夢と現の境界線(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「あいつ、どこに行ったんだ」

 枯れ木が立ち並ぶ山道を、精霊は走っていた。
 デミ・ワイルドドックの群れが出たから、討伐してほしい。
 そんな依頼を受けてやってきたのだが。

「まさか途中で相棒見失うなんて……ったく」

 別行動の作戦が仇になったと、舌打ちが漏れる。
 相棒も最初の頃とは違い力強い存在にはなってきたが、さすがに放っておけるわけもない。それに、まだ敵もすべて倒したわけではないのだ。

「とりあえず奴を見つけて――え?」

 細い道を駆け抜ける最中、黒いワンピースの女性が見えて、精霊は思わず立ち止まった。
 彼女の方も、精霊の存在に気付いたのだろう。ゆっくりと振り返る。

「あら、そんなに急いでどうしたの?」
「どうしたって……あんたこそ、どうしたんだよ。こんな場所で危ないだろ」
「危ない? 危ないことは、もうだいぶ昔に終わったわ」

 女性が笑う。しかし当然、精霊には彼女の意味することがわからない。
 彼女は肩にかけていたトートバックの中から、スケッチブックと鉛筆を取り出した。
 服が汚れるのも構わず落ち葉の上に座り、真っ白なページを開く。
 さらさらと描くのは、写真さながらの男の顔だ。
 しかしそれを描き上げると、女性はそのページをびりびりと破ってしまった。

「昔。彼はここで、オーガに殺されたのよ。ところで、あなた。どうして急いでいたの?」
「俺は、相棒を探していたんだが」

 夢うつつのような再度の問いかけに、精霊が口を開く。
 すると彼女は。

「そう言えば、さっき男の人を見たわ。彼があなたの相棒かしら?」

 スケッチブックの新しいページに、まさしく探し求めていた相棒の姿を描き始める。
 だが、その姿は……オーガに襲われていた。
 敵の牙が、相棒の首を今にも切り裂こうとしている。
 こんなことはあるわけがないと思いながらも、精霊の鼓動はどくりとはねた。
 それを知ってか知らずか、彼女はそのページを丁寧に切り離すと、今度は破らず、精霊へと差し出してくる。

「あげる」
「いや、いらねえよこんなの!」

 言ったが、女性はその絵を、精霊の胸へと押し付けた。

「……私の悪夢、終わらないの。なのにあなたの相棒ばかり助かるのは、ずるいわ」

 そのとき、遠くで聞こえるは犬の声。

「くそっ!」

 精霊は、彼女の絵を捨てて走り出した。

解説

さて、この先精霊は、デミ・ワイルドドックと戦っている神人を見つけます。
(デミ・ワイルドドックの数=神人のレベルの合計÷参加ウィンクルム数
要は神人のレベル平均と同じ数だけいます。端数は切り捨てます)

デミ・ワイルドドックとは、野犬がデミオーガかしたものです。
ぶっちゃけ、そんな脅威ではないかと思います。
まあ数の暴力って言葉もありますが。

今回は、相棒がオーガに襲われる姿を見た精霊が、どんな行動をとるかというお話です。
そこからなにかを思いだしたり想像したり、いつもの精霊とは違う雰囲気に結び付けて使っていただければと思います。

みなさんのプラン次第ではありますが、デミ・ワイルドドックは話を彩るスパイス的な何かですので、戦闘描写は薄めになるのではないかと思っています。
ただし、プランでバトルに触れないのはNGです。

成功条件は神人と精霊のコンビネーションにあります。
仲良しがすべてではありません。それぞれのウィンクルムらしい行動をしていただければよろしいかと。

なお、任務の途中なので基本的にトランス、もしくはハイトランスはしている設定です。
(トランスのタイミングは、プランに書かなくて大丈夫です。ただしハイトランス済の方は、その旨を記載ください。文字数は大切だと思いますので、プラン頭に済とでも書いていただければ構いません)
ただ、描写的にそれが欲しい、必要! という方は、プランに記載いただければ書かせていただきます。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
戦い慣れたウィンクルムも、たまには悩めばいいと思います(ひどい)

