Secret party(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 可愛い可愛い子供達に、秘密の集会を教えてあげよう。
 それはお化けたちの密会。
 お化けの皮を被ったひとも紛れているけれど。
 そこには誰が居るのか判らない。
 誰も彼も皆、名前の無いお化けなのだから。
 そこではひとの名を呼んではいけないよ。
 だってそこは、本物のお化けが居るのだから。
 ひとが紛れているなんて知れたら。嗚呼、嗚呼、恐ろしいこと――。

 ひらり、届いた仮装パーティの案内。
 それは色んな家にランダムに届くと言う代物で、そんな前置きと、場所と、必要事項しか書かれていない。

 心細ければお友達を誘ってもいいよ。
 一人で来たって構わないのだけれど。

「だってさ」
「ふーん」
 二人で揃って確認して、彼らは二人で揃って、会場へと赴いた。
 中には色んなお化けの格好をした人が居て、幾つか並べられたテーブルにちょっとした食べ物やお菓子が並べられている。
 わくわくと眺めていると、受付で小さな籠が配られた。中にはキャラメル包みのお菓子が三つ。
 チョコレート、クッキー、プチマフィンが一つずつ。
「これはご自分で食べても構いませんし、お持ち帰り頂いても構いません」
 要するにお土産だ。
 だけれど、それ以外にも用途があると言う。
「この会場内では『ひと』の名前を呼んではいけません。お友達の名前も、ご自身の名前も、口にしてはいけません」
 何故ならこのパーティはお化けの為に開かれて、彼らひとの子はこっそりと紛れ込んでいるに過ぎないのだから。
「もしもうっかり口にしてしまった場合は、お化けに魂を食べられてしまいますよ。そんな時に、誤魔化す為のお菓子です」
 これは、要するにこのパーティのルールだ。
 この会場にはお化け役のスタッフと、ひとの子である一般の参加者とが居る。
 参加者は原則、『ひと』の名前を口にしてはいけない。
 もしもうっかり口にした場合、それをお化け役に聞かれてしまったなら、お菓子を一つ差し出して誤魔化すと良い。
 しかしうっかりは少ない方がいい。なにせ三つしかお菓子は無いのだから。
「お菓子がない状態でうっかりをしてしまった場合は、残念ですが魂を食べられてしまいますので、あちらの控室で、復活の儀式をして頂きます」
 儀式とは、飛び切り酸っぱい炭酸ジュースを『気付け薬』として飲み干すのだそう。
 しかしそれは強制ではない。疲れてしまったのならそこで休んで寛ぐのも、そのまま帰るのもありだ。
「それではどうぞ、お化けのパーティをお楽しみください」
 受付に促されるまま、君達は会場に入って行った。

解説

●パーティのルールについて
・仮装をしてください
 場所はジャック・オー・パークではないのでハロウィンイベントの仮装に限りませんが、人外でお願いします
・名前を呼んではいけません
 自分の名前、パートナーの名前、知り合いの名前。全てNGです
 呼んでしまった場合は、スタッフが『人の子頂きます』と声を掛けてくるので、お菓子を渡して誤魔化しましょう
 他人の名前を呼んだ場合は、呼ばれた方ではなく、呼んだ方のお菓子が回収されます
・お菓子が無くなったらゲームオーバー
 とてもとても酸っぱい炭酸ジュースを飲み干せば再入場が可能です
 酸味+炭酸でとても刺激が強い仕様になっておりますので、再入場を諦めるなら無理に飲まなくても大丈夫です
 お帰りのタイミングは自由

●費用について
パーティ参加費としてお一人様300jr頂戴いたします

●参加について
一人で来たら会場でばったり会った
二人で一緒に来た
どちらでも構いませんし、会場内での別行動も特に問題ありません

●『うっかり』について
プランで回数等指定して頂いても構いません
サイコロを転がして決めて頂いても構いません
例:10面ダイスで判定
1・2→0回
3・4→1回
5・6→2回
7・8→3回
9・10→控室行き

記載の仕方についてはお任せしますが、食べられてしまうか否かだけは判るようにお願いします

●他
クラッカーを使用したカナッペやピンチョス等、手でひょいっと食べれる形お摘み
チョコレートやクッキー等、手で(略)お菓子
辺りがちょこちょこ用意されている立食パーティの形式です。椅子等はありませんので予めご了承くださいませ
ウィンクルムの紋章は見えていても問題ありません

ゲームマスターより

仮装パーティって言い響きだよね…!

