初雪エトセトラ(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ハロウィンの騒動も無事に終わり、訪れるほんのわずかな平和な時間。
 季節はどんどん冬へと向かっているようで、今日は空模様も怪しく一段と寒さが厳しい。吐く息も白く手や鼻も冷たく、あなたは両手にはーっと息を吹きかけてみたり。
 精霊と「そろそろ雪が降るかもね」なんて話をしながら街を散歩していたあなたは、寒さに耐え切れず、休憩がてら通りがかった喫茶店に入って暖を取ろうと提案すると、精霊も快くその提案を受け入れてくれました。彼も寒かったのかもしれません。

 大きな窓から外が見える席に腰を落ち着け、それぞれ温かい飲み物を頼んでほっと一息――。
 温かい飲み物のおかげで、冷え切った身体もぽかぽかしてきます。
 身体が温まったおかげで精霊との会話も弾みます。ふと、窓の外に目をやると……。
「もしかして、雪?」
 空から、ちらほらと小さな白い結晶が舞い降りてきています。まるで小さな妖精が踊りながら地上に訪れているかのような。
 今冬、初めての雪。
 どおりで朝から特別に冷えていたはずです。

 雪は、あなたにいろいろなことを思い起こさせます。

 ひらひらと舞い降り、少しずつ積もってゆく雪を眺めながら、あなたは口を開く。
「雪と言えば――」
 あなたは精霊に語りかけました……。

解説

 雪と言えば……に続く行動を選んでください。
1 自身の雪にまつわる思い出を語る
2 今年の冬はこんなことをしたい、とこれからの希望を語る
3 折角だから雪合戦!
4 折角だから雪だるま作成
 この日降った雪は、残念ながら翌日には解けてしまうようです。

 喫茶店での飲み物代金として、ひと組【400ジェール】いただきます。

ゲームマスターより

 何気ない一日も、初雪の日は少しだけ特別な日のように感じますね。
 そんな「日常だけどちょっとだけ特別な日」を描くエピソードにしたいと思います。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

鞘奈(ミラドアルド)

 

鍛錬の帰り道に寄り道
こうやって向き合って喋るのも大分慣れたわ

雪…初雪ね
今年も寒くなるのかしら

…そうだ。妹たちが今年のクリスマス、あんたを呼べって言うんだけど
ちょっと先の話だけど
よければ来てやって。きっと喜ぶ

それ以外にも遊びに来てほしいし。…私じゃなくて、妹と弟がね
ニヤニヤしないの

弟が雪合戦の相手して欲しいみたいだし。妹はあんたに夢中だし
なんか二人を取られたみたいだわ(溜息
!拗ねてないわよ!
そ、そんなに念押さなくてもいいわよ
(そっちのほうが照れるわ)

雪合戦に私と妹? 世弦が嫌って言わないかしら
それは構わないけど、言っとくけど私は本気でやるわよ
賞品が気に入らないけど、乗ってあげようじゃないの


リチェルカーレ(シリウス)
  3 雪合戦

すごい、もうこんなに積もってる…!
飛び出すように店の外に出て 広がる景色に歓声をあげる
苦笑を浮かべたシリウスに気づき 唇を尖らせて
…どうせ、お子様だと思っているんでしょう?
髪をかき混ぜられて小さく悲鳴
触れられたことにさっきとは違う意味で頬が熱くなる

彼の表情を変えたくて
名を呼ぶと同時に雪玉を投げつける
驚いたような彼の顔にやった!と笑顔で逃げ出す

このくらいで怒るなんて大人げないわ!
ぶつけられる雪玉にめげず こちらも反撃
いつもより子どもっぽい彼の表情が嬉しくて笑みが浮かぶ
息が切れる頃には 雪だらけになったお互いの姿

こんなシリウスの顔 初めて見た
もっと笑って 
私、あなたの笑った顔 大好きよ


篠宮潤(ヒュリアス)
 

初雪にワクワクと外に
「ヒューリ、まさか雪だるま、知らない…なんてことは…」
あ。良かった知って、…えええっ?
「遊び、とか、人によっては、芸術?作品?っていうか…」
説明難しい…
一緒に作ってみようっ。何か伝わるかも

「こう、最初は小さく丸く握って…」
雪玉二つ作れば重ねてのせて見せる
これを雪の上転がして大きくする、んだけど
この近所の子供たちも作るのに使うかも、だし、小さいのだけにしとこう

