頼みます! シンデレラ(東雲柚葉 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 黄色い歓声と、熱狂の渦が会場内に響き渡っている。

 ここは、タブロスにある音楽ホール『らぶとうかん』。クリスマスから年越しにかけて、様々な歌手や話題になった人々が歌を歌う場所だ。

 今年話題になったアイドルグループから、毎年恒例で出演している大御所歌手や、一躍有名となったアニメからのアニメソングなどが絶え間なく歌われてゆく。

 そして、今年の企画はなんと、ウィンクルム特集。ウィンクルム兼歌手の方は勿論、募集を集って参加を表明した方が観客およそ20000人を前にしてステージで歌を歌うという企画だ。

 歌手でなければ持ち歌はないので、版権の曲を歌う所謂カラオケになるのだが、見ている人数が人数である上に、全国的にTV放送され、かつ音声で曲を流すのではなくプロのドラマーやギターリストが演奏してくれるというのだから、贅沢極まりない。

 クリスマスソングや恋愛ソング、年末年始にかけて気分が上昇する曲など、十人十色な歌が会場内を多い尽くす姿は、圧巻の一言に尽きる。

 そんな会場の控え室で、あなたは高鳴る鼓動に耐えていた。

 そう、あなたは20000人の前で歌を歌うのだ。

 衣装も着て、テレビに映る用のメイクもばっちりで、カメラさんも照明さんもセッティング済み。これはもう、後に引けるものではない。

 今年の想いをすべて吐き出し、来年へ向けて飛び立つ足がかりとする。

 歌にそんな想いを込めて歌えば、会場の人々、いや世界中の人々の心に響くことだろう。

 歌は世界共通で、種族も身分も何も関係ない。歌は世界を救い、人に希望を与える力がある。

 だから、歌う。そう決意し、閉じていた目を見開く。

 やるしかない。覚悟してあなたは舞台裏にも聞こえてくるミュージックと歓声をその身に受けながら、椅子から立ち上がり、

 ――光と熱気の漏れるステージへの階段を駆け上がった。



解説

・神人、もしくは精霊(デュエット可)がステージで歌を歌うというものです。

・カラオケとなりますが、ほぼアーティストとして歌っているのと変わりありません。

・歌はどんなジャンルでも構いませんが、民族歌や、宗教的なものなどはご遠慮下さい。

・歌は、版権そのままを使用などはご遠慮下さい。もじった歌詞や、変更した歌詞などでしたら、ギリギリ大丈夫かと存じます(危険な場合は少し手を加えさせていただくかもしれません)。

・お客さんは、どんな歌だろうと盛り上がりますし、団結します。ケミカルライトも曲の雰囲気に合わせて調整します。

・ダンスしても問題ありません。しかし、歌がメインなので、ダンスのみというのはご遠慮下さい。口パクもNGです。

・バックにアニメーションを流す、プロジェクションマッピングを使用する、鉄棒でぐるぐる回るパフォーマンスをするなど、指定がございましたらプランにてご記入下さい。

・基本的に個人の組での歌となりますが、他の組の神人同士でデュエットしたいなどご要望がございましたら、ご報告下さい。

・流れ

 神人、もしくは精霊に、控え室で激励をし見送る。
 ↓
 歌う側は、ステージで歌い、歌わない側は客席で応援。
 デュエットの場合は、二人ともで歌います。
 ↓
 終わった後、ステージ越し、控え室等で歌った側を労う。

 といった流れとなります。

・イベント参加費として、500jr頂戴いたします!


ゲームマスターより

おはこんこんばんは! 東雲柚葉です!

突然ですが、光る棒、なんて呼びますか? サイ……と思い浮かべた方は私と同じです! 解説にも普通にその名称で書くところでした。ですが、どうも商標登録されているようですね。危なかったです……。

今回は、ステージで神人、精霊が歌うというものです。
歌を歌って、今年の感想や、今の想いなどを乗せて歌っちゃいましょう!
また、歌の前や後に何かしら発言してもいいかもしれませんね!

ではでは、参加お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  スキル『歌唱Lv5』『ダンスLv1』、歌うのは神人

リヴィエラ:

(警戒するロジェに対し)
ううん、大丈夫です、ロジェ。
歌には身分や差別さえも乗り越えられる力があると、私は信じます。

(観衆に対し、マイクで)
皆さん、どうか私の歌を聴いてください。
愛する人へ逢う事さえ叶わない世界中の人達へ、この歌が勇気と希望になりますように。

(青いスポットライトの中、ドレスを着たリヴィエラが振付を交えて歌う。
歌のジャンルはラブソング。自分とロジェの境遇を歌に乗せる)

(お父様…聴いてくださっていますか? 私…私はそれでもあの方と共にいたいのです)

(控室で)
ロジェ…私の歌はお父様に届いたでしょうか…?


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
いつも聞いてる身近な声のはずなのに、マイクやスピーカーごしに聞くと、なんだか存在が遠く感じられます。



歌前
緊張してます?
ラダさんのハスキーなのに可愛い声、私は大好きですよ。



歌後
控室。精霊を椅子に座らせ、飲水を渡す。

あれはタブロスの若者の間で流行ってる曲でしょうか?
でも細部が微妙に違いましたね。

そんな物語だったとは!
あと、ダジャレが満載で愉快でしたね!

でも神人スキルを入れるのを忘れていませんか?
座っている精霊の喉元に右手で触れ、左手で獣耳を撫でながら、額にキス。
うふふ、ディスペンサです。

ラダさんは焦るでしょうか、戸惑うでしょうか?
いずれにせよ、その声が私だけに向けられていることが嬉しいのです。


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  思っていたより人が多くて…緊張してきました。
前に真珠姫という名前で歌わせていただきましたがその時以上ですね。
歌を歌う事を長い間怖いと思っていたけれど…いつの間にか歌うことが好きになりました
歌に悲しんでいた私のことで心配をかけたノグリエさんにも今の様子をお見せしたくて参加しようと思ったのですが…ドキドキしますね。

歌うのは愛の歌。恋人に友人に隣人に送る愛の歌。
沢山の人の心に温かいこの歌が灯りますように…。
それでも何よりも誰よりもノグリエさんへ届けたい。
多くの幸せ願いながらたった一人を思う。
そんな矛盾はあるけれど。
私の歌はねノグリエさんに聞いてもらってその時に初めて意味を持つんですよ。

