オフシーズンの海辺には(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 人気もまばらな冬の始まりのパシオンビーチ。
 そこには、たまにあるものが流れ着くらしい。
 真夏の真っ青な海はもう、寒空を映した冷たい色に変わっている。
 乾いた冷たい海風が体にしみる。みんなに忘れ去られたような、寂しい海。
 すっかり冷たくなった砂浜に、落とし物のようにコロンと落ちているそれは。
 ――人魚の涙。
「なんて、言いますけど、ただのガラス片なんですよね」
 受付嬢はふわっと笑った。そして、手の中のガラス石をころころともてあそぶ。
「でも、とても素敵な言い伝えがあるんですよ」
 それは、パシオンビーチの近くの村で伝わるお話。
 この時期に砂浜に流れ着くガラス石は、人魚が流した涙の結晶で、心を解放してくれる不思議な石。拾った色で打ち明けたくなる気持ちが変わるのだという。
「ほんとかどうかは……わからないですけど」
 水色は、澄んだ感謝の気持ち。
 桃色は、好意。
 黄色は、秘めている恋心や嫉妬心。
 灰色は、相手へ隠している秘密ごと。
「ただのガラス石なのに変なのって思うでしょ?」
 でも、不思議と言いたくなるの。そう言って、彼女は笑った。
 ――その石の効果は、定かではない。けれど、その石にかこつけて何か思いを打ち明けようか? そんな思いがふと胸をよぎった。

解説

●目的「ガラス石を拾ってお散歩しよう」
 冬の訪れを感じるパシオンビーチ。オフシーズンなので他に人はいません。
 パートナーと一緒に、どんな会話をしましょうか? ゆったりとおしゃべりしながら、お散歩を楽しんでください。なお、オフシーズンなのでお店などは出ておりません。
 ただ、どこまでも寒い色の海が続いています。
 海風が冷たいので、お気をつけて。
 足元を見ると、ガラス石が落ちています。何色の石を拾ったか明記のうえ、思いを打ち明けるのならば『石の効果を知っているか知らないか』も加味したうえで思いを口にしましょう。普段言えないことも、石のせいにして言ってしまっていいじゃない。
*交通費でお一組さま300Jr消費致します。
*他にだれもいない、他のウィンクルムとも基本遭遇しませんが、お友達とのご参加もOKです。その場合はその旨もお書きください。一緒に石を拾うのも楽しいかもしれないですね。
*石はお持ち帰りいただけますが、アイテムには反映されませんのでご了承ください。


ゲームマスターより

めっきり寒くなってまいりましたね、寿です。
余談ですが、大学時代の後輩が撮影で真冬(二月)の小樽の海にブーツで入らされ、
半べそかいてました。
そりゃそーだよね
半べそもかくよね。
冬の海はほんと寒いよね。

そろそろ皆さんにバレてそうですが私光物大好きです。ガラス石綺麗よねん。
ただのガラスだよ? ってわかってても、何か素敵な力がありそうなそんな気がして。

宜しくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  夏の海もいいですけど、冬の海も静かで素敵ですねっ
そういえばグレン、確か寒いの苦手だったはず…
今は真冬ほど寒い訳ではないですけど…
…あの、ちょっと寒くなっちゃったのでくっついて歩いてもいいですかっ?

砂に足を取られちゃって…支えてくれたおかげで砂だらけにならなくて済みました。
あれ、今足元に何か…ガラスでしょうか?
空みたいな綺麗な水色ですねっ

…あの、いつもありがとうございます。
えっと、さっき転びそうなところを支えてくれたこともそうなんですけど、危ない時にいつも助けてくれるからそのうち改めてお礼がしたいなってずっと思ってて…
色々とご迷惑おかけするかもしれませんが、これからもずっとそばにいてくださいっ!


