天高く、タマゴいっぱいの秋(京月ささや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「どうしてこんな…」

秋深まる夕方、あなたはひとり道でため息をつきました。
あなたの手には、1冊の本と、ひとつのビニール袋。袋はずっしりとしています。

あなたは、ビニール袋に衝撃を与えないように、そっとビニール袋を持ち直しました。
その中身は…タマゴのパックがなんと3パックも入っていたのです。
…が、別にあなたは、ここに買物に来たわけではないのです。
たまたま、タブロスに出かけた際に、定期確認でA.R.O.Aに立ち寄っただけなのでした。
それなのに…

『すまない!タマゴが大量に余ってるんだ…貰ってくれないか!?』
涙目のA.R.O.A職員に泣きつかれてしまったのです。
事情を聞けば、以前、神人や精霊達が派遣された先でオーガを斃したお礼に…と
その村いちばんの養鶏場から、大量のタマゴが今日になって送付されtきたとのこと。
大量のタマゴはもちろんA.R.O.Aの冷蔵庫に入りきるはずもなく…
仕方なく、A.R.O.Aに訪れた人たちに、片っ端からおすそ分けしているとの事でした。
しかも、最低ひとり2パックという条件つきで…。
そして、あなたは仕方なしにタマゴを3パック、貰って帰ることにしたのです。

『頼むよ!クッキング本もつけるから!』
平謝りで申し出てきたA.R.O.A職員の顔が目脳裏に思い出されます。
手にした本のタイトルは『誰でもカンタン!タマゴでお手軽クッキング』の文字。
ケーキやクッキーなどのスイーツはもちろん、目玉焼き、オムライス、お好み焼き…等々。
タマゴを使ったありとあらゆる料理のレシピが掲載されていました。
確かに、これを使えば料理はできそうなのです…が。

問題は、そのタマゴの量。消費期限を考えても、とても1人で食べきれるものではなさげ。
しかし、かといって廃棄するのも気が引けてしまいます。
「仕方ないな…どうしよう」
色々と考えてながら帰り道を歩くあなたでしたが、
はたっとあることに気が付きました。
そう、このタマゴを消費する名案が浮かんだのです。
(まずは相談しないと…)
思い立ったが吉日。
あなたは、帰り道を歩く足取りを速めました。
まずはパートナーに連絡を取らないといけません。
はてさて、このタマゴの使い道、あなたは何を考え付いたのでしょうか…

解説

●目的
クッキングブックを手がかりに、パートナーと協力して
タマゴ3パック(約30個前後)のうち、最低10個ほどを消費して頂きます。
パートナーとタマゴを使った料理を楽しむもよし、
パートナーと共に、タマゴを使った料理でさらになにかをするもよし…
使い方はあなた次第です。
ただし、料理以外の使い方はNGとしますのでご了承ください。 ※生で食べるのはOK
タマゴを受け取ったのは、神人・精霊のどちらでもOKとします。

●タマゴの使い方について
タマゴを使うのは最低10個。上限30個。
10個だけを使っても、30個ぜんぶを使っても構いません。
タマゴ料理とはいっても、タマゴを使うものであれば
スイーツを作ってもディナーを作っても、何でもOKです。

●参加費について
その他食材の買出し料金として400ジェールを頂戴します。

●クッキングブックについて
スイーツからお昼ご飯、晩御飯系、おつまみ系にドリンクまで
タマゴを使った料理レシピがずらりと掲載されたハンドブック。
あなたの今まで知らなかったレシピも掲載されています。
レシピどおりにつくれば、まず失敗することはありません。

