【お菓子】温もりの在り処(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ハロウィン専用テーマパーク『ジャック・オー・パーク』。
 ハロウィンを盛り上げるために建設された、広大なテーマパークです。
 オーガ達に占拠されてしまったものの、ウィンクルム達の活躍により、パーク内のアトラクションは次々と取り戻されつつありました。

 『無重力☆カフェ』もまた、オーガの魔の手から救われたアトラクションの一つです。
 このアトラクションは、円形状の個室でカフェタイムが楽しめる飲食店系。
 ただ一つ、普通のカフェと違うのは、名前の通り、その中が魔法の力で無重力空間であるということ。
 ふよふよと無重力を楽しみながら、一風変わったカフェタイムを楽しめるのです。

 貴方とパートナーは、解放されたばかりの『無重力☆カフェ』に遊びに来ました。
 ウィンクルムとして、アトラクションに仕掛けられた『罠』と『瘴気』を消滅させる為です。
 慎重に扉を開いて……貴方はふわりと無重力空間に飛び出しました。
 宙に浮く感覚に、貴方は思わず笑顔になってパートナーを振り返ったのですが……。

 そこに『罠』があったのです。

 貴方の目の前には、氷漬けとなったパートナー。
 まるで精巧な氷の彫刻のようになったパートナーが、頼りなく空間を漂っています。

『キスよ! キスをするの!』

 不意に外から聞こえてきた声に、貴方はビクッと身体を跳ねさせました。
 ガラス窓の向こうから、こちらに叫んでいるのは、同じウィンクルムです。左手の甲には、契約後を示す赤い独特の文様が見えます。

『ここを占拠していたオーガが言ったの。キスをするか、愛の言葉を囁けば氷は溶けるって!』

「え?」
 貴方は氷漬けとなったパートナーを見ました。

「ええっ!?」

 キスと愛の言葉──貴方はどちらで、氷を溶かしますか?

解説

『無重力☆カフェ』で、オーガの残した『罠』に掛かってしまったパートナーを救い出して頂く事が目的のエピソードです。

『罠』に掛かるのは、神人さんと精霊さん、どちらでも構いません。
どちらが『罠』に掛かるか、プランに明記して下さい。(プラン冒頭に『罠』と書くだけで構いません)
※どちらかが救出に回る必要があり、両方罠に掛かる事はできませんのでご留意下さい。

<無重力☆カフェ>
円形状の個室でカフェタイムが楽しめるアトラクション。
個室制となっており、部屋は全部で5つ。
部屋の中は魔法の力で『無重力』となっております。
通路側に大きなガラス窓があったりしますが、緊急事態につき、スタッフ達は見ない振りをしてくれています。
パートナーを無事に元に戻す事が出来たら、カフェタイムをお楽しみ頂けます。

アトラクションの代金:一律『300Jr』

 メニュー
 珈琲
 紅茶
 栗かぼちゃケーキ
 アップル&スイートポテトパイ

<罠>
薄い氷(溶けない、固い)に覆われて、身動きが出来なくなります。
凍り付いていても意識ははっきりしています。
ただし、氷が解けないと、指一本動かせず、喋ったり感情表現が出来ません。

凍り付いた箇所に『キスをする』か、『愛の言葉を囁く』事で氷は溶けて消えます。
ただし、下記の部位ごとに、キスまたは愛の囁きが必要です。

 頭・右腕・左腕・胸・腹・右脚・左脚

『愛の言葉』は部位ごとに変える必要はなく、同じ言葉でも問題ありませんが、嘘でも良いので心を込める必要があります。
心を込めた言葉でない場合、氷は溶けません。

<仮装>
【仮装】する事により、特殊効果を利用できます。
『罠』に掛かった方は特殊効果は使えませんので、ご注意下さい。

出来る仮装の種類と特殊効果については、以下ページにてご確認をお願い致します。

https://lovetimate.com/campaign/201510event/halloween_episode.html

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『秋の味覚が美味しくて幸せ♪』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