「あ。ヒューリ、見てみて」
指輪:ふわふわ白クマ※装備欄参照
取ると精霊の雪だるまの肩にちょこんと
「家族、みたいだ、ね」
嬉しそうに
耳付けたらもっと、なんて精霊の雪だるまの頭に耳作ったり

あ、ご、ごめんっ
「また…作ろう、ね」


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
   きれい…。ねえ、グルナ(嬉しそう

こんな時は、雪だるま作るわよ
はあ? あんたも来るのよ
なにそれ、当然でしょ。ほら!(精霊の腕を引っ張って外へ

 外に出るともっときれいね
……腰、曲がってるわよ。お爺ちゃんなのあんた(からかい

え、乗り気じゃなかったじゃない
……分かったわよ。じゃあ雪だるまの手になりそうなの、取ってくるわ
あら。その言葉、あんたに返してあげるわ

(枝やら木の実やら拾う)
 う、そ…クオリティ高い…
あんたの本気は戦闘限定なんだって思ってたわ…
そんなの、初任務の時からに決まってるでしょ
それより拾ってきたけど……

 ひっ!? な、なによ…!?(雪を頬に抑えられ
子供じゃないんだから止めなさいよ…(呆れつつも微笑み


エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  心情
冷え性にはつらい季節です。

行動
紅茶のカップで手を温め。
雪と言えば、今年の冬は風邪対策に力を入れようと思ってるんですよ。
ジンジャーチャイやグロッギとか、体を温める飲み物を手作りしてみようかなと。

おや。なんだか美味しそうな名前。

……なぜそこにトウガラシを入れるのでしょう。牛乳と砂糖にすると、飲みやすくなると思います。
調合という響きは良いですね。大釜に怪しい素材を入れて煮込む。うっとり。

モルさん?
悲壮感を漂わせてどうしました!?

事情を聞き。
困っているなら気軽に相談してください。
今はどこにお住まいに?

