キラリンタイガーと黄金色のトンネル(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ショコランド──バレンタイン城の裏の丘にそびえる巨大な樹木『ショコランドの木』から繋がったメルヘンワールド。
 シュガーレイク(砂糖水の湖)に、チョコレートの滝とシュークリーム牧場……などなど、パステルカラーのお菓子の世界。

 そんなショコランドにも、秋が訪れています。
 バレンタイン城下に程近い場所で、不思議で美味しい風景が楽しめると評判になっている場所がありました。

「わあ、これは凄いな……」
 その入り口に立った一組のウィンクルムが、大きく瞬きしました。
「何でも、200本のイチョウが植えられているらしいです」
 ショコランドのガイドブックを広げた精霊が答えると、神人は舞い落ちてくるイチョウの葉に手を伸ばします。
 彼らの前には、まるで道をトンネルのように囲っているイチョウ並木が広がっていました。
「あ、これって……リーフパイ?」
 掌に落ちたイチョウの葉をマジマジと見て、神人が驚いた声を上げます。
「うん、甘い!」
 一口食べて笑顔を浮かべれば、その様子を眺めて精霊が微笑みました。
「お菓子のイチョウですか……甘い香りの理由はこれなんですね」
「拾い食いして歩くと、あっという間に腹いっぱいになりそう♪」
「食べ過ぎると太りますよ」
 二人はそんな会話を交わしながら、黄金色のイチョウ並木を歩いていきます。

『がおー』

 不意に迫力があるようなないような、変な鳴き声らしきものが聞こえました。
「がおー?って言った?」
「何か動物でも居るんでしょうか?」
 ウィンクルム達は顔を見合わせ、辺りを見渡します。
「何だ、あれ?」
 木々の間から、のっそりと姿を見せたモノに、神人が目を丸くしました。

『がおー』

 吼えているのは、猫のような、猫にしては大きく、でも猫みたいにまるっとしている不思議な生物でした。
「あれはたぶん……『キラリンタイガー』です」
 すかさずガイドブックを捲った精霊が、瞳をキラリと輝かせました。
「『キラリンタイガー』?」
「ショコランドに住む、お菓子で出来た不思議アニマルの一種で、猫のようなホワイトタイガーです」
「見たまんまだな」
「主成分はバニラアイスで、黒い模様は黒あん。リンゴの形の肉球は虹色で、これはリンゴ飴で出来ているそうです」
「バニラアイス?」
 神人の瞳が輝きました。
「暑さに弱いそうで……この季節になると活動が活発になり、この辺りによく姿を現すそうですよ」
「食ったら美味いかな!?」
「別に止めませんが……一応虎ですし……ああ、でも、望むものをプレゼントしたら、自ら身を千切ってアイスを分けてくれるみたいですよ」
「何?何!? 何をあげたらアイス分けてくれるの!?」

「……イチャイチャシーン」

「え? 何? もう一回」

 神人が聞き返すと、精霊はコホンと咳払いしました。

「だから、イチャイチャシーンです。恋人同士がイチャイチャしている所を見るのが、三度の飯より好きだそうですよ」
「なんだ、そんな事かー……楽勝楽勝……」

 HA☆HA☆HA☆

「って、んな訳あるかー!!」

『がおー』

 暴れる神人を遠目に、キラリンタイガーが大きく欠伸をしました。

解説

リーフパイなイチョウ並木を、のんびりと散策するエピソードです。

<場所情報>
・リーフパイなイチョウが、道の両脇に立ち並ぶ遊歩道です。
・リーフパイなイチョウは食べる事が出来ます。
・道の脇に、小さな『ソーダ水の川』が流れていますので、それを飲む事も可能。
・イチョウ並木の入り口では、売店もありますので、そこで飲み物を買う事も出来ます。

<売店メニュー>※一つにつき、50Jr消費
・紅茶
・珈琲
・各種フルーツジュース
・緑茶
・烏龍茶

・キラリンタイガーがプレゼントしてくれるアイスを入れるカップ(無料で配っています)

<キラリンタイガー>
・イチャイチャシーンを見せてくれたウィンクルムには、自らの顔のアイスを少し千切ってプレゼントしてくれます。
 ただし、TPOにはご注意ください。

