【お菓子】世界で一番美しく(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 オーガが占領したジャック・オー・パークも、ウィンクルム達の活躍により平和が戻りつつあり、アトラクションや催しを楽しむ事も出来始めていた。
 そんなジャック・オー・パークの中の一つ、再開したイベントフロアが『魔女のたしなみ』だ。
 簡単に言ってしまえば、撮影スタジオ……の一室。
 ごく限られた目的の為の、一室。
 貴族の城をモデルにしたらしい建物の中は、当然のように豪華なつくりで、けれどハロウィンに相応しい内装となっていた。
「クラシカルゴシックの撮影スタジオ、お楽しみいただけているでしょうか」
 案内人が参加者である客を先導する。
 辿り着いたのは広い部屋。輝かしいシャンデリアのあるその部屋は、落ち着いた紫の壁紙とアンティーク調の黒い家具で形成されていた。
 メインとなる場所は、二つ。
「こちらがペディキュア用」
 黒檀の猫脚に紫のベロアの横長ソファー、側にはソファーと同じ意匠のフットスツール。
「こちらがマニキュア用」
 ソファーと同じ意匠のサイドテーブルの上には、ボルドーの柔らかなハンドクッション。
 そう、この何処か妖しげながらも豪勢な美しさを持つ部屋は、ただ爪を塗るというそれだけの為に用意されていた。
『魔女のたしなみ』とは、よくあるレンタル衣装で着飾って撮影をするというそれだけのイベント。けれど、その着飾る場所全てが、撮影背景になるような美しさなのだ。
 すでにドレスとタキシードに着替えたあなた達は、髪も整え、化粧も終え、あとはこの部屋で爪を色付けるだけだ。
 とはいえ、落ち着いて塗れる場所は二箇所だけ。全員が一度にネイルを楽しむ事は出来ない。
 部屋の片隅には薄く繊細なティーセットが置かれていて自由に飲める様だ。一緒に入る事になった仲間達と立ち話をして時間を調整するのもいいだろう。勿論、二人きりで話すのもいいだろう。
「それでは、最後の『たしなみ』をお楽しみください」
 美しく着飾った後には、写真撮影が待っている。

解説

●ネイルについて
 別 に ど っ ち の ど の 爪 を 塗 っ て も い い の よ !
 というわけで、爪を塗ってください。手でも足でも。
 精霊が神人の爪を塗るのも、神人が精霊の爪を塗るのも、お互い塗りあうのも、はたまたパートナーを放っておいて仲間同士できゃっきゃしながら塗りあうのも、好きにしていいのよ!
 色はご自由に。シール、スタッズ、ストーンは用意されていますので、こちらもご自由に。

●ドレスとタキシードとその他