精霊の面目を考慮し笑いはこらえる。
神人宅の敷地内にある離れに住まないかと提案。
古い大釜もあるはず。


●冬の勝負
 鍛錬で十分に体を温めたはずなのに。
 汗が引いてきたせいだろうか、寒さが沁みる帰り道。
「ちょっと寄り道していこうか」
 鞘奈の隣を歩くミラドアルドが、通りかかった喫茶店を指さす。
「私は寒くなんかないけれど、ミラがそうしたいっていうなら仕方ないわね」
 鞘奈は強がりつつも、ミラドアルドと共に喫茶店の扉を開ける。
 店主に窓辺の席へ通されて、2人は向かい合って座る。
「こうやって向き合って喋るのも大分慣れたわ」
 注文を終えた鞘奈が言う。
「最初のうちは僕が一人で喋っていたしね」
 ミラドアルドは苦笑した。最近やっと、鞘奈の方から話題提供してくれるようになってミラドアルドは嬉しかった。
 2人で今日の鍛錬について語り合っていると、温かい飲み物が運ばれてきた。
 ミラドアルドの前には柔らかな色合いのミルクティーが置かれる。
 鞘奈が注文したのはキャラメルラテ。
 嚥下すれば体の中心からほわりと温かさが広がる。体が温まれば心も落ち着く。
 ふう、と一息ついて何気なく窓の外に目を向ければ。
「雪……初雪ね」
 その声に、ミラドアルドも外を見る。
「ああ、初雪か。どうりで寒いわけだ」
「今年も寒くなるのかしら」
 鞘奈はこれからの季節に思いを馳せる。
 寒い冬。雪が降って、外に出るのはつらくなるけれど、楽しみもある。そんな季節。
 そろそろ妹たちがクリスマスの飾りつけをしようと言い出すころだろう。
「……そうだ。妹たちが今年のクリスマス、あんたを呼べって言うんだけど」
 鞘奈はふと思い出して、ミラドアルドに弟妹の要望を伝える。
「ちょっと先の話だけど」
「クリスマス……いいのかい、毎年家族だけで過ごすって聞いてたのに」
 ミラドアルドは予想していなかった招待に僅かに目を瞠る。
「よければ来てやって。きっと喜ぶ」
「……鞘奈がいいのなら、もちろん喜んで」
 ミラドアルドは双眸を細めて答える。
「それ以外にも遊びに来てほしいし。……私じゃなくて、妹と弟がね」
 自分がミラドアルドに来て欲しがっていると捉えられたくないので、後から「妹と弟」と付け足すことを忘れない。
「ふふふ、それは嬉しいよ」
 ミラドアルドは、素直に喜んだ。鞘奈の弟妹はとても優しいし可愛らしい。2人の笑顔を思い浮かべると、自然と笑顔になる。
「ニヤニヤしないの」
 と、鞘奈はミラドアルドに冷たい視線を送る。
「弟が雪合戦の相手して欲しいみたいだし。妹はあんたに夢中だし」
 鞘奈は頬杖をつき、溜息。
「なんか二人を取られたみたいだわ」
 ミラドアルドから逸らした視線を窓の外に移し、物思いに耽る鞘奈。
 ミラドアルドは、彼女の心境を慮った。
「……僕に取られるなんてことはないんじゃないかな」
 鞘奈はミラドアルドに視線を戻す。
「二人は鞘奈のことが一番好きで、一番尊敬しているよ」
 ミラドアルドは優しく微笑む。
 弟妹の気持ちは、鞘奈だってわからないわけでもない。他人のミラドアルドから改めて言われると、なんだか気恥ずかしい。
「拗ねなくても大丈夫」
「!拗ねてないわよ!」
 2人の間にテーブルがなければ、手が出ていたところだった。
 鞘奈の反論に怯むことなく、ミラドアルドはさらに言う。
「出会って間もない僕がそう感じるんだから大丈夫だよ」
「そ、そんなに念押さなくてもいいわよ」
 こんなふうに言われると……照れてしまう。だから、それを誤魔化すように、鞘奈はキャラメルラテを喉に流し込んだ。
「ところで、雪合戦なんだけど」
 と、ミラドアルドが身を乗り出す。
「男同士の勝負もいいけど、鞘奈と真依も混ざらないかい?」
「雪合戦に私と妹?世弦が嫌って言わないかしら」
「四人でやればもっと楽しいと思うんだ」
「それは構わないけど……」
 鞘奈の眼がきらりと光る。
「言っとくけど私は本気でやるわよ」
「もちろん、本気の勝負」
 鞘奈がそう言うであろうことは半ば予想していた。ミラドアルドもにやりと笑う。
「賭けるのはその日のお菓子、とかどうだろう」
 鞘奈も好戦的な笑みを返す。
「賞品が気に入らないけど、乗ってあげようじゃないの」
 笑顔の2人の間に火花が散る。
 今年の冬は、楽しくなりそうだ。

●雪だるまマスター
 グルナ・カリエンテは外の寒さにぶつぶつ文句を言いつつ、温かいコーヒーを口に含む。
 シャルティはそれを聞き流しつつレモンティーのカップを両手で包んで手を温め、窓の外を見る。
「……あ……」
 シャルティの唇から小さな声が漏れた。
 きらきらと輝きながら舞い落ちる雪が、見えたから。
「きれい……。ねえ、グルナ」
 シャルティは表情を輝かせて、グルナに向きなおる。……が。
「見てるだけでくそさみィ……!」
 グルナはシャルティに同意せず、ぶるりと身震いする。
 しかしシャルティはそんなグルナの反応にはおかまいなし。
「こんな時は、雪だるま作るわよ」
 シャルティはくいっとレモンティーを飲み干すと立ち上がり、視線でグルナも店を出るよう促す。
「行かねぇよガキじゃねぇんだから……」
「はあ?あんたも来るのよ」
「……って、俺も行くのか!?」
「なにそれ、当然でしょ。ほら!」
 シャルティはグルナの腕を掴んで立たせ、外へ。
「っておいッ引っ張んなよっ」
 というグルナの文句は聞こえないふり。

