【枯木】幸せの灯り(永末 そう マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 遠い昔。町を荒らす獣らを鈴の音で遠ざけつつ、文字を書いた紙ランタンを飛ばして遠方の者に救援を求めたという小さな歴史のある町。そんな歴史を元に『厄除け祈願』としてこの地で行われていた筈の祭りは、現在『クリスマスを皆で祝うもの』として、その有り様をガラリと変えていた。そんな祭りが行われる町へ、毎年雪の降る夜、真っ白な人影が雪に溶ける様にして訪れる。

「ワシリジア!遅かったね」
「ごめんねー。『ばぁば』の機嫌が物凄く悪くて、今年は中々火をくれなかったのよ。
 けど――じゃーん!何時もよりちょっと多めに『灯り』を取っ……貰って来たのよ!」
「やったね!僕、青い火が出るマッチが良いな!カラフルな方が飛ばした時に綺麗に見えるもんね!
 お願い事も一杯考えたんだ!ねぇねぇ、早く火をつけようよ!」
「だーめ!飛ばすのはもうちょっと後でね?まずは、飛ばない方のランタンに火をつけなくちゃ。
 今年も、祭り用のランタンを沢山町に飾ってるんでしょ?そっちのランタンに火をつけるのが先!
 皆に声掛けて、さっさと全部灯しちゃおう!」
「はーい!じゃあ、僕皆を呼んでくる!」



「『灯り売り』が来たぞー!」
 
 何時も『ホラ』を吹いてばかりのある少年が、今日だけは『ホラ』ではない話を町中に知らせて回っている。雪の様に白い髪を束ね、雪の様に白い肌に雪の様に白い衣服を纏わせ、雪の様に白い手に籠を携え、真っ赤な紅を差した口元に微笑を浮かべた『灯り売り』の女が、ようやく町にやってきたのだ――と。腕輪についた鈴を鳴らし、その後ろに人懐っこい雪兎を数羽従えながら、少年は大きく響く声で町中の人々に声をかけて回る。
「『灯り売り』のねーちゃんが来たぞー!火を付けようよ!お祭りを始めようよ!」

 暫く後、町はカラフルなランタンの灯りに包まれた。内側に灯るのは、青や緑や赤や黄色の不思議な火だ。それだけでも十分幻想的なのだが、この辺鄙な町の祭りはこれだけでは終わらない。

――町の西広場で、様々な思いを託した色とりどりのスカイランタンを皆で一斉に空へ飛ばすのだ。



 町が賑わいを見せる中。西広場の片隅に、ひっそり、ころりと黒い種が落ちた。クリスマスという素敵な日を憎む、不幸で哀れな黒い種が。


解説

※此方のエピは、基本ペア別執筆となります。
 他の方との交流も楽しみたい場合は、交流されたい方と会議室で打ち合わせた後、
 プラン初めに『共:A子』の様に記入して下さい。一緒に祭りに参加する様子を執筆させて頂きます。
 (記入するのは、神人の名or姓のみでOK)

 現在ではその意味がすっかり忘れ去られ、只皆でクリスマスを祝うだけの物となったこの祭りに、ちょっとだけ顔を出してはみませんか?
 色とりどりのランタンが輝く町の端からスカイランタンを夜空へ上げ、地上のみならず夜空までカラフルな灯りで彩りましょう。

 スカイランタンは全て同じ形(筒状)・同じ色(白色)の物が用意されているとの事ですが、『灯り売り』が『ばぁば』から貰ってきた(?)マッチで、好きな色の灯りにする事が出来る様です。
 また、昔の祭りの名残なのか、ランタンに何か書き込む人も多いのだとか。『願い事・将来への抱負・捨ててしまいたい愚痴・らくがき』等自由に書いて、貴方達だけのランタンに仕上げるのも良いでしょう。



※飛ばしたランタンは帰って来ません。また、ランタンの持ち帰りは禁止されています。
 (=手元には残りません)
※町までの交通費+お祭りの参加料として500jrを頂戴致します。
※『ウィンクルム一組』につき、『一個』のランタンをお渡しします。
 一人で飛ばすのは難しいので、協力して飛ばしましょうね。
※「もっとランタンを飛ばしたい!」なんて方は、一個100jrでランタンを追加購入する事ができます。
 (その際は、プランに追加数を必ず記入して下さい。追加分だけ費用を加算させて頂きます)

