プロローグ
●聖夜を待つ
「古城カフェ『スヴニール』から、少し気の早いクリスマスのお誘いだ」
そう言って、A.R.O.A.職員の男は厳つい顔に柔らかな色を浮かべた。手には、切り絵仕立ての雪の結晶が美しい招待状が一通。過去、ウィンクルムは幾度も古城カフェを危機から救っており、古城カフェの主たるリチェット青年からは、時折こうして季節を知らせる文が届く。タブロス近郊の小村の外れ――という中々に奥まった場所に位置しながらも訪れる人の絶えないアンティークなそのカフェは、季節毎にその彩りを変えるのだ。
「季節の品を、是非ウィンクルムの皆さんにもと声が掛かってな。何でも、クリスマスのための限定メニューを試食してもらいたいとの話だ」
用意されているのは、少し珍しいマロンチョコクリームのブッシュドノエルに、抹茶クリームとアラザンを用いてクリスマスツリーを模したカップケーキ。いずれかを選べるそうなので、パートナーと分けっこをするのもいいかもしれない。ドリンクも、古城カフェの定番だというローズティーと、身体と心をほっこり温めるスパイスショコラからお好きな方を。
「と、いうわけで。興味のある者は一足早くクリスマスの味を楽しんできてはどうだろうか」
目元を和らげて、職員の男はそう話を締め括るのだった。
解説
●古城カフェ『スヴニール』について
タブロス近郊の小さな村の外れにある豪奢な造りの古城の中、価値のあるアンティークやとっておきのスイーツが楽しめるカフェです。
『古城カフェの~』というタイトルのエピソードが関連エピソードとなりますが、ご参照いただかなくとも古城カフェを楽しんでいただくのに支障はございません。
●クリスマス限定メニュー
1)特製ブッシュドノエル
自家製のマロンチョコクリームをふんだんに使ったブッシュドノエル(薪を模したクリスマスの定番ケーキ)です。
2)クリスマスツリー・カップケーキ
バターたっぷりのプレーン・カップケーキを、抹茶クリームとアラザンで飾って小さなクリスマスツリーに。天辺にはクッキーのお星様。
スイーツは、1人につきいずれか1つをプランにてご指定くださいませ。
また、ドリンクもローズティーとスパイスショコラ(全てホット)からお好きな方をお選びください。
プランでの文字数節約のため、スイーツは番号、ドリンクは頭文字(ローズティーなら『ロ』)での指定も可能です。
●リチェットについて
一族に伝わる古城をカフェとして蘇らせたパティシエの青年です。
特にご指定なければリザルトにはほとんど(若しくは全く)登場しない予定です。
●消費ジェールについて
タブロス市内から古城カフェまでの交通費として、ウィンクルム様お一組につき300ジェール頂戴いたします。
『試食』ということで、スイーツとドリンクは無料となっております。
●黒き宿木の種について
レッドニスの力とダークニスの瘴気から作られた寄生型のオーガの種。
駆除するとダークニスを弱体化させることができます。
古城カフェの周囲に埋め込まれているようですが、ウィンクルムたちは知りません。
ウィンクルムがカフェで絆を深めれば勝手に枯死します。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますのでご注意を。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
冬の古城カフェは初めてではありませんが、クリスマスな古城カフェははじめましてです。
古城カフェ自体とはじめましての方も、パートナーさんと一緒に季節のスイーツを楽しむ時間を満喫していただけますと幸いでございます。
過ごし方は勿論自由ですが、来たるクリスマスに想いを馳せるのも素敵かもしれません。
ご参加くださる皆さまにとって、心に残るプレ・クリスマスになりますように!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