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

(灰色の石に秘められた力は、
『相手に隠している秘密事』だと聞いたことがあります。
ああ、どうしよう…ううん、勇気を持って言わなきゃ)

(灰色の石を拾い、ロジェを見つめて)
あの、ロジェ…私、お屋敷に帰ろうかと思うのです。
その隙に、ロジェはタブロスから逃げてください。
そうすれば、私がお父様に再び監禁されるだけで済みます。
ロジェが捕まって、殺される事もなくなります。

大丈夫、私は貴方との絆だけで生き―っ!?
(言い切る前に、思いきりロジェに抱き締められ、
荒々しい口付けで口を塞がれる)

そんな…何で…どうしてそこまでお優しいのです…っ!?
私にそんな価値なんて、ない…っ、のに…っ(泣きつつ)



メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
  素敵なもの落ちてるって聞いたからちー君とお散歩。
夏の海のイメージ強いから人があんまりいない海ってなんか新鮮!
のんびり波の音聞きながらお散歩も気持ちいいね。

暖かくしてきたつもりだったけど思った以上に風冷たいな。
どうしようか考えてたらちー君がカーディガン貸してくれた。
「彼シャツってこういう感じ?」って聞いたらどう反応するかな?

足元に落ちてた黄色い人魚の涙。
黄色は確か「秘めてる恋心や嫉妬心」だったよね。
ちょっと言ってみようかな…最近ちーくんが他の人と付き合ってる所想像するともやもやするって。
驚いた顔見て少し後悔。やっぱり言わなきゃよかったかな。

いつものように頭撫でてくれたけど何かが変わりそうで怖い。



シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  …最近、急に寒くなったわよね
夏だと綺麗な海が今じゃすっかり冬仕様ね
戦闘のことは今は忘れなさいよ
……まあ、そうね。…その意見については否定はしないわ

・水色
…澄んでいて、綺麗な石。ガラスね
感謝の気持ち、か
別に、何も言ってないわ

私は直接オーガ被害にあったことないし、正直オーガについての関心はなかったわ
だけど、あんたと任務こなすうちにオーガがどんな存在なのか、少し分かってきた
元からそんなつもりはないけど、許すべき存在じゃ、ないわね
……だから…それで、その…これからも私と戦ってくれる…?

な…なによ…。こっち見ないでよ(困り
なんでって…理由なんか、ないわよ(そっぽ向く

は…ち、違うわよ…! …なによ(困り顔



エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  心情
寒い海とモルさんが重なって見えます。

行動
浜辺を散歩しながら石の効果を説明。
素敵な言い伝えですよね。

な、なんでそう悪い方に早合点するんですか!?
嫌味ばっかり。

むむ。ウィンクルムの依頼でオーガを倒したことないくせに……。
タブロスに来る前に辛い事件があったということで、労りの気持ちで接してきましたが、私はモルさんを甘やかしすぎたのでしょうか。

水色の石を手に。
前途多難で波乱万丈の予感がしますが、モルさんと会えたことに感謝してます。
うふふ。モルさんへの感謝の言葉なんて、石の力でも借りなければ言えませんからね!
打ち解けたくて嫌味なジョークで返す。

