想い、残すことがないように(木乃 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 星屑を散りばめたような石壁が美しいルミノックス。
 イヌティリ・ボッカから奪還したその伝説の温泉へ久方ぶりにやってきた。
 験担ぎ……という訳ではないが、一年の締めくくりに今年の疲れを癒そうと思ったのだ。
 冬の寒い時期だったが、中は少し肌寒いくらいで……温泉の暖かさが程よく感じられるくらい。

「今年一年大変お世話になりました」
「なんだよ、改まって……こちらこそ、お世話になりました」
 いよいよ大晦日、一年の締めは背筋を正し、お礼を伝えようと一緒に入るパートナーに頭を下げる。
 ――しかし、お礼以外にも伝えておきたいことは残っていないだろうか?
(……言うなら、今がチャンスかも)
 貴方の胸の内に残っているわだかまり。
 今伝えなければ、後悔してしまうのではないかと……悩みが首をもたげる。
 この場に居るのはパートナーと貴方だけ、誰にも知られずに言葉にしてしまうなら……今しかない。
(こんな気持ちで、新しい年を迎えるのは……)
 それは貴方にとって募らせていた想いかもしれない。
 どうしても打ち明けたかった秘密かもしれない。
 いつか言わなければならない重大な事実かもしれない。

 ――この瞬間、女神はあなたに好機を与えたのだろう。

「あのさ、話があるんだ」
 一年の締めくくり。
 あなたの想いを告げるとき。

解説

交通費、お食事代で500Jr消費します。
描写は個別となります。

目的:
パートナーに伝えたい想いを告げる

愛の告白、今まで内に抱えていた悩み、いつか伝えなければいけなかった事実かもしれません。
今年最後に思い残すことがないように、パートナーに打ち明けるチャンスです。
来年に向けての抱負や、今年の活動を振り返ってみてもいいでしょう。

片方のみが伝えるだけでもいいですし、お互いに伝えあっても良いです。
恋愛的な告白については、親密度によっては失敗する恐れもありますので、ご注意ください…
(親密度は心の距離の近さです、遠過ぎては受け入れてもらえないかもしれません)

●場所 (以下の一か所を選んでください)
・ルミノックス
 かつてイヌティリ・ボッカが封印されていた伝説の温泉です。
 高い治癒力のある温泉水で満たされております。
 オープニングの通り、混浴ですが水着必須です。
(プランへ水着着用の明記は不要ですが、デザインの指定があるときのみ、教えてください)

・自宅
 どちらの自宅にいらっしゃるのか、教えてください。
 記載がない場合は、神人のおうちとして無難な描写をさせて頂きます。
(詳細な情報を抜いたリビングや私室など)

・レストランの個室
 ちょっとオシャレな創作料理が出て来るお店です。
 今の時期は冬野菜と霜降り肉を使ったイタリアン風フルコースが出てきます。

●注意事項
・EXエピソードの特性上、アドリブを多数入れさせて頂くことになります。
 過去エピソードについて基本的に参照していないので、
 自由設定でかんたんにどんなことがあったか明記して頂けると幸いです。

・良識、公序良俗に反する行動はマスタリングを行います。
 多くの方が閲覧される場所ですのでご留意くださいませ。
 特に性的なイメージを連想させるもの、
 過度に残酷なイメージを連想させるものについてはやや厳しめに判断させて頂きます。
 (ジョークと判断できる程度でしたら問題ありません)

ゲームマスターより

木乃です、今年最後のエピソードになります!
今回はパートナーに言っておきたいこと、今年のうちに言ってしまおう!というエピソードです。

ジャンルはシリアスとなっておりますが、ロマンス、コミカル、ダークなシチュエーションでも問題ありません。
過度なエロスとグロテスクのみご注意ください…。
またEXエピソードの特性上、こちらからアドリブを多分に入れさせて頂くことが予想されます。
予めご了承、ご留意のほどお願いします。

それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  ・ルミノックス
スノーくんと温泉…恥ずかしいけど、水着なら

白ビキニにスカート(メイクはアイプチのみ
夏に褒められたのが嬉しくて…
笑顔にもじもじ小声でお礼

あっ…こ、こちらこそお世話になりました
告白に胸が甘く締め付けられる
(同じです)
一緒にいると温かくて幸せで
(じゃあ、私のこの気持ちは…?)