ちょっとしたイベントの様相を呈しておりますが、
人外コスプレ祭わーい、が主旨ですので、名前等はお遊び要素としてお受け取り下さい。
他の方と絡む可能性が高い内容となっておりますので、その点も予めご了承ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

 
悪魔を模して黒を基調にした角と尻尾が付いている衣装
選んだ理由は…ラセルタさんとお揃いの姿になれる、と胸が躍ったから

一足先に会場へ入り、軽食をつまんで彼の支度を待つ
顔見知りのお化けさんには挨拶をし美味しかった物を勧める
名前をださないよう気を付けながら

隠されていた目と目が合えば、つい目が逸らせず見つめ合って
驚きとドキドキで弾む胸のあたりを押さえながら
悪魔らしく彼をパーティー後のディナーへと誘惑し、楽しみにするよう伝え

不意に聞こえた名前に目を瞬き
ばつの悪そうな彼に手を伸ばして引き留める
俺の名前がまるで口癖のようになっている事が、照れ臭くも、嬉しくて
密会が終わった後でたくさん、俺の名前を呼んでと囁く



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  俺は…
あ、そうだな。何になったかはお互い内緒でもいいかもな

ランスと違って俺には尻尾や耳みたいな目印が無い
果たしてあいつは俺を探せるんだろうか…(不安

俺はジャツクオーランタンの仮装で顔もスッポリ隠す
お菓子を食べられるように口の所は開いてるから不自由は無いよ
お菓子をモグモグたべたり人の会話に耳を傾けて、ランスを探す
*知合いっぽい人にバッタリ会ったら思わず名前を言いそうに
危ない危ない(ふー

そんな時背中をつつかれて振り返り
あっ、やられた!><
そんな仮装するなんて盲点だった(悔しい
ランスの免罪菓子の残数がもう無いのが見えるのでこっそり俺の一個をお裾分けだ
ん?ハロウィンの魔法で増えたんじゃないの?(しれっ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  堕天使な仮装をして行くぜ。
黒い天使の羽根を付けて(フェザーマントでそれっぽく)
死神の大鎌っぽい物(コスプレ用品)を持ってダークな雰囲気盛り上げ。衣装を黒っぽい感じに統一して行くぜ。

天使を見付けて「げ、天使!」と焦る。
こっそり参加つもりだったからさ。
その天使姿は似合いすぎる…惚れ直すぜ!
「上には内緒にしてくれよ」と天を指そう。
会場では天使と一緒に居よう。
セットだと良い感じだろ?
他の人ともおしゃべりするぜ。

他の人をコスプレしている種族名称で呼ぶ。
名前呼ばないように気を付ける。
オレはやれば出来る子だからな!(と内心決意。キリッ)
(※ウッカリをやらかすかはGMさまのアドリブで決定OK)
お菓子、ウマー。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  ゴシックパンクなゾンビ
顔色悪く血糊もメイク
唇は勿論紫色に
ちょっと引くくらい不気味に出来たと思う

フィンと一緒にパーティに参加する
フィンの名前を口走らないよう、呼び方を決めておくか
…何で俺がご主人様なんだよ
寧ろ、どうしてゾンビ執事なんて選んだし…

お菓子を摘まみつつ、皆の仮装を楽しむ
皆、いつもと雰囲気違ってたり、ぴったり似合ってたり楽しいな
…名前、うっかり呼ばないようにしないと
気を付けろよ、フィン…ってしまった!(口押さえ、お菓子を一つ差し出す)