というのが私の行動ですが、さてどんな反応が返ってくるか。


●水色の誓い
 ニーナ・ルアルディは、冷たい風が吹く波打ち際を精霊であるグレン・カーヴェルと共につかず離れずの距離でゆるりと歩いていた。
(……結構風強いな……)
 ひゅう、と吹き付けた風にグレンはわずかに眉を顰める。
「夏の海もいいですけど、冬の海も静かで素敵ですねっ」
 少し先を歩いていたニーナがくるりと振り返り、無邪気な笑顔を見せた。その頬は寒さから少し上気している。グレンは、頷いて笑った。
「そうだな。……あまり冬の海なんて来ないもんな」
 その笑顔に、ニーナははたと気づいた。
(そういえばグレン、確か寒いの苦手だったはず……今は真冬ほど寒い訳ではないですけど……)
 それと同時に、グレンにも同じような思いが過ぎる。
(少ししたら早めに建物の中に入らねぇと、こいつ後々風邪引きそうだな。適当なタイミングで声かけてやんねーといけねぇか……)
 歩みを止めた二人。先に口を開いたのは、ニーナの方だった。
「……あの」
「ん、何だ」
「ちょっと寒くなっちゃったのでくっついて歩いてもいいですかっ?」
 ぱちくり、とグレンが瞬きをする。そして、くしゃりと笑う。
「仕方がねーな、好きにしとけ」
 口ではそんな風に言っているが、右手は彼女を迎えるためまっすぐに伸ばされる。ニーナは嬉しそうに頷き、足を一歩踏み出した。
「ぁっ!」
 何かに躓いたのか、ニーナが僅かにその場でふらつく。
「っ、おい」
 手を伸ばしていたのが良かった。咄嗟の所でニーナの腕を掴み、その体を自分の方へ引き寄せる。
「はしゃいであちこち動き回ってたからか?」
 ほんっとドジだなぁと、どこか優しさのこもった声でグレンは笑う。
「あったけーな、お前……」
 その呟きは聞こえていたのか、いなかったのか……?
「砂に足を取られちゃって……支えてくれたおかげで砂だらけにならなくて済みました」
 恥ずかしそうに笑いながら、ニーナは体勢を立て直す。そして、足元できらりと光る何かを見つけた。
「あれ、今足元に何か」
 先刻転びそうになったばかりなのに、ニーナはひょこりとしゃがみ込んで光るものの正体を拾い上げる。
「……ガラスでしょうか?」
「あー……ガラス石か」
 綺麗なもんだな。そう笑いかけると、ニーナも嬉しそうに頷き返す。
「空みたいな綺麗な水色ですねっ」
 そして、その石を握りこむなりニーナはグレンをまっすぐに見つめて唇を開いた。
「……あの、いつもありがとうございます」
「ん?」
「えっと、さっき転びそうなところを支えてくれたこともそうなんですけど、危ない時にいつも助けてくれるからそのうち改めてお礼がしたいなってずっと思ってて……」
 感謝の言葉を改めて言われて、グレンは少しくすぐったい様な気持ちになる。
(……石のせいなのか、こいつの性格なのか判断つかねーな。別に礼なんていらねーのにマメっつーかなんつーか……)
「あ、あぁ」
「色々とご迷惑おかけするかもしれませんが、これからもずっとそばにいてくださいっ!」
 まるでプロポーズのようなその言葉に、さすがのグレンも少し面喰ってしまう。
「言葉よりもさ、行動で返してもらった方が俺としてはいいんだけど……つー訳で、だ」
けれど、それをおくびにも出さず彼はニーナの手をぐい、と引いた。
「お前もうちょっとこっち来い、んでもって暖取らせろ」
「へ!?」
 驚いて目を白黒させているニーナを、そのままぎゅっと自分の胸に閉じ込める。
 ――逃げないように、しっかりと抱きしめてしまえばこちらのものだ。恥ずかしがって身じろいでも、グレンは離さない。
「あ、あの、グレン?」
 顔を真っ赤にしてあたふたするニーナの耳元に、グレンの低い囁きが響いた。
「……一生離すかよ、バーカ」
 愛しさを込めた『バカ』に、ニーナの頬が更にかぁっと熱くなる。
「え、あの、グレン今なんて」
 確認しようとした彼女を抱きすくめたまま、グレンはぽつりと呟くように付け足した。
「……聞こえなかった? 聞き落としたお前が悪い」
 その誓いを、胸に刻んで。