・イチャイチャ度は三段階評価。評価が高い程、たくさんアイスをくれます。
 一段階 :一口サイズ(神人と精霊で一口ずつ)
 二段階 :一人分
 三段階 :二人分

※イチャイチャ例
・『好き』と言う。
・手を繋ぐ。ハグする。
・ツンからのデレ。惚気る。
…などなど、キラリンタイガーがキュンとすれば、合格です。

・バニラアイスと黒あんのハーモニーは絶妙で美味しいと評判です。

・何もしなければ、遠目からウィンクルム達を見ているだけとなります。

・キラリンタイガーがどのような姿かは、以下GMアニマルのキャンペーンページをご参照頂けますと幸いです。

https://lovetimate.com/campaign/creator_campaign.html#gm_animal

イチョウ並木の維持費として、入場料一律『300Jr』消費しますので、あらかじめご了承下さい。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『アイスクリームと秋の景色、大好き!』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

キラリンタイガーと一緒に、皆様のイチャイチャシーンを楽しみにさせて頂きます♪
勿論、普通にイチョウ並木を散歩しての語らいも、大歓迎です!
グループアクションも歓迎いたしますので、その場合は、掲示板で宣言の上、プランにもわかりやすく明記頂けますと幸いです。

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  一面に広がる金色の絨毯にわぁ、と零れた声
甘くて香ばしい匂いに思わず顔を見合わせて微笑む
売店で温かい紅茶を二つ購入
ゆっくり散歩しようかと遊歩道を指差し

隣を歩く彼をやっぱり恰好いいなぁなんて密かに眺めながら
舞い降る葉をハンカチで受け止め、さくりと一口
美味しいリーフパイだね。今がまさに焼き上がりなのかな?

っ?!あ、キラリンタイガーさんへのいちゃいちゃ…?
熱が引かない顔を胸に埋めて隠し、そっと彼の背中へ腕を回す
…何時になったら慣れるのか、なんて俺には分からないよ
初めての恋愛、なんだから
貴方の優しさに触れる度にどきどきしてしまうし
もしかしたら、ずっとかも知れないよ?

貰ったアイスは溶けない内に二人で食べる


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  本当に食べれるんだな(齧り
笑うなよ。いいだろ、試してみたってさ
ランスこそ何だよその葉っぱは(ツッコミ

え、オスとメス?
このイチョウにもあるのかな(興味津々

視線に気付く

最近ランス、俺を見てニコニコしてんの多いよな

いいだろ、ただなんとなく聞いてみただけだよ

そりゃそうだけど…

あーやっぱり聞くんじゃなかった
俺だってランスが何考えてるとか気になるけど、それを認めるのはなんかシャクだから言わないぞ

ふ…ふーん
じゃあ今何考えてるか当ててみなよ

別にハグして欲しかったわけじゃないけど、ハグ嫌いじゃないし
こういしると暖かいし
だからやっぱりして欲しかったのかもしれない(言わないけどさ

「さぁてね」なんて秘密めかして(にこ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  イチャコラか。
多少大きくてもネコ科=猫なキラリンタイガーをまふまふしたい欲望もある。
隙あらばねこじゃらし的植物で構いたいぜ。
可愛いじゃん。遊びたい。

入口売店で紅茶を購入。
リーフパイに飲み物は必須だよな?
ラキアと2人でイチョウリーフパイを取って食べる。
あーん、と言われれば条件反射で口をぱかっと開けるぜ。くれると言う物は美味しくいただくのだ。
「ウマー」
仲良くパイ食べてる姿にイチャイチャを感じてくれ。
パイが美味くて幸せだ(お手軽に幸せ)。

「カエデリーフパイならメイプル風味かも」
カエデも無いかとキョロキョロ。
あったら葉っぱを取って(お菓子でなくても)パクリとかぶりつく。
「食べてみなきゃ判んないし?」



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  紅茶購入
「イェルが淹れたのが個人的には最高だな」
※アイスカップも貰って普通に恋人繋ぎ、コートのポケットへ繋いだ手ごと突っ込む

黄葉してるけど、ホントにリーフパイだわ
イェル、手が温いな?
(ピャアアアレベル1だな)

