プロローグ
新市街北部にあるA.R.O.A.の本部。
最近、深夜の時間帯、本部前にラーメンの屋台が来るようになり、ちょっとした人気となっていました。
「いらっしゃいませ! まずは運試しに、この籤を引いて貰えます?」
貴方がその屋台を覗いてみると、人懐っこい店主の青年が、満面の笑みで筒状の箱を差し出して来ます。
筒状の箱からは細長い棒が数個飛び出ており、この中から好きな棒を引くようです。
「当たりが出たらタダでラーメンを食べられますよ♪ ファイトです!」
店主が指差す屋台の柱に、この籤についての説明が書かれた紙が貼られています。
1番 大当たり! お好きなラーメンをタダで一杯食べられます!
2番 惜しい! お好きなドリンクが一杯無料です!(烏龍茶とビールしかないのはご容赦です!)
3番 はずれ! 残念でした。普通にご注文をお願いします!
4番 当たり! 替え玉無料です!(替え玉以外は有料ですので、ご注意ください!)
5番 ラッキー! タダで特製ラーメンが食べられます!
「俺のお勧めは5番です! まだ店で販売していない試作品のラーメンをご馳走しますよ!」
試作品?
店主はニコニコな笑顔ですが、貴方は何となく嫌な予感がしています。
取り敢えず、貴方は棒を引く事にしました。
果たして当たりは出るのでしょうか?
解説
以前、ウィンクルム達にお世話になった青年ファビオが、お礼にラーメンの屋台を期間限定で営業しています。
その屋台で、のんびりとラーメンを楽しんでいただくエピソードです。
(ファビオが登場するシナリオ『故郷へと至る道』を読んでいなくても、全く問題はございません!)
ファビオが用意した余興として、籤引きがあります。
籤引きを希望する方は、プラン内に1~5の中で、お好きな数字を記載してください。
(神人さんと精霊さんで、それぞれ籤引き可能です)
マスター側であみだくじ方式で、どれに当たるか決めさせて頂きます。
敢えて籤引きはせず、「○番で」と指定いただく事も可能です。
この場合は、プラン内に明記をお願いします。
籤引き自体をしない方は、その旨を明記し、お好きなラーメンを頼むアクションをプランに明記願います。
特製ラーメンがどんなものかは、当たってからのお楽しみとなっております!
なお、屋台ですので、お席は大変狭いです。
人数が増えると、お互いに詰め合う必要があります。
その分、通常の飲食店にはない近さで、お喋りが可能となっております。
また、成人済みの方は、ビールが飲めます。
成人済みでなくとも、烏龍茶で乾杯しながら、のんびりお喋りは如何でしょうか?
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、ラーメンはとんこつ!屋台は浪漫♪な、雪花菜 凛(きらず りん)です。
今回は、屋台でのんびりとパートナーさんと親交を深めていただけたらと思います。
少しのスパイスとして籤引きがありますが、籤を敢えて引かない、希望の籤番号でパートナーの反応を見る事も可能です。
是非、お気軽にご参加ください!
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
ご参考までにご一読いただけますと幸いです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
おや、こんな時間にラーメン屋台 いや。こんな時間だから、なのかな? くじ引き…俺籤運ある方じゃないんだけれど、 1か3だったら味噌ラーメン食べたいよね 菜っ葉とメンマ乗ったやつ 家で作るとどうしてもインスタントに頼ってしまうから、生麺が恋しくて 5だったらどうしようか そうだね。辛過ぎないラーメンである事を祈っておこうかな ウーロン茶片手にお喋り 表情が変わらない? これでも結構楽しいんだけれどね ああ、そうだ 「ねえ、アクア」 最近困ってる事とか無い? ほら。アクア頑張り屋さんだし 無理はしちゃ駄目だよと彼の髪をかき混ぜて 美味しいものと言いたかった言葉 どちらも合わせて大満足、ってね |
スウィン(イルド)