●何を捨てても
 リヴィエラは、精霊ロジェと訪れた砂浜で灰色の石を見つけた。透き通る灰色は、自分の胸の秘密を打ち明けさせる力があると聞いたリヴィエラはそっとそれを手に取る。
(ああ、どうしよう……)
 石に勇気を分けて、と願いながら、リヴィエラはそっと石を握りしめた。
(ううん、勇気を持って言わなきゃ)
「リヴィー? 何か見つけたのか……?」
 石を拾って立ち上がったリヴィエラをそっと覗き込むロジェに、リヴィエラは決心したように口を切る。
「あの、ロジェ……私、お屋敷に帰ろうかと思うのです」
 ぽつり、彼女の唇から零れた言葉にロジェは言葉を失った。何故、そんな事を言う?
「その隙に、ロジェはタブロスから逃げてください」
 ロジェは俯き、その表情をリヴィエラに悟られぬよう思考を巡らせた。どう、答えればいい。
「そうすれば、私がお父様に再び監禁されるだけで済みます。ロジェが捕まって、殺される事もなくなります」
 だから、ね。と優しく微笑もうとするリヴィエラ。
「大丈夫、私は貴方との絆だけで生き――っ!?」
 ロジェは我慢ならなくなってついに顔を上げる。そして、勢いよくリヴィエラの腕を引くとその体を強く抱きしめた。どこにも行くなという言葉を吐くより先に、その腕が動いたのだ。
「ロジェ」
 何かを言おうと開いた彼女の唇に、強引に自分の唇を重ねる。
 それ以上何も言うな。それ以上は聞きたくないと、彼女の言葉を奪うように口づけを。
「ふざけるな! 何が貴方だけでも、だ! そんなのは優しさでも何でもない、只の自己犠牲というんだ!」
 いつもは優しいロジェの、噛みつくような叫び声が静かな海に響く。リヴィエラは、びくりと肩を揺らし、目を逸らした。それでも、ロジェは続ける。
「君はもう、そんなガラス玉で出来たお人形じゃない。屋敷の外へ出られた。何処だって羽ばたいて行けるんだ! 俺は君を屋敷には帰さない。あんな父親の元へは帰さない」
 抱きしめる腕に力を籠めれば、リヴィエラが小さく震えていることに気付いた。ロジェは、その震えを止めるようゆっくりと彼女の背を撫でる。
「そんな……何で……どうしてそこまでお優しいのです……っ!?」
 監禁こそしないものの、彼女に強い独占欲を抱く自分を『優しい』と称する彼女にロジェはちくりと胸が痛むのを感じた。
「私にそんな価値なんて、ない……っ、のに……っ」
『忌み子』と親に称されて育った彼女は声を震わせしゃくりあげながら自分の価値を語る。ロジェは首を横に振り、リヴィエラの肩をしっかりと支えてその瞳をまっすぐに見据えた。
「自分の価値を決めるのは、他人じゃない」
 リヴィエラはどういう事かわからないというように、目を丸くする。じゃあ、誰が自分の価値を決めるのですか。そう言いたげな瞳に、ロジェは言葉をつづけた。
「それでも自分には価値がないと思うなら、俺が君の価値を決めてやる」
 ぽろ、とリヴィエラの瞳から大粒の涙が零れる。
 ――貴方が、私の、価値を。
「君がいない世界に意味なんてない。君は俺の全てだ。君の父親や軍隊を……世界を敵に回しても、それは変わるものか」
 だから、価値がないなんて自分で言うな。そう言って、ロジェはもう一度優しくリヴィエラを抱き寄せる。リヴィエラは声にならない返事を何度も繰り返し、小さく頷き続けた。
 ――もう、その石は要らないだろう。
 ロジェはそっとリヴィエラが握りこんだ拳をほどき、その中にあった灰色の小石を砂浜に捨てる。
 そして、彼女の嗚咽が止まったころにもう一度、髪を撫でながらその唇に優しいキスを落とした。安心して、傍に居られるようにまるであやすような口づけに、リヴィエラはそっと瞳を閉じる。
 ――波の音だけを、聞きながら。