髪と角の間にイチョウが挟まってんぞ
取るからじっとしてろ
※取りつつ様子眺めた後角に軽くキス、反応を見る
「イェルは角のキスが好き…覚えておく」

おっと、キラリンタイガーか
※普通に挨拶、アイスのお裾分け貰ったら
「悪ぃな」
※量関係なくあーん体制
「イェル、あーんしろ
拒むなよ?
拒んだら口移しな」
(レベル4…マジで口移ししたら5だな)
※あーんした後、キラリンタイガーへ
「可愛いだろ、俺の嫁」
角へもう1回キス



ヴァレリアーノ・アレンスキー(イサーク)
  見ているだけで甘ったるい香りが漂ってくる気がする

イサークの食べっぷりを見て溜息
渡されたリーフパイは要らないと言いつつ食べる

キラリンタイガーの性癖?にジト目
俺達は恋人でも何でもないし寧ろ赤の他人に近しき存在だ
ベタベタするな
あと…イチャつこうがつくまいが身は千切らなくていい
身が削れる所を見たくない為

イチョウの木の下に来た所でイサークに手を貸せと言う
初めて作ったし拙いが、とミルフィオリのペンダントを渡す

イサークの反応に狼狽
何故泣く…大した物じゃないぞ
あれだけお前が作れと言っておいて
俺はまだお前をパートナーと認めた訳じゃないからな!

普段の飄々とした態度ではない彼を見てどちらが本当のイサークなのか思案



●1.

「わぁ……」
 黄緑がかった金の瞳を見開いて小さく口を開けた羽瀬川 千代を、ラセルタ=ブラドッツは口元を上げて見遣った。
 美味い菓子が実る並木道。期待が高まると思ってはいたが。
(思った通りの嬉しそうな表情だな)
「凄いね……甘くて良い香り」
 瞳を輝かせこちらを振り返る千代に、ラセルタは思わずといった様子で笑みを零す。
「ラセルタさん、飲み物を買っていかない?」
 対面販売形式の売店には小柄な老人が居て、笑顔で二人を出迎えた。
「千代はどうするのだ?」
「そうだね、俺は……」
 飲み物のメニューを眺め、やがて二人の視線が一ヵ所で止まる。
「紅茶だな」「紅茶かな」
 声が重なり、二人同時にお互いの顔を見た。
「この甘い香りには紅茶が合うかなって思って……」
 照れた様子で千代が言えば、ラセルタが笑う。
「奇遇だな、俺様もだ」
 売店の老人は、温かい紅茶のカップを、手提げ出来るドリンクバッグに入れて渡してくれた。
「これは何だ?」
 ラセルタが首を傾ける。バッグの中には、紅茶のカップ以外に小さな紙のカップが入っていた。
「お二人なら、キラリンタイガーにアイスを貰えるだろうからね」
 老人の言葉に、千代は頬を赤らめ、ラセルタは大きく瞬きをしたのだった。

 長い指が伸びて、千代の指に極々自然に絡む。小さく千代の鼓動が跳ねた。
「ゆっくり散歩しようか」
 千代が黄金色に染まる遊歩道を指差せば、ラセルタがそうだなと頷き、金色の絨毯の上を、二人は手を繋ぎ歩き始めた。
 吹く風が、柔らかに焦げ茶寄りの黒髪と緩く波打つ銀髪を揺らして、その度に木々からは甘いお菓子が落ちてくる。
(ラセルタさん、歩幅……合わせてくれてる)
 千代の歩みに寄り添うように、ラセルタが歩いてくれている事に千代は気付いて、隣の彼をそっと見上げた。
(やっぱり恰好いいなぁ)
 青空とイチョウに映える彼の美貌に、千代は高鳴る胸を押さえる。この鼓動、繋いだ手から彼に伝わってはいないだろうか。
 鼓動を鎮めようと、千代は懐からハンカチを取り出した。
 舞い降る葉をハンカチで受け止める。
 キャッチした二つのリーフパイを二人で分け合って食べてみれば、サクサクした食感と程よい甘さが口の中に広がる。
「美味しいリーフパイだね。今がまさに焼き上がりなのかな?」
「うむ、悪くない。屋敷の庭園に欲しい所だ」
 購入した紅茶との相性も良い。