「外に出るともっときれいね」
 見回せば、路に積もる雪、街路樹の枝を飾る雪、並ぶ建物の屋根を塗り替えてゆく雪。どこもかしこも美しい。
「やっぱ外マジさみィ……!」
 両腕を擦りぶるぶる震えているグルナは景色を楽しむどころではなさそうだ。
 シャルティはふっと笑う。
「……腰、曲がってるわよ。お爺ちゃんなのあんた」
「じ、ジジイって……お前……」
 シャルティのからかいの言葉に割と真剣にショックを受けるグルナ。
 このまま年寄り扱いされてたまるか!
「あぁもう……!お前雪だるまの手やら鼻の材料取ってこいッ!その間に作っとくからよ」
「え、乗り気じゃなかったじゃない」
 いきなりやる気を出すグルナにシャルティは意外そうな視線を向ける。
 しかし、一緒に楽しんでくれる気になったのはありがたい。グルナの気持ちが変わらぬうちに、材料を集めてこよう。
「……分かったわよ。じゃあ雪だるまの手になりそうなの、取ってくるわ」
「おー……。あ、サボんなよ?」
 早くも雪を集め始めているグルナ、ちらりとシャルティを見てにやり。
「あら。その言葉、あんたに返してあげるわ」
 グルナが驚くくらいの材料を持ってきてやる。シャルティは街路樹の植え込み付近へと駆けていく。
 
 街路樹の近くには、枯れ枝や枯れ葉、木の実がたくさん落ちている。
 シャルティは状態のよい枝と木の実を選別して拾うと、グルナの元へ戻る。
 厳しい目で選んでいたせいか、結構時間がかかってしまった。
 さて、グルナの方はどこまで進んでいるだろうか?
「う、そ……クオリティ高い……」
 シャルティは目を丸くした。
 自信たっぷりの笑顔で立つグルナの隣には、この少ない積雪量でよくぞここまで、という雪だるまが鎮座していた。
 歪みのない球体が上から中小大と3段積まれた雪だるま。表面は滑らかに整えられている。
 最下段の大きな球にはドーム状の窪みがあり、その中にも小さな雪だるまがちょこんと。
 いくらシャルティが材料の選別に時間がかかってしまったからといって、それだけの時間でここまで作り上げるとは。
「驚いて声もでねぇか?シャルティ」
 満足げに笑うグルナは、もう寒さに震えてはいなかった。
「あんたの本気は戦闘限定なんだって思ってたわ……」
「俺だってやる時はやるっつーの。てかいつからだよそんなん思ってたの」
「そんなの、初任務の時からに決まってるでしょ」
「……ほお……」
 さらりと失礼な発言のシャルティをじとりと見ると、グルナはしゃがんで雪をかき集め始めた。
「それより拾ってきたけど……ひっ!?」
 材料の木の枝を差し出そうとしていたシャルティの頬に、グルナが雪玉を押し付ける。
 予期せぬ冷たさに、シャルティの口から思わず小さな悲鳴があがり、身体は狼を見つけた子羊のように硬直する。
「な、なによ……!?」
「はははっ!わりぃわりぃ!そこまで驚くとは思わなかったんだって!」
 グルナは文字通り腹を抱えて笑う。
「子供じゃないんだから止めなさいよ……」
 シャルティは呆れつつも、グルナの無邪気さに苦笑する。
 グルナはまだ笑いを堪えきれないようで、時折肩を震わせている。
「最近お前、マジおもしれぇ……!」
 おもしろいとはどういうことだ。と思いつつも、こんなグルナを悪く思っていない自分もいて。シャルティはちょっと複雑な心境になるのであった。

●温か雪だるま
 雪なんて、毎年見ているはずなのに。
 それでも初雪はワクワクする。
 篠宮潤は今季初の銀世界に居てもたってもいられなくなり、注文したコーヒーを飲み切るのを待たず、外に飛び出した。
 空を仰げば、宝石の粉が無数に舞い降りてきているようで。
 潤の顔に笑みが広がる。
「雪か……そんなに珍しくもあるまい」
 後から店を出て来たヒュリアスは潤ほど大きな反応はない。
 しかし潤は、勢いよくヒュリアスを振り返ると、
「ね……ヒューリ。雪だるま、作ろう、よ……!」
 キラキラした瞳で言うのだった。
「雪だるま?」
 そのイマイチな反応に、潤は一つの可能性に思い当たる。
「ヒューリ、まさか雪だるま、知らない……なんてことは……」
「さすがに作ってる様子も完成品を見たこともある」
 当然知っているに決まっている、と言わんばかりに頷くヒュリアス。
 あ、良かった、知ってるんだ、と潤は安堵しかけるが。
「して、これは何か、冬に行うまじないのような物なのだろうかね?」
「……えええっ?」
 予想外の返答。しかしヒュリアスは真顔。どうやら、本気でそう思っているようだ。
 ここは、潤が正しい雪だるまの知識を教えてやらねば。
「遊び、とか、人によっては、芸術?作品?っていうか……」
 しかしきちんと説明しようと思えば思うほど、適切な言葉が出て来ず自分も混乱してしまう。ヒュリアスも、どんどん脳内に疑問符が増えている様子。
 どうしたものか。
「じゃあ……一緒に作ってみようっ」
 百聞は一見に如かず。一緒に作れば何か伝わるかもしれない。
 ヒュリアスは首をかしげながらも、うむ、わかった、と素直に頷いた。

