は精霊には言わず、豪華客船で行われる余興に参加をしていました。
 彼女がはいているのは、ガラスの靴。しかし、右足だけです。
 左足は別のハイヒールをはいていましたが、今は素足。

 彼女は、プリンスを待っています。
 もし自身を、彼女のプリンスと思うならば。
 彼女が座る目の前にあるガラスの靴(左足のみ)の中から、ぴったりのサイズを選び、彼女にはかせてあげてください。

 ガラスの靴は、全員分同じデザイン。透明で、色は入っていません。
 サイズの記入もありませんし、サイズ順に並んでもいません。
 また、参加人数の数よりも多くの物が並んでいますので、消去法で選ぶことも難しいでしょう。
 サイズは0.5センチ刻みです。


ゲームマスターより

こんにちは。瀬田です。
こちらはウィンクルムごとの描写となります。
紳士淑女なウィンクルムはドレスアップしていますので、服装にこだわりがある方はプランに記載ください。

申し訳ございませんが、服装のおまかせはご遠慮を。
なぜって? センスがないので苦手なんです……すみません。

背景はちょっと違う時のものですが、ホールってこんな感じかなって!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  淡い水色のドレス 
床に着くくらいの長さ 白糸で花や葉の刺繍
髪はアップに 濃い青のリボンを結び
靴のサイズは22.5

いつもと違う彼の装いにどきり
だけど動きを止めた彼の様子に眉を下げる

…どうかしたの?
楽しそうだから 参加を決めてしまったけれど
やっぱりやめますと言った方がいいかしら
近づいてくる彼に目を丸く

差し出された靴にどきどきしながら足を
わ、ぴったり…!
嬉しくなって笑いかける

彼を誘って甲板に
平気よ 私だってヒールを履いたことくらい…きゃあ!
間近にある彼の顔と体温に呼吸が一瞬止まる
ごめんなさ… 歌?
珍しいお願いに目をぱちくり
頬を染めたまま笑顔

ーじゃあ、私の王子様に

「大好き」の気持ちをこめて
(歌唱スキル使用)


エリザベータ(ヴィルヘルム)
  海色のアメリカンスリーブのAラインドレス
24.5

面白そうだから参加したけど…
様子がおかしい?

行動
やば、怒ってる?
(黙って参加したから?楽勝過ぎるってこと?
…うーん、なんだろ

(なるほど、あたしだけデカいもんなぁ…上手いこと思いつくぜ

驚かせようと思ったんだ…ごめん
…え?(これ素の口調じゃ
な、なんだよ、またからかってるのか?
もうやめる、って…(これからは男として振る舞うってこと?

催眠セラピー(EP6)を受けた日を思い出した
(同じ目だ、自分だけを見てって…切望してるような

そんな仔犬みてぇな目ェするなよ
こ、今夜は…だぞ?
(凄く…ドキドキする
一曲だけか?…一晩じゃなくて
(手放せなくなるって…どうしたんだよ


夢路 希望(スノー・ラビット)
  衣装:星刺繍入りのイブニングドレス
(ハイヒールは不慣れで足取り少し不安定


余興のお話を聞き
スノーくんのお姫様になりたくて…内緒で参加してしまいました

…見つかるでしょうか
サイズは書いてないし順番もバラバラで、私にもどれが合うか分からなくて
真剣に探してくれる彼の様子をドキドキと見つめ
履かされる瞬間はシンデレラ気分

合えば頬を緩ませて
…お待ちしていました、王子様
(促しには甘え、腕へ手を添えさせてもらう

あの…わがままに付き合わせてしまってごめんなさい
お姫様になりたかったんです
…スノーくんの、お姫様、に
気付いた感情をはっきりと言葉にするにはまだ勇気が足りなくて
俯きながら腕にぎゅっと掴るので精一杯


菫 離々(蓮)
  服装は黒薔薇をあしらった赤のカクテルドレス
靴のサイズは23センチです

なかなか現れないプリンスのことは
ゆっくりとホール内の壁際を見回し捜しましょう

だいぶ困っておいでのようです。
ええ、知っています。
きっとハチさんはお伽話のようなプリンセスとプリンスの姿を
思い浮かべているのでしょうから。

目に留まった(おそらく私にぴったりのサイズの)靴ではなく
一目で私には履けないであろう靴。
差し出されたそれを見て、

ハチさん、新しいお話を作りませんか、と。
清楚なドレスの似合うお姫様のいない、高貴な王子様もいない、
けれどドキドキワクワクする物語です。
ねえ。そのためにはここから連れ出して頂きませんと。
まずは靴が必要ですね?