 がおー。

 不意に聞こえた獣の声に、ラセルタはそちらを見遣り、白い丸っこい獣と目が合った。
(……ふむ、千代もアイスを食べたがるだろう)
「千代」
 紅茶のカップを千代から取り上げ、ドリンクバッグに入れる。
「ラセルタさん?」
 不思議そうにする千代をそのまま抱き締めた。髪に鼻先を埋めれば、千代の優しい香りがする。
「っ?! あ……」
 硬直した千代は、こちらに注目している白い虎に気付き、その意味を理解した。
(キラリンタイガーさんへのいちゃいちゃ……?)
 顔は火が出そうに熱くて眩暈がしそう。
 千代は熱が引かない顔を、彼の胸に埋めて隠した。それから、そっと彼の背中へ腕を回す。
 控え目に回された腕の力に、ラセルタが微笑んだ気配がした。
 悪戯しかり、愛情表現しかり──幾度となくラセルタは千代に触れているが、未だに初々しいその反応が愛おしい。
「ふ。いい加減、慣れたものかと思っていたが?」
「……何時になったら慣れるのか、なんて俺には分からないよ」
 千代は瞳を閉じて、重なる鼓動を感じる。
「初めての恋愛、なんだから──」
 ラセルタの手が千代の頬に触れた。そのまま上を向かされると、彼の瞳とぶつかる。
「……ほう、お前の初めてとは気分が良いな」
「そうだよ、初めてで──……貴方の優しさに触れる度にどきどきしてしまうし」
 このドキドキに慣れる日が来るのだろうか?
「もしかしたら、ずっとかも知れないよ?」
「ならば俺様が味わう幸せも、きっと色褪せない事だろう」
 柔らかい唇が、降ってくる──伝わるのは、甘い幸せ。

 暫くして、二人は二つのカップにこんもり積まれたアイスを楽しみながら、並木道を歩いたのだった。


●2.

 見ているだけで甘ったるい香りが漂ってくる気がする。
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは、瞳を細めて舞い散る葉を見上げた。
 並木道の中はとても静かで、好ましく思う。
 彼一人だったならば。
「大量だヨー!」
 スキップを踏むような足取りで、リーフパイを両手で受け止めている連れを見遣り、ヴァレリアーノは溜息を吐き出した。
「おいしー♪」
 リーフパイを口いっぱいに頬張り、イサークは頬を押さえる。幸せそうな顔からヴァレリアーノは視線を逸らした。
「坊やもお一つどーかナ?」
 歩み寄って来たイサークがパイを差し出してくる。
「要らない」
「ほんとは食べたいんデショ」
 ふいと顔を背けたヴァレリアーノの唇に、イサークは無理矢理パイを一つ咥えさせた。
 仕方ないといった表情で、ヴァレリアーノはパイを食べる。口の中を甘さが広がった。
「ソーダのお水もあるヨ!」
 イサークは小川から甘い炭酸水を掌で掬って飲む。
 甘い菓子に甘い飲み物。ヴァレリアーノは自分が胸やけするような気分になりながら息を吐き出した。
「アーっ!」
 興奮した声を上げるイサークに、今度は何だとヴァレリアーノが視線を巡らせれば、白い虎がこちらをじっと見ている。
「キラリン君!?」
 イサークがわくわくと瞳を輝かせながら尋ねれば、白い虎ががおーと応えた。
「オイデオイデー!」
 イサークの全力の手招きに、白い虎は近寄ってくる。
「可愛いー!」
 抱き着くと、イサークは白い虎の頭を嬉しそうに撫でた。虎は大人しくされるがままだ。
「触る分は普通の毛並みなんダ。ネー、イチャついてアイス貰おうヨー!」
 イサークが期待に満ちた眼差しをヴァレリアーノに向けてくる。
「断る」
 絶対零度という言葉が似合う、拒絶の言葉と眼差しだった。
「俺達は恋人でも何でもないし、寧ろ赤の他人に近しき存在だ」
「また坊ちゃんはそんなつれない事ー」
 イサークが頬を膨らませる。
「坊ちゃんだって、アイス食べたいデショー?」
 イサークはヴァレリアーノの傍に寄って両肩に触れた。
「ベタベタするな」
 その手を払いながら、ヴァレリアーノはこちらを見てくる虎へも口を開く。
「あと……イチャつこうがつくまいが身は千切らなくていい」
 身が削れる所を見たくない。ヴァレリアーノは踵を返した。
「待ってヨー」
 歩き出すヴァレリアーノと、それを追うイサークを、白い虎はじっと見ていた。