クリスマスの時期に来るのは初めてだな 流石に限定メニューも気合入ってそうだ、楽しみだ いつも通りにリチェットに挨拶して着席 ……あいつ今日やたらテンション高いな…… 置いてかれたくないならさっさと来い、 リチェットだって忙しいんだから さて、どうするか……まあ悩むもんでもないけどなもう イグニス、いいからとりあえずどっちか選べ やれやれ。じゃあ俺ブッシュドノエルとローズティーで。 あとで分けてやるから。 うちも最近スイーツ系増やし始めたがやっぱりまだまだだな…… (真剣な目になるもきゃっきゃしてる相方を見て) ま、今日は純粋に楽しむか ほら、半分。ゆっくり食えよ? (星のプレゼントに一瞬目を見開き) ……あぁ、ありがとな |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
この機会に古城カフェ行こう 行きたいって言ってたろ?二人でプレ・クリスマスしよう 前って意味だよ ■2ロ 僕は別の物で(注文 …雰囲気あるよね。貴族か物語の中に入ったみたいだ 可愛くて食べるのもったいないな よかった。こっちも美味しいよ …食べる? 遠慮しない。気になるだろうなと思って別のを頼んだんだから まだ気にして…) 見て(月のペアペンダント 肌身離さず身につけてる。見る度、タイガや思い出が蘇って嬉しくて…感謝するんだ 笑いあい 気にしてると思う? …いいよ。いつもみたいに自信家でいて 元々、父や兄みたいな位置だしね タイガ、ペンダント合わせてみよう 合わさるの見てみたい できたら)ぴったりだ さ、食べよう(笑顔で好きを実感 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
メニュー:2とショコラ 正装っぽくスーツきて行くぜ。 四職でも今回の訪問には意味がある。 ラキアの誕生日を特別な気分で過ごしたくて、ここを選んだんだ。 美味しいケーキと飲み物があるし、やっぱり自分達には特別な場所でもあるから。 「誕生日おめでとう」とラキアに笑顔で告げるよ。 色々な事があった1年だったけど、またこれからも色々な嬉しい体験を2人で積み重ねていけると良いな、って。 プレゼントは金属リングの髪留。金色で細かな花の細工が入っててラキアに似合いそうだなって思ったんだ。喜んでくれるかな。 ケーキは少し交換しよう。 カップケーキもこうするとぐっとクリスマスっぽくなるな。 ノエルは凄く美味しいぜ。飲み物もウマー。 |
李月(ゼノアス・グールン)
聞き逃す カップケーキの見た目楽しもうとしたら相棒の暴挙 慌て止める 試食に来てそんな乱暴な食い方あるかよ まず見た目の評価をだなくどくど こいつは世間知らずというか 皆が当たり前に知ってそうなものを 知らない事がよくある 育った場所に無かったのか? Xマスの事も何かの祭り程度の認識だ え? 知らないのか 一生懸命見ているので答え黙っておく こいつと迎える2度目のXマス ウィンクルムとして活動し始めて いい奴だってのは分かってきた 今年はパーティしようかな 僕自身もうずっとしてないけど こいつは肉料理並べてやれば絶対喜ぶ 贈り物は‥ あ‥完全に絆されてる、僕 ただのウザジャマと思ってたのになぁ 残念薪だよ ケーキと『ロ』頂き 愉快そうに笑う |
鳥飼(隼)
「僕はブッシュドノエルとスパイスショコラにしようと思います」 「隼さんは何にしますか?」 「以前から古城カフェには一度来てみたかったんです」 「今日は付き合ってくれてありがとうございます」(微笑 ……。(瞬き もくもくと食べてますね。スイーツが好きなんでしょうか。 この前のお団子のときも何も言わずに食べてましたけど。 甘いものが苦手なわけじゃないのは、確かですね。(微笑ましく思えて、口元を緩める 僕もいただきましょうか。(ケーキを一口 「クリームたっぷりですね。おいしいです」 スパイスショコラも、ケーキで甘くなった口に丁度いいです。 ここに来るまで少し時間がかかりますけど、良い場所ですね。 「またここに来たいですね」 |
●また、と零して笑う人
「隼さんは何にしますか?」
古城カフェの内装に薄青の双眸を存分に煌めかせた後で、どこかそわそわとして席に着いた鳥飼は隼へと問いを投げた。その言葉に、光の宿らぬ濃い灰の瞳を、隼はゆるり、己の神人へと向ける。
(何が良いも、好きに頼めば良いだろうに)
別に選択肢等必要ない、と思う。けれど鳥飼は、隼が音を紡がないのを見て取って、
「あ、ちなみに僕はブッシュドノエルとスパイスショコラにしようと思います」
