プロローグ
●神に捧げるオルゴール
タブロス郊外の小さな村。ここの名産品は手作りのオルゴールである。
オルゴール作りが盛んであるのには訳がある。それは村の伝承に由来する。
クリスマスの夜、その年で一番の出来栄えのオルゴールを、その音色と共に神に捧げるのだ。オルゴールの音色は神へと届き、そして神の祝福を得て村中に響き渡るという。
そんな村の伝承をシスターが話している。
教会の礼拝堂だ。礼拝用の長椅子は一カ所に固められ、代わりに作業用のテーブルが配置されている。
伝承に因んで、この村ではクリスマスが近づくとオルゴール作りの体験教室が開かれるのだ。
教室はこの教会。体験教室が行われている最中だ。シスターに並んで、講師を務めるオルゴール工房の職人数名の姿がある。
体験教室の参加者は、二人一組でテーブルについている。そのテーブルには細かい部品や装飾用の材料、工具などが置かれている。
精霊はそれらを一瞥してから辺りを見渡した。子供連れの姿もある。子供も参加可能という事は、難易度はさほど高くないのだろう。
傍らの神人を見れば、礼拝堂の前方に置かれた大きなオルゴールを見つめている。
それを示してシスターが言う。
「こちらのオルゴールは昨年のクリスマスに捧げられたオルゴールです。その音色はもちろんの事、ケースの装飾に至るまでその年一番の出来栄えです」
オルゴールは木製の箱でできている。全体に施された細かな彫刻、品良くちりばめられた宝石の輝きに感嘆する者も少なくない。
「さて、皆さんに作っていただくオルゴールはこれよりも小さな物です。オルゴールのムーブメント——オルゴールの仕掛け部分ですね。これを組み立てる所からはじまります。途中まで職人さんが組み立てた物を各テーブルにお配りしています」
テーブルには、幾つかの部品が既に取り付けられたムーブメントの土台が置かれている。
「皆さんの作業は残りの部品の取り付けからとなります。作業の説明は工房の職人さんにお願いします」
シスターに促され、職人の一人が一歩前へと出た。
「作業は我々が手本を示しながら行いますので、それを真似してください。まず、作業の流れと取り付ける部品について説明を行います」
職人はオルゴールの部品を皆に示した。
「ムーブメントの組み立てはさほど難しくはありません。取り付ける部品はドラム、くし歯、ゼンマイの3つです。まず、ムーブメントの土台にドラム——金属製の円柱です。たくさん付いているピンの配置で曲が決まります。これを固定します。次に、ゼンマイを入れ込みます。最後にくし歯を取り付けます。くし歯とは、くし状の金属板です。ドラムのピンがくし歯を弾くと音が鳴ります。組み立てたムーブメントは村の民謡を奏でてくれます」
職人が完成品の見本であるムーブメントのゼンマイを巻くと、優しい、あたたかなメロディーが流れた。
「くし歯を取り付ける作業が一番重要です。ドラムのピンとくし歯が噛み合わないと綺麗な音がなりません。難しければお声をかけてください。我々がお手伝いしますので」
説明する職人の後ろに控えていた、工房の職人達が頭を下げた。
「ムーブメントの組み立てが完了したら、ケースへ取り付けます。これは螺子で留めるだけです。お好きなケースへ取り付けて下さい。取り付けが終わったらケースに装飾を施して下さい。これでオルゴールの完成です」
「作製していただいたオルゴールはその音色と共に祭壇へ捧げられます」
後を引き継ぐのはシスターだ。昨年のクリスマスに捧げられたオルゴールの両脇には、宝石箱、白い陶器の天使像が乗った回転台、ぬいぐるみ……様々な種類のオルゴールが並べられている。過去、体験教室に参加した人々の作品だ。
体験教室が終わる時には、皆が作製したオルゴールの音色が響き渡ることだろう。
「作業は二人一組で行います。ぜひ世界に一つの素敵なオルゴールを作って下さいね」
と、シスター。
「オルゴールの部品はとても繊細です。どうぞ丁寧に扱って下さい」
職人はそう結んだ。
この教会の壁に埋め込まれた『黒き宿木の種』に気づく者はいない。
解説
●概要
パートナーと協力して素敵なオルゴールを作ります。
※『黒き宿木の種』が埋め込まれた教会ですが、エピソード内で悪さをしてくる事はありません。気にせずデートを楽しんでください!
