秋空の下、きみがよむ物語(京月ささや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

随分肌寒くなってきたな…と感じる季節。
あなたは、太陽が少し高くなってきた午前10時ごろ、ある場所にパートナーと共にいました。
今日はデートをしようと、あなたのパートナーに誘われたのです。

あなたのパートナーが行こうと誘ったのは、タブロス郊外に新しくできた図書館。
その図書館では色んな書物が収められていて、誰でも自由に出入りが可能です。
そして、この図書館が話題になっている理由は、カフェの併設。
そう、この図書館では、本を読みながら、図書館の中にあるカフェで
紅葉を楽しみながら、ゆったりと本を読むことができるのです。

あなたは周りを見回しました。
郊外の森の中に作られただけあって、本のあるフロアはとても広いのです。
そこで、パートナーとあなたは、こういう約束をしました。

『お互いに本を選んだら、カフェで合流してそこで一緒に本を読もう』

そして…パートナーは、こんな事を言ったのです。

『お互いに思い出のある分野や物語が書かれた本を借りてこよう』…と。

どうしてパートナーがそんな事を言い出したのかはわかりませんが、
あなたは、なんだか面白そう…とOKを出したのでした。

そうして、あなたとパートナーは、それぞれフロアの左右にわかれて
本をさがしはじめたのです。

そうして、少しの時間が経過したあと…あなたはカフェのソファに座っていました。
そこは、森の紅葉がよく見える席。
あなたは1冊の本を持って、パートナーを待っています。
すると、パートナーが現れました。彼も、本を1冊、持っていたのです。

あなたの座るソファに座ったパートナーは、手にしていた本をテーブルに置きました。
そしてあなたも、持っていた本をテーブルに置いたのです。

そしてあなたたちは、本を読み始めたのでした。
自分にとって特別な思い入れがある、その本を…

解説

●目的
 紅葉の見えるカフェ併設の綺麗な図書館で
 思い出の詰まった本と一緒にパートナーとゆったりと過していただきます。
 本を読む相手の姿を観察するもよし、互いに質問をなげかけるもよしです。
 また、図書館に誘ったのは、神人・精霊のどちらでもOKとなります。

●図書館について
 タブロス郊外の森の中に、つい最近できた新しい図書館です。
 新しいですが、収蔵されている本はたくさんで、古い書物から新しい本まで
 さまざまな書物が置かれています。
 また、この図書館は『本が読めるカフェ』が併設されていることで話題をよんでいます。
 この図書館では、借りた本を持ち帰ることはNGとなっていますのでご注意ください。

●参加費について
 図書館への交通費としてお一人300ジェールを頂戴します。

●カフェメニューについて
 以下のメニューを頼むことができます。 ※すべてホット・アイスが選べます
 カフェラテ:50ジェール
 コーヒー:50ジェール
 ハーブティ:50ジェール
 紅茶:50ジェール
 パンケーキ:100ジェール
 フレンチトースト:100ジェール

●図書館のクローズ時刻
 図書館が閉まるのは夕方の6時になります。
 5時になると、閉館1時間前のアナウンスがなります。

ゲームマスターより

ご無沙汰しております、GMのささやです。
久しぶりのエピになります、ご無沙汰しておりました!
紅葉の楽しめる図書館で、皆様の絆や愛情などを深め合って頂ければと思っております。
ゆったりとした秋のシーズン、是非ごゆるりと秋ならではのひとときをご堪能ください。
皆様のご参加、お待ちしております☆

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【持ってきた本】
シリーズものの恋愛小説(第1巻)

これは二人のクルージング旅行の時に読んだ本です
それまでは恋愛小説とかくだらなさそうだなって思ってましたけど、案外面白いんですよね。

ディエゴさんの本は…、!?
どうしたんですか、なんでそんな本を
まさか私みたいに読み書きを忘れてしまったとか…?