大好きな貴方へ


(柘榴)
  (自分の歌声が響き渡る……まるで夢のようです)

柘榴とデュエットします。
わたくしはフルアップの髪に柊の髪飾り、
ミントグリーンのオフショルダードレス。

ステージに上がった時の緊張を少しでも解こうと
イメージトレーニングもしてみる。

(歌唱スキル使用)
ステージに立ち、柘榴と歌声を調整した後、
ピアノが奏でるメロディーに合わせて歌い出す。

♪白と黒に彩られた日々に 光が差し 貴方を見る

それまで暗かったステージに
一つ一つ色々な色の微かな光が灯り、星空となる。

♪あの日の貴方に 今年も巡り会えるのですか?
人は移り変わる星♪

演奏の後、ふと柘榴に向き直り、
一緒に歌えた事にお礼を言う。
「それにあなたと出会えた事もまた縁ですから」


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ステージで歌う

歌で、羽純くんに伝えたい事があるの
…私、気付いたんです
クリスマスに告白して貰った時、私も好きって…はっきり言ってないって事に

私はまだ自分に自信がなくて
羽純くんに相応しいのか、考えてしまうけれど…

私は羽純くんが好き
その気持ちだけは、真っ直ぐ届けたい

羽純くん、行ってきます
…見ててね
控室でそう告げてステージへ

元気でPOPな音楽に乗せて

台詞「私の大好きな人へ」


I Love You 嘘でしょ?
私は上手に笑えなくて
貴方一色に染まった心
上手に伝えられなくて

だから今度は私から
I Love You
貴方が好きです

終わったら深く一礼
恥ずかし過ぎて、羽純くんの顔、見れない

控室に戻って、羽純くんの顔を見たら涙腺が


☆リヴィエラ ロジェ ペア☆

 観客の歓声と熱気が、リヴィエラとロジェの居る控え室にまで伝わってくる。
 控え室に取り付けられているモニターには、総勢二万人にもなるお客さんが所狭しと並んでいる。お客さんの視線はすべてステージ上に注がれ、ステージ上で歌う歌手やアイドル達は心底楽しそうだ。
そしてその様子は何台もの大きなカメラが会場を常に撮影し、撮影されたその映像は全国に生放送で放映されているという。
 顔を売るチャンスにもなり得るこの歌番組は、逆に言えば全国に自分の顔を晒すことになる。
 追手から逃げている身であるリヴィエラにとって全国にライブ映像が届けられるということは、自分から居場所を発信することになる、ということだ。
 しかも、そもそもとして会場に居る人間の人数も夥しい。ステージを映す映像が、モニターに映され、ロジェは落ち着かない様子でリヴィエラに問う。
「……一体、この会場にはどれくらいの人間が居るんだ?」
「二万人ほどだと聞いています」
 素直に嘘偽り無く告げるリヴィエラの言葉に、ロジェは驚愕に目を見開く。
「2万人の前でだと!? 無茶だ、危険すぎる!」
 パイプ椅子に腰をかけていたロジェが、音を立てて立ち上がり、辺りを見渡す。今この瞬間にも追手が身を潜めているのではないか、そんな猜疑心に襲われたのだ。
 しかし、それも仕方の無いことだ。二万人という人数の中には、どんな人間がいるかもわからない。ウィンクルム特集という取り組みをしている時点で、会場に待ち伏せをされている可能性すらあるのだから。
 人目を避けてきたロジェとリヴィエラにとって、二万人の目に触れるというのは、これまでの努力が水泡に帰してしまう可能性すらある。
 ロジェはその可能性と危険性をリヴィエラに伝えるべくして、語調を強くして言い放つ。
「それこそ多くの人間の前に露出するという事だぞ!?」
 だが、リヴィエラはロジェの言葉を受けても、表情を変えずにはっきりとした語調で返す。
「ううん、大丈夫です、ロジェ」
 穏やかな、しかしそれでいて意志のこもった声で、リヴィエラがロジェに微笑む。
「歌には身分や差別さえも乗り越えられる力があると、私は信じます」
 リヴィエラの視線とロジェの視線がぶつかるが、リヴィエラは一歩も引かずにロジェに自身の気持ちを訴える。
 しばし視線を合わせていると、ロジェは短く息を吐いて、ふと笑みを溢した。
「……全く、君って奴は……」
 ロジェは倒したパイプ椅子を直し、リヴィエラの手を取って優しく立ち上がらせる。
「わかった。但し、観客席で不審な動きをする者がいたら、即刻取り押さえるからな」
 取られた手でロジェの手を握り返しながら、リヴィエラは、
「はい!」
 と笑顔で答えた。





