バーチャル・バトル(東雲柚葉 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

あなたは、酸素カプセルのような機械の中に、精霊とともに入っていた。
 なにも休息をとるために入っているのではない。これは、『バーチャル・バトル』と呼ばれる戦闘演習に使う機械だ。
 運転免許を取るのに、ゲーム感覚で運転の練習をするバーチャルシステムのようなものがある。
 それに目をつけたA.R.O.A.は、新人ウィンクルムや戦闘に不慣れなウィンクルムに対して戦闘経験値を積ませるために、バーチャル・バトルシステムを導入した。
 これまで出現記録がとられているオーガの情報を入れ込み、ゲームの中で戦闘を行うことが出来る、というものだ。
五感すべてと意識をゲームの中にダイブさせ、まるで現実で戦闘しているかのような錯覚を脳に伝えるという高度な技術。現実に存在する肉体は、酸素カプセルのような機械の中に鎮座されており、まるで死んでいるかのように眠っている。
オーガによる攻撃を受けても体力ゲージが減り、0になったとしても現実世界へと連れ戻されるだけで、実際の戦闘とは違って身体的な苦痛はなく、精神的な苦痛も少ない。
風景も敵も現実なのではないかと疑うようなほど、精巧なグラフィックで作りこまれている。
 これほどの技術を運用するのは、並大抵のことではない。一朝一夕で出来るようなものではないことは、誰の目から見ても一目瞭然だ。
 同時に、驚くことにこの技術は一人の青年がA.R.O.A.に持ち込んだもので基盤部分が完成し、8割方が完成していた。簡単なデバッグ作業――主にテストプレイをA.R.O.A.職員が行った程度であり、ほとんどデータに手はつけていない。
 最初はテロか何かと疑ったが、ウィンクルムによるテストプレイを行っても特に問題は無く使用できたことから、心配は無いものだと判断し、今回本格的な戦闘訓練用システムとして導入されたのだ。
「……杜撰な管理体制だなぁ、と思うよ」
 仄暗い雰囲気をした青年が、何かの端末を片手で操作しながら呟く。
 丈の少し長いパーカーと癖っ毛が風に揺れる。
「ゲームの世界だから、死なないなんてそんなのつまらないよね。そんなぬるい戦いじゃあ、ウィンクルムの愛の真価は発揮できない」
 端末に浮かぶ文字は、『リアルシステム』という文字。
 青年は片手間で弄びながら、画面をタップする。
 すると、画面が突如として移り変わった。
 同時に、あなた達の眼前に、『リアルシステム』という文字が表示される。今まで確認されていなかった現象に、職員達が慌ててウィンクルム達を脱出させようとするが、カプセルが開かない。
 パニックに陥るあなた達に追い討ちをかけるように、突如として声が響く。

『こんにちは、ウィンクルムのみなさん。それから、A.R.O.A.の皆さん』

 カプセルのレンズ部分に画面が表示され、仄暗い雰囲気をした青年の顔が浮かび上がる。
『これからこのゲームは、命を担保にした戦闘ゲームに変貌する。実際に戦闘するのと何一つ変わらない、そういうゲーム』
 引き笑いを響かせ、青年は光と闇をぐちゃぐちゃに絵の具筆でかき混ぜたかのような瞳で、
『でも、安心して! 君達の愛が素晴らしいものなら、必ずクリアできるものだから!』
 言うのと同時に、あなたの意識が少しずつ薄れてゆく。ゲームの中にダイブしつつあるのだ。
『じゃあ、いい夢を、ウィンクルムさん。僕も一足先にそっちの世界に行ってるからさ』
 青年の絡みつくような言葉がトリガーだったかのように、あなた達の意識は途切れた。

解説

・今回のエピソードは、ゲームの中にダイブして戦うというものです。

・草原や森、廃工場や海辺など、様々なところにランダムで飛ばされ、Dスケールオーガ、ネイチャーと戦闘することとなります。出現する敵はそれほど強くはないですが、対処できないほどの数が襲い掛かってきます。
 どう足掻いてもどちらかが死んでしまう、という状況に陥った時、神人は、精霊はどのような行動をとるのでしょう?