伸ばされた手にドキリ
傷?…あ
(もうそんなに目立たないと思っていたんですが…)
殆ど治ってますし気にしないでください、と微笑むけれど悲しげで
…じゃあ、もう少しこうしていてくれますか?
温泉とスノーくん効果で早く治りそうです
なんて

優しい笑顔にドキドキする
添えられた手に、もっと触れられていたいと思う
(この、気持ちは…)


水田 茉莉花(八月一日 智)
  ※智のマンションにもう1人の精霊と三人暮らししています

ん、おチビさんは眠ったわ

ねぇほづみさん…あ、ほづみさん先に…いいの?

…じゃぁ…あたし…ここに居ていいのかな?
顕現する前に、あたしの職場の倒産があったりアパートが燃えたりして
その時、厄介になったことがきっかけでしょ…ここに住むようになったのって
…家族じゃないのに、ここに住んでて良いのかなって、思って…
ほら、契約した精霊も増えたし、大所帯になっちゃったから迷惑かなーって…

ああうん、そう言って貰えて、何だか嬉しいな…
そうだ、ほづみさんは何言うところだったの?

え、あっ、はい、よろしくお願いします♪
そうだ、おもしろい紅茶を貰ったんだっけ(淹れに行く)


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  場所:引っ越し先の自宅(二人で住むことになった)

メールで、いつの間にか二人で住むことになってしまった…。
いや、あたしもあたしで、なんで許可しちゃったのよ!
しかも「あたしを惚れさせたらなにしてもいい」とか、「ベッドに一緒に寝るのはダメ!だから引っ越そう」的なこと言っちゃったのよあたしはーーー!!!
でもユークがそーゆーこと無かった事にしてくれるわけがなく、結局今日に至る。
ユークに全部任せたんだけど、新しく住む場所はそれはもう快適で、オープンキッチンや家具など全てが素敵なマンション。
ここまでしろとは言ってなかったけど、まぁこれは良しとしよう。
でも、今後二人きりで過ごすんでしょ?
ふ、不安で仕方ない…。


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  場所:レストランの個室

料理がとても美味しいですね、と笑顔。
2人きりで、ゆっくりと寛いだ時間を過ごせて嬉しいです。
この一年、色々な体験をありがとうございます。

私、少し考えていた事があるんです。
レッドニスさんの救出作戦の時ですね。
私、ミュラーさんの事を名前で呼んでました。
冷静なつもりでいたのですけれど。
敵も多く激しい戦いだったので、内心動揺していたのかもしれません。
でも、あの時「フェルンさん」って口から出ちゃって。
一瞬、アレ?って思ったけど、いつもより何か心強い感じがしたんです。
他の人達も名前で呼び合う人も多いですし。
これから、フェルンさん、って名前で呼んでいいですか?
(もじもじ。チラと見上げる)