 ヴァレリアーノは一際大きな木の下に歩み寄ると、イサークを振り返った。
「手を貸せ」
「ナニナニ?」
 イサークが首を傾けて手を差し出すと、しゃらりと金属が擦れる音、そしてひやりとした感触。
「初めて作ったし拙いが……」
 ヴァレリアーノの声が、遠くに聞こえる。
 イサークの視線は、掌にあるミルフィオリのペンダントに釘付けとなっていた。
 真ん中に白い花で象られた十字架。それを囲むように紫の花と、周囲に歯車のような黄色と緑。
 ぽつりと、透明な水滴が十字架に当たって、砕けた。
「何故泣く……大した物じゃないぞ」
 イサークの頬を伝う涙に、ヴァレリアーノは目を見開く。イサークは小さく震えて瞳を上げた。
「ア……ごめんネ、本当にボクに作ってくれると思わなくて」
 イサークの指がミルフィオリを大事そうに撫でる。
「どうせアレクに作ると思ってたし……初めてだった、カラ……」
 嬉しくて──。
 そう言って笑うイサークは、何だか知らない人に、見えた。
「あれだけお前が作れと言っておいて」
「歯車……ボクの事考えて作ってくれたんだ」
 ヴァレリアーノは彼を睨んだ。
「俺はまだお前をパートナーと認めた訳じゃないからな!」
「今はいいよ、いずれボクが坊やの”隣”にいれば」
 大事そうにペンダントを身に付けて、イサークは微笑んだ。
「似合う?」
 ヴァレリアーノは返事をせず、再び歩き始める。
 ぎゅっとペンダントを握り締め、その背にイサークが呟いた。

「……レは変わらないね、今も昔も」

(どちらが本当のイサークなのか……)
 後ろから陽気に語り掛けるイサークは、もういつも通りで。
 ヴァレリアーノの手首を飾るミルフィオリのブレスレットが、急に冷たさを増したような気がした。

●3.

 紅茶のカップを二つ受け取って、鼻孔を擽る香りにカイン・モーントズィッヒェルは瞳を細めた。
 一つを傍らのイェルク・グリューンに手渡して、カインはアイスのカップとスプーンも売店の店主から受け取る。
 そして二人は、黄金色のイチョウ並木へと歩き出したのだが──。
「イェルが淹れたのが個人的には最高だな」
 味も香りも。
 ぽつりと呟かれたカインの言葉に、イェルクの胸が跳ねた。
 有難う御座いますと返す言葉も、自分でも驚くくらい声が掠れる。
「……心臓に悪いです……」
 思わず小さく呟けば、カインが笑う気配がして更に恥ずかしくなった。
 しかしその直後、更にイェルクは顔が熱くなる事態となる。
(え? 手? 手を……ッ……)
 カインの大きな手がイェルクの手を包むようにして、指を絡め密着した。手首、そして腕も触れ合って、体温が伝わってくる──貝殻繋ぎ、俗にいう恋人繋ぎだ。
 しかも繋いだ手はそのまま、彼のコートのポケットに収められる。
「風が冷てぇな」
「そ、そうですね……」
(……照れる……)
 イェルクは体温が急激に上昇するのを感じた。絡む指先から──熱が、鼓動の速さが、カインに伝わってしまいそうで……。
「黄葉してるけど、ホントにリーフパイだわ」
 一方カインといえば、至って普通の様子で、舞い落ちる葉を眺めている。
「イェル、手が温いな?」
 ふと彼の視線が降りて来たと思えば、そう指摘され、イェルクは顔が熱くなるのを自覚した。
(ピャアアアレベル1だな)
 可愛い恋人の反応に、カインは僅か口元を緩める。可愛くて困る。
 そして気付いた。彼の髪にリーフパイが絡まっている。
「髪と角の間にイチョウが挟まってんぞ」
「え、イチョウが?」
 瞬きするイェルクの手を少し名残惜しく離してから、カインの長い指が艶やかな黒髪に触れた。
「取るからじっとしてろ」
(そ、そこは……)
 イェルクは思わずぎゅっと目を閉じる。そうでもしていないと、耐えられそうにない。
 カインは真っ赤になって固まったイェルクの様子を見ながら、挟まっていたパイを取って、己の口に放り込んだ。甘く香ばしい味が広がる。
「と、取れましたか……?」
 震える声で尋ねてくるイェルクにふっと笑うと、カインは角に口付けた。
「ひゃぁっ!?」
 ビクッとイェルクが肩を跳ねさせる。本当に可愛い反応過ぎて、困った。
「イェルは角のキスが好き……覚えておく」
 楽しそうに口元を上げる彼を見上げ、イェルクはキスされた角に指先で触れる。
(覚えないでほしい……)
「おっと、キラリンタイガーか。邪魔してる」
 不意にカインが軽く片手を上げて、イェルクは彼の視線の先を追って瞬きした。白い虎がこちらを見ている。
 次の瞬間、虎は自分の顔を躊躇なく千切ると、前足で差し出してきた。
「悪ぃな」
 たっぷり二人分あるそれを、カインはカップを取り出し受け取る。
 がおー。
 礼は要らないぜとばかりに一吼えし、虎が首を振ると、千切った顔は直ぐに復元した。器用だなとそれを見てから、
「イェル、あーんしろ」
 カインはアイスを一口スプーンに掬うと、当たり前のようにイェルクの口元へ差し出す。
 イェルクが肩を揺らして驚いた。あーんって……。
「拒むなよ? 拒んだら口移しな」
 言っている事の割に、カインの表情が甘い。自分だけに向けられる甘美な──断れない。断れる筈がない。
「……ズルイです」
 イェルクは瞳を閉じて口を開けて、口いっぱいに広がる美味しさにほぅと息を吐いた。
(レベル4……マジで口移ししたら5だな)
 カインは満足そうに頬を染めるイェルクを見つめてから、傍らの虎に微笑んだ。
「可愛いだろ、俺の嫁」
 手首を引き寄せ、もう一度イェルクの角に口付ける。
 イェルクの口からは再び少し高い声が漏れて。
(その、されるのが嫌ではなく、好きだけど、カインさん以外に見られたくないって私は何を……)
 ぐるぐる回る思考の中、虎のがおーという楽し気な声が聞こえた。


