青年の戯れ(東雲柚葉 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「A.R.O.A.に攻撃するのはいいけど、ウィンクルムには大怪我させないようにしてよ」
 低く、絡みつくような声色で青年が黒いフードを被った男に囁きかける。
 フードを被った男は、メロン大の大きさをした水晶球――邪眼のオーブを大事そうに抱え、青年を睨みつけた。
「……気にいらないが、そういう契約内容だったな」
 フードの男の心底不服そうな態度に、青年は張り付いた笑顔に若干の陰りを覗かせる。
 けれど、ここでフードの男を始末してしまっては、計画が台無しだ。今までどおりの爽やかそうな作り笑顔をもう一度形成し、
「うん、ちゃんと守ってね。守ってくれれば、その水晶球は君のものなんだからさ」
 青年の言葉に、フードの男がニヤリと厭な笑みを浮かべ後方を見やる。
 そこには、青年達の二倍はあろうかという体長のD級オーガ、ヤックドロアの姿があった。
 しかし、通常見かけるようなヤックドロアの風貌とは少しだけ違う。頭部になにやら機械が取り付けられている。
「それは、そのオーガの魔法能力を上昇させる機械。君の命令に遵守するから、うまく使ってね」
 フードの男は歓喜を押し殺すことのない表情で、オーガを眺める。その双眸には、既にA.R.O.A.への攻撃を仕掛けたときのビジョンが見えているようだった。
 青年は涎でも溢しそうな男をつまらなさそうに一瞥し、ヤックドロアの頭部に取り付けられた機械に視線を注ぐ。
(これで準備完了。……それにしても、ウィンクルムがたくさん居るA.R.O.A.でのテロを受諾するなんて、マントゥール教団はゴミクズがいっぱい居るんだね)
 ゴミを見る目でフードの男を一瞥して、青年は踵を返した。
「じゃあ、僕はもう行くからあとは好きなようにしていいよ」
 青年が癖のある髪を揺らしながら病室を後にすると、フードの男は邪悪な笑みを浮かべた。
「ククク……ウィンクルムに怪我をさせるなだと? 無理に決まっているだろう! 馬鹿なヤツだ。このオーガ達で、ウィンクルムを一人残らず殺してやる!!!!」
腹を抱えながら男は暗い病室で、甲高い笑い声を反響させる。
対照的にオーガの表情は、何も感じていないかのように無表情だった。


 コツコツと革靴を鳴らしながら、青年が病院を後にする。
 あの男はマントゥール教団でも末端で下位の人間。ようは下っ端の使えない人間だ。教団内でも対して良い待遇は受けていないのだろう。
 けれど、それが青年にとっては好都合だった。マントゥール教団の使う邪眼のオーブを複製したレプリカをチラつかせただけで、すぐに計画に加担してくると言ってきたのだから、簡単な男だ。
 簡単な話、あの男は地位と名声がほしいのだろう。ウィンクルムの存在を否定し、オーガを信仰するよりも前に、自分自身の欲におぼれている。
 非常にくだらないし、つまらない。
「ボランティア活動もたまにはいいよね。うんうん、ゴミ清掃も大変だなぁ」
 青年は柔和な笑みを絶やさずに歩みを進め、ふとした拍子にぽつりと漏らす。
「あれ、さっき誰かに会ったっけ?」
 彼にとって興味の無い対象は、知識として脳内に保持していることさえ脳のキャパシティの無駄。だから青年は、あの男の存在は忘れた。
 青年が興味のある対象はただひとつ。
「……ふふ、ウィンクルム達が一致団結して一つの巨大な敵に立ち向かう……」
 無邪気な笑みに仄暗い邪気を宿しながら、静かに笑う。
 まるで、これから起こることが心底楽しみだというように。
「最高だよ! もっと愛を、ウィンクルムの愛を僕に見せて!!!!」

解説

・場所はタブロスにある、廃工場。テロを起こそうとしている者の動きがあると報告があり、出動したという設定とします。ですので、リザルトノベルは廃病院に到着したところから始まります。