・青年はデスゲームというようなことを発言していますが、安心してください死にません。戦闘で死ぬ描写をしましても、現実世界では無傷で生還します。
 愛を示しさえすれば、このエピソードは成功となります。

・戦闘は、個人個人で行います。一組一組が違う場所に飛ばされ、戦闘を行うので共闘することはございません。

・青年が戦闘に参加することがありますが、ソリッドビジョンなので攻撃してもダメージが入りません。攻撃してくることはございませんので、ご安心下さい。


ゲームマスターより

おはこんにちこんばんは、東雲柚葉です!

今回はゲームの中で戦闘するという、ちょっと変わった話です。
(ファンタジー世界でこれをしても、あまり特別感がないというのもありますが……)
敵の動きや、消え方などの描写はゲーム感覚で進行します!

では、たくさんのご参加お待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  目覚めたら慌てず深呼吸、現状の確認を行う
此方を故意に殺そうという気は無さそうだけれど
今は、この大群を二人で切り抜けないとね

前へ出てラセルタさんに近付かれないよう交戦
身を挺し庇う事で役に立てるなら、俺はそれを厭わない
でも、彼は二人で生きる事を諦めたりなんてしないから
俺も最後まで一緒に戦うよ。足掻いてみせる

幾ら上手く隠したって流石に分かる
それでもこの力を無駄に出来ないから
騙された振りをして涙堪え振り向かずに殲滅へ向かう

こんな力を手に入れる為に、俺は彼を好きになったんじゃない
ラセルタさんを返して
武器構えたまま青年を睨み据え

静かな怒りに拳握るも触れた温もりに脱力
…何でもないよ。少し許せない、というだけ



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  クリアして絶対にこの世界を脱出する
フィンと一緒に!

トランス化、ハイトランス・ジェミニ発動
魔守のオーブで俺が盾になる
フィンは銃で後ろから援護してくれ

フィン?
逃げろって…何言って…

同じだ
俺を助け、俺だけ逃がして死んだ幼馴染
彼も言った
俺だけは生き残れと

ふざけるな
俺はもう、二度と大切な人を置いて逃げたりしない!

罪悪感があった
己の無力を呪った
でも、何より後悔したのは、悔しいのは
一緒に最後まで戦えなかった事…!

同じ過ちは繰り返さない
誰より何より大事なフィンを、置いて逃げたりするものか!

足掻いて足掻いて、無様でも苦しくても俺はフィンと生きる道を、戦う道を選ぶ

だから、フィンの願いは聞けない
一緒に戦え、フィン!


李月(ゼノアス・グールン)
  新人戦闘訓練の筈が
展開にパニック
敵の数に体動かずただ恐怖
トランス要求に応え

相棒がちょっとだけ余裕ない笑みで自分を庇う体制を取っている事に気付く
少しだけ心に余裕が出来たのか名を呼べと言われた真意理解
無事確認に振り返っては隙になる
だから声で無事を知らせて欲しいのか

名を呼んで相槌が返り心強くなる
武器を持っていた事を思い出し
相棒の後ろから少しでも加勢しようと試み

相棒が傷を負っていく姿に非力な己が呪わしい
ジリ貧自覚

走馬灯
オレサマな精霊に纏わりつかれて大好きな読書がままならなくなった
だけどウザイけど最初程嫌じゃなくなった
じゃれつくお前が当たり前の存在になってた
死なないで‥


終了後
共に生きている事にただ感謝



セラフィム・ロイス(トキワ)
  ★舞台お任せ

嘘…ゲームの世界だろ夢であってよ。どうしたら
(タイガが居ない所で僕……こんな時タイガは…)
切り抜けるしかないんだ

■恐怖を堪え気丈に振舞う。撃ちつつ移動
トキワ
頑張ろう。僕だって今まで戦ってきたんだ
まずは囲まれないようどこかに潜伏しよう
援護射撃は任せて

うん。それがいいね

◆窮地間際。トキワのおかげでダメージ少
段々覇気がなくなってる…?)
トキワ傷みせて?応急手当で何とかなるかもしれない
毒か状態異常なのかなこれは…

!?血が…(トキワの)
反撃しなきゃ、トキワどいてっ
もう庇わないでいいから早く


…僕だけじゃ
タイガ…

自分勝手だ。いつも先にいって本心を教えてくれない
…足掻くよ。2人はそう望むんだろう?



