【お菓子】温もりを伝えて(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ハロウィン専用テーマパーク『ジャック・オー・パーク』。
 ハロウィンを盛り上げるために建設された、広大なテーマパークです。
 オーガ達に占拠されてしまったものの、ウィンクルム達の活躍により、パーク内のアトラクションは次々と取り戻されつつありました。

 『洞窟カフェ』もまた、オーガの魔の手から救われたアトラクションの一つです。
 その名前の通り、洞窟をイメージした一風変わったカフェで、洞窟な個室でカフェタイムが楽しめます。
 洞窟独特の暗い雰囲気と、明かりは焚き木だけ……といった閉鎖的な空間がカップルに意外と人気があるとの事。

 貴方とパートナーは、解放されたばかりの『洞窟カフェ』に遊びに来ました。
 ウィンクルムとして、アトラクションに仕掛けられた『罠』と『瘴気』を消滅させる為です。
 ぱっくりと暗い口を開けた大きな穴の中に入って……とても静かで焚き木の明かりが眩しい空間。
 貴方は、静かだなと感想を告げようとパートナーを振り返ったのですが……。

 そこに『罠』があったのです。

 貴方の目の前には、氷漬けとなったパートナー。
 まるで精巧な氷の彫刻のようになったパートナーが、目の前に立ち尽くしています。

『キスだ! キスをするんだ!』

 不意に外から聞こえてきた声に、貴方はビクッと身体を跳ねさせました。
 洞窟の中に設置されている、本来はカフェスタッフと注文のやり取りをするモニターに、同じウィンクルムが映っていました。
 左手の甲には、契約後を示す赤い独特の文様が見えます。

『ここを占拠していたオーガが言ったんだ。キスをするか、愛の言葉を囁けば氷は溶けると!』

「え?」
 貴方は氷漬けとなったパートナーを見ました。

「ええっ!?」

 キスと愛の言葉──貴方はどちらで、氷を溶かしますか?

解説

『洞窟カフェ』で、オーガの残した『罠』に掛かってしまったパートナーを救い出して頂く事が目的のエピソードです。

『罠』に掛かるのは、神人さんと精霊さん、どちらでも構いません。
どちらが『罠』に掛かるか、プランに明記して下さい。(プラン冒頭に『罠』と書くだけで構いません)
※どちらかが救出に回る必要があり、両方罠に掛かる事はできませんので、ご留意下さい。

<洞窟カフェ>
洞窟状の個室でカフェタイムが楽しめるアトラクション。
部屋は4つ。
明かりは部屋中央にある焚き木だけ。
焚き木の前に座椅子。木製のテーブルが一つ、椅子が二個あります。

壁には、監視カメラと、注文連絡用の機械(モニター付き)がありますが、緊急事態につき、スタッフ達は見ない振りをしてくれています。
パートナーを無事に元に戻す事が出来たら、カフェタイムをお楽しみ頂けます。

アトラクションの代金:一律『300Jr』

 メニュー
 珈琲
 紅茶
 栗かぼちゃケーキ
 アップル&スイートポテトパイ

<罠>
薄い氷(溶けない、固い)に覆われて、身動きが出来なくなります。
意識ははっきりしていますが、指一本動かせず、喋ったり感情表現が出来ません。

凍り付いた箇所に『キスをする』か、『愛の言葉を囁く』事で氷は溶けて消えます。
ただし、下記の部位ごとに、キスまたは愛の囁きが必要です。

 頭・右腕・左腕・胸・腹・右脚・左脚

『愛の言葉』は部位ごとに変える必要はなく、同じ言葉でも問題ありませんが、嘘でも良いので心を込める必要があります。
心を込めた言葉でない場合、氷は溶けません。

<仮装>
【仮装】する事により、特殊効果を利用できます。
『罠』に掛かった方は特殊効果は使えませんので、ご注意下さい。

出来る仮装の種類と特殊効果については、以下ページでご確認をお願い致します。

https://lovetimate.com/campaign/201510event/halloween_episode.html

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『洞窟にはロマンが詰まっている!』と思う方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