●消費Jr
参加費として300Jr消費します。
●ケースの種類
以下のケースが用意されています。一つ選んでください。
1. 木製の宝石箱
2. 円柱上の回転台
3. クマのぬいぐるみ
●装飾アイテム
・陶器製の天使の人形、バレリーナの人形
・リボン
・スパンコール
・粘土
その他、木材や布など一般的な材料、加工に必要な工具は用意されています。
自由に組み合わせたり加工したりして装飾を行って下さい。
●その他
オルゴール館等でよくある、オルゴール作りの体験教室をイメージしてくださいませ。
作業は職人さんのお手本通りにすれば失敗することはほとんどありません。お気軽にご参加ください。
オルゴールの曲は決まっていますので、ケースや装飾で個性のあるオルゴール作りをお楽しみください。
ゲームマスターより
ご覧いただきありがとうございます、りょうです。
オルゴール作り体験です!オルゴールの音色って癒されますよね。
そんなオルゴール作りを体験してみませんか?ぜひパートナーと一緒に個性溢れるオルゴールを作って下さい。
皆様のご参加をお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
オルゴールか イベリンの店では見るだけだったな※EP21 作るのは楽しみだ 銀雪…は、旅立ったか(教会で誓い合う姿妄想してそうだ) ケースはどうする? 木製の宝石箱…分かり易いな、お前 本当にブレないというか ま、協力して作るか 言っておくが、惚けている暇はないぞ? オルゴールは可能であれば刺繍の入ったリボンを※銀雪希望無視で白に金糸刺繍リボン なくても白リボン使用 それと布で造花 造花にリボンを添える形で 花?普通に好きだが ウィンクルム引退した両親花屋だし、弟達もそっち関係だし、グレイ(追加精霊)もそうだろうが …言ってなかったか? ま、いい よく出来た さて、銀雪、オルゴールはお前にやろう 意味は自分で考えろ※喉を鳴らし笑う |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
オルゴールのムーブメントから手作り出来るなんて、とても貴重な体験です。ワクワクしますね。 こんな小さな板数枚を組み合わせて素敵な音楽を奏でられるのは素晴らしいです。技巧的な部分は普段目にすることが少ないので、凄く嬉しいです。 結構作るのも難しいですね。小さな部品も多いですし。でもその分とても愛着あるものが出来そう。 「はい、とても楽しいです!」とミュラーさんに笑顔を向けたら、ミュラーさんも嬉しそう。 ケースは木製の宝石箱が良いです。 蓋に、ラインストーンを幾つも配置して、星空を作りたいです。 二つの月は彫り込んで装飾的に入れたいです。 ミュラーさんこういうの得意なんですね。凄いです。 冬の星空が良いですね。 |
シャルティ(グルナ・カリエンテ)
1. 木製の宝石箱 木の箱、これだけで十分素敵よね オルゴールの曲にあった箱にしたいわね ねえ、あんたはなにが良いと思う? スパンコール? ええ、それにしましょ なんでもかんでも否定するわけないじゃない 私が気に入ったから良いのよ あ…。あんたが装飾どれにするか選んで 選んでくれたのを私がつけるから あんたのセンス、期待してるだけよ 器用だし(エピ:12) (スパンコールを散りばめ、それだけだと少々寂しかったので、 天使の人形をふたの上に) イメージは空と天使……かしら |
御神 聖(桂城 大樹)
クマのぬいぐるみでいい? 今日学校の勇の土産にしたい 勇は何でも喜びそうだけど… (イチオシらしいあんたと作ったから、という意味で) クリスマスカラーのリボンとサンタ帽子程度にしとくか やり方聞きながら協力して作るよ うむ、勇にいいプレゼントが出来た 「いいママ?はは、ありがと」 そこで笑う? はぁ、この前と違う反応… 「あんたに冗談通じないからだよ」(エピ1) 何赤くなってんの、浴衣透けたの思い出したの? 「見ちゃったもんは仕方ないって言ってんじゃん」 そこでそう返すか 「あんたホント面白いよね」 悪くないけどさ 大体さ、口説くとかって、応じるかは別として、あたしの許可って要るかぁ? 勇がイチオシなだけあって、律儀な奴だなぁ |
マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
1選択 宝石箱私も持っています たまに蓋を開けて想い出の品眺めてほっこりするんです 旦那様の手は大きいので細かい作業をフォロー つい作業にのめり込んで口数少 指先触れて心臓が跳ね上がる けど平静を繕う (だめだめ 神様に捧げる物を作っているのだから 気持ちを正さなくちゃ 飾り付け任され 内部には上品な薄紫の布貼付(旦那様の瞳色 蓋に森のペイント左側にはウィンクルムの文様 粘土(色付)の立体的なお座り熊と丸眼鏡付の兎右に設置 リボン添えて プレートの文字見て 顔を見る 問われて赤面言葉が出ない (私が抱くこの暖かい気持ちは親愛‥? 旦那様も同じと思ってもいいの? これが絆というものなの? そうなら幸せ) 小さくうなずく |
●作業をはじめましょう
工房の職人達が各テーブルをまわり、部品や道具の不足がないかを確認している。
全てのテーブルをまわり、説明を行う職人へと目配せをする。準備が整ったようだ。
「では、作業をはじめましょう。まず、ムーブメントの土台にドラムを固定します」
職人は丁寧に説明をしながら手本を示している。
参加者達は作業に取りかかった。
●空と天使
シャルティは3種類のケースを眺めた。
ムーブメントの組み立ては、職人の説明通りに作業をしてすでに完了している。
次にすべきはケースへの取り付けだ。シャルティは木製の宝石箱を取り上げた。
「木の箱、これだけでも十分素敵よね」
職人の手本に習ってムーブメントを宝石箱へと取り付ける。
残る作業はケースの飾り付けである。テーブルには多種多様な材料が揃っているが、どれを使おうか。
「オルゴールの曲にあった箱にしたいわね。ねえ、あんたは何が良いと思う?」
傍らのグルナ・カリエンテに声をかければ、彼はどうも乗り気では無い様子。
「あー?んー、なんでも良いんじゃねぇ?」
と、素っ気無く返してくる。
しかし、シャルティが手にしている木製の宝石箱と、テーブルの装飾の材料達を見ると、彼の中にインスピレーションが湧いた。
「スパンコールとか、どうだ?」
「スパンコール?」
シャルティは手にした宝石箱と、スパンコールを見比べる。
「ええ、それにしましょ」
「良いのかよ…それで」
てっきり文句の一つでも返ってくるかと思っていたのだ。あっさり自分の意見が採用され、少々驚く。
「なんでもかんでも否定するわけないじゃないわ。私が気に入ったから良いのよ」
「ふぅん……まあ、気に入ったんならそれで良いけどよ」
木の箱にスパンコール、悪くないとシャルティは胸中で微笑む。しかし、どう装飾をしていこうか。
ふと、ある思いに至り、グルナに向き直った。
「あ…。あんたが装飾どれにするか選んで。選んでくれたのを私がつけるから」
「は…?俺が?」
なんで俺がとグルナが口にすれば、
「あんたのセンス、期待してるだけよ」
と返される。
「前に凄い雪だるま作ってくれたでしょ?あなたの器用さを買ってあげてるのよ」
言い方にやや不満があるが、自分の能力を買ってもらえるのは悪い気はしない。それならばとグルナは装飾用の材料を見渡す。
「……んじゃ、スパンコール散りばめて、箱の両サイドにリボン付けたら良いんじゃねぇの?」
なるほど、とシャルティは思う。
グルナの言う通り、スパンコールを散りばめていく。次にリボンだ。様々な色が用意されている。
「ねぇ、リボンの色は?」
「ボルドー」
それを箱の両サイドにとりつける。スパンコールだけでは華美な印象であったが、ボルドーのリボンが加わると大人の落ち着きが出たように感じる。
(でも、これだけだとちょっと寂しいわね……)
もう一つ何か欲しいとシャルティは人形へと視線を向ける。天使か、バレリーナか。
「シャルティ、天使とこっちのバレリーナ、どれにするんだー?」
シャルティの視線に気づいたグルナが2種類の人形を持ち上げる。
人形を見比べ悩むシャルティに、グルナはほいっと天使の人形を手渡した。
「じゃ、天使にしとけ。なんとなーく、こっちの方が良いだろ」
「そうね……」