ば~んわ!ほんとにファビオじゃない! 屋台がきてるって話を聞いてとんできたわよ!久しぶりねぇ この籤を引けばいいの?(2番が当たる)へぇ、ドリンク一杯無料! それじゃビールと、ラーメンは一番おすすめのやつをお願い ラーメンは当たらなかったけど、いいのよ この前タダで食べさせてもらったしね。今日もタダだと悪いし 籤引きは面白いけど、ちゃんと利益はでてんの? まさかお礼とか言って、赤字じゃないでしょうね? イルドは…あらぁ…。しょうがないわねぇ ほら、おっさんのと交換する? あらま、いい食べっぷり! それじゃおっさんも、いただきま~す♪ ん、おいし♪ ご馳走様、今日はありがとね。美味しかったわ~ 親御さん達にもよろしく! |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
◆気持ち ファビオの店?(いそいそ 浮かれてるわけじゃないぞ。関わった者として色々と確認したいだけだし ち、違う!ツンデレじゃない(汗 ◆行動 言い合いつつ(←)何時の間にか店に着くと思う 久しぶりとか調子はどうとか挨拶してファビオと暫くぶりの交流がしたい 俺は迷わず特性ラーメンを注文 (ランスは何を頼むんだ)チラリ やっぱ気になるだろ 何が…ってラーメンに決まってるだろ!(汗 この前クルーザーで抱きしめられてから何か変なんだよ あれはアルコールの所為だと思ってたのに… *ノンアルだったと後で知った時の混乱が蘇る *突っ込まれたら誤魔化そうと; ラーメン交換はOKだ 色々な味が知りたいしな ファビオには率直な感想を笑顔で伝える |
A.R.O.A.の本部前。
一人の青年が屋台を引いてやって来ました。
「よし、今夜もよろしくお願いしまっす!」
ペコリと本部へ向かって礼儀正しく頭を下げ、彼は営業準備を始めます。
暫くすると、ラーメン特有の濃厚な匂いが辺りへ漂ってきました。
その匂いに誘われるかのように、仕事帰りの職員やウィンクルム達が屋台へ足を向けるのでした。
●1.
「ば~んわ!」
明るい声と共に、スウィンはパートナーのイルドと屋台の暖簾を捲り中を覗いた。
「いらっしゃいませ!」
元気な声と見知った顔が笑顔で二人を出迎える。
「ほんとにファビオじゃない!」
「……よぅ」
スウィンが確かめるように店主の顔を見て微笑み、その隣でイルドが軽く片手を上げて挨拶した。
「スウィンさん、イルドさん! こんばんは! どうぞ、座ってください!」
店主のファビオはパァと顔を輝かせると、以前お世話になった二人にいそいそと席を勧める。
「屋台が来てるって話を聞いてとんできたわよ! 久しぶりねぇ」
「はいっ、あの時以来ですねっ」
「元気そうでなによりだわ」
ねじり鉢巻にエプロン姿のファビオを眺め、スウィンは瞳を細めた。
「この屋台がお前の店なのか? それとも屋台の間、店の方は閉めてんのか?」
スウィンと共に長椅子に腰掛けたイルドは、物珍しそうに屋台を眺めそう尋ねる。
「師匠が昔、店を持つ前に使ってた屋台なんですよ。
この時間、お店の方は師匠とバイトの子が切り盛りしてくれてるんです」
「へぇ……いつか店の方に行ってみるのもいいかもな」
「そうねぇ、お店の方にもいずれお邪魔しましょうか」
「はい、是非!」
ファビオは嬉しそうに笑うと、二人の前に筒状の箱を差し出した。
「この屋台では、まずこの籤を引いて貰ってるんです。お二人も一本ずつ引いてください!」
「籤……?」
「この籤を引けばいいの?」
スウィンとイルドは、それぞれ筒状の箱から飛び出している細長い棒を手に取って引く。
「2番ね」
「俺は5番だ」
二人の棒の番号を確認して、ファビオはニッコリ微笑んだ。
「お二人とも当たりです!」
ジャジャーンと、屋台の柱に貼られている、この籤についての説明文を手で示す。
「へぇ、ドリンク一杯無料!」
「試作品……?」
「はい! 試作品は出来上がってのお楽しみです♪ スウィンさん、お飲み物は何にしますか?」
「それじゃビールと、ラーメンは一番お勧めのやつをお願い」
スウィンはピッと人差し指を立てた。
「ラーメンは当たらなかったけど、いいのよ。この前タダで食べさせてもらったしね。今日もタダだと悪いし」
「ありがとうございます! それじゃ、直ぐに用意するので少々お待ちくださいね」
ファビオは笑顔で頷くと、早速調理に掛かる。
その手慣れた手つきを眺めながら、スウィンはふと思い付いた事を口に出した。
「それはそうと、籤引きは面白いけど、ちゃんと利益はでてんの? まさかお礼とか言って、赤字じゃないでしょうね?」
「……」
一瞬ファビオの動作が止まって、