罠に掛かってしまったパートナーを助ける為、
「好機!」
「し、仕方ないな、今回だけだからな!」
「恥ずかしいけど、頑張りましょうか」
なんて言いながら、奮闘する皆様を是非拝見したい次第です。

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

 
仮装:吸血鬼

動けない……
レーゲンの顔が近いから緊張する……助けてもらってるんだから、余計なこと考えない!
え?顔じゃないよ、頭だよ……待って待ってー!(声にならない叫び)


レーゲンだって氷に何度も触れて冷たいよね
二人でひっついてたら暖まるの早いよ、きっと(吸血鬼のマントに二人でくるまる)
氷にふれた手は握れば暖まるかな。
あと氷に触れて冷えてるのは……唇(赤面)

レ-ゲンが謝らなくていいよ。嫌な訳じゃないんだよ、すでに1回してる訳だし。
ちょっと恥ずかしいだけだから

その、今ものすごく発熱してるから………有効活用していいよ(自分の顔を指さす)

……!逆にこっちが暖まっちゃったよ。


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  *『罠』

事情は分かる
瘴気を晴らす一環とか仕事のうちとか理屈がぐるぐる
今までに色々理不尽なトラブルにあってきたけど、何度喰らっても恥かしいものは恥かしい><
無理だと分かってるけどジタバタ

そしたらランスの言葉が聞えてきて、やっと落着く

頭から順に自由になる
反射的にランスと目が合う
そんな子供じゃないし、これは仕事だし
(それに…嫌じゃないし)
いや、寒くは無いよ

あ…服を捲らないとやっぱだめ?(汗
もっとさっさと解除してくれよ
そんなに丁寧にしなくていいからっ
腕が自由になったら、ポカスカからの、ハグ

お礼?
十分役得してたじゃないか(むい

ランスが凍ったら?
かあっ)バカ言ってないでケーキ
ほら、好きなの頼めよ…(ぽふん



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ドラキュラの仮装をして行くぜ。

オレの大事なラキアに何してくれるんだ。
解放が最優先!
ここはオレの燃える想いで、助けださなくては。
キスすればいいの言葉でそく、頭と両腕を愛情込めて脊髄反射的にキスしちまうぜ。
その時(愛の言葉…!?)と頭の中では何か良い言葉を探す。
でもいざとなると気の利いた言葉って出てこないものだな!(キッパリ)
よし、ここはもう全部キスでいくぜ!
こんな機会滅多にないし。キスでもラキア大好きって充分伝わるじゃん!
赤くなってるラキア可愛い。

先日カボチャアイス食べそびれたから、栗カボチャケーキとコーヒーにする。
「ウマいスイーツ食べれて良かったな」笑顔。
ラキアが凍ったままじゃなくて良かった。



柳 大樹(クラウディオ)
 

まじかー。
何でそんな罠にしたの、そのオーガ。
愛の言葉は、ないかな。(想像できない

全然戸惑わないのな、こいつ。
溶けてるみたいだけど。まだ動かない。
できれば口は止めろよ。
って、おい。

「……なんで眼帯?」(殴りかけて止める
嘘は言ってない、か。(息を吐き、心を落ち着かせる
「無いよ。大丈夫」寒くもないし。
本当に気にしてないんだな。これ。(眼帯に軽く触れる
妹に口は好きな奴にーって、言われてたけど。
(妹は腐女子
眼帯と口、どっちがマシなのかわかんねぇ。

もういいや、面倒臭い。
「栗かぼちゃケーキと、アップル&スイートポテトパイ。そんで紅茶」(やけ食い注文
「放っとけ」
(眼帯へのキスに苛立ちと羞恥と安堵で、もやもや



●1.