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  精霊宅
SPから二回目の訪問


年末…か

EP5での出来事が胸につっかえる
あの時は言わないと決めた
でもこのまま新年を迎えてしまっていいのか…

考える

…こんな気持ちのまま新年は迎えられない
これは、この秘密は来年に持ち越しちゃいけない
言わないと

ガルヴァンさん
話したい事があるの

話そう
あの時、オーガの中に意識が入ってしまった事を
…そのオーガとして殺された事を


それは…
ガルヴァンさんが

好きだからという言葉は飲み込む

…優しい人だって分かってたから

優しいよ
いつも気に掛けてくれるから
…だから、負担になりたくなかった

そんな事ないよ

…私だって、ガルヴァンさんを守りたい
傍で…戦いたい


強くなりたい
もう二度と迷惑を掛けたくないから


●決意の告白
 ガルヴァン・ヴァールンガルドの家に訪れるのはこれで二度目だった。
「契約してから早2ヶ月か」
 時が過ぎるのは早いものだと、ガルヴァンはカレンダーを一瞥して紅茶を口に運ぶ。
 鼻腔をくすぐる品の良い香りと、甘さを含む暖かさが体の芯を温めてくれる。
(年末、か)
 今年はガルヴァンと契約を交わしたことで、アラノアは生涯一度しか体験出来ないはずの経験をした。
(……私は、ガルヴァンさんに殺された)
 正確に言えば、討伐対象のオーガの息の根が止まる瞬間まで、意識が入っていたのだ。
それはアラノアに複雑な感情を植え付け、苦い記憶となった。
心の傷、と言ってしまっても過言ではないだろう。
 手元にある紅茶に視線を落とし、水面に映る自分自身を見つめる。
(あの時は言わないと決めた)
 ガルヴァンさんを傷つけてしまうのではないか?
 築いてきたこの関係が潰えてしまうのではないか?
 ――好意を寄せているからこそ、告げ難い事実だった。
 自宅に招きいれ、少しずつ変化を見せてくれる彼の重荷になりたくなかった。
(でも)
 このまま新しい年を迎えてしまっていいのか。
 次の年も、ガルヴァンと共に活動しなければいけないのに。
「アラノア」
 不意に声をかけられ、アラノアの細い肩が微かに震える。
「口に合わなかっただろうか」
 どうやら淹れた紅茶に手を付けていない様子に、好みではなかったのか気遣ってくれているようだ。
 紅茶は先程より、ぬるくなってしまった気がする。
「ううん。ちょっと、冷めるまで待ってた」
 ゆるく首を横に振ってアラノアも紅茶を口に運ぶ。
 もやもやした気持ちを溶かしてくれるようで、ほんの少し気分が落ち着く。
「そうか、熱かっただけか……次から気をつけよう」
 嫌だったわけではないと解り、ガルヴァンは安心したように切れ長の瞼を僅かに緩めた。
 こうした変化が見られるのも、絆が育まれてきているからだろう。
 ――アラノアは自分自身に問うた。
 これでいいのか? なにも打ち明けないことでガルヴァンは傷つかない。
(でも、それって……まるでガルヴァンさんを信じてないみたい。受け止められないんじゃないかって)
 ぐるぐると脳裏を渦巻く迷いに、アラノアは決断を下した。
(……こんな気持ちで新しい年を迎えられない)
 自分の胸に引っかかる、苦しく辛い記憶はずっと残り続ける。
 それでも。彼なら受け止められる。
(この秘密は来年に持ち越しちゃいけない)
 言わないと。言わなければ。真実を伝えなければ。
「ガルヴァンさん」
 表情を強張らせているアラノアを、ガルヴァンが不思議そうに見つめる。
「なんだ?」
「話したいことがあるの」
 声が震えそうになる。
 秘密を打ち明けるということは、受け入られる期待と、受け入られない覚悟を持たねばならない。
 パートナーの緊張した面持ちを見て、ガルヴァンも琥珀色の瞳を細めて朱殷の瞳をまっすぐ見据える。
「……どうした?」
「初めてオーガを倒したときのこと、覚えてる?」
 アラノアの問いかけに、ガルヴァンは言葉を探すように視線を逸らす。
「――ああ、覚えている」
「あのオーガの中に、私の意識が入っていたの」
 静かに告げられる告白。
 打ち明けられた事実に、ガルヴァンは信じられない様子で顔を覗きこむ。
 しかし、アラノアが心臓に悪い冗談を言う人物でもないとガルヴァンは知っている。
「そのオーガとして、ガルヴァンさんに殺されたんだ」
 アラノアは静かに告げると、ガルヴァンから目を逸らすように視線を下げた。
 手元の紅茶は、すでに冷え切っている。

 ガルヴァンも自身の両手に視線を落とした。
 あのとき感じた違和感、とどめを刺した瞬間の記憶と感覚が蘇る。
(俺が本当に『殺した』のは)
 肉体そのものはオーガ、しかしその中にいた者は――目の前に居る彼女。
「そう、か」
 致命的な間違いを犯したような、罪悪感。
 勝利したにもかかわらず、酷く怯えた様子のアラノア。
 ――真実を知ってしまえば、全てが繋がって見える。
「……自分を殺した相手と一緒にいて、苦しくはなかったのか?」
 長い沈黙の後、先に口を開いたのはガルヴァンだった。
 ショックは隠せなかったが、アラノアはどうだろう。
 何故自分と一緒に居られたのだろう、と。
「それは、ガルヴァンさんが」
 アラノアはなにかを言おうとしたが――一瞬、間を置くとすぐに口を開いた。
「優しい人だって分かってたから」
 だから、負担になりたくなかったと。
 目を伏せる姿にガルヴァンの胸が酷く痛む。
 ――情けない。
 どれほどの恐怖だっただろう、隣を歩く人物が自分を殺した男だなんて。
 それこそ、悪い夢であって欲しいとすら願ったかもしれない。
「俺は、そんなに頼りないか」
「そんなことないよ、今まで伝える勇気がなかっただけ」
 その言葉がほんの僅かに罪悪感を和らげる、しかしガルヴァンとって許し難い事実に変わりない。
「……俺は今まで神人を守る精霊としての自覚を欠いていたようだ」
 両手を伸ばし、アラノアの手を包み込むように握る。
「改めて誓おう、お前を守り抜く」
 絶対にと、瞳の奥に強い意志が感じられてアラノアの胸がドキリと高鳴る。
 しかしその想いを、口に出せない……自分では釣り合わないほど、素敵な人だと知っているから。
「……私だって、ガルヴァンさんを守りたい。傍で戦いたい」
 もう二度と傷つけない為に、もう二度と迷惑をかけたくないから。
 強くなりたいと、決意と誓いが交わされる。