ゲームマスターより

男性向エピではご無沙汰しております、京月ささやです。
久々のエピとなります。
秋は食欲の秋、タマゴを切欠に、料理を楽しんでみませんか?
パートナーと親睦を深めるもよし、ご近所さんとのお付き合いや
思い出の場所に行ってタマゴ料理を使ってなにかする…などなど楽しみ方はざまざま!
是非、ゆるりと自由にお楽しみいただければと思います。
皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  おかえり
…いや、俺も今帰ったところだ
今日は俺が料理当番だったな
必要なら買い出しに行くが
無造作に突き出されたものを見て慌てて受け取る
すごいな、全部卵か
ん?ああ…え?
その心配はしていないがそれより
…先を言うより前にドアが閉まった
隣家に届ける

帰れば良い匂い
デザートか…?
すまん名前を聞いてもわからん
それならもう決めた
オムレツにしないか?トマトをもらったんだ

基本の作り方は同じだろうと、レシピを見て進めたつもりが
卵とトマトの炒めの様相に顔を見合わせる
…英断だな
じゃあ半月じゃなくて満月だ
食後まで待てなかったエッグノッグで温まりながら
好物のトマトと卵で幸せな夕飯

明日の料理当番はどうする?
……うん
うまいな、これ


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  卵30個?(嬉
レシピ本を見せ、希望を聞くよ

OK、プリンだな
オーブンだと時間掛かるからレンジの奴な
液を漉すかどうかで滑らかさが違うんだ
薩摩芋を蒸かし漉した物も混ぜてスイポテプリンだ

次に作るのは茶碗蒸し
ランスの好物の鶏肉をたっぷり入れよう
切るのは俺がするから卵を割ってレシピの調味料入れてくれるか?
これも漉すんだ
上手いじゃないか

夕食は茶碗蒸しとすき焼きにしよう(生卵を何個か取り分け
締めに卵かけ御飯も食べれるな(ふふ

生卵なら、日数持つんだよ
だから30あっても困らないんだ(にこ

これ?煮卵だよ(タッパの液に漬け
調理卵でもこれなら一週間は持つのさ

さ、すき焼きだ
こういう依頼なら大歓迎だな

ランスに杯渡されて乾杯


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  玉子は大好きだ。一日に何個食べても問題無いぜ。
食べすぎ?
次の日に食べる量減らしたらいいのよ、
って近所のばーちゃんが言ってた。
美味しく食べるのが一番!(にぱっ
ラキアの手伝いをして一緒に作るぜ。
オレ、オムレツと出汁巻き玉子は外せないと思うんだ。
自分で作れ、となると厳しいから、ラキアに甘えるぜ。
キラキラ期待の眼差しで
「出汁巻き玉子とオムレツ」とラキアを見つめて。
作ってくれるのか、わーい!
茶碗蒸しとマドレーヌもだな。オレも頑張る。
ラキアの指示に従って材料切ったり器に入れたりするぜ。
プリンも大好きだ。
カラメルソースってそんなふうに作るのか、と
ラキアのすることに色々と感心するぜ。
料理って奥が深いんだな。



李月(ゼノアス・グールン)
  タマゴパーティしようぜ

最近意識ダイブ型のバーチャルゲームでオーガに殺される絶望体験をした後ぎこちない空気漂ってたから飽きる程タマゴ食ってばか笑いしたい

全部使う!

メニュー
かに玉チャーハン
オムレツ
卵焼き
肉と卵と野菜の炒め(相棒は肉好きだから)
タマゴサンド
卵スープ
プリン(失敗
ミルクセーキ

オシャレなものは作らない
時間かかるから

グシャアされたのも何とか使って
作った傍から食べて
また作って食べて
相棒は大食いだから安心

どんどん食えー
ミルクセーキでカンパーイ

たまに絶望の感覚が過るけど
それが何だ
タマゴ食って笑ってピンピンしてるんだ
なんてことない

夜空眺めて
甘いミルクセーキ飲みながら

生きてるんだ
なんだってできる


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ歓迎

これだけの卵、どうやって消費しろと……あ、そうだ
料理なら適任者がいるじゃないか
というわけで、これ、お店で使えませんか?

