【枯木】虚心坦懐(東雲柚葉 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 軽快なクリスマスソングが、街中のどこを歩いていても耳に入ってくる。

 ハロウィンが終わり――街はすぐにクリスマスムードとなったが、クリスマスが目前となった今、クリスマスムードはさらに強くなっていた。

 腕を組んで歩くカップルや、嬉しそうにおもちゃコーナーでサンタさんに何を頼もうか悩んでいるこども。様々な思いが集っているものの、この場には暗い想いは微塵も感じられない。みな、いい意味で浮足立っている。

 そんな中、あなたはショッピングモールの中で「う~ん」と悩みの声をあげて頭を抱えていた。
 何か悩み事があり抱え込んでいるというわけでも、具合が悪いわけでもない。

 あなたはショッピングモールの中で、パートナーへのプレゼントを選んでいた。

 来るクリスマスに向けて、パートナーへのプレゼント。普段照れくさくて言えないような感謝の気持ちを言葉で伝えたり、はたまた率直に好意を書き連ねたメッセージカードを送ってもいいかもしれない。

 どんな形であれ、パートナーを喜ばせるもの、びっくりさせるもの……とにかく思い出に残るクリスマスにしたいのだ。

 とはいえ、まだクリスマスには早い。プレゼントを渡すのは早い。

 だから、今日は本人を呼んで、簡単なプレゼントとともに伝えたいことを伝えることにしよう。

 「ありがとう」でも、「愛してる」でも。今日は素直になって言おう。


 そう決意して、あなたはパートナーを呼びに一度ショッピングモールを後にするのだった。
 あなたがショッピングモールを出たと同時に、黒い種がころりと地面に落ちた。

解説

 今回は、プレゼントを選んでプレゼントしつつ、何か言葉を添える話です。
 クリスマスにはまだなっていません。

 ショッピングモール内であれば、何を買ってもいいこととします。
 プレゼントを買ったことで消費するjrは、固定500jrとさせていただきます。

 プレゼントと、言葉を贈る側は神人でも精霊でもどちらでも構いません。
 プレゼントを送るのは確定ではありますが、言葉で述べてもよいですし、メッセージカードなどで伝えても大丈夫です。
 プレゼントを渡すのが誰なのか、プレゼントはなんなのか、プレゼントを手渡す場合、どこで手渡すのかは必ず明記してください。

 行動範囲はショッピングモール内のみとします。
 ただ、ショッピングモールについて具体的な決まりはございません。
 ショッピングモールという枠組みから外れてさえいなければ、何をしても大丈夫です!
 いちゃいちゃしていると、黒き宿木の種は勝手に壊れますのでいちゃいちゃしてくだされば大丈夫です!

 では、素敵なプレゼント選びを!




ゲームマスターより

何か面白い挨拶がないかな、と模索中の東雲柚葉です!

人間、付き合いが長ければ長くなるほど、やはり素直が一番ですね。
親しき仲にも礼儀ありといいますが、同じく、わかりきっていることでも好きな人にきちんと想いを告げるというのは大切なことだと思います!

贈る言葉、というタイトルにしようとしましたが、自粛しました。有名な方々の歌がチラつくので……。

近しい人に今回だけは、今日だけは素直になってみてはいかがですか?

では、参加お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  今年もショッピングモールの飾り付けが綺麗だよ、と彼を誘う
クリスマス一色のお店を回ってから大きなツリーの前へ

花屋で注文しておいた白い花のブーケを受け取る
花の名前は知らないけれど、星の形をした花弁が印象的で
ふとラセルタさんの顔が思い浮かんだ、から

小走りで戻れば緊張で跳ねる心臓を押さえつつ
気持ちを伝えるためにまっすぐ、彼に向き直って
ブーケを渡し、目を閉じてとお願いしながらキスをする

…あのね。俺、ずっとラセルタさんの事が好きだったんだ
想いを伝えた夏よりも、もっと前から惹かれてた
貴方の気持ちが分かった今も、恥ずかしくてなかなか言えないけれど
ラセルタさんは俺にとって掛け替えの無い、恋人だよ。…愛しています