 暗転したスポットライト、ステージの照明の下に、リヴィエラはゆっくりと歩みを進める。
 観客達の照明が落とされてもなお熱の冷めやらない様子が、伝わってくる。
 リヴィエラはステージ足元に点滅しているフットライトに沿って、ステージ中央に立ち、闇に包まれる観客席を見渡す。
 暗闇に身を委ねていると、指先から少しずつ闇に飲まれて消えてゆくかのようだ。
 ロジェの言った通り、観客の中に追手が居ないとは限らない。この暗闇の中に居る人間全てが敵ということだってありえるのだから。
 けれど、とリヴィエラは手に収まるマイクをぎゅっと握り締める。
自分が伝えたいことを伝えるためにも、自分の我が侭を承諾して送り出してくれたロジェのためにも。
ここで逃げ出すわけには行かない。
 リヴィエラはマイクを口元に持って行き、暗闇のままに呟く。
「皆さん、どうか私の歌を聴いてください」
 ざわざわと、夜海の小波のように、観客達の声が漏れ聞こえる。
 リヴィエラは目を閉じ、深海の底に落ちてゆくかのような感覚に苛まれながらも、それでも力強く言葉を紡ぐ。
「愛する人へ逢う事さえ叶わない世界中の人達へ」
 フットライトから少しずつ光が溢れて、リヴィエラを照らす。
「この歌が勇気と希望になりますように」
 青いスポットライトが、さながら深海に差し込んだ一筋の光のようにリヴィエラを包み込み、美しいドレスと青色の髪が美しくなびく。
 優しい曲調の音楽が流れ、暗闇に閉ざされた会場に伝播する。
 そして、リヴィエラがその声を会場に響かせた途端、会場のざわめきは静寂へと変わり、呆然としていた観客達は次々と青色のケミカルライトを取り出して、ゆっくりと左右に振りはじめた。
 その光景はまるで、優しい波のようだ。
『今まで感じていた感情に、私はずっと目を背けていた』
 両手を重ねて俯き、懺悔するかのようにリヴィエラが歌う。
 その声は透き通っており、聴いた者の心に浸透してゆくかのような声。
『でも、目を背けていても、心の水面は荒れ狂い逆巻くばかり』
 右手を青色のスポットライトに翳して、ゆっくりと拳を握る。
『目を背けるだけの“昨日”から、“明日”を探して惑うの』
 リヴィエラの歌声に合わせるようにして、ステージから会場に海色の光が広がってゆく。
 その光と歌声は皆の心に強く響いた。
『きっと』
 会場に来場していたカップルが、涙を流して手を取り合った。
『いつの日か、変われるんだよって』
 テレビを見ていた男性が涙声で彼女へと電話をした。
 恋人に会いたい一心で闘病していた女性が、生きようと意気込んだ。
『私が深い悲しみに飲み込まれても』
 会場が、世界中のリヴィエラの歌声を聴いている人達みんなが、彼女の歌声に心と目を奪われる。
『あなたの声が聴こえる』
 リヴィエラが両手を優しく胸に寄せて、目を見開いた。その双眸には強い決心が宿っており、微塵もぶれることがない。
『ふたりで帰ろう、って』
 胸に寄せていた右手を前に差し出して、リヴィエラは優しく噛み締めるように歌う。
 そして、差し出した手の先を見つめたままに、優しく微笑んだ。
『だから、もう何も怖くないの』
 遠く離れた地に居るであろう父に向けて、リヴィエラは心の中で呟く。
(お父様……聴いてくださっていますか?)
 どんな困難に襲われようとも、どんなに辛い境遇でも。
(私……私はそれでもあの方と共にいたいのです)
 曲が終わっても、リヴィエラは手を伸ばした先に居るロジェから視線を逸らすことなく笑顔を向ける。
 観客席で、追手が居ないかと周囲を警戒していたロジェだったが、リヴィエラの歌声を聞き、呆然と立ち尽くしていた。
 リヴィエラが歌う一言一言が、心に浸み込み、今までのリヴィエラとの日々が反芻される。
 手を伸ばして微笑むリヴィエラと目が合い、ロジェの頬に一粒の透明な雫が伝って流れ落ちた。
「ありがとうございました……!」
 静かな雰囲気だったリヴィエラのステージは、盛大な拍手と共に幕を下ろした。





 乱れる呼吸を整えながら、リヴィエラが控え室へと戻ってくる。
 その表情には、自分の伝えたいことを伝えたと言う憑き物が落ちたような想いと、もう一つ。
「ロジェ……私の歌はお父様に届いたでしょうか……?」
 自分の想いが父に伝わったかどうか、そのことだけがリヴィエラの胸中に蟠っていた。
 ロジェはその問いにわずかに逡巡しつつも、はっきりとした口調で溢す。
「……君の歌が、君の父親に届こうと、そうでなかろうと俺は君を愛してる」
 優しい微笑みを浮かべながら、ロジェはリヴィエラに歩み寄りそっと頭を撫でる。
「それに……リヴィー、君は立派だったよ」
 リヴィエラの歌は、ロジェの心に届き、会場を一つにした。なら、それはテレビやラジオで聴いていた人も同じだろう。
「君の歌は、俺達のような境遇の恋人達への慰めと励ましになったと思うんだ」
 リヴィエラは目尻に涙を浮かべつつも笑顔を形作り、微笑むロジェの胸に飛び込んだ。
 ロジェとリヴィエラ。二人と似た境遇の人達もまた、リヴィエラの歌を聴いて同じようにどこかで愛を確かめ合っているのかもしれない。






☆エリー・アッシェン ラダ・ブッチャー ペア☆

「緊張してます?」
 しんみりとした空気の会場に、ラダ・ブッチャーはやや緊張気味でエリー・アッシェンと控え室で待機していた。
歌は好きで、ジャンルも気にせず、アニソンもほんわか童謡もデスメタルも歌うので、カラオケに行ってもいろんな人と打ち解けやすい。
 けれど、それは一般的な場での話だ。二万人の前で、それも全世界で中継している前で歌を歌うというのは非常にハードルが高いことだ。しかも、前に歌われた曲は会場をとても温める歌ではあったが、熱狂的な意味で温めるというものではなかった。
 ラダの歌う歌の温度に観客がついて来られるのか、というのは不安材料になりうる。
 不安そうなラダに、エリーが励ましの言葉を投げかける。
「ラダさんのハスキーなのに可愛い声、私は大好きですよ」
 エリーの言葉は嘘偽りのない本心であるというのはわかるのだが、それでもラダの心の中には一抹の不安が蟠っていた。
「でもボクは本職の歌手じゃないし不安だよぉ」
 エリーは、親の敵のように人の字を掌に書いては飲み込むラダに微笑みを向けながら、
「大丈夫ですよ。歌手ではないのですから、歌手の手法で盛り上げる必要なんてないじゃないですか。ラダさんの歌いたい歌で盛り上げればそれで良いと思いませんか?」
 ラダは、その言葉で人の字を飲み込む動作をやめて、
「それもそうだねぇ、ボクはボクの出来ることをすることにするよぉ!」
 意を決したように立ち上がり、エリーに見送られながらステージへと向かった。