え…いや、僕料理は一切やったことないですし…
でも無理を言ったのはこっちだし、それくらいお手伝いしないと駄目か
じゃあ無難にオムレツを

まずは殻を割らないと
確か角より平面にぶつけた方がいいって聞いたことがある…あ
先生の目が、「先生」になってる…これは逃げられなくなったな

…お粗末様です
料理がこれほど難しいとは思いませんでした
せっかくの卵、たくさん無駄にしてしまいましたね
もしかして割るの失敗した卵で作ったんですか
いつの間に…さすが先生です
でも、そのネーミングはやめてください


●はじめてクッキング!笑顔もクッキング☆

 道の只中で、暁千尋は呆然と立ちつくしていた。
(これだけの卵、どうやって消費しろと…)
 暫く考え込んでいた千尋だったが、ふとあることがひらめいた。
「…あ、そうだ」
 そう、料理に関してはこれ以上ない適任者がいたのだ。

「あらまぁ…これはまた大量ねぇ」
 ジルヴェール・シフォンは感嘆のため息をついた。
「…というわけで、これ、お店で使えませんか?」
 そう、シフォンは小料理屋を営んでいるのだ。餅は餅屋。
 申し訳なさそうな千尋にシフォンは微笑んで見せた。
「ふふ、今日から卵料理キャンペーンでも始めようかしら…」
 シフォンとしては、このタマゴは迷惑でもなんでもないようである。
 暫しタマゴの山を前に思考を巡らせていたシフォンだが、ひらめいた顔で千尋を見た。
「せっかくだからチヒロちゃんも何か作ってみない?
 開店前だし、お店のキッチン使っていいから」
「え…いや、僕、料理は一切やったことないですし…」
 思わぬ提案に千尋はあたふたしてしまった。
「大丈夫よ、レシピもあるしワタシもいるのよ?
 チヒロちゃんの作った料理食べてみたいわぁ」
 シフォンの熱の篭った言葉に、う、と千尋は返答に詰まった。
 第一、この大量のタマゴを消費してほしいと無理を言ったのは自分なのだ。
(そ…それくらいお手伝いしないと駄目か…)
 不安だらけながらも頷いた千尋は、レシピを見つつ自分でもできそうな料理を探し始めた。
 そして見つけたのは…オムレツ。無難な判断である。
「オムレツにするの?わかった、じゃあ頑張って」
 シフォンの言葉が耳に入っているのかいないのか、千尋は真剣な顔をして料理を開始した。
「まずは殻を割らないと…」
 タマゴを割る。それすら自分にとっては初体験。
(確か角より平面にぶつけた方がいいって聞いたことが……あ…)
 タマゴを割ろうとした千尋の手元を見てシフォンが唖然とした表情をしていた。
「……殻ごと叩き潰す人って都市伝説じゃなかったのねぇ」
 思わず口にしてしまったシフォンに、千尋はただただ恥じ入るばかりである。
 …しかし。
「…ふふふ、いいわ、久々に燃えるわね…
 ワタシが完璧なオムレツを作れるように、一から叩き込んであげる!」
(先生の目が、「先生」になってる…)
 どうやら、自分の失態はシフォンの先生魂に火をつけてしまったようだ。
 これはいよいよ逃げられなくなったな、と、千尋も腹を括った。