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  外で待ち合わせにした
その前にプレゼントを買いたかったから

鞄の中に用意した
重さを確かめる
同居だと内緒で買うのも大変だ
喜んでくれるかなとか
つけた時の姿とか
想像して頬が自然緩む

ランスのハグはポンポンと返してスルリと離れる
「いや、なんでもない」ふふ

実は…と大きなツリー飾りの下で取出す
「これから寒くなるし…」
シンプルな包装にメリークリスマスのカード
中身は狼耳が綺麗に隠れる金茶のイヤーマフ
喜ぶランスに安堵と喜びの顔を見られまいとワザと真面目顔

ランスの贈り物には吃驚!
一拍おいて嬉しさが込み上げる

有難う。凄く嬉しいよ
俺達って何て言うかさ(複雑
そうだな。波長、かもな!

え、早速?
…一寸恥かしい…けど…良いよ(もふ


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  タイガが素っ気ないこと数日
こんなのじゃクリスマスも楽しめない。今日こそ

タイガ!ショッピングモールのツリー前で待ってる。終ったら来て

■待つ
家族連れやカップルみんな笑顔で、他の待ち合わせの人も入れ替わる。一喜一憂

待つのは慣れてる。何より一人の時間の方が多かった
本でも読んで考え事すればいい
子供の頃は泣いてたっけ
…遅いな


!大した事ない…優しいね(微笑
タイガ、来てくれてありがとう。ごめんね怒らせて
仲直りしたくて、これ(懐からプレゼント出し
少し早いけど

理由いって。悪いところなら直すから

うすうす感づいてた
タイガ、トキワの事よく思ってないだろ。言おう言おうと思ってはいたんだ
でも傷つけそうで…結果、傷ついてたら


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  いつもご飯を作ってくれるラキアにプレゼントしたい。
それは包丁だ!用途に合わせて色々あるじゃん。
良い刃物は何本あってもいい物だ!
いや、オレの場合そう思うのは、対オーガ武器だけどさ。
料理だって、同じだよな?
それに店で見たオールステンレスの包丁が、見た目よりずいぶん軽くてビックリしたんだ。
こんな包丁持っていなかった筈だし!
買ってラッピングしてもらった所で、ラキアから電話。
お互いここに来ていたらしい。フードコートで待ち合わせ。
ウェアのプレゼントは嬉しいぜ!
即座にプレゼントのお返しだ。
「またこれで更にウマい料理を作ってくれ!」と超笑顔で渡す。
開けて見たラキアが嬉しそうな笑顔で、オレもまた嬉しいぜ。


☆セラフィム・ロイス 火山 タイガ☆

●喧嘩の理由

 クリスマスがもう目前にまで近づきつつある、今日という日。
 セラフィム・ロイスは、精霊である火山 タイガへのプレゼントをショッピングモールのある店で選んでいた。
 けれども、セラフィムの表情に笑顔はなく、浮かない表情だ。
 それもその筈、セラフィムとタイガは現在喧嘩の真っ最中。タイガは数日間、今日に至るまでずっと素っ気ない様子でセラフィムと接していた。
(こんなのじゃクリスマスも楽しめない。……今日こそ)
 一方、タイガは悶々とセラフィムのことを考え続けていた。
 元々喧嘩の発端は、セラフィムが複数精霊の契約をしたのにも関わらず、タイガに言わずに黙っていたこと。
 セラフィムはいつも通りで、タイガに接しようとしているが、困った表情が日に日に浮き彫りになっているのが見て取れた。
(複数精霊の契約をしたのに言わなかったセラが悪い)
 それが見て取れても、それはそれこれはこれだ。
 セラフィムはタイガに歩み寄り、無視されてもいい、という調子で言う。
「タイガ! ショッピングモールのツリー前で待ってる。終ったら来て」
 その言葉に、タイガは目を剥いてセラフィムを見やった。
「終わったらって……!」
 タイガは言葉を失って、セラフィムを見据える。何せ、これからバイトなのだ。
「ラーメン屋のバイトなんだ、日が暮れるぞ」
「ううん、大丈夫。来てほしい」
 とだけ呟いて、歩き続けるタイガから一歩離れた。
 タイガが振り返ってみたセラフィムの顔は、何か覚悟しているようにも見えたが、まだ昼なのにこの寒さだ。日が沈めば更に寒い。
 バイトに遅れてはまずいからと考慮したのか、セラフィムはタイガの返答を聞くことなく立ち去り、タイガはバイト先に歩みを進めつつ、
「……待てないよな」
 頭をガシガシと掻いた。