…そうだったんですか、その本を使って私に読み書きを教えたんですね
その頃のことは、覚えてませんけど…
それでも貴方に面倒を見てもらわなければ、私は今頃どうなっていたかわかりません、もしかしたら死んでいたかも。

だから私も照れ臭い発言をしますが
…とても感謝しています。

ディエゴさん、教師に向いてるかもしれませんよ。


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  本の種類が豊富って聞いていたけれど、その通りだね
弓弦さんを誘えて良かったなぁ

一冊を見つけたら
先に座って本を読んでいる弓弦さんの元へ行くね

お待たせ弓弦さん
どんな本を読んでいるの?
友人と語り合った、歴史小説…
青春の思い出がたっぷり詰まった本なんだね

私の方はね旅に出ていた時に異国で出会った本なんだ
そう言って本を弓弦さんに渡すね

弓弦さんの疑問には少し声を潜めて答えるね
実は、この本…私が訳したんだ
作品に一目惚れしてね
作者さんの元へ押しかけて翻訳させてくれって直談判したんだ

こうやって形になるまで色々あったけれど…
弓弦さんに、読んで欲しいな
◆本
美しい表紙の文庫本
内容は異国の伝承を元にしたファンタジー小説



アマリリス(ヴェルナー)
  思い出…、どうしようかしら
本棚を見回し、悩んだ末に1冊抜き取って席へ

わたくしはこれです、と言ってマナー教本を机に
何度も何度も読み返した思い出の本です
楽しいかどうかは、別ですけれどね

…なんというか
思い出と言っているのにお互い実用書を持ち出すあたり
案外わたくし達は似たもの同士なのかもしれませんね

それ、貸してくださる?
だってわたくしはこちらの本の内容は今更見返さなくても問題ありませんもの
だから知らない事を知りたいですわ
この本で得た知識が貴方の中でどう生きたのか、わたくしに確かめさせてくださいませ

静かに読書
思い当たる記述を見つけたら当時の記憶を思い出し懐かしむ
時折盗み見
背筋が伸びててくすりと



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  【本】架空の世界を舞台にした歴史小説。戦記物に近い群像劇。
【飲み物等】カフェラテとパンケーキ。

はい、この本、実は持っています。新書版で。大好きな作品なので、作中での出来事を年表に起こしてみたりして、色々と楽しんでいる作品です。
これは後年発行されたハードカバーの全集版です。
全集では持っていなくて。
あとがきが書きおろしなの…。(もじもじ)
作者が何を思ってこの作品を記したのか、後になって振り返ったあとがきも読んでみたくて。
それに、良い作品は何度読んでも楽しいものです。とう地陽人物達の生きざまが素晴らしくて。

ミュラーさんは写真集?少し意外かも。
広大で美しい景色が好きなんですね。
とても綺麗で素敵です。



八神 伊万里(蒼龍・シンフェーア)
  読みたい本が多すぎて迷ってしまいそう
なるべく早く決めるから、そーちゃん待っててね?

ハーブティ(ホット
本:子供向け数字パズル

昔夢中になって解いたのを思い出す
今はすごく簡単に感じるけど、あの頃はなかなかできなくて
ご飯も忘れてやってたなぁ
キリのいいところで休憩しようと顔を上げると目が合った
ま、またからかわれてる?
でもなんだかわくわくしてる様子に警戒を解き、頷いて顔を寄せる

お月見…小さい頃にもしたけど
あの時は月は一つだけだった
はっとして顔を上げる
そうか…そーちゃんはテネブラが見たかったんだね

約束ってもしかして…何となく思い出した
正解を掴みかけた気がするけど、今はもう少しだけ絵本のお月見を楽しんでいたい



●本の向こうに見える人生の旅路

(うーん、話しには聞いていたけど、圧巻…)
 日向悠夜は、フロアをしみじみとした眼差しで見回した。
 この図書館ができたと耳にした時から、降矢弓弦を連れてココに来たいと思っていたのだ。
 なにせ、弓弦は無類の本好き。
 悠夜がちらりと隣を見てみると、きらきらした瞳が興奮を物語っている。
「本の種類が豊富って聞いていたけれど、その通りだね…!」
 テンションが高いことを隠し切れないのが口調からも見て取れる。
(うん、やっぱりここに弓弦さんを誘えて良かったなぁ)
 弓弦のその表情だけでもここに連れてきた甲斐があったと思う。
「じゃあ、本を探そうか…また後からカフェで」
 そう言うと、弓弦は足早にフロア内へと消えていった。
「さて、私も探すか…」
 その背中を見送り、悠夜もフロアへと足を進めたのである。