●心強さの拠り所
「とても美味しいですね」
 個室の落ち着いた空間を提供するとあるレストラン。
 キャンドルスタンドが淡い火を灯して部屋の中をほんのりと照らし出している。
 瀬谷 瑞希は対面に座るフェルン・ミュラーに向かって笑顔を見せながらカプレーゼを頬張る。
 フレッシュチーズとバジル、トマトを挟んだサラダは酸味が効いていて、コース料理の初めに食すにはピッタリだ。
「ミズキが喜んでくれてとても嬉しいよ」
 フェルンも瑞希の嬉しそうな様子に、微笑を浮かべて自分も同じ気持ちであると伝える。
 少しの歓談を楽しんでいる間に、ウェイターがカートに乗せた前菜をテーブルに置いていく。
 焼いたバゲットにニンニクとオリーブ油を塗った香ばしい香りと味わいが、食欲を誘い出す。
「いいですね。二人きりで、ゆっくりと寛いだ時間を過ごせるのも」
「気に入ってもらえてよかった」
 ここの料理は美味しいと聞いたからと、自分の為に見つけてくれたのだと匂わせる言葉が瑞希の頬を熱くする。
 和やかな食事の時間は過ぎていき……副食、主食と少しずつ空腹を満たしていく。
 穏やかな食卓を囲えるのも、ひとえに先の激戦を乗り越えられたからだろう。
「……ミュラーさん」
 不意に改まった様子を見せる瑞希に、フェルンは首をかしげた。
「なんだい?」
「この一年、色々な体験をありがとうございます。素敵なお店にも連れてきてもらえましたし」
 ぺこ、と頭を下げて一年の挨拶を改めて伝える瑞希。
「こちらこそ、この一年で色々なことを一緒に出来て嬉しいよ。ありがとう」
 フェルンもお世話になりましたと、一礼を返す。
 対面に見える穏やかな笑顔に、瑞希の胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。
 息苦しさに言葉が詰まってしまいそうで、瑞希は遠くを見つめるように窓の外を向いた。
「……私、少し考えていた事があるんです」
「考えていたこと?」
 見つめた先のガラス窓から見える、街灯で明るく照らされる街並みと溢れかえるような人波。
 ――暴走したギルティの存在を許していれば、この光景も見られなかったのだろう。
 瑞希の脳裏に、ぼんやりとそんな想像がよぎる。
「レッドニスさんの救出作戦の時……私、ミュラーさんを名前で呼んでいました」
 冷静でいた、つもりだった。
 ――しかし、いざ目の前に迫り来るオーガの大群が現れると、これまで見たことのないほどの規模で。
 絡みつくような殺気に圧倒され、動揺してしまったのかもしれない。
「でも、あのとき……『フェルンさん』って、口から出ちゃって。アレ? って思ったのですけど」
 けど、いつもより何か心強いなにかを感じられた。
 いつもより近くに感じられた気がした。
「――これから『フェルンさん』って、名前で呼んでいいですか?」
 静かに話に耳を傾けていたフェルンは、グラスの水を一口含んで喉を潤した。

 ゴクリ、と喉を上下させる様子をチラリと見ている瑞希に視線を向ける。
 青い瞳と視線が交わると、気恥ずかしさに瑞希は俯いた。
「ふふ」
 フェルンはもじもじと恥じらう瑞希の様子に笑みをこぼす。
「いいよ。それに……名前で呼んでくれた方が、俺も嬉しいな」
 自分が年上だとか、瑞希が色々と考えた上で、苗字で呼んでいたこともフェルンは知っている。
「俺がミズキを名前で呼んでいるのは、確かに同じ名前の友人が居たからというのもあるけど……苗字同士だと部活の先輩後輩みたいな気がしてさ」
 同じ名前、と言っても……その人物は精霊であり、男だ。
 今は亡き人物と面影を重ねて見ている訳ではないということは、容易に分かる。
 それに苗字で呼び合うことは、どうしても他人行儀に感じられる。
 見えない壁で近づくことすら許されていないようで、息苦しく思えるとフェルンは語る。
「女の子は可愛い名前で呼んであげたいからね」
「その、ご友人と同じ名前ですよ?」
「それでも、ミズキは『ミズキ』だろ?」
 例え同じ名前でも、自分のパートナーである『ミズキ』は一人しか居ない。
 特別な意味が込められているように思えて、瑞希の瞳がじわりと揺らぐ。
「俺はミズキと早く仲良くなりたかったんだよ、年上とか年下とか関係なくさ」
 そう言って笑顔を見せるフェルンの姿に、瑞希はこみ上げてくる感情に気恥ずかしさを感じる。
(か、顔が真っ赤になっていないか心配です)
 幸い、部屋の明かりが燭台のみで見えにくいから大丈夫なはず。
 水を口に含んで熱くなる頬が冷めないかと試してみたが、熱は一向に収まらない。
「……ほら、君のそんな照れた顔も見れる」
 フェルンの悪戯っぽく微笑を浮かべる顔を、瑞希は見ることが出来なかった。