 ラダがステージに上がると、ステージがぱっと明るくなり、夥しいほどの数を誇る観客達がラダの前に姿を現した。
 呆気に取られて飲み込まれそうになるが、エリーに言われたことを思い出し、スタンドに立てられたマイクを外して手に持つ。
「ミュージック、スタートぉ!」
 空いた手でラダがぱちん、と指パッチンをすると、親しみやすいメロウ調の音楽がピアノの伴奏で流れはじめた。
 優しい音色に心を奪われつつも、どこか心を掻き立て叫びたくなるようなリズムに、観客達は小さな歓声を上げる。
『気紛れ屋天使のシャイニングアロー 然るべく必至でハプニングだろう』
 ハスキーがかったラダのラップが会場に響き渡り、ピアノの伴奏ととてもマッチした歌声に会場が色めき立つ。
『二人影法師 小さな出会い 見た目がヤバイ』
 軽快なラップに観客は頭を上下に振ってリズムを取り始めていたが、ついに身体全体を使いラダの歌声に合わせて動き始めていた。
 会場が自分の発するリズムで動いていることに高揚感を覚えつつも、テンションを振り切ることなくラダは歌い続ける。
『こりゃなんの罰ゲーム 合縁奇縁 契約消えん』
 客席でラダのステージを見ているエリーも、漏れることなく身体をリズムに合わせて左右に振っていた。贔屓や気遣いなどでは断じてなく、これは完全にラダの歌っている歌に身体が勝手に動いているのだ。
『胸射抜く的確なスナイピング ラブ&トーフ』
 ピアノの伴奏とともに、様々なポーズを取りつつラップを披露し続けるラダのその様子は、とてもステージに上がる前の緊張している姿と重ねられなかった。
 それだけ堂々と、それでいて観客が楽しめようにエンターテイメント性を失わないように――ひいてはラブソングとして恋人達、そして恋愛をまさにしている人達の心に響くように細心の注意が払われている。
 けれども、彼自身も一種の義務感から歌っているわけではない。
 それが、エリーにはとても嬉しく思う。ラダは、心からステージで歌うことを楽しんでいるのだ。
『胸叩くボス格のドラミング ゴリ&ピース』
 ゴリラのようなポーズをして、おどけた表情でラダが歌い、会場がどっと笑いに包み込まれる。
 まるで地域参加のお祭りのように親しみやすいライブだ。そしてそれだけにステージで歌うラダと観客達の心の距離は非常に近いものとなっていた。
『ちょとイイナと思ったら 立ったフラグをたった少しで グランドクラッシャー』
 会場の皆が良い意味で単調なリズムに身体をゆれ動かし、そのリズムに合わせて鼻歌を溢す。
 このステージはもはや、ラダ一人で作っているものではない。
 会場全体が、ラダと共に作り上げているものだ。
『ロイヤルな夜 計画しアプローチ』
 エリーはラダの作り上げたステージに感嘆しつつも、ちくりと心に刺さるトゲのようなものを感じた。
 違和感の正体の確証は、ラダの歌がフィニッシュに近づくにつれて確信に変わってゆく。
『好き嫌いでも好き ダブルハート』
 シャウトするかのように歌いきったラダの歌に、ステージ脇から大量のクラッカーが打ち鳴らされる。
 華麗なフィニッシュを決めたラダに送られたスタンディングオベーションでの賞賛は、まるで勝利を讃える凱歌のような歓声で、エリーはそれに負けじと一段と大きな拍手をステージ上に立つラダへと送った。





 冷めやらぬ熱狂の歓声を背に受け惜しまれつつも、ラダはステージから階段を下りて控え室へと戻ってきた。
 客席からは確認できなかったが、かなり息が上がっている。あれだけのパフォーマンスと完成度の高い歌を披露、なにより二万人の観客の前で歌っているというプレッシャーがあったのだから、息が上がっていて当然だ。
エリーはラダを椅子に座らせ、飲み水を差し出す。ラダは「ありがとぉ」と一言呟いて、喉を痛めないようにやや常温に近づけられた飲み水を、浴びるように飲み干した。
 ラダが一息ついたところを見計らって、エリーが疑問を呈す。
「あれはタブロスの若者の間で流行ってる曲でしょうか?」
 一息ついたが、突然の問いに対応できるほど回復していなかったのだろう。ラダは、首肯するだけで言葉は発さなかった。
「でも細部が微妙に違いましたね」
 そこでようやくラダは言葉を出せるまでに、緊張から解き放たれたようで、
「うん。替え歌だよぉ」
 と、答え、今度はやや照れくさそうにして、
「第一印象が悪かった精霊と神人が、恋人になるまでの物語なんだぁ」
「そんな物語だったとは!」
 エリーは驚きを顕にするようにして、両の手を結んで微笑んだ。
 そして、思い出すようにぽんと拳を掌に打って言い放つ。
「あと、ダジャレが満載で愉快でしたね!」
 その言葉を受けて、ラダは古典的なギャグのように身を滑らせながら、異議を申し立てる。
「韻を踏んでるって言ってぇ!」
 ラダの抗議に、エリーが笑みを落とすと、控え室に奇妙な間が訪れた。
 エリーは、呼吸の整ったラダの横顔に視線を向けて、ふと呟く。
「でも神人スキルを入れるのを忘れていませんか?」
ややぐったりとパイプ椅子に座るラダの喉元を右手で触れ、エリーは左手で獣耳を撫でながら――優しく額にキスをした。
数秒口付けをして、エリーは額から唇を離し、
「うふふ、ディスペンサです」
 と悪戯っぽく微笑んでみせた。
 ラダは、自分がされたことにしばし気づけなかったようで、ややあってから顔を赤らめつつそっぽを向く。
 そして、慌てたようにごもごもと言葉を選んだ後、
「こ、今度はカラオケに行ってエリーにも歌ってもらうからねぇ!」
 話を逸らす形で水を煽り、表情を悟られないよう顔を伏せた。
「そうですね、今度は二人で一緒に歌いましょう」
 二万人の観客の前で歌う姿は、とても素晴らしいものだった。
 けれど、エリーは同時にこうも思っていた。
ラダの歌。声が自分だけに向けられていることが嬉しいのだと。
 彼の歌を、声を独占出来ることに頬を綻ばせながら、しばしの間照れているラダを微笑ましく眺め続けるのだった。