 ラキア・ジェイドバインは焦っていた。
 身体は服ごと薄い氷に覆われて、指先一つも動かせない。
 何もこんなウィッチの仮装をしている時に、こんなトラップに遭遇しなくても。
(せめて普通の格好している時にして欲しいよ)
 一層性別不明にならないかな?
 実際問題、長身でありながらも、紅い長い髪、柔らかい雰囲気に穏やかな微笑で、ラキアを女性と初見思う人は少なくはない。
 そんな彼が、艶やかな黒いレースやビーズの刺繍が美しい魔女の仮装をしているのだ。
 ──ああ、結構俺は混乱しているのかも──ラキアが自己分析を行っていると、ふと目の前が少し暗くなる。
 パートナーのセイリュー・グラシアが、目の前に立ったからだ。
「オレの大事なラキアに何してくれるんだ……!」
 菫色の瞳を爛々と怒りに震わせ、セイリューが叫んだ。
 そこへ、外からの通信。
 壁のモニターに映ったウィンクルムの言葉に、セイリューは反射的に行動に移っていた。
 ──キスか、愛の言葉で、ラキアを助けられる!
 迷いなく、ラキアの紅い髪に口付けを。
 続けざま、両腕にもキスを落として、ラキアの頭と両手は瞬く間に氷から解放される。
 ラキアは目を見開いて、セイリューを見た。
 驚いた。反応早過ぎ。何より──。
(全然キスに躊躇いが無いんだもの)
 キスされた。
 不覚にも心臓が早鐘を打つ。不意打ち過ぎて、困る。
「オレの燃える想いで、必ず助けるからな、ラキア!」
 こちらを見上げてきたセイリューが力強く拳を握るのに、ああ、そうかとラキアの口元に笑みが浮かんだ。
(助けたい思い一心……なんだね)
 それは、セイリューがラキアの事を大事に思ってくれているからで。
 凄く嬉しい。
 ラキアが微笑んだのに、セイリューもまた安堵した。このまま解放出来れば、問題なさそうだ。
 何より、信頼してくれてるからこその笑みだと思う。それが誇らしく嬉しかった。
(けど……愛の言葉……!?)
 顎に手を当て、ぐるぐると頭の中で考える。
「……いざとなると、気の利いた言葉って出てこないものだな!」
 少しの間思考して、セイリューは瞳を上げるときっぱりと言う。
「よし、ここはもう全部キスでいくぜ!」
 思わずラキアは瞬きした。全部、キス?
(こんな機会滅多にないし。キスでもラキア大好きって充分伝わるじゃん!)
 セイリューは口元を緩める。役得だ!
 そうと決まったら、セイリューはラキアの胸元に唇で触れた。氷は面白いくらいあっけなく溶けて消え去る。
「次はお腹だ!」
 腰を落として腹部に触れてくるセイリューに、ラキアは顔が熱くなるのを感じた。
 ラキアが身を捩る気配を感じて、セイリューは彼を見上げた。赤い頬のラキアと目が合う。
(赤くなってるラキア、可愛い……)
 ふふっと笑みを零すと、戸惑いもなく口付けた──腹部を覆っていた氷も消滅する。
「最後は足!」
 床に膝を付いて、セイリューはラキアの凍て付いた脚に触れた。スカートから覗く脚、凄く綺麗だ。
 カーッと、更に耳まで熱くなるのをラキアは感じる。
 氷越しに触れてくるセイリューの手の感触を、何故か感じるような不思議な感覚。
「何処にキスしよう?」
 真面目に悩むセイリューに、ラキアは心で叫んだ。
(もう本当に恥ずかしいから……!)
 早く何とかして。
 個室で本当に良かったと思う。
 セイリューは少し悩んだ結果、脹脛に口付ける事にした。
 優しく想いを込めて、右脚、左脚と順番に唇を寄せる。
 全ての氷が溶けて、ラキアは自由の身となった。なのに、何故だろう? 凄く疲れた。
「ラキア、良かった!」
 がばっとセイリューが抱き着いて来て、ラキアはそっとその背中に手を回す。
 すっかり火照ってしまった身体──セイリューに気付かれないだろうか?
「……有難う、セイリュー」
 でもお礼を伝えたくて──彼の耳元に囁いた。
(セイリューの笑顔を見て、凄く安心したんだ。だから、不安はなかったんだよ)