こちらはウィンクルムごとのエピソードではありませんので、協力して任務を遂行してくださいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  ハイトランス済み
姿は見えないが分け与えられた力が俺の中にあるなら
無駄には出来ないな
初めての感覚を確認するように槍を握り締める
先に始めてるぞリン

槍のリーチも使い敵を巻き込み、仲間が包囲されないよう立ち回る
自身も囲まれないに越したことはないが
流石に数が多いか
背後を許したと思ったらデミの様子が何かおかしい

…いや噛まれてるのはアンタだろ
槍で引き離しながら応じる
どこから出てくるんだ
無茶苦茶な奴だな
アンタ人の事を言えないぞ 

負傷者には薬入れの傷薬を使用
リン、手当てする
言ったものの上手くはないので、リンの指示を聞きながら手を動かす
文句の一つでも出てくる頃かと思ったが
謝罪の意味を問えずいつか見た背の傷を眺める



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ◆戦闘
分断された事に歯噛み
囲まれたら流石の俺達でも数の暴力的にヤバイぞ
咄嗟に盾を発動し味方HPを+25

バラけるな
時間を稼いで相棒を待とう
狭い場所に敵を誘い一度の交戦数を減らすか
建物を背にして戦おうと声をかけ戦う

魔法が来たら内心安堵
でも気を緩めず、攻勢
魔法から気を逸らさせるよう前に出て鞭を大きくグルリ回し
犬達を範囲的に打ち据える

◆戦闘後
有難う助かったよ
俺達の誰が欠けてもダメだからな
もう離れないよ(ぽん

奇妙な話だなと興味
彼女の念が影響してるとか…あるかもなと、2人で彼女を探す
わかった風なことは言えないけど、
気持ちは聞けるしぶつける相手にもなれる
いつまでもココに留まっていても貴女が辛くなるだけですよ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ある程度敵を凌げば、必ず精霊達が駆け付けくれる。
絶対の信頼。
それまでここに居る皆で協力して敵対応だ。
「大丈夫、頑張ろうぜ」と皆を勇気づける。

オレが一番防御力高そうだ。
敵の攻撃を防ぐように一番前へ。
他の皆が負傷する可能性を少しでも減らしたい。
剣で敵を攻撃し敵の数を減らすぜ。
敵1匹に自分達が複数になるように攻撃し、敵の数を確実に減らす。
皆の動きに気を付け負傷を減らさなきゃ。
ラキアが来たら「待ってた!」と笑顔。

ラキアからシャイニングスピア貰えたらそこからは自分の刀とスキルのカウンターで敵攻撃。
ラキアのMP不足時はディスペンサ。
ランスさんのスキル発動前にはその効果範囲から避けるよう位置取り。



新月・やよい(バルト)
 

新人の皆様と共闘
ぼ、僕にも出来る事を精一杯やろう(震声
バルト達を見つけたら合流を
「ふぁあああ!バルトォオおおおお!!(歓喜」

戦闘は前衛
バルトと共に敵を少しでも多くひきつけます
彼の右目を補うように、声をかけながら
後衛には手出しさせませんよ
「大丈夫です!これ位の怪我、何てことありません」