 …そして、少しの時間が経過して。
「…お粗末様です…」
 しょんぼりというか、少しげっそりした千尋の姿がそこにあった。
 だが、出来上がったオムレツを口に運んだシフォンの顔は明るい。
「うん、初めてにしては上出来よ、美味しいわ」
「ならいいんですが…料理がこれほど難しいとは思いませんでした…
 せっかくの卵、たくさん無駄にしてしまいましたね…」
 肩を落とす千尋に、お疲れ様、とシフォンが元気付けるように肩を叩く。
「料理のできる男って魅力的よ?
 …ふふ、頑張ったからご褒美をあげましょう」
「…え」
 ご褒美?と思った千尋の目の前にシフォンが持ってきたのは…
「これ…卵プリン?もしかして…割るの失敗した卵で作ったんですか」
 そうよ、と返答するシフォンに千尋は唖然とする。一体、いつの間。
「…さすが先生です…嬉しいです」
 この腕前には、もうこの褒め言葉しか出てこない。
 シフォンはというと、千尋への料理指導ができたことで上機嫌の様子だ。
 結果的にうまくいったし、先生は嬉しそうだし…と、千尋の心は温かくなる。
「大量に作れたから、こっちはお店で出すわね…
 名前はそうね…「チヒロプリン」って名前で出そうかしら♪」
「嬉しいですけど…そ、そのネーミングはやめてください…」
 慌ててシフォンをとめる千尋。でも、心なしか、その頬は嬉しさで綻んでいたのだった。


●はじける笑顔のその裏側で

(…まったく…一人で出歩くんじゃねーよ…)
 タマゴを3パック、ドドンと持ち帰ってきた李月に対して
 ゼノアス・グールンは隠し切れない怒りのため息を吐いた。
 …どうも最近、イライラしているのだ。…原因は、わかっている。
 以前、あのゲームを体験した時。
 相棒である李月の死を目の当たりにして、どん底の気分を味わったのだ。
 その気持ちが、今のイライラに繋がっていると、ゼノアスも、李月も気づいていた。
 だから、李月はこう考えたのだ。ゼノアスの目の前に、タマゴを置いて、明るく言い放つ。
「タマゴパーティしようぜ!」…と。

 どうしても思い出してしまう、あの、意識ダイブ型のバーチャルゲーム。
 オーガに殺される絶望体験をした後、ゼノアスとの間にはぎこちない空気が漂っていた。
 だから、その気分転換をするのに、このタマゴはちょうどいい…と思ったのだ。
「どうせなら、飽きる程タマゴ食ってばか笑いしたい。」
 はっきりと言い切った李月の言葉に、ゼノアスも乗り気になる。
 …そうだ、こんな気分はどこかに吹き飛ばしてしまいたい。
「よし、やろうじゃねーか」
「そうと決まったら…全部使うぞ!このタマゴ!」
 李月は腕まくりをすると、ゼノアスと共にばららっとレシピ本を広げる。
 そして、瞬く間にタマゴ料理をキッチンで作り始めた。
(…手伝って、みるか…)
 李月の元気のいい空気に気おされ、
 ゼノアスもなんとなく料理を手伝う気になった…のだが。
 手伝おうとタマゴを手に取った瞬間、見事にタマゴが潰れてしまった。
「オッケーオッケー、これも使うから」
 李月が慌ててキャッチする。

「よし、かに玉チャーハン完成!次はオムレツと卵焼き!」
 あっという間に李月の手で作られていく料理を、出来たそばから2人で食べていく。
 ゼノアスは、途中から基本的に食べる専門になっていた。
(相棒は大食いだから安心なんだよな…)
 自分ひとりじゃあ、こんな量はとても食べきれるわけもない。
 次々に作り出されるタマゴ料理。
(肉ねーのかよ…)と、ゼノアスが思っていた所に出されたのは、肉と卵と野菜の炒め。
 それは李月が、相棒が肉好きだからと作ったメニューだったのだが、
 肉があるとわかったとたんにご機嫌顔になったのを見て、李月の顔も明るくなる。
 続いて作ったタマゴサンドにはタマゴのフィレをたっぷりと。
 ゼノアスもこれならできる…とパンに塗り、挟むの手伝いつつ並行して口に運ぶ。
 デザートにプリンを…と意気込む李月だったが、
 残念ながらそれはべちゃりとした食感になり、失敗してしまった。
 ほんの少し肩を落としそうになる李月だったが、
 ゼノアスが一気にかきこんでいるのをみて、李月もテンションを取り戻す。
「よーし!どんどん食えー!」
 失敗しようが兎に角美味い。面白い。
 バカ騒ぎなテンションに、お互いにどんどん楽しい気分になっていく。
 最後は、ミルクセーキで宴会よろしくカンパイをしたのだった。