☆李月 ゼノアス・グールン ペア☆ 

 目を覚ますとそこは、一面に緑色が生い茂る広大な草原だった。
 吹き抜ける風が、心地よく、太陽の光も暖かい。
 けれども、そんな光景を覆す絶望的な光景が、緑色を覆い尽くすように広がっていた。
 何十、何百、何千――夥しい数のヤグルロムが李月とゼノアス・グールンの周りに存在している。
「な、なにこれ……演習で出るのは、対応できる数だって……」
 李月は自分の口でそう発してから、はっとここに来る前の光景を思い出していた。謎の青年が突如として介入して来て、ゲームのシステムを命がかかっているものに変更してしまったのだ。
「ど、どうしたら……っ!?」
 理解して、パニックに陥る李月に、ゼノアスが促す。
「リツキ、トランスだ! ここを切り抜けるには、それしかないだろ!」
 はっとして、李月は促されるままにゼノアスに寄り添う。
 そして、李月は敵の挙動を伺うゼノアスの頬に唇を触れさせ、
「「終わりなき栄光のロードを共に!」」
 トランス出来る時間は長くない。一気に切り抜けなければ、殺られる。
 そう判断したゼノアスはクレイモアを構えて敵を見据えた。
 幸か不幸かで言えば明らかに後者だろうが、背後には巨大な岩石が鎮座しており退路を塞いでいる。ゼノアスは背後奇襲を警戒するため、李月を背に庇いつつ臨戦態勢。
「やるこた決まってる。敵を――ブッた斬る」
 刹那、ゼノアスの攻撃がヤグルロムに直撃する。
けれども、一撃で倒せない。
 余裕のない笑みで李月を庇う態勢を取っていたゼノアスだったが、覚悟を決めたように息をつき、
「こいつらはオレが殺る。オマエはオレの名を呼び続けろ」
 肩越しに振り返るゼノアスの瞳に、自己犠牲の色はない。すべての敵を引き裂くという色だけが煌々と燃え盛っている。
 李月はその決意に首肯し、
「信じてるよ、ゼノアスっ!!!!」
 ゼノアスは李月の声を聞いて、笑みを浮かべて頷く。
「おう! 任せろ!」
 ゼノアスの剣が敵に届くが、やはり一撃では倒しきれない。しかし、鬼神のごとき猛攻で数匹のヤグルロムを葬った。
 と、同時にヤグルロムが行動を移す。その行動は、幻影のデミオーガを出現させること。一度に三匹まで出現させることが出来るその能力はまさに数の暴力。
 呆気にとられたゼノアスに、ヤグルロム達の攻撃が一挙に降り注いだ。
「ゼノアス!?」
「大丈夫だ、急所には当たってねぇ!」
 まずい、と判断した李月が武器を取り出して戦闘態勢に。
 攻撃を繰り出してゼノアスを助けようとするが、ゼノアスの身体がどんどん傷つけられてゆく。相棒が傷を負っていく姿に非力な己が呪わしい。
 ゼノアスはどれだけ傷を負っても、攻撃の手を止めない。
 己の死は微塵も考えない。だが、自己犠牲でもない。
出逢いを待ち焦がれた神人を失わない為に全力を注ぐ。
 幻影を立て続けに切り付け、攻撃された幻影は次々と自爆してゆく。五歩分の空間が空き、一息をついた。
(オレはコイツと強くなるんだ)
 そして、ゼノアスが李月の方向を振り向くと。
 ヤグルロムの攻撃が、幻覚攻撃と共に李月に降りかかる寸前だった。
 犬歯をむき出しにして、ゼノアスがヤグルロムに剣を突き出す。
「オレの神人に触るんじゃネェェェーッッ!!!!」
 だが、間に合わない。
 李月の脳裏に、ざざ、と映像が流れる。
 オレサマな精霊に纏わりつかれて大好きな読書がままならなくなった。
だけどウザイけど最初程嫌じゃなくなった。
じゃれつくお前が当たり前の存在になってた。
死なないで……。
(死なないで――!)
 しかしその声は声にはならず。彼の体躯に強烈な一撃が直撃。
 ゼノアスが李月を呼ぶ声が木霊し、草原へと駆け抜けた。



「あ……」
 李月の意識が、現実へと戻された。
 目を覚ますとすぐに、カプセルを開け放ってゼノアスが李月を無理矢理起き上がらせる。
生きている。
身体のどこにも欠損は見られず、李月はゼノアスを見やった。ゼノアスも、無事そうだ。共に生きている事にただ感謝し、李月は安堵の息を吐く。
けれど、ゼノアスはまた違う心境に彩られていた。
――護りきれなかった。
ギリリ、と歯噛みし、拳を強く握る。
「クソッ……」
強くなりたい。
ゼノアスのそのひとことは、無機質な空間に木霊した。