手渡された天使の人形を蓋の上に取り付ける。
木製の宝石箱に散りばめられたスパンコールは、夜空に輝く星のようだ。そんな宝石箱にのせられた天使の人形は、夜空に舞い降りた天使そのもの。
(イメージは空と天使……かしら)
その出来栄えに満足そうなシャルティである。
●その意味は
「オルゴールか、イベリンの店では見るだけだったな」
リーヴェ・アレクシアは 銀雪・レクアイアにそう話しかけた。
しかし、返事が無い。銀雪へと視線をやれば、彼の瞳はどこか遠くを見つめている。
「銀雪…は、旅立ったか」
銀雪の心はいつの日かのイベリンへと飛んでいってしまっているようだ。
(イベリン…俺が違うと示せば考慮してくれると約束してくれた地。いつか、教会で愛を誓い合うんだ……)
教会で誓い合う姿でも妄想しているのだろうか、どこか幸せそうな顔だ。だが、彼が戻ってくるのを気長に待っているつもりは無い。先程より大きな声で問いかける。
「銀雪、ケースはどうする?」
「はっ、そうだね、今は作らないと」
こちらの世界に戻ってきた銀雪は、3種類のケースの中から一つを選ぶ。
「木製の宝石箱がいいな」
彼はイベリンでの出来事を思う。
あの時リーヴェが本音を教えてくれたのは、宝石箱型のオルゴールのおかげだったからと、もじもじと告げた。
「木製の宝石箱…分かり易いな、お前。本当にブレないというか」
(ブレない…褒めてる、よね?多分……)
リーヴェの言葉の本意を掴めず、またしても意識は遠い地へと向かいそうになる。
「ま、協力して作るか。言っておくが、惚けている暇はないぞ?」
すでに職人はムーブメントの組み立て方を説明しているのだ。惚けていては作業についていけなくなる。
「ほ、惚けないで頑張るよ」
細かい部品を職人の手本を真似て取り付けていくのだ。彼女の言う通り、惚けている暇などなかった。
職人の手本に習って組み立て、ムーブメントを完成させた。それを銀雪が選んだ木製の宝石箱へと取り付ける。
取り付けが完了したら次は装飾だ。
「刺繍のあるリボンあるかな」
銀雪は装飾の材料の中からリボンを探す。金に銀糸の刺繍が入ったリボンを見つけ、これが良いと手にしようとしたが、
「リボンはこれだな」
隣からのびたリーヴェの手が、白に金の刺繍が入ったリボンを取り上げた。
え?、という顔をする銀雪をよそに、次にリーヴェは造花の作成に取りかかる。手慣れた様子で、布でカリンの花を作り上げた。
「布の造花…リーヴェ、花好きだったっけ」
「花?普通に好きだが」
問えば、事も無げにリーヴェは返す。
「ウィンクルム引退した両親花屋だし、弟達もそっち関係だし」
義弟のグレイもそうだろうがとリーヴェは言う。
「それ全部初耳」
銀雪は肩を落とす。
(生まれついて神人のリーヴェが普通に暮らしてたなら、そうじゃないと厳しいけど)
そうは思うが、今まで知らなかった事へのショックは小さくない。
「…言ってなかったか?」
こちらの思いを知ってか知らずか、彼女は首を傾げる。そしてすぐに、
「ま、いい」
と作業に戻ってしまった。
カリンの造花にリボンを添える形で宝石箱に取り付ける。全体を確認する。なかなか良い出来だ。
「さて、銀雪、オルゴールはお前にやろう」
「え、俺に?」
差し出されたオルゴールを戸惑いながらも受け取る。
どうして俺に?と首を傾げる銀雪。そんな彼の顔を見て、カリンの造花が笑っているようだ。
「意味は自分で考えろ」
「意味って何!?」
リーヴェの言葉が理解できず、銀雪は聞き返したが、彼女は喉を鳴らして笑うばかりだ。
カリンに込められた意味は『可能性がある』。それに添うリボンはリーヴェ自身を表している。『お前に絆されてやる可能性自体はある』というリーヴェのメッセージに、銀雪はまだ気づいていない。
●オルゴールに祈りをこめて
「宝石箱私も持っています」
マーベリィ・ハートベルが選んだケースは木製の宝石箱だ。
「たまに蓋を開けて想い出の品を眺めてほっこりするんです」
そう言うマーベリィは懐かしそうに宝石箱の蓋を撫でている。
(故郷の家族を思い出しているのか?寂しい思いをさせているのだろうか)
ユリシアン・クロスタッドは思う。故郷を離れ、彼の屋敷に奉公にきているマーベリィなのだ。故郷を思い、寂しい時もあるだろう。