・ヤックドロアが、参加人数+1体出現します。一組一匹と対戦し、その後強化されたヤックドロアと共闘していただきます。強化されたヤックドロアは、出現した他のヤックドロアを倒すと弱体化するので、苦戦を強いられることはあまりないかと思います。
 人数分出現するヤックドロアは、通常通りの性能です。
 強化されたヤックドロアは、機械によって装甲がさらに硬くなっており、かつ近接攻撃をすると、攻撃を跳ね返しそれに魔法攻撃を上乗せしてきます。
 が、人数分出現するヤックドロアを討伐すると、攻撃を跳ね返す行動をしなくなります。

・マントゥール教団の下っ端が、ヤックドロアを操って喜んでいるかと思いますが、ウィンクルムさんが手を汚す必要はないです、殺さないであげてください。

・青年はプレイヤーさんとの絡みはありません。

・人数分のヤックドロアとの戦闘中、他のプレイヤーさんとの絡みはありません。



ゲームマスターより

寒くなってきて朝が辛い、東雲柚葉です!
そろそろベッドと結婚する! という発言が冗談ではなくなってきましたね……。
最近、朝ごはんにすぐ飽きてしまって、明日から何を食べようか迷い中です。
と、そんな私のどうでもいい話は置いておいて、

どうぞ、ご参加お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  2人だけか…一寸心細いが怯んではいられないな(トランス

◆個別戦
ランスを盾と武器でガード
前衛として立ち回る(勾玉・時計適宜活用
ランスの魔法が放たれ、倒せそうなら俺も剣を敵心臓に突き立てる

◆ボス戦
全ての敵を倒せてたら安堵し気合入れ直す
誰かが討ち漏らしてたら全員で倒せば帳尻は合うと元気付ける

盾で仲間のHPを増やす

敵の奇妙な機械に油断するなと注意喚起
特殊攻撃等を見極めるまでは前衛として引き付けて、防御重視で観察だ

敵は強い
だから手応えを見て
「試したい事がある」と新しい力《らぶてぃめっとトランス》を…
恥かしいけど!我慢!なんだよこの格好は!どんなプレイだよ><

ランスの魔法に巻き込まれないように、伏せろ皆っ


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  敵を視認したらトランス→ハイトランス。
オレが前に出て太刀でヤックドロアを攻撃するぜ。
攻撃力202が出せるから敵の装甲も抜けるはず!
さっさとヤックドロアを倒して、他の面々と合流だ。

強化型ヤックドロアと戦う時はオレとラキアの2人が前に出る。
他の皆に攻撃が行かないように壁・盾役をするぜ。
ランスさんの魔法射線を塞がないように位置取りに注意する。
魔法発動時は巻き込まれないように退避もするぜ。
ヤックドロア・アスって上位種がいるのにロアを機械つけて何かしているのが凄くヘンだよな。
機械部分を壊さないように攻撃、倒した後で回収しアロアで調査した方が良いな。
それに教団員からオーガをどう入手したのか聞きだすぜ。




李月(ゼノアス・グールン)
  ウィンクルム派遣って事はオーガ関係してるって事だよな
病院前トランス

ドロア戦
こんな強敵と戦うのか!?
防御が恐ろしく高い
今の僕等じゃ攻撃は殆ど通らない

目を狙え

壁や残存物に身を隠し
ライトで敵の視覚攪乱
相棒に当てない様注意

手広げ魔力練るポーズ見せたら
魔法弾くるぞ
相棒に魔法弾向けそうならライト当て命中下げ狙い
撃ってきたら体勢低くし物陰で耐える

力場を展開されたら
バリアだ1分待て
数え合図
そろそろだ
切れるまで隠れ耐える
相棒に近づきそうなら声出し気引く

お守り握りしめ
頼む!
あいつを守ってくれ

敵が確実に弱っていると見て取れたら自分も同じ所攻撃

ボス戦
皆が揃うまで隠れて待機

戦闘
ライトで視覚攪乱


お守り
今度お参り行きます


咲祈(サフィニア)
  トランスは開幕時ではなく必要時/サクリファイスについても必要時

これが俗に言うテロリスト、かい?
ああ、分かってるさ
それも分かっている。心配いらない

基本的に精霊より前には出ない。相方が主に攻撃するので、神人は後方で弓を使い、援護(個別、共闘とも)