●仲直り

 寒空の下の中、セラフィムはツリーの横にあるベンチに腰をかけていた。
(待つのは慣れてる。何より一人の時間の方が多かった)
 セラフィムは本を取り出して、かじかんだ指でページを捲る。
(待つときは、本でも読んで考え事をすればいい。……子供の頃は泣いてたっけ)
 セラフィムは白い溜息をはぁ、とひとつ吐いて、
「……遅いな」
 とかじかむ指に息を吐いた。

 バイトが終わって、タイガはすぐに着替えてショッピングモールに駆ける。
 ショッピングモールのツリーの前に着くと、そこにはセラフィムの姿があった。
「セラ! ……震えてんじゃんか」
 タイガがその姿を見かねて駆け寄り、セラフィムの両手を同じく両手で包み込む。その手はひどく冷たく、震えている。
「! 大した事ない……優しいね」
 セラフィムは、タイガが来てくれたこと、そして手を握ってくれたことに驚きつつも、微笑んで呟いた。
「タイガ、来てくれてありがとう。ごめんね怒らせて」
 タイガはそんなセラフィムを見て、心配そうに問う。
「どうしたんだよ、急に」
 聞かれたセラフィムは、懐からゆっくりと何かを取り出した。
「仲直りしたくて、これ。少し早いけど」
 タイガがなんだろう、と開けると、中から出てきたのは赤いマフラー。
「マフラーあるならしろよ!」
 しかし、セラフィムはタイガのツッコミに苦笑しつつ、
「タイガ用だから……」
「……使うけどさ」
 タイガは観念したようにマフラーを巻き、
「……顔かせ」
 と一言だけ呟いて、セラフィムを抱き寄せてマフラーを2人で巻いてくっつく。
 しばし無言で立っていた二人だったが、セラフィムが静寂を破って白い息を吐きながら、
「理由いって。悪いところなら直すから」
 主語がなかったが、タイガはそれだけで察した。
「トキワと契約したろ?」
 タイガは、目の前を歩くカップルに視線を向けながら、呟く。
 隣でセラフィムが頷いているのがわかった。
 ややあって、タイガは口開き、
「この前、セラん家いく時みかけて。……俺だけ知らなくて除け者にされた気分だった」
 それが、タイガの怒っていた原因のすべてだった。
「……うすうす感づいてた」
 セラフィムは一度タイガから目を離して、
「タイガ、トキワの事よく思ってないだろ。言おう言おうと思ってはいたんだ」
 俯きつつ、真実を曝け出し告白するようにして。
「でも傷つけそうで……結果、傷つけた」
 「――ごめん」と一言タイガと目を合わせたのちに頭を下げ、セラフィムはそのままタイガの言葉を待つ。
「いい。気持ち変わんねぇなら」
 タイガはセラフィムをそれ以上追及せず、はっきりと、真剣な表情のまま、
「次は言えよ?」
 セラフィムは「うん」と同じくして真剣に頷き、その様子を見たタイガは相好を崩して、
「よし、鯛焼きでも買おう。あとカフェで暖とって買い物して帰ろうぜ!」
 いつも通りの笑顔を向けて、セラフィムの手を引く。
 セラフィムもタイガから元気を貰ったようにして、笑顔を見せる。
「うん!」
 セラフィムの冷たくなった手は、いつの間にかタイガの体温で暖かくなっていた。