「だ、大丈夫です! 皆さん、タダだけじゃ悪いからって、他に注文くださいますしっ」
そう言って、壁の料金表を指差す。
そこには、『ラーメン30Jr(一部50Jr)、飲み物10Jr』と書かれていた。
「いくらお礼でも無茶はダメよ、無茶は」
「はいっ」
敬礼する勢いで頷くファビオに、スウィンは頬杖を付いて笑った。
「お待たせしました!」
二人の前に、それぞれ違うラーメンが出てくる。
スウィンの前には、肉厚のチャーシューがたっぷり入ったとんこつラーメンが。
イルドの前には、何故かシュークリームが入った未知のラーメンが。
「こちら、よく冷えたビールになります」
スウィンのラーメンどんぶりの隣に、ビールのジョッキが置かれた。
「……げっ?!」
数秒絶句した後、イルドが小さく唸る。
「美味しそうねぇ♪」
スウィンはとんこつラーメンを眺めてにっこりした後、
「イルドは……あらぁ……。しょうがないわねぇ」
固まっているイルドとそのラーメンを見て、クスッと小さく笑った。
「ほら、おっさんのと交換する?」
「……だ、大丈夫だッ」
イルドは首を振ると、箸を持ち、思い切ってシュークリームの入ったラーメンに口を付けた。
「……!?」
甘いシュークリームと、冷たいラーメン。
甘みと塩の味が口の中に広がる。
途中で止まったら、これ以上食べ進められないような気がして、イルドは一気にラーメンを掻き込む。
「あらま、いい食べっぷり!」
スウィンはイルドの様子に目を丸くしてから、
「それじゃおっさんも、いただきま~す♪」
手を合わせて、とんこつラーメンに手を付けた。
●2.
「おや、こんな時間にラーメン屋台」
A.R.O.A.本部から出てきた木之下若葉は、営業中の屋台に気付いた。
「いや。こんな時間だから、なのかな?」
「ラーメンですか。こちらに来てから初めて食べましたけれど、美味しいですよね」
若葉の隣で、パートナーのアクア・グレイがふにゃりと微笑んだ。
「ワカバさんがたまに夜食で作ってる、もやしが沢山乗った塩ラーメン」
「あれはインスタント、なんだよね」
若葉が少し申し訳なさそうに笑う。
「え? あれはインスタント、ですか」
アクアは驚いた様子で、目をパチパチさせた。
「家で作るとどうしてもね」
「うーん……そう言われると僕、もしかしたらインスタントのラーメンしか食べた事無いかもしれません」
「……生麺が恋しいし、ラーメン、食べていこうか」
若葉が屋台を指差すと、アクアは瞳を輝かせる。
「はい! 初ラーメン、嬉しいですっ」
「うん。じゃあ、行こう」
若葉は表情を和らげると、アクアと共に屋台へと入った。
「いらっしゃいませ! ファビオの屋台へようこそ!」
屋台には、明るい笑顔の店主・ファビオと先客が二人居た。
「どうぞ、座ってください!」
「イルド、ちょっと詰めて~」
「どうも」
先客のスウィン達が席を詰めてくれ、ファビオに促されるまま若葉とアクアはお礼を言い席に着く。
「この屋台では籤引きを行っているんですよ。運が良ければ、タダでラーメンが食べられますんで、宜しければ一本ずつ引いてください!」
ファビオはそう言うと、柱の説明文を指差し、二人の前に細長い棒が数個飛び出ている筒状の箱を差し出した。
「籤ですか~ちょっとドキドキしますね! ワカバさんっ」
アクアは頬を紅潮させ、籤に手を伸ばす。
(俺、籤運ある方じゃないんだけれど、5番だったら……辛過ぎないラーメンである事を祈っておこうか)
若葉も籤に手を伸ばし、それぞれ棒を引いた。
「わぁ、1番です!」
「あ……5番」
アクアが瞳をキラキラさせ、若葉は目を軽く見開いて籤を店主に見せる。
「どちらも大当たりですね! おめでとうございます♪」
「み、水……ッ!」
ファビオが笑顔でそう言ったタイミングで、黙々とラーメンを啜っていたイルドが、空になった丼を置くなり凄い勢いで水を飲んだ。
「……ぷはぁッ」
ゴクゴクと水を嚥下し一息付くと、5番の籤を持つ若葉を見遣って何か言おうと口を開く。
「イルド、これ食べてなさい」
何か言い掛けたイルドの口へ、スウィンは肉厚のチャーシューを一枚放り込んでその言葉を遮った。
そしてファビオに笑顔で首を傾ける。
「ねぇ、ファビオ。特製ラーメンってのは、全部同じなの?」
「違いますよ~試作品は色々あるんで、イルドさんの食べたシュークリームラーメンとは違う物をお出しします!」
(『シュークリームラーメン』って、そのままかよ!)