真衣(ベルンハルト)
  服装:
水色の花のバレッタ
クリーム色のビジューネックレス
アクアマリンのバルーン袖フレアワンピース
腰に水色の花のコサージュ

行動:
ふふ、ハルトってはおどろいてる。
ナイショにしてたもの。そうじゃなくちゃね。(笑顔
私のくつの大きさわかるかな。おしえたことないから、ムリかも?
(足を揃え、背筋を伸ばし大人しく待つ

「なやんでるハルトもかっこよかったもの。だいじょうぶよ」
サイズあうかしら、すこしどきどきね。
「ハルトすごい、ぴったり。なんでわかったの?」
(手を取って、立ち上がる
「たまたまでもすごく嬉しい!」(笑顔で抱き着く

(ハルトを促しホールのお客に笑顔で一礼
さいごまでしっかりがだいじなのよ。
「あとでおどろうね」


●踊りましょう、王子様

 アクアマリンのワンピースを着て、真衣は椅子に腰を掛けている。
 ふふ、ハルトってばおどろいてる。ナイショにしてたもの。そうじゃなくちゃね。
 遠目にベルンハルトを見て、少女はにっこり、ご機嫌の笑み。けれど、その場は動かない。
 だって今、真衣はプリンセスなのだ。
 いくらベルンハルトが気になっても、駆けて行って抱き付くわけにはいかない。
 そうだ、靴だって、片一方しかはいていないのだから。
 ほら、この足よ。
 真衣がつま先を持ち上げると、細い足を隠しているフレアスカートが、ふわりと揺れた。
 腰につけた水色の花のコサージュも、ひらり。
 私のくつの大きさ、わかるかな。おしえたことないから、ムリかも?
 気付けば真衣は、ベルンハルトだけをじっと見ていた。
 さっき揺らした足はきっちり揃えて、プリンセスらしく背筋を伸ばして、期待の眼差しで。

