寝台列車の夜(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 北の方にあるとある都市で、ウィンクルムに関係する催しが開かれる。多くのウィンクルムや未契約の精霊などが集まる予定だ。

 会場はタブロスから離れており、移動手段の一つとして夜行列車が挙げられる。
 そういうわけで、あなたとパートナーの精霊は寝台列車に乗って北国の会場を目指すことにした。

 タブロス周辺から15時に出発。翌日の朝9時に目的地に到着。18時間の長旅だ。
 席は次の三種類の中から選べる。

 この寝台列車で最も贅を凝らした特別なゴージャスルーム。ベッドは広々とした横並びのツイン。内装も豪華で、ホテルのスイートルーム並だ。室内には、ドレッサーとシャワールームも設置されている。部屋着用のバスローブあり。ただし列車内で使える水の量の都合上、バスタブはない。
 大きな窓があって流れる景色も楽しめる。窓辺には、二人がけのソファとテーブルが置かれている。ロマンチックな夜景が見られそうだ。

 それよりもややグレードを落とした個室もある。
 椅子二脚とテーブルつきの二名用個室。機能性重視の質素な雰囲気だが、他の乗客に気兼ねすることなく精霊と二人きりの時間を過ごせるだろう。大きな車窓からは風景を鑑賞できる。
 ベッドは二段ベッド。上の方は視野が高い分窓からの眺めが良く、下の方は電車の揺れが比較的少ない。

 最も安いのが、二段ベッドの開放寝台。簡素な寝台に遮光カーテンがついているだけで、プライバシーの保証は最低限。小さな車窓から外を見ることができる。
 開放寝台では、精霊以外の乗客の気配も感じるだろう。人の目があるためあまりラブラブイチャイチャはできないが、リーズナブルな価格が魅力的だ。友達感覚のウィンクルムにオススメ。

 客席とは別に、自由にくつろげるラウンジコーナーもある。精霊と一緒に風景を見ても良いし、電車に乗り合わせたメンバーの中に友人がいるのならここで待ち合わせて談話するのも良いだろう。

 列車内には温水の出るシャワールームが備えられている。ゴージャスルーム以外の乗客はここを利用することになるだろう。使い切りのシャンプー石鹸類はあるが、バスローブはない。

 食事はダイニング車両で食べる形式だ。夕食と朝食の料金は席代に含まれており、和食と洋食が選べる。食事の豪華さは、選んだ客室の料金に比例する。

 ダイニング車両は夕食後にはバーとして営業しており、各種酒類やカクテルが注文可能。ソフトドリンクも用意されている。

解説

・必須費用(どれか一つを選択)
A 豪華ツイン個室:1組1000jr
B 質素ツイン個室:1組600jr
C 格安の開放寝台:1組200jr

・プラン次第のオプション費用
バーにて
アルコール類1つ150jr
ソフトドリンク:1つ100jr



・プランについて
EXエピソードです。リザルト文字数が通常より多くなっていますが、プラン文字数は従来のままです。
そのため、プランにない細かな描写や情景などは、GMが自由設定などから想像したり、オススメするものを書く形になると思われます。参加される際は、この点をご了承ください。
プランでは、これがやりたい、これは外せない、というものを優先して書かれることを推奨します。

ゲームマスターより

山内ヤトです。

移動の理由は北国で開催されるというイベントですが、リザルトで描写されるのは寝台列車でのやりとりになります。
電車に揺られながら、精霊とのお泊りです。ドキドキのシチュエーションですが、過度に性的なプランにならないようPL各位でお気をつけください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  個室B

●出発
「えっ?ごごごめ…もっと良い部屋、が良かったっ?」
個室の方が落ち着けるかな、とか
二段ベッド経験無さそうだから楽しんでもらえるかな、とか
色々考えた結果
ホッ

○夕食前後
列車内見学
夜行列車初な精霊に色々説明
ラウンジやダイニング車両で仲間見つければ顔を綻ばせ
挨拶や雑談

「本当?ヒューリの初めて、僕が沢山、あげられてる?」
嬉しそうに

夕食:二人とも和食

●夜
「眠れ、ない?」
上段からぶらりと片足見えれば声をかけ
テーブル挟み椅子腰掛け
他愛ない会話、流れる夜景を見てると段々瞼が重く
「…それ、も…ある、けど…」
僕がヒューリと一緒に居たいんだ…とほぼ寝言でつるり
心地良い列車の振動に良い夢見てるのか寝顔は微笑み



月野 輝(アルベルト)
  寝台列車って初めてだから楽しみにしてたの
個室だとは聞いてたけど、その豪華さに思わず目を瞠って
アルの顔を見たら済ました笑顔
ビックリしたわよ
嬉しいけど何だかドキドキする
だってここで二人っきりなのよね…

この鼓動をどうにかしないと
夕飯までの間に少し車内を見て歩きたいとアルを誘って
ラウンジに行ったら誰かいないかしら
友人達と会ったら少しお喋りできたら楽しいわよね

夕食後にバー?いいけど…何頼もうかしら
って、これ…カクテル?

覚えててくれたの?
あ!だからお部屋も豪華なの?

覚えててくれたのが嬉しくて
初めて飲んだお酒は何だか凄く甘く感じて
お部屋に帰ってからも夜景に夢見心地
ずっとこの腕の中にいたい…

いつの間にか夢の中



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  緊張気味の弓弦さんに、旅の楽しさを知って欲しいな
素敵な景色を一緒に楽しもうね
◆B
部屋に荷物を置き
落ち着いたらラウンジへ
誰かと交流するのも旅の醍醐味だよ

夕食は洋食
夕焼けの時間が良いな

食後にバーで夜景を楽しみつつ
ゆっくり1杯程飲んだら早めに寝ようと提案するよ
ふふ、明日は『早い』からね


日が昇る前に起きて
申し訳なさも感じつつ弓弦さんを起こすよ
おはよう弓弦さん…いいもの、見に行こっか
2人で静かに部屋を出て…夜明けを見に行くよ

寒空の朝焼け、この景色を見せたかったの
私ね…弓弦さんと一緒に、隣に居て旅が出来るのが…本当に嬉しいんだ

朝食は和食
しっかり食べて、今日は楽しもうね


夜行列車経験有(ミッドランド知識



真衣(ベルンハルト)
 