「この間、残念なヤックドーラのせいで、カボチャアイス食べそびれたんだよな」
 片言な会話で翻弄(?)してきたオーガの姿を思い出し、セイリューは少しだけ遠い目をする。
「オレは栗カボチャケーキとコーヒーにするぜ!」
 メニューをピンと弾き、セイリューはラキアに視線を向けた。
「ラキアは何にする?」
「俺は、紅茶とアップル&スイートポテトパイにしようかな」
「おっけー!」
 注文してから程なく、湯気を立てた珈琲と紅茶、見た目も華やかな栗カボチャケーキとアップル&スイートポテトパイが届く。
 二人はテーブルを囲んで、木の椅子に座った。
「「いただきます」」
 手を合わせてから、早速珈琲と紅茶を口に運ぶ。
「んーケーキ、美味い!」
 ケーキを頬張るセイリューを眺め、ラキアは微笑んだ。
「ね、セイリュー」
「んー?」
「もし、セイリューが同じような目に遭ったとして──その時は、俺も同じように助けるからね」
 本当に嬉しかったから。
 セイリューが動きを止めて赤くなるのに、ラキアは満足そうに笑ったのだった。


●2.

「キス? 楽勝!」

 ぐっと拳を突き上げたヴェルトール・ランスを見つめ、アキ・セイジは凍り付いて動かない唇を動かそうとして、動かない事に大きく溜息を吐き出そうとし、それも出来ない事に脱力した。
 事情は分かる。
 これまでも、色んな事を乗り越えて来た。
 走馬燈のように想い出が過ぎって……あ、これ自爆する奴だ──気付いた時には、顔がひたすら熱い。
(本当、色々理不尽なトラブルにあってきたけど……)
「……って言うか、役得?」
 バチーン☆とウインクするランスに、セイジは心で叫んだ。
(何度喰らっても恥かしいものは恥かしい……!! どうして、お前はそんなにノリノリなんだ!)
「さて、まずは……っと」
 心でジタバタしているセイジの目の前で、ランスは徐に身に付けていたドラキュラマントとマフラーを取った。
「ちょっと目隠しな」
 壁の監視カメラと注文連絡用のモニターに、マントとマフラーを被せる。
 そして、ランスはセイジの傍に歩み寄ると、その耳元に言った。
「カメラは塞いだぞ、見えないからな」
 大丈夫だからと微笑んでから、低く囁く。
「言葉じゃない方で溶かすよ」
 心臓が、跳ねた。
 それから、不思議な落ち着きがセイジを包む。ランスの心遣いが嬉しくて──だって、俺が恥ずかしい事に気付いて気遣ってくれたんだよな?
 ランスが助けてくれるなら、己はこの身をただ委ねればいい。