罠に掛かってしまったパートナーを助ける為、
「こ、これはチャンス!」
「し、仕方ないわね、今回だけよ!」
「恥ずかしいけど、頑張ります」
なんて言いながら、奮闘する皆様を是非拝見したい次第です。

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)

  相変わらずお約束だな、銀雪
※腹へキス

「腹へのキスは回帰だったか
キスの意味を順に復習するか」
※にやりと笑ってキス開始

「腿は支配…今の状態はある意味そうだな
私は支配するのもされるのも好みではないが」
※右脚→左脚へ

「胸は所有…私もお前も物ではない
そういう概念も好きではないな」
※胸へ

「腕は恋慕…お前は十分過ぎる位だな
さて、私を恋慕させているか?」
※右腕→左腕、にやにや

「ラストは額…祝福
お前は何を祝福されると思う?」
※額へ

「戻ったようだな?」
珈琲注文
銀雪の様子に気づき
「言い忘れていたが」
※さらっと唇にキス
「本番は目を閉じる努力を勧めておこう。無粋だ。尤も…本番を迎えられる努力が必要だがな?」
せいぜい励め



アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  ☆罠

どうしよう…全然動けない。
こんな時でも、ユークは余裕ぶっちゃって…本当むかつく!
って、ちょっとユークなに近寄って…えっ!きゃっ!
キ、キスとか、こんな言葉とか…や、やだ、恥ずかしい…。
でも、なんだろう…もっと…もっとして欲しいって気持ちがあふれてくる…。
って!調子に乗るなバカッ!

ま、まぁ色々あったけど、紅茶とアップル&スイートポテトパイは美味しいわね。
でもさっきの気持ちはなに?
キスされたり、甘い言葉掛けられたり…。
今までは特になんにも感じなかったけど、最近は違う。
どうして、こんなドキドキがずっと止まらないの…。

でも…

「アンタのこと…好き…に、なる、かも…」

口から出てしまった、あたしの本音…。



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
 

あ…。氷漬けに、と思った途端に。
ミュラーさんの行動に顔が火が出そうです。
そんな言葉がすらすらと即出てくるなんてビックリです。
こんなに淀みなくでてくるなんて、普段からそんなこと考えているのですか?
と内心混乱。あうあうと焦ります。
まるでイタリア人のような、とか。
何より、本当に個室で良かった。
誰かに見られたら恥ずかしい…。

とりあえず、紅茶とアップル&スイートポテトパイで落ち着きを取り戻さないと。
頬の火照りが戻らないです。
そんな私の様子を、少し不思議そうに首を傾げて見ているミュラーさん。
彼は結構天然なんじゃないかという気がして来ました。
でも、こんなに大切に思ってもらえるのは嬉しいです。
ありがとう。



秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  選択肢に驚愕
背を向け試しに小声で告白、どもった挙句最後まで言えない
っ無理です!
耳まで赤く両手で顔を覆う

振向くと視界に精霊、傍へ
…苦しくないですか?大丈夫…?
潤む目元

…助けなきゃ
ジューンさんを救えるのは私だけ、躊躇う余地なんてないはず…
(トランスだって、キス、です
強く頭を振り意を決して手を伸ばす

微かに震えつつ唇を寄せ、心の中で呟いて気持ちを込める
右腕(言葉にできないけれど
左腕(いつも傍で支えて
左脚(護ってくれるあなたに
右脚(感謝しています
腹(だから私だって
胸(あなたを護りたいです
頭(好き、なんです…

震えながら抱き締め返す

魔女/珈琲

緊急事態でしたからと赤面俯いて淡々と言い訳
もう…早く忘れてください



スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  『罠』
抜かったわね。身体も動かないし…
ハッキリ目は冴えてるんだけど、目の前のクロスケがやたら焦ってるわね
って、何照れてるのかしら?
別にキスぐらいされたって気にしないわよ
異性に慣れてないクロスケとは違って、私は異性にキスされることぐらい慣れてるもの
でなきゃトランスの時困るじゃない

でもここまで真剣な顔されると、ちょっとぐらい悪戯したくなるわよね…
氷が無くなったら、目を閉じて反応しないフリでもしてみようかしら

相当焦ると思うのよ
数日、口をきいてくれないと思うけども
家で照れて悶絶するクロスケを見られるなら十分だもの…ふふっ

私が凍った時、あんな顔して焦ってくれる人がいて嬉しかったのは、私だけの秘密



●1.