 怪我なく済ませたい。危ないだろうし(のんき
…サフィニア、心配性もほどほどにしてくれないかい? 子供じゃないよ

強化ドロア
 敵が他に何か動きを示すようなら攻撃を一旦中断し、みんなに伝える
問題なさそうなら攻撃続行


☆咲祈 サフィニア ペア☆

 足音が廃病院の廊下に木霊する。
 ひとつは咲祈のもの、もう一つはその精霊であるサフィニアのもの。
 そして、崩れかけの吹き抜けから、マントゥール教団の男が、邪眼のオーブを手に持ち下卑た笑みを浮かべて二人を見下ろしている。
 咲祈とサフィニアが居るフロアが一階で、男が居るのはおそらく最上階だろう。
「これが俗に言うテロリスト、かい?」
 咲祈が、男から視線を外さないままに呟き、手に持つ弓に力を入れる。
 それを見やって、サフィニアが心配そうな表情で、
「あのさ咲祈、あんまり無理しないでよ?」
「ああ、分かってるさ」
 咲祈は、男から微塵も視線を移さぬままに、了承の意を示す。
「それから前には極力出ないこと!」
 心底心配という感情を隠さず、サフィニアは咲祈の視界に入るように躍り出た。
 咲祈は、それでようやくサフィニアに視線を移し、
「それも分かっている。心配いらない」
 と言い切った。
 けれども、サフィニアはやはり咲祈が心配なようで、
「え、ほんとかなぁ……」
 そんなやり取りをしていると、上階で二人を眺めていた男が邪眼のオーブを取り出し、天に掲げる。すると、男の背後から何かが突如として躍り出て、吹き抜けを飛び降りた。
 まるで隕石でも落ちてきたかのような音と、そして衝撃が地面を揺らす。
 巻き上げられた粉塵が目に入らないよう、二人は顔の前で両手を交差して煙が晴れるのを待った。
 煙が晴れ、二人の前に鎮座していたのは――ヤックドロア。
「ヤックドロア……」
 咲祈がじっとヤックドロアを観察し、その動きを視認する。咲祈は後方に身を引いてサフィニアの後ろへと移動した。
 ヤックドロアの硬い装甲では、一気に勝負をつけることは出来ない。所謂、消耗戦だ。一気に勝負がつかない分、やや緊張感には欠ける。
 それだけに咲祈は臨戦態勢とは思えないのんきな声色で、
「怪我なく済ませたい。危ないだろうし」
 聞いたサフィニアは、バッと後方を振り返って咲祈を見やる。
「ああもう…なんでこう、のんきなのかなぁ? 咲祈はっ」
 頭を抱えるようにして言うサフィニアだが、それをばっさり斬り捨てるかのように、
「……サフィニア、心配性もほどほどにしてくれないかい? 子供じゃないよ」
 まるで反抗期の子どもが母親に呟くような声色で、咲祈が呟く。
「うぐ……」
 ぐさぁっ! と背中に咲祈の言葉が突き刺さったかのように、サフィニアが項垂れて、ヤックドロアに視線を戻す。
(心配性か……。お母さんって言われなくなったけどこれはこれで……微妙な心境……)
 乾いた笑みを浮かべながら、サフィニアが手裏剣を投擲しつつ、隙を縫ってスキル『双葉弐式』の連続攻撃を繰り出す。
 後方から援護射撃として投擲される咲祈の攻撃も、ヤックドロアに着々とダメージを与えているようだ。
 魔法攻撃で応戦してくるものの、咲祈とサフィニアが残骸の物陰や廊下と吹き抜けの狭間に姿を隠したりと、ヒットアンドアウェイを繰り返すので、攻撃を命中させることが出来ないでいる。
 力場の形成も、近接攻撃でなければ、対処は簡単だ。
 二人が着々とヤックドロアへダメージを蓄積させていると、突如異変は起こった。
「っ!?」
 ヤックドロアの頭上から、魔法弾が降り注ぐ。
 サフィニアは咄嗟に咲祈に駆け寄って盾となり、魔法弾の被弾を避けようと試みるが、一向に魔法弾の攻撃は来ない。
 怪訝に思い、サフィニアがヤックドロアに視線を移すと、
「なんで……!?」
 そこには魔法弾を全身に受けたヤックドロアの亡骸が転がっていた。
 咲祈が上階の人影に視線を映し、立ち上がる。
 嫌な気配を感じて、咲祈はサフィニアと共に上階へと移動した。