 対するベルンハルトは、やっと真衣の行動に合点がいった。
 濃茶の革靴で、大きくダンスホールの床を踏む。
 ブラウンのジャケットには、真衣の腰のコサージュと同じように、水色の花のラベルピンをつけている。完全ではないけれど、お揃いだ。
 ベルンハルトは数歩を進み、真衣の正面にある台の上、ガラスの靴を手に取った。
 きっと普通のガラスとは違うと思いつつ、念のため、普段以上に丁寧な扱いを心がける。
 サイズはこのくらい、か? いや、こっちか?
 少女の靴だ。たぶん並んでいる中でも、一番小さい類のものだろう。しかしだからと言って最小サイズが正しいとは限らない。
 振り返り、ちらりと白い足を見て、再び目の前の靴を見る。
 正直に言えば、0.5センチ刻みはきつい……が、きっと。
 ベルンハルトは眉を寄せつつ、振り返る。
 座ったままの真衣の前へ立ち「待たせてすまない」と口にした。
 しかし真衣は、実に楽しそうに笑う。
「なやんでるハルトもかっこよかったもの。だいじょうぶよ」
「それは……ありがとう」
 自分を見上げる丸い瞳。可憐な唇がそんな言葉を発したとなれば、うっかり頬が染まってしまう。
 それを隠すためもあり、ベルンハルトはすぐに身を屈めた。床に片膝をつき、真衣の足の裏に手を添える。
 その仕草に、真衣の胸は高く鳴った。
 こうしてガラスの靴をはかせてもらえるなんて、本当のプリンセスみたい。
 ハルトが透明なガラスの靴をすっと足に当てる。
 最初はちょっときついかと思ったが、それは見事、真衣の足にはまった。
「ハルトすごい、ぴったり! なんでわかったの?」
「俺も驚いたよ」
 ベルンハルトは立ち上がり、真衣へと手を差し出した。
 その手を取り、真衣は問う。
「どうしてハルトが驚くの?」
「それが、偶々なんだ」
 最後の確信が持てなかったことを素直に打ち明ければ、真衣の腕が、ベルンハルトの背中に回る。
「たまたまでもすごく嬉しい!」
 プリンセスの体を抱きとめて、ベルンハルトは穏やかに笑った。
 偶々なんて、普通の女性ならば不機嫌になってしまうのではないか。
 それを嬉しいと言ってくれる真衣の喜びように、日頃の疲れも吹き飛ぶようだ。
 しかしそこで、真衣はここがホールの真ん中で、衆目があることを思いだしたようだった。
 少しばかり頬を染めた後、ベルンハルトから身体を離し、彼の隣に立つ。
 さいごまでしっかりがだいじなのよ、と大人びた口調で言うものだから、ベルンハルトはつい真顔で頷いてしまった。
 タイミングを合わせて、二人で一礼。
 手を繋いでホールの端へと歩きながら、真衣が言う。
「あとでおどろうね」
「ダンスはしたことが無いんだが」
 見下ろした真衣の頭の上には、水色の花のバレッタが見える。そういえば、クリーム色のビジューネックレスも、今日のために準備したと言っていた。
 これは、踊らないわけにはいかないな。
 ベルンハルトは腰を曲げ、真衣の顔を覗き込んだ。
「お相手をお願いするよ、プリンセス」

●王子様よりあなたが欲しい

 菫 離々はダンスホールをぐるりと見回した。
 黒薔薇をあしらった赤のカクテルドレスは、今日のためにと選んだものだ。
 豪華客船でダンスホールがあるならば、それなりの格好をするのが礼儀だし、ドレスだって着たかった。
 しかしこんなに綺麗な服を着てるのに、プリンスはまだ来ない。
 あそこに、いるのに。あの壁際に。背をつけて。
 まったく、どうして男性が壁の花になっているんですか。しょうがない人ですね、と。
 離々は内心で苦笑した。
 タキシードを着たプリンス……蓮は、遠目にも困っているように見える。
 もちろん、困るだろうとは思っていた。
 だって……きっとハチさんは、お伽噺のようなプリンセスとプリンスの姿を、思い浮かべているのでしょうから。
 滑らかな肌に赤い唇、ふんわりドレスでおしとやかな、笑顔の似合うお姫様と。
 金髪碧眼、背筋をまっすぐ伸ばした色白の、いかにも紳士で優しい王子様。
 困っていることはばれていると、遠くに離々の姿を見ながら蓮は思う。
 お嬢、俺は決して、お嬢の王子様ではありません。
 そこまで自惚れちゃいませんぜ。
 いくらタキシードを着て見目を整えたって、カクテルドレス、淑女のお嬢には釣り合わない。
 だがきっと、自分が行かねば彼女はホールの真ん中で待ちぼうけ。
 いや、見かねた見知らぬ誰かが出ていけば、それはそれで複雑だ。
 それならばと、蓮は壁につけていた背中を起こした。
 つかつかとホールへ向かい、椅子に座る離々の前へ、跪く。
 頭垂れると、目の前には素足。それでも、
「勘弁してください……」
 と呟いて、姫を見上げた。
 しかし離々は、いつものように微笑むだけで、何も言わない。
 無言なのは、靴選びをしろという意味でしょうか。
 参ったと一度頭を振って、蓮は立ち上がる。
 そしてそのまま離々に背を向けると、ガラスの靴が並ぶ台座の前に立った。
 靴のサイズが23センチなのは知っている。だから、大体選ぶのは簡単だ。
 でも……。
 離々は、蓮の行動を目で追っている。
 彼が選んだ靴を見ても、表情は変えない。
 それこそ子供用みたいなサイズの靴を、裸足に添えられても。
 むしろ、困惑顔をしているのは蓮の方だ。
 彼は再び離々の前に膝を折り、明らかに離々の足には合わない靴を見つめている。
 微動だにしない、白い足。その足裏に、手を添えることすらできない。
 空気を読めないのは承知の上。でも俺は、道化でいいんです。
 王子さまになんて、なっちゃいけませんし。
 言わず黙りこくった彼の頭上で、離々の高い声が響いた。
「ハチさん、新しいお話を作りませんか」
「……話、ですか」
 蓮は顔を上げる。
 離々はうっすらと微笑んだ顔で、一度頷いた。
「ええ。清楚なドレスの似合うお姫様のいない、高貴な王子様もいない、けれどドキドキワクワクする物語です」
 そこで彼女は、蓮の前に置いた足を上げる。
「そのためには、ここから連れ出していただきませんと」
 言いたいことは、わかりますね、と。
 緑の瞳に問われ、蓮は立ち上がる。
「……お嬢さんは俺を甘やかしすぎですね。王子どころか、従者か馬ポジションですよ、俺」
 本当ならば、素足のまま、抱えて攫ったっていい。
 片足きりのガラスの靴が、ホールの床に落ちたところで、彼女はきっと気にしないだろう。
 しかしそれでは、離々に似合わない。
 清楚なドレスのお姫様ではなくても、高貴な王子様ではなくても、みんな靴くらいはいている。
 優しい離々にも美しいカクテルドレスにも、当然上等な靴が必要なのだ。
「……選び直しますね」
 ――お嬢に似合う靴を。
 蓮は、再度離々に背中を向けた。
 彼女の足のサイズはわかっている。
 0.5センチの誤差は間違うかもしれないけれど、選ぶのはそう難しいことではないのだ。