なんて、促すようにおっとりと自身のオーダーを口にした。その意を汲み取った隼の唇から、細く吐息が漏れる。決めなければならないのならと、隼はようやっとクリスマス仕様のメニューに目を通した。
「ブッシュドノエルと、ローズティー」
「ふふ、ケーキがお揃いですね。では、早速注文しましょうか」
短く淡々とした呟きに、鳥飼は何故だか嬉しげに声を弾ませて。そして隼が返事をするよりも早く――というより、彼にはこれ以上口を開く気はなかったのだが――ともかく鳥飼が、2人分の注文をにこやかに済ませた。その姿を、隼はぼんやりと見遣る。と、その時。
「以前から古城カフェには一度来てみたかったんです」
鳥飼の眼差しが、明るい声と共に隼へと向けられた。視線と視線がかち合ったと思ったら、鳥飼はふわりと柔らかな微笑をそのかんばせに乗せて。
「隼さん、今日は付き合ってくれてありがとうございます」
次いで零された言葉に、隼は本当に僅かだけ眉根を寄せた。それを鳥飼に悟られるよりも早く、注文した品が2人の元へと届けられる。
「わあ、美味しそうですね! それに可愛いです!」
そんなことを言ってはしゃぐ鳥飼へと、隼は感情の色を滲ませない眼差しを遣った。先刻の鳥飼の言葉が、小骨のように引っ掛かっている。
(礼を言う意味がわからない。俺じゃなくとも、誘えば鴉は来ただろう)
それは例えば1人目の契約者へ抱く何らかの感情、等とは無縁の、ただただ素朴な疑問。けれど隼はその問いを口に出すことはなく、上品な香りのローズティーと共に腹の底へと飲み下した。そうして、意識を目の前のスイーツへと向ける。
(試食なら、感想は告げた方が良いのか)
そんなことを考えながら、薪模したケーキをまずは一口。
(チョコクリームが多いが、栗の味がしっかりとして美味い)
そして、一口分だけ崩れてしまったケーキをまじまじと見て、
(見た目も不格好では無いと思える)
と、一つ小さく頷く。
(クリームが好きな者もいるだろう。このままで問題無い出来だ)
そう結論を下すまで、隼は始終無言だった。その様子を同じく黙ったままで見つめていた鳥飼が、思わず双眸を瞬かせる。
(もくもくと食べてますね。スイーツが好きなんでしょうか)
そういえば先の祭りで団子を食べた時も隼は何も言わなかったと思い出す鳥飼。
(ともかく――甘いものが苦手なわけじゃないのは、確かですね)
辿り着いた答えが何だか微笑ましいものだったので、鳥飼はそっと口元を和らげた。僕もいただきましょうかと、ケーキを一口口に運ぶ。
「んっ、クリームたっぷりですね。おいしいです」
声に意識を引かれた隼の目に留まったのは、ケーキで甘くなった口に丁度いい、とスパイスショコラの味わいに頬を緩める鳥飼の姿だった。
(主は幸せそうに食べている。確かにケーキは美味いが)
けれど鳥飼の笑みにはそれ以外の何かも含まれている気がすると、再びケーキに視線を落として隼はそんなことを思った。
「ここに来るまで少し時間がかかりますけど、良い場所ですね」
満足げに声を零す鳥飼。隼はそれに応えなかったが、彼の主は気にせず言葉を続けた。
「またここに来たいですね」
緩く顔を上げれば、また眼差しが出会う。笑顔の鳥飼から、隼はふっと視線を外した。
(……俺に言っているのだろう)
けれども、好きにすれば良い。胸の内にぽつり呟いて、隼はローズティーを喉に流した。
●星の如くに煌めくは
「クリスマスの時期に来るのは初めてだな。流石に限定メニューも気合入ってそうだ」
古城カフェの店内へと歩みを進めた初瀬=秀は、「楽しみだな」と付け足して色付き眼鏡の奥、鋭い眼差しを仄か和らげた。クリスマス仕様に飾り付けられたカフェの内装に青の双眸を輝かせていたイグニス=アルデバランが、秀の言葉を耳に留めて益々表情を明るくする。
「クリスマスシーズンに古城カフェでデートとか、もう完全に恋人コースですよね!」
「……あー」
声を弾ませドヤ顔で傍らに並んだイグニスの言い分に秀は一抹の照れを覗かせ、寸の間言葉を濁らせたのだが、
「実際恋人ですけどね! ねっ!」
なんて、元気良く(しかも、結構な大音声で)駄目押しされたお陰で、耳まで朱に染めて「やかましい!」とイグニスの頭を小突く羽目になった。
「あうっ! 秀様痛いっ!」
「お前が悪い」
言い捨てて足を速める秀の背中を見遣りながら、イグニスはふにゃりと笑み崩れる。
(ふふー、照れ隠しなのも知ってます! 言わないですけど!)