●戦闘後
経験から怒られるかと思って思わずガード
…え?
「…えっと、はぐれた事…怒ってますかね?」
君の言葉が温かい
はい、すみません、なんて微笑んで

「大丈夫、そう簡単に僕は消えはしませんよ」
「トチメンボーの仇も取らねばなりませんし」
これは冗談ですが

…貴方が来てくれて、本当によかった
優しい人で、本当に


 木々の間を抜けて走った広場。
 神人四人の前では、三十匹ほどのデミ・ワイルドドックが唸り声を上げている。
「……失敗したな」
 それを苦り切った顔で睨み付け、アキ・セイジは歯噛みした。
 敵はたかが犬である。ウィンクルムを分断する策があったとは思えない。
 だからこそ、こんな状況になったのは完全に、自分たちの失態だ。
 ぐるぐると喉を鳴らし牙を見せ、今にも地を蹴ろうとしているデミ・ワイルドドックの群れ。
 新月・やよいが怯えた眼差しを向ける。
「だ、大丈夫ですよね……」
 緊張に、嫌な汗をかいている。
 そこで声を発したのは、セイリュー・グラシアだ。
「ある程度敵をしのげば、必ず精霊たちが駆けつけてくれる。大丈夫、頑張ろうぜ!」
 彼はそう言って、太刀『鍔鳴り』の柄を握った。腕を伸ばし、すらりと刀身を引き抜いていく。
 煌めく刃に、やよいがごくりと息を飲んだ。
「そ、そうですよね……僕も出来る事を、精一杯やろう」
 声が裏返る。それでも勇気を出して、短剣『コネクトハーツ』に手をかけた。
「囲まれたらさすがの俺たちでも、敵の数的にやばいぞ」
 セイジが手にとるのは、攻撃のための武器ではない。魔導書『オリジン・オブ・ライフ』だ。
 歴史を感じるその本を開くと、中の絵が動き活字が踊り出した。目に見えない生命の息吹が、仲間に満ちていく。
 自分の身体にみなぎっていく力を、神人の四名は確かに感じていた。
 ハティには、さらに初めてのハイトランスの力もある。
「姿は見えないが分け与えられた力が俺の中にあるなら、無駄には出来ないな」
 彼は『チエーニ軍専用槍』を握り締め、敵を見据えた。
「皆、バラけるな! 時間を稼いで、相棒を待とう!」
 セイジの言葉に、それぞれが頷き、ハティが呟く。
「先に始めてるぞ、リン」

 オレが一番防御力高そうだ。
 仲間を見回した後、セイリューは敵の攻撃を防ぐべく、最前へと進んでいった。
 体を張るわけではないが、他の皆が負傷する可能性を、少しでも減らしたい。
 太刀を扱う彼はリーチが長いため、距離のあるうちに敵を攻撃できるという強みもあった。
 それは槍を持ったハティにしても、同じことだ。
「……敵に包囲されないようにしなければ」
 とくに短剣を使うやよいは、攻撃のためには、どうしても敵の体近くまで行かなくてはならない。
 その背後に別の犬が……などということは、あってはならないのだ。
 前線で、セイリューとハティは迷わず武器を振るう。
 セイリューの刃が犬の背を切り、ハティの槍の切っ先が、敵の額をついた。
 それを見、彼らの後ろから声を上げたのがやよいだ。
「あ、あの、僕も!」
 自分だってウィンクルムだ、相棒が来るまでの時間稼ぎくらい、できる。そう自分に言い聞かせた。
 震えそうになる足を叱咤し、セイリューとハティに並ぶ。
「行こう……!」
 しかし、短剣を握り突っ込んでいこうとするやよいの耳に届いたセイジの声が、彼を踏みとどまらせた。
「囲まれたら厄介だ。狭い場所に敵を誘い、皆で囲み込もう!」
 そう言ううちにも、敵はこちらに近づこうとしている。
 セイジはウィップ『ローズ・オブ・マッハ』を、デミ・ワイルドドックの眼前に叩きつけた。
 しなった鞭が地面を打ち、驚いた敵が一歩引く。
 もちろん先を咥えられでもしたら厄介だから、すぐに戻さねばならない。
「わかった!」
 さきほどのセイジの言葉に、真っ先に答えたセイリュー。
 しかしその時、ちらと横を向いたのが、いけなかったかもしれない。
 グルル、と唸り声をあげたデミ・ワイルドドックが、その瞬間、セイリューの前で大地を蹴ったのだ。
「うわっ!」
 敵の牙が、セイリューに迫る。太刀で切るには近すぎる。
 ハティは横から、セイリューの前の敵へと槍を突き出した。
 それは見事犬の横腹へと突き刺さり、敵はそのまま地に落ちる。絶命はもはや、時間の問題だろう。
「あ、ありがとう!」
 笑顔のセイリューに頷きを返し、ハティは再び前を見る。どうにか皆で敵を一か所にまとめなければならない。
 セイジの鞭は器用にも、誘導するように敵を打っている。
 やよいは震えながら、自らに向かってくるものには刃を向けた。
 せめて自分くらいは守りたい、のだ。