ゲームマスターより

寒くなってきましたね。
万年冷え性、RPG風に言えば『弱点:冷気』な私には厳しい季節です……。

さて。
舞台は少し前にアドエピに登場した雪兎が大量に住む町。準備を終えた町が、ようやくクリスマス祭りを始めた様です。しかし、祭りの舞台となる広場の一角に黒き宿木の種が落ちてしまい……?
ウィンクルムの皆様が来て盛り上がって下されば、不吉なこの種を枯らす事が出来るでしょう。
幻想的な灯りの中で、クリスマスの思い出を一つ作りませんか?

実物の天灯は中々上手く上げられない上、マッチでは火がつきにくい様ですが、「ライターよりマッチの方がファンタジーっぽいかな?ぽいよね!」と、今回私の好みでマッチにさせて頂きました……パッと点火しちゃって下さい。心配いりません、飛びますよ!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

水瀬 夏織(上山 樹)

  幻想的な雰囲気に感嘆
少し高揚した気分で

上山さん、ランタンに何て書きましょうか?
私も書きますから、上山さんも書いてください

半ば押しつけるようにペンを渡す
大きめの字で
世界平和
と書く
相手と同じで驚き、喜ぶ
表情にさえ笑顔が浮かんで

そうですね…黒、なんてダメですよね。

若干しょんぼりしながら

黒は、上山さんの瞳の色ですから
強い意志を宿した黒真珠みたいで綺麗だなって思ってたんです

あ、じゃあ、青にしませんか?
青い炎って本当はとても高温なんです、赤い炎よりも
一見涼しげなのに、本当はとても強い力を持ってるんです
上山さんみたいでしょう

ちょっと待って下さい!

こっそりと小さな字で
上山さんと仲良くなりたい

見えぬよう飛ばす


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  祭りの前に雪兎をまふまふしたいです。やっぱり可愛い。
「先日は怖かったね、ゴメンね」と雪兎達に謝っておかなくちゃ。
争い事はやっぱりない方が良いもの。

ランタンを飛ばすなんてとても幻想的で素敵なお祭りで素敵。
ランタンに『願い事』を書きたいです。
ミュラーさんと相談して文言を決めますね。
『沢山の笑顔と幸せが皆に降り注ぎますように』とランタンに。
空高く願い事を運んでもらって、星の光のように幸せな出来事が皆の元に舞い降りるといいな、と思って。
ランタンの灯りは明るい緑色が良いですね。
『緑は平和の色』だと思うので。
(それにミュラーさんの髪の色だし。と、これはナイショです)
2人で掲げるようにして飛ばしましょう。


アンジェローゼ(エー)
  スカイランタン…ロマンチックね、エー!
瞳を煌めかせ。ランタンが空を飛ぶなんて素敵
あ、ありがと…
そっとかけられたコートに頬を染め
身体を寄せられたのでエー、寒いのかな?と心配

炎の色は金がいいかな。エーの瞳と同じ色
私、好きなの。暖かい、金色
緑?そういわれると照れくさいよ…じゃ、2つ混ぜて黄緑にしよう!
一緒に飛べるみたいで素敵でしょ?
何言ってるのそんなつもりじゃ(つられ赤面

願いを書くよ!
(エーの願いを聞き嬉しくなり
私も同じよ?(ふと、家が決めた婚約者の存在を思い出し顔が曇る。が、すぐ笑顔を見せ
書くね(貴方とずっと一緒にいられるように、願いを込めて

すごい!綺麗ね
握られた手を握り返し
照れつつ控えめに応える


エリザベータ(時折絃二郎)
  凄ぇ
町中カラフルになってる
雪兎も可愛い…抱っこしたいなぁ

行動
え、あたしが選んでいいのか?
この水色にするぜ

ランタンに願い事かぁ
じゃあ…婆様が元気になりますように、と
ゲンジも書くか?