☆セラフィム・ロイス トキワ ペア☆

 視界に広がる光景は、木々が生い茂り木漏れ日差し込む森林だった。
けれど、そんな光景を目の当たりにしても、セラフィム・ロイスの表情は晴れない。
 なぜなら。理由は一目瞭然だ。闊歩する生き物達の中に紛れる、異形の姿。
 ――何体にもなるヤックドーラの姿がそこにあった。
 ゲームの世界といえど、青年が書き換えた世界だ。ここで死ねば死んでしまう可能性すらある。
(タイガが居ない所で僕……こんな時タイガは……)
 恐怖感に苛まれながらも、切り抜けるしかないんだ、と覚悟を決める。
 トキワはセラフィムに聞こえないように舌打ちし、同じくして聞こえないボリュームで呟く。
「実戦経験が乏しいからゲームで演練できるって来たんだぞ」
 戦闘訓練の目的を阻害し、実戦と同じ状況へと陥れた青年に苛立ちを吐き捨てる。
「愛なんてねぇよ、ウィンクルムが全部恋愛間の愛だと思うな狂信者」
 まぁ、けど。と区切り、トキワは携帯していた携帯灰皿にタバコを押し付け、
「保護者として、アイツの息子の面倒はみねぇとな」



 生き残るためには目の前の敵を葬るもしくは、退路を切り開いて撤退する必要がある。
 セラフィムは震える手を押さえつけながら、銃を握る。
 そして気丈に振る舞いつつ、銃を発砲しながら移動を繰り返し始めた。
「トキワ。……頑張ろう。僕だって今まで戦ってきたんだ」
 セラフィムはいままでタイガとの戦闘を思い出しながら、どのように行動を起こすかを練り始める。
「まずは囲まれないようどこかに潜伏しよう。援護射撃は任せて」
 周りは木々だらけだ。隠れながら射撃を繰り返すのにはうってつけの場所と言えるだろう。
 震えつつも攻撃を繰り返すセラフィムに、トキワは笑みを浮かべながら、
「いっちょ前だな」
 ぽふっとセラフィムの頭に手をのせ、ぐしぐしと撫でる。
「先輩の指示に従ってやるよ。ああ、OK、援護射撃は任せる。スペードリングで威力増強といくか……いや、の前に」
 ヤックドーラがこちらの退路を潰すようにして形成している簡単な陣形を見やり、
「突っ切るなら手薄な所いくぞ」
「うん。それがいいね」
 トキワがパペットマペットⅡを発動。出現した鳥をヤックドーラの集団にぶつけた。トキワはセラフィムの手を取り、脱兎のごとく駆け抜ける。
 しかし。
 眼前に突如として躍り出てきたヤックドーラが、トキワを後方に吹っ飛ばした。
「ぐあっ!?」
 トキワに握られていた手が離れ、セラフィムもトキワと同じように地面に倒れる。
 くそっ、とトキワが起き上がり銃器を構え、周辺の状況を確認しようと視線を一周させた。
 それに続くように、セラフィムも銃を取り辺りを見渡して。
「なに、これ……どうしたら……」
 自分達を取り囲むようにヤックドーラが侵攻してきている。
 恐怖に身体が弛緩してしまったセラフィムに、ヤックドーラの攻撃が迫った。
 肉に何かが突き刺さるような音が響き渡り、続いて銃撃音が耳を打つ。
「トキワ……?」
 自分を護るように攻撃を続けてくれているトキワの動きが、目に見えるほど緩慢になっていっている。
「トキワ傷みせて? ……血が!」
 しかも、ただの怪我じゃない。これは、――麻痺毒。
 セラフィムが応急処置を施そうとすると、
「いらん。吸いだしゃ治る」
 トキワはそういって影から敵を睨む。そして、次の瞬間、
「!? 伏せろ!」
 突如としてトキワがセラフィムに覆いかぶさって姿を無理矢理隠させた。
「反撃しなきゃ、トキワどいてっ! もう庇わないでいいから早く!」
 セラフィムがトキワを押しのけようとするが、トキワはそれをさせじと覆い隠し続ける。
「いいから。俺が死んでもじっとしてろ。やり過ごせよ」
生半可にして虎坊主に恨まれたくねぇしな。その一言は胸中に留めつつ、トキワは笑みを浮かべてセラフィムを見やる。
 (僕だけじゃ、ダメなのか。……タイガ)
くじけそうになり、タイガの姿が脳裏にチラつく。
けれど、ここにはタイガはいない。
 なら。僕だけじゃダメじゃない。僕だけでもダメじゃないことを見せるんだ。
「自分勝手だ。いつも先にいって本心を教えてくれない」
何があろうと。足掻くよ。だって、2人はそう望むんだろう?
セラフィムは銃を取り出し、トキワを庇うように前に出て――、
たった一人でヤックドーラと対峙した。