照れるお姫様も可愛いです! なんて思いながら、イグニスは秀の後を追った。古城カフェを訪れた折は、店の主であるリチェットと幾らか言葉を交わすのが2人にとって常のことになっている。秀とリチェットが簡単なやり取りを終えたのを見て取って、
「お久しぶりですリチェット様! お変わりありませんか?」
と、イグニスはリチェットに満面の笑みを向けた。イグニスの挨拶に自分の方は変わりないと嬉しそうに応じて、イグニス達の近況を尋ね返すリチェット。イグニスの瞳が煌めく。
「実は、私達はですね……って、あぁっ、秀様置いていかないで!」
「置いてかれたくないならさっさと来い、リチェットだって忙しいんだから」
「うーっ!」
リチェットにぺこりと頭を下げて、イグニスはぱたぱたと秀の後を追った。
(……あいつ今日やたらテンション高いな……)
なんて思いつつ、話題がここしばらくの諸々に及ばずに済んで本当に良かったと、心の隅に安堵の息を吐く秀である。
「うーーん、どっちにしよう……」
メニューを穴が開きそうなほどじぃと見つめて、イグニスが唸る。こちらも「さて、どうするか」とメニューに眼差しを遣っていた秀が、イグニスの方へと視線を向けてぽつりと一言。
「……まあ悩むもんでもないけどな、もう」
「へ?」
「イグニス、いいからとりあえずどっちか選べ」
「えっと……じゃあカップケーキとスパイスショコラを!」
苦渋の決断、といったふうで宣言するイグニスの様子に「やれやれ」と軽く肩を竦める秀。
「じゃあ俺ブッシュドノエルとローズティーで。あとで分けてやるから」
「! 秀様お優しい……!」
ぱあぁと輝くイグニスの表情に呆気なく絆されてしまう自分を自覚して、秀は苦い微笑を漏らした。やがて届いたスイーツが、テーブルの上とイグニスのかんばせを華やがせる。
「わー、ケーキかわいい!」
「すごいな。うちも最近スイーツ系増やし始めたがやっぱりまだまだか……」
はしゃぐイグニスの前で、喫茶店の主の顔になって真剣にケーキを見つめる秀だったが、
「スパイスショコラも美味しいですよー。あったまる感じです」
「って、もう飲んでるのかお前は」
きゃっきゃと嬉しそうなイグニスの姿に毒気を抜かれたように、その表情が柔らかなものに変わる。
「ま、今日は純粋に楽しむか。ほら、半分。ゆっくり食えよ?」
「わあ、秀様ありがとうございます! ……あ! そうだ!」
いいことを思いついた! というふうに声を上げるや、イグニスはツリーを模したカップケーキの天辺を飾る星型のクッキーを秀のブッシュドノエルにそっと乗せた。そうして、眩しいようなにこにこ笑顔を、突然の贈り物に寸の間双眸を見開いた秀へと向ける。
「流れ星のおすそわけです!」
「……あぁ、ありがとな」
返る言葉の響きの優しさも浮かんだ笑みの温もりも。イグニスとクッキーのお星様だけが見ていた、格別の秘密である。
●貴方の世界に触れたくて
「へえ、すごいな……」
どこか荘厳な雰囲気を纏う古城カフェの内部を見回して、李月が感嘆の声を漏らす。そのすぐ後ろで、ゼノアス・グールンは黒耀の瞳を感慨深げにすうと細めた。
「……一時期こんな城で暮らした事がある」
ぽつり、その唇から零れ落ちた声は、李月の耳には届くことなく。
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもねぇ」
肩を竦めてみせるゼノアスの口元に浮かぶ余裕めいた笑みに、李月は小さく息を吐いた。
「ケーキも凝ってるんだな」
席に着いて注文を済ませれば、やがて運ばれてくる2人分のスイーツ。皿の上に誇らしげに鎮座するツリー型のカップケーキを見遣って、李月は感心したように呟いた。暫し、繊細なスイーツを目に楽しもうとした李月だったが、
「って、お前! 試食に来てそんな乱暴な食い方あるかよ!」
「あ? 何か問題でもあるのか?」
相棒の暴挙により、静かな時間は一瞬で打ち砕かれた。心底怪訝そうな顔で首を傾げるゼノアスは、今まさに小振りのブッシュドノエルにフォークをぶっ刺そうとしているところだったのだ。一口で完食してしまいかねない勢いの相棒を取り急ぎ諌めることに成功して、李月は深くため息を零す。
「問題? 大アリだよ! いいか、まず見た目の評価をだな……」
くどくどと言い含められて、渋々ながらもフォークを動かす手を止めてケーキに見入るゼノアス。何とか自分の意見が聞きいれられたのを見て取って、李月はまた息を吐いた。
(全く……こいつは世間知らずというか、皆が当たり前に知ってそうなものを知らない事がよくある)
例えばクリスマスだって、何かの祭り、という程度の認識しか持ち合わせていないようなのだ。
(……もしかして、育った場所に無かったのか?)