チャーシューを頬張るイルドのツッコミの言葉は、声にならなかった。
(シュークリーム……同じ系統なら、辛いって事はないかな)
若葉はそんな事を考えていた。
「1番の方は、お好きなラーメンをお作りします。何にしますか?」
「じゃあ、僕は塩ラーメンが食べたいです。出来れば、もやしが沢山乗った塩ラーメン」
「了解です! 少々お待ちくださいっ」
ファビオは満面の笑顔で調理に掛かる。
「お待たせしました!」
待つ事少し。
若葉とアクアの前に、それぞれのラーメンが出された。
「美味しそうです……!」
注文通りもやしが沢山乗った塩ラーメンに、アクアが頬を緩ませる。
「……これ、シチュー?」
一方、漂ってくる香りとラーメンと呼んでいいのか戸惑う見た目に、若葉は首を傾けた。
「はい! シチューラーメンです! 特製シチューとラーメンのコラボで、マイルドな口当たりとなってます。美味しいですよ♪」
ファビオは笑顔でそう太鼓判を押す。
「匂いはいいな……」
イルドが自分の時より随分マシだと視線で訴えた。
「いい匂いですね、ワカバさん!」
アクアも匂いを吸い込み微笑む。
「それじゃ……まぁ、いただきますか」
「はいっ」
若葉とアクアは手を合わせてから、ラーメンに口を付けた。
「わぁ……すっごく美味しいです……!」
「あれ……存外に美味しい」
一口食べて、思わず顔を見合わせてから、二人は微笑む。
「よかった~!」
ファビオが嬉しそうにガッツポーズを取り、スウィンとイルドも自然に微笑んだのだった。
●3.
アキ・セイジは、そわそわと夜道を急いでいた。
「セイジ、あんまり浮かれて急ぐと転ぶぞ~?」
隣を歩きながら、彼のパートナー、ヴェルトール・ランスがクスリと笑う。
「!? べ、別に浮かれてる訳じゃない」
セイジは少しだけペースを落とし、こちらを覗き込んでくるランスを表情を引き締めて見返す。
「関わった者として、色々と確認をしたいだけだ」
以前、依頼で関わった青年が屋台を営業しに来ている。
それを聞いて、セイジは居ても立っても居られず、こうしてその屋台へ向かっていた。
「……セイジって、ツンデレだよな~」
そんな彼を見つめ、ランスは軽やかに笑う。
「なッ……ち、違う! ツンデレじゃない!」
『何を言っているんだ』とセイジが肩を怒らせたタイミングで、ランスはポンとその背を叩いた。
「ホラ、屋台見えてきたぞ」
「……む」
上手く逃げられた気がするが、目的地に着いたし、これ以上は自分が不利になるような気しかしない。
「行くぞ」
冷静の仮面を装着し直すと、セイジはランスを促し屋台へ入った。
「いらっしゃいませー! あ、セイジさんにランスさん!」
セイジとランスの姿を見るなり、ファビオは破顔して挨拶する。
「お久しぶりです! ようこそっ」
「久し振りだな」
元気そうな彼の姿に、セイジは表情を緩ませ瞳を細めた。
「調子はどう?」
ランスも笑顔で片手を上げる。
「絶好調ですよー! ささ、席に座ってください!」
ファビオは空いている席に二人を促した。
「おひさー!」
「どうも」
顔見知りのスウィンと若葉達に会釈し、椅子に座る。
狭い店内は、六人座ると満員状態だ。
自然とパートナー同士、身を寄せて距離が近くなる。
(こんなに近いと……どうしても、あの時の事が……)
セイジの脳裏に、先日のクルーザーでのランスとの一幕が過り、慌てて首を振り思考を断ち切った。
「籤引きで運試しが出来るんですけど、お二人はどうしますか?」
「折角だから……俺は籤引きはしないで、特製ラーメンを注文するよ」
ファビオの問い掛けに、セイジは迷わずそう答える。
(ランスは何を頼むんだ?)