☆李月 ゼノアス・グールン ペア☆

 廃病院の眼前で、李月とゼノアス・グールンは、廃病院に潜む敵について思考を巡らせていた。
「ウィンクルム派遣って事はオーガ関係してるって事だよな」
「だろうな」
 明確な敵意を感じ、李月とゼノアスは、トランスを発動することを決意。
 李月がゼノアスの頬に唇を落とし――、
「「終わりなき栄光のロードを共に」」
 二人の身体が不思議なオーラに包まれる。
そうして二人は、廃病院の中へと歩を進めた。



 中は、散在する残骸で一杯だ。
 歩くたびに足音が反響し、待合室だったであろう箇所を抜けると、吹き抜けが崩落している危険な場所に行き当たった。
「ようこそ」
 フードを被った下卑た笑みの男が、邪眼のオーブを手に持ちながら二人を上階から見下ろしていた。
 李月とゼノアスがすぐに臨戦態勢に入ると、男は一層笑みを濃くして、オーブを天に掲げる。
 瞬間、装甲に覆われたオーガが現れた。
「ヤックドロア……! こんな強敵と戦うのか!?」
 動きの緩慢な敵を見て、ゼノアスが怪訝そうに呟く。
「そんなに厄介な敵なのか?」
「防御が恐ろしく高い。……今の僕等じゃ攻撃は殆ど通らない」
 李月が敵を見据えつつ、短剣を握り締める。
「詳しいじゃねーか。詳しいついでに、弱点とか教えてくれよ」
 身体は硬い装甲で覆われており、攻撃が通らない。ならば、装甲で覆われていない箇所を狙う必要がある。
 李月は、ヤックドロアを見据えながら、
「目を狙え」
 ゼノアスは頷いた後すぐに残骸へと身を潜めた。李月も同じくして残骸に身を潜め、敵の視界から外れる。
 ヤックドロアは、こちらの姿を認識出来ていないようだ。李月はその隙を突き、ライトを取り出して目に直接光をぶつけた。
 すると、それを攻撃と認識したのか、ヤックドロアは目を瞑りながら魔法弾を形成するポーズとなる。
「魔法弾くるぞ!」
 李月が叫び声を上げ、すぐさまそこから離れる。ヤックドロアの攻撃は外れ、残骸を吹き飛ばした。
 李月のその素早い動きに、ゼノアスは感嘆する。
(アイツ最近本部に通い詰めてると思ったら……)
 そしてニヤリと口角を上げて、両手剣を握り締める。
「頼もしいじゃねーか」
 残骸を踏み台にし、ゼノアスがヤックドロアの目を渾身の一撃で振りぬいた。
 水っぽい音が響き、ゼノアスの手に何かをつぶした感覚が伝わる。
 しかし、
「ゼノアスッ!」
 ヤックドロアが悲鳴をあげ、振りぬいた腕が、空中に居たゼノアスに直撃した。
「ぐっあっ!?」
 10mほど後方に吹き飛ばされ、ゼノアスが壁に衝突。
「大丈夫!?」
「ごほっ、……いってぇ……」
 咳き込んではいるものの、無事そうだ。
 ヤックドロアは、視界を失った恐怖からか、バリアを発動していた。
「! バリアだ1分待て」
「……ちょっと試したいことがあるんだけど、いいか」
「……話による」
「どうも頭を打ったせいでくらくらする。だから、次の一撃でケリをつける」
「無茶だよ! ただでさえあいつは防御力が!」
「考えがあるって言ったろ?」
 ニヤリと笑うゼノアスに、李月は逡巡した後、ゆっくりと頷いた。
 丁度、ヤックドロアのバリアの効果も切れた頃だ。
 ゼノアスは立ち上がり、ヤックドロアに立ち向かう。両手剣を掴み、咆哮を上げて。
 李月はお守り握りしめ、深く願う。
(頼む! あいつを守ってくれ)
 ヤックドロアは咆哮の先に魔法弾を打ち込む行動をとるが――、
「食らえッ!」
 ゼノアスはその瞬間を狙って、
 天井に両手剣を突き刺し、振りぬいた。
 天井がひび割れ、倒壊する。同時にゼノアスがヤックドロアの足元に両手剣を突き刺し、
「うおおおおおおおおっ!」
 床を破壊して足元をすくう。
 ヤックドロアは体勢を崩し地面に倒れ伏し、
 落下してきた残骸が脇腹に連続で炸裂。
 おぞましい悲鳴が廃病院内に響き渡り。そして、掻き消えた。