 ※

 さて、時間は少し戻って、女性と精霊の出会いの場。
「セイジ!」
 ヴェルトール・ランスは金色の髪を揺らして、振り返った。
 女性が見ているのはわかったが、そんなものはどうでもいい。
 今はなにより、神人たちを見つけるのが先だ。
「トランスが切れてねえとこをみると、そう遠くには行ってねえだろうが……」
 まっすぐに続く森の道に、ブリンドが目を凝らす。
 トランスが切れたらあいつは、と考えかけて、頭を振った。
 そんなくだらない想像は、今は必要ないのだ。
「大丈夫、これで居場所がわかるよ」
 ラキア・ジェイドバインが、荷物の中から『宿命の羅針盤』を取り出す。
 最愛の人のいる方角を指し示すというアイテムが、セイリューのいる場所を指していることには疑いがない。
 そしてそれは、木々の間をまっすぐに指し示していた。
「やっぱりあっちか!」
 勢いよく走り出すバルト。それに一同が続く。
 そのとき、ちらり。遠い視界の先の木の陰に、動くものが見えた。
「……新月?」
 目を細めても、何と認識できるほどの距離ではない。だからそれは、バルトの望みでもあった。
 その余波は仲間に伝わり、それぞれが相棒の名を呼ぶ。
「ってことは、ハティもそこにいんのか」
「セイジもだな!」
「セイリュー……案外近くてよかったよ」
 ラキアはほっと肩を下ろした。しかし、安心してもいられない。
 だってあのセイリューだ。きっと皆を護るために、最前線に立っているだろう。
「……早く合流しなくちゃ」
 ラキアの唇から、呟きが漏れる。
 他の誰も、答えない。それぞれが、少しでも早くと願っているからだ。

 ※

 一方神人たちは、もはや何匹のデミ・ワイルドドックを相手にしているかもわからなくなっていた。
 犬が増えているわけではない。余裕がないのだ。
 こんな時にランスの魔法があったらとセイジは思ったが、それは決して表に出さない。
 不安は不安を呼ぶだけ。けして良い効果は生まない。
 セイリューの太刀が敵を両断し、ハティの槍が体を突く。
 やよいの短刀は皮膚を切り、セイジの鞭は、筋肉を打った。
 だが、すべては一匹ずつ。確実にしとめるには都合がいいが、その間、別の犬が大人しくしているわけではない。
 倒れた仲間を踏みつけ乗り越え、敵は前に――神人たちの方に進んできている。
 じりじりと縮む両者の距離。
 頼るわけではないが、誰もが精霊を求めていた、そのとき。
「新月!」
 聞き覚えのある声と同時に、周囲に不自然な霧が発生した。
 さらにそれを上書きするような、強烈な光。
 武器を手にしたまま、セイジは息を吐く。
 さっきの大音声は、目的の人物のものではなかった。けれどこの霧は、相棒の魔法だと知っている。
「……来てくれたか、ランス」
「……ラキアも」
 セイリューは唇に笑みをのせた。彼もまた、鮮やかな輝きは、相棒の力によるものと気付いている。
 これで、仲間が護られるのだ。