●王子様に癒しの歌を

 淡い水色のロングドレスには、繊細な刺繍が施してあった。
 細かで美しい花と葉を選んだのは、花屋で働くリチェルカーレらしいと思う。
 だが……と。
 シリウスは、ホールに立ち入ってすぐに足を止めた。
 どうかしたの? とでもいうように、リチェルカーレは首をかしげた。
 結い上げた髪の上で、瞳と同色のリボンが揺れる。
 一瞬曇った表情に、申し訳ないと感じつつ、シリウスの胸に生まれた不安は消えなかった。
 ――私があなたの神人でいいの?
 何度か聞いた言葉が、リチェルカーレの声で耳の奥に蘇る。
 だが、逆だ。俺が、お前の精霊でいいのか。
 彼女のように問うことができず、想いはシリウスの胸を焼く。
 リチェルカーレは、先ほど色付きのヒールを脱いだ素足を、そっと床に下ろした。
 水色のシャツに黒のジェケットを羽織り、首元にループタイを締めたシリウスは、いつもと違う雰囲気でどきりとした。
 普段もかっこいいけれど、今日は本当に王子様のよう。
 そんな彼がガラスの靴を選んでくれるというならば、鼓動も高くなるというもの。
 それなのに、シリウスはこちらへやってこない。
 ……楽しそうだから、参加を決めてしまったけれど、やっぱりやめますと言った方がいいかしら。
 そのために司会者の元へ歩き出そうと、裸足で床を踏んだのだ、が。
 こちらを見るシリウスの眼差しが、すっと和らいだ気がした。
「えっ……」
 シリウスは先ほどの躊躇いなどなかったかのように、大股でホール中央までやって来た。
 驚き目を丸くするリチェルカーレを一瞥し、ガラスの靴が並ぶ台座の前へ進む。
 小柄な彼女は、足も小さい。だがこれではいくらなんでもと、子供サイズには見向きもせずに、中のひとつを自身の手のひらに載せた。自分の手と靴と比較をすることで、細かなサイズを測るのだ。
「よし」
 振り返り、リチェルカーレの前で床の上に片膝をついて、滑らかな足をとる。
 そっと靴をはかせれば、見事それは、ぴたりとはまる。
「わ、ぴったり……!」
 リチェルカーレの弾む声。大輪の花のように華やかな笑顔に見つめられ、シリウスも微笑を浮かべた。