病気とは違うな…
婆様を庇ったとき顕現したんだけど
ショックで倒れちゃって…なんで孫が神人に顕現したんだ、って
ずっと落ち込んで弱ってて…だから、あたしは大丈夫だからって…伝えたくて

な、なんだよ…そんな言い方しなくても…
ただ大丈夫だって、伝えたいだけなのに…
ぐす…涙止まんない
(いつもの調子で言われただけなのに…悔しい

…うん、嘘吐いてた。ずっと怖かった
綺麗って…あたしもごめん、驚かせて

…どうしたらいい?
そっか…ありがと、ゲンジ


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  雪兎の所に寄り道

あの時の雪兎いるかな…?

あれから元寄生兎がどうしているか聞く

出来れば寄生されてた雪兎に謝りたいな…
すっかり倒しちゃったと思ってたから、元に戻ってるのに気付けなかった事に罪悪感

…?ガルヴァンさんどうしたの?

毛玉みたいな鉱物…?(興味
へぇ…そんな石があるんだ…

本当に不思議だね…

一通り雪兎と戯れた後ランタンへ

願い事は
『黒き宿木の種が全部なくなりますように』
これ以上傷付けなくていいものを傷付けたくはないからね…

雪兎にちなんで真っ白な火を灯す
飛ばす時は向かい合わせで持つ

え?(きょとん
ああ…
『情けは人の為ならず』…だよ、ガルヴァンさん
誰かの役に立つのは、自分にとっても絶対プラスになるからね


 雪の積もる小さな町が、ランタンの温かな灯りに包まれる。今年も西広場に多くの人々が集まり、天へ浮かべる為のランタンを手に空を見上げていた――幸い現在は雪が降っておらず、寒空に美しい星々が瞬いているのが見える。絶好の祭り日和だ。



●本物の美しさ
「凄ぇ……町中カラフルになってる」
 町の幻想的な様子に、エリザベータは感嘆の声を上げた。町中には、自由に跳ね回っている雪兎の姿も見える。試しに「おいで!」と声を掛けてみると、彼らは素直に此方へ寄ってくる。その様子に、彼女は顔を綻ばせた。
「ふむ。彩色された灯火、悪くないな」
 彼女と共に町を訪れた時折 絃二郎も、満更でもない顔つきで町を見渡す。そして、「かわいいなぁ」と雪兎を抱くエリザベータの姿を眺めた。
(珍しくヘイルも機嫌が良さそうだ)
 何時もはガサツな振る舞いの目立つ彼女が、今日は女性らしく素直に楽しんでいる様に見える。
「しかし、色の変わるマッチか」
 「科学的な」そう言いかけて、絃二郎は口を噤む。それを言っては、幻想的な雰囲気に酔う人々の興が削がれてしまう。
「ヘイル、お前の好きな色を選べ」
「ん?あたしが選んでいいのか?」
 エリザベータは雪兎を手放し、並べられたマッチを見比べる。そして、暫く悩んだ末「この水色のマッチにするぜ」と、彼女は水色の火が付くというマッチ箱を手に取った。
「ランタンには願い事を書くんだったよな。じゃあ……『婆様が元気になりますように』、と」
 願いを口にしながら、エリザベータはランタンにペンを走らせる。その様子をおや?といった風に見守る絃二郎に、エリザベータはペンを差し出しながら尋ねた。
「ゲンジも書くか?」
「否。俺に願掛けが必要な願いは無い」
 それよりも、と彼は先程気になった事を口にした。
「お前の祖母は病人なのか?」
「否、病気とは違うな」
 否定し、エリザベータは書いた願い事に目をやりながら続ける。
「あたしさ。婆様を庇った時に顕現したんだけど、婆様それがショックで倒れちゃって。
 「何で孫が神人に顕現したんだ」って、ずっと落ち込んで弱っててさ……
 だから、「あたしは大丈夫だから」って伝えたいんだ」
彼女が語る過去に、(……成程)と絃二郎は密かに納得する。
(こいつの言動の違和感……『虚勢』だったか)
日頃の彼女の振る舞いを見て覚える違和感の理由は此処にあったのか、と。
「ヘイル、お前の手段は間違っている。『毛を逆立てて威嚇する猫』を無事とは思わん。
 強がっても「怖い」と言っている様なものだ。俺に見透かされて、相手に伝わると思うな」
「な、なんだよ」
 絃二郎の言葉に、エリザベータは一瞬たじろいだ。
「そんな言い方しなくても……只「大丈夫だ」って伝えたいだけなのに」
 そう言う彼女の瞳には、じんわりと涙が浮かぶ。その涙は一杯に溜まるまで堪えられて直に零れた。初めの一粒が落ちると涙は次の涙を誘い、止まらない。『何時もの調子で言われただけ』なのに、今日の彼の言葉は悔しい程に彼女の胸に酷く響いた。
「……うん、嘘吐いてた。ずっと怖かった」
 落ちる涙と同じ様に、すんなり正直な言葉も零れる。
「ヘイル、俺は嘘が嫌いだ」
 相変わらず絃二郎の言葉は直球で厳しかったが、ほんの少しだけ柔らかくなっていた。
「しかし、お前の涙は偽りが無く綺麗だな……泣かせるつもりは無かった、すまない」
 彼はそっとエリザベータの涙を拭う。そんな彼に少し戸惑いながらも、エリザベータは「あたしもごめん、驚かせて」と、同じく自分の流した涙に戸惑っている様子の絃二郎にそう言う。
「……どうしたらいい?」
「『自分に嘘を吐くな』。俺も本来のお前が見たい」
「そっか」
 彼の言葉に、エリザベータはふっと笑む。その瞳にはもう涙は見えなかった。
「飛ばすのだろう?手伝う」
「ありがとう、ゲンジ」
 二人で水色の灯りを空へ浮かべる。飛び行くそれを見送るエリザベータの瞳を見て、絃二郎は思った。
(……綺麗な瞳をしている)
 強がりの鎧を脱いだ『本来の彼女』の瞳は、見送る水色のランタンの灯を曇りなく映してとても美しく見えた。