「まずは、頭」

 柔らかく唇が頭上に降ってきて、セイジの顔を覆っていた氷は一瞬で溶けて消えた。
 瞬きして彼を見つめれば、金色の瞳と目が合った。ランスはニッと白い歯を見せる。
「もう少し我慢な。……出来る?」
「そんな子供じゃないし、これは仕事だし……」
(それに……嫌じゃないし)
 ふいと視線を逸らせば、ランスが笑った気配がした。
「寒くない?」
「いや、寒くは無いよ」
「不幸中の幸いだな……うわー服もカチコチ」
 ランスは凍ったドラキュラマントを突いてから、その冷たい胸元へキスを贈る。
 胸を覆う氷が消えて、開放感にセイジは息を吐いたのだが──……。
「……!? ちょ、何処触って……!」
「ん? ちゃんと氷が溶けたか確認♪」
 シャツの釦を器用に外して、ぺたぺたと素肌に触れてくる。
(ここ、セイジ弱いんだよな♪)
 勝手知ったる何とやら。弄る手にセイジは息も絶え絶えになりながら叫んだ。
「も、確認は、いい、から……! 続きを……!」
「折角カメラに蓋をしたのに、大きな声を出したら意味ないぞ?」
「誰のせい……だとッ」
「さて、誰かな」
 ランスはクスッと低い声で笑うと、焦らすように凍る腹部を撫でる。
「次はこっちを溶かして確認だ」
 キスで氷が溶けると、今度は腹に温かい手が触れて来た。
「そんなに、丁寧にしなくて、いい……からっ……」
「心配だし」
 しれっと答えて、ランスはシャツを捲って現れたセイジの白い肌を見つめた。何というか、こう……。
 がぶっ。
「ッ!?」
 いきなり牙を立てられて、セイジは背筋を震わせた。今、噛み付かれた……!?
「なぁ、セイジ。……本当に丁寧にしなくていい?」
 ランスの唇が肌に触れて、声が身体を震わす。
 駄目だ──……。セイジは瞳を閉じる。抗えないのは、ランスの仮装効果なのだと、頭の隅で理解した。
「……が、……いい…………」
 絞り出すように答えた声に、ランスの口元が弧を描いた。
(ふふ……役得だ)


 ポカスカ!ポカスカ!
 全身を覆う氷が全て溶けてから、自由になった腕で、セイジはランスの胸板を叩いている。
 ランスはなすがまま、涙目でこちらを見上げるセイジを見つめていた。
 最高に可愛い。
「……ッ……」
 気が済むまで拳を振り上げて、セイジはフーフーと荒い息を吐き出す。
 落ち着いたかな?と、ランスは首を傾けてセイジを眺め、にっこり笑った。
 その笑顔に、弱い。
 セイジは彼の背中に腕を回した。温かくて、安心する。恥ずかしかったけど……それでもやっぱり……。
「セイジ」
 ぎゅっとセイジを抱き返し、背筋を撫でながらランスが囁く。
「無事でよかった」
 その言葉に、凝り固まっていた心も身体も溶けてしまって。
「俺が凍った時は……セイジがしてくれる?」
 問いに、セイジはまた頬が熱くなるのを感じた。
「バカ言ってないでケーキ。……ほら、好きなの頼めよ……」
 ぽふんと彼の頭を柔らかく叩けば、ランスは嬉しそうに笑う。
「同じのでいいよな?」

 珈琲と栗かぼちゃケーキ。
 運ばれてきたそれを手に、二人は焚き木の前の座椅子に並んで座り、カップをカチンと合わせる。
 甘いケーキを口にして、セイジの顔が穏やかな笑みに変わった。
 それをじっと見つめ、ランスが口を開く。
「なぁ、セイジ」
「何だ?」
「お礼が欲しいなー」
 ぴこぴこと獣耳を期待に揺らし、セイジを見つめる黄金色の瞳。
「十分役得してたじゃないか」
 視線を外して焚き木の炎を見るセイジに、ランスは笑った。
「でも、それはそれ、これはこれ、だろ?」
「……」

 セイジのお礼は、ランスだけの秘密となった。


●3.