 突然視界を奪われて、敵は戸惑っているようだった。だが彼らには人間よりもよほど立派な嗅覚がある。
 餌が目の前にいて、逃げるやつなどいないのだ。
「……くそ」
 ハティが武器をきつく握る。
 バルトの声が聞こえほかの二人の魔法があるなら、ブリンドだっているはずだ。
 案の定。
 ――ガウン!
 銃声が響く。それはハティの視界の先にいたデミ・ワイルドドックに当たった。
 キャウン、といかにも愛らしい犬さながらの声を上げて、敵が転がる。だが当然、これで終わりではない。
 しかしその数を把握しきれていなかったことが、不幸といえば不幸だったのかもしれない。
 ウウウ。背後から聞こえた犬のうめき声。
「しまった……!」
 ハティが振り返る。飛び掛かってくるデミ・ワイルドドック。牙が近い。そこに。
「群れとは聞いていたが、なんだよこの数は!」
 ブリンドはハティとデミ・ワイルドドックの間に無理矢理身体を滑り込ませた。
「おいハティ首の皮繋がってっか、よっと」
 平然とした顔で現れた相棒に、ハティは顔をひきつらせた。どっか噛まれでもしたかと聞いてくれるのだが。
「……いや噛まれてるのはあんただろ」
 敵とハティ。対峙する間に無理矢理押し込んだ左腕には、犬がついている。
 ハティはその背を掴み、槍で牙を押さえこむようにしながら嘆息した。
「どこから出てくるんだ、めちゃくちゃな奴だな」
「どっからもクソも、こんだけいて前も後ろもあるかよ」
 ハティたち神人にとっては、ブリンドが来たのは一応後ろのつもりではあったのだが、傍目にはそうはわからなかったものらしい。
「っていうか噛まれていたら盾を持っている意味がない」
「お前それ言うか!? いいだろ、ラキアがいるんだから!」
 回復役がいるから怪我をしていいという道理はないが、確かに心強くはあるものだ。
「皆、大丈夫?」
 そう言いながらやってきたラキアは、セイリューにシャイニングスピアを放った後、次なる呪文を詠唱中だ。
「ラキア、待ってた!」
 光の輪を見にまとったセイリューの笑顔に、ラキアは頷くことだけで答える。
「よし!」
 セイリューが太刀の柄を握り直す。
 これでしばらくは、デミ・ワイルドドックの牙も爪も、この光輪に跳ね返される。
「行くぞ!」
 彼は単身、敵に向かって突っ込んでいく。その背中を、ラキアの視線が追う。
 セイリューが仲間を護るように行動するのは、わかりきったことだ。
 心配がないと言えば嘘になる。でも、頼りになるのも事実。
 だからこそ、早く呪文を完成させて、彼をもっと近くでサポートしたい。

 バルトはやよいを背中に庇うようにして、デミ・ワイルドドックの前に立った。
「ふぁああああ! バルトォオオオオ!」
 やよいは思わず、バルトの背中に抱き付こうとした……が。そこには、バラを模した食人植物が絡みついている。
 バルト自身も両手剣『サクリフィキウム』を持ったまま振り返り、「おま、寄るな!」と叫んだ。
「あぶねーだろ、大人しくしてろ!」
「大人しく……バルトが来てくれたから、百人力です!」
 当初は敵を前に震えていた、やよいとは思えない強い口調だ。
 これが聞こえた神人たちは一瞬目を瞬かせたが、皆もそれぞれ同じようなものである。
 相棒が隣にいてくれるというのは、それだけで心強い。だから皆、武器をとることができるのだ。
 やよいが自分の右隣で短剣を握り直す姿は、眼帯により視野が狭くなっているバルトにはわからない。
 ただ、空気は動いた。
 跳躍するドック。やよいが小刀を突き出し、バルトの剣が振り下ろし、犬が地に落ちる。
 だが、タイミングが悪い。尖った爪が、やよいの肌をかすめたのだ。
「おい、今」
 たかが擦り傷。されどとバルトは口を開くが、やよいは視線を向けもしなかった。
「大丈夫です! これくらいの怪我、なんてことありません。それより次、来ましたよ、バルトさん!」
「ああ!」
 傍らで聞こえる、相棒の声。それを聞きながら太刀を振るい、敵を倒した瞬間に、バルトは思いだす。
 片目とともに失ったたくさんの戦友や、後輩たち。
 もし俺がもっと強かったら、いろいろな人が助かったのかもしれない、なんて。
 ――考えている時じゃないな。
 バルトはすぐに、眼前のデミ・ワイルドドックへと意識を戻した。
 もうしばらくすれば、ランスの魔法も完成するだろう。