●4.

 舞い降りる葉を手に取れば、甘く香ばしい匂い。
「本当に食べれるんだな」
 手に取ったリーフパイを齧って、アキ・セイジは小さく頷いた。
 途端、傍らで笑う気配を感じ、セイジはむっと眉を寄せる。
「笑うなよ。いいだろ、試してみたってさ」
 軽く睨めば、ヴェルトール・ランスは白い歯を見せた。
「別にそういう意味で笑った訳じゃないさ」
「じゃあ、どういう意味?」
「可愛いなーって思って」
 きっぱりそう返されると、セイジは言葉に詰まった。可愛いというのは、褒め言葉として受け取るには抵抗がある。
「ランスこそ何だよ。その大量の葉っぱは」
 なので、すかさず話題を変える事にする。元々ツッコむつもりではあった。
 ランスの背負ったトートバッグには、山盛りのリーフパイが詰まっている。
「当分オヤツはこれで決まりだな!」
 親指を立てる彼に、セイジはふっと笑みを浮かべた。
「では、俺がオヤツを作る必要もないな」
「え、ウソウソ、作ってくれよぅ」
 途端、ランスの尻尾が揺れて、セイジに甘えるような視線を向けてくる。
「それだけあれば要らないだろ?」
 セイジがわざとツーンと視線を逸らせば、ランスは頬を掻いた。これは早急に話題を変えてしまうに限る。
「イチョウにはオスメスがあるって知ってる?」
 ぴっと指を立てて問えば、セイジはこちらに視線を戻した。
「え、オスとメス?」
「メスの木に銀杏ができるんだぜ。科学的な根拠は無いけど、葉の先が割れているのがメス、割れていないのがオスって言われてるんだ」
「へぇ……このイチョウにもあるのかな」
 セイジは興味津々に、リーフパイを何枚か取って見比べる。
 よし、成功!
(セイジのスイーツが食べれなくなったら大変だからな)
 ランスはぐっと拳を握った。
 ニコニコとセイジを見つめれば、その視線に気付いた彼がこちらを見てくる。
「最近ランス、俺を見てニコニコしてんの多いよな」
「ニコニコ?」
 大きく瞬きするランスに、セイジは何だか恥ずかしい事を聞いてしまったかもと、視線を外した。
「いいだろ、ただなんとなく聞いてみただけだよ」
 セイジが言えば、ランスはああと頷いた。
「それは、セイジが好きだからだよ」
 だから、見つめていれば自然と笑顔になる。
「は、恥かしいこというな」
「聞いてきたのセイジじゃん」
 ランスは視線を逸らしたセイジを覗き込んだ。
「何考えてるのか気になっちゃうしさ……で、気づいたら見てるって言うか」
 そこまで言ってランスも顔を赤らめて、幸せそうに微笑む。
「前より気持ちが伝わる気もするんだよな」
 あーやっぱり聞くんじゃなかった。セイジは赤くなる顔を必死で逸らした。
(俺だってランスが何考えてるとか気になるけど、それを認めるのはなんかシャクだから言わないぞ)
「ふ……ふーん……じゃあ、今何考えてるか当ててみなよ」
 平静さを装いながら目を見れば、ランスが瞬きする。
「え、今?」
 ランスは顎に手を当てて、それから笑顔になった。
「なんだろ、こんな気持ち?」
 ぽふっと、セイジはランスの腕の中に抱き締められ、鼓動が重なる。
「当たってた?」
 キラキラ輝く瞳で見下ろしてくるランスに、セイジは言葉に詰まった。
 別にハグして欲しかった訳じゃないけど……ハグは嫌いじゃないし。暖かいし。
(だから、やっぱりして欲しかったのかもしれない……)
 絶対言ってはあげないけど。
「さぁてね」
 結論は胸の奥に。秘密めかして微笑めば、ランスに唇を塞がれた。