チラリとランスを見遣ると、彼は不思議そうに首を傾けた。
「どうかした? セイジ」
「やっぱ気になるだろ」
「気になる? 何が?」
ずいっとランスが顔を寄せてきて、セイジは慌てて目を逸らした。
「何が……ってラーメンに決まってるだろ!」
「ラーメンかぁ……」
ランスはクスッと小さく笑ってから、椅子に座り直すと思案するように柱に貼られているメニューを見る。
「じゃ、俺もセイジと同じく、特製ラーメンにするよ」
「了解しました! 少々お待ちくださいっ」
ファビオは瞳を輝かせて、二人の前にお冷を出すと、早速調理に入った。
クルーザーでランスに抱き締められた一件から、セイジの中に正体不明の感覚がある。
(あれは、アルコールの所為だと思ってたのに……)
あの時の事を思い出すだけで、まるで目眩のような混乱が渦巻くのだ。
一体、どうしてしまったというのだろう、自分は。
『相棒はさ、こんなことしないだろ』
あの時のランスの言葉が、今もずっと響いている。
(じゃあ、相棒じゃなかったら、何だって言うんだ……)
「お待たせしました!」
ファビオの明るい声に、セイジはハッと我に返った。
「有難……」
注文したラーメンが出来たのだと、笑顔でお礼を言おうとして、彼は停止した。
「うわーファビオ、これ、凄いな!」
隣ではランスが瞳をキラキラさせている。
「……凄い器ね……!」
「……まさか特注か?」
「ハート型ですよ、ワカバさん!」
「……うん、ハート型だ」
周囲からそんな会話が聞こえてくる。
「ジャジャーン! 名付けて、カップル専用、ラブラブ麺すぺしゃるですッ」
ファビオが胸を張ってピースサインをした。
セイジとランスの前には、ハート型をした大きなラーメンのどんぶりがあった。
右左で異なるラーメンが入っており(但し敷居はない)、左右にそれぞれ箸が置かれている。
二人で食べろという事らしい。
「よく、喫茶店とかで、2人で同じジュースを2本のストローで飲む奴がありますよね。
それのラーメンバージョンなんですよっ。
右側は醤油ラーメン、左側がとんこつラーメン。混じった所は醤油とんこつになるんです!」
にこにこにこ。
ファビオは満面の笑顔で、セイジとランスを見た。
「か、カップルじゃない! 相棒だ!!」
セイジは全力でそう言い返したのだった。
●4.
「塩味のスープにシュークリームが溶け込んで……、意外にマイルドな味にはなってたぜ」
口直しにビールを飲みながら、イルドはシュークリームラーメンの感想を語っていた。
「あと、冷たいラーメンにしたのも良かった」
もしあれが熱いラーメンだったとしたら……。
思わず想像して、イルドは首を振った。
「ただ……やっぱり、ラーメンにスイーツ入れるっつーのは、どーかと思う」
げそっとした顔でファビオを見ると、彼は腕組みをしてうーんと小さく唸る。
「師匠に、『これからは女性向けにすいーつも研究するように!』って言われたんです。
それで考えたんですけど……やっぱり、ラーメンにスイーツは合わないですよねぇ……」
「まだ試作品なんだろ? これから改良していけばいいじゃねーか」
「あら、イルド。いい事言うじゃない♪」
「ちょ……急に触るな、おっさん!」
スウィンに頭を撫でられ、イルドは不機嫌そうにその手を払う。
しかし、その頬は僅かに赤くなっていた。
「イルドさん、ご協力有難う御座いました! 美味しいメニューを作れるよう、俺、がんばりますっ」
「いいラーメンができたら、俺のおかげでもあるって事忘れんなよ?」
ペコリと頭を下げてからファイティングポーズを取るファビオに、イルドは表情を緩ませて瞳を細める。
「……さて、名残惜しいけど、そろそろお暇しよっか。ファビオ、お代はいくら?」
ビールを飲み干し、スウィンが首を傾けた。
「ラーメンとビールを合わせて、50Jrお願いします」
「じゃあ、これ」
お代を置くとスウィンが立ち上がる。
イルドも空になったジョッキを置き、後に続いた。
「ご馳走様、今日はありがとね。美味しかったわ~。
親御さん達にもよろしく!」
「ご馳走さん。またな」
「はい! 有難う御座いました! またお会いしましょう! お気を付けてっ」
ファビオの笑顔を背に、スウィンとイルドは屋台を後にしたのだった。
●5.