「こう、最初は小さく丸く握って…」
 潤はお手本として、雪玉を二つ作り重ねてのせて見せる。
「雪玉を転がして大きくしたりする、んだけど」
 潤は辺りをきょろきょろ見回す。今日は初雪。積雪量もまだ少ない。
 もしかしたら、近所の子供たちも同じように雪だるまを作りたいかもしれないから、自分たちはあまり雪を使わず小さな雪だるまにしよう。
 潤は控えめな雪だるまを作る。
「目や口は付けるのかね」
 ヒュリアスは、以前2人で作ったカボチャのようなものだろうか、と考えた。
 潤は、木炭で目や口をつけたり、人参で鼻をつけたりすることもあるのだと説明する。
 ヒュリアスも潤に倣い、自分なりの雪だるまを作ってみる。
 少し形は歪だけれど、潤の雪だるまの隣にヒュリアスの雪だるまが並んだ。初心者なので目や口は割愛。シンプルだけど味わいのある雪だるまだった。
 小さな雪だるまが二つ並ぶ様子は、なんとも可愛らしい。
「あ。ヒューリ、見てみて」
 潤は何かを思いついたようで、装着していたふわふわの白クマの指輪を外すと、ヒュリアスの雪だるまの肩にちょこんと乗せた。
 いきなり何をしているのだろう、とヒュリアスが目を丸くするも。
「家族、みたいだ、ね」
 嬉しそうに笑う潤に「……成程」と頷いた。
 寄り添う雪だるまとしろくまを見ていると、なぜだか胸に温かいものが広がり、自然と微笑んでしまう。
(家族か……温かいものだと聞くが……こういう感覚、なのだろうかね……)
 それはヒュリアスが今までに感じたことのないものであったから、その感想が正しいものなのかどうか、自分ではわからなかった。
「そうだ」
 潤が雪を掬う。
「耳付けたらもっと……」
 と、ヒュリアスの雪だるまにぽふぽふと雪を載せ、狼の耳のような形にする。
 狼耳の雪だるま一家。
 それはヒュリアスの未来を予言しているかのようでもあった。

 雪だるま作りに夢中になって、すっかり体が冷え切ってしまった。
 暖を取り直すため、潤はもう一度喫茶店に入る。
 店主が、2人分のコーヒーを淹れてくれていた。
「うちの店はコーヒーのおかわりは自由だからね」
 と、ウインクしながら。
 潤がカップから立ち上る湯気で冷えた顔を温めていると。
「……忘れとらんか?」
 後から来たヒュリアスがしろくまの指輪を差し出す。
「あ、ご、ごめんっ」
「寄り添っていたのを離すのは確かに忍びないが、な」
 雪だるまの家族。しろくま子供は指輪に戻り、残った雪だるまもじき溶ける。
「また……作ろう、ね」
 少し寂しくなって潤が言えば。
「そうだな。次は大きい物を作ってみたい」
 と、ヒュリアスは微笑むのだった。