●色に貴方を重ねて
 訪れた町の幻想的な雰囲気に、水瀬 夏織と上山 樹は思わず感嘆した。夏織は、高揚する気分のままに祭りの雰囲気の中へ混じってゆく。一方樹は、(自分には似合わないな)と内心思いながら、一歩距離を置く様に祭りの様子を眺めていた。
「上山さん、ランタンに何て書きましょうか?」
 夏織に声を掛けられた樹は、ぼんやり周囲に向けていた視線を彼女へ向ける。
「水瀬が書きたい物を書けばいいよ」
 特に書きたい物が思い当たらない樹はそう言うが、夏織は「それでは勿体ないです」と、半ば押し付ける様に彼にペンを渡す。
「私も書きますから、上山さんも書いて下さい」
 夏織におされて、樹はついペンを受け取ってしまった。これでは書かない訳にはいかない。
「……しょうがないな」
 どうやら樹も書いてくれそうだと分かった夏織は、早速ランタンに大きく何かの文字を書き始める。樹もまた、仕方なく同じ様にランタンに文字を書く――彼が書いたのは『世界平和』の文字。「ランタンに書く願い事等こんな物だろう」と思って選んだ言葉だった。
「書けました?――あ」
 夏織が、樹の書いた文字を覗き見て驚きの声を上げる。
「私と同じです!」
 そう言って、自分が書いた字を樹に見せる――確かに、夏織が書いた物もまた『世界平和』の字であった。夏織は、同じだった事が余程嬉しかったのか笑顔を浮かべる。しかし、樹は若干驚いた様な表情を浮かべるも、(まぁ、無難な願い事だから被っても不思議はないな)と、内心冷めた様子で喜ぶ彼女を見つめた。
「それで……水瀬、何色の火を灯そうか?」
 (いっそ、黒い炎でも灯してしまいたいな)そんな事を思いながら、樹は夏織の意向を確かめる。その際、自分の考えは少しも表に出さなかった。しかし、その問いに対する夏織の返答は、再び彼を驚かせる。
「黒なんてどうでしょう?」
 ――何故なら、また同じ物を思い浮かべたのだから。
「どうして、その色を?」
「黒は、上山さんの瞳の色ですから。強い意志を宿した黒真珠みたいで、綺麗だなって思ったんです」
「そう、か……でも、黒は縁起が良いとは言えないからね」
「そうですね……黒、なんてダメですよね」
 若干しょんぼりとした様子を見せる夏織の様子に、樹の胸がざわめいた。まるで罪悪感を覚える様な感覚に彼は戸惑う。
「じゃあ、青にしませんか?」
「青?」
 しょんぼりした様子から一転、「良い事を思いついた」といった風に夏織が提案する色は『青』。「うん、悪くないね」と樹が賛成すると、ほっとした様子で夏織は口を開いた。
「青い炎って、本当はとても高温なんです、赤い炎よりも。一見涼しげなのに、本当はとても強い力を持っているんです。上山さんみたいでしょう?」
言葉が終わると同時に、ランタンにパッと青い炎が灯る。ランタンに付けたその火を見ながら樹は言った。
「……僕が『青い炎』なら、水瀬は『青い水』かな。僕とは違う強さを持ってる」
 そうして、彼は自分が『素直に他者を褒めていた事』にはたと気付いた。毒を吐く事は度々あるが、こうしてするりと褒め言葉が出た事は彼にとって驚きであった……「近寄りがたい」と夏織に打ち明けられてから、少しずつ彼の中で何かが変化してきているのかもしれない。
「ランタン、そろそろ飛ばそうか」
「あ、ちょっと待って下さい!」
 ランタンを宙へ放とうとする樹を、夏織は慌てて制止する。「何事か」と此方を見る樹には見えない所へ、夏織はサラサラとペンを走らせた。
『上山さんと仲良くなりたい』
こっそり、小さな字でそう書き込む。
「――もう大丈夫です。飛ばしましょう!」
 先程書いた願い事が樹に見られない様にランタンを掲げ、その手を共にランタンから手放す。二人の強さに例えた青い炎の灯りは、こっそり託された願い事を背負って迷う事無く空へ昇って行った。