 二人の傍らにいつの間にか白い獣がやって来て、そっと二人分のアイスをリーフパイに乗せて行ったのに気付いたのは、それからすぐの事。

 一周し入口の売店にやって来た二人は、一緒にコーヒーを買った。
 セイジはブラック。ランスはコーヒーにミルクを入れようとし、
「ランス、ちょっと待った」
 セイジがアイスを一匙掬って、ランスのコーヒーの上に浮かべる。
「フロートコーヒーだよ」
「おお!」
 ランスが瞳を輝かせるのに、セイジも微笑んだ。
「タイガーちゃんとセイジに感謝! いただきます♪」


●5.

「リーフパイに飲み物は必須だよな?」
 笑顔で売店を指差すセイリュー・グラシアに、ラキア・ジェイドバインは微笑んで頷いた。
 二人は売店で紅茶を二つ購入すると、リーフパイが舞い落ちるイチョウ並木へと足を踏み入れる。
「まるでリーフパイの雨だね」
 ラキアがほぅと息を吐き出した。
 ひらひらと舞い散るリーフパイは、甘い香りとメルヘンな光景。
「ラキア、食べてみようぜ!」
 キラリと瞳を輝かせるセイリューに、ラキアは笑って掌を前に出す。
 ひらりと落ちて来た二枚のパイをキャッチして、一つをセイリューに差し出した。
「はい、あーん」
 セイリューは条件反射で口をぱかっと開ける。
 くれると言う物は美味しくいただくのだ。しかも!ラキアがあーんしてくれるなら、尚の事だ。
 ラキアが口に入れてくれたパイを、もぐもぐ味わって飲み込む。
「ウマー」
 広がる香ばしい甘さに、セイリューの頬が緩んだ。
(美味しそうに頬張って……セイリュー、ちょっと可愛い)
 クスッとラキアは笑みを零しながら、自分もリーフパイを一口齧る。
「サクサクで美味しいね」
「幾らでもいけそうだな!」
「セイリュー、はい」
 ラキアは今度は枝から直接パイを採って、セイリューの口に運んだ。
「ウマー!」
 幸せそうな笑顔に、ラキアは瞳を細める。
「何食べても嬉しそうだよね、セイリュー」
「美味しいものを食べてる時は、幸せだぜ!」
 ぐっと親指を立て、セイリューは紅茶を一口飲んだ。リーフパイの甘さと紅茶の相性はとても良い。
「食べ過ぎには注意だよ?」
 そう言いながら、ラキアはまたパイをセイリューに運んでくれた。
「セイリュー、頬にパイの欠片が付いてる」
 ふとラキアがセイリューの頬を見つめ、顔を寄せてそれを唇で取った。