☆桜倉 歌菜 月成 羽純 ペア☆

 ワアアアア、と沸き立つ歓声が桜倉 歌菜と月成 羽純の居る控え室まで漏れ聞こえてくる。どうやら、先に歌っていた方々のステージが終わったらしい。
 とすれば、次はついに歌菜の番。
 ……なのだが、先ほどから羽純が横から視線を投げかけているのにも関わらず、歌菜は何時になく固い表情で何かと思案しているようだ。
 心配になって、羽純がとうとう声をかけようとすると、同時に決意の色を秘めた瞳が羽純の視線とぶつかった。
「歌で、羽純くんに伝えたい事があるの」
 羽純は歌菜の真剣そのものの表情に、二の句を告がずに次の言葉を待つ。
 すると、ややあって歌菜はぽつりと呟きを洩らした。
「……私、気付いたんです」
 歌菜と羽純の視線はぶつかっているが、歌菜の瞳は遠くを見ている。
「クリスマスに告白して貰った時、私も好きって……はっきり言ってないって事に」
 好きと伝えるつもりだった。けれど、それは現在の関係を壊してしまうのではないかという不安から、出来なかった。
 羽純からの告白はとても嬉しくて、幸せすぎて死んでしまうのではないか、これは夢なのではないかと数日疑うほどに天に昇るほどの気分だった。
 だから、それだけに歌菜は自分が不安で逃げ出した現実が悔しい。
 羽純が『好き』だと伝えてくれたのに、自分はまだ『好き』と言葉で伝えていない。それが、自分で自分を許せないのだ。
「私はまだ自分に自信がなくて、羽純くんに相応しいのかって、考えてしまうけれど……」
 でも、それでも。と、歌菜は心の中で呟く。
 そして今度は羽純の瞳を見つめて、はっきりと告げる。
「私は羽純くんが好き」
 羽純はその言葉にどきり、と鼓動を跳ね上がらせ、歌菜の頬は紅潮している。
 けれども、その瞳はまったく揺らいでいない。決意を。覚悟を決めた者の目だ。
「その気持ちだけは、真っ直ぐ届けたい」
 歌菜は、そう告げてゆっくりとパイプ椅子から腰を持ち上げる。そして、羽純の言葉を待たずしてステージへと歩みを進めた。
 傍から見れば、告白してでも照れくさくて逃げている女の子の姿に映ったかもしれない。けれど、違う。
 これは、歌菜が羽純の告白に対して全身全霊で自分の感情を、想いを返答するという決意。
「羽純くん、行ってきます」
 向けられた笑顔はとても美しく、羽純の瞳に映る。
「……見ててね」
 呆気にとられていた羽純だったが、歌菜の言葉に意識を取り戻して笑顔で返事をする。
「ああ、見てる。――行ってらっしゃい」
 送り出す言葉と共に、背中が押され、歌菜は光差すステージへの通路へと視線を移した。その光はまるで、自分の未来へと続いているかのような気がして、自然と足が進む。
 歌菜は、ステージまで一度も振り返らずに前を向いて、歩き続けた。





 歌菜がステージに上がると同じくして、羽純も観客席へと足を運んでいた。
 控え室からステージに向かった歌菜は、最後まで振り返らずどんな歌を歌うのかも教えてくれなかったが、一体どんな歌を歌うのだろうか。
 真剣な双眸に宿った決意の意志から、普段の歌菜とは違う印象を受けていた羽純は、歌菜がいつも通りの調子でステージに望めるのか。それが気がかりだった。
 しかし、その考えは杞憂で終わる。
 歌菜がステージで目一杯のライトを浴びると同時に流れたのは、元気でPOPな明るいイントロ。そしてなにより、ステージ上の歌菜が微笑んでいるのが見て取れた。
 羽純は、微笑みを見て自然と口角がつり上がり、思う。
(いつもの歌菜だ)
 安堵するのも束の間、ステージ上の歌菜は控え室で見せたような真剣な面持ちに数瞬戻り、
「私の大好きな人へ」
 と呟く。
(大好きな人……って、俺の事でいいんだよな?)
 羽純が、野暮な邪推を覗かせながら、歌菜を見据える。
 同時にイントロが終了し、歌菜が大きく息を吸い込んだ。
『I Love You 嘘でしょ?』
 POPで、しかし少し切ないメロディーに乗せて届く歌菜の歌。観客達は狐につままれたように硬直する。羽純も観客達と同じように瞬きを忘れて歌菜を見つめ、歌詞を頭の中で反芻し、胸中に落としこむ。
『私は上手に笑えなくて』
 独白するように、苦笑交じりの表情で歌菜が歌う。
『貴方一色に染まった心』
 そのフレーズを歌った瞬間、ステージライトが一斉に淡いピンク色に姿を変わった。乙女の恋心を表現するかのような色彩に観客達は大いに盛り上がる。
 観客達はピンク色のケミカルライトを取り出し、歌菜の歌のリズムに合わせて上下に揺らす。
『上手に伝えられなくて』
 歌菜は、困ったような表情をしてそう歌う。その表情はパフォーマンスではなく、本心から出たものだろう。
 そして、曲とややリズムが外れるようにして歌菜が呟く。
『だから今度は私から』
 一度伏せられた歌菜の顔が会場へと向けられた時、羽純と歌菜の視線がぶつかる。そして、同時にまるで時が止まったかのような不思議な感覚に陥った。
 二万人の前で歌っているにも関わらず、今この世界には歌菜と羽純しか存在しないかのようだ。二人だけの空間は桃色の明かりに包まれ、淡く輝いている。
 歌菜は、呟くように、しかしそれでいてはっきりと。
『I Love You 貴方が好きです』
 そう、羽純に伝えた。
 照れくさそうに笑顔を向ける歌菜の表情は、真剣そのものだ。
 言葉を受けて、羽純は幸せそうに微笑む。
(ああ、これは……本当に)
 世界の時が動き始め、観客達の歓声が鼓膜を強く打つ。歌菜の歌が、終わったのだ。ちらり、と歌菜の方にもう一度視線を向けると、歌菜の顔がさっと耳まで真っ赤になった。
 歌菜はその表情を悟られまいとしたのか、観客に向かって深く一礼。
 羽純は歌菜の深い一礼を見送って、控え室へと向かった。





 まだ、鼓動が高鳴っている。歌を歌っての緊張からではない。
 自分がついに、想いを告げたからだ。
 鏡が手元に無いから確認できないが、お風呂に入っているときよりも更に赤く顔が色付いていることだろう。自分でも熱さが実感できてしまうのが、その証明。
 羽純は、一体どう思っただろう。そのことが絶えず、思い浮かぶ。
 そんなことを考えながら歌菜が階段を降り、控え室に戻ると、
「お疲れ様、歌菜」
 不意を突く形で羽純の声が届けられた。
 羽純の穏やかな微笑みを見て、今度は目頭が熱くなり、歌菜の目尻から涙が頬に伝った。 
 そんな歌菜に、羽純はゆっくりと歩み寄って、
「歌、ここに……届いた」
 人差し指で自分の心臓を指し、歌菜の想いがきちんと伝わったことを伝える。
 溢れる歌菜の涙をその指で拭いながら、羽純は優しく続けた。
「やっと、ちゃんと言ってくれたな」
 歌菜から、うん、うんと嗚咽交じりの首肯が返される。羽純はしばしの間歌菜を優しく見つめた後、
「嬉しかった」
 そう一言呟いて、――歌菜を抱きしめた。
 声にならない短い息が歌菜から漏れ、嗚咽が少し止まる。
けれども、歌菜の中で羽純の「嬉しかった」という言葉が強く響き、さらに嗚咽を繰り返す。
 羽純が、自分の想いに「嬉しかった」と返してくれた。
 それが嬉しくて、本当に嬉しくて、歌菜は涙を止めることが出来ない。
 これで、二人の想いは互いに実ったということになる。好き同士の男女が、想いを告げあってその後どういう関係となるのかは、言わずと知れたこと。
 羽純が勇気を出して、先に告白してくれた。ならば、今度は自分が最初に勇気を出す番。
 だから。桜倉 歌菜は嗚咽交じりの声で羽純にはっきりと呟く。