 突如参加の催しの後は、二人で甲板を訪れた。
 リチェルカーレが、行きたいと言ったのだ。
 暗い海に波は見えず、ざあ……と水の音が聞こえるだけ。
 風がリチェルカーレの髪をさらい、細い体を揺らす。
「……歩き方が非常に危なっかしいんだが」
 寄り添い心配そうに言うシリウスを、リチェルカーレが見上げる。
「平気よ。私だってヒールをはいたことくらい……きゃあ!」
「リチェ!」
 予想通りバランスを崩した彼女に、シリウスはすぐに手を伸ばした。
 数秒の内に、リチェルカーレはシリウスの腕の中。
「ごめんなさ……」
 言いかけて、リチェルカーレの呼吸が止まる。
 二人の身長差は、いつもならば35センチ。しかしそれが、ヒールの分、そして今は抱き留めた分、ぐっと近くなっている。
 そろそろとシリウスの翡翠の瞳を見つめると、彼はより一層強く、リチェルカーレを抱きしめた。
 ホールの時以上に、リチェルカーレの心臓は激しく鳴っている。
 しかしいつもより近い距離に動揺しているのは、彼女ばかりではなかった。
 彼女の大きく碧い瞳に、シリウスの意識はすっかり囚われていたのだ。
 ……離したくない。……離れたくない。
 だが現実的に考えて、いつまでもこうしているわけにはいかないのも事実。
 だったらと、シリウスはゆっくりと唇を開いた。
「何か歌ってくれないか?」
「……歌?」
 丸い瞳の瞬きに、シリウスは「ああ」と頷く。
「今夜は、俺の姫なんだろう?」
 その言葉に、リチェルカーレの頬がさっと紅潮する。
 しかし表情は、見惚れんばかりの見事な笑顔。
「じゃあ、私の王子様に」
 大好きの気持ちを込めて。