荷物をお部屋においたら、ラウンジにいくの。
他の人にあったら挨拶はきちんとする。
大人の女の人は礼儀もちゃんとするものよ、ってママも言ってたわ。
寝台列車もだけど、二段ベッドもはじめてね。
上でねてもいい?
そうなの?(小首傾げ
なら、ねるのは下にする。

ハルトは北のほうにいったことあるの?
今の季節ってさむいのかしら。
(こっくり頷き
あったかい上着はいちおう持ってきてるわ。

ご飯は洋食。

「ハルト、バーにいってみたいの」
大人のふいき(雰囲気と言いたい)にきょうみがあるの。
しずかにするからいってもいい?(旅の保護者におねだり

飲みものはぶどうジュース。
色だけはハルトとおそろいよ。(嬉しそうな笑顔
(宣言通り静かにする


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  寝台列車に乗れる機会は少ないですから。
思い切って豪華ツイン個室にします。

部屋に入ったら、内装を色々と見てみます。
こんなホテルなみの設備があるなんて驚き。

夕食までに車内もミュラーさんと一緒に探索しますね。
廊下からの眺めは部屋からの展望と少し違って見える気がします。
ラウンジでは夕陽を見ながら、他の皆さんとお話しましょう。催しはどんな感じなの?など聞いてみたいです。参加した事無いので。

食事も豪華で驚きです。
食べ始める前に1枚写真撮っても良いですか?
ゆったりとした雰囲気で食事ができて嬉しい。

夜になってから、お泊まりと言う事をようやく自覚しました!
部屋で一緒に夜景を見ているだけでドキドキです。



●駅にて
 タブロス近辺にある駅。少しずつ太陽が西に傾き始めた午後三時。五組のウィンクルムが、北国で開催されるイベントにいくための列車を待っている。
 学校や会社へ向かう日常の電車を待つのとは違い、旅行にいく時の電車を待つのはなんだかワクワクする時間だ。

「寝台列車に乗れる機会は少ないですから。思い切って豪華ツイン個室にします」
 『瀬谷 瑞希』の手には、豪華ツイン個室のチケットが握られている。
「ステキな列車の旅になりそうだね」
 『フェルン・ミュラー』は、北国のイベントに感謝した。この催しのおかげで、これから一晩可愛い瑞希と一緒に過ごせるのだ。フェルンは嬉しくてたまらない。
 フェルンは、列車を待つ瑞希の横顔に視線を向ける。二人は奥手な関係のウィンクルムだが、瑞希は特に緊張している様子は見られない。
 瑞希の性格からして、きっと彼女はこれを「移動中」と考えて「お泊まり」だとは思っていないからだろう。

 ホームでの待ち時間、『篠宮潤』は『ヒュリアス』に問いかける。
「ヒューリは、夜行列車乗る、の……これが初なんだ、よね?」
「ああ」
 前にヒュリアスは感動を知らないということを潤に話した。それ以来、潤はヒュリアスの心を動かすようなステキなものを一生懸命になって探している。途切れがちな口調から、他人に誤解されやすいが、本来の潤は積極的で活発な面も持っている。
 ヒュリアスの狼耳がピクリと動いた。列車が近づいてくる音を聞きつけたのだ。

 『真衣』は隣にいるパートナーを見上げて、アクアマリンの瞳を輝かせた。
「電車がきたみたい」
 温かな着替えを詰めた旅行カバンを持ち上げた。『ベルンハルト』とおそろいのねこ鈴キーホルダーが、チリンと可愛らしい音を響かせる。
 荷物を持って、二人は駅に停車した電車に乗り込んだ。

 電車の到着を今か今かと待ちわびていた『日向 悠夜』。
 そんな悠夜とは対照的に、精霊『降矢 弓弦』はやや緊張気味な面持ちで寝台列車を見つめていた。困惑しながら彼は小声でぼやく。
「悠夜さんが愛する旅を、僕も楽しみたい。……だが、どう楽しめば良いのやら」
 硬くなっている弓弦の肩を悠夜が軽快な調子でポンと叩いた。
「弓弦さんに、旅の楽しさを知って欲しいな。素敵な景色を一緒に楽しもうね」
 弓弦をリラックスさせるように、悠夜は明るい笑顔を見せた。
 悠夜は夜行列車でミッドランドを旅した経験がある。旅には慣れていたし、その楽しさもよくしっていた。

「寝台列車って初めてだから楽しみにしてたの」
 そう言って、『月野 輝』は傍らに立つ『アルベルト』に微笑みかけた。
「この電車には、スイートルーム並に豪華なお部屋もあるみたいだけど……。質素な個室でも充分よね」
 輝のその言葉に、アルベルトはただ秘密めいた沈黙で応えた。

●乗車
 部屋に入ると、瑞希はその豪華な内装を検分した。壁紙や調度品など、全体的に高級感のある雰囲気だ。
 格の違いはまず、足でわかった。豪華個室の中を歩くと、フカフカとした絨毯が足を包み込むように受け止めてくれる。列車の通路部分の素っ気ない床とは、歩き心地の時点で断然違う。
 二つ並んだツインのベッド。清潔で隙のないベッドメイキングだ。高さや材質の異なる枕が数種類も置かれている。好きな寝心地の枕を宿泊客が自由に選べるように、というサービスだ。
 絵本のお姫様が使うようなドレッサー。瑞希は鏡に近づいて、そっと自分の顔を映してみる。豪華な部屋に佇む自分の姿は、なんだか普段よりも大人びているように見えた。
 開放的な窓辺には、居心地の良さそうな二人がけの大きなソファ。そこから見える風景もまた素晴らしい。
「こんなホテルなみの設備があるなんて驚き」
 部屋を見渡して、瑞希はそう感想を述べた。
 瑞希がおおかた豪華ツイン個室を観察し終えたタイミングを見計らって、フェルンが声をかける。
「夕食までに車内をざっと見て回ろう。何かあった時の脱出経路も念のため確認しておきたいし」
 レジャーやイベントの時でも安全への注意を欠かさないのは、フェルンがロイヤルナイトだからだろうか。日頃から防災意識を忘れないのは良い心がけだ。
「はい。ミュラーさんと一緒に探索しますね」
 豪華な個室から出て、二人は車両内の探検を開始する。
 列車は穏やかに運行しているが、安全を気にするフェルンは念のため瑞希に手を差し伸べた。
「俺の手をつかんでいて。急に揺れたりしたら危ないからね」
「そうですね。ありがとうございます、ミュラーさん」
 瑞希はフェルンの手をとる。彼に支えられながら、寝台列車の車両を見て回った。