 気が付けば、窓の外はとっぷり日がくれて星がまたたいている。
 バカ騒ぎの中で、李月は思う。
 あの日以来、たまに絶望の感覚が過るが…それが何だというのだろう。
 こんなにもタマゴを食って笑ってピンピンしてるんだから、なんてことはない…と。
 そして、ゼノアスも李月の首を自分に引き寄せていつものように笑いながら思う。
 イライラは自分自身にぶつければいい。
 あのゲームで相棒を死なせてしなったのは、自分が弱いからなのだ。
(けれどそれがなんだ…あんなものはマボロシだ)
 そう、大切な相棒は、こうして目の前でハイテンションで笑っている。
(腐らねぇよ昔の様には…んなヒマなんざねぇんだ)
 そんな、ゼノアスの密かな決意と。
(生きてるんだ、なんだってできる…)
 そんな、李月の密かな想いは、ミルクセーキの笑顔の中で、とぷんと揺れたのだった。


●たまにはこういう依頼だって

「卵30個?」
 困り顔どころか、アキ・セイジは寧ろ嬉しそうな声を上げた。
 とりあえず何を作ろうか…と、レシピ本をヴェルトール・ランスに見せてみる。
「んー…じゃあ、プリンが良いな。」
 暫く悩んだあと、ランスが選択したレシピに、セイジはOK、と頷く。
(アイスも良いけど使う卵が少ないもんな…)
 そう、アイスもいいのだけれど、問題はタマゴの消費量。
 それを考えると、やっぱりプリンが最適だろうとランスは考えたのだった。
「オーブンだと時間掛かるからレンジの奴な」
 言いつつ、準備を整えるとセイジは意気揚々をプリン作りを開始する。
 ランスは次々割られていくタマゴとその手際よさに見とれていた。
「プリンは、液を漉すかどうかで滑らかさが違うんだ。
 今日作るのは、サツマイモを蒸かして…漉した物も混ぜる。スイポテプリンだな」
「サツマイモ?へえ…手作りって、いいかも…」
 さくさくっとあっという間にスイートポテトプリンを作ってしまう傍らで
 味見をさせてもらったランスはそのできばえのよさに幸せ顔だ。

 そして、セイジが次にとりかかったのは茶碗蒸しだった。
「あ、鶏肉…」
 自分の好物がたっぷり用意されているのを見て、ランスの顔がほころぶ。
 それを見てセイジの唇も緩む。なんたって、ランスの好物だと知って入れたからだ。
「鶏肉を切るのは俺がするから、卵を割ってレシピの調味料入れてくれるか?」
「わかった」
 言われた通りにランスは作業をこなしてみる。案外…カンタン…かもしれない。
 これも漉すんだとセイジに言われ、ランスは目をぱちくりとした。
「茶碗蒸しも漉すのか…」
 頷くセイジの言うがままランスは漉し器に卵液を入れて漉していく。
「へえ、上手いじゃないか。この手間をかけるだけで、仕上がりが違うんだ」
 そういわれて、ランスは実感がないまま、なるほどなあとしみじみ納得したのであった。