あ、このクッキー美味しい
フ……し、執事も食べてみろよ

う、仕方ないな…はい、あーん
(仮装してるし、これくらいは…って、本当にフィンに甘いな…俺)

うっかりは2回


信城いつき(ミカ)
  前提:前エピの一件後、過去に何があったか不安に感じてる
仮装:狼女(衣装が女性用)
うっかり:なし

これ潜入捜査なんだよね?そんな雰囲気に見えないけど…嘘!?任務だから着たのに!
ううう、みんなと会ったら女の子の振りしてごまかそう
今は色々考えることがあるのにな……

ミカがいつにも増して優しい。
なんか企んでる可能性もあるけど……でも、本当に女の子になったみたいで、ちょっとくすぐったい(くすくす)

終了時:
食事やみんなとの会話、楽しかったね
?いま頭なでられたの…今までの続き?
優しかったけど、なにか違う感じがした

※女の子の振りをしますが、仮装バレしてもOKです



●Select
 黒い天使の羽が、ゴシック感のある服から離れてひらりと舞う。
 それを指の端で柔らかく迎え入れて、天使が微笑んだ。
「おや、黒い天使さん、ご機嫌麗しゅう」
「げ、天使!」
 露骨に顔を引きつらせて半歩後ずさったのは、堕天使姿のセイリュー・グラシア。
 仮装パーティにこっそりと参加したはずだったのに早々に相方に見つかってしまったゆえの反応だが、お忍びっぽい振る舞いに、周囲のスタッフが微笑ましげに表情を緩めていた。
 それは、それとして。
(その天使姿は似合いすぎる……惚れ直すぜ!)
 ふんわりと淡い白で統一された聖職服と、その背で揺れるフェザーマント。
 ラキア・ジェイドバインの天使スタイルに、セイリューは顔がにやけるのを抑えるのに必死だった。
「上には内緒にしてくれよ」
「そうだね、折角楽しいパーティだから……今回だけだよ?」
 天界を示すように上を指さし頼み込む堕天使に、天使は思案顔を意味深な笑みに変えて……顔を見合わせて、小さく噴き出した。
「内緒でこっそり参加するのって何だか楽しいね」
「だな。こんな早く会うとは思わなかったけど……こうなったらもう一緒に回ろうぜ」
 お互いこっそり参加のつもりだったけれど、会ってしまっては仕方がない。
 仕方がないからセットで並び歩くのだ。
「あっちに美味そうなお菓子が!」
「堕天使は食い意地が張ってるんだから」
 模造の大鎌をそわそわと握りつつテーブルを示すセイリューを、ラキアはくすくす笑って追う。
 並び歩く白と黒は、良く映えていた。
 ――ゆえに、会場内でも容易に目に留まってしまい、即座に知り合いであると認識した信城いつきは、少し苦い顔をした。
(こ、こんな格好じゃなきゃ挨拶ぐらい行くのに……!)
 いつきの姿は狼だ。ただしひらりとスカートの翻る、いわゆる狼女という装い。
 小柄ないつきには特段不自然なく似合っているのがまた歯がゆい所である。
 潜入調査だと言う話を聞いて、不本意な女装も甘んじて受け入れたというのに、だ。
「潜入捜査? あれ嘘。あぁでも言わないと着ないだろ」
 普通に仮装しても面白くないし、とにんまり顔でしれっと言うミカの言葉に衝撃を受けて今に至る。
 同じ会場に居合わせてしまうのは仕方ないが、出来れば、出来れば会いたくはない!
(ううう、みんなと会ったら女の子の振りしてごまかそう)
 そんないつきの思考が顔に透けて出ているものだから、ミカは肩を竦めて笑う。
「みんなに気づかれたくなかったら、頑張って女の子に徹するんだな」
 そうして、す、と手のひらを差し出した。
「……たまには別人になりきるのも楽しいだろ。さあ行きましょうか『お嬢さん』」
 エスコートするような手のひらに、いつきは恥ずかしさに顔を赤らめながらも、己の手を重ねる。
 まぁ、頑張って女の子を振る舞っても、狼男のミカと同じモチーフで手を繋いで歩く存在なんて、知り合いなら一発で分かるわけだが。
 案の定というべきか、料理のテーブルで小さなお摘みを味見気分で口にしていた羽瀬川 千代の視線は、即座に狼女の正体を悟る。
 勿論、ひとの名前を呼んではいけないパーティの趣旨としても、羞恥心で一杯ないつきの心情を慮った方面でも、正体を示唆する言葉は控え、見守るだけ。
 何より千代には待ち人が居た。
 己の頭部に角を飾り、尻尾を生やし、黒で纏めた悪魔の装いは、その待ち人にそっくりで。