突如暗転した視界から目を覚ますと、そこはカプセルの中だった。
「終わったの……?」
 ゲームが終了したことを理解して、脳裏にトキワの姿が思い起こされる。
「トキワっ!」
セラフィムが血相を変えてカプセルを開け放つと、そこには一服しているトキワの姿があった。
 トキワは、皮肉気な笑顔を浮かべながら、
「お前を残して、先には逝かないさ」
 と、煙と共に吐き出した。






☆蒼崎 海十 フィン・ブラーシュ ペア☆

 吹き荒ぶ熱風が全身を打ち、眼球が乾燥する。
 蒼崎 海十とフィン・ブラーシュは、溶岩が川のように流れ続ける火山に居た。
 オーガの姿はなく、デスゲームというには、些か優しい気もする。
 だが、油断は大敵。そう考え、海十はフィンとともにゲームの世界から脱出することを誓い、フィンは海十を護りきることを誓っていた。
 そしてその覚悟通りに、突如として火山が噴火し、火山噴出物――火山岩塊が降り注ぐ。
 刀を、銃を抜き火山岩塊を破壊しようと視線を集中させ、気が付く。
「これは……岩じゃない!?」
地面に降り注いだモノ。それは、火山から飛び出したヤックドロアだった。
反射的に海十とフィンが距離を縮め、海十がフィンの頬に口付けをし――、
「「共に往く、共に生きる」」
トランス状態に入る。
続けて海十がフィンの手を取り、手の甲に浮かぶ文様に唇を触れさせた。
ハイトランス・ジェミニ。トランスの上位にあたるトランスだ。
「魔守のオーブで俺が盾になる。フィンは銃で後ろから援護してくれ」
 海十がそう言い、約直径1mで円状の魔法力場を展開。半透明の力場が瞬時に展開され、降り注ぐヤックドロアを弾き返した。
 ガガガッ、と轟音を轟かせて魔法力場に衝突し続けるヤックドロアに照準を合わせて発砲し続けながらも、ひとつの懸念が胸から離れない。
(この数……こちらの体力が尽きたら……終わりだ)
 文字通り降り注ぐヤックドロアは、倒しても倒してもエンカウントが止まらない。
 このままでは、あと数分もしないうちにやられてしまう。
(考えろ。どうすれば、海十を守り切れるか!)
 フィンは思考を巡らせながら、銃口を敵に向け続ける。処理をし続けるハードディスクのように頭をフル回転させ、脳裏にひとつの解が導き出された。
「海十、俺が引き付けてる間に、逃げて」
 突然の発言に、海十は目を丸くしてフィンを見やる。
「フィン? 逃げろって、何言って……」
「振り返らずに走るんだ。海十だけは、生き残ってくれ」
 問いを投げかける海十に微笑みかけて、フィンが海十の前に立った。
肩越しに見えたそれは、まるで病床に伏した者が最期にみせるかのような微笑。
 海十はその笑顔を見て、ゾッとした悪寒に襲われる。
 同じだ。
俺を助け、俺だけ逃がして死んだ幼馴染。
彼も言った。
『俺だけは生き残れ』と。
 海十は血が滲むほどに強く刀を握り締めて叫ぶ。
「ふざけるな! 俺はもう、二度と大切な人を置いて逃げたりしない!」
 大切な人を失って、罪悪感があった。
大切な人を護れなくて、己の無力を呪った。
でも、何より後悔したのは、悔しいのは。
一緒に最後まで戦えなかった事……!
 海十は驚愕に目を見開いているフィンを追い抜いて、刀を振るう。
(同じ過ちは繰り返さない)
誰より何より――、
「大事なフィンを、置いて逃げたりするものか!」
 火山の噴火する音を掻き消すほどの気迫で、海十は覚悟を言い放つ。
「足掻いて足掻いて、無様でも苦しくても俺はフィンと生きる道を、戦う道を選ぶ!」
 海十は覆いかぶさるように飛び掛ってきたヤックドロアを回避し、フィンに視線をぶつけ、大きく叫ぶ。
「だから、フィンの願いは聞けない。一緒に戦え、フィン!」
 敵を斬り裂き、咆哮をあげて突き進む海十を見て、フィンは自分の放った言葉を反芻し、酷い後悔に駆られた。
 今自分がしようとしたことは、自分を逃がして死んだ兄さんと同じ事。
生き残った自分は、どう思った。
――後悔したんだ。
何を。
――……一緒に戦えなかった己を。
銃声が響き渡り、海十を襲おうと近づいてきていたヤックドロアが倒れる。
「……海十には勝てないな」
 自分を追い越していった海十の隣に立って、しっかりと目の前の敵を見据える。
「そんな風に言われたら……海十と一緒に戦って生きる以外の選択肢なんてない」
 そしてしっかりと、隣に立つ大切な人の存在を確認する。
 隣に立つ愛する人間を悲しませないためにも、自分も死ぬことなく護り抜く。
 それが、本当の意味で大切な人を護るということだから。
「有難う、海十。何があっても最後まで一緒だよ」
 先程見せた笑顔とはまったく別物の表情を浮かべて、フィンは海十を見やる。
 そしてその視線を受けて、
「もちろん!」
 海十も力強く微笑みを返した。