●不動山
 エリー・アッシェンは紅茶のカップで手を温める。
 氷のように冷えた指先にじんわり熱が伝わっていく。
 窓の外を見れば、ちらちらと白い結晶が降っている。
「とうとう雪が降ってきてしまいましたね」
 冷え性にはつらい季節がやってきた。
「雪……」
 モル・グルーミーはエリーの言葉を反芻しつつ、紅茶を啜る。
 雪……雪……。冬とか雪とか寒さとか、そういった言葉に纏わるなにか大事なことがあったはずなのだが……。なんだっただろう、モルは思い出せないでいた。
「雪と言えば、今年の冬は風邪対策に力を入れようと思ってるんですよ」
 モルの様子に気付いているのかいないのか、エリーはそんな話題を切り出す。
「ジンジャーチャイやグロッギとか、体を温める飲み物を手作りしてみようかなと」
 モルは、エリーの話題に興味を持ったようだ。
「我も調合は得意だ。体を温める飲料なら、ショコラトルだな」
「ショコラトル、ですか?」
 なんだかおいしそうな名前ではないか。
「カカオ豆を粉にしてトウガラシを加えるのだ」
「……なぜそこにトウガラシを入れるのでしょう」
 エリーの顔が曇る。
「牛乳と砂糖にすると、飲みやすくなると思います」
「なら神人はそのように調合してみるといい」
「調合……良い響きですね」
 エリーは大釜に怪しい素材を入れて煮込む自分の姿を思い浮かべうっとりする。
 しかしモルの言う調合とは、実は民間療法レベルのものでしかないのだが……まあそれは置いておこう。
 これから冬を迎える。「調合」はますます不可欠に――
 そこまで考えたとき、モルは目をかッと見開く。
「大事なことを……忘れていた」
「モルさん?」
 モルはがくりと肩を落とし、室内だというのに彼の周りだけひゅるりと木枯らしが吹いてでもいるようだった。
「悲壮感を漂わせてどうしました!?」
 モルのただならぬ雰囲気に、エリーは彼の顔を覗き込む。
「我は、冬を越す備えを一切していない……」
 茫然とした瞳で呟くモル。故郷を出てから、そのような備えはしていなかったのだ。
「薪もなく、干し芋も塩漬け肉もないではないか。こんな見知らぬ土地では頼れる者もおらぬ」
 迂闊だった、とモルは頭を抱える。
「あら。困っているなら気軽に相談してください」
 エリーは自分の胸元をとんと叩き申し出る。
 契約を交わした神人も「頼れる者」の数に入れられていない。神人が信頼できるパートナーとしてまだ認められていないともとれるモルの発言。
 それでもエリーは、そんなモルの力になりたかった。自分がどんな風に思われていようと、目の前の困っている人を放っておけない。
 視線だけ上げてこちらを見るモルに、エリーは問う。
「今はどこにお住まいに?」
「今はA.R.O.A.が手配した仮住まいに一時的に身を寄せている。正式な住まいは決まっていない」
 ぼそぼそとモルは状況を語る。
「ふどーさん……関係の手続きが難解でな……」
「確かに、お部屋を借りるにはいろいろ手続きが必要ですよね」
 うんうんと頷き聞いていたエリーだが。
「地図を見ても、そんな山は見当たらん」
「山?」
(もしかしてモルさん不動産を不動山とかいう山かと思ってらっしゃる?)
 年齢の割に、世間知らずで可愛らしいその勘違いに思わず笑いがこみあげるが、そこは相手の面目を考慮しぐっと堪える。
 こほん、と咳ばらいしてエリーは口を開く。
「それでしたら、私の家の敷地内にある離れに住む、なんていかがでしょう」
「神人の?」
 モルはあまり乗り気ではなさそうだったが。
「確か、古い大釜もあったはずです」
 その一言で、ぐらりと心が傾いた。
「大釜のある物件……住みたい」
「では決まりですね。早速引っ越し準備をいたしましょう」
 調合と大釜というキーワードが2人の距離を少し縮めたようだった。