 そして数十分後。悠夜は本を抱えてカフェのフロアを訪れた。
(あ、もう見つけてたんだ…)
 視線の先には、弓弦がソファに座って本を読んでいた。
「弓弦さん、お待たせ」
「ごめん…先に読み始めちゃってた」
 悠夜の声に、弓弦はガマンできなくて、と苦笑しながら隣へと促す。
 彼の手にある本は、シンプルな表紙のハードカバー本だ。かなり分厚い。
「どんな本を読んでいたの?」
 邪魔にならないだろうかと思いつつ悠夜が聴くと、弓弦は柔らかく微笑んだ。
「これはね。史実を織り交ぜた長編歴史小説の第一巻だよ。
 学生時代によく読んでいた本を見つけたんだ…
 この本を読んでは、熱く友人と語り合ったものさ」
 懐かしそうに目を細めながら、弓弦の手がそっと本の装丁をなでる。
(友人と語り合った、歴史小説…)
 その横顔を見ながら悠夜は思う。暖かな日々を過した時間はどれほど幸せだっただろう。
 想像しただけで笑みがこぼれる自分がいた。
「…青春の思い出がたっぷり詰まった本なんだね」
「ふふ、そう言われると気恥ずかしいね」
 悠夜の微笑みに誘われるように、弓弦も照れくさそうに笑った。
「ところで…悠夜さんはどんな本を選んだんだい?」
「私?私の方はね…」
 弓弦に促されて、悠夜の微笑みが更に深くなった。
「旅に出ていた時に異国で出会った本なんだ」
「へえ…綺麗な本だね」
 悠夜に手渡された美しい装丁の文庫本を、弓弦は興味深げに眺める。
「内容は、ファンタジー小説。異国の伝承を元にしてる」
「へえ…!それは凄い…!」
 初めて手に取る異国の本に目を輝かせる弓弦だったが、
 中身をぱらぱらとめくって見ているうち、ふとある事に気づき首をかしげた。
「悠夜さん…その、異国という事は…違う言語の本、という事かい?
 でも、この本は広く使われている言葉で書かれている様だけれど…」
 不思議そうな弓弦の声に、悠夜はいたずらっ子のように笑うと
 そっと弓弦の傍に顔を寄せた。
「…実は、この本…私が訳したんだ」
「えっ…悠夜さんが?」
 声をひそめて言われた言葉に、弓弦はぱちりと目を見開いた。
「作品に一目惚れしてね、作者さんの元へ押しかけて翻訳させてって直談判したんだ…」
 続けられる言葉に弓弦は驚くばかりだ。
 まさか、彼女が翻訳まで手がけられる能力の持ち主だとは思わなかった。
 けれど…と視線を本に戻して思う。そして想像する。
 この作品にほれ込んで、直談判までして1冊の本を翻訳したのだ。
 楽しいことばかりでなく、苦労もあったに違いない。
 そう考えると、彼女の本に対する情熱が感じられて、自然と嬉しさで笑みが溢れてくる。
 懐かしそうに本に目を向ける悠夜の表情はどこか幸せそうだ。
「こうやって形になるまで色々あったけれど…弓弦さんに、読んで欲しいな」
 そう言われ、弓弦は微笑む。
 こんな努力と情熱の結晶を…読まないなんて選択肢がどこにあるだろうか?
「ああ、大事に読むよ」
 2冊の本に詰め込まれた、2人の過去の体験と記憶。
 それが、秋の紅葉に囲まれた図書館の中で、きらりと輝いた。