 二段ベッドのある簡素な個室。潤に案内されてその部屋に通されたヒュリアスは、しばし呆然としてからようやくこう口にした。
「……この部屋で、寝泊りするのかね?」
 若い男女二人が。
「えっ? ごごごめ……もっと良い部屋、が良かったっ?」
 慌てる潤。だが、彼女の心配している点はヒュリアスの懸念とはズレていた。
 潤としては、個室の方が落ち着けるかな、とか。二段ベッド経験無さそうだから楽しんでもらえるかな、とか。そういったことを色々考えた結果の上での選択だったのだが、ヒュリアスの声音で自分が何か失敗したのではないかと不安になる。
「いや。大丈夫だ」
「そう、なんだ……」
 大丈夫というヒュリアスの言葉に、ひとまずホッとする潤だったが……。
 ヒュリアスはコホンと咳払いをしてから、ちょっと厳しい顔になり真面目な声でこう言った。
「これまでにも何度か忠告したつもりなのだが、もう一度繰り返し言わせてもらおうかね……。ウル。仮にも年頃の女性が男と個室で宿泊するというのは……いかがなものかと思うのだよ」
 奥ゆかしい関係でいるヒュリアスらしい考え方だ。潤にそうお説教をしつつも、ヒュリアスはもはや言っても無駄と悟る。
 気分を切り替え、二人は個室から出て列車内の見学をすることにした。
 機能的なシャワールームが設置されている車両で、使い方の説明書きを読んでみたり。
 今は夕食に向けて準備中の食堂車を通りかかってみたり。
「わあ。良い匂い、が、するっ!」
「確かに」
 一度だけ、ゆったりと落ち着きのある動きで狼の尻尾を振るヒュリアス。
 寝台列車に乗るのが初めてというヒュリアスに、潤は次々に車内の設備を説明していく。
「ウルは……俺の経験ない事ばかりよく思いつくな」
 興味深そうに潤の話を聞いていたヒュリアスがそうつぶやく。
 その言葉を聞いて、潤はパッと彼に振り向いた。
「本当? ヒューリの初めて、僕が沢山、あげられてる?」
 嬉しそうな声で。真っ直ぐな眼差しで。潤はヒュリアスを見つめた。
「ああ。……ありがとう」
 感謝の礼を述べるヒュリアスだったが、彼の声にはかすかな躊躇がにじんでいた。
 潤はヒュリアスのために一生懸命になってくれている。それ自体はとてもありがたい。だが、頑張りすぎている彼女のことがヒュリアスは心配だった。

 二段ベッドのある質素なこの部屋が、真衣とベルンハルトが今日泊まることになる場所だ。
 気さくな関係の二人は、個室で宿泊というシチュエーションにも動じる様子はない。おしゃまな真衣と、優しくて子ども好きなベルンハルトは、良いパートナーだ。
 ベルンハルトはざっと室内を確認してから、荷物を邪魔にならないところに置いた。
 省スペース設計のせいで、部屋からは味気ない印象を受ける。しかしその分、便利で実用的な工夫がこらされており、派手さはないもののそれなりに快適な旅をおくれそうだ。個室なので、プライバシーが確保されている点も安心だ。
「ねえ、ハルト。ラウンジにいってみたいの」
 それから、真衣は少し大人びた口調を意識してこう付け足した。
「他の人にあったら挨拶はきちんとする。大人の女の人は礼儀もちゃんとするものよ、ってママも言ってたわ」
 真衣は個室にこもっているよりも、人と会う方が好きなようだ。
「たしか、俺たち以外にもこの列車にウィンクルムが乗っているはずだ。タイミングが合えば、彼女たちと会えるかもしれないな」
「そうね! 楽しみ」
 真衣は少女らしい朗らかさで、屈託のない笑顔を咲かせた。
 その楽しげな様子に、ベルンハルトもまた微笑を浮かべる。同年代の子供に比べてしっかりしている真衣だが、やはり子供だな、と思いながら。
 ラウンジへと出かける前に、真衣はふと室内の二段ベッドへと視線を向けた。彼女の視線は、主に上段の方へと注がれている。
「寝台列車もだけど、二段ベッドもはじめてね」
 ハーフアップにした黒髪をサラリと揺らしながら、真衣はベルンハルトへと振り向く。
「上でねてもいい?」
「上はそれなりに揺れるようだ。下の方が良いんじゃないか?」
 そうアドバイスする。
「そうなの?」
 真衣は小首を傾げて、しばし考えた。
「なら、ねるのは下にする」
 寝る時だけは下段を使い、起きている時は上段で眺めを楽しむ。真衣のベッドの場所は、そう決まった。ベルンハルトもそれで構わないと了承する。

 悠夜は迷いのない足取りで、自分たちの宿泊予定の部屋まで向かう。彼女の後を少し遅れて弓弦がついていく。
「ここが私達が一泊することになる部屋だよ」
 二段ベッドのあるシンプルな個室。窓辺にテーブルと二脚の椅子が置かれていた。
 悠夜は持ってきた荷物を部屋に置いた。悠夜の荷物は、必要なものだけをコンパクトにまとめた、といった感じだ。彼女が旅慣れた人間であることがわかる。
 弓弦も荷物を置き、珍しそうに室内を見て回った。そして、部屋に備え付けられていた椅子に腰を下ろした。
 ひとまず落ち着いたのは結構だが、このまま弓弦を放置すれば椅子にもたれて昼寝でもはじめそうだ。悠夜は弓弦が眠ってしまう前に声をかけた。
「ラウンジにいこうよ。誰かと交流するのも旅の醍醐味だよ」