 がおー。

 その時だった。丸っこい白い虎が二人に歩み寄って来た。
 虎は二人を見るなり、徐に自らの顔を前足で千切り、差し出してくる。

「これって……」
「アイス! こんなにいいのか?」
 すかさず売店で貰っていたカップで、虎の差し出すアイスを受け取る。たっぷり二人分あった。
 がおー。
 遠慮するなとばかりに頷く虎に、セイリューは手をわきわきさせる。
 多少大きくてもネコ科=猫。
 まふまふしたい。
(可愛いじゃん。遊びたい)
 即座に周囲を観察する。猫と遊ぶ為のアイテム──ねこじゃらし的なものが欲しい。
「あった!」
 セイリューは良いカンジに生えていた雑草を採ると、ゆらゆらと虎の前で揺らした。
「ホレホレ」
 がおー。
 虎が食い付いてきた!
「よしよし、触らせてくれー」
 セイリューのねこじゃらし捌きは見事なもので、虎はたちまち虜になり地面に転がった。
「まふまふだー!」
「毛並み、凄く良いね」
 セイリューとラキアは、お腹を見せて転がった虎を存分にもふる事が出来たのだった。


 甘いアイスを堪能してから、二人は虎に別れを告げて、再び並木道を歩いた。
「俺思ったんだけど……お菓子のカエデの木って無いかな」
 イチョウがあるなら、カエデだって。
「カエデリーフパイなら、メイプル風味かも」
 真剣に辺りを見渡すセイリューに、ラキアは思わず吹き出して笑う。
 さすが食への探求心旺盛(?)なセイリュー。
 ここでカエデときますか。
「パイじゃなく、メイプルクリームクッキーとか、もみじ饅頭が風に揺られているかもしれないよ?」
 そう返すと、セイリューの瞳が活き活きと輝きを増した。
「それなら色々なお菓子が食べられるから、すっげー嬉しい!」
 即答したセイリューに、ラキアは可愛いなぁと頬を緩める。
「一緒に探してあげるよ」
 二人のお菓子探しが始まった。

 見つけた植物は、躊躇なくセイリューが味見をして、お菓子であるか確認をしたとか。
「食べてみなきゃ判んないし?」
 二人で見つけた植物は甘い思い出となって、セイリューとラキアの記憶に残ったのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月12日
出発日 11月18日 00:00
予定納品日 11月28日

参加者

会議室

  • [10]羽瀬川 千代

    2015/11/17-23:43 

  • [9]アキ・セイジ

    2015/11/17-23:04 

    ひょこ)
    自分だって美味そうにカジってたクセにさ、セイジったら素直じゃねぇのな(笑

    ところで「キラリンタイガーと黄金色のトンネル」ってタイトルさ、ハリー☆ッターみたくね?
    シリーズ化の予感?…なーんてな(キラキラ)
    じゃ、皆またあとでなっ!

  • [8]アキ・セイジ

    2015/11/17-22:54 

    プランは提出できているよ。
    パイの葉を持ち帰る気満々なランスがはしゃいでるけど、俺は俺で興味しんしんだったり。
    イチャイチャ?
    …ばっ、何言ってんだよ(ふい

  • イサーク:

    ハイハーイ、皆サンご機嫌麗しゅう~♪(深々とお辞儀
    ボクは初対面だから自己紹介も兼ねてご挨拶するネ。坊ちゃんの伴侶、イサークと申す者デス。
    キラリン君にボク達のイチャイチャを見せつければアイスもらえるって話?
    フフーン、何だか面白そう☆って言っても坊やが乗ってくれるとは限らないケドー。

    何はともあれもしどこかで会ったら宜しくねー。

  • カイン・モーントズィッヒェルだ。
    パートナーは、イェルク・グリューン。

    ショコランドはこれで2度目か。
    ……キラリンタイガー……(ふむ)

    イェルク:
    ご紹介に与りましたイェルクです。
    あからさまにキラリンタイガーへほっこりしているのが私のパートナーです。

    ……って、いちゃいちゃ?

    いちゃいちゃ……(硬直)

  • [1]アキ・セイジ

    2015/11/15-00:15 


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