●紅葉の照らす光の下で

 ハロルドと、ディエゴ・ルナ・クィンテロの2人はカフェにたどり着くと
 紅葉がよく見える窓際の席に腰を下ろした。
「じゃあ…」
 そう言うと、ハルは自分が選んだ本を取り出す。
 それは、恋愛小説。背表紙には『1巻』と描かれているのでシリーズもののようだった。
「これは二人のクルージング旅行の時に読んだ本です…」
 そう言われて、ディエゴは記憶を辿る。そういえば…見覚えがあった。 
 あの時の記憶を思い出すと、笑みがこぼれてくる自分がいる。
「それまでは恋愛小説とかくだらなさそうだなって思ってましたけど
 …案外面白いんですよね。」
 ハルの価値観を変えた本、それはどんな本なのだろうか…
 ディエゴがそう考えていると、ハルが手元を見ている事に気付いた。
「ああ、これが俺の選んだ本だ。」
「……!?」
 ディエゴが差し出した本に、ハルの顔が驚愕でフリーズする。
 さもありなん…その本は、幼児用の読み書きを教えるための本だったからだ。
「どうしたんですか、なんでそんな本を…」
 普段の彼からは想像もつかない内容の本に、ハルは狼狽するばかりだ。
「ま、まさか…私みたいに読み書きを忘れてしまったとか…?」
「いやいや…言っておくが、俺がこの本を必要としてるわけじゃあないぞ」
 青ざめて取り乱すハルに、ディエゴは苦笑しながら落ち着くように促す。
「この本はな…、お前と生活し始めてから少し経って使った本なんだよ」
「えっ…」
 言われて、ハルは本に目を落とす。
 記憶を辿るが…その時の事は霞みの向こう側に消えて思い出す事はできない。
 けれど、ディエゴがそう言うからには、違いないのだろう。
「…そうだったんですか、その本を使って私に読み書きを教えたんですね…」
 ハルの言葉に、ディエゴは頷く。
「ああ、お前、読み書きも食事の取り方すらも忘れていて酷い状態だったからな」
「その頃のことは、覚えてませんけど…」
 ハルは下を向いてしまう。
 記憶を失っていた間の事。いったい自分は、どんな事をしてきたのだろうかと。
 そんなハルにディエゴは柔らかく微笑んでみせる。
「覚えていないかもしれないが、お前が初めて喋って、覚えたものは「水」だったんだぞ」
「水、…」
 そうだ、と頷くディエゴの瞳は懐かしそうに細められている。
 きっと自分の知らない過去を彼は知っているのだ。
「言うのは照れ臭いが…その、あの時は凄く感動した。」
「そう、なんですか…」
 その時彼は、どんな表情をしていたのだろう。
 じっと話しを聞くハルに、ディエゴは頷くと、言葉を続ける。
「なんというか、その頃の俺は自分を「生きる価値もない屑」だと思っていたから…
 だから、他人のために行動するとか、何かを教えて影響を与えるなんて事を
 できるとは到底思えなかったんだ…」
 そう独白するディエゴの横顔に、影が落ちる。
「…それでも」
 それでも、とハルはその影に向かって気づけば口を開いていた。
「それでも貴方に面倒を見てもらわなければ、
 私は今頃どうなっていたかわかりません、もしかしたら…」
 そう、もしかしたら、死んでいたかもしれないのだ。
 それは言葉にせずともディエゴには伝わっていたようだった。
「ハル…」
「だから私も照れ臭い発言をしますが…とても感謝しています。」
 ハルの微笑みに、ディエゴの影が消えていく。
 それは、太陽が雲に隠れて、再び現れただけなのかもしれないが、
 ハルにはそうは思えなかった。
「ディエゴさん、教師に向いてるかもしれませんよ。」
「…教師?…やめておく。
 箸の持ち方や読み書き教えるのはお前でもう懲り懲りだよ。」
 そう言って肩をすくめて笑うディエゴの表情にもう影はみられない。
 つられてハルも微笑んでいた。二人の下には、もう影は訪れない。
 紅葉に照らされた光の下、二人の小さな笑い声が、カフェに響いていた。


●本に学ぶ、あなたのあゆみ

 ヴェルナーは本がいくつも並ぶフロアを歩きながら悩んでいた。
(思い出、とは言ったものの…)
 そう、自分は活字は読まないわけでもない。
 だが、それ程読み込んだ本がないのも事実なのだった。
 思い悩みながら本の背表紙に目を通していくと、
 ふとヴェルナーの視界に「戦術書」の文字が飛び込んできた。
(これだ…)
 気づけば、ヴェルナーの手はその本を抱えていたのだった。
 一方、アマリリスも同様に悩んでいた。
(思い出…、どうしようかしら)
 ひたすらに悩み、本棚を見回す。悩んだ末、彼女も1冊の本を手に取る。
 カフェに向かうと、ヴェルナーも同時にフロアから戻ってきたところだった。