 質素な個室のある車両とは別方向へと進んでいくアルベルトの背中に、輝が慌てて声をかけた。
「あら……? そっちにいくの?」
 不思議そうな顔をしながらも、輝はアルベルトについていく。
 アルベルトに案内されたのは、高級感のある広々とした個室だった。電車の中だというのに、ベッドを二つ横に並べられるほどの広さが余裕で確保されている。室内に置かれている調度品も上質のものばかりで、ハイクラスの部屋であることが一目でわかった。
「! この部屋って……」
 驚きと感動で、輝は思わず目を見張る。
 そんな様子の輝を見つめて、成功だな、と一人ほくそ笑むアルベルト。
「ビックリしたわよ」
 すました笑顔でいるアルベルトにそう伝える。嬉しいけれど、なんだかとても胸がドキドキして、輝はちょっと落ち着かない気分だった。
「だってここで二人っきりなのよね……」
 小声でこぼした自分のつぶやきのせいで、いっそうアルベルトの存在を強く意識してしまったらしい。胸の鼓動がトクトクと早くなる。
 この鼓動をどうにかしなければ。輝はアイディアを考える。
「アル。夕飯までの間に少し車内を見て歩きたいんだけど。一緒にいかない?」
 アルベルトを誘ってひとまず外に出ることにした。

●ラウンジ
 ラウンジでは、乗車したウィンクルム全員が顔を合わせることになった。
 夕日を眺めていた瑞希とフェルンが、人の気配に顔を上げる。
 廊下から、潤とヒュリアスがやってくるのが見えた。
 潤は顔をほころばせ、瑞希の近くの席に腰かけた。ヒュリアスは考えごとがあるらしく、潤から少し離れた場所に立っている。
「廊下からの眺めは部屋からの展望と少し違って見える気がします」
「そうだ、ね」
「こんにちは」
 ラウンジに顔を出した真衣は、そこにいたメンバーに挨拶する。小学三年生とは思えないほど、落ち着いてしっかりしたものだった。真衣は礼法の基礎を身につけていた。
 が、車窓から見える夕日を見た後、首を傾げて。
「ひょっとして……今は、こんばんは、の方が正しいのかしら?」
 と疑問を口にする。
 そんな様子が子供らしくて可愛いと、ベルンハルトは朗らかな笑みを浮かべた。ベルンハルトも、失礼のない程度に精霊たちと挨拶をかわす。
「わあ……!」
 のどかな男性の声が後ろから聞こえてきた。振り返れば精霊の弓弦と、悠夜の姿があった。
 広大な車窓から見える景色に、弓弦は思わず感嘆の声をあげたらしい。
「あ! みんな!」
 ラウンジに集まっているウィンクルムたちを見て、輝は親しげに近づいていった。
 アルベルトも、顔なじみの精霊たちに挨拶をする。

 五組のウィンクルムがそろったところで、瑞希が話題を振った。
「北の街で開催されるウィンクルムのイベントは、どんな感じなのでしょう? 私は参加したことないので」
「今度のイベントも同じかは保証できないけど、これまでの傾向によると……」
 今集まっているメンバーの中で、最もミッドランドの情報に詳しい悠夜が口を開く。
「きっと、ファンタスティックなイベントだと思うよ」
 その言葉に思い当たる者はコクコクと頷き、初耳の者は怪訝そうな顔をした。
「フ、ファンタスティック? よくわからないけど、とりあえず楽しそうなことはわかったかな」
 フェルンは瑞希がイベントを楽しむ姿を想像してみた。論理的な思考をする彼女が、笑顔を見せてくれたら良いと願いながら。
「聞いた話だと以前に開催された時には、美味しいアイスが出たとか……」
 のほほんとした口調で、弓弦が悠夜の話を補足した。
 人と話したり景色を見てくつろぐうちに、弓弦は肩の力が抜けていったようだ。そんな彼の様子を見て、悠夜は嬉しそうに目を細めた。

「……」
 思案顔で黙っているヒュリアスに、アルベルトが気づく。両者は仕事仲間というだけでなく、友人といえるほど親しい関係にいた。
 どこか様子のおかしいヒュリアスに声をかけ、事情を聞いてみるアルベルト。
「ああ、実は……」
 仲間との会話に夢中になっている潤をチラリと見てから、ヒュリアスは男女同室で宿泊することになってしまったのだと友人に打ち明けた。
「この状況をどうしたものかね……」
 クスッとからかうような笑い声と共に、アルベルトからの意見。
「変な気を起こさなければ問題ないのでは?」

 風景を眺めていた真衣が、ベルンハルトに話しかける。
「ハルトは北のほうにいったことあるの?」
「行った事はある」
「今の季節ってさむいのかしら」
「11月だから、タブロスに比べれば寒いだろう」
 ベルンハルトの言葉に、周りの者たちもしきりに頷きあう。イベント開催地となる北の街は、寒さが厳しいことで有名だった。
「上着は持って来てるか?」
 こっくりと真衣が頷く。
「あったかい上着はいちおう持ってきてるわ」
「それなら安心ね」
 輝が優しく微笑みかけた。