☆アキ・セイジ ヴェルトール・ランス ペア☆

「嫌な雰囲気だな……」
 廃病院に踏み込み、残骸を掻き分けて進んでゆく中、アキ・セイジがぽつりと漏らす。
 その一言に、ヴェルトール・ランスは相槌を打ちながら、
「確かに。でも、ちょっと肝試しっぽくないか?」
 いたずらっぽく笑うランスに、アキは若干緊張を解されつつも苦笑する。
 しばし廊下や階段を歩いていると、恐らく最上階まで見渡せる設計だったと思われる吹き抜けに出た。
 アキが上階の様子を眺めていると、
「A.R.O.A.も随分と戦闘経験の豊富なウィンクルムを寄越したな」
 最上階から、フードを被った男が邪眼のオーブか手に持ちこちらを見下ろしていた。
 男が邪眼のオーブを天に翳すと、オーブが一瞬暗い光を発する。ランスはその一瞬の出来事を見逃さず、辺りに散在する瓦礫の残骸に視線を移す。
「セイジ!」
 アキが男に視線を注いでいると、ランスがアキをぐいっと抱き寄せ、後方へ下がる。
 何事か、と怪訝に思ったのも束の間、アキが先程まで居た付近に魔法弾が炸裂。瓦礫を吹き飛ばした。
 攻撃したのは、硬い装甲を持つオーガ、ヤックドロア。
 男が視線を集めている隙に、横から攻撃してきたのだろう。
 ヤックドロアがゆっくりと歩を進め、アキとランスに近づく。
「2人だけか……一寸心細いが怯んではいられないな」
 アキがそう呟き、ランスに歩み寄って頬に口付けを落とす。そして、
「「コンタクト」」
 二人の身体がオーラに包まれ、ヤックドロアに打ち付ける。
 戦闘態勢に入ったと共に、アキがランスの前に立ち、ヤックドロアの攻撃を打ち払う。
 前衛としてアキがヤックドロアの相手を努めている間に、ランスが後方で魔法を詠唱し止めを刺す算段だ。
 ランスに大気中にあるエネルギーが集中して行く。これは、他のスキルの威力を上げるスキル、『天空の涙』だろう。
 アキは、着々と進むランスの準備を横目で確認しながら魔法弾を弾き、挙動の遅い腕の振り抜き攻撃を打ち払い、ヤックドロアを圧倒する。
「セイジ! 準備OKだ!」
 ランスの合図に、アキは魔法の巻き添えを食らわないようにランスの前から撤退し、
「『乙女の恋心』!」
 ランスの杖からエナジーが放射され、ヤックドロアの胸に直撃する。その攻撃を受け、ヤックドロアはたまらずバリアを展開するが――、
「もう遅いぞ」
 内部からの、猛火。
 胸を焼かれたようなその感覚にヤックドロアはバリアを解いてふらつく。しかし、どうやら辛うじて息があるようだ。
 アキが、瀕死状態のヤックドロアに駆け寄り、手に持つレイピアを心臓に突き刺した。
 ヤックドロアは最後のその一撃でついにぐらりと倒れ、瓦礫の山に倒れ伏す。
「あの男を追おう」
 アキがレイピアを握り締めたままランスに促し、ランスもそれに続いて駆け出した。