 目に留まった瞬間から心が躍ったのを、千代は自覚していた。
 その彼は一体どんな姿をしているのだろう。思い馳せた千代の眼前に、ゾンビの二人連れが現れる。
 血色の悪い顔に、滴りそうな血の装い。生気を感じられない紫の唇に、ゴシックパンクな衣装ばかり綺麗で、そのアンバランスさが逆に不気味だった。
 思わず身を引いた千代に、ゾンビの片割れが人懐こい笑みを見せた。
「楽しんでます?」
 声に、気付く。リアリティ溢れるゾンビメイクに執事風の装いを纏った方はフィン・ブラーシュで、ゴシックパンクの方は蒼崎 海十だと。
 少しほっとしたような顔で頷くと、海十が少し不思議そうな顔で視線を巡らせたのに気が付いた。
「支度待ち、なんだ。あ、このカナッペ、さっぱりしてて美味しかったよ」
 折角だし食べて行ったらどうだろう、と勧める千代の台詞に、なるほどと納得した海十は、素直にカナッペを手に取り口に入れる。
「あ、本当だ美味い。ち……あ、悪魔さん? ありがとな」
 うっかり千代の名前を口にしそうになって、慌てて訂正する海十を、フィンはくすくす見つめ、「もう、気を付けてね、ご主人様」と肩をすくめる。
(でも、ゾンビになっても海十は海十で可愛いと思うのは……恋人の欲目かな)
 一見不気味な恋人の姿にそんな風に胸中で微笑んでから、フィンはあっちの方も見に行こうと海十を促した。
 お菓子があるらしいのを見つけて、頷きを返した海十は、先程自分が名前を呼びかけたのを思い起こし、フィンに注意を促すつもりで視線をやった。
「名前呼ばないよう気を付けろよ、フィン……ってしまった!」
 慌てて口を抑えるが、一寸遅く。ニッコリ笑顔のゴーストが、人の子頂きますと囁くのに、お菓子を差し出してやり過ごした。
(心配だなぁ……)
 お遊びでは、あるけれど。ちゃんと最後までうっかりせずに過ごせるのだろうか。
 そんな二人を微笑ましげに見送った千代は、不意に銀糸が目の前をよぎるのを見つけた。
 黒いマントで隠された顔。見上げる視線に合わせるように、ちらと覗いたのは真紅。
 にやりと笑む口元に牙が仕込まれていたけれど、見つめた千代の顔は、少しの驚きの後に微笑んだ。
 吸血鬼の姿を模したラセルタ=ブラドッツは、千代のそんな反応を見て満足気に笑う。
 先に会場入りしたパートナーを探して歩けば、意外と既知の者が多く、捜索は対して難航もしなかった。
 ならばと忍び歩み寄り、ラセルタが一番見たい顔を作らせた。
 目論見が成功したラセルタは、上機嫌に千代の隣を陣取る。
「意外と知り合いが居るな」
「そうみたい。名前呼びそうになってひやひやするよ」
 苦笑する千代に、ラセルタはつい先ほどすれ違った青年の姿を思い起こす。
 ヴェルトール・ランスもまた、パートナーとは別々に会場入りしていたらしく、全体を黒で占め、特徴的な耳と尻尾も覆い隠した悪魔の装いでの参加だった。
 しかし中身はやはりいつもの彼らしく。爽やかに声を掛けてきたかれは、がっつりと「ラセルタ」と名を呼んだのだった。
「うー、もう二つ目か……やばいな」
 ラセルタと遭遇前にも、セイリュー達に会って思わずその名を呼んでしまっていたランスは、今は隠れている獣耳を垂れ提げて寂しくなってしまった籠の中身を見やる。
 折角、別々に参加して先に見つけた方が勝ち、という楽しそうなゲームをしているというのに。
 相方にもばれなそうな完璧な仮装も、控室送りにされてしまっては無駄になってしまう。
 気を引き締めて、ランスは再びパートナーのアキ・セイジを探して会場を歩き出した。
 一方でそのセイジはというと、グラグラ揺れるジャックオーランタンの被り物を軽く直しつつ、会場の参加者の会話を聞いて回っていた。
(ランスと違って俺には尻尾や耳みたいな目印が無い。果たしてあいつは俺を探せるんだろうか……)
 勝負と思って顔まで隠してきたが、見える方が良かっただろうか、と思案していると、聞き知った声が耳に届く。
「あ、いつ……っと、危ない危ない」
 一瞬、女の子かと思った狼女がいつきだと気が付いて、思わず声に出しかけたのを寸でで飲み込む。
 気を取り直すように近くのテーブルからプチシューを摘まんで被り物の開いた口部分から放り込むと、よし、と再び気合を入れる。
 と。
「セイジめっけ!」
 とんとん、と肩を小突かれ振り返ったセイジは、嬉しそうなランスの顔と、目が合った。