●夕食
「ミズキ。そろそろ夕食の時間だよ」
 フェルンが先導して、瑞希をダイニング車両まで連れていく。
 夕食は和食と洋食から選べるが、特に強い希望はなかったのでどちらにするか決めていなかった。ちょっと考えてから、瑞希は和食、フェルンは洋食を注文する。
 運ばれてきた食事は、スイートルーム級の個室用の夕食というだけあって、高級食材が惜しげもなく使われている。盛り付けや食器も美しい。
「食事も豪華で驚きです。食べ始める前に一枚写真撮っても良いですか?」
 フェルンは答えに窮した。瑞希の望みは叶えてあげたいが、外食時の写真撮影に関する是非は複雑で、店や料理人の方針によって意見が異なる。写真撮影がマナー違反になるかならないかの見極めが難しいのだ。寝台列車の食堂車では、いったいどういうルールが正解なのだろうか?
 フェルンはそっと係員を呼んだ。
 従業員の女性が穏やかな笑みで二人のテーブルに近づいてきた。食堂車の係員は、ここでは撮影を禁止してはいないこと、ただし他の乗客の旅情を壊さないように配慮してほしいこと、その二点を丁寧な口調で告げた。
 瑞希は周りの迷惑にならないよう気をつけ、集中して一枚の写真を撮った。撮影を終えると、瑞希はふうと息をついた。
「良い写真は撮れた?」
「手短に済ませるために集中しちゃいました」
 周りの人々へ配慮する瑞希の謙虚な態度を見て、フェルンは素直に好感を持った。
 その後は二人でゆったりとした気分で食事を楽しんだ。
 和食コースの茶碗蒸しを食べていた瑞希が嬉しそうな声を上げる。
「この茶碗蒸し、カニがこんなにたくさん入ってます。すごく美味しいです」
「美味しそうに食べるミズキが本当に可愛いよ」
 フェルンが頼んだ洋食コースのカニのビスクは、濃厚で贅沢な口当たりだった。

 ホカホカの料理を前にして、潤は手を合わせる。
「いただき、ます」
 潤もヒュリアスも、ダイニング車両では二人共和食を選んだ。
 鮭の炊き込みご飯には隠し味に適度のバターが入っていて、コクのある風味になっている。カボチャの煮物は、素材本来の自然な甘味があった。
「美味しい、ね!」
「ああ」
 潤がヒュリアスに微笑みかければ、彼もまた静かに頷いた。

 ダイニングで、真衣とベルンハルトは洋食を注文した。
 出された料理は、肉汁たっぷりのジューシーなハンバーグだ。コーンとアスパラガスとニンジンのソテーが、付け合せとして盛りつけられている。パンとスープとサラダ、それに飲みものがついている。
 料理そのものはさして珍しいものではないが、良い素材を使っているのか、美味しく感じられた。
 両利きのベルンハルトは、スムーズな動作でナイフとフォークを操り肉を切り分けた。
「両利きってべんりそう。どっちの手も同じぐらい器用に動かせるのね」
「そうだな。元は右利きだったんだが」
 自分の両手を見ながら、ベルンハルトはそう言った。

 悠夜と弓弦も夕食を食べにきていた。
「夕食は洋食コースで」
「僕も同じものを」
 まもなく料理が二人のテーブルに運ばれてくる。
 メインディッシュは、野菜のソテーが添えられたハンバーグ。バターロール、コーンポタージュとシーザーサラダもテーブルに並ぶ。飲みものはコーヒーか紅茶か選べた。
 弓弦は窓の外の景色に目をやった。
「悠夜さん、夕焼けがキレイだね」
「本当……」
 ラウンジで見た時よりも夕日はさらに深く沈んでいた。
 窓の外の景色を眺めながら、食事を楽しむ二人だった。

 輝とアルベルトのテーブルには、身の詰まった美味しいカニを惜しげもなく使った夕食が並べられた。一番豪華な部屋を選んだだけあって、出される食事もそれに見合うクオリティのものだった。
「この後、バーで飲んでいかないか」
「夕食後にバー? いいけど……何頼もうかしら」
 そう考えこむ輝の顔を見て、アルベルトはこっそり笑みを浮かべた。

●夜
 夕食を終えて、瑞希とフェルンは豪華な部屋へと戻っていった。
 フェルンは窓辺のソファに腰を下ろし、ゆっくりと流れる夜景を眺める。
「ねえ、ミズキ。山の切れ目から遠くに見える街の灯りは宝石箱のようにキラキラ輝いてとても綺麗だよ」
「あ、……そうですね」
 二人で夜景を見ているうちに、これは単なる列車での「移動」ではなくて、フェルンとの「お泊り」なのだと瑞希の認識が変わった。
 夜になり、お泊りということをようやく自覚した瑞希は心臓のドキドキが止まらなかった。
 部屋のソファで、フェルンと一緒にただ夜景を見ているだけ。静かだが、ロマンチックな時間が過ぎていった。
「……ミズキ?」
 しばらくして、フェルンは瑞希が寝息を立てていることに気づいた。旅の疲れと柔らかなソファの快適さが、彼女の眠気を誘ったのかもしれない。
 瑞希の安らかな寝顔を見て、フェルンは穏やかで満ち足りた気持ちになった。
「とても可愛いよ」
 起こさないように注意してフェルンは瑞希の体を抱きかかえ、そっとベッドまで運んでいった。
「おやすみ、ミズキ」
 フカフカの羽毛布団を瑞希の体に優しくかける。彼女が楽しい夢を見られるようにと願いながら、フェルンは部屋の照明をパチリと消した。