 やがて、蒸し器に茶碗蒸しを入れると、セイジがほう、と一息ついた。
「夕食は茶碗蒸しと…すき焼きにしよう」
 残った生卵を取り分けつつ、セイジの顔が綻ぶ。
「…締めに卵かけ御飯も食べれるな」
 それをきいて、ランスの耳も期待と喜びでぴこぴこ蠢く。
 すき焼きにとろーりタマゴ、しかも、ほかほかTKGなんて…楽しみすぎる。
(あれ…けど)
 期待に胸躍るランスだったが、ふとあることに気が付いた。
 目をやった先は…残ったタマゴたち。まだ大量に残っている。
「これ…どうするんだ?痛んじゃわないのか?」
 ちょっと不安げに聴いてきたランスに、
 セイジは大丈夫、と自信たっぷりに返答してみせた。
「生卵なら、日数持つんだよ」
「え…生卵の方が長持ち?なんでだ?」
 疑問がわくのも当然。普通は日持ちしないと思っていたのだが。
「それはな…」
 別のタッパーに調味料を入れ始めたセイジが口にしたのは、科学的な理由。
 生卵のままだと意外に日持ちがするというのが科学的に証明されているのだという。
「だから30あっても困らないんだ」
 にっこりと言われ、仕組みをぼんやりと納得してランスは頷いた。
(でも冷蔵庫入れて毎日使う?…わけじゃなさそうだな)
 そう思いつつ、これからどう使っていくのか…と考えたランスが視線をやると
 セイジがなにかをタッパの調味液に漬け込んでいた。
「これ?煮卵だよ。調理卵でもこれなら一週間は持つのさ」
「なんか…セイジ、主夫って感じだよな…」
 しみじじみ出た言葉にセイジから文句が飛んできたが、そこは軽くかわしつつ、
 着々と夕餉の準備は整っていく。
 収納棚からおろしたすき焼き鍋とカセットコンロ。
「なんかワクワクするぜ…」
「こういう依頼なら大歓迎だな」
「そうそう、寒い日にはコンロ囲んでさ…あ、そうだ、酒も出して良い?」
 ランスの言葉に、セイジも微笑んで頷く。
 そうこなくっちゃな!と声を上げると、日本酒の冷酒が2人分、テーブルに置かれた。
 セイジはランスに杯を渡され、互いに注いで差し向かいで乾杯を言うと
 鍋の間で軽やかに杯がぶつかる音がした。
 タマゴたっぷりの時間の中、暖かな時間は穏やかに流れていく…。


●あたりまえに見えるけれど

 セイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバインは、タマゴパックと
 レシピ本を目の前にして、興味津々の眼差しを向けていた。
「一日に何個食べても問題無いぜ…!」
 タマゴ大好きなセイリューは、もう食べる気満々らしい。
 一方のラキアは、レシピ本に見入っている。
「このレシピ本、良いかも。タマゴづくしっての面白いよね。」
 そんなわけで、じゃあタマゴづくしにしようか、という結論に至ったのである。
 しかし、食べすぎでは…というちょっとした懸念がラキアの脳裏をかすめた。
「美味しく食べるのが一番!」
 ラキアの表情の一瞬の曇りを察してか、セイリューが明るく笑う。
「次の日に食べる量減らしたらいいのよ、って近所のばーちゃんが言ってた。
 だから、気にしない気にしない!」
 そう言うと、ラキアの表情から迷いはきえたようだった。
 ラキアを見つつ、セイリューはラキアの補佐をしようかとぼんやり考える。
 ただ、どうしても食べたいメニューというものはあるわけで…。
「オレ、オムレツと出汁巻き玉子は外せないと思うんだ。」
「オムレツと出汁巻き玉子だね。了解。」
 思わず口からでた希望の言葉に、ラキアは任せておいて、といった雰囲気だ。
 …期待に瞳がきらきらと輝いてしまう。
「そんな顔して見つめなくても、ちゃんと作ってあげるよ。」
 眼差しを向けられたラキアはおかしそうに笑った。
「作ってくれるのか、わーい!」
 …こうやって、素直に喜びを表現できるのがセイリューのいいところだと思いつつ
 ラキアは頭の中で、消費量を考えてみる。
(オムレツはプレーンにしようか。…出汁巻きと合わせたら…)
 2つあわせてみると、10個は軽く使えてしまいそうだ。