 セイジはあえて、敵から目線を動かし、ランスを探すことはしなかった。
 前衛で戦うことが、おそらく後方にいるだろうランスを敵から守ることになるからだ。
「ランスに恥じないためにも、しっかりやらなければな」
 あえて敵の注意を集めるために、大きな動きで武器を持つ腕を降り上げる。
「これ以上前には進ませない!」
 風を切り、しなった鞭が、敵を打つ。
 正面、右手。左手奥は、ブリンドの弾丸が仕留めた。
「おいハティ、こっちに犬たまってんぞ!」
「待ってくれ、あと一匹がなかなか……うわっ!」
 すばしこく走って近づいてきた敵に、ハティが一歩引く。焦って槍を突き出すも、それは地面をえぐるのみ。
「ハティさん!」
 やよいが敵に覆いかぶさるようにして短剣を向けるが、それは尻尾をかすめただけだった。
「ああ、駄目だ!」
 そこに、セイリューの太刀が降る。それで目的の一匹の動きは止まったが、別の角度からまた一匹。
 敵は大きな刀を下ろしたばかりのセイリューの足首に噛みつこうとした……が。
「セイリュー!」
 光輪を自らの身にまとったラキアが、彼を庇うように突き飛ばす。
「ラキア! ……オレ、お前のシャイニングスピアがあるから、まだ大丈夫なのに」
「……ごめん、わかっているけど」
 ラキアは少し先にいるブリンドに視線を向けた。先ほど彼は、敵の攻撃を受けている。
 今はここでセイリューと並ぶより、サンクチュアリを唱えることが先か。
 躊躇った一瞬に、ランスの声が響く。
「お前ら、絶対そこ動くなよ!」
 ランスの前、中空に生まれた魔法陣から、光の筋が照射される。
 輝きを受け、倒れるデミ・ワイルドドック。
 今までの戦いで地に伏している犬を横目に、ランスは走った。
 敵もだいぶ減っている。これでやっと、セイジに声をかけることができる。
 草を踏んで彼のもとにより、ランスはぐっと親指を上げた。
「セイジ、待たせたなっ」

 ※

 その後戦闘はしばらく続いたが、最終的に敵は殲滅された。
 そして、帰路に着く前のこと。

「わっ……」
 やよいは思わず、顔の前に手のひらを持ち上げるようにして、自身をガードした。
 仏頂面のバルトが近付いてくる。これは絶対怒られるパターン……! と思いきや。
「……え?」
 とん、と頭に置かれた手が、優しくやよいの髪を撫ぜる。
「……えっと、はぐれたこと……怒ってますかね?」
 恐る恐るガードを外せば、温かい腕がやよいを抱きしめた。
「……怒ってる」
 と小さな声。
「どれだけ心配したと思ってるんだ」
 震える音に、やよいは「すみません」と返す。
 本当はこれだけでは足りないことはわかっているが、深刻になるのが嫌で、あえて微笑みを作った。
「大丈夫、そう簡単に僕は消えはしませんよ。トチメンボーの仇もとらねばなりませんし」
 そこでバルトは腕の力を緩めて、にいと笑う。
「ああ、そいつは死ねないな。食の恨みは何とやらだ」
 戦闘後、初めてあった二人の視線。
 ……無事でよかった。
 ……貴方が来てくれて、本当によかった。優しい人で本当に。
 声にならない想いは、互いの瞳に確かにあふれていた。

 さて、一方。
「リン、手当てする」
 ハティは持参した傷薬を手に持ち、ブリンドのところへとやってきた。
 ブリンドは、先ほど犬にかまれた腕を持ち上げる。
「するほどのもんじゃねーだろ。他のけが人にでも渡してやれよ」
「それはもう行ってきた。だから次はお前の番だ」
「……そりゃあ」
 ブリンドは口をつぐんだ。それならばもう、断る術がない。
 コートの下の傷はそんなに深いものではなかった。それに安堵しつつ、ハティは薬を手に取る。
 自分から治療を申し出たが、けして慣れているわけではない。
 最終的にはブリンドの指示に従い手を動かすだけになったのだが、ブリンドは何一つ文句を言うことがなかった。
 ただ黙って、ハティの不器用な手付きを見守っている。
 そして、突然。
「……悪かったな」
「……え」
 謝罪の意味を、ハティは問うことができない。
 ただ黙って、ブリンドの背中を眺めていた。厚い布の下には、いつか見た古い傷がある。