●気持ちの名前をおしえて
 メイリ・ヴィヴィアーニは、だれもいない海の新鮮さに目を輝かせながら砂浜をキャッキャと駆け回る。
「夏の海のイメージ強いから人があんまりいない海ってなんか新鮮!」
「あんまりはしゃぐと転ぶぞ。気を付けろよ」
 チハヤ・クロニカはたしなめながらも無邪気な神人の様子を微笑ましく見守る。
「ちーくん、こっちこっち!」
 ここからだと海がすごく綺麗に見える、と嬉しそうなメイリの傍に、チハヤは言われるままに並んで歩く。
「のんびり波の音聞きながらお散歩も気持ちいいね」
「そうだな」
 風は冷たいけれど、ふわりと暖かい気持ちが広がる。メイリは、ここへ来る前に聞いた『素敵な物』の話をし始めた。
「へぇ、人魚の涙?」
「そう、綺麗な石がね、落ちてる事があるんだって!」
 見つけられるかな? と屈託のない笑みを向けられ、チハヤはそんな彼女の様子につられて胸が躍るのを感じた。
「どうだろうな、あるといいな」
「ね!」
 ひゅう、と海風が吹き付ける。メイリは、暖かい恰好をしてきたつもりだったけれど予想以上に寒い事に気付いて両手を擦り合わせてどうしようか考え込んだ。
「ほら、これ着てろ」
 メイリが寒いと言う前に、チハヤはカバンに入っていた予備のカーディガンを彼女に着せる。
「彼シャツってこういう感じ?」
 ぶかぶかと袖を余らせて手を隠し、メイリは二カッと笑って見せた。
「しょーもないことを」
 ぽか、と軽くメイリの頭をはたくチハヤ。
「へへへ」
 そんなやり取りが、なんだかお互いにとても楽しい。
 そうやってはしゃいでいたメイリが、ふと黙り込んでしまった。その視線の先には黄色い人魚の涙。
(黄色は確か「秘めてる恋心や嫉妬心」だったよね)
 メイリの心に、秘めていたもやもやが湧きあがってくる。
 チハヤは黙り込むメイリを心配し、そっと声をかけた。
「メイ……? メイ、どうした」
「えとね……あの、最近ちーくんが他の人と付き合ってる所想像するともやもやする……」
 ぴたり、二人の時間が止まったような感覚さえ覚えた。チハヤの瞳が大きく見開かれる。
「え……」
 チハヤは目に見えて動揺している。メイリは瞬間的に後悔した。
(やっぱり言わなきゃよかったかな)
 それは、つまり『嫉妬』で。チハヤはその感情が『恋愛感情』なのかただの『家族愛』なのかわからずに言葉を探していた。
 そして、自分たちが他の任務で一緒になった恋人同士の神人達の様になるか想像して、小さくかぶりを振る。そして、慌てて誤魔化すようにその手をしゃがみ込んだメイリの頭に伸ばす。
「お前とずっと一緒にいるって言っただろ」
 ぽんぽん、といつものように優しくその頭を撫でると、メイリは黙ったまま頷いた。
 けれど、二人の胸にはほんの少しの不安が残る。
 チハヤは、自分たちがどうなりたいのか、少しは考えなければならないと自分に問いかけた。メイリは、いつものように頭を撫でてくれたチハヤにわずかな違和感を覚える。
(何かが変わりそうで怖い……)
 それは、良い方へなのか、悪い方へなのか。
 ――今の二人には、まだ、わからない……。