●輝く笑顔
 さっきまで寒いと震えていたというのに。
「すごい、もうこんなに積もってる……!」
 飛び出すように店の外に出たリチェルカーレは広がる景色に歓声をあげる。
 リチェルカーレに続いて店を出たシリウスは、そんな彼女の様子を見て、まるで子供だな、と目元が緩んだ。
 視線に気づきリチェルカーレが振り返ると、苦笑するシリウスの姿が目に入る。
 しまった、幼子のようにはしゃいでいる姿を見られてしまった。ばつが悪くて、赤面する。
「……どうせ、お子様だと思っているんでしょう?」
 むむっと唇を尖らせるリチェルカーレに、シリウスは
「そんなところが子どもなんだろう?」
 と、くしゃりと彼女の青銀の髪をなでる。
「きゃっ」
 小さく悲鳴をあげ、リチェルカーレはますます赤くなる。
 子供扱いされたことよりも、突然触れられたことが、彼女の頬を熱くした。
 そんな彼女を優しく見つめるシリウス。
 彼の大人の余裕に満ちた表情をなんとか変えてやりたくて。
「また冷える前に帰ろう」
 とシリウスがリチェルカーレに背を向け先に歩き出したところで、彼女は素早く足元の雪で雪玉を作る。
「ねえ、シリウス」
 呼びかけ、振り向いたところで、えい、と雪玉を投げつける。
 肩に当たって砕けた雪玉に、シリウスは一瞬、何が起こったのかわからないといった表情になる。
「やった!」
 リチェルカーレは笑顔で小さくガッツポーズをとると、シリウスに小言を言われる前に走って逃げ出す。
 リチェルカーレの嬉しそうな笑顔に、シリウスは雪を払った後うっすらと笑みを浮かべる。
「……やってくれたな?」
 これはお返しをしてやらねばなるまい。
 シリウスは、逃げてゆくリチェルカーレの後ろ姿を追って走り出す。
 シリウスの足音を聞き、リチェルカーレは振り返る。そこには雪玉を持って追いかけてくる彼が。
「このくらいで怒るなんて大人げないわ!」
「お子様にはお子様な対応で十分だ!」
 シリウスが投げた雪玉は、リチェルカーレの背中で砕けた。
「きゃーっ」
 歓声をあげ、リチェルカーレは笑う。
「負けないわよ」
「こっちだって」
 リチェルカーレが雪玉を投げ返すと、シリウスも2個3個と素早く雪玉を作り連続で攻撃する。
 投げ合ううちにシリウスが次第に少年のような笑顔になっていき、リチェルカーレは嬉しくなった。
 嬉しくなって、もっともっと、雪玉を投げつけた。
 息が切れる頃には、もうお互い雪だらけ。お互いの姿を見て、思わず吹き出す。
「こんなシリウスの顔、初めて見た」
 ひとしきり笑い、リチェルカーレは言った。
「もっと笑って」
 その言葉に、シリウスは困惑した。
「私、あなたの笑った顔、大好きよ」
 シリウスの困惑をよそに、柔らかな陽だまりのような笑顔のリチェルカーレ。
 シリウスはそっと彼女の手をとって自分の頬にあてた。
「笑うのは、得意じゃない。……知っているだろう」
 リチェルカーレは微かに眉尻を下げ俯いた。自分は、無理なお願いをしてしまったのだろうか。
「……でも、おまえがいてくれたら、少しは笑える気がする」
 はっとしてリチェルカーレが顔をあげると、そこには、笑顔のシリウスがいた。
 まだぎこちなさの残る笑顔ではあったけれど、それは、リチェルカーレが今までに見たどの笑顔よりも、輝いて見えた。
(だから側にいてほしい)
 という言葉にできないシリウスの願いは、きっと彼女に届いている。



依頼結果:成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月16日
出発日 11月22日 00:00
予定納品日 12月02日

参加者

会議室

  • [5]リチェルカーレ

    2015/11/21-22:20 

    リチェルカーレと言います。パートナーはマキナのシリウス。
    初雪、とても楽しみです。
    皆さん、よろしくお願いします。

  • [4]鞘奈

    2015/11/20-22:27 

    精霊のミラドアルド。それとパートナーの鞘奈だよ
    よろしく。

    せっかくの雪だし、楽しもうと思う。

  • [3]シャルティ

    2015/11/20-21:24 

    ふふ、雪が降った時は雪だるまよね…♪
    …まあ、グルナはぶるぶる震えてるけど。

    シャルティ。どうぞよろしく。

  • [2]エリー・アッシェン

    2015/11/20-18:38 

    エリー・アッシェンと、精霊のモルさんで参加です。
    うふふ……。皆さん、よろしくお願いしますね。
    2番の、今年の冬の話題を振ろうかと思ってます。

    寒い寒いと思っていたら、タブロスはもう初雪ですか……。
    雪はキレイですが、冷え性の人間にはつらい季節がやってまいりました……。

  • [1]篠宮潤

    2015/11/19-19:36 

    雪……!(目輝き)
    …ぁっ、し、篠宮潤(しのみや うる)、と、パートナーはヒュリアス、だよ。
    どうぞよろしく、だっ。

    初雪、で、しかも積もると…なんだか、ワクワクする、ね…♪
    ゆきだるまつくーろ~♪ドアを開けtむぐ!(精霊に口を塞がれる)

    ヒュリアス:
    何の歌かは知らんしよくわからんが…危険を感じた。←
    のでそれ以上口にしてくれるなウルよ……


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