●Secret
 賑やかなパーティ内に居ても、いつきの表情は時折何かを気にするように薄くなる。
 それは今この場所には関係なく、そしてここから戻る日常とも、少し違う部分でのこと。
(今は色々考えることがあるのにな……)
 自分の失った過去の記憶が、ただ、もどかしい。
 けれどそれは自分で解決することだから。だから、いつきは不安な胸中を表に出すことなく、笑っていた。
 ――もう一人の精霊からその事情を聴いているミカは、当然、気取っているわけだけれど。
 そして心配を掛けまいと無理に笑っているのだろうと思うミカと、ミカが何かを意識して企んでいる気がするいつきとは、微妙なラインですれ違っていた。
 多分半分は、女装を強いた『せい』で、半分は女装を強いた『お陰』。
 やたらと優しいミカのエスコートについて歩きながら、ほんの少し表情を和らげたところで、良く映える白と黒に遭遇した。
「二人は狼か!」
 天使と堕天使の二人組に、ミカは穏やかに笑みを返し、いつきははっとしたように小さな少女を振る舞った。
 大丈夫、バレてない。
 セイリューとラキアにもろバレしてるって、いつきにはバレて(気付いて)ない。
「今日は可愛いお嬢さんのエスコート役でね」
「ん、うん……」
 二人は楽しんでるか、なんて自然と話すミカの、繋いでくれる手はやっぱり、優しくて。
(なんか、本当に女の子になったみたいで、ちょっとくすぐったい)
 企み事があるのかもしれないけど、楽しい、と、いつきは素直に思っていた。
 いくつか会話をして狼達と別れたセイリューとラキアは、皆のコスプレ姿楽しいね、などと話しながらテーブルからひょいとマカロンを摘まむ。
「んー、お菓子、ウマー!」
 満足気に笑みを湛えたセイリューは、ラキアがきょろきょろとしているのに気が付く。
「何か探してるのか?」
「ん? いや、これだけ人外仮装の人が居たら、一人くらい本物の人外が紛れ込んでないかなって」
 カップに良い香りのするハーブティを注ぎ、お菓子を選びながらラキアは続ける。
「一緒にお茶とお菓子を楽しみたいもの」
「ああ、確かにそれは楽しそうだな! でも本当、本物と見間違えるくらい凄い仮装の人もいるよな。さっきの海十さんたちとか!」
「あ」
 感心するように述べたセイリューに、ラキアが少し瞳を丸くした。
 次の瞬間、とんとん、と背後からセイリューを小突く大柄なフランケンシュタインの姿。
「あ、しまった」
「人の子、頂きます」
 笑顔のスタッフにお菓子を一つ献上して、うぅ、とセイリューは内心がっくり肩を落としていた。
(やれば出来る子だってとこをちゃんと見せたかったのに……)
 そんなセイリューとは対照的に、ラキアは微笑まし気で楽しげな顔をしている。
「なんだよー、笑うなよー」
「ふふ、だって堕天使があんまりにも可愛らしいから。大丈夫、今からまた気を付ければいいだけだよ」
 しっかり者のラキアが、いつだって励ましてくれるから。
「そうだな! よし、残り二つは死守するぞ」
 落ち込みはほんの少しで良い。甘くて賑やかな時間を、目一杯楽しむだけなのだ。