「有難う、助かったよ」
 セイジはランスに笑顔を向けた。戦いの最中には告げることができなかった言葉だ。
「俺たちの誰が欠けてもダメだからな。もう離れないよ」
 そう言って、ランスの頭にポンと手を置く。
 ランスは嬉しそうに尻尾を揺らしたが、そのまなざしはすぐに真剣なものとなった。
「それにしても……皆が皆して綺麗に分断されるのはおかしいぜ。実はさ……」
 ランスが、ここに来る前に出会った女性の話をすると、セイジは「奇妙な話だな」と言う。
「彼女の念が影響してるとか……あるのかもな」
「だな、ちょっと探してみようぜ」
 二人はすっかり静かになった森を歩きまわった。
 しかし先ほどの場所にも、それ以外のところにも、女性の姿は見えない。
「……いたら、彼女も一緒にこの森を出たかったのに」
 ちょこんと垂れるランスの耳。まあまあ、とそれをセイジは撫ぜる。
「彼女が何者かはわからないが……悲しいことだな」
「でも……俺だってセイジがそうなったら、辛すぎて気持ちをぶつけずにはいられないかもだし」
「俺も……ランスがそうなったら」
 そう考えかけて、セイジは首を振った。そんなセイジの手をランスが握る。
「一緒にいられることが、一番だな」

 帰り道、セイリューはラキアと並んで歩いていた。
 もう敵はいないし、ラキアは隣にいるし。問題なんてまったくない。
 セイリューの頬には自然と笑みが浮かぶ。
 それを見、ラキアも今更ながら、安堵の息をついている。
 あの現場にたどり着く前にも、セイリューが皆を励ます声が聞こえていた。
 いつも彼は、こうやって勇気を与えてくれる……けど。
「今度はこんな別々にならないように、気を付けようね」
「ああ、そうだな。ラキアが来てくれるってわかってたとしても、やっぱ最初から一緒がいいし」

 風が森を抜けていく。
 そこにもう、犬の吠える声は聞こえない。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 11月04日
出発日 11月12日 00:00
予定納品日 11月22日

参加者

会議室

  • [11]新月・やよい

    2015/11/11-23:46 

    改めて皆さんよろしくお願いします。
    人が増えて嬉しい限りです。

    アキさんのスキルの件は承知いたしました。
    そんな不具合が合ったとは露知らず、恐れ入谷の鬼子母神とはこのことで。
    (意味が通じなかったらすいません)
    複数スキルのバグでしょうか…。

    こちらは先に申しましたようにローズガーデンで防御を固めて
    敵を少しでも引き付けるようにと仮プランを提出してきました。
    本番ではよろしくお願いいたします。

  • [10]ハティ

    2015/11/11-23:14 

    なんと……。スキルの件は了解だ。アキさんは報告ありがとう。
    こちらは入れ替えがなかったから気付かなかった。
    不具合が起きているということならこのまま弄らない方が良さそうかな。

  • [9]アキ・セイジ

    2015/11/11-22:53 

    現在、ランイのスキルのセット機能に不具合が発生しております。
    ●のついた三個が外せなくなっています。

    ●カナリアの囀りⅡ
    ●天空の涙
    ●お日様と散歩
    朝霧の戸惑い
    一筋の希望

    《お日様》を外して《恋心》を入れ、《朝霧》の後は《一筋》と《恋心》の使い分けをしようと思ったのですが、そのシステムのエラーによりスキルのつけはずしができない状態です。

    直すよう要請はしますがプランのシメキリには間に合いません。
    したがって、《朝霧》のあとは《一筋》と《お日様》の使い分けになります。
    MPと相手HP的に非効率ですが、そういう事情ですので、ご容赦ください。

  • [8]ハティ

    2015/11/11-22:34 

    敵の数より六人が八人になった事の方が大きいな。セイリューさんとラキアさんもよろしく。
    俺達はとりあえず数を減らすことを最優先に、相手を選べるまで減らした後は詠唱の妨害阻止や討ちもらしの対応に回れたらと思う。
    スキルは緊急時用に発動の速さでファストガンと、射線が開けた後用にダブルシューターを設定している。

  • セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
    今回も皆ヨロシク!