「じゃあ…」
 互いに頷きあい、本を机の上に出す。
「わたくしは、これです」
 アマリリスが差し出した本は、マナー教本だった。
「何度も何度も読み返した思い出の本です…」
 いかにも上品な装丁とその中身に、ヴェルナーは興味深げに視線を送る。
 この本の内容をマスターするのには相当時間がかかるだろう。
「なるほど、今のアマリリスがあるのはこの本のおかげでもあるのですね」
 素直に感心した言葉に、アマリリスが嬉しそうに笑った。
「ええ…楽しいかどうかは、別ですけれどね」
 そういいつつも、どこかその顔は嬉しそうだ。
 あの頃必死に苦労した成果を、彼に褒められるのはとても嬉しいものだから。
「ヴェルナーは、どんな本を…?」
「はい、私はこれです」
 笑ってヴェルナーが差し出した本は、戦術学の教本だった。
「これは…祖父に勧められて読み込みました。
 すぐには理解できない箇所もありましたが…
 一度わかってしまえば中々興味深いものでしたよ」
 アマリリスは、ヴェルナーの言葉を不思議そうに聞いていた。
 なんだか、ヴェルナーの言葉は…先ほど自分が口にしていた言葉と、似ていたからだ。
 それに、思い出といいつつ、互いに持ってきたものは実用書。
「案外わたくし達は似たもの同士なのかもしれませんね…
 思い出と言っているのにお互い実用書を持ってきていますし」
「…そうかもしれませんね」
 穏やかに笑うアマリリスに、ヴェルナーも笑いながら頷く。
「ねえ、それ…貸してくださる?」
 笑いながらアマリリスはそっとヴェルナーの本に目をやる。
「だってわたくしは、もうこちらの本は見返さなくても問題ありませんもの…
 だから知らない事を知りたいですわ。
 この本で得た知識が貴方の中でどう生きたのか、わたくしに確かめさせてくださいませ」
 そう、今までは互いの知識と人生を紹介した。
 だから、交換して読むのだ。互いをもっと知り、確かめるために。
「では、私も確かめさせて頂きます」
 ヴェルナーも神妙な顔で頷き、そっと互いに本を交換する。
 そして静かな時間が流れていった。

「……」
 マナー本をめくっていくうち、自然とヴェルナーの姿勢はよくなっていった。
 そして思う。アマリリスもこれを読んで同じような状況になっていたのだろうか。 
 アマリリスは、本の中にこれまでの戦いで思い当たる箇所を見つけ、微笑む。
 あの時の戦闘は、戦術は…きっとこの本が彼に教えたものだったのだと。
(…あら)
 ちらりと横目でみやると、ヴェルナーの背筋はしゃきんと伸びていた。
 まるで、あの頃の自分を体験してくれているかのようだ。
 お互いに、自分達は本当に似たもの同士かもしれない…
 静かな図書館に、アマリリスのくすりとした小さな笑いが響いた。


●ふたつの月

「うわー…」
 図書館のフロアに足を踏み入れた八神伊万里は、思わずため息をついてしまった。
 ずらっと並んだ、本棚・本棚・本棚…読みたい本がてんこ盛りなのは間違いないようだ。
「なるべく早く決めるから、そーちゃん…カフェで待っててね?」
 そう言うと、蒼龍・シンフェーアは問題ないと頷いてくれた。
(迷っちゃいそうだけど…なるべく早く決めなきゃ…)
 けれど、確実にベストな1冊を探すのだと、伊万里は蒼龍とわかれ、
 フロアへと足を踏み入れたのだった。

 そして数十分後。蒼龍は先にカフェに到着していた。
 少し遅れて、伊万里も到着する。
 蒼龍が本を読まずに待っていてくれた事に、伊万里は嬉しそうに笑みを浮かべた。
 2人が頼んだのはホットの紅茶とハーブティ。
 程なくして運ばれてきたドリンクを目の前にして、
 蒼龍は紅茶の香りを、伊万里はハーブティの香りを楽しみつつ、読書をはじめる。