 信城いつきは、文字通り固まっていた。
 突然薄い氷に覆われて、全身身動きが取れない。
「いつき……!?」
 振り返ってきたレーゲンが、翠の瞳を大きく見開き駆け寄ってくる。
(取り敢えず苦しくはない……)
 狼狽した様子で、氷に触れてくるレーゲン。
 何とか大丈夫だと伝えたいけれど、瞬きすら出来ない身体をいつきはもどかしく思う。
 その間、レーゲンは、壁のモニター越しに解決方法を指南してくる声に耳を傾けていた。
 いつきを解放できる術がある──レーゲンは安堵と共に、真っ直ぐにいつきを見つめる。
「待ってて、すぐに戻すから」
 凍った身体が壊れないように、気遣いながら触れてくる、優しいレーゲンの手。
 レーゲンは身を屈めて、いつきの右腕に顔を寄せる。
(……って、キス、するの?)
 彼が何をしようとしているか理解して、いつきは顔が急激に熱くなるのを感じた。
 愛の言葉でもいいのに──……って、そっちはそっちで照れる……から、やっぱりキスでいいの?
 回る思考の中、レーゲンの唇が右腕に触れる。
 ふっと身が軽くなるような感覚と共に、右腕を閉じ込めていた氷が溶けて失せた。
 レーゲンは安堵の吐息を吐くと、続けていつきの左腕に視線を向ける。
 左腕にも同様に、優しい唇が降りた。
 いつきは思わずぐっと右手を握る。
 左腕も解放されたのを確認し、レーゲンはいつきの胸元へ唇を寄せた。
 祈るように瞳を伏せて、心臓の位置──左胸に口付けを贈る。
 胸部を包んでいた氷が抵抗なく消え去るも、いつきの体温は上昇した──凄く恥ずかしいよ!
 レーゲンはそのまま滑るように腹部に唇を下ろし、臍の辺りに口付けて、氷を溶かした。
 続けて床に跪き、左、右と順番にキスをすると、両脚も自由になる。
(……あとは、あぁ『顔』か)
 立ち上がりレーゲンはじっといつきの顔を見つめてから、その頬にキスをした。
「……? 何故溶けないんだろう?」
 レーゲンが端正な顔を困惑に歪める。
(!? 『顔』じゃないよ、『頭』だよ!)
 いつきは必死で身振り手振りで指摘しようとするも、その様子にレーゲンは眉を下げた。
「もう少し待っててね、いつき。きっと助けるから」
(待って待ってー!)
 いつきの主張は届かず、レーゲンは何度もいつきの頬に口付けを繰り返す。
「やっぱり……唇でないといけないのかな」
 真面目に悩むレーゲン。
 どうやら、呪いを解くのは口付けというイメージから、素で頭と顔を間違っているようだった。
 そんな彼がちょっぴり可愛いと思ったりするけれども、何とか誤解を解かなくては!
 いつきが、どのようにジェスチャーしたらいいか悩んでいる間も、レーゲンはずいっと顔を寄せて来た。
 唇を合わせようとしているらしい。
(違うんだよー!)
 嫌ではないけど、恥ずかしい! いつきが心で叫んだ時だった。

『あーコホン。そこは顔ではなく、頭ではないかな?』

 モニターから控えめな声が聞こえた。先程、氷の溶かし方を教えてくれたウィンクルムの声だ。
 貴方達見てたんですか!とツッコミを入れたいが、今は有難い。
「ま、間違えた……」
 カーッを顔を紅く染めながら、レーゲンがいつきの頭頂にキスをすると、やっといつきを閉じ込めていた氷は全て消滅した。
「レーゲン、ありが……」
「いつき、こっち」
 レーゲンはお礼の言葉を聞くのも早々に、いつきの手を引いて焚き木の前の座椅子に座らせた。
 己もその隣に腰掛けると、冷えたいつきの背中を撫でる。
「寒くない? 大丈夫?」
 温かな手に、いつきは瞳を細めた。レーゲンの気持ちが何より嬉しく温かい。
「俺は大丈夫。レーゲンだって、氷に何度も触れて冷たいよね」
 背中を撫でてくれる手と逆の手を捕まえると、ひんやりと冷たかった。
「二人でひっついてたら暖まるの早いよ、きっと」
 バサリと羽織っていたドラキュラマントを広げて、レーゲンと二人で包まるようにする。
「手は……こうすれば暖まるかな」
 いつきは二人で繋いだ手を焚き木の炎に翳した。ぽかぽかと温かい。
「あと氷に触れて冷えてるのは……唇」
 ぽつりと呟いて、いつきは顔が熱くなるのを感じていた。
「びっくりしたよね……ごめんね」
 レーゲンが眉を下げて謝ってくる。いつきは彼を見上げ、ふるっと首を振った。
「レ-ゲンが謝らなくていいよ。嫌な訳じゃないんだよ、すでに1回してる訳だし……ちょっと恥ずかしいだけだから」
 自分で言って、いつきは耳も熱くなるのを感じる。
 深く息を吸ってから、焚き木の炎を見つめて、いつきは口を開いた。
「その、今ものすごく発熱してるから………有効活用していいよ」
 レーゲンは目を見開く。いつきの指が、いつきの頬を指差している。頬はほんのりと紅い。
 視線を合わせない、いつきの精一杯の照れ隠しが、本当に可愛い。
 レーゲンは瞳を細め、そっと紅い頬に唇で触れた。温かな柔らかい愛おしい感触。
 ちらりとモニターの方を窺う。
 それから、レーゲンはドラキュラマントを大きく広げて、モニターからの視線を防いだ。
 掠めるように唇同士を触れ合わせれば、いつきが青い瞳を見開く。
「……逆にこっちが暖まっちゃったよ」