●告げた迷い
「おう、ちび助は?」
 ソファにごろりと寝転がっていた八月一日 智は、ドアが閉まる僅かな音に気づいて身を起こす。
「おチビさんは眠ったわ」
「そっか、それなら良かったな……生意気盛りっつーか、なんつーかなぁ」
 智の住むマンションの一室には、水田 茉莉花の第二契約者である精霊も転がり込んできて、非常に賑やかな場所になった。
 茉莉花も背もたれに身を預ける智の隣に腰掛け、ひとつ溜め息。
(まさか、こんなことになるとは思わなかったけど……)
 災難に災難が続いて、文字通り転落していくような状況に、一時は絶望しか見いだせなかった。
 それでも、どうにかやってこれたのは。
(ほづみさんのおかげ、よね)
 つい口論になってしまったり、ときには手も出てしまうことがあるけれど。
 茉莉花にとって、智が『恩人』と呼べる存在に変わりはない。
 智自身がそう思っていることはなくても、茉莉花の中では感謝の念が心の片隅にあった。
 ……だから、今のうちに聞いておきたいと思った。
「ねぇ、ほづみさん」「あのさ、みずたまり」
 まさか同時に口を開くとは思わず、出しかけた言葉が喉元に戻っていく。
「そっちから話せよ」
 いつもなら、譲りあっているうちに口論に発展していたかもしれないが……茉莉花は智の勧めに応じた。
「いいの?」
「おう、なんかいつもと違うから気になる」
 様子がおかしいと肌で感じていたのだろう、智は真剣な表情で茉莉花を見つめていた。
 普段から強気な態度で接する茉莉花を見ているからこそ、違いが分かると言える。
「……あたし、ここに居ていいのかな?」
 深みのある青い髪を揺らし俯く弱気な姿は、普段の茉莉花なら決して見せないだろう。
 それほどまで、彼女の中では大きな悩みになっていた。
「顕現する前に、あたしの職場が倒産したりアパートが燃えたりして。その時、厄介になったことがきっかけでしょ……ここに住むようになったのって」
 正直なところ、なぜ智があの時、あの場所で、あのタイミングで声をかけてきたのかいまだ解らない。
 その窮地を見ていた女神の悪戯か、気遣いか。
 神人に顕現したからこそ、茉莉花が居続けられる理由にもなっている。
「……家族じゃないのに、ここに住んでて良いのかなって、思って……」
 しかし今では新たに契約した精霊も住み始め、智の家に三人で共同生活を営んでいる状況。
 負担ばかり増やしている現状を、茉莉花は気にせずやり過ごすことが出来なかった。