「私と、付き合ってください」

 羽純の表情は抱き合った体勢であるため、窺い知れない。
 けれど、その答えは顔を見なくてもすぐに返ってきた。

「――もちろん」

 歌菜が羽純の腰に手を回し、羽純は歌菜を抱きしめる力を少しだけ強めた。
 これから先、どんな困難が待ち受けているかはわからないけれど。
 二人でなら、きっと大丈夫。そう心に決めて、もう一度強く抱きしめあった。





☆シャルル・アンデルセン ノグリエ・オルト ペア☆

 控え室に、観客の歓声が響き渡って来た。前に歌っていた方々のステージが終わったのだろう。
 そして、前の方の発表が終わった、ということはスケジュール的にシャルル・アンデルセンの発表順番となる、ということだ。
 控え室に設置されたかなり大き目のモニターからもわかるように、そして、先ほど控え室に入る前にちらりと覗いた会場も、想像以上の観客が敷き詰められているようだ。先ほどスタッフに人数を訊き、二万人は居ると伝えられた時は腰を抜かすかと思った。
 予想を大きく上回る観客の数に、シャルルは緊張に襲われる。過去に真珠姫という名前で歌ったことがあったが、それ以上の観客数だ。
歌を大勢の前で歌う、というのは酷く緊張するものだが、まったくの経験がないという分まだマシという反面、二万人という人数がどれだけすごい人数かがわかってしまうのが逆に緊張の種となってシャルルに襲い掛かる。
 とはいえ、歌が嫌いというわけではない。
 確かに、歌を歌う事を長い間怖いと思っていたシャルルだが、いつの間にか歌うことが好きになっていた。
 今回、もう一度観客の前で歌を歌おうと考えたのは、歌に悲しんでいた自分のことで心配をかけたノグリエ・オルトにも、今の様子を見せたくて参加したのだ。が、
(……ドキドキしますね)
 やはり、人前で歌うというのは緊張する。それも、前回よりも多い観客の前で。しかも、全国に生放送されている場で歌うのだから、これで緊張しないというのは大御所の歌手くらいのものだろう。
 緊張を表情に滲み出しているシャルルを見やって、ノグリエはふと笑みを溢した。
 シャルルの歌声が素晴らしいのは、知っている。歌を怖がっていた当時と比べて、最近は楽しそうに歌を歌ってる姿を見ることが多くなっていて、内心かなり安堵し、胸を撫で下ろす思いだ。
 けれども、と笑みを崩してノグリエはやや不満そうな表情をする。
(何もこんな大勢の前で披露しなくても……ボクが独り占めしておきたいくらいだったのに)
 シャルルの歌は素晴らしい、素晴らしいが、それだけにノグリエはあまり他の人間にシャルルの歌を共有したくないのだ。
「それじゃあノグリエさん、行ってきます!」
 元気ハツラツな笑顔を浮かべて、シャルルがステージへと続く階段へと向かう。
 不満そうな顔を見せてはいけないと、ノグリエは笑顔を取り繕って、
「頑張ってくださいね、シャルル」
 と呟いた。
 不服そうではあるものの、シャルルの歌を聴かないという選択肢はないようで、ノグリエは控え室を後にして会場へと向かった。





 シャルルが舞台に立つと、軽快なリズムの音楽が流れ始めた。
 アイドルステップでイントロを終え、シャルルが口を開きその艶やかな唇から美しい声を会場内に響かせる。
 純真無垢を思わせるシャルルの容姿に合わせるようにして、会場は白色のケミカルライトを用意して左右に振る。当然のように、ノグリエも二本装備だ。
(会場の方は幸せですね。シャルルの歌が聞けるのですから)
 周囲を見渡しつつ心の中でやや毒吐くが、それでもシャルルの歌から意識は微塵も逸らさない。
シャルルが歌っているのは、彼女自身が好む愛の歌だ。隣人すら愛せというような万人に捧げる愛の歌。
 その願いはシャルルが声で奏でる美しい歌と共に会場の観客達を包み込み、テレビ放送で全世界へと発信されてゆく。
 願わくば、沢山の人の心に温かいこの歌が灯りますように。そう願うシャルルは、想いを込めてひとフレーズひとフレーズを噛み締めるように歌う。自分の歌が、願いが全世界の人々に届くように。
 けれども、その中にシャルルの他の私情がひとつだけ混在していた。
 それは、
(何よりも誰よりもノグリエさんへ届けたい)
 という想い。
 多くの幸せ願いながらたった一人を想う。それは、とても大きな矛盾であるとシャルルは自覚している。ならば、矛盾のまま歌うシャルルの歌は、ただの自己満足なのか。答えは、ノーだ。
 シャルルの歌は、自己満足で歌うだけでは完成しない。
 願いを込めて歌い、人々にその願いが届くこともそうだが、なにより、
(私の歌はね、ノグリエさんに聞いてもらってその時に初めて意味を持つんですよ)
 歌とは、伝える相手が居てはじめて成立するものだ。それが、他人か友人か恋人か家族かはたまた自分なのかもわからないが、シャルルの歌はノグリエに届いてはじめて歌という意味を与えられる。
 大好きな貴方へ届ける、メッセージとなる。
 そのメッセージを、歌を媒体としてノグリエに届けているのだ。
 ノグリエは、ステージで歌うシャルルを見て、そのシャルルの瞳が自分だけを見ていることに気がついた。二万人の中でただ一人、自分だけを見ている。いや、それは自惚れ――または誇張かもしれないが、少なくとも、歌っている内容が自分に向けられているものであることを悟った。
 ああ、とノグリエは湧き上がる歓喜を抑えつつ、微笑みを浮かべる。
(沢山の人に向けて歌っているけど本当はボク一人に向けられている)
 シャルルの歌は、ノグリエの為に歌われている。
 ノグリエはその事実に胸を打たれ、さらに相好を崩す。
(ボクは本当の意味でシャルルの歌を一人占めにしているんですね……)
 二人きりで送られる歌とは、また別種の喜びが介在している。ノグリエはシャルルの透き通るような歌声に耳を傾けながら、嬉しそうに微笑んだ。
 シャルルの歌は終盤を迎え、有終の美を飾った。