●『情けは人の為ならず』
「あの時の雪兎いるかな……」
 アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルドの二人は、ある雪兎らの元へ寄り道していた。つい先日、『黒き宿木の種に寄生された雪兎を退治する』という依頼を受けた彼女らは、その時対峙した雪兎がどうしているのか気になったのだ。町人は「なぁに、心配いらないよ」と言うのだが……。
(出来れば雪兎に謝りたいな)
 あの時はすっかり『倒してしまった』と思っていたので、彼らが元の雪兎に戻っている事に気付けなかった。だからそれを知った時罪悪感を覚えたし、この目で確かめて直接謝りたかったのだ。
「しかし、相変わらずの毛玉だな……」
 町中で自由に動く雪兎らの姿は、あの時見たのと何一つ変わらない。毛玉の様な風貌で跳ぶ一羽一羽に視線を向け、あの時の雪兎を探す。その中に、少々センスの悪いカットをされた雪兎を見つけて、アラノアは「……あ」と声を上げた――刈り込まれた部分に、治りかけの傷跡が見える。
「貴方だよね」
 声に反応して一羽が二人を見つめた。その小さな体と視線が合う様に、驚かせてしまわない様に、アラノアはその場にそっと屈む。
「――ごめんね」
 雪兎は暫くその場で二人をじっと見つめていたが、直に彼女らの傍にやって来た。そうしてその足に身を摺り寄せる。まるで『気にしてないよ』とでも言うかの様だ。その様子にほっと息つくと同時に、優しい笑みが零れた。
「良かった。ね、ガルヴァンさん」
 アラノアは雪兎を撫でながらガルヴァンを振り返る。しかしその彼は、雪兎の姿を見ながら何か考え事をしている様であった。
「どうしたの?」
「……ああ。あの時は気を張っていて思い出せなかったが、一つ思い出した事がある」
 また一羽、別の雪兎が二人に近づいてくる。それを示しながら、ガルヴァンは『思い出した事』を話し始めた。
「アラノア、この世には『オケナイト』という白い毛玉の様な鉱物が存在しているのを知っているか?
 その形から『ラビットテール』とも呼ばれていてな……本当に、丁度この雪兎の様な形状をしている。
 一定の条件が整っている場所でしか産出されないらしいが、自然界というものは不思議な物だな」
「へぇ、そんな石があるんだ……本当に不思議だね」
 流石、宝石店で働いているだけあって彼は石の知識が豊富である。初めて聞いた話に、アラノアは熱心に耳を傾けた。そして、雪兎に触れながらその不思議な石を思う。
(それって、この子みたいにふわふわしてるのかな)
 膝の上によじ登ろうとする雪兎を抱き上げて、彼女はガルヴァンの腕へ抱かせてみる。暫らくの間、二人は雪兎らと共に時を過ごした。
その後、アラノアはランタンにある願い事を書いた。『黒き宿木の種が全部無くなります様に』――「これ以上傷つけなくていいものを傷つけたくはないから」という思いからきた願いだ。願いの元となった雪兎にちなんで、ランタンには真っ白な火が灯される。ふんわりとした光の灯るランタンを、二人は向かい合わせて持ち――そっと手放して空へと送り出した。
「……お前は、自分の為の願いは無いのか?」
 そう尋ねるガルヴァンに、アラノアは一瞬きょとんとする。が、すぐに「ああ」と言って彼に笑んだ。
「『情けは人の為ならず』……だよ、ガルヴァンさん。誰かの役に立つのは、自分にとっても絶対プラスになるからね」
「『情けは人の為ならず』……か」
 確かにその通りだ、とガルヴァンは頷く。しかし、同時に見返りを求めない『自己犠牲』の様なものを彼女から感じ取っていた。
(いつか、ふと目の前からいなくなるのではないだろうか)
 目の前で少しずつ小さくなっていく白い灯りを見守るアラノアの姿を見ながら、ガルヴァンは妙な不安感を覚える。これが、己の中で密かに育ち始めた『独占欲』である事に気付けぬまま、彼はアラノアの視線の先を辿り、既に小さくなった白いランタンを共に見守るのだった。