●4.

 ──どうしてこんな罠にしたの、そのオーガ。

 柳 大樹は、モニターから解説してくれるウィンクルムの声を聞きながら、オーガにツッコミを入れたかった。
 大樹の身体は、現在薄い氷に覆われている。このアトラクションを乗っ取っていたオーガが残した罠らしい。
 そして、氷を溶かす方法が普通じゃない。
(キスか、愛の言葉──ねぇ……)
 ウィンクルムの声に耳を傾けているパートナー、クラウディオを見遣る──幸いな事に視線は動かせた。
(愛の言葉は、ないかな)
 想像できない。
「大樹」
 クラウディオがこちらを向いた。フードを被り口布を着用した彼の表情は、いつも通り読めない。
(あー……声は出せない、か)
 返事をしようとしたものの、口を動かす事は出来なかった。
 クラウディオが思案するように瞳を伏せる。
 ──このままでは凍える可能性が高い。早く溶かさねばならない。
 クラウディオは考える。氷を溶かす方法は二つ。
(愛の言葉は判らない──ならば、方法は口付けになる)
 そこまで思考して、クラウディオは口布を下に下ろした。隠れていた唇が空気に晒される。
 その事に、大樹は心の中で大きく瞬きした。どうしてクラウディオがそんな行動に出たか、分かるけども理解は出来ない。
 クラウディオが、大樹の傍に歩み寄る
 少し前に出した状態で固まる左腕に、慎重に触れる。驚くくらい冷たい。
 身を屈め、躊躇なくそこに唇で触れた。氷が一瞬で消滅する。
(確かに溶けている)
 服ごと凍っていた筈の左腕は、凍っていたのが嘘のように元に戻っていた。
 念の為、触れてそれを確認したクラウディオは小さく頷く。
 それから膝を付いて、大樹の左脚に視線を定めた。
(全然戸惑わないのな、こいつ)
 大樹はクラウディオの頭頂部を見下ろして、らしいというか呆れるというか、正体不明な感想が湧き上がるのを感じる。
 左腕は軽くなったけれど、まだ動かさないように意識した。
 今動くと、面倒な事になりそうな気がする。クラウディオが全て解放してくれるまでは、大人しくしておこうと思った。
 クラウディオが膝頭に唇で触れると、左脚も氷から解放される。
 再び元に戻った事を掌で触れて確認してから、クラウディオは右脚の膝頭に口付けた。
(一々確認しなくていいのに……)
 丁寧に元に戻ったか確認するクラウディオの手が、擽ったい。
 腹、胸、右腕と順に口付けられ、大樹を覆う氷は頭部だけとなった。
 大樹の前に立つクラウディオが、両手で大樹の両耳を覆うような形で触れてくる。
 氷越しに、大樹の蜂蜜色の右目と、クラウディオの青灰色の両目──視線が絡んだ。
(できれば口は止めろよ)
 心でクラウディオに言って、大樹は異変に気付く。
 ゆらりと、何故か僅かクラウディオの瞳の色が変わった気がする。
 大樹が訝しんだ瞬間だった。
 クラウディオの顔が近付いて──。
(……ッ……!?)
 唇が、左目を覆う眼帯に触れて、そこからなぞるように頭頂部に触れた。
 何が起こったのか、理解が追い付かない間に氷が消える。
 反射的に、大樹はクラウディオへ右腕を振り上げた。彼に向けた拳を強く握り締め、押し殺した声で問い掛ける。