 シャルルのステージを見終わり、ノグリエは控え室に待機していた。
程なくしてシャルルも控え室に姿を現し、その透き通るような肌を紅潮させてノグリエの前に歩み寄る。
「私の歌、伝わりましたか?」
 自分の想いを、言葉で伝えるのは照れくさい想いを募らせ歌ったメッセージを、ノグリエは受け取ってくれたのだろうか。そんな一抹の不安を覗かせながら、シャルルはそう尋ねた。
 ノグリエは、シャルルのその上目遣いでの発言に笑みをより一層深くして、
「はい、とっても素敵な歌でした」
 と感想を述べた。
 シャルルは、自分の求めた答えでないことにやや残念そうな表情を覗かせたが、ノグリエはその表情にふとまた別種の悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「もちろん、シャルルのメッセージもしっかりと届きましたよ」
「本当ですかっ!?」
 それを聴いて、シャルルはぱぁっと明るく花を咲かせたように笑顔になり、すぐに頬を赤く染めた。ノートに箇条書きしたノグリエへの「好き」という想いを読まれたも同然なのだから、恥ずかしくなってしまっても不思議はない。
 シャルルは照れくさそうにしながらも、えへへと笑う。
 そんな彼女が愛おしくて、ノグリエはシャルルの頭を優しく撫でた。
 シャルルの想いを込めた歌は世界中に発信されたが、本当の意味でその歌を理解したのはノグリエただ一人だ。
(歌を独占するっていうのはきっとそう言う事なんですね)
 ノグリエは、優しくシャルルを撫で続けながら、シャルルから見えない角度で薄く目を開け胸中で呟く。
(あの男は気付けなかったけれど)
 その瞳は刃物のように鋭敏で、気の弱い者なら卒倒したかもしれない。
「ノグリエさん? どうかしましたか?」
 けれども、その表情はすぐに消され、穏やかな笑みに変わる。
「いえ、なんでもありません。ただ、今度は二人でカラオケに行くのも良いかもしれない、と思っただけですよ」
 その言葉にシャルルはもう一度表情に花を咲かせ、
「行きたいですっ!」
 シャルルのその笑みにノグリエも温かい笑みを浮かばせる。
そうして二人は、自分の想いを歌に乗せて伝える――その約束をしたのだった。






☆華 柘榴 ペア☆

 前にステージに立っていた方の歌が終了し、ついに華と柘榴の順番が次のプログラムとなった。
 同時に、二人の発表でウィンクルムが歌を歌う企画は終了するとのことで、観客達の熱気もまだステージに上がっていないのにも関わらず高まっているようだ。
 どうやら、デュエットで歌うウィンクルムが華と柘榴だけというのも、注目を集めているようだ。何組かのウィンクルムが出演していた企画だったが、まさか自分達がトリになるとは思いもよらなかった。
 前に歌ったウィンクルム達のパフォーマンスが、それだけ素晴らしいものだったということもあるだろう。それだけに、番組スタッフやメイクさん達も気合が入っているのか、かなり丁寧に打ち合わせとメイクアップ、ドレスアップを施してくれた。
 華はフルアップの髪に柊の髪飾りを身に付け、ミントグリーンのオフショルダードレス。
 柘榴はワックスでオールバックにした髪と、ダークレッドのタキシード。
 互いに互いを見て、いつもと違う雰囲気にドキっとしながらも、ステージへの時間が近づいていることへの緊張感が高まる。
 華は特に緊張に襲われたので、ステージに上がった時の緊張を少しでも解こうとイメージトレーニングもしてみることにした。
けれど、少し落ち着いたものの、やはりドキドキと高鳴る鼓動は収まらない。
 すると、そんな華を見兼ねた柘榴がツカツカと歩み寄り、
「鳳はん。こないな日、2度は無いでっせ」
緊張する華の肩にそっと手を置き、顔を寄せる。
「今宵はお客はんと一緒に歌いましょ。歌うヤツはバラードですから覚えといて下せぇ」
 笑顔で言う柘榴を、華はマジマジと見つめて首肯する。
 しかし、まだ何か引っかかるような表情をしているので、柘榴はそれも取り払ってしまおうと華の言葉を待つ。
「柘榴」
「何でしょう?」
 柘榴が続く言葉を待っていると、華はなにやら思案気な表情のまま呟いた。
「その顔でスーツを着ていると、ヤクザみたいですね」
 柘榴はその言葉を受けて、バツが悪そうな表情で苦笑し、
「これ、タキシードですぜ……」
 と苦言を呈した。
 華はもちろん柘榴が着ているのがタキシードだとはわかって言っている。いつもと雰囲気の違う柘榴に近づかれて、照れていることを悟らせないための所謂照れ隠しだ。
 けれども柘榴も柘榴で、スーツであればヤクザに見えるということは否定しないらしい。
 そのやり取りで、華はどうやら緊張が幾分解消されたようで、いつもの余裕が出てきたようだ。
柘榴はそれを確認して満足そうに頷き、並んでステージへの通路を歩いていった。