●何があっても何時までも
「スカイランタン……ロマンチックね、エー!ランタンが空を飛ぶなんて素敵!」
 瞳を煌めかせるアンジェローゼの様子を、エーは微笑ましげに見守る。
「ロゼちゃんの笑顔の方が綺麗だけど……はい、風邪引かない様にね」
 冷たい夜風に体が冷えてはいけないと、エーは自分のコートをアンジェローゼに掛ける。
「あ、ありがと……」
 ほんのり頬を染めるアンジェローゼに、エーはそっと体を寄せてみた。そうすると、彼女の温もりがほんの少しだけ感じられた。
(寒さを理由にもっと触れられたらいいのに)
 心の中でエーはそう思う。「寒いの?」と心配げに声を掛けるアンジェローゼの言葉に首を振り、彼はランタンを手に取った。
「ランタン、何色にします?」
「『金』が良いかな。だって、エーの瞳の色と同じなんだもの――私、好きなの。暖かい金色」
 ふふっと笑って、アンジェローゼはエーの瞳を覗き込む。大好きな暖かな色の瞳が、彼女と同じ様に笑う。
「僕は緑が良いと思う」
「緑?」と聞き返すアンジェローゼに、エーは「そう」と頷く。
「貴女の瞳の色……僕の心を掴んで離さない永遠の緑色だから」
「そう言われると照れ臭いよ……」
 少し恥ずかしがりながら、彼女は「うーん……」と意見の割れてしまった灯りの色をどうしようかと考えた。そして、暫く後に「じゃあ!」と声を弾ませる。
「二つを混ぜて黄緑にしよう!一緒に飛べるみたいで素敵でしょ?」
 彼女の提案に、エーは「それは良いね」と賛同する。
「僕と君の色が混じった色、それってまるで僕らの子どもみたいで……嬉しいよ、ロゼ」
「な、何言ってるの?そんなつもりじゃ……」
 彼の例えに慌てて言い繕いながら赤面するアンジェローゼ。エーまでも、自分で言った言葉に少し顔を赤らめている。そんな顔で二人はお互いに見合わせ、それからふっと照れ臭そうに笑った。『二人だからこそ選べる色』――これ以上素敵な色はきっと他に無い。
「ねぇ、エーは何て願うの?」
 ペンを片手にランタンに向き合いながらアンジェローゼが尋ねる。
「そうだね……願うのは『明日も明後日も、ずっとずっと貴女と一緒にいられます様に。愛を深めていける様に』……かな」
 彼の願いを聞くなり、アンジェローゼは嬉しそうに「私も同じよ?」と返す。しかし、その表情は不意に曇る――『ずっと一緒に』の言葉で、彼女は家が決めた婚約者の存在を思い出したのだ。その存在は、願いを叶える妨げとなるかもしれない……けれども、彼女はすぐにその不安を悟られぬ様に綺麗に笑んで見せた。
「それじゃあ、書くね」
 『貴方とずっと一緒にいられる様に』。強く想いを込めてランタンにそう書き記す。そして、二人の色を灯したランタンを空へ浮かばた。星とランタンの灯りが幾つも輝く空の中へ、暖かくも魅力的な黄緑の光がすっと入って行く。
「凄い!綺麗ね」
 幻想的な様子に大はしゃぎするアンジェローゼの様子を見つめながら、エーは先程一瞬見せた彼女の悲しげな表情について思った。笑顔に隠されてしまったその悲しみの訳を聞きたかったが、彼女にはそれを話そうとする素振りは見られない。ならばせめて、と何も言わずに彼女の手を取った。
(言えなくても良いんだ)
 アンジェローゼの手を握りながら、エーは思う。「例え何があっても傍に居る」という言葉の代わりに、自分より小さな彼女の手を握れば、直ぐにその手はそっと握り返される。エーは、そんな彼女に優しいキスを一つ落とした。
「――大好き、ロゼ」
「……私もよ?」
 その言葉にアンジェローゼは照れつつも、控えめながらに彼に応えた。