 さてそんなセイリューの声が聞こえたらしい海十は、ふと顔を上げて辺りを見渡す。
「……いま、呼ばれた気がする」
「え? それだったら、お菓子一つ回収されてるね」
 苦笑したフィンに、そうだな、と同じ顔を返した海十は、周囲の仮装を眺め歩いている内に辿りついたお菓子のテーブルから、何気なくクッキーを一つ摘まんで口にした。
「ん……これ美味しい」
 ぱ、と表情を明るくした海十を見て、ふむふむと同じ籠を覗き込んだフィンは、にっこりと笑みを湛えた。
「ご主人様はこのクッキーがお好みなんだね」
「うん、美味しい。フ……し、執事も食べて見ろよ」
 危うく名前を呼んでしまいそうになった海十にくすくすと笑みながら、ずいと少しだけ顔を近づけて。
「じゃ、はい、あーん」
 紫色の唇を開いて、食べさせてと主張するフィン。
 リアルなゾンビメイクのせいで、動揺する海十が顔を赤らめているだろうことが確認できないのが惜しい。
「う、仕方ないな……はい、あーん」
 差し出されるクッキーをもぐもぐと食べながら、フィンは今度再現してみようと味を確かめる。
「執事なんだから逆だろー……」
 と、不意に聞こえたささやかな反抗じみた呟きに、ふふ、と笑みを零して。
「でも、ちゃんと食べさせてくれた」
 にこにこと笑って別の皿に手を伸ばすフィンに、うぐ、と言葉を詰まらせた海十は、誤魔化すようにお菓子を口に含む。
「じゃあ今度は俺から。こっちのカナッペも美味しいよ、ご主人様」
 はい、あーん、と差し出されるそれを、海十は恥ずかしそうな表情で見つめたけれど。
「仮装してるんだから、照れる必要ないよ」
 ウインクしてくるフィンに、促されるままカナッペを齧った。
(仮装してるし、これくらいは……って、本当にフィンに甘いな……俺)
 自覚した感情のせいだろうか。折角貰ったカナッペの味は、良く判らなかった。
 そして、そこで気が緩んでしまったのだろうか。その後またしてもフィンの名を呼んでしまった海十は、二つ目のお菓子を献上することになったのであった。