☆セイリュー・グラシア ラキア・ジェイドバイン☆

●セイリューの場合

 セイリュー・グラシアは、数ある店を見渡しながら、何をプレゼントしようかと考える。
「いつもご飯を作ってくれるラキアにプレゼントしたい」
 となれば、調理器具をプレゼント、ということになるだろうか。
 けれど、調理器具は一通り揃っているので、何を買えばいいのかと考え、ふと気が付く。調理器具の中で種類がたくさんあるもの――、
「それは包丁だ! 用途に合わせて色々あるじゃん」
 セイリューは近場にあった刃物専門店に入り、店の中を見渡す。
 見れば、名前と形状では何に使うのかわからないものがたくさん陳列されていて、これがすべて自宅に置かれるところを想像して、
「良い刃物は何本あってもいい物だ!」
 と、セイリューがやや食い気味で叫ぶ。
「いや、オレの場合そう思うのは、対オーガ武器だけどさ、料理だって同じだよな?」
 戦闘に出る前に自分の武器を選ぶのと同じように、料理もまた武器となる包丁を選ぶのは楽しいことだと思う。
 セイリューは武器を取るような調子でオールステンレスの包丁を手に取ると、見た目よりずいぶん軽い。「!?」と声にならない驚きの声を上げ、驚く。
「こんな包丁持っていなかった筈だし!」
 ――買いだっ!
 すぐに包丁を買い、店員さんにラッピングしてもらう。
 包装もプレゼント用が用意されており、良いデザインだ。店員さんの手際を見ていると、ラキア・ジェイドバインから電話がかかってきた。
「えっ、ラキアもここに来てたのか!」
 どうも、お互いここに来ていたらしい。フードコートで待ち合わせすることになったので、セイリューは刃物専門店を後にした。



●ラキアの場合

 ラキアは、スポーツ商品店に足を運んでいた。
「セイリューにトレーニングウェアをプレゼントしよう」
 トレーニングウェアならば身に着けることも多いので、実用性に優れるだろう。
「速乾Tシャツ・ハーフパンツにしよう」
 手に取ったトレーニングウェアは、触り心地の良い素材だ。
(もっと本格的なウェアへは多分、色々と求めたい事があるだろうしね)
 一緒に生活しているので、サイズもわかっている。その点では心配はない。
 セイリューが、自分の選んだトレーニングウェアを着ている姿を想像して、ラキアはふと笑みをこぼす。
 トレーニングウェアとともに、メッセージカードを添えるために、ラキアはレジに置かれたペンを手に取った。つらつらとセイリューへの想いを書き連ねる。
 面と向かって言うと照れくさいというのもあるが、ラキアは、カードで伝えるのも、後で見直せていい物だと考えていた。
 ラキアは、さっそくプレゼントを渡そうと、携帯を取り出す。
「もしもし、セイリュー? 今ショッピングモールに居るんだけど――え?」
 反響して返ってくるセイリューの言葉からするに、どうもこのショッピングセンターに居るようだ。
 ラキアは電話を切り、プレゼントを抱える。
(このプレゼントを持って行ってびっくりさせてあげよう)


●プレゼント!