 蒼龍が手にしてもってきたのは、大昔のウィンクルムの活躍を描いた絵本だった。
(…イマちゃんこういうの好きそうだな…やっぱり)
 読みながら、懐かしさがこみ上げる。
 自分の家にあったものとやはりその絵本は内容は同じ物だった。
 ぱらりぱらりと絵本をめくっていると、やがて蒼龍の目はあるページでとまる。
 それは、二つの月が描かれているページ。
「………」
 蒼龍は暫く、そのページを頬杖をつきながら眺めていた。
 一方の伊万里は、子供向け数字パズルを持ってきていた。
(懐かしい…今は、すごくカンタンに感じるけど…)
 昔は、なかなかこの数字パズルができなくて、夢中になって問題を解いていた。
 時にはゴハンを食べることすら忘れて熱中していた時もあったのだ。
 昔の記憶を懐かしみつつも、伊万里は気づけば問題を解くことに熱中していた。
 ふと隣を見た蒼龍は、伊万里が必死になっている姿に気づいて見入る。
(イマちゃん、すごく真剣な顔で読んでるなあ…一度やり出したら止まらないんだから)
 そんな伊万里の姿を微笑ましく思っていると、伊万里が顔を上げた。
 本はちょうど後半に差し掛かったところ。
 休憩しようかと思って顔を上げると、こちらを見ている蒼龍と目が合ったのだ。
「あ…なに、どうしたの」
「ううん、ちょっと真剣な横顔に見とれてただけ。
 …昔も可愛かったけど綺麗になったよね」
 成長を近くで見守れなかったのが残念だよ、と呟くと、蒼龍は伊万里を手招く。
「ねえ、ちょっとこっちに寄って」
 ぐい、と肩を引き寄せられ、伊万里は内心慌てる。
(な、なに…?また、からかわれてるんじゃ…)
 だが、蒼龍の表情はからかい半分というよりは、寧ろ純粋にわくわくしているようだった。
 その様子に、警戒を解いて、頷いて導かれるままに伊万里は蒼龍に顔を寄せる。
 ぴと、と二人の頬が触れ合うと、蒼龍は暖かく微笑んだ。
「ほら、こうやって二人で頬を寄せ合って、絵本の上に突っ伏したら…」
「…あ…」
 伊万里は突然広がった月夜の世界に目を見開く。
 紅葉に照らされた光の世界から、幻想的に輝く絵本の月夜の世界へ。
「ほら、お月見してる気分でしょ」
 蒼龍の言葉に、その通りだと伊万里は思う。
(お月見…小さい頃にもしたけど…)
 けれど、あの時とは違う点が、1つある。
(そうだ…あの時は、月はひとつだけだった…でも、この風景は…)
 その事実にはっとして、伊万里は顔を上げる。
「そうか…そーちゃんはテネブラが見たかったんだね…」
「…当たり」
 伊万里の言葉に、蒼龍は嬉しそうに笑う。
「約束に、一つ近づいたね」
 笑いながら告げられる言葉に、伊万里は夢見心地の気分で霞みがかった記憶を辿る。
(約束ってもしかして…)
 なんとなく、思い出した気がするのだ。あの約束の『正解』の姿を。
 …でも、今は…もう少しだけ。
「ねえ、そーちゃん、もう一回お月見をしない…?」
 今は、このステキなお月見を二人で楽しんでいたい。
 その伊万里の願いに、蒼龍は頷く。
 穏やかな光に包まれた図書館の中で、幻想的なひと時は、ゆっくりと過ぎていった…。


●2人でいつか見る景色

 フロアで本を選び終えると、瀬谷瑞希とフェルン・ミュラーはカフェで合流した。
 ふたりで席につくと、メニューを開く。
「ええと…じゃあ、私はカフェラテとパンケーキを」
「じゃあ、俺はコーヒーで」
 店員が下がって、ほどなく注文されたものがテーブルに運ばれてくる。
 そして、2人は自然と持ってきた本を取り出していた。