●素直になれない水色
 シャルティは、冷たい空気の中を精霊グルナ・カリエンテと共にゆっくりと歩く。
 ふわぁあ、とグルナが大きな欠伸をした。
「……最近、急に寒くなったわよね」
 季節の移り変わりが早い事に、シャルティが呟くとグルナは頷いて答える。
「そーだな。今じゃ秋も終わりかけだしな」
 あっという間だ。そう言って海を眺める。傍らでシャルティが小さく息を吐いた。
「夏だと綺麗な海が今じゃすっかり冬仕様ね」
 青々としてこちらが飛び込むのを待っているような綺麗な海はもうそこには無くて、冷たい色を湛えた冬の海が静かにこちらを見ているようだ。グルナは、ぐっと伸びをしてこんなことを零す。
「のんびり過ごすより、俺はオーガ退治で温まりてーな」
「戦闘のことは今は忘れなさいよ」
 せっかく散歩に来たのに。と顔をしかめるシャルティに、グルナはへらりと笑った。
「へいへい。てか、お前だってもう慣れただろ」
 戦闘狂の彼のことは、シャルティだってもうわかっている。諦めたようにため息をついて、苦笑いを返した。
「……まあ、そうね。……その意見については否定はしないわ」
 ふと足元を見ると、そこには。
「……澄んでいて、綺麗な石。ガラスね」
「ああ。……こんなのもあんだな。珍しい」
 あまりガラス石なんて見たことがなかったのか、グルナはシャルティと一緒に石を見つめた。
「感謝の気持ち、か」
 ぽつり、呟くシャルティにグルナは問う。
「あ? なんか言ったかよ?」
「別に、何も言ってないわ」
 そっけなく返して、シャルティはグルナへと向き直る。
「私は直接オーガ被害にあったことないし、正直オーガについての関心はなかったわ」
 なんだよ、いきなり、と言いたげなグルナの目を見つめ、シャルティは続ける。
「だけど、あんたと任務こなすうちにオーガがどんな存在なのか、少し分かってきた。元からそんなつもりはないけど、許すべき存在じゃ、ないわね」
 キュッとグルナの口の端がつりあがった。それを知ってか知らずか、シャルティが決心したように言葉を絞り出す。
「……だから……それで、その……これからも私と戦ってくれる……?」
 礼を言うわけでも、何か懇願するわけでも無い。いつものシャルティに、グルナは頷いた。
「お前の出身とか知らねーし、これからも知りたいと思わねぇだろーが、お前の言い分は分かった」
「はい?」
 シャルティが聞き返す。
「断らねぇっての。お前と戦うのも嫌いじゃねぇし」
 ほっと胸をなでおろす。よかった、パートナーでいてくれる。
 グルナは、浮かび上がる手の甲の紋様をシャルティに見せながら笑う。
「てか、断ったってコイツが消えるわけでもねぇだろ」
「それもそうね」
 そう言いながらも、『一緒に戦わない』と言う選択は出来る。それでも、二人は共に戦うと決めた。再度、ここで。
 グルナは、なんとなくシャルティの瞳をじっと見つめた。
 なんで、いきなりこんなことを言い出したのか少し気になって。
「な……なによ……。こっち見ないでよ」
 見つめられ慣れないシャルティは困り顔で視線を逸らす。
「ほお? なんでだ?」
「なんでって……理由なんか、ないわよ」
 ついに、シャルティは体ごとそっぽを向いてしまった。ニヤニヤしながら、グルナが回り込む。
「そう言われるとますます聞きたくなる。……理由、言えねぇことか? シャルティちゃんよぉ?」
 意地の悪い笑顔を浮かべたグルナが目の前に現れ、シャルティは焦りを隠せずに顔をそむけた。
「は……ち、違うわよ……!」
 彼女があまりに動揺するものだから、グルナは少しからかいすぎたかなと謝罪を口にする。
「ははっ、わりぃわりぃ」
 そういう彼の声は、大変楽しそうであった。
「……なによ」
 眉をハの字にして、その表情を見られないようにシャルティは呟く。
 ――もう、言えないじゃない。