●平和を祈る灯り
「やっぱり、可愛い」
 真っ白で真ん丸な雪兎を、瀬谷 瑞希はまふまふと愛でる。すぐ傍で「おっとと……」と、やんちゃな兎に振り回されるフェルン・ミュラーの様子にふふっと笑みながら。
ランタンを飛ばす前に、彼女らは少しだけ雪兎らと一緒に戯れる事を決めていた。此処の雪兎と会うのは今日が初めてではない。つい最近、黒き宿木の種関連の事件で関わったばかりなのだ。それも、寄生された彼らを『討伐』するという形で。
「先日の件で雪兎達に嫌われていないといいな」
 雪兎らに会う前に呟かれたフェルンの心配は、殆ど無用の物となった。雪兎らは、初めは彼らを警戒して遠くから様子を伺っていたが、直に何事も無かったかの様に二人の元へ寄って来たのだから。
「怖かったね、ゴメンね」
 謝る瑞希の言葉を彼らが理解しているかいないかは分からないが、耳を細かく動かしている辺りキチンと聞こえてはいるのだろう。
「あの時は可哀想な事になってしまったけど、全部が寄生されていなくて本当に良かったね」
 「そうですね……」と頷きながら、瑞希は雪兎の幾らか塞がった傷跡を見つけて思った――争い事はやはり無い方が良い。寄生されなかった雪兎が、元・寄生兎と共に楽しげに跳ね飛んでいる様子。これが彼らの日常で、これがこの町の平和の風景なのだ。きっと全てが寄生されていたら、雪兎らは勿論の事、町の姿までもが日常からかけ離れた物になっていただろう。何かが傷つく事が日常であってはならないのだ。
「それにしても……ランタンを飛ばすなんて、とても幻想的なお祭りで素敵ですね」
 瑞希は、既に幾つか空へ上げられているランタンの光を見上げる。彼女らにも、既に『二人で一つ』と町人からランタンが手渡されていた。このランタンには願い事等を書いて飛ばしても良いのだと聞いていたが……折角願い事を書くのだ。どうせなら二人で相談して書きたい。
「ミュラーさん、願い事どうしますか?」
 一先ず、瑞希はフェルンの考えを聞いてみる。彼は「そうだね……」と少し考えた後に答えた。
「天に願いを届けるのなら、皆への願いにしたいね――
 『皆が笑顔で過ごせる様に』という感じが良いな。ミズキはどう?」
同じ問いを今度はフェルンが投げかける。瑞希は、フェルンよりもやや長めに考えてから「少し似ていますが……」と、願いを口にした。
「私は、空高く願い事を運んでもらって『星の光の様に幸せな出来事が皆の元に舞い降りる』様な、
 そんな感じの願いが良いです」
「成程。皆に幸せな出来事が起きて欲しいんだね。では、二人の願いを合わせて……
 『沢山の笑顔と幸せが皆に降り注ぎますように』――というのはどうだろう?」
 「ええ、良いと思いますよ」と、瑞希は頷いた。そして、二人で一つのランタンに、二人で一つの願いを丁寧な文字で書き記す。
「火は俺が点けるとして……灯りの色はどうしようか?」
「『明るい緑色』が良いです。緑は『平和の色』だと思うので」
 言いながら、瑞希はフェルンを……というより、彼の髪を見る。「成程。それは綺麗な緑灯になるね」と微笑む彼の、長いエメラルドグリーンの髪が揺れていた。
「どうかした?」
 此方の視線に気付いたフェルンが不思議そうにそう尋ねてくる。瑞希は、「いいえ、何でも……」と言って、彼が点ける緑の灯りに視線を移した。
(それに、緑はミュラーさんの髪の色だし……)
 もう一つ、この色を選んだ別の理由がある事は彼には『ナイショ』だ。熱を溜めて少しずつ膨らむランタンを二人で持ち、安定してきた頃合いを図ってそれを天に掲げる。
「さあ、飛んでお行き」
 そっと風に乗せれば、幸せを願った緑の灯りはふんわりと空へ舞い上がった。夜空に映える明るい緑のランタンは、きっとそれを見る者は勿論、それが見えない程遠くにいる誰かにも幸せを届けてくれるだろう。そして願掛けたこの二人にも、きっと同じ幸せが訪れるに違いない。