「ワカバさんは……余り表情が変わらないですよね」
「表情が変わらない?」
ラーメンを食べ終わり、食後のウーロン茶を楽しみながら、若葉はアクアの言葉に目を丸くした。
「これでも結構楽しいんだけれどね」
「本当ですか?」
「うん。本当に楽しい」
じっと見てくるアクアにきっぱりと答えると、彼は嬉しそうに破顔した。
「僕も楽しいです」
飲んでいるのはウーロン茶だけど。
お酒を飲んでいるような感覚になるのは、屋台の雰囲気のせいだろうか。
「ねえ、アクア」
不意に思い付いて、若葉はアクアの顔を覗き込んだ。
「最近困ってる事とか無い?」
「困ってること、ですか?」
きょとんとアクアが目を丸くする。
「ほら。アクア頑張り屋さんだし」
そう言うと、若葉はアクアの髪を柔らかく掻き混ぜた。
「無理はしちゃ駄目だよ」
「……僕としては、ワカバさんが無茶しないかの方が心配です」
若葉の手の感触に瞳を細めてから、アクアはじっと若葉を見つめた。
「俺はいいんだよ、別に」
「よくないです。顔に出ないからって、平気で無理するんですから」
アクアはむーっと眉を寄せる。
そして、ハッとしたように大きく瞬きした。
「もしかしてこれって……お互い様、なんでしょうか?」
「……そうかもしれないね」
クスリ。
二人、目が合えば、自然と笑い合っていた。
美味しいものと言いたかった言葉。
どちらも合わせて大満足、ってね。
優しい夜に、二人はもう一度ウーロン茶で乾杯したのだった。
●6.
「ちょ、ランス……待ってくれ!」
セイジはラーメンと格闘していた。
カップルではないとはいえ、ファビオが好意で作ってくれたラーメンだ。
無下にする訳にも行かない。
そんな訳で、ランスと食べ始めた訳なのだが……。
「セイジ、少しは食べてよ。全然食べてないじゃない」
麺を啜り、ランスは不服そうにセイジを見た。
「し、仕方ないだろ! 同じ麺に当たってばかりで……」
セイジの予想外の罠が、このラーメンには隠されていたのだ。
左右から同じ器のラーメンを食べる。
すると、同じ麺の左右を二人で銜えてしまう事が多々発生し、その度にセイジは早々に噛み切って、ランスへ譲っていた。
「直ぐに噛み切らないで、途中まで一緒に食べたらいいのに」
「ば……ッカ! そんな事をしたら……」
「よく棒状のクッキーでカップルとかがする、あのゲームみたいですね!」
悪気の無い笑顔でファビオがそう指摘する。
セイジの頬が、カーッと赤くなった。
「……セイジは、そんなに俺と一緒に食べるのが、嫌なんだ……」
不意にランスが俯いてそう呟くように言った。狼耳がしょぼーんと垂れる。
「べ、別にそういう訳では……!」
セイジは慌てて首を振った。
「ただ、凄く食べ辛いだけで……」
「じゃあさ、はい、あーん!」
パッと顔を上げたランスが自らの箸で麺を掬い、セイジへと差し出した。
食べろという事らしい。
「ら、ランス?」
「これなら、セイジも食べられるだろ? だから。あーん」
「ば……っか」
(出来る訳、ないだろ! ファビオも見てるのに!)
「やっぱり嫌なんだ……」
再びしょぼんとランスの狼耳が垂れた。
その様子を見ていると、何だか可哀想になり、セイジの中に罪悪感が生まれる。
「仕方ないな……スープだけだぞ」
妥協案を口にすると、パァッとランスが笑顔になった。
「有難う、セイジ! はい、あーん」
「……ん」
レンゲでスープを飲ませて貰うと、ランスがニコニコと眺めてくる。
「美味しい? セイジ」
「……あぁ」
ほとんど味なんて感じる余裕はなかったけれど。
頷くと、ランスが幸せそうな笑顔になったので、セイジは『まぁ、いいか』と思ったのだった。
Fin
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月12日 |
出発日 | 04月18日 00:00 |
予定納品日 | 04月28日 |