☆セイリュー・グラシア ラキア・ジェイドバイン ペア☆

 長く、そして足場の悪い階段を登り続け、ようやくセイリュー・グラシアは最上階に着き足を止めた。
「本当に、悪い人ってこういう廃屋好きだよね」
 ラキア・ジェイドバインは、荒い呼吸を一息で整える。
「確かに、そうだよな」
 セイリューがラキアに同調し、笑顔のまま頷く。
 やや緊張を解いて二人が最上階を探索していると、
「こんなところにもウィンクルムが来るなんて」
 フードを被った男が、残骸の陰からゆっくりと姿を現した。
 手に持っているのは、邪眼のオーブ。オーガを操る忌々しい代物だ。
「やっぱりラキアの言うとおりだったな」
 セイリューは太刀を抜き、ラキアと並んで仁王立つ。
 男がオーブを振りかざすと同時に、セイリューがラキアの頬に口付けを落とす。
「「滅せよ」」
 オーラが二人を包み込み、力を増幅させる。けれども、セイリューの行動はそれでは終わらなかった。再びラキアの頬に口付けを落とし、インスパイアスペルを唱える。トランスの上位種――ハイトランス・ジェミニだ。
「ほう、ハイトランスか」
 男がオーブを翳すと、天井部分から、何かが降り注ぎ、セイリューとラキアに瓦礫の飛沫が飛び散る。
 二人はそれを軽く打ち捨て、敵を視認。
 現れたのは、Dスケールオーガ、ヤックドロアだ。
「『シャインスパーク』!」
 視界が晴れた瞬間を狙い、ラキアが『シャインスパーク』を繰り出す。敵の命中率を下げ、味方を癒す効果を持つスキルだ。
 しかし、ヤックドロアはバリアを発動しており、その効果は発揮できなった。
「ククク……こいつを倒したければ、もっと強力な攻撃を――」
 言い終わる前にすでにヤックドロアの眼前にまで迫っていたセイリューが、太刀による突きをバリアに打ち込む。
 途轍もない音が反響し、バリアがラグを見せるかのようにブレ、中に居るヤックドロアも悲鳴に似た声を漏らす。
「残念だったな」
 男がオーブを天に掲げると、ヤックドロアはバリアの中で魔法弾を形成する。バリアの効果が切れた瞬間に、セイリューに撃ち込む気のようだ。
 けれども、セイリューもそれに合わせもう一度太刀を振り上げ、第二撃の準備を整える。
「何度やっても無駄だ!」
 男の余裕の笑みに、セイリューは同じく笑みを浮かべて、
「それはどうかな?」
 怪訝そうにする男に視界に、セイリューの背後に立つラキアの姿が映った。
 ラキアが最初にとった行動は、戦闘補助。そして、今も前線には出て来ていない。
「まさかッ……!」
 セイリューが太刀の切っ先を全力で突き抜くのと、ラキアの叫びは同時だった。
「『シャイニングスピア』!」
 男がオーブを翳してヤックドロアの行動を止めようとするが、間に合わない。
 セイリューが傷つけたバリアを突き抜けて、ヤックドロアの魔法弾がセイリューに襲い掛かる。
 しかし、その攻撃はセイリューの突きに掻き消されてしまう。
 そして、ラキアが発動した『シャイニングスピア』の効果が適応。
 セイリューの突きと光輪が一体となり――、
 ヤックドロアの身体の中心と、その背後の壁に。巨大な穴を開けた。
「……これほどとは、予測以上だウィンクルム」
 ゆらり、と男がオーブをもう一度掲げセイリューとラキアを睨みつける。
「だが、本命はここからだ」
 男がそう言うと同時に、突如として現れた魔法弾が立て続けにラキアへと襲い掛かった。
「!?」
 驚きつつも、セイリューが魔法弾をすべて吹き抜けの方向へと弾きとばす。数秒の時間経過の後、爆音が響き渡った。
 男の背後から機械仕掛けのオーガが現れ、セイリューに夥しい程の魔法弾を撃ち出した。