 シリウスの耳元で、リチェルカーレの歌声が響く。
 自分のためだけに歌われた歌は、シリウスの心の不安を癒していくようだった。

●お姫様になれて、よかった

 星の刺繍入りのイブニングドレスは、夢路 希望の白い肌にとてもよく似合っていた。
 ドレス姿は何度か見たことがあるけど、今日は一段と輝いて見える。
 月の刺繍がされた白い燕尾服に身を包み、スノー・ラビットは柔らかく微笑んだ。
 本当のお姫さまみたいだ、なんて。
 言えばきっと希望は、雪の頬を真っ赤に染めてしまうのだろう。
 彼女は今、ホールの中央で椅子に座っている。
 ラビットはちょうど、そちらに向かって歩いているところだ。
 一緒にいるのに待ち合わせなんて言うから不思議に思ったけれど、こんな彼女を見られるのなら、了承してよかった。
 歩くたびに、ラビットの長い耳がふわふわ揺れる。口元は、笑みの形のままだ
 その様子を見て、希望はほっと安堵の息をついた。
 参加を勝手に決めてしまったけれど、どうやら迷惑ではなかったようだ。
 もっとも、たとえ迷惑でも、不満を顔に出したりはしない彼だけれど。
 余興の話を聞いて、どうしても参加したいと思ってしまった。
 だって、私……。
 希望は、黒い瞳で、真っ白な王子様を見つめた。
 色付きのヒールを脱いだ足は、ひんやり冷たくなっている。
 この足に合う靴なんて、見つかるでしょうか。
 ご機嫌でやって来て、靴が並ぶ台の前に立っている、ラビットの背中に思う。
 もちろん、見つけて欲しい。
 でも靴にサイズは書いてないし、ちょっと見ただけではたとえ希望本人でも、自分に合う靴なんて見つけられないだろう。
 サイズの違う靴を両手に持って、比べて探す彼の姿に、希望の鼓動は早くなる。
 スノーくん、あんな真剣に選んでくれて……。
 それだけでも、とてもとても、嬉しくなってしまう。
 そんな彼女の視線を、ラビットは背で感じていた。
 ノゾミさんの足のサイズは、と、思い巡らせてみるけれど、なかなかどうして難しい。
 彼女の素足をちらちら見ては、靴を眺め。
 これは大きすぎるよね……こっちはさすがに小さいかなと、熱心に考えた。
 ――だって……ノゾミさんの王子様に、なりたいから。
 期待に満ちた、それなのにどこか不安そうな表情で、僕を見ているノゾミさんの。
 さんざん悩んで迷って選んだひとつを手に、お姫様の元へと向かう。
 緊張の面持ちでラビットを見上げる彼女に微笑みを見せて、黙ったまま足元に跪いた。
 ドキドキと、まるで希望の鼓動が聞こえるよう。
 でもラビットも、たぶん同じくらい速く、胸が打っている。
 それでもなんとか冷静に、足に手を寄せ、ガラスの靴を合わせる、が。
「……ごめんね、少し小さかったみたい。もう一回、探してくるから」
 たぶん0.5センチの差。ラビットは立ち上がり、今度こそと次の靴を持って来た。
 きっと大丈夫と、先ほどと同じように、希望の足に手を添える。
 そして――。
「あっ……」
 ぴたりとはまった靴に、希望の声が上がる。
「……お待たせしました、お姫様」
「……お待ちしていました、王子様」
 自身を見上げる笑顔の姫に、ラビットはすっと手を差し出した。
 それをとり、希望はゆっくり立ち上がる。かつん、とヒールが鳴って、そこで、並んで一礼。
「……ノゾミさん」
 希望の少々不安定な歩みをサポートするためと、ラビットが軽く曲げた肘。希望は気付き、彼の腕に手を添える。
「あの……わがままに付き合わせてしまってごめんなさい」
 ごく小さな声で、希望は言った。
「お姫様になりたかったんです。……スノーくんの、お姫様に」
 彼を見上げる勇気がなくて、視界に映るのは、ホールの床だけ。
 それでも何とか想いを声で表せば、ラビットはゆったりと微笑んだ。
 希望の手は、今ラビットの腕を、ぎゅっと掴んでいる。
 そんなに緊張しなくてもいいのに。
「ノゾミさんは僕にとって、大切なお姫様だよ」
 背中を丸めて耳元で囁くと、彼女の顔は案の定、真っ赤に染まってしまった。

●そんな目で見るなよ、王子だろ?