「あれ?…それは…」
 ミズキの取り出した本を見て、ミュラーは怪訝そうに眉をひそめた。
 彼女が取り出したのは、架空の世界を舞台にした歴史小説。戦記物に近い群像劇だ。
 どうして自分がそこまでわかってしまうかというと…
 それは、彼女の本棚で見かけたことのある本だったから。
 どんな本を彼女が持ってきても驚かないつもりでいたが、
 なぜ自宅でも読める本をわざわざここで…?とミュラーは不思議に思う。
 そんなミュラーの心境を察したのだろう、ミズキはにっこりと微笑んだ。
「はい、この本、実は持っています。新書版で。」
「やっぱり」
 本当に大好きなんですよ、とミズキは嬉しそうに笑う。
「作中での出来事を年表に起こしてみたりして…色々と楽しんでいる作品です。
 これは後年発行されたハードカバーの全集版です。全集では持っていなくて…」
 ミズキの言葉に、なるほどとミュラーは納得する。
 確かにタイトルも内容も同じ本ではあるが、ミズキにとっては『違う本』に違いない。
 本当に大好きでなければ、ここまでこだわらないだろうなと思う。
「…?」
 そこまで考えていて、ミュラーは再び怪訝そうにミズキに視線を向けた。
 なんだか…もじもじしている。
「内容は同じなんだけど、その…あとがきが書きおろしなの…」
 恥ずかしそうに言うその姿に、ミュラーの頬が緩む。
「作者が何を思ってこの作品を記したのか、
 後になって振り返ったあとがきも読んでみたくて…
 それに、良い作品は何度読んでも楽しいものです。
 登場人物達の生きざまが素晴らしくて…!」
 いつの間にか熱弁しているミズキに、ミュラーは頷く。
 ミズキの言葉からは、本に対する情熱が伝わってくる。
 それに、その情熱が今までの自分との行動に繋がっているということも実感していた。
「そうだね、フィクションでもこういう本を読んでいるから、
 任務中いざという時に色々と考えついたりするのかな…参考にできる部分が多そうだね。」
 ミュラーの言葉に、ミズキがはにかんだ笑顔を見せる。
 もしかしたら、内心自分の熱意に引かれるかもしれないと不安だったのかもしれない。
 そんな一生懸命でまっすぐな彼女が可愛いと思い、
 ミュラーの心の中に嬉しい気持ちがじんわりと広がった。
 それに、ミズキはあとがき目当てといいつつも、本を最初から開いて読んでいる。
「本当に、好きな作品なんだね」
 パンケーキを口に運ぶことも忘れて嬉しそうに本を読む姿はとても微笑ましい。
 嬉しそうに頷くミズキだったが、ミュラーの本を見て、意外そうな顔をした。
「ミュラーさんは…写真集?」
「そう。山や海といった、自然の景色が主題の四季写真集だね」
 そう言ってミュラーはその中の1ページを開くと、ミズキに見せる。
「写真集は、自分の見た風景をこうやって切り取って見せてくれるだろ。
 自分では気がつかなかった風景が見られるので大好きなんだ」
「確かに、そうですね…」
 ミュラーの言葉と、広げた本の中に広がる光景に、ミズキは納得する。
 大判の本の中に切り取られた世界は、とても素晴らしい景色だったからだ。
「とても綺麗で素敵です…ミュラーさんは、広大で美しい景色が好きなんですね…」
 ほう、とひとつ感嘆のため息をついて、
 ミズキはミュラーの広げた写真集のページをもう一度眺める。
 見た事のない景色。それは、これから自分達もみることになるのだろうか。
 紅葉輝く静かな時間の中で、またひとつ、互いを知る事ができた…
 そんな2人の幸せな光景を、そよぐ秋の森と図書館の静寂が、穏やかに包んでいた。


FIN.



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:八神 伊万里
呼び名:イマちゃん
  名前:蒼龍・シンフェーア
呼び名:蒼龍さん、そーちゃん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月02日
出発日 11月09日 00:00
予定納品日 11月19日

参加者

会議室

  • [5]日向 悠夜

    2015/11/08-23:38 

  • [4]瀬谷 瑞希

    2015/11/08-23:36 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    図書館には色々な本があって正直目移りしてしまいますね。
    プランは提出できています。
    皆さん、素敵な時間をすごされますように。

  • [3]八神 伊万里

    2015/11/05-21:19 

  • [2]アマリリス

    2015/11/05-20:16 

  • [1]ハロルド

    2015/11/05-00:13 


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