 フードコートで会った二人は、席に着き、互いのプレゼントをちらりと見やる。
 先に仕掛けたのは、ラキアだった。
「セイリュー、これプレゼントだよ」
「オレに?」
 セイリューが表情を一段階明るくさせて、ラキアからのプレゼントを受け取り、開ける。
 中に入っていたのは、着心地が良さそうなトレーニングウェア。
「ありがとうな、ラキア! さっそくトレーニングに使わせてもらうぜ!」
 しばしプレゼントを眺め、ややあってセイリューは思い出したかのように、
「そうだ、オレもラキアにプレゼントがあるんだ!」
「なにかな?」
 ラキアが嬉しそうにプレゼントを受け取り、包装をはがすと、それはオールステンレスの包丁だった。
 セイリューは、ラキアが包丁を眺めている姿を目に収めつつ、超笑顔で言う。
「またこれで更にウマい料理を作ってくれ!」
「ありがとう、セイリュー。おっと、すごく軽いね」
 心底嬉しそうに、同時にラキアはこの包丁でどんな料理を作ろうか既に考えているようだ。セイリューはそんなラキアの様子を見て、嬉しい気持ちになる。
 そして、もう一度トレーニングウェアを見て、ふと気がついた。
 メッセージカードが添えてある。それを手にとって見ようとすると、
「それは家に帰ってから、一人でゆっくり見て!」
 やや頬を赤く染めた様子で、ラキアが言うので、訝しげにしつつも、セイリューはメッセージカードを仕舞った。
 メッセージカードは、とても恥ずかしくてここではあけて欲しくない。ラキアは書いた内容は反芻しながら、赤い顔を逸らす。
『任務に向けてトレーニングを欠かさない、君の努力はとても凄いね。危険な任務は心配だけれど、2人で無事に帰れるように、お互い頑張ろう』
 この恥ずかしさを紛らわすために、今日は何か豪華なものでも作ろうか。そんなことを考えながら、ラキアはセイリューを引っ張るようにして食品街へと向かうのであった。







☆アキ・セイジ ヴェルトール・ランス☆

●アキの場合

 アキ・セイジはショッピングモールにある、一番目の引くクリスマスツリーで待ち合わせをしていた。
 外で待ち合わせにしたのは、ヴェルトール・ランスと会う前にプレゼントを買いたかったからだ。同居していると、サプライズ的なことや、プレゼントを用意すると言うのは大変なものだ。
 サンタクロースとして用意したプレゼントを見つからないように子供から隠す、親の気持ちによく似ている気がする。
 アキは、鞄の中に用意したプレゼントの重さを確かめる。とても重いわけでも、特段軽いわけでもない。
 プレゼントした後に、ランスがどんな表情をしてくれるのか、つけたときの姿はこんな感じかな、なんて考えて、アキの頬が自然に綻ぶ。



●ランスの場合

 ランスは、待ち合わせに向かいつつ、肩に下げているバッグを眺めて、ふと笑みを溢す。バッグの中には、昨日買っておいたプレゼントが入っている。
 可愛く包んでリボンをかけてあるところが、ランス的にポイントが高いのだが、さらにカウントストップをするほどにポイントが高いのは、メッセージカードだ。
 プレゼントと共に言葉を送るのも大事で、素敵なことだが、ランスはメッセージカードの後から読み直せるというところに良さを見出していた。そして、そんなランスがメッセージカードに書いた文字は、「愛をこめて」。
 ランスは、プレゼントを手渡した後のアキの反応を想像しつつ、待ち合わせ場所へと足を運ぶ。
 巨大なクリスマスツリーまで歩みを進めたところで、アキの姿を見つけた。
 ランスは、いたずらっぽい笑みを浮かべて、アキの下へと歩み寄る。



●いざ、プレゼント!