    ごめんヨ(≧人≦)、敵わんこ増えちまった。
    ざっと数えて29~30匹ぐらい?
    当初の見積もりの約30匹という事でorz
    神人の人数が増えた分有利だから、皆で頑張ろうぜ(親指グッ!)

    オレは前衛の予定。出来るだけ敵を引き受けるが敵数が多すぎだな。
    ラキアは合流後即【シャインスパーク】で
    ランスさんの【朝霧】発動までの敵命中率低下と神人達の負傷回復を担当。
    皆の負傷具合によっては【サンクチュアリⅠ】で更に回復。
    その後前衛に入って壁かな…って考えてる。

  • [6]ハティ

    2015/11/10-20:57 

  • [5]ハティ

    2015/11/10-20:56 

    ブリンド︰
    プレストガンナーのブリンドとハティも追加でよっしく。
    多少数が減るかねぇ。俺らも一体ずつ地道に片してく事になりそうなんだが、数的にハティにもハイトランスジェミニで切り込んでもらおーかと思ってる。
    覚えたばっかでハイトランスが一時間ともたねぇから状況的にちと悩むとこだが、まァ合流を急ぐってことで。

  • [4]アキ・セイジ

    2015/11/10-18:07 

    ありがとうな。
    背後にはネオチしないようクギを刺しておく。

    うん、うちの29匹目のワンちゃんも頑張ると思うんで。

    ランス:俺は犬じゃない。オオカミだっ!

    俺:うおん。

  • [3]新月・やよい

    2015/11/09-00:16 

    数のことはお気になさらず。
    むしろ腕を磨く良い機会かと思いますしね。
    アキさんヴェルトールさんと共闘できて光栄です。一緒にがんばりましょう。

    持久戦も考えた方がいいのかと考え
    防御を上げてカウンターを行う【ローズガーデン】に致しましょうかと思います。
    範囲の技を持ってませんので、確実に各個撃破していきますね。

    ヴェルトールさんの詠唱が終わるまでは、神人と28匹目のわんちゃんでひきつけると言う事で・・・

    バルト:俺は犬じゃない

    新月 :わん・・・!

  • [2]アキ・セイジ

    2015/11/08-01:50 

    お、成立したな。よろしくなー。

    すまん…約30匹ワンちゃんの数の暴力は主に俺のせいだなorz
    怪我させないように頑張るんで許してくれ。
    うん、27匹は約30(コクリ
    >デミ・ワイルドドックは話を彩るスパイス的な何か
    だそうだが、4人で27匹なので一応ちゃんと戦っておきたい(汗

    戦闘はとりあえず互いの相棒を音のする方へと走ることで見つけ、それから…って感じかな。
    なにしろ敵の数が多いんで、ランスは敵の命中率とか回避率を下げる範囲魔法【朝霧】ってのを使うよ。

    俺は近接武器で応戦していると思う。新月さんと一緒にカバーしあって戦ってていいだろうか?

  • [1]新月・やよい

    2015/11/08-00:20 

    こんばんは。新月と相棒のシンクロサモナー、バルトです。
    よろしくお願いします。

    このままですと(約)30匹わんちゃんと戯れる…のでしょうか。
    バルト含めて前衛を希望しておきますね。
    作戦とかは特にないので、もしもご意見頂けましたら、
    合わせていこうと思っております。

    バルト:…ん?27匹が約30…?

    新月 :(にぱぁっ)


PAGE TOP