ついつい自分から言い出したケーキの鑑賞を横に置いて、李月は思案の底に沈む。そんな李月の意識を、
「この食いモンの形、何か意味があるな?」
というゼノアスの呟きが現実へと引き戻した。驚きに、思わず「え? 知らないのか」と声が漏れる。それには応じずにじぃぃとケーキを睨んで、真剣に思考を巡らせるゼノアス。
(よく見てみりゃなんだこの突き出たものは。ぐるぐる巻き? 何だ? それに、何で表面にわざわざ傷をつけるんだ?)
ブッシュドノエルの形状が、ゼノアスには不思議で仕方がない。ケーキを凝視する相棒の姿があまりに一生懸命だったので、李月は敢えて答えを口にせずに、静かにゼノアスの奮闘ぶりを見守ることにした。
(こいつとクリスマスを迎えるのは2度目か。ウィンクルムとして活動し始めて、いい奴だってのは分かってきた)
ゼノアスは、ケーキを前にまだうんうん唸っている。
(今年はパーティしようかな。僕自身もうずっとしてないけど、こいつは肉料理並べてやれば絶対喜ぶ)
贈り物は……とそこまで考えたところで、李月はハッとなった。気づいてしまったのだ。
(あ……完全に絆されてる、僕。ただのウザジャマと思ってたのになぁ)
自身の思考に苦く微笑する李月の前で、一方のゼノアスはどこまでも本気モードだ。
(オレはリツキの世界を覚えなくちゃならねぇ。護る為にも。なんだこの傷はなんの為だ!)
ぐるぐると考えを巡らせる。その時――ふっと、煮詰まっていた頭の中に一筋の光が射した。
「わかった!」
思わず叫び声を上げるゼノアス。
「この傷は木の肌だ、こいつは木に似せて作られた食いモンだ!」
渾身の解答に整ったかんばせへとドヤ顔を浮かべたと思ったら、ゼノアスは結局ケーキをばくばくと一気食い。
「残念、薪だよ」
「同じだろ!」
愉快そうに笑ってケーキをつつく李月にそう返して、ゼノアスはスパイスショコラをぐいっと一度に飲み干した。そして、李月の顔を真っ直ぐに見て満面の笑みを零す。
「食いモンを食えねぇモンに見立てて食う。オマエの世界は面白いな」
ローズティーを口に運ぼうとしていた李月の唇から、くすぐったいような笑い声が漏れた。
●月と太陽が出会う時
「この機会に古城カフェ行こうか」
切欠の切欠は、セラフィム・ロイスに2人目の契約精霊ができたことだった。自分とは違う精霊とセラフィムが契約したことを知った火山 タイガが疎外感に襲われたことは、彼のセラフィムへの想いを考えれば仕方のないことで。セラフィムがタイガに謝ったことで、2人は一応の仲直りをしたばかりなのだ。だから、
「いいな! クリスマス限定メニューが食べられるって……」
と、常のような明るい笑顔で誘いに応じかけたタイガは、途中でハッとして言葉を切った。
(! じゃなくて今は……)
胸に満ちるもやもやに胸元をぎゅうと握れば、少し眉を下げてセラフィムが笑う。
「行きたいって言ってたろ? 二人でプレ・クリスマスしよう」
「プレ……?」
聞き慣れない言葉に、思わず顔を上げて首を傾げるタイガ。
「『前』って意味だよ」
「へ~」
まだ少しぎこちなさは残るものの、何気ない会話は2人の間の壁を確かに溶かして。そうして2人は、古城カフェへと向かったのだった。
(去年に引き続き丸太ケーキに縁あるな♪)
古城カフェにて。テーブルに運ばれてきた愛らしいブッシュドノエルに、タイガが相好を崩す。その様子に、タイガとは別の物をとカップケーキを注文したセラフィムはそっと目元を和らげた。
(にしても、タイムスリップしたみてー。おとぎのクリスマス?)