 その時、彼はうっすらと死を覚悟した。

 ウィッチの仮装に身を包んだ彼女は、硬直しているようだった。
 紫の瞳がこれ以上なく見開かれていて、いつもはきゅっと引き結ばれている口元は、ぱくぱくと声にならない声を紡ぐ。
 ──うん、そうですよね。俺も驚いてますから。
 彼女に微笑んでみようとするけれど、薄く固い氷がそれすら許してはくれない。
(……はは……俺、流石に今回はもう駄目かもしれませんね)
 ジュニール カステルブランチは、心で乾いた笑いを零した。
 身に纏ったドラキュラの衣装ごと氷漬けにされた身体は、無重力な部屋の中、パートナーの秋野 空と共に頼りなく漂っている。
(助けなきゃ……)
 いつもならば、優しく助け船をくれる声は聞こえない──空は早鐘のような胸を押さえて、ジュニールに背を向けた。
 彼の水色の瞳を見ては、とても口に出せそうになかったから。
 息を吸って声にしようとして。小声なのにどもった挙句、つかえて声は出なかった。
「っ無理です!」
 耳まで赤く染めて、空は両手で顔を覆う。
 心臓の音がこれ以上ないくらい速い。
(照れ屋のソラに愛の言葉やキス、なんて……無理ですよ)
 彼女の紅く染まる項を眺めて、ジュニールは心で吐息を吐き出した。
 すると、ゆっくりと空が振り返る。左手首の革ブレスに触れ──いつもの空の癖。
 空気を蹴るようにして、空がこちらに近付いてきた。
「……苦しくないですか? 大丈夫……?」
 壊れ物に触るようにジュニールの肩に触れる。感じるのは何処までも冷たい氷の感触だけだった。
 空の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
(……どうか泣かないで下さい)
 ジュニールは空に手を伸ばそうとして、動かない腕を歯痒く思う。
(でも、俺の為に泣いてくれると思うと少し嬉しい気が……それだけでもう十分です)
「……っ……」
 不意にぎゅっと空が唇を噛み締め、顔を上げた。瞳に浮かぶのは決意の色。
 震える手をジュニールに伸ばす。
(助けなきゃ)
 彼を今救えるのは、空しか居ないのだ。
(ジューンさんを救えるのは私だけ、躊躇う余地なんてないはず……)
 強く頭を振って、真っ直ぐジュニールを見た。
(トランスだって、キス、です)

 ジュニールの右腕に触れて、空はその手の甲に唇を下ろす。
(言葉にできないけれど)
 心に溢れる言葉を、この温もりに変える。
 左手の薬指に唇を触れさせて。
(いつも傍で支えて)
 右の太腿に震える唇を寄せ。
(護ってくれるあなたに)
 左側の太腿に、温かな吐息と共に。
(感謝しています)

 魔法のように両手両足の拘束が溶けて、ジュニールは震えた。
(あぁ俺とうとう幻覚まで見えて……って、動きます? 何てリアルな幻覚……じゃない?!)

 空が、優しく腹部に触れる。
(だから私だって)
 温かく氷は溶けた。
(あなたを護りたいです)
 胸に落ちる口付けは、唯々優しい。

(好き、なんです……)
 最後、髪に触れた空の唇で、ジュニールを捉えていた呪いは全て溶けた。

「ソラ!」

 空は抱き締められていた。
「ありがとうございます! まさかこんな……!」
 温かい声に腕。空は深い安堵にほぅと息を吐き出す。
 よかった。
 震えながら彼を抱き締め返す。
 その震えに彼女の不安と想いを感じ取って、ジュニールはより一層強く空を抱き締めた。