 智は茉莉花の口から出た弱音に、静かに耳を傾けていた。
 目を逸らすこともなく、聞こえてくる言葉を全てを聞き取ろうとするように。
「おれは迷惑だなんて思ってない」
 不意に投げかけられた言葉に、茉莉花がゆっくりと視線を向ける。
 真剣な表情を浮かべる、智の青い瞳が真っ直ぐ見つめていた。
「困った奴を助けるのは当然のことだと思う」
 全焼した家を前に、力なく座り込んでいた茉莉花の姿を見過ごせなかった。
 智が初めて見たときの茉莉花の姿も、今のように弱気な姿だったのだろう。
「それに……あのちび助もウラがありそうだけど、なんか事情?があるのかも知んねぇし」
 茉莉花のもう一人のパートナーには、未だに接し方が解らない。
 しかし、それは見捨ててもいい理由にはならないと智は言葉を強める。
「ちび助も、みずたまりと一緒なら面倒見ても構わねーって思ってる」
 ――力強い言葉だと思った。
 ぼんやりと話を聞いていた茉莉花も、安堵してようやく微笑を浮かべた。
「そう言って貰えて、なんだか嬉しいな」
「へっ!?」
 不意に見せられた微笑に、智の心臓がドキリと跳ね上がる。
(あれ、おれ、なんか、変だぞ)
「えっとあのソノ何だその」
 しどろもどろと狼狽しながら視線を泳がせる姿に、茉莉花は小さく笑いをこぼす。
「そうだ、ほづみさんは何を言うところだったの?」
 先に譲られて話を始めたのだと思い出し、茉莉花が智の話を聞こうと視線を注ぐ。
「お、おれの話!?」
 先程まで見つめていた智の視線が右往左往、逸らされて行き場を求める。
(普段から『おれの嫁』ってふざけて言ってるし、言える言える)
「大したことじゃないんだけどさ?」
 声が裏返りそうになり、緊張で喉も乾いていく。
(言え、言え、これからも家族として……)
 智はふと、普段の自分の言動を思い出した。
 目の間にいる強気な女性を『嫁』と冗談交じりに称している。
 冗談だからこそ、真剣に受け止められることはなかった。
(家族として……みずたまりは、思ってくれてんのか?)
 智の本音は茉莉花に伝わっただろう、言葉を待っている彼女の眼差しが物語っている。
 ――しかし『家族』と宣言して諾を得られるほど、深い関係にはなっていない気がする。
 彼女にとって自分は……家族よりも居候先の主、良くて同居人という認識の方が強いように感じる。
「ほづみさん?」
 ハッと意識を取り戻すと、茉莉花と見つめ合う格好になっていた。
「あの、来年もよろしくお願いします」
 畏まって頭を下げる智の姿に、茉莉花は面食らってしまった。
「え、あっ、はい、よろしくお願いします♪」
 不意を突かれた茉莉花も慌てて礼を返す。
「そうだ、おもしろいお茶をもらったんだっけ。淹れてきますね」
 茉莉花はスッと立ち上がると、キッチンに向かって小走りしていく。
(家族としてよろしく……なんか、プロポーズみてぇだな)
 飲み込んでしまった言葉を見つめるように、智はぼんやりと天井を仰ぎ見る。

●宣戦布告
(どうしてこうなったのよ……)
 アメリア・ジョーンズの年末は急展開を迎えようとしていた。
 先日、パートナーのユークレースとメールのやりとりをしていた。
 そのほとんどが前のめりに口説いてくる内容で、今でも過去のメールを読むのが恥ずかしい。
 自分と同じシャンプーだとか、匂いが一緒の物を使いだしたとか……その点は百歩譲って良いとする。
 感情的に不快感を伴うところも否定できないが、自分だって香りの良いものを知ったら誰かに教えたくなることもある。
 どこで自分の愛用品のメーカーを知ったのかもこの際、目を瞑ろう。
 瞑らないとストレスがマッハで胃がジェノサイドしそう。
「でも、でも……どうして一緒に住む流れになったのよぉぉ!!」
 ソファに置かれていたクッションを感情に任せて壁に投げ飛ばす。
 ぽふんっ! と柔らかな衝撃音を響かせながら床に落ちていく。
「いや、いや、あたしもなんで許可しちゃったのよ!?」
 深夜テンションとはかくも恐ろしいものかと、アメリアは頭を抱える。
(あたしも結構恥ずかしいこと書いちゃった気がする……あたしを惚れさせたらーとか、一緒に寝ないならとか、言っちゃった気がする)
 その結果が、ユークレースの用意したアメリアの要望をほぼパーフェクトに叶えている新居という訳だが。
 内装もすでに取り揃えられていたこともあって、アメリアの引っ越しもとんとん拍子で済んでしまった。
 痛む頭を押さえながら、アメリアがふかふかのソファに寝転ぶとフッと影が落とされた。
「エイミーさん、気に入って頂けましたか?」
 ニッコリ笑顔で覗きこんでくるとんがり耳に、アメリアの頭がさらに痛む。
「……まぁ、いいんじゃない? オープンキッチンで広いし」
「お風呂も広々としてますよ、二人で入れるくらい」
「それはアンタが下心で探したんでしょ!! ……狭いよりはいいけど、絶対に一緒に入ったりしないからね!?」
 最適な物件を探しあてることがアメリアから提示された条件。
 勿論、その程度をこなせば良いのならと、ユークレースは二つ返事。
 ……条件をこなされてしまった故に、ユークレースも無かったことにする訳がなかった。
(悔しいけどインテリアもセンスがいいし、全部素敵なのよね……ここまでしろとは言ってないけど)
 本音を言えば、文句のつけようがないほど魅力的な住まいだった。
 充実した防犯設備もあり、フロントマンも居て、外装だってお洒落なマンション。