ケーキだけでなくカフェの内装にも瞳を煌めかせたタイガが、
「……雰囲気あるよね。貴族にでもなったか物語の中に入ったみたいだ」
という心を読んだようなセラフィムの言葉に双眸を瞬かせた後で、「そうだな!」と白い歯を零す。いただきますを済ませたら、美味しい時間の始まりだ。
「可愛くて食べるのもったいないな」
そんなことを呟くセラフィムがやっとツリーを模したカップケーキを少し崩した頃には、タイガは自身のケーキもスパイスショコラも既に幾らか味わった後で。
「うっめー! 飲みもんもありだな、暖まる。こりゃ他の限定品や別メニューも食いてぇ!」
「よかった。こっちも美味しいよ……食べる?」
「いいって!?」
「遠慮しない。気になるだろうなと思って別のを頼んだんだから」
そう応じたセラフィムの微笑みに仄か切ないような顔をして、
「……じゃあ貰う」
と、タイガは小さく応えた。ふと、『もうひとり』の顔が頭を過ぎってしまったから。
「なあ、セラ。セラは子供っぽい俺より、アイツと来たかったんじゃねぇか……?」
不意に降った言葉に銀の双眸を見開くセラフィムの前で、タイガはぽつぽつと続ける。
「セラは落ち着いてるし教養もあって、アイツとは付き合い長いんだろ」
俺とじゃ大人の時間を過ごせないし……と結ばれたタイガの言葉に、まだ気にしていたのかと、ちくりと痛むセラフィムの胸。少し考えた後で、セラフィムは身に着けていたペアペンダントの片割れを――タイガに贈られた『月』を目の高さまで掲げてみせた。
「見て。肌身離さず身につけてる。見る度、タイガや思い出が蘇って嬉しくて……感謝するんだ」
「俺も……もってる、今も!」
タイガが、暫くぶりに顔を輝かせて、自身の持つ太陽のペンダントをランプの灯りに翳す。示し合せたようにして、2人は和やかに笑い合った。
「タイガ、気にしてると思う?」
「……思いたくねぇ。思ってねぇ! でも……独占するぞ、俺」
「……いいよ。いつもみたいに自信家でいて。元々、父や兄みたいな位置だしね」
そう言い切って、セラフィムはペンダントをちゃりと鳴らす。
「タイガ、ペンダント合わせてみよう。合わさるの見てみたい」
「おうっ! 俺もやってみたかったんだ!」
2人がそれぞれ手にした、月と太陽が一つになる。ぴったりだ、とセラフィムは柔らかく微笑した。返る満面の笑みの眩しさに、セラフィムの心に「好き」という想いが満ち溢れる。
「さ、食べよう」
あたたかな実感を胸に、セラフィムは美味しい時間の続きを愛しい恋人へと促して、ローズティーを口に運んだ。
●共に刻む時間
「試食、わくわくするね」
「な! めちゃくちゃ楽しみだ!」
席に着いてふわりと笑ったラキア・ジェイドバインへと、セイリュー・グラシアはにっと白い歯を零してみせた。そんなセイリュー、今日はきちりとフォーマルな着こなしだ。というのも、彼の胸の内にはある計画が潜んでいて。
(試食でも、今回の訪問には意味がある)
ラキアの誕生日を特別な気分で過ごしたい。そんな想いから、古城カフェを訪れることを決めたセイリューである。クリスマス仕様のメニューを開いてどちらを頼もうかと悩んでいるラキアの楽しげな顔を見て、セイリューは密かに口元を緩めた。
(美味しいケーキと飲み物があるし、やっぱりここは自分達には特別な場所でもあるから)
開店祝いにも駆けつけたし、春の終わりには八重桜を眺めながら『今まで』と『これから』の話をした。夏には薔薇園を守って一緒にかき氷も味わった。だから、沢山の思い出が詰まったこの場所で、大切な人に言祝ぎを。
「ラキア、誕生日おめでとう」
満面の笑みでそう告げれば、ラキアがメニューから顔を上げた。
「色々な事があった1年だったけど、またこれからも色々な嬉しい体験を2人で積み重ねていけると良いな、って」
「今回はセイリューがちょっとキアイの入った格好してくるからどうしたのかなって思ったら」
セイリューの真っ直ぐな言葉に、そんなふうに悪戯っぽく微笑した後で、