「俺の為に頑張ってくれるソラを見て、俺がどんなに嬉しかったか……とても言葉で言い表せません」
 ジュニールは紅茶のカップを置いて、アップル&スイートポテトパイをナイフで切り分けた。宙に浮いていても不思議な事に料理やお茶は零れないし、普通に扱える。
「死ぬほど嬉しいとは、このような気持ちなのでしょうね……」
 珈琲カップを手に、空は紅い顔で俯いた。
「緊急事態でしたから」
 淡々と言いながら彼を見上げれば、蕩けるような極上の微笑。
「もう……早く忘れて下さい」
「嫌です」
 爽やかに言い切って、ジュニールは甘いパイを一口食べ笑ったのだった。


●2.

 ──どうしよう……全然動けない。
 アメリア・ジョーンズは、氷に包まれた腕を上げようとして──全く動かない事に瞬きしようとし、それすら出来ない事に絶句した。
「エイミーさん……カチコチですね。見事に凍ってます」
 ジロジロこちらを眺めてくるユークレースはいつも通りで、その事に怒りが込み上げて来た。
(こんな時でも余裕ぶっちゃって……本当むかつく!)
 しかし次の瞬間、
「……やってくれますね」
 ユークレースの声が低く響く。青い瞳が一瞬細められた後、彼は直ぐに笑顔でアメリアを見た。
「大丈夫ですよ、エイミーさん。僕が必ず助けますから」
 言うなり、ユークレースが近付いて来る。
(って、ちょっとユーク近寄って……何する気!?)
「エイミーさんも聞いてたでしょ? キスか、愛の言葉で氷は溶けるって……」
 身に纏うドラキュラマントを靡かせ、ユークレースが微笑んだ。
 身を屈めた彼はアメリアの右腕に唇を寄せて、囁く。

「この手で作る料理が好きです」

(えっ!)
 自分でも驚くくらいに心臓が脈打って、右腕が軽くなる。氷から解放されたのだ。
(今なんて……)
「さあ、どんどん行きますよ」
 自由になったアメリアの右手の甲に口付けてから、ユークレースは左腕に唇を寄せる。
(きゃっ!)
 二の腕に唇が触れた瞬間、アメリアの全身を熱さが包んだ。
 恥ずかしい。なにこれ。一体どうなって──。
 混乱するアメリアを置き去りに、ユークレースは跪くような体勢で、今度は脚に触れて来た。
 愛おしげに太腿を撫でて、唇で触れてくる。
(……や、やだ……)
 解放されたものの膝が震え、でも目を閉じる事も出来なくて。アメリアは視線を合わせてくるユークレースをただ見ている事しか出来ない。
「もっと独り占めしたいです」
 ユークレースはアメリアの胸元に囁いた。
「早く、僕に恋してください」
 続けざま、腹部に触れて囁かれて、アメリアを閉じ込める氷は頭部だけとなる。
「エイミーさん」
 ユークレースの手が頬に触れて来た。氷越しなのに、そこだけ熱く感じるのはどうして?
(貴女の全てが、欲しい)
 優しく唇が額に触れる──最後の氷が溶けて消え、アメリアはやっと瞬きする事が出来た。
 終わった。解放されたのだ。
(でも、なんだろう……もっと……もっとして欲しいって気持ちが溢れてくる……)
「物欲しそうな顔してますね……もっとして欲しかった?」
 クスッと笑うユークレースの声が耳元で聞こえて、アメリアは我に返る。
「って! 調子に乗るなバカッ!」
「素直じゃないですね」
「きゃっ……」
 ユークレースの吐息が首筋に掛かったと思ったら、そのまま甘噛みされた。カーッと頭に血が上るのを感じる。
「エイミーさん、お茶にしましょう」
 何事も無かったのように、ユークレースが手を差し出してくる。アメリアは何故かその手を拒めなかった──ドラキュラ仮装の効果である事に、彼女はまだ気付いていない。