 タマゴをボウルに割りいれていくさまに、セイリューは感心する。
 流石に、料理は自分で作るとなるときびしいので、やはりここはラキアに甘えたい。
「他にもう少し使った方がいいかな…
 茶碗蒸しと、マドレーヌも作っておこうか。」
 順調にタマゴ料理が完成していく中で、呟かれたラキアの提案に、セイリューも頷く。
「茶碗蒸しとマドレーヌもだな。…オレも頑張る。」
「そうだね。これなら、セイリューに手伝ってもらうことも増えるし」
 そう言ってラキアが笑うので、ああ、ちゃんと理解されているなあと心が温かくなる。
 甘えるとはいっても、何もせずにただ見ているだけ…というのはなんだかイヤだった。
 なので、なにか手伝わせてほしいとセイリューが申し出れば、
 ラキアから材料を切ったり、材料を器に入れたりとカンタンな指示を出してもらえた。
「マドレーヌは後でおやつにしようね。夜に食べても良いし。」
 オーブンから香り始めたマドレーヌのいい香りに、セイリューの顔がほころぶ。
 その嬉しい状態に、ラキアから更に嬉しい追い討ちの言葉。
「プリンも作ってあげようね。」
 それも大好きだ、とセイリューが言うと、ラキアはプリンの作り方を実演してみせる。
「プリンって、茶碗蒸しと作り方が似ているのが面白いでしょ。」
 なるほど、言われてみれば確かに似ている。砂糖か出汁かの違いだけのようにも感じる。
 そして、小鍋に砂糖を焦がして水を入れると、
 じゅわあっと派手な音と共にカラメルソースが出来上がった。
(カラメルソースってそんなふうに作るのか…ラキアはすごいな)
 あまりの手際よさに、感心しきりのセイリューである。
「料理って奥が深いんだな…」
 思わず口からぽろりと出た素直な言葉に、ラキアが嬉しそうに笑った。

 気がつけば、お昼ご飯に丁度いい時間。
 オムレツを手早く焼き上げたラキアがソーセージと一緒に盛り付け、テーブルに並べる。
「他は晩御飯やおやつにしようね」
「ああ…いただきます!」
 ラキアのできたてタマゴ手料理に、セイリューは元気よくがっついた。
 味は文句ナシ…満点だ。
 美味しそうに自分の手料理を食べてくれるその姿に、ラキアも微笑む。
 美味しい料理を、相手に食べさせてもらえる、食べてもらえる喜び。
 当たり前で、でもとても幸せな空間が、そこには広がっていた。


●つつみこんでくれるもの

「…おかえり」
 ブリンドがドアを開けたのをみて、ハティが声をかける。
 その声の方を見たブリンドは少し怪訝な顔をした。
「んだその格好。どっか出掛けんのか?」
「…いや、俺も今帰ったところだ」
 そう言って上着を脱ぎかけたハティが、その手をとめる。
「今日は俺が料理当番だったな。必要なら買い出しに行くが」
 提案をしたハティだったが、
 ブリンドに買出しはいらねえ、と言われて怪訝そうに眉を寄せた。
 かわりに今夜はこいつを使う、とビニール袋を無造作に突き出され、
 ハティは慌ててそれを受け取ると視線を落とした。
「すごいな、全部卵か…」
 合計3パック、30個ものタマゴ。流石に圧巻としか言いようのない量だった。 
「一パックは隣のヤツに押し付けるか…」
 少し考え込んでいた様子のブリンドだったが、
 そう呟くとハティに袋を持たせ、中から二パック取り上げた。
「ん?」
 手に残された袋とその中のタマゴ1パックに、ハティの視線。
「ん?じゃねえ、おめーが行くんだよ」
「ああ…え?」
 唐突に言われた事場に条件反射で返答したはいいものの、ハティは面食らう。
「挨拶だ挨拶、俺と住んでるとわかりゃ取って食やしねーよ」
「ああ、いや、その心配はしていないが…それより、」
 その先の言葉を言おうとしたハティだったが、ブリンドにドアの外におしやられ
 あっという間にドアが閉まってしまった。
 仕方なしに、ハティは隣家にタマゴをおすそ分けに届けることにした。
 一方、ドアを閉めたブリンドは、ドアの前で小さくため息をつく。
 ハティが言おうとした言葉の続きは、わかっているのだ。
『それよりアンタはいいのか?』…と、きっと言っていたのだろう。
 ハティとの同居が始まって数日。未だにハティが気後れしてるのは知っている…が。
 ブリンドにとっては、彼を息を潜めるように生活させる気は毛頭なかった。