今日の事が少しでも楽しい思い出になればと、ユリシアンは張り切って作業に取りかかる。まずはムーブメントの組み立てだ。
小さなムーブメントに二人で向かえば、自然と互いの指先が触れてしまう。マーベリィの心臓は跳ね上がるが、そこは奉公に上がっている身、平静を取り繕う。
(だめだめ神様に捧げる物を作っているのだから気持ちを正さなくちゃ)
心を落ち着かせ、作業に集中する。集中するほどに、口数は少なくなっていった。
真剣に作業に向かうマーベリィの横顔を、ユリシアンはつい盗み見てしまう。
気持ちがそぞろなためか、それとも、彼の大きな手は細かい作業に向いていないのか、どうにもうまく部品を取り付けられない。
「旦那様、ここは私が」
言ってマーベリィは作業を引き継ぐ。いつもの余裕が保てない照れくささに、ユリシアンは苦笑いを浮かべた。
マーベリィのフォローもあって完成したムーブメントを宝石箱へと取り付ける。次は装飾だ。
「デザインはどうしようか」
二人はデザインを相談する。デザインは森のイメージだ。飾り付けはマーベリィに任せ、ユリシアンは装飾用のパーツの作成を行う。
彼が苦戦しながら粘土で作ったのは、お座り熊と丸眼鏡付の兎の人形だ。少々形がいびつではあるが、そこはご愛嬌。
人形をマーベリィに手渡すと、ユリシアンはメッセージプレートの作成に取りかかる。
(このオルゴールに込める祈りはこれだろう)
想いを込めてプレートに文字を彫り込んでいく。
丁寧に文字を彫り込んだところで、装飾が完了した宝石箱を受け取る。
マーベリィから手渡された宝石箱の蓋には森のペイントが施されていた。左側には彼らの手の甲にあるものと同じ、ウィンクルムの文様が描かれている。対する右側には、ユリシアンが作成した熊と兎の人形が可愛らしく設置され、傍らにはリボンが添えられている。
ユリシアンはその可愛らしい宝石箱の蓋を開けた。内部には上品な薄紫の布が貼られている。彼は目を細めた。その色は、彼の瞳の色と同じだと気づいたから。
ユリシアンは蓋の裏側に作成したプレートを取り付けた。
「これで完成だね」
蓋を閉じた宝石箱をマーベリィへと差し出した。開けてご覧と促す。
促されるままマーベリィは蓋を開けた。
目に飛び込んできたのはプレートの文字。
『出逢えた奇跡ととこしえの絆に祝福を』
驚いた顔でこちらを見るマーベリィに、ユリシアンは言う。
「ぼくの本心。きみもそうだろ?」
その言葉に、マーベリィは赤面する。
(私が抱くこの暖かい気持ちは親愛……?旦那様も同じと思ってもいいの?これが絆というものなの?そうなら幸せ)
頭の中でぐるぐると考えるが、言葉が出てこない。ただただ頬が熱い。
赤くなった頬を両手で押さえるマーベリィの姿に、ユリシアンは満足げだ。
身をかがめ、マーベリィの目線の高さに顔を合わせると、彼女の瞳を見つめて微笑んだ。
「その反応は肯定と取るよマリィ」
マーベリィは小さく頷いた。
● 律儀な人
御神 聖と桂城 大樹は職人の手本に習ってムーブメントを組み立てていく。
聖が部品をおさえ、大樹が工具でそれを土台に固定していく。時に役割を交代し、協力して作業を進めてムーブメントを完成させた。
次はケースへの取り付けだ。
「ケースは、クマのぬいぐるみでいい?」
聖は大樹に問いかけた。
「今日学校の勇の土産にしたい」
「勇のお土産ね、OK」
それを断る理由は大樹には無い。快諾すると聖が微笑んだ。
「ありがとう。勇も喜ぶよ」
(勇は何でも喜びそうだけど…イチオシらしいあんたと作ったから、という意味で)
と、心の中で付け加える。
ぬいぐるみの背中は開くようになっており、ムーブメントを取り付ける為の箱が埋め込まれている。そこに組み立てたムーブメントを取り付ける。
(勇のことを話す聖さんはホントにママなんだけどね)
作業をする聖の姿を見ながらそんな事を思う。
母親とは思えないスタイルの良さを大樹は知っている。だから彼女の息子である勇が、悪い虫を気にするのは分かる気がするのだ。けれども、ありがたい事に、勇は『イチオシ』だと大樹に太鼓判を押してくれている。
(勇に推薦されてる僕は幸運なのかな)