「……なんで眼帯?」

 クラウディオは、己に振り上げられた拳と、大樹を交互に見つめ、口を開いた。
「肌に触れぬ方が良いと判断した」
「……」
(嘘は言ってない、か)
 大樹はゆっくり拳を下ろした。
 大きく息を吸い込むと、尖った感情が徐々に落ち着いていく。
(……違っていたか)
 クラウディオはそっと大樹から手を離した。
 大樹の好む方法では無かったらしい。
 距離を取り、大樹を観察する。
「体調に問題は」
 尋ねれば、大樹は息を吐き首を振った。
「無いよ。大丈夫」
 寒くもないし。
 大樹は眼帯に指を伸ばした。氷越しだったけれど、まだクラウディオの感触があるような──不思議な感覚。
(本当に気にしてないんだな。これ)
 クラウディオは無言でこちらを見ていた。
 眼帯に触れる。失われた左目。今ここにあるのはニセモノ。
(妹に口は好きな奴にーって、言われてたけど……眼帯と口、どっちがマシなのかわかんねぇ)
(力を込める様子は無いな)
 大樹が指先に力を込めるようなら、直ぐに止めようと考えていた──クラウディオは、密かに構えを解く。
(もういいや、面倒臭い)
 大樹は首を振り、壁のモニターに向かうと、メニューを眺めて淡々と注文する。
「栗かぼちゃケーキと、アップル&スイートポテトパイ。そんで紅茶。クロちゃんは?」
「私は紅茶で良い」
「じゃ、紅茶は二つ」
 直ぐに注文の品は運ばれてきて、二人は焚き木を前にティータイムにする。
 何時にない勢いでケーキとパイを口に運ぶ大樹を横目に、クラウディオは紅茶を一口。
 減っていくケーキとパイを見遣る。
「大樹、糖分の取り過ぎだ」
「放っとけ」
 更に加速して糖分を口に運ぶ大樹に、クラウディオは瞬きした。
(また何か間違えたらしい)

 苛立ちと羞恥と安堵──誰にも説明できない感情の渦が、大樹を包み込んでいた。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:柳 大樹
呼び名:大樹
  名前:クラウディオ
呼び名:クラウ、クロちゃん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月29日
出発日 11月05日 00:00
予定納品日 11月15日

参加者

会議室

  • [5]アキ・セイジ

    2015/11/04-23:58 

    プランは提出できているよ。

    ランスはまったくしようがないよな(やれやれ)
    皆は、どうやって解放されるのかな…(興味)

  • [3]アキ・セイジ

    2015/11/04-02:20 

  • [2]柳 大樹

    2015/11/03-23:05 

    クラウディオ:

    クラウディオだ。

    此方は大樹が凍った。
    早急に対処を行う。

    個室で会う事は無いが、よろしく頼む。(ふと思い出し挨拶

  • [1]信城いつき

    2015/11/03-22:59 

    こんばんは、信城いつきと相棒のレーゲンだよ
    いつきが凍り付いてしまったので、代わりに私が挨拶させてもらうよ。

    早いところ氷を溶かして、温かいものでホッと一息つきたいよ
    他の部屋にも罠があるのか…みんなも頑張ってね。

    場所は、胸とお腹と足と…(ぶつぶつ)


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