●異形のオーガ討伐戦

 セイリューと男の戦闘音で場所に気がついた三組の面々は、すぐさま屋上へと向かい、全員が入り混じる大戦闘となった。
 セイリューが弾いた魔法弾が天井に直撃し、バラバラと音を立てて瓦礫が落ちる。
 アキが盾で体力を増やしてくれているとはいえ、あんな攻撃をモロに食らえば大ダメージは免れない。
 ラキアが戦闘開始時に『サンクチュアリ』を展開し、傷ついた一同を回復していなければ、重症を負った者も出ていたかもしれない。
(なんなのさ、あのオーガ……!)
 咲祈は、荒い息を繰り返しながら、サフィニアと共に物陰に潜む。
 サフィニアが、『双葉弐式』で手裏剣を立て続けに命中させるも、簡単に弾かれてしまいダメージになっていない。
 ラキアは、ふらふらとしているゼノアスを見て、敵から視線を逸らさぬまま『ファストエイド』でゼノアスの傷を癒した。
 李月がラキアに深々と頭を下げて、
「あ、ありがとうございます!」
「お礼は、敵を倒してからにしよう。この敵は、みんなで協力しないと厳しそうだよ」
 ラキアはそう笑顔で言い、ゼノアスに『シャイニングスピア』を使用し、防御力を向上並びに光輪を付属させた。
「よっしゃ、ぶっ倒す!」
 元気を取り戻したゼノアスが両手剣を握り締めて奮い立つ。李月も敵へ視線を集中。
 咲祈とサフィニアも、物陰から姿を現し、敵に視線を向けた。
 男はオーブを掲げ、ヤックドロアに命令をする。
 すると、ヤックドロアの胸に付属していた機械が開け放たれ、掃除機のように辺りのものを吸い込み始めた。
「咲祈、危ない!」
 サフィニアが咲祈の後方から吸い込まれ飛んできた瓦礫を払い、咲祈の手を引いて伏せた。
 ヤックドロアはあたりの瓦礫を吸い込み、徐々に形状を変えてゆく。
「ハハハッ、どうだウィンクルムっ!?」
 がくん、と男の身体がよろめき、ヤックドロアに引き寄せられる。
「な、何をしている!」
 男がオーブを掲げるが、吸い込みは止まらない。男は必死の抵抗のままオーブと共に吸い込まれ、姿を消した。
 吸い込みを止め、姿を変えたヤックドロアは、胸にオーブを宿し、全身から残骸を突き出した、おぞましい姿だ。
「油断するな!」
 アキが敵から視線を外さないまま注意を喚起し、ランスがやや引き攣った笑みを見せながら、隙のない体勢を取る。
 セイリューが太刀を構え、すぅ、と息を吸い込み叫ぶ。
「みんな! オレとラキアが盾役になる! 敵に隙が出来たら、攻撃をしてくれ!」
 言うが早いか、セイリューとラキアがヤックドロアに突き進み、魔法弾の連射を受け流す。
「ゼノアス!」
「任せろ!」
 ゼノアスが斬りかかると同時に、李月が目くらましにライトの光をぶつける。機械化しても神経は通っているようで、ヤックドロアは目を瞑り大きな隙を作った。
 身体中機械だらけだが、やはり目は柔らかいままのようだ。ゼノアスが目を狙い攻撃する。が、口から魔法弾が発射され、ゼノアスは仕方なく魔法弾を防御。同時に光輪がオーブに直撃。
 そこを狙って、咲祈とサフィニアが動いた。
 咲祈が、弓でヤックドロアの右目を潰し、サフィニアが『双葉弐式』で左目を潰したのだ。
 激昂し、それと同じく恐怖を感じたヤックドロアは魔法弾を連射。
「くっ……!」
「セイリュー!」
 セイリューとラキアがさばき切れないほどの量の魔法弾。けれども、アキとランスも同じく魔法弾を弾き、そのほとんどは建物にぶつかる。
 しかし、魔法弾はそれで全部ではなかった。
 李月に向かう魔法弾がひとつ。
「させないよ」
 咲祈とサフィニアが同時に放った弓と手裏剣が軌道をずらし、魔法弾を無力化する。
「セイジ、アレをやるぞ!」
 ランスがアキに駆け寄り、そう言い放った。
「ああ、みんな! 試したい事がある! 俺とランスが攻撃する時は、退避してくれ!」
 全員が首肯。アキがランスの唇に唇を重ね、インスパイアスペルを唱えた。
 突如、普段の何倍とも言えるオーラが吹き抜け、ヤックドロアはその存在感に気圧され動きを止めた。
 その神々しい姿に、ランスは歓喜し、
「おお、すげぇ! これなら、勝てる!」
 そして逆に、アキはらぶてぃめっとトランスによる効果で変わった自分の格好に頬を朱に染めている。
「なんだよこの格好は!」
 セイリュー達がヤックドロアの攻撃を弾き、準備が整う時間を稼いでくれている。
 そして、準備を進めるランスを見やり、アキが叫ぶ。
「伏せろ皆っ」
 ランスは、全員が伏せたのを確認すると、すぐさま『天空の涙』を発動し、
「『情熱に燃える雨』!」
 ヤックドロアが、異常に強化されたバリアを形成し、ランスの攻撃を迎え撃つ。
 しかし、ランスの攻撃にヤックドロアのバリアは数秒と持たなかった。
 肉が焼けるような音と共にヤックドロアに矢の形をしたエネルギー体が直撃し、その身体を焼き尽くした。