 ――しかし、それを甘んじて受け入れられない理由がアメリアにもある訳で。
「エイミーさん」
 じーっと見つめているユークレースの表情は、変わらず穏やかな微笑を浮かべているが、その青い瞳はギラリと光った気がする。
 まるで、獲物を狙う猛獣のような鋭い光。
「僕は本気ですからね、エイミーさんを惚れさせるの」
 これだ。
 アメリアの言葉を受けてユークレースは自分に惚れさせてみせると言っているのだ、その一環がこの同居生活なのだが。
(ふ、不安で仕方ないわ……)
 独占欲と言うものより、もっと自分本位な感情を感じられる。
 仮にも年頃の少女に向かって、光熱費の節約と称して一緒に風呂に入りたいだとか、
 寝る場所がないのなら同じベッドで就寝しようと言ってのけるのだ。
 これで『身の危険』を感じない方がおかしい、とアメリアの苦悩が深まる。
「今は、一緒に暮らせることで満足してあげますよ」
「なによ、それ」
「だって毎朝エイミーさんの美味しい朝食にご一緒出来るなんて、夢のようです。もし、エイミーさんがソファで居眠りしちゃっても、ちゃんとベッドまでお連れ出来ますし」
 それだけでも自分にとって価値のある行動が出来たと、ユークレースが視線を合わせながら顔を近づけて来る。
「!?」
 アメリアは驚いて勢いよく起き上がると、ソファの反対端まで飛び退いた。
 一瞬早くユークレースは身を引いて衝突を避けながら、視線でアメリアを追う。
「バカ! アンタ、今何しようとしたのよっ!?」
「キス、って言ったら……どうします?」
 からかわれたと思った。
 感情を逆撫でするような言動に、アメリアは顔を赤くして抗議する。
「ぜ、全然満足してないじゃない!? ふざけてるの!?」
「いいえ、これは宣誓……宣戦布告と言っても過言ではありませんが」
 ユークレースが口元に弧を描き、笑顔を作ってみせる。
「僕は手段を選ぶつもりはないです、必ずエイミーさんを惚れさせてみせます……でも」
 一呼吸おいてユークレースは背筋を正してアメリアにまっすぐ向き直る。
「生活は真剣に、ですよね? これからよろしくお願いします」
 殊勝な態度を見せるユークレースに、アメリアの怒りの矛先は行き場を失ってしまった。
(なんのかんの言っても、あたしの為にここまで用意してくれたし……悪い気はしないけど)
 これから二人きりで過ごすことが増えることに不安は大いにある。
 『宣戦布告』されたものの、これから共に生活をしなければならないのだとアメリアは大きく溜め息を吐いた。
「……解ったわよ、こちらこそよろしくね。ユーク」
 改めて挨拶するのも気恥ずかしいが、時間を共有する上では気遣いも欠かせない。
「では親睦を深めるために、一緒にお風呂に」
「入る訳ないでしょーっ!!」
 前言撤回。油断も隙もみせられないアメリアの叫びが虚しくこだまする。

●自覚する想い
「ノゾミさん、よかったら温泉でゆっくりしない?」
 スノー・ラビットの申し出は唐突で、夢路 希望はどうしたのだろうと視線を下げると……スノーの腕の中には一冊の雑誌が抱えられている。
『恋人と過ごす年末! テルラ温泉郷、パシオン・シー、ノースウッド穴場スポット特集』
(こ、恋人と過ごす)
 表紙の見出しが目に入り、希望はドキリとした。
 スノーから告白を受けて未だに保留している希望の返事。
 辛抱強く待ってもらえていることを申し訳なく思う反面、こうして誘ってくれることは嬉しく思っていた。
「は、恥ずかしいけど、水着になれるところなら」
「よかった、じゃあ……あそこがいいかな」
 承諾を得られたことにスノーはホッと肩をなでおろした。
 ――数日後、連れて来られた場所はルミノックスだった。
 かつてギルティを封印していた秘湯は瘴気を清浄化したことにより、治癒力の高い温泉水を湧き上がらせ薬湯として機能している。
(他に、誰にも居ませんね)
 幸運というべきか、希望とスノー以外に訪れている者は今はいない。
 希望は夏の思い出が詰まった白いビキニとスカートのセパレート水着を用意してきていた。
 着替えを済ませて浴場に向かうと、既に用意を済ませていたスノーの姿。
「ノゾミ、さ……」
 スノーは僅かに目を見開き、希望の水着姿を凝視する。
「夏に褒められたのが、嬉しくて……スノーくん?」
「! えへへ、見惚れちゃった」
 真夏の暑い日差しの中とは違い、今は煌々と輝く星空のような石窟の中。
 スノーは希望の姿を、眩しい陽射しを見つめるように目を細める。
「……あ、ありがとう」
 頬を赤らめ、もじもじと身体を揺らしながら希望は小さく礼を述べる。
 身体を抱くように両腕を抱きしめ恥じらう仕草は、一部を強調してしまう訳で。
 スノーも立派な男の子である、強調された胸元にチラリと視線が向いてしまう。
「……か、風邪を引く前に早くお湯に浸かろう」
 本当は手を引いていきたいけれど、申し訳なさが先立つスノーはそそくさと湯場に足を運ぶ。
 希望も珍しく早足で進んで行ってしまうスノーの後ろについていった。
 ぽちゃん、と水滴の滴る音が響き、揺らめく水の音だけが耳に届く。
 二人で入るには広すぎる湯場に、希望は落ち着くことができず湯に浸かると縁に寄りかかって身を縮こませた。
 その隣にスノーが腰を下ろすと、膝を立てて座り込んだ。
「ノゾミさん、今年一年もお世話になりました」
「こ、こちらこそお世話になりました」
 ぺこり、とスノーが頭を下げるとつられて希望も頭を下げる。