 通路を抜けて、ステージに着いた時見た光景は、圧巻の一言だった。
 ステージのライトはまだ点灯しておらず、観客席からはこちらに人が立っていることくらいしかわからないだろう。けれど、ステージからの光景は違った。二万人の観客がひしめき合い歓声をあげ、何台もの大きなカメラが自分達を撮影している。
 緊張感と同時に、意も知れぬ高揚感に似た感覚が湧き上がってくるのがわかった。
 トリということで、調整はしっかりとするようだ。ステージに二人が立つと、スタッフから、マイクと歌声の調整の指示が入った。
 二人はマイクのチェックとともに歌声の調整をし、本番への期待を高める。観客はすでに、大盛り上がりだ。
 準備は整った。後は、思う存分歌うだけ。
 二人は暗い中お互いに頷き合い、マイクを取る。
 そして、ピアノが奏でるメロディーに合わせて歌い出した。
『白と黒に彩られた日々に 光が差し 貴方を見る』
 その透き通り、かつ堂々とした歌声に観客は心を鷲掴みにされた。
 同時にそれまで暗かったステージに一つ一つ色々な色の微かな光が灯り、星空となる。
 華の歌う歌詞と合わせてはじめて完成する、パフォーマンスだ。観客は更に熱気を迸らせ、華が歌った後に合いの手を打ち始めた。
 歌声は会場一杯に響き渡り、華の耳にも届けられる。
(自分の歌声が響き渡る……まるで夢のようです)
 華は感動を覚えつつも、表情を変えることなく次の準備を整える。
 次は、柘榴の番だ。
 柘榴は、会場の盛り上がりにニヤリと笑みを浮かべ、歌う。
『瞳濡らした君にそっと触れるように 今口ずさむ』
 華と対を成すように調和された歌声に、会場が歓声に包まれた。
『あの日の貴方に 今年も巡り会えるのですか? 人は移り変わる星』
 続いて華がそのフレーズを歌うと、ステージに灯った星空の中の星達がきらりと光って一つずつ彼方へと消えてゆく。
 まるで本当に星空が入れ替わっているかのような感覚が会場を支配し、人工的であるにも関わらず幻想的な雰囲気に、観客達は大盛り上がりだ。
 華に続いて負けじと、それでいて均衡を保つように柘榴が続く。
『君との出会いに 後悔など一つもないから 人は求め探す星』
 まるで数百年の時を一瞬で体感しているかのように、会場内に浮かび上がった星空が移り変わってゆく。
 そして、柘榴は大きく息を吸い込んで、最後のフレーズを歌いきる。
『1つずつの出会いは モノクロの君に 虹の光を灯す』
 すると、会場が途端に光差し、今度は星空の情景を裂くようにして、虹色の光が現れた。美しくあり、そして幻想的な光景に観客はもはやケミカルライトを振るのも忘れてお祭り騒ぎだ。
 二人のデュエットは大成功を迎え、虹彩とともに幕を下ろした。
 肩を上下させて、二人は観客達の拍手喝采を身に受ける。
 華は、ふと柘榴に向き直り、マイクのスイッチをオフにして呟く。
「ありがとう、柘榴。あなたと歌えて良かった」
華は、柘榴と一緒に歌えた事にお礼を言う。
普段感情の起伏が激しくない華が、歌った後の胸のつかえが取れたかのような感覚から出たものだろうが――微かに笑顔を浮かべて「ありがとう」と、そう呟いたのだ。
柘榴はかなり虚を突かれたようにし、華はその表情を見て慌てて、
「それにあなたと出会えた事もまた縁ですから」
 と照れ隠しのように言い放った。
 華はそれだけ言ってステージから控え室に戻ろうとしたが、柘榴はその背中にぶつけるようにして言う。
「別れの数だけ出会いもありますぜ」
 それは星々の誕生と終わりのように、当然のことだ。けれども、華を引き止めるには十分だった。
 華は自分が言ったことを繰り返されるようにされたことに、不服そうな表情をして振り返る。
「けれど、鳳はんと歌えなかったら、あないな歌は作れまへんから」
 だが、続く柘榴の本心からのその一言に、華は不服そうな表情を一変させて目を丸くした。
 まったく邪心のないその言葉を受けて、もう一度華はそっぽを向く。そして、静かに、
「……確かに、そうかもしれないですね」
 と顔を柘榴に向けることなく呟いた。
 その表情は窺い知れないが、どうも悪い気分になっている雰囲気ではないようだ。
 柘榴はその一言が嬉しくて、観客達に一礼して控え室に向かった華に駆け寄り、
「今度は、あっしと二人きりで愛を語り合うのはどうですかい?」
 と暗に告白をする、という思いを乗せた口説き文句を向けたのだが、
「語り合うようなことはないですよ」
 そう一蹴された。
 また、ギャグ程度の扱いしか受けていないのか、と柘榴が意気消沈しかけるが、華はそのまま視線を柘榴に向けることなく、
「……いつか、二人でカラオケに行くくらいならいいですよ」
 柘榴はその一言で意気を浮上させ、華に「本当ですかい!?」とまとわり付く。
 華はわざわざ同じことを繰り返さず首肯もしなかったが、柘榴との約束は取り決められた。
 いつになるかはわからないが、二人はウィンクルムとしてではなく、二人の男女としてカラオケに行く日が来ることだろう。
 人の世も、何もかも星々のように移り行く。
 だから、華と柘榴の関係もまた、これから移り行くことだろう。






依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: カナリア  )


エピソード情報

マスター 東雲柚葉
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月20日
出発日 12月26日 00:00
予定納品日 01月05日

参加者

会議室

  • シャルル・アンデルセンです。
    よろしくお願いします(ぺこり)
    私が舞台で歌う予定になってます…緊張しますが楽しみでもあります。
    皆さんの歌声が届けたい方の心に届きますように。

  • [5]華

    2015/12/24-21:28 

    ……歌菜様とシャルル様は初めまして、でしょうか。
    神人の華と、ファータの柘榴と申します。
    他の皆様は大変お久しぶりですね、短い間ですが、よろしくお願いします。

    恥ずかしながら、柘榴もわたくしも歌が歌えるので、
    互いの特徴を引き出し合ってデュエットする事に致しました。

    皆様の歌も多くのお客様が聞いてくれるといいですね。
    ……それでは失礼します。

  • [4]リヴィエラ

    2015/12/24-08:57 

    こんにちは、私はリヴィエラと申します。
    皆様宜しくお願い致します。

    私はその…少し恥ずかしいのですが…(もじもじ)
    しっとりとしたラブソングを歌おうと思っています。
    ええと、ロジェは観客席にいてくださるそうです。

  • [3]桜倉 歌菜

    2015/12/24-00:32 

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/12/24-00:32 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    思い切って、私がステージに上がって歌う予定です。
    羽純くんには客席で見て貰おうかな…って。
    歌を通して、伝えたい事がありまして…(緊張)

    がんばりましょうねっ(ぐっ)

  • [1]エリー・アッシェン

    2015/12/23-21:47 

    ラダ・ブッチャー
    「ヒャッハー! みんなよろしくねぇ。
     ボクはねぇ、ユーモアをまじえた楽しい感じのラブソングを歌っちゃう!
     エリーはステージに上がらないで、歌を聴くだけみたい。


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