「やられた!」
 テイルスの狼耳を活かした仮装をするかとほんの少し思っていたセイジは、ランスが全く方向性の違う姿をしているのを見て悔しげに声を上げる。
 先に見つけた方が勝ちという勝負も負けてしまったのだから、二重で悔しい気分だ。
 が、直後にランスがミイラ男にお菓子を巻き上げられるのを見て、そのうっかり加減に毒気の抜かれたように苦笑した。
(あれ……ランス、もうお菓子残ってないじゃないか)
 渡す瞬間に見えた籠の中身は空っぽ。ううう、と唸って最後のお菓子を手渡すランスは、先程のセイジ以上に悔しがっているように見えた。
「見つけたの嬉しくてうっかり呼んじまったぜ……って、あれ?」
 もうお菓子がないんだ、とセイジに告げようとしたランスは、しかし振り返った瞬間、自分の籠の中にころりとキャンディ包みが転がっているのを見て、目を丸くした。
「一個入ってる?」
「ん? ハロウィンの魔法で増えたんじゃないの?」
 しれっと首を傾げて見せたセイジの籠には、同じ色の包みが二つ。
 魔法の正体に即座に気が付いたランスは、へらりとはにかむような笑顔を湛えた。
「素敵な魔法だな。けどもうヘマはしないぜ。だってセ……」
 むぐ。マフィンを口に突っ込まれて、言った傍から口にしかけた名前は、キャンセルされる。
「まったく……折角だからちゃんと最後まで楽しまないとだろ」
 呆れたようなセイジの声がどこか弾んでいるのは、ランスがセイジの名を口走ったのが、『見つけた嬉しさ』だったから。
 ちゃんと見つけてくれた。その喜びにふくふくと心が幸せに満たされるのを感じていると、ひょい、と頭の被り物が取られた。
「ん? あ、おい!」
「顔見えなくて邪魔なんだよ」
 急に開けた視界に、被り物を取り上げたランスが映る。そんな二人の横から、すすす、とスタッフらしき魔女が歩み寄ってくるのも。
「南瓜さんだと思ったら、人の子?」
「い、いや、あれだ、変身できるだけだ!」
 返せ、とランスから被り物をぶんどって被り直したセイジに、ちぇ、と詰まらなさそうに呟くランス。
 まったく、ともう一度呟いて、肩を竦めたセイジは、ランスの服をちょいちょいと引いて、耳元に顔を寄せる。
「パーティの後で、だからな」
 仮装を楽しんで、催しを楽しんで。
 二人きりの楽しみも残しておくなんて、贅沢じゃないか。

 隠されていた瞳と目が合った瞬間の、跳ねるような鼓動がまだじわじわと尾を引いている。
 千代は弾む胸をそっと押さえ、確かめるように感じていた。
 そんな千代の仮装姿をあらためてじっくりと見たラセルタは、その悪魔を模した角と尻尾の存在に気付いて、笑みを深める。
(俺様に似せているな……)
 無自覚ではあるまい。きっと、千代が選んだのだ。
 それを思えば嬉しさに笑みがこぼれるのは仕様の無いこと。
「しかし……」
 勿体ぶるように千代の姿を横目に見やって、口元を思案するように隠しながら呟くラセルタに、千代はどきりとするのを自覚しながらも視線を振る。
 いつもと違う色の瞳は、いつも以上に強い色。
 目と目が合って暫し、くすりと挑発めいた笑みが、ラセルタの指の隙間から見える。
「この柔和な表情の悪魔では誘惑も碌に出来無さそうなものだが?」
 悪と名の付くそれにはなり切れているのだろうか、と窺うような台詞に、千代は少し瞳を丸くしてから、ゆるりと口角を釣り上げる。
 脳裡に描く表情は、蠱惑的に笑むラセルタの涼しい笑顔。
「パーティの後に、ディナーを予定しているんだ。勿論、吸血鬼殿のお口に合う品を揃えて、ね」
 いかが? と誘う言葉に眼差しを添えて、どうぞお楽しみにと囁く千代に、ラセルタは満足気に笑んだ。
「千代の料理なら、間違いはないな」
 楽しみにしている、と告げたラセルタは、向かい直った千代がきょとんと瞳を瞬いているのに気が付いた。
 どうかしたのかと問う前に、とんとん、肩が叩かれる。
 人の子頂きます。その笑顔の囁きに、ラセルタはその時初めて、自分が千代の名を呼んだことに思い至った。
(無意識に……)
 先程までの悠々と満足気な笑顔はどこへやら。ばつが悪そうな顔をして菓子を差し出し、そっと視線を背けようとしたラセルタを、千代の指先が引き留める。
 歓喜を湛えた指先は、照れくささに少し熱を帯びているようにも思ったけれど、顔が綻ぶのは、どうにも抑えられない。
(俺の名前がまるで口癖みたい)
 ねぇ、それならば。
「密会が終わった後でたくさん、俺の名前を呼んで」
 ラセルタだけに届く小さな囁きに、彼は頷く事は出来たけれど。
(見事に惑わされている、とは)
 もう少し、ほんの少し、背けたままの顔を千代に向けることは、出来なさそうだ。