「久々に声がけしてもらえたと思ったら……」
 ヴィルヘルムは、椅子に座ったエリザベータを見やった。
 海色Aラインのドレスは、長身の彼女によく似合っている。
 姿勢もいいから、アメリカンスリーブもぴったりだ。
 こんな姿を見るのは自分だけで十分、と。
 ヴィルヘルムが、周囲を見回す。どうやらもう一人の契約者は、今ここにはいないらしい。
 まったく、見ず知らずの男にこんなに気持ちをかき乱されているなんて。
 それに、エルザちゃんもエルザちゃんよ。
 ワタシは服飾のプロよ? 靴ひとつ当てるなんて、簡単すぎる。
 自分の方へと向かってくるヴィルヘルムを見、エリザベータは眉根を寄せた。
 やば、ヴィル、怒ってる?
 黒スーツのベストもスラックスも、似合ってる。
 颯爽と歩く姿も見栄えがいいし、唇には笑みさえ浮かんでいるけれど、まとう空気が違うのだ。
 この余興に黙って参加したから? 楽勝すぎるってこと?
 それだけで、そんなに怒るのか?
 ヴィルヘルムはたくさん並んでいるガラスの靴の前に立ち、すっと目を細めた。
「エルザちゃんの身長は170弱……推定サイズは23から26ね。体格が細いから、25以上は無さげ…なら、24.5を探すわ」
 ほかの参加者は一様に、小柄な子が多い。たぶん並ぶ中では大きな部類だろうと、ヴィルヘルムは丁寧に、靴をすべて、サイズ順に並び替えた。
 24.5と決めたならば大体のサイズは手に持っただけでもわかるけれど、万が一にも外したくないからだ。
 ここにはいないもう一人の契約者より、自分が優位に立ちたいという気持ちもある。
 ヴィルヘルムの呟きは、彼を待つエリザベータにもしっかりと聞こえていた。
 なるほど、あたしだけデカいもんなあ……うまいこと思いつくぜ。
 感心しつつ、彼の細かな行動を見ていると、そう時間がたたないうちに、ヴィルヘルムは靴を持ってやって来た。
「お待たせ……エルザ」
 見下ろす彼は、先ほどまでの表情とは一転して、笑みを浮かべている。
 だがエリザベータは、上目遣いで、彼を見る。
「驚かせようと思ったんだ……ごめん」
 ヴィルヘルムは黙ったまま膝を曲げ、彼女の足元の床へとついた。
 俯いてエリザベータのすらりとした足をとり、選んだガラスの靴をはかせる。
 案の定ぴったりだったが、彼からの喜びの声はない。
 代わりに濃藍の瞳が、エリザベータを捕えた。
「例え余興でも、ボクの言葉は本気だ。今夜だけでいい、ボクのお姫様になって」
「えっ……」
 エリザベータは息を飲む。
 これって素の口調じゃ、と気付いた瞬間、ドレスに覆われた胸が、一気に激しく脈を打ち出した。
 だがエリザベータは、それを素直には表さない。
「な、なんだよ。またからかってるのか?」
 きっといつもの彼ならば「そうよ、エルザちゃんが悪戯するから」なんて、言うと思った。
 だが今回は「違うよ」と一言。
「キミの前で、オネエさんはもうやめる」
 ――だから、あの人ばかり見ないで。
 ホールに探した相手のことを、ヴィルヘルムは思う。
 その目はエリザベータに、彼がセラピーを受けた時のことを思いださせた。
 あの時、ヴィルヘルムは今のように男らしい口調で言ったのだ。
 エリザベータを、独占してみたい、と。
 ――あの時はすぐにいつものヴィルに戻ったけど、今度は違う……。
 切望の眼差しに、エリザベータは口を開いた。
「そんな仔犬みてぇな目ェするなよ。こ、今夜は……だぞ?」
 言いながら、鼓動はますます早くなっている。
 後半は彼を直視できなくて目を逸らしてしまったが、ヴィルヘルムは笑ったようだった。
「ふふ、よかった。じゃあお姫様、ボクと一曲踊ってもらえる?」
 立ち上がり、手を差し出すヴィルヘルムを、エリザベータはそろそろと見上げる。
「一曲だけか? ……一晩、じゃなくて」
「一晩かあ……」
 ヴィルヘルムは呟き、姫君の鮮やかな髪に隠れた耳に、唇を寄せる。
「手放せなくなるけど、いいか?」
「それってどういう……っ」
 真っ赤になったエリザベータには答えず。ヴィルヘルムは、彼女の手をぎゅっと握った。



依頼結果:成功
MVP
名前:夢路 希望
呼び名:ノゾミさん
  名前:スノー・ラビット
呼び名:スノーくん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月04日
出発日 01月12日 00:00
予定納品日 01月22日

参加者

会議室

  • [5]菫 離々

    2016/01/11-23:46 

  • [4]真衣

    2016/01/08-21:11 

    はじめましてのひとがいっぱい。
    私、真衣っていうの。よろしくね。

    ハルトは私のくつの大きさわかるかしら。
    ピッタリのだったらうれしいわ。

  • [3]リチェルカーレ

    2016/01/08-19:49 

  • [2]夢路 希望

    2016/01/07-01:10 

  • [1]エリザベータ

    2016/01/07-00:33 

    はーい、ヴィルヘルムよぉ☆
    久々にお出かけに誘ってもらえたと思ったら、エルザちゃんが余興に参加してるとはねー
    うふふ、ワタシの本気見せちゃおうか・し・ら?

    スノーちゃん達は随分前にお会いしたくらいかしらぁ、お久しぶりよー
    他の皆は初めましてよね、よろしくね♪


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