「これ、ぬいぐるみの首に結んでくれる?」
太めの赤いリボンと、それよりやや細い緑のリボンを重ねて手渡され、大樹の思考は中断される。
「OK、クリスマスカラーだね」
気づけば、聖はぬいぐるみの飾り付けをはじめていた。
大樹にリボンを結んでもらっている間に、聖は赤いフェルトの布を手に取ると、それをくるっと丸めて円錐を作り、ちくちくと縫い合わせた。尖ったところに丸めた綿を取り付ければ、サンタ帽子が出来上がる。
丁度、大樹に任せた作業も終わったようだ。
「はい、聖さん」
首にリボンが結ばれたぬいぐるみを受け取ると、今しがた作ったサンタ帽子をぬいぐるみの頭にのせた。落ちないように数カ所縫い止めれば完成だ。
勇に良いプレゼントが出来たと満足げに微笑む聖に、
「本当にいいママだね」
と大樹は言った。
「いいママ?はは、ありがと」
笑って礼を述べる聖。以前とは異なる反応だ。
「以前はいい女って言ったら口説くの自由って返したのにね」
そう笑い返した。
「あんたに冗談通じないからだよ」
「あの時は、冗談真に受けるなってツッコミしようとして、浴衣が透けて不発だったね」
そう言う大樹の脳裏に、その時に一瞬『見ちゃった』聖のボディラインが蘇り、思わず赤面してしまう。
そんな大樹の様子に気づかない聖ではない。
「何赤くなってんの、浴衣透けたの思い出したの?見ちゃったもんは仕方ないって言ってんじゃん」
いつまで気にしているのだと呆れたように言い放つ。
「あれ喜ばない男っていないと思うよ」
赤面しながらも、男の素直な意見を返す大樹に、そこでそう返してくるのかと聖は吹き出した。
「あんたホント面白いよね」
その口調に悪意は感じられない。
勇へのプレゼントにするのだというクマのぬいぐるみ型のオルゴールを手に、彼女は笑った。
いいママで、いい女だなと、大樹は改めて思う。
「聖さんは気づいてる?恋愛はご無沙汰だけど……二度しないとは言ってないからね?」
あの夏祭りの日、「口説くのは自由だ」と彼女は冗談で言ったけれど、大樹はそれを冗談とは思っていない。その言葉に甘えると応えた事は撤回していないと告げた。
応じるかは別として、口説く事にこちらの許可を得る必要など無いだろうと聖は思う。けれど、そんな大樹の姿勢に、悪い気はしない。
「勇がイチオシなだけあって、律儀な奴だなぁ」
あんたホント面白いよと、聖はもう一度口にした。
●二人で描く冬の夜空
「オルゴールのムーブメントから手作り出来るなんて、とても貴重な体験です。ワクワクしますね」
瀬谷 瑞希は心を躍らせた。
テーブルに置かれたムーブメントの部品達は、彼女が今までに見た事が無い物ばかりだ。
「そうだね、普段ムーブメントは隠されているし、作るとどんな作りになっているかよく判るからね」
フェルン・ミュラーも同意見だった。
彼の言う通り、オルゴールのムーブメントは通常隠されている。透明なオルゴールケースなど、その一部を見る事が出来る物が無いわけではないが、それでも、部品一つ一つを確認する事は難しい。
手作りオルゴールの繊細な部品を目で見て、そして手で触れるというのは、なかなか体験できるものではない。
瑞希はそんな貴重な体験に感動を覚えている様子だ。
「こんな小さな板数枚を組み合わせて素敵な音楽を奏でられるのは素晴らしいです。技巧的な部分は普段目にすることが少ないので、凄く嬉しいです」
賛辞と喜びを述べる。
職人の説明を聞きながら、二人はムーブメントを組み立てていった。その説明、作業の一つ一つが瑞希の好奇心を刺激する。
しかし、好奇心とは裏腹に、細かい作業に少々苦戦してしまう。
特にくし歯の取り付けは、職人が述べていた通り、重要な作業なだけに中々に難しい。ドラムのピンとくし歯の歯が噛み合う位置に取り付けなければ、音は鳴らないのだ。位置を調整しながら、小さな部品を取り付けていく。
苦労しつつも、ムーブメントの組み立てが完了する。出来上がったムーブメントを満足そうに眺める瑞希に、フェルンは問いかけた。
「好奇心をとても刺激された?」
「はい、とても楽しいです!」
眩しいほどの笑顔を見せる瑞希。そんな彼女が可愛く思えて、フェルンも笑みを浮かべた。