●交差する灰色と水色
 エリー・アッシェンは、自分の少し前を歩いていくモル・グルーミーの背中と冷たい海が重なって見えて言い得ぬ感情を押し込めた。聞こえるギリギリの距離を保ちながら、呼びかける。
「このあたりで見つかるガラス石にはですねぇ……心を伝えたくなる効果があるんですって……」
 素敵な言い伝えですよね、とそれぞれの石の効果を説明して笑いかけるエリーに、モルは振り返る。
「神人よ。実に浅ましい性根だな」
「はい?」
「石にかこつけ我から耳障りの良い言葉を引き出し、自己満足に浸る気なのであろう」
 彼の赤色の瞳が冷たくこちらを見据えている。
「な、なんでそう悪い方に早合点するんですか!?」
(嫌味ばっかり)
 エリーはそんなつもりはなかったのに、とその瞳に臆することなく問う。
「だが我はそのような甘い言葉は吐かぬ!」
 そうして、モルは足もとに落ちていたくすんだ灰色のガラス石を掴んだ。
「我が秘めている本音を聞きたくば聞かせてやろう」
 エリーが返事をする間もなく、モルは言葉を重ねる。
「お前には感謝も好意もない。神人など、精霊が力を発揮するための鍵だ」
 道具に過ぎない、という主張にエリーは心の中で眉を顰める。
(むむ。ウィンクルムの依頼でオーガを倒したことないくせに……。タブロスに来る前に辛い事件があったということで、労りの気持ちで接してきましたが、私はモルさんを甘やかしすぎたのでしょうか)
 いくらなんでも言っていいことと悪いことがある。エリーはふと悲しいやら空しいやら複雑な思いが込み上げてくるのを感じた。――今までの自分の接し方は無意味だったんだろうか。
 すると、次の瞬間モルがぽつり、と本音を零した。
「そう。我は労られるべきなのだ」
 俯いたエリーが顔を上げる。
「……優しくされたい。構ってほしい」
 ぽつり、ぽつり。
 モルの意志とは関係なく、心が零れる。
 じっと見つめるエリーの視線に気づき、自分が言った言葉を反芻してモルはがばりと己の口を右手のひらで覆った。
「!?」
 驚きを隠せない。が、そんな表情を神人に見られるのは癪だ。八つ当たりのように、エリーの顔を睨みつける。
 そんな鋭い視線に負けず、エリーは自分も水色の石を拾い上げ少し意地悪く笑った。
「前途多難で波乱万丈の予感がしますが、モルさんと会えたことに感謝してます」
「フン」
 きれいごとを、とモルは顔をそむける。
 それでも、エリーはその背に語りかけた。
「うふふ。モルさんへの感謝の言葉なんて、石の力でも借りなければ言えませんからね!」
 それは、エリーなりの気遣い。打ち解けるために、嫌味を嫌味なジョークで返す。
 ジョークだけれど、『感謝』の気持ちは本物。
 巡り合わせは、きっと偶然ではないのだから。出会ったことにはきっと何かしらの意味があるのだから。いつか、分かり合える日はくるはずと、わずかな望みでもその望みにかけようとエリーはモルの人を寄せ付けない冷たい背中に笑いかける。モルは微動だにせず、海を見つめていた。どうすればいいのか、頭ではわかっているはずなのに、その足を動かすことは出来ない。エリーの顔を振り返ることは、出来ない。
 しばらくの間、二人は同じ方向――冷たい海を見つめていた。
 いつか、同じ方向に向かって歩めるように。エリーは小さな希望を賭けながら。
 まだ戸惑いを抱えたまま、――モルは、神人の視線を背に感じながら。




依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月29日
出発日 11月03日 00:00
予定納品日 11月13日

参加者

会議室

  • [4]シャルティ

    2015/11/02-18:15 

    へぇ…色々落ちてる、のね…。

    あ。……よろしく。シャルティ、よ。
    楽しく過ごせたらいいわね。

  • [2]リヴィエラ

    2015/11/02-11:45 

    こんにちは、リヴィエラと申します。
    今回は宜しくお願いしますね(微笑んでお辞儀)

    ふふ、色々な石があって、迷ってしまいますねっ
    えぇと…えぇと、どの石を拾おうかな…(わくわく)

  • [1]エリー・アッシェン

    2015/11/01-19:07 

    うふふ……エリー・アッシェンです。

    他のウィンクルムとは基本的に遭遇しないようですね。
    リザルト内で会うことはないと思いますが、皆さんそれぞれ楽しい時間を過ごせるといいですね。


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