 二段ベッドの上には、ヒュリアスが寝ることになった。
「上段の方が、ね。窓の外、見やすいんだっ!」
 張り切った潤にそう薦められた。たしかに窓から見える眺めは、視点が高い分遠くまで見渡せる。夜は夜で光の輝きが美しい。窓に向かって仰向きに寝そべれば、星空を見ることもできた。
 下段にいる潤の穏やかな気配を身近に感じながら、ヒュリアスはしばらくの間ぼんやりと窓の外の夜景を眺めていた。
 そうしているうちに、過去の思い出がふっと心の表層に浮かび上がってきた。安らかな眠りの世界は遠ざかり、ヒュリアスの目はさえていく。
「……」
 二段ベッドの上段で静かに体を起こし、座った姿勢をとる。心に浮かんできたことをまとめようと、一人で考えごとをしようとしたヒュリアスに……。
「眠れ、ない?」
 気遣うような優しい声が、潤からかけられた。
 タイミングの良さに、潤に心の中を見透かされていたかのような感覚に一瞬陥るヒュリアス。が、知性ある彼はすぐに真相に気づく。座った姿勢になった時に、自分の片足をぶらりと無造作に投げ出していた。下段ベッドにいた潤には、その片足が見えたのだ。
 二人は、室内に置かれたテーブルを挟む形でそれぞれ椅子に腰掛けた。電気のスイッチを入れて、部屋にぼんやりと照明をつける。
 一定のリズムで刻まれるカタンコトンという心地良い揺れ。ヒュリアスとの他愛ない会話。そして車窓を流れる夜景。
 だんだんと潤の瞼が重くなる。油断すると眠さのせいで頭がグラグラするので、潤はテーブルに両手で頬杖をついた。
「……最近無理しとらんかね」
 約束したことへ義務のように必死な姿に、思っていたことをぼそりと口にするヒュリアス。
「……それ、も……ある、けど……」
 潤の眠気はそろそろピークに達しそうだ。頭を支えていた頬杖さえもゆるみはじめ、とうとうテーブルに突っ伏すように眠りに落ちた。
「僕がヒューリと一緒に居たいんだ……」
 つるりと潤の唇からこぼされたその言葉はほとんど寝言に等しかったが、ちゃんとヒュリアスの耳に届いた。潤の気持ちも一緒に。
 素直で温かな言葉に、ヒュリアスは目を丸くした。
「……」
 潤をこのままにしたらきっと風邪をひいてしまうだろう。寝入ってしまった潤を抱き上げると、彼女を下段のベッドまでそっと運ぶことにした。
 ヒュリアスは腕の中にいる潤に視線を落とした。彼女の寝顔をチラと見る。列車特有のリズムの振動に揺られて、良い夢でも見ているのだろう。その口元には微笑みが浮かんでいた。
 潤の寝顔を見つめていると、心に不思議な熱が湧くのを感じた。
 苦笑いをしてため息をつく。
(欲、というものだろうかねこれは……)
 心の中で、ヒュリアスはそうつぶやいた。

 夕食を終えて部屋でリラックスしていたベルンハルトに、真衣がこんな頼み事をした。
「ハルト、バーにいってみたいの」
 この寝台列車の食堂車は、夕食の時間が終わった後にはバーとしての営業をはじめる。
「大人の『ふいき』にきょうみがあるの」
「それを言うなら『雰囲気』だろう」
 優しく穏やかな口調で、ベルンハルトが真衣の言い間違いを訂正する。
「そう、ふんいき。しずかにするからいってもいい?」
 この旅における保護者のベルンハルトに、真衣は可愛らしくおねだりしてみる。
「そうだな」
 思慮深いベルンハルトは無責任な安請け合いはせずに、まずはバーのメニューを確認することにした。室内に置かれていた車内設備の案内パンフレットを見つけて、目当ての情報を探す。
「アルコール以外に、ソフトドリンクも飲めるようだな」
 パンフレットによれば、この寝台列車のバーは保護者同伴なら未成年も入ることができるようだ。もちろん、未成年のアルコール飲料の注文はできないが。
 バーでの静かな時間は子供には退屈かもしれないが、大人の雰囲気に憧れる真衣はそこにいきたがっている。
「わかった。連れて行くとしようか」
「うれしい! ありがとう、ハルト」
 寝台列車のバーへと向かう二人。カウンター席に、真衣とベルンハルトは並んで座る。高い椅子に真衣が座れるように、ベルンハルトはサッと手を貸す。
 カウンターには、初老の紳士といった風体のバーテンダーがいた。
「ワインを一杯」
「はい、かしこまりました。そちらの小さなレディのご注文はいかがなさいますか?」
「ぶどうジュースを」
 バーテンダーはお酒を飲めない年齢の真衣にも、丁寧に対応した。
 注文の品がカウンターに出される。ベルンハルトはワインのグラスを持ち上げ、真衣に視線を向けた。ベルンハルトの仕草をまねるように、真衣も同じくジュースの入ったグラスを持ち上げた。
 温かな視線と微笑みをかわしながら。
「乾杯」
「かんぱい!」
 ベルンハルトが赤ワインのグラスを傾ける隣で、真衣はフルーティなぶどうジュースを味わう。彼女ははしゃぎすぎることなく、宣言通りに静かにしていた。
「ほら。色だけはハルトとおそろいよ」
 ワインとジュースを見比べて、嬉しそうな笑顔を見せる真衣。
 可愛い事を言う。
「……」
 ベルンハルトは真衣の頭を撫でた。
 真衣は少しだけくすぐったそうな顔をして、ベルンハルトの手が自分の頭を優しく撫でる感覚を楽しんだ。
「すてき。これが大人のふんいきなのね」
 静かで落ち着いた時間を過ごす二人。バーには、控えめなボリュームでジャズが流れていた。

「夜の列車で月見酒……どうかな?」
 ラウンジで見た景色やダイニング車両で夕食をとりながら見た夕日が印象に残ったのだろう。今度は酒と月を楽しまないかと、弓弦が提案した。
「うん。それじゃ、ちょっとだけバーをのぞいてみようか」
 悠夜は彼の提案に賛同したが、ちょっとだけ、という部分を強調するのを忘れなかった。
 バーで車窓から流れていく闇とその中で瞬く光を眺めながら、ゆっくりと酒を一杯。
「ふふ、ステキな時間だね。もっとこの気分に浸っていたいところだけど……。これくらいにして今日は早めに寝ようか」
「え? もうかい?」
 時計を一瞥する弓弦。まだそれほど遅い時間ではない。
「……? よくわからないけど、悠夜さんがそう言うのなら、そうすることにするよ」
 早く寝ようという悠夜の言葉を弓弦は不思議に思ったが、旅慣れている彼女の意見を尊重することにした。
 バーでの月見酒を早めに切り上げて、二人は個室へと戻る。
「そうだ。二段ベッドの場所、どうしようか?」
「ああ。それなら僕が下段を使わせてもらっても良いかな?」
「うん、わかった。そっちの方が揺れが少ないから、眠りやすいだろうからね」
 そんな会話をしながら、パタパタと就寝する支度を進めていく。
「こんなに早いと明日は昼寝をしなくて良いかもしれないね」
「ふふ、明日は『早い』からね」
 意味深な笑みを口元に浮かべて、悠夜はベッドの上段に身を横たえた。
 パチリと部屋の電気を消す。
「おやすみ、悠夜さん……」
「うん、おやすみ」
 暗くなった部屋の中で、ベッドの上段にいる悠夜の気配が弓弦にはなんとなくわかった。列車の心地良い揺れとかすかな音を感じながら、やがて弓弦は眠りに落ちた。