嬉しそうな姿を見る事が出来て得をした気分だ。
しかし、作業はまだ終わりではない。ケースへの取りつけと飾り付けが残っている。
「ケースはどうする?」
「木製の宝石箱が良いです」
瑞希の意見にフェルンはそうしようと同意する。
宝石箱の蓋を開けるとムーブメントを取り付けるスペースが空いている。そこに、ムーブメントを固定した。
「装飾は考えてあるんです。蓋に、ラインストーンを幾つも配置して、星空を作りたいです」
天文学の知識がある彼女らしい提案だ。
瑞希は蓋に下絵を描きだす。二つの月と幾つもの星がそこに描かれていく。
二つの月は彫り込んで装飾的に入れたいという希望を聞き、フェルンはそれに応じる。彫刻刀で二つの月を掘り入れ、下絵の通りにラインストーンを埋め込んでいく。
「ミュラーさんこういうの得意なんですね。凄いです」
フェルンの手際の良さに瑞希は感嘆する。
全ての星が埋め込まれた蓋を眺め、フェルンは微笑んだ。
「蓋に冬の星空を作るのはミズキらしいね」
瑞希が描いた星の下絵は、実際の冬の夜空の星の配置になっていたのだ。冬の星座が並んでおり、その中の三つの星を結ぶと冬の第三角と呼ばれる三角形が描き出される。
一目見れば冬に作ったと、一生の思い出にできることだろう。
最後に、フェルンは蓋の内側に鏡を取り付けた。
冬の夜空のオルゴールの完成だ。
●その音色に神の祝福を
全ての作業が終わり、シスターは辺りを見回した。
「皆さん、とても素敵なオルゴールですね」
各々のテーブルには、個性溢れるオルゴールが出来上がっていた。
「では、皆さんが作ったオルゴールの音色を神に捧げましょう。オルゴールのゼンマイを巻いて下さい」
ジジ…ジジ……とゼンマイを巻く小さな音が、それぞれのテーブルから聞こえてくる。
その間に、シスターは祭壇のオルゴールのゼンマイを巻いた。
皆がゼンマイを巻き終わりると——。
「わぁ……」
感嘆の声が上がる。
優しくあたたかい、どこか懐かしい……そんなメロディーがオルゴールから溢れ出してくる。
手作りのオルゴールの個々の音色は、微妙に異なっている。その音色が幾つも重なり、アンサンブルとなって教会中、そして村中へと響き渡った。
オルゴールの音色が響く中、『黒き宿木の種』は静かに枯死した。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:瀬谷 瑞希 呼び名:ミズキ |
名前:フェルン・ミュラー 呼び名:フェルンさん |
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | りょう |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月01日 |
出発日 | 12月08日 00:00 |
予定納品日 | 12月18日 |
参加者
- リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
- 瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
- シャルティ(グルナ・カリエンテ)
- 御神 聖(桂城 大樹)
- マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
会議室
-
2015/12/07-23:17
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
どんなオルゴールが出来あがるか、とても楽しみですね。 -
2015/12/06-14:21
御神 聖と桂城 大樹だよ。
よろしくね。
オルゴール…。
息子のクリスマスプレゼントにいいよね。
-
2015/12/04-23:22
リーヴェだ、よろしく。
パートナーは、銀雪。
さて、オルゴール作りか。
楽しいひと時になればいいな。 -
2015/12/04-09:33
シャルティとグルナ。…どうぞよろしく。
オルゴール作りを体験させてもらえるなんて素敵ね。
物作り、楽しいわよね(わくわく -
2015/12/04-01:46
よろしくおねがいします