 スノーはまっすぐ希望の瞳を覗き込み、自身の姿を捉えるように見つめた。
「恋を教えてくれてありがとう。僕ね、ノゾミさんといると凄く温かくて幸せな気持ちになるんだ」
「……っ」
 真っ直ぐ過ぎる、けれど偽りなき言葉が希望の胸に甘い疼きを伴い締め付ける。
「来年だけじゃなくてずっと一緒にいたいって思ってるよ」
 スノーは想いをすでに伝えている、希望の返事を彼はひたすら待ち続けている。
 もちろん希望の嫌がることはしない、辛抱強く耐えることこそ近道だとスノーは理解していた。
(私も同じ、一緒にいると温かくて幸せで……あ)
 ふと、希望はスノーが同じ感情を抱いていることに気づいた。
 寄り添う時間に、温かく幸せな感情を抱いている。
(じゃあ、私のこの気持ちは……?)
 気づいてしまいたいような、まだ理解したくないような。
 ドクン、ドクンと強く胸を打つ鼓動を抑えるように、胸に手を置いて視線を落とす。
 はらり、と揺れる希望の髪の隙間から赤らむ頬が覗く。
「……あ」
 横顔を見つめていたスノーの手が希望の頬に触れる。
「傷、痕になってる」
「傷?……あ」
 その傷はスノーが付けてしまったもの、今は塞がっているが僅かに細い線が痕になっている。
「ほとんど治ってますし、気にしないでください」
「気にするよ」
 悲しげに微笑む希望にスノーは珍しく語気を強めた。
「大切な女性の顔に傷を付けたんだから、気にするよ」
 苦しげな表情を浮かべるスノーに、希望の胸をキュッと締め付けられる感覚が走る。
 スノーは心の底から悔いているのだと、希望にはハッキリと感じられた。
「じゃあ、もう少しこうしていてくれますか?」
「……え」
「温泉とスノーくん効果で早く治りそうです」
 なんて、冗談めかしに言ってみたと微笑む希望の気遣いに、スノーの赤い瞳が揺らぐ。
 それは一瞬だけで、すぐにいつもの微笑を浮かべてみせた。
「ノゾミさんのお願いなら」
 向き合うように姿勢を正すと、両手で希望の頬を優しく包み込む。
「好き、大好きだよ……ノゾミさん」
 この気持ちがいつか届くように。
 スノーの恋慕が込められた言葉が語りかけられる。
(スノー、くん)
 湯の熱で火照る頬が、さらに熱くなっていく。
 触れられた手の温もりがさらに熱くしているのだと感じられた。
(もっと、触れられていたい)
 ずっとこの時間が続いていればいいのに。
 この手の温もりを独り占めできたら、心が満たされていくと思えるのに。
(この、気持ちは……)
 もう目をそらしたくない、ずっと抱いていたこの気持ち。
 自分の内側にある感情を、希望はハッキリと自覚した。ようやく気づけた。
(……やっと、解りました)



依頼結果:成功
MVP
名前:夢路 希望
呼び名:ノゾミさん
  名前:スノー・ラビット
呼び名:スノーくん

 

名前:アラノア
呼び名:アラノア
  名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド
呼び名:ガルヴァンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月22日
出発日 12月28日 00:00
予定納品日 01月07日

参加者

会議室


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