 夜のバーに、輝とアルベルトが訪れた。
 先ほど夕食をとったところと同じ車両だが、場所を取り巻く空気はガラリと変わっている。音楽と老紳士風のバーテンダーの存在が、この空間をバーたらしめていた。流れているのは、探偵映画を思わせる小粋なジャズだ。
 輝がバーの雰囲気を味わっているうちに、アルベルトはスマートに注文を済ませた。自分用の水割りと、それから輝の分も。
 バーテンダーはオーダーを聞くと、熟練のプロらしい手つきでシェーカーを振り、中身をカクテルグラスへと注いだ。
 香り立つアルコールの香りに、輝は瞬きをして目の前のグラスを見つめた。
「って、これ……カクテル?」
「『ホワイト・レディ』。ジンをベースに、レモンジュースとホワイトキュラソーを加えたカクテルだ」
 大人の余裕を感じさせる口調で、アルベルトが答える。
 ここで老バーテンダーが従業員の一人に合図を送った。かけられていたジャズのレコードが入れ替わる。輝とアルベルトの特別な一時のために、店内のBGMを甘い恋を淑やかに歌ったレコードへと変えたのだ。
 切なくて大人の香りのする音楽に包まれながら、二人は視線を交差させ見つめ合う。
「誕生日おめでとう」
 アルベルトから投げかけられた言葉は温かくて、輝の胸は甘いときめきと感動でぎゅっとしめつけられた。
「もう20歳だからアルコールを飲んでも大丈夫だろう?」
 そう言って、笑顔で祝福してくれるアルベルト。
「覚えててくれたの?」
 輝の誕生日は11月20日。
「サプライズは成功のようだな」
 笑みをこぼすアルベルト。
「あ! だからお部屋も豪華なの?」
 やっと気づいたのか、とでも言いたげにアルベルトは肩をすくめた。その相手をからかう少し意地悪な仕草は、かつて輝が彼につけた『腹黒眼鏡』のあだ名を彷彿とさせた。
 でも、今はそんなことは気にならない。そのからかいは好意に満ちた温かなものだったから。
 アルベルトが20歳の誕生日を覚えていてくれたことが嬉しくて、輝は喜びで胸がいっぱいになる。
「このカクテルは『ホワイト・レディ』っていうのね。白くてキレイだわ」
 清純さと上品さが感じられるカクテルだ。
「ああ。輝に似合うと思ってな」
 初めて飲むアルコールに少し緊張しながら、輝はカクテルグラスに口をつける。隣にアルベルトがいるからなのか、その一口はなんだか凄く甘く感じられて。
「美味しい……」
 輝の初々しく可憐な姿を見守りながら、アルベルトは水割りを口にした。
 バーでの一時を楽しんだ後、二人は豪華な個室へと戻る。
 座り心地の良いソファでくつろぎながら、大きな車窓からの夜景を楽しみながら話をする。輝はうっとりと夢見心地で夜景を眺めていた。
「……輝」
 ふいにアルベルトの手が肩に回され、そっと近くに抱き寄せられる。無理にではなく、優しい力でだった。
 抱き寄せた手で、アルベルトは輝の頭を愛おしむように撫でる。彼女の顔を見れば、頬がほんのりと赤く染まっている。優艶だ。アルベルトはつい、輝の美しい表情に見とれた。彼女を抱擁するアルベルトの腕に力がこもる。
 ずっとこの腕の中にいたい……。心地良さにうとうとしながら、そんなことを思う輝。いつの間にか、アルベルトの腕に抱かれたまま夢の中。
「輝?」
 そう呼びかけても起きる気配はない。
 アルベルトは、眠る輝の顔にかかった黒髪を手櫛で丁寧にすいた。艶やかにうるおった輝の髪の感触が、アルベルトの指に残る。
「……今夜は理性との戦いになりそうだ」
 ため息混じりの独り言。
 苦笑しながら、アルベルトは眠ってしまった輝をお姫様抱っこして、彼女のベッドまで運ぶのだった。

●朝
 夜明け前の朝早い時間。ほとんどの乗客がまだ眠りにつく中で、悠夜はベッドから起き上がった。
 二段ベッドの梯子をそろりそろりと注意深く降りれば、下段でぐっすりと気持ち良さそうに寝ている弓弦の姿が見えた。
「起きて、弓弦さん」
 眠りを覚ましてしまうことに若干の申し訳なさを感じつつ、悠夜は弓弦を起こした。
「んー……?」
 弓弦は髪に寝癖をつけたまま眠たそうに目をこする。
「おはよう弓弦さん……いいもの、見に行こっか」
「いいもの……?」
 半分ぼーっとしながらも、弓弦は悠夜についていった。
 部屋を出て、人気のない廊下を静かに進む。辿り着いたラウンジは無人で、その広々とした窓からは昇る朝日が見えた。
 凍てつく冬の空気の中で、赤々と照る朝の光。空と大地が紫色に染まっていた。それは幻想的な光景だった。
「寒空の朝焼け、この景色を見せたかったの」
 弓弦からすぐに返事がなかったのは、彼が絶景に感動し、見とれていたからだ。景色を目と心に深く焼きつけた後で、弓弦は悠夜の方へと振り返る。
「嬉しいよ。こんなに素晴らしいものを見せてくれて」
 弓弦の表情は新鮮な発見に輝いていて、ホームで緊張しながら電車を待っていた時とはまったく変わっていた。
 その変化に気づき、悠夜もまた喜びを感じる。
「私ね……弓弦さんと一緒に、隣に居て旅が出来るのが……本当に嬉しいんだ」
「僕も、同じ気持ちだ」
 周囲には他の人間がいる気配は感じられない。今、ラウンジにいるのは悠夜と弓弦だけのようだ。
「弓弦さん」
「……悠夜さん」
 弓弦の手が、悠夜の手へと伸ばされた。そっと指を絡めて、悠夜は彼の手を握る。
 見つめ合う二人の顔が、どちらからともなく近づいていき……。
 甘くかすかな音と共に、互いの唇が触れ合った。