「ま、まぁ色々あったけど、紅茶とアップル&スイートポテトパイは美味しいわね」
 温かい紅茶と甘いパイは、アメリアの機嫌を直す事が出来たらしい。
 ユークレースは、紅茶のカップを抱えた彼女をニコニコと見つめる。
 その眼差しに、アメリアはそっと胸元を押さえた。鼓動が早い。落ち着かない。
(さっきの気持ちはなに?)
 キスされたり、甘い言葉を掛けられたり……思い出すだけで、思考は千々に乱れる。
(今までは特になんにも感じなかったけど、最近は違う。どうして、こんなドキドキがずっと止まらないの……)

「早く、僕のものになって下さいね」

 さらりとユークレースが言う。いつもなら、有り得ないと返すのに。

「アンタのこと……好き……に、なる、かも……」

 口を出た本音の言葉は、小さく空気を振るわせて。
 ユークレースが嬉しそうに抱き締めてくるのを、アメリアは拒まなかった。


●3.

「ミズキ、大丈夫だよ。直ぐに助けてあげるよ」
 そう言い切った温かい声に、瀬谷 瑞希は怖さが薄らぐのを感じた。
 氷に包まれた身体では返事を返す事も出来ないけれど──真っ直ぐこちらを見てくるフェルン・ミュラーのターコイズブルーの瞳を見たら、大丈夫だと思える。
(愛の言葉なんて、常にミズキに投げ掛けているよ)
 フェルンは手を伸ばして、瑞希の頬に触れた。
 その冷たさに胸が痛む。凄く寒いに違いない。オーガはなんという悪辣な罠を仕掛けるのか。
 ──助けてみせる。
 いつも彼女に捧げている愛の言葉が真実である事を、この場で証明してみせよう。
 フェルンは、瑞希の頭を抱き寄せるようにして、囁いた。

「愛しているよ、ミズキ」

 真心が込められた言葉と声に、瑞希は顔が熱くなるのを感じた。と同時、瞬きが出来る事に気付く。氷が溶けたのだ。
「ミュラーさ……」
「ミズキ、もう少し待っていて。全部氷を溶かすからね」
 口をぱくぱくさせる瑞希の唇に人差し指で触れてから、ミュラーは無重力の中、膝を折り、彼女の腕に手を伸ばす。
 冷たい指先を撫でて、手の甲に口付ける。右手と左手、順番に。
 騎士が姫に忠誠を誓うように恭しく。優しい敬愛のキスだった。
 右腕と左腕が解放されて、瑞希は心臓がばくばくと早鐘を打つのに震える。
 顔から火が出そうだ。
 真っ赤になっている瑞希に気付くと、ミュラーはにっこりと微笑んだ。
 白い肌を紅く染めて、羞恥に震える彼女も最高に可愛い。本人にはっきりそう言うと、きっと凄く困らせてしまうだろうけれど。
 ミュラーは再び立ち上がると、ぎゅっと彼女を抱き締める。
 ふしゅうと彼女の頭から煙が出たような気がしたが、今は我慢して欲しい。

「誰よりも君が大切なんだ」
 耳元で囁いて撫でれば、凍り付いた胸元が解放される。

「その体温を早く取り戻しておくれ、可愛い人」
 腹部を覆う氷も、温かい声にあっけなく溶けた。

(そんな言葉がすらすらと即出てくるなんて……ビックリです)
 瑞希はクラクラする頭で、ミュラーの声に震える事しか出来ない。
(こんなに淀みなく出てくるなんて、普段からそんなことを考えているのですか?)
 ずばりそれは正解なのだけども、今の瑞希には正解に辿り着く余裕はない。
(これが所謂ラテン系男子というものなのでしょうか?)
 ぐるぐる回る思考の中、瑞希は一つだけ悟った。
(本当に個室で良かった。誰かに見られたら恥ずかしい……)

「ずっと一緒に居るよ」
 両脚に触れて。
「今までそうだったように、これからもずっと」
 想いを囁いて──瑞希を覆っていた氷は全て消え去った。
 腕も脚も全て動く。
 瑞希はミュラーを見上げて、次の瞬間、強く抱き締められた。

「良かった」

 包み込む体温の心地良さに、瑞希はそっと彼の背中に手を回した。


(落ち着きを取り戻さないと)
 温かい紅茶とアップル&スイートポテトパイに囲まれて、瑞希は火照った頬を押さえる。
 紅茶もパイも美味しくて和むけれど、一向に熱は治まらない。
「ミズキ、どうかした? まだ寒い?」
 心配そうにこちらを見てくるミュラーに、慌てて首を振る。
「何でもありません」
 そう返事をしながら、少し不思議そうに首を傾げているミュラーに、瑞希は自然と口元が上がるのを感じた。
(実は、ミュラーさんは結構天然なのかも……)
「ミュラーさん」
「なんだい? ミズキ」
「……ありがとうございます」
 こんなに大切に思って貰える。それは何と嬉しい事か。
「うん」
 ミュラーは瞳を細め、瑞希の手を取った。
「俺がいつも愛情込めてミズキと接している事が、期せずして証明されたよね。ある意味幸運だと思ったよ」
「ミュラーさんてば……」
 再び瑞希が耳まで紅くなるのに、ミュラーはふふっと笑みを零す。
 繋いだ手から、伝わるのは──温かな愛。


●4.

 ──選りに選って、こんな罠に掛かるなんて。
 銀雪・レクアイアは、凍り付いた身体を動かそうとして、こちらを見つめてくるリーヴェ・アレクシアを見た。
(氷を溶かすには、キスか愛の言葉?)
 あ、無理。うん、全然無理。
(して貰える訳が……)

「相変わらずお約束だな、銀雪」

 極々当たり前といった動作で、リーヴェが近付いてきたと思ったら、腹部を拘束していた氷が消滅する。
(え?)
 何が起こった?
 理解が追い付かず、文字通り固まった銀雪を見下ろし──無重力の中、何故かまるで押し倒されたようになっていた──リーヴェが鮮やかに微笑んだ。

「腹へのキスは『回帰』だったか」

(キス、され、た?)
 確かに氷も溶けた。

「キスの意味を順に復習するか」

(回帰、え、復習?)
 ニヤリとリーヴェは微笑んで、凍り付いた銀雪の腿に触れる。
「腿は『支配』……今の状態はある意味そうだな」
 ふわりと唇が降りた。
「私は支配するのもされるのも好みではないが」
 右から左へ、流れるような動作でのキスに、銀雪の両脚は氷から解放された。

「胸は『所有』……私もお前も物ではない。そういう概念も好きではないな」
 胸板に軽く触れる唇に、銀雪は小さく震える。氷は跡形もなく消えた。

(支配、所有……リーヴェはそうだよね、うん。俺には、リードしたいって夢があるんだけど)
 思い描くのは、リーヴェを大人にエスコートする己の姿。
 現実は──人の夢と書いて儚い。

「腕は『恋慕』……お前は十分過ぎる位だな」
 右腕にキスが降りる。
(恋慕……俺はバレてるからなぁ)
 こちらを見下ろすリーヴェの瞳に、胸は大きく波打って。
「さて、私を恋慕させているか?」
 左腕へ口付けて、リーヴェがニヤリと笑った。
(リーヴェは多分違う、けど……恋慕されたい)
 銀雪は解放された拳をぎゅっと握る。
(それで……)

『リーヴェ、愛してる』
『ああ、私もだ』
 リーヴェがゆっくりと俺に身を委ねてくれる。俺はそんな彼女を抱き締めて──。

(なんて、なんて……!)
 ほにゃらと瞳を輝かせトリップする銀雪に、リーヴェは小さく笑ってから、そんな彼に顔を寄せた。

「ラストは額……『祝福』。お前は何を祝福されると思う?」
 あ、睫毛長くて綺麗……なんて、銀雪が見惚れていると、額に温かな感触。
 唇が、瞼が動く。
「祝福……今がそうかな」
 声に出して答えれば、リーヴェが微笑んだ。
「戻ったようだな?」
「ありがとう、助かった」
 リーヴェの手を借りて、無重力空間の中、身を起こす。
「お茶にするか」
「そうだね。温かいものを身体に入れたいよ」
 リーヴェは珈琲、銀雪は紅茶とアップル&スイートポテトパイを注文した。
(相変わらずブラック……)
 砂糖もミルクも入れず、美味しそうに珈琲を口に運ぶリーヴェをちらっと見ながら、銀雪は紅茶にミルクを投入する。
 紅茶はミルクの色に染まって、まろやかで美味しい。
(こういうのを見ると、ああいう状況じゃないとキスなんて夢かな……)
 リーヴェはとても大人で、己では一生太刀打ちできないんじゃ……と思った。
 銀色の瞳を伏せて、ミルクの入った紅茶をかき混ぜる銀雪の様子を眺め、リーヴェはカップを手放す。ふよふよとカップは浮いた。
「言い忘れていたが」
 触れ合いは一瞬。
 掠めるようなキスの後、リーヴェは銀雪を見つめ笑った。
「本番は目を閉じる努力を勧めておこう。無粋だ」
「……って、え!?」
 銀雪は思わず己の唇に指で触れた。今、今……触れたのは紛れもなく!
「尤も……本番を迎えられる努力が必要だがな?」
 リーヴェは体勢を戻し、再び珈琲のカップを手に取り口を付ける。
(本番とか何……!? 不意打ち卑怯、ていうか、これ俺がやりたかったけど、絶対無理なヤツだ!!)
 しゅうしゅうと煙を放つ頭で、銀雪はふらり左右に揺れた。
 唇、柔らかかった。
 脚を組んで珈琲を飲むリーヴェはいつも通り。ああ、こういう姿も絵になって、やっぱりリーヴェはかっこ良くて綺麗で素敵で、ああもう大好きだ!
 夢見る表情で無重力を漂う銀雪を、リーヴェは笑いを堪えながら見つめていたのだった。 


●5.

(抜かったわね。身体も動かないし……)
 スティレッタ・オンブラは、凍り付いた身体が動かない事を確認し、吐息も吐けない不自由さに心の中で舌打ちした。
(ハッキリ目は冴えてるんだけど……目の前のクロスケがやたら焦ってるわね)

「ふざけるな。罠仕掛けたオーガを連れてこい。切り刻まないと気が済まん……!」

 ぶるぶると目の前で震えているのは、スティレッタのパートナー、バルダー・アーテルだ。
(氷を溶かすには、キスか愛の言葉だと?)
 有り得ない。
(何照れてるのかしら?)
 全身で拒絶のオーラを出しているバルダーに、スティレッタは目を丸くする。
(俺には愛の言葉なんて無理だ……口付けをするしかないだろう)
 ゆらりと揺れてから、バルダーはスティレッタを見た後、瞳を閉じて、すーはーと深呼吸する。
(急がないと凍え死ぬかもしれん)
 そう考えると、心の底が冷えて冷静さを取り戻す己を感じた。
(俺に関わったせいで人が死ぬのは、軍人の時だけで懲り懲りだ)
 決意が固まると、瞳を開いてバルダーは彼女に近寄る。
 僅か彼が震えているのに気付き、スティレッタは表情は動かせないが笑った。
(別にキスぐらいされたって気にしないわよ。異性に慣れてないクロスケとは違って、私は異性にキスされることぐらい慣れてるもの。でなきゃ、トランスの時困るじゃない)
 恐る恐るバルダーの指が、氷に覆われたスティレッタの腕に触れる。
(くっ……恥ずかしい……)
 きょろきょろと辺りを見渡し、バルダーは怒鳴った。
「こ、こっちを絶対見るな! 見たら斬る!」
(そこまで恥ずかしがる必要、ある?)
 バルダーはもう一度深呼吸すると、そっとスティレッタの髪に唇を寄せる。
「……お前の眼を覚ますのが、お前の嫌な髭面のキスで悪かったな」
 頭頂部に唇が触れると同時、顔を覆っていた氷が消えた。
(……動くわ)
 唇が動くのを確認して──しかし、スティレッタは動く事を止めた。
(ここまで真剣な顔されると、ちょっとぐらい悪戯したくなるわよね……)
「よし、これで息は出来るだろう。次は……胸か?」
 バルダーはそんなスティレッタに気付く余裕もなく、うっすら額に汗を浮かべながら、彼女の肩口に唇で触れる。
 続いて、腹、右腕、左腕と、彼は戸惑いながらも順番に口付けて、スティレッタの氷を溶かしていった。
「最後は脚か……脚……何処に口付けたら……」
 悩みに悩んで、バルダーは膝頭に口付ける事にしたらしい。辿辿しく唇を寄せて、氷を消滅させる。
「よし、これで全部溶けた……」
 ふうと息を吐き出し、バルダーは額の汗を拭った。
「おい、もう大丈夫だぞ」
 バルダーは、これでスティレッタがいつも通り喋り出すと思っていた──が。
「おい?」
 スティレッタは動かない。
 閉じられた瞳。身体には力は入っていない様子で、頼りなく無重力を漂っている。
「……何で氷を壊したのにまだ倒れてるんだ?」
(相当焦ると思うのよ)
 動揺した様子のバルダーの声を耳に、瞳を閉ざしたまま、スティレッタはわくわく胸が弾むのを感じていた。
(数日、口をきいてくれないと思うけども──家で照れて悶絶するクロスケを見られるなら十分だもの……ふふっ)
「おい、ネボスケ。目を開けろ」
 バルダーの手が、スティレッタの肩を掴んだ。
「殺しても死ななさそうなお前が……」
 ゆさゆさと揺する。声が掠れる。
「頼む。いつもの憎まれ口を叩いてくれ」
 目を覚ましてくれ──バルダーが必死に彼女の顔を覗き込んだ瞬間、パチッとスティレッタは瞳を開いた。
「なーんちゃって。びっくりしたかしら?」
「……は?」
「ふふ、私の演技、捨てたものじゃないわね」
「……って!」
 高速でバルダーがスティレッタから距離を取る。
(フリだと?)
 バルダーは震えた。
(また俺はこの女にまんまと!)
「助けてくれて、有難う。助かったわ」
 スティレッタは立ち上がると、にっこりと彼に微笑む。
(……まあいい)
 無事ならば、それで。
「こ、凍って寒かったろう。俺のコートを貸してやるから羽織れ」
 バルダーは握った拳を開き、コートを脱ぐと、スティレッタの肩に掛けてやった。
「気が利くわね」
 温もりにスティレッタは瞳を細める。

(私が凍った時、あんな顔して焦ってくれる人がいて嬉しかったのは……私だけの秘密)
(うおお……恥ずかしい……)

 秘密は、それぞれの胸の中に。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 渡辺純子  )


( イラストレーター: スピクル  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月28日
出発日 11月03日 00:00
予定納品日 11月13日

参加者

会議室

  • [5]瀬谷 瑞希

    2015/11/02-23:51 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    ご挨拶遅れて申し訳ありません。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

    プランは提出できました。
    より絆の深まるひと時がすごせますように。

  • ユークレースです、パートナーはエイミーさんです。
    皆さんよろしくお願いします~☆

    えーっと…すみません、不謹慎ですが…これ、チャンスですかね?
    いや、大変なこととは判ってるんですけど…ねぇ…。
    とりあえず、僕なりに頑張りますね。

  • ……バルダー・アーテルだ。
    契約者はスティレッタ・オンブラ。アイツ共々宜しく頼む。

    まあ、何というかだな……。
    トランスといい、契約方法といい……なんでこうも……。ああ……(落胆

    ……罠を仕掛けたオーガがそこらへんうろついてるなら、今からでも切り捨ててやりたい気分だ。

  • [2]秋野 空

    2015/11/01-15:29 

    ジュニール・カステルブランチと申します
    彼女は神人の秋野空、俺のパートナーです
    皆様、どうぞよろしくお願いいたします

    しかし凍るとは、まさかの展開ですね
    まったくオーガもやってくれます…

  • リーヴェだ。
    パートナーは銀雪。

    さて、どうしたものか……。

    皆、よろしくな。


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