 突如としてブラックアウトした視界が回復した。
 海十が夢か現かも覚めやらぬままにカプセルを押し開けると、隣で同じようにしてカプセルを開け放った者の姿が映る。
 しばし顔を見合わせて、ふと微笑みがこぼれた。
 助かったという喜びと、もうひとつ大きな喜びと覚悟。
 二人は未だ武器を掴んでいる感覚の残る掌を硬く握り、
 それぞれの覚悟をもう一度胸の奥に刻み込んだ。






☆羽瀬川 千代 ラセルタ=ブラドッツ ペア☆

 カツン、カツンと廊下に響く無機質な足音。
 羽瀬川 千代とラセルタ=ブラドッツは、廃工場の中で追ってくる敵の目を欺くために物陰に身を潜めている。
 突如として廃工場に飛ばされた時は驚いたが、千代が冷静に慌てず深呼吸、現状の確認を行うことで的確な行動をすることが出来た。
「成程、リアルシステムというだけはある」
 オーガ独特の雰囲気や、戦闘の緊迫感。それに、手に持つ武器の質感を確かめてラセルタは感心するように頷いた。
「冷静になるのはいいけど、感心している場合じゃないよ……」
千代の視線の先では、夥しい数のヤックハルスが止め処なくエンカウントし続け、狂ったように廃工場の壁に爪をぶつけている。
 そして、そのオーガを統括するように立っている仄暗い雰囲気をした青年。青年が手に持つ端末が操作されるたびに敵が出現しているところから察するに、あの青年をどうにかすればいいのだろうか。
「……此方を故意に殺そうという気は無さそうだけれど。今は、この大群を二人で切り抜けないとね」
 ヤックハルスの数もさることながら、ここは廃工場。死角が多い。不意打ちの攻撃を避けるために、敢えて見晴らしのいいところに移動することにする。
 工場の中心部分、制作現場に足を踏み入れると、そこには気分が悪くなるほどの数に膨れ上がったヤックハルスの姿があった。
 ラセルタは想定よりも多い敵の数に眉顰めつつも、拳銃を取り出して照準を定める。同時に千代と付かず離れずの距離を保ち、己の方へ敵を惹きつけるよう動く。
一方の千代は、前へ出てラセルタに近付かれないように交戦を開始する。
(身を挺し庇う事で役に立てるなら、俺はそれを厭わない)
 でも、と心の中で否定の語をつぶやき、
(彼は二人で生きる事を諦めたりなんてしないから、俺も最後まで一緒に戦うよ。足掻いてみせる)
 二人が力を合わせてヤックハルスを討伐していると、突如として絡みつくような声が耳を打った。
「こんにちは、調子はどうかな」
 まるで挨拶でもするように、青年が言い放つ。
「お前が、このゲームの首謀者か?」
 ラセルタが青年を睨みつけながら問う。
「やだなぁ、怖いよ。僕はただ、君達の愛がどれほどか見たいだけなんだ」
「愛だと?」
「愛には試練が付き物でしょ?」
 言うや否や、大量のヤックハルスが二人に殺到する。
 捌き切れる数ではなかった。例えるならば、轟音を轟かせる川に逆らって歩こうとしているような、そんな感覚。
後が無い、そう判断したラセルタは、千代を引き寄せ攻撃を庇いながら額に口付けをし、続けて頬に口付けを落とす。
「静かに、微睡みが近寄るように」
トランスからハイトランス・オーバーへと移行し、ラセルタの力が千代に流れてゆく。
ヤックハルスの攻撃を受け切りながらも、ラセルタは苦悶の表情を見せずに不敵に笑う。
「……時間が切れる前に全て薙ぎ払え。千代ならばやれる筈だ」
 とん、とラセルタが千代の背中を押す。