 雪の積もる小さな町が、ランタンの温かな灯りに包まれる。今年も多くのランタンが空へ旅立ち、地上と空を彩った――色とりどりの灯りには、人々の様々な願いが込められている。クリスマスという素敵な日を憎む不幸で哀れな黒い種は、その幸せの灯りに照らされてひっそり、しゅん……と消えた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 永末 そう
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月16日
出発日 12月24日 00:00
予定納品日 01月03日

参加者

会議室

  • [8]水瀬 夏織

    2015/12/23-20:33 

    プラン提出いたしました。

    何と言うか、こう、わくわくしますね。

  • [7]エリザベータ

    2015/12/23-18:43 

    つー訳で、あたしらんとこはプラン出来たぜー。

    雪兎、あたしも気になるけど抱っこ出来ねぇかなぁと展望しつつ。
    ゆっくり待つとするぜ。

  • [6]エリザベータ

    2015/12/23-18:40 

  • [5]瀬谷 瑞希

    2015/12/23-08:49 

    おはようございます、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    幻想的なお祭り、とても楽しみです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

  • [4]アラノア

    2015/12/20-01:02 

    アラノアと、パートナーのガルヴァンさんです。
    ランタンを一斉に飛ばしたらすごく綺麗そうでわくわくします。

    …この前助けた雪兎達、元気にしてるかなぁ…気になる。

  • [3]アンジェローゼ

    2015/12/20-00:58 

    はじめまして、こんにちは!
    アンジェローゼです。精霊のエーとお祭りを楽しみに来ました。
    スカイランタン、なんて素敵ですね!
    皆でお祭り、楽しみましょう♪
    よろしくお願いいたします!

  • [2]水瀬 夏織

    2015/12/19-21:08 

    こんにちは。水瀬です。
    上山さんと一緒に参加させて頂きますね。
    とても素敵な雰囲気の場所ですね。
    皆さんで一緒にお祭りを楽しめれば嬉しいです

  • [1]エリザベータ

    2015/12/19-13:21 

    うぃっす、エリザベータだぜ。今日はゲンジと一緒に祭りに来たよ
    珍しく落ち着いた雰囲気のところに連れてこられてびっくりしてるんだけど…
    まぁ、なんとかなるっしょ。
    皆も楽しんでいこうぜー


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