(なんとか無事に終った…か)
 隣家へのおすそ分けと挨拶を終え、ハティが戻ると、部屋にはいい香りが漂っていた。
 玄関から上がりこんでキッチンへ。
 すると、キッチンに立つブリンドの背中。その背中の隣に立って、のぞいてみる。
「デザートか…?」
 ハティの言葉にブリンドは少し肩をすくめてみせる。
「んな大層なモンじゃねえけど…これはエッグノッグだ」
「…すまん…名前を聞いてもわからん」
 軽く笑われて、後のお楽しみだなとブリンドは言う。
 飯はどうする、と言われてハティも提案する。ここに戻る時に決めていたのだ。
「オムレツにしないか?トマトをもらったんだ。」
 タマゴが入っていたビニール袋には、色づいたトマトが入っている。
 トマトを使ったオムレツなら、基本の作り方は同じだろうと判断して
 作ることをきめた2人だった…のだが。
 ハティが作り始めたはいいものの、出来上がりつつあるのは…
 …どう見ても、卵とトマトの炒めの様相を呈していた。
 さて、ここからどう挽回したものかと2人は顔を見合わせる。
「…提案なんだがよ。ひっくり返すのやめねーか」
「…英断だな」
 至極冷静だが、若干硬いブリンドの言葉に、ハティも頷く。
「じゃあこのオムレツは、半月じゃなくて満月だ」
「ものは言いようだな…」
 苦笑しつつ、出来上がった満月型のトマトオムレツを盛り付け、
 エッグノックは待ちきれなかったハティの要望で、一緒に食卓に並ぶ事になった。
 好物のトマトとタマゴ…そして、温めてくれるエッグノックで、幸せな時間が広がる。
 美味しそうにラインナップを口に運ぶハティを見ていると、
 自然とブリンドの表情も緩む。
(うまそーに食ってるの見てっと不恰好な料理もそれなりに見えてくるから不思議だ…)
 それは、ハティが幸せそうだから、だろうか。
「…明日の料理当番はどうする?」
 幸せそうな顔のまま、ハティがブリンドに問う。…そういえば、すっかり忘れていた。
「…明日も二人で作るか」
「……うん。うまいな、これ…」
 さりげない会話。でも、そこには確実に幸せが溢れている。
 不恰好な料理と、暖かなエッグノック、そして幸せなひとときが
 キッチンテーブルの2人を、暖かく包み込んでいた。



END



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハティ
呼び名:お前、ハティ
  名前:ブリンド
呼び名:リン、ブリンド

 

名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月17日
出発日 11月24日 00:00
予定納品日 12月04日

参加者

会議室

  • [6]アキ・セイジ

    2015/11/23-19:55 

    卵はいくつあっても困らない。
    こういう依頼ならいつでも歓迎だ。(ほくほく
    今夜は卵をたっぷりつかって二人で楽しめそうだ。

    プランは提出できているよ。
    皆の卵プランも楽しみだ。

  • [5]ハティ

    2015/11/21-23:19 

    上限30個…。卵づくしだな。何にしようか。
    料理は当番制でやっていたから二人で作るのも久々だ。

  • [4]李月

    2015/11/21-03:18 

    よろしくお願いします
    (レシピ睨みつつ)

  • [3]暁 千尋

    2015/11/21-01:10 

  • [1]アキ・セイジ

    2015/11/21-00:05 


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