「ここで誕生日を祝ってもらえるなんて嬉しいよ」
と、ラキアは仄かはにかんだように言葉を紡いでいく。
「この1年、セイリューのお蔭で本当に色々な体験が出来たし。家族も増えて、とても変化に富んだ1年だったよ」
緑の双眸を柔らかく細めてラキアが想うのは、セイリューと共に過ごした時間と、2人の家で自分たちの帰りを待つ2匹の猫とレカーロのこと。多くのことがあった1年を振り返って、ラキアのかんばせに浮かぶのは優しい微笑みだ。
「嬉しい出来事が沢山積み重ねてこれて毎日が幸せ。この幸せをもっと積み重ねて行こうね」
ラキアの言葉に、セイリューも眩しいような笑みで「当然!」と応じた。そうして、上品な様子の小箱を取り出してみせる。
「え? これって……」
「そう、プレゼント! 開けてみてくれ!」
セイリューに促されてこくと頷いたラキアが小箱を開ければ、中から出てきたのは金属リングの髪留め。細かな花の細工が美しい。
「わあ、金の細工が綺麗だね」
「ラキアに似合いそうだなって思ったんだ。喜んでもらえたら嬉しいんだけど」
「勿論、凄く嬉しいよ。こっそり用意してくれてたんだね」
そして2人は、また一つ思い出を重ねようとスイーツとドリンクを注文した。セイリューが頼んだのはカップケーキにスパイスショコラ、ラキアの分はブッシュドノエルにローズティーだ。間もなく運ばれてきた特別なスイーツたちのきらきらしいような姿に、セイリューの顔が輝く。そんなセイリューの様子に少し笑って、ラキアは「いただきます」を済ませるとブッシュドノエルにフォークを入れた。
「うん、いつ来てもここのケーキ美味しいよね」
「だな! カップケーキもこうするとぐっとクリスマスっぽくなるな。飲み物もウマー!」
クリスマスの味を口に楽しんで、セイリューが屈託なく応じる。その視線が自身のケーキに注がれたのを見て取って、ラキアはくすりと音を漏らした。
「シェアしようか、セイリュー」
「へっ?」
「だって、セイリューったら『そっちも美味しそう』って顔してるんだもの」
そう言って笑うラキアの表情はやはり楽しげで、セイリューの心をあたためる。じゃあ、と少しずつケーキを交換して、2人は両方の味を楽しんだ。
「ブッシュドノエルも凄く美味しいぜ!」
「セイリューのケーキも美味しいね」
顔を見合わせて、どちらからともなく2人は笑み零し合う。そして、
「ねえ、セイリュー。……今日は、本当にありがとう」
甘く幸せな時間は、思い出の1ページとしてまた2人の心に刻まれるのだろう。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:セラフィム・ロイス 呼び名:セラ |
名前:火山 タイガ 呼び名:タイガ |
名前:李月 呼び名:リツキ |
名前:ゼノアス・グールン 呼び名:ゼノアス/ゼノ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月02日 |
出発日 | 12月09日 00:00 |
予定納品日 | 12月19日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 李月(ゼノアス・グールン)
- 鳥飼(隼)
会議室
-
2015/12/08-22:00
初瀬と相方イグニスだ。
意外にもクリスマスの古城カフェ初めてだったんだな……
初めましても久しぶりも、お互いいい時間になるといいな。よろしく。 -
2015/12/06-03:02
どうも。僕セラフィムとタイガだ。よろしく
ちょっと訳ありでね。いやいつもと変わらないかもしれないが・・・
初めての古城カフェのプレ・クリスマスよい思い出になればと思う。皆も楽しめますように -
2015/12/06-00:05
-
2015/12/05-18:49
-
2015/12/05-00:29
よろしくおねがいします