ラセルタは表情を上手く隠しているが、千代にはすぐにわかってしまう。
けれど、ラセルタが遺してくれたこの力を無駄に出来ないから。
「わかった……倒してくるよ」
千代は騙された振りをして涙堪え、振り向かずに殲滅へ向かう。
力強く踏み出した千代が振り向かないのを確認した後に、
ラセルタは微笑みを浮かべたまま倒れ伏した。
「神人のために命を投げ打つ。僕はそういう愛の形も嫌いじゃない。力も、愛を護るために必要なもののひとつだからね」
 青年は千代の前に立ち塞がり、そんなことを口にする。
「こんな力を手に入れる為に、俺は彼を好きになったんじゃない」
 千代は青年を鋭く睨みつけて、刀を構える。
「ラセルタさんを返して」
 呟くような声だったが、凛としたその一言は大量のヤックハルスが動き回る騒音の中でも一際大きく響き渡った。
 千代の刀がヤックハルスを斬り捨て、青年の心臓に届く数瞬手前で。
「クリア条件は達成、だね」
 千代の視界が突如として暗転した。



 千代がカプセルを開け放つと、すでにカプセルから出てきていたラセルタと視線が合った。
 ラセルタがカプセルを開けて、千代の手を握る。
「どうした?」
千代は静かな怒りに拳握るも、触れたラセルタの温もりに脱力。
それでも腹の虫が収まったわけではなく、千代は怒気を孕んだ表情を形成しつつ、
「……何でもないよ。少し許せない、というだけ」
 と呟く。激昂していることは誰の目から見ても一目瞭然だ。
ラセルタは、初めて見る千代の怒気感じる表情に頬を挟んで、
「そう、怖い顔をするな。似合わんぞ」
 千代はラセルタの暖かい手に挟まれて、拳と表情から力を抜き、不貞腐れるようにラセルタの胸に額をぽんと乗せた。






●終劇

 端末を操作しながら、青年がホテルのベッドから身を起こす。
 ゲームの中に入るには、カプセルの中か頭に直接ヘッドギアに似た装置を取り付けなければならないので、こうしてホテルの一室を使っていたのだ。
「今回も、愛が見れてよかったなぁ。それもあんなに間近で見られるなんて夢のようだよ」
 恍惚の笑みを浮かべてそう呟いた後、すぐに表情を一変させて、
「でも、やっぱりどれだけ現実に近づけてもあれは現実じゃない」
 青年は、端末を軽くタップして、つまらなさそうにベッドに放り投げる。
「次はどんな愛が見られるのかワクワクするなぁ」
 窓から見えるA.R.O.A.を眺めながら、青年は楽しそうに、興奮が冷めない子供のように笑みを浮かべる。
 次はどんなウィンクルムの愛が見られるのか。
 青年は、それだけの理由で森羅万象を引っ掻き回す。
「これはもう必要ないね」
 そう呟いた青年の手元にある端末画面に出力されている文字は、『オールデリート』。
 バーチャル・バトルシステムは削除され、この世から消え去った。
「じゃあ、今度は現実で会おうね、ウィンクルムさん達」



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 東雲柚葉
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 11月06日
出発日 11月12日 00:00
予定納品日 11月22日

参加者

会議室


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