 アキがランスを待ってじっとしていると、
「ワッ!!!!」
 背後から突然聞きなれた声が飛び掛り、同じく慣れた体温に包まれる。
「だーれだっ」
 もふーっと、ランスがアキに抱きつきいたずらっぽく耳元で笑う。
「はいはい、ランスだろ」
 アキがぽんぽん、とランスの腕を軽く叩いて、するりとハグから抜ける。
 ランスがアキに向き直ると、アキの相好が崩れていることに気がつく。
「って、なんかニヤケてないか? 良いコトあったん?」
 怪訝そうにランスが問うが、アキは笑みを溢しつつも、
「いや、なんでもない」
 ふふ、と声を漏らす。
 しばしの沈黙が互いの間を支配し、どちらからともなく、いや同時にだろうか。
 アキは「実は……」と鞄からプレゼントを取り出し、ランスもバッグからプレゼントを取り出す。
「これから寒くなるし……」
「メリークリスマース!」
 と、二人がプレゼントを出す瞬間が重なり、あわやプレゼント同士が衝突してしまいそうになる。
 ギリギリで回避できたが、その様子が面白くて、二人はどっと笑った。
「セ、セイジ! タ、タイミング良すぎだ!」
「ラ、ランスこそっ……!」
 腹を抱えるほど一頻り笑って、二人はもう一度互いにプレゼントを手渡す。
 ランスがアキのプレゼントを手にとって、
「開けて良いか?」
 アキが首肯したので、ランスは遠慮なく包装を開ける。
 アキからランスに手渡されたのは、シンプルな包装にメリークリスマスと書かれたカードと、ランスの狼耳が綺麗に隠れる金茶のイヤーマフ。
 カードには「風邪をひかないように」の文字が記載されており、当たり障りのない言葉をあえて選んだのだろう。
「相変わらず素直じゃねぇな」
 いたずらっぽくランスは笑みを浮かべつつ、
「けど、嬉しいぜ!」
 嬉しそうにするランスを見て、アキは安堵と喜びの顔を見られまいとワザと真面目顔をしていた。ランスにはお見通しなのだが、アキとしては隠しているつもりらしい。
 そうして、今度はアキがランスのプレゼントを開け始める。
 すると中から出てきたのは、なんと。
「ランス、これ!」
 驚愕に固まったアキに、一拍おいて嬉しさが込み上げる。
 プレゼントの中身は、アキがランスにプレゼントしたのと同じ柄の、人間の耳用のマフ。
「有難う。凄く嬉しいよ」
 同じプレゼントを選んだ嬉しさと、幾らなんでも同じプレゼントを選ぶというのは似すぎだろうと複雑な気分に襲われ、アキが苦笑とも微笑みとも似つかない表情で笑う。
「俺達って何て言うかさ……」
 アキの表情に、ランスは、わはーっと笑い、
「さすが俺達、波長シンクロ! マジ凄くね?」
 と言ってのけた。
「そうだな。波長、かもな!」
 アキもまんざらでもない表情で同調し、微笑みを絶やさない。
「なんたって……ペアだもんな!」
 その反応に、ランスが今度は悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「早速これつけてイルミネーション見に行こうぜ!」
 ぎゅーっと擬音が漏れ聞こえそうなハグを、ランスがアキにし、アキは照れたように、
「え、早速?」
 少し逡巡した素振りを見せたが、ランスの肩にもふりと顎を乗せて、
「……ちょっと恥ずかしい……けど……良いよ」
 と、お互いにプレゼントのマフを身に着けて、イルミネーションが一番見やすい場所へと楽しげに移動していった。