●倒壊

「ゴメン!」
 ランスがセイリューに謝り、セイリューは「謝らないでくれ」と首を振る。
 アキがヤックドロアの亡骸を見やると、どろどろに溶けていた。
 機械の正体を調べようとしたセイリューだったが、ここまで溶けてしまっていては解析は不可能だろう。邪眼のオーブに至っては欠片しか残っていない。
「それにしても、ヤックドロア・アスって上位種がいるのに、ロアに機械つけて何かしているのが凄くヘンだよな」
 セイリューが言い、ランスが首肯する。
「そうなんだよな。……誰が何のために……」
 二人が熟考していると、廃病院が、ぐらりと揺れた。
「ま、まさか……」
 李月がさっと顔を青くして、辺りを見渡す。
「崩れそうだね」
「なんでそんな冷静なの咲祈!?」
 廃病院が、倒壊する。
 一同は、慌てて廃病院の中を駆けて、外に出る。
 倒壊してゆく廃病院を見て、ゼノアスは李月を引き寄せて笑顔を見せて言った。
「お前が居なきゃ死んでたぜ」
「僕だって同じだよ。ありがとう、ゼノ」
 崩れ行く廃病院を最後まで眺めて、一同は若干の引っかかりを覚えつつも、勝利を祝いあったのだった。




依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 東雲柚葉
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月16日
出発日 12月22日 00:00
予定納品日 01月01日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
    師走なリアル事情のしわ寄せで、顔出し出来なくてゴメンヨ。

    オレ達は精霊の直接攻撃力が期待できないので、ハイトランス使用。
    個別戦はオレが主戦力での近接戦敵対応だ。
    ボス戦は敵の攻撃をオレ達が引き受けるぜ。
    合流後はラキアが皆を回復させるのと、
    ゼノアスさんにシャイニングスピアを使用する。
    防御+210、カウンター威力128が12R続くので、
    個別戦の時よりは前に出やすくなると思う。

    合流前の個別戦が色々と厳しいけど頑張ろうぜ。
    良い結果になる事を信じてる!

  • [5]アキ・セイジ

    2015/12/21-22:36 

    うお、アキ・セイジだよ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    個別戦とボス戦どっちもうちの相棒は後衛。なにしろ魔法使いだから。
    ボス戦では、全員のHPほ+25して援護してみたりする予定。
    あと、使えそうならちょっと変わったトランスをしてみたい。できるかな。

  • [4]咲祈

    2015/12/21-19:32 

    咲祈とサフィニアだよ。気づいたら出発前日…ごめんね(汗
     人数分も共闘もうちの神人は後方で援護として弓。俺が基本的に前で手裏剣投げまくる、みたいな感じでプランできてるよ

  • [3]李月

    2015/12/21-01:06 

    連投すいません

    >ボス戦
    皆さんが揃うまで隠れて待機しています
    というか僕等が皆さんをお待たせしそうですが;

    僕がライトで視覚攪乱
    相棒が目への攻撃

    をプランに入れました
    相談がされない様なので行動表明だけでもしておきます
    プランは提出済です

  • [2]李月

    2015/12/20-05:33 

    難易度【簡単】と思って参加したんですが
    ヤックドロアの難易度が僕のレベルじゃ高難度かもしれないと
    資料調べて頭抱えてます
    何でもやって倒したいと思いますが
    ボス戦は使い物にならないかも
    強化パーツにエネルギー吸い取られて
    体力少ないのかも、とそこに一抹の期待を込めています
    考えよう

  • [1]李月

    2015/12/19-05:22 

    李月です
    相棒はシンクロサモナーのゼノアスです
    よろしくお願いします

    攻撃の反射の反射は可能なのか気になるところですが
    ボス戦になる頃には敵がその能力無くなってるなら
    考えなくていいのだろうか


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