 ダイニング車両で、和食の朝食をとる悠夜と弓弦の姿があった。
 温かなご飯と豆腐と布海苔の味噌汁。氷下魚の干物とほうれん草のおひたし。各種漬物という献立だ。
「しっかり食べて、今日は楽しもうね」
「ああ、今日は思いっきり楽しもう」
 元気に笑い、北国での催しに備える。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月08日
出発日 11月14日 00:00
予定納品日 11月24日

参加者

会議室

  • [14]日向 悠夜

    2015/11/13-22:41 

  • [13]日向 悠夜

    2015/11/13-22:40 

    もうすぐ出発だね。
    私たちもラウンジでゆっくりしようと思っているから、皆とお話し出来るかもしれないね。
    夕食後は少しだけバーに顔を出そうと思っているから、そちらでも宜しくね。

    ふふ、素敵な旅になりますように!

  • [12]月野 輝

    2015/11/13-20:16 

  • [11]月野 輝

    2015/11/13-20:16 

    潤さん、お返事ありがと。
    私も、会えたらお話をするって感じで書いてるので、もしかしたらお喋りできるかもしれないわね。
    瑞希さんも会えたらよろしくね。

    ……?(アルベルトと潤さんの顔を交互に見て首傾げ)
    なに?どうしたの??

    アルベルト:
    「何でもない、気にするな。
    ああ、私達はプランを書き終わりました。列車内でお会いした場合はよろしくお願い致します」

  • [10]瀬谷 瑞希

    2015/11/12-22:51 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    私達は個室にしようと考えていますが、質素か豪華かは、迷っています。
    こんな機会はあまりなさそうですし。
    ラウンジにも顔を出すつもりです。

  • [9]篠宮潤

    2015/11/12-21:29 

    >輝さん
    僕たち、は、夕食前後の時間に列車内探索してる、から、
    プランには、一応、『ラウンジやダイニング車両で仲間見つけたら挨拶や雑談』って入れてる、よ。
    ………こ、今回これしか、絡み文入らなくって…orz 

    (アルベルトさんの小声に気付いて『ぁ』と出そうになった口をバッと抑え。目でこくこくこくっ)

  • [8]月野 輝

    2015/11/12-20:25 

    アルベルト:
    (小声で)
    輝はあんな事を言ってますが、私達は豪華ツインの予定です。
    ですが、輝には黙っておいてやって下さい。(何やらありそうな笑顔)

  • [7]月野 輝

    2015/11/12-20:23 

    みんな、質素ツインなのね。うちもやっぱりそうしようかしら……

    あ、そうそう。皆さんに聞いてみたかったんだけど、
    ラウンジに行く予定ある方いるかしら?
    もしお邪魔じゃなかったら少しお喋りできたら嬉しいなって。

    もちろんそれぞれ予定あるし、プラン文字数も厳しいでしょうから、そちらを優先してくれて構わないの。
    私達はラウンジに行くつもりだから、もし会えたらお喋りしましょって事で。
    良かったら考えておいてね。

  • [6]日向 悠夜

    2015/11/11-22:46 

    こんにちは。日向 悠夜です。パートナーは降矢 弓弦さん。
    よろしくお願いするね!

    ふふ、寝台特急なんて久しぶりだな~。
    部屋は豪華に行ってもいいかな、って思っていたけれど…弓弦さんが変に緊張しそうだからって言うから、
    私たちも質素ツインの個室を予定しているよ。

    折角の旅行だから、日が出ている内はラウンジでゆっくりしようと思っているよ。
    もしかしたら顔を合わせるかもしれないね。ふふ、その時はよろしくね。

    バーは行こうか迷っているよ。夜行列車に揺られながら飲むお酒は楽しいだろうけれど…あはは。

  • [5]篠宮潤

    2015/11/11-22:16 

  • [4]篠宮潤

    2015/11/11-22:16 

    篠宮潤、と、パートナーのヒュリアス、だよ。
    みんな、列車内でまた会えて、嬉しい、よ。よろしく、だ。

    僕たち、も、真衣さんと一緒、で、質素ツイン個室、の予定だよ。
    夜行列車も初めて、なら、二段ベッド、すら…初めて、なんじゃない、かな…ヒューリ…
    この部屋、なら、どちらも楽しめそう、かなって、思って。
    (「……」 何度『一応妙齢の女性が、男と個室で云々』を言わなければならんのだろう…と溜息つく狼一匹)

  • [3]真衣

    2015/11/11-21:31 

    真衣とベルンハルトです!
    よろしくね。

    月野輝さん……、輝お姉さんはじめまして!
    他のみなさんはおひさしぶりです!

    私とハルトは、Bの質素ツイン個室ってハルトがいってたわ。
    バーにちょっときょうみがあるの。

  • [2]月野 輝

    2015/11/11-20:51 

  • [1]月野 輝

    2015/11/11-20:50 

    こんばんは。月野輝とパートナーのアルベルトです。
    真衣ちゃんとベルンハルトさんは初めましてね。他の皆さんはお久しぶり。
    列車内で会えるのかは判らないけれど、会えたらお話とかできたらいいわね。

    皆さんはどの車両に乗るのかしら。
    私は……せっかくだし、ちょっと豪華にいきたいなって思ってるんだけど……
    どんな旅になるのか楽しみよね。皆さん、良い旅を。

    それでは……


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