☆羽瀬川 千代 ラセルタ=ブラドッツ☆

 羽瀬川 千代は、すっかり雪景色となった辺りを眺めていた。
 世間はもうクリスマスムード一色だ。ショッピングモールのどこに行ってもクリスマスミュージックが流れているし、目立つ赤と白の装飾が目を引く。
 羽瀬川は、やや小刻みに震え続けるラセルタ=ブラドッツに、
「今年もショッピングモールの飾り付けが綺麗だよ」
 と、笑顔で告げる。
ラセルタは羽瀬川の言葉を聞いて、震える身体を無理矢理押さえつけながら、
「この寒さならば千代の誘いと天秤に掛ける程でもないな」
 だいぶ無理しているようにも見えるが、ラセルタ本人は羽瀬川と一緒にいる時間の方が大事だと考えているようで、とても厚着ではあるが――しっかりと羽瀬川の隣を歩いている。
 そういえば、と、ラセルタはふと思い出す。昨年も此処へと来たが互いに別行動だった。
 羽瀬川が温かくなるようにと繋いでくれていた手をポケットに仕舞って、この瞬間を刻み付ける様にゆっくりと歩く。
クリスマス一色のお店をふらふらと回り、二人は大きなクリスマスツリーの前に出た。
「ちょっと待ってて」
 羽瀬川は、ツリーの前でラセルタを待っているようにお願いして、花屋に向かう。早めに戻らないとラセルタの身体が冷え切ってしまうので、急いで注文しておいた白い花のブーケを受け取る。
 花の名前は知らないけれど、星の形をした花弁が印象的で、なぜかはわからないが、ふと脳裏にラセルタの顔が思い浮かんだから、この花を選んだ。
 羽瀬川は、小走りでラセルタの元に戻る。
店から出てきた羽瀬川をラセルタが見やると、店から出てきた手に先程まで無かった紙包みが目を引く。
 羽瀬川は、緊張で跳ねる心臓を押さえつつも気持ちを伝えるために真っ直ぐと彼に向き直る。
「ラセルタさん、これ……」
 ラセルタに聞こえているのではないかとおもってしまうほどの鼓動が、羽瀬川の心臓から発せられている。
 ブーケを手渡し、羽瀬川は、
「目を閉じて」
 と一言、告げる。
 ラセルタの鼓動も少し早くなり、寒かった筈の身体が温かくなって行く。
 羽瀬川に言われた通りに、ラセルタは目を伏せる。
 ゆっくりと羽瀬川の鼻先が、頬が、耳が近づいてくる。
(千代の顔が赤いのは寒さの所為、だろうか? ……いや)
 ラセルタは眼前に近づく羽瀬川の表情を、目を瞑ったフリをしてこっそりと薄目で確認する。
 数瞬もしない内に柔らかい感触がラセルタの唇に伝わり、その感触に、気づかれないように口端を吊り上げた。
 目を開けると、薄目の時よりもさらにはっきりと羽瀬川の赤い顔が視認出来て、ラセルタは柔らかな笑みをこぼして、その笑みが見つからないように隠しながら受け取った贈り物に視線を移す。
 受け取った花は、さる王室や貴族達に好まれた白い蘭――彗星蘭だ。
 その花言葉は『特別の存在』という意味であり、実直に紡がれる言葉と相俟って、感情が昂ってラセルタの表情が、寒さとはまた違った紅潮を見せる。
 けれども、羽瀬川は花言葉を理解はしていないだろう。
(花の意味を千代には秘めておこう)
 ラセルタは、受け取ったブーケを視認して、優しい手つきでふと一輪花を撫でる。
(俺様だけが知っている、心からの想い)
 きっと、この花が選ばれたのは羽瀬川の本心が現れているのだろう、とラセルタは考える。だから、この心からの想いは秘めておく。
 羽瀬川は、赤い顔をしつつも、真剣な表情をして、ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡ぎ始める。
「……あのね。俺、ずっとラセルタさんの事が好きだったんだ」
 それは、まるで初めて告白された時のように、胸を打つ告白だった。
 羽瀬川は照れ臭そうにしつつも、真っ直ぐと視線を逸らさない。
 ラセルタの双眸をしっかりと見据え、やや震えがちな優しい声色で続ける。
「想いを伝えた夏よりも、もっと前から惹かれてた」
 胸の奥から零れ落ちるかのように、とめどなく言葉があふれてゆく。
 少しずつ、声の震えがなくなり、はっきりとした言葉になっていく。
「貴方の気持ちが分かった今も、恥ずかしくてなかなか言えないけれど」
 でも、だからこそ伝えたい、伝えないといけない気がする。

「ラセルタさんは俺にとって掛け替えの無い、恋人だよ。……愛しています」

 ふっ、とその言葉の一瞬で、世界の時が止まったような気がした。
 やや薄暗くなり少しだけライトアップされたクリスマスツリーと、空からゆっくりと零れ落ちる雪の結晶、そしてラセルタと羽瀬川以外の時が、まるで止まったかのような錯覚に陥る。
 目の前にたった一人だけ動いているパートナーが、世界の中で輝いて見える。
 ラセルタも、羽瀬川の言葉を受けて、素直な感情を漏らす。

「俺様もお前が、愛おしい」

 二人の顔が朱に染まり、世界がゆっくりと動きを取り戻してゆく。
 そして、世界が動き出す前に。
 今度はラセルタが、羽瀬川の顔に自分の顔を近づけた。





☆悪意の消失☆

 地面に転がっていた黒い種が、ばきり、と音を立てて割れた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 東雲柚葉
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月26日
出発日 12月01日 00:00
予定納品日 12月11日

参加者

会議室


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