 賑やかなパーティも夜の耽ると同時に終わりを告げて。
 仮装のまま、あるいは人の姿に戻って帰路に着く人々の流れの中で、いつきは満足そうに笑っていた。
「食事やみんなとの会話、楽しかったね」
 名前を呼ばないってのは意外と難しかったけど、うっかりせずに済んだのは嬉しく。
 にこにことしているいつきの頭を、ミカはそっと撫でた。
「?」
 きょとん、としたいつきが見上げたミカの顔は、やっぱり、優しく見えた。
(いま頭撫でられたの……今までのエスコートの続き?)
 もう、仮装は解いているのだけれど。思ったけれど、口にはせずに。
 彼が何も言わないから、何も聞かないまま。
(ちゃんと、自然に笑ってるな……)
 不安を抱えたままの心は、少しは晴れただろうか。
 記憶の回復を、望むとも望まないとも言わないけれど。
 ただ、いつきが、もう一人の彼と健やかであればいいとだけは、思うから。
「楽しかった、な」
 確かめるようにもう一度呟いて、いつきが笑顔で頷くのを、見届けるのであった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

名前:蒼崎 海十
呼び名:海十
  名前:フィン・ブラーシュ
呼び名:フィン

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: dume  )


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月24日
出発日 10月30日 00:00
予定納品日 11月09日

参加者

会議室

  • [8]羽瀬川 千代

    2015/10/29-23:59 

  • [7]蒼崎 海十

    2015/10/29-23:52 

  • プラン出来た―!
    オレ達は堕天使・天使な扮装で降臨するぜ(大げさ。

    皆のコスプレを楽しみにしてる。楽しいひと時を過ごそう!

  • [5]アキ・セイジ

    2015/10/29-23:16 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    「うっかり」の回数は指定して良いということなのだな。
    (セイジはゼロ回、ランスは三回だと後ろのほうから声がした。)
    なんだ今のは(汗

    仮装は俺がジャックオーランタン、あいつは何の仮装かな(ミミと尻尾を探してきょろきょろ
    菓子や飲み物を頼んで楽しむことも忘れないけどな(笑
    じゃあまた、会場でな。

  • [4]信城いつき

    2015/10/29-01:20 

    ハッピーハロウィーン!
    俺たちは狼男で参加予定だよ。みんなとも色々過ごせそうで楽しみだなー、
    会場で会えたらよろしくね!

    さて仮装の準備……あれ…?これ女性用じゃ…?

    ミカ:
    というわけで、小さな珍獣が現れると思うので、見かけたら”生暖かい目”で見守ってやってくれ(にやり

  • [3]信城いつき

    2015/10/29-01:18 

  • [2]蒼崎 海十

    2015/10/28-23:25 

    フィン:
    フィンです。パートナーは海十。
    皆、宜しくお願いするね!

    俺と海十はゾンビの仮装をする予定だよ。
    諸事情あって、俺が執事ゾンビで、海十をご主人様と呼んでます。
    皆の仮装と、美味しいお菓子、楽しみだね♪

  • [1]蒼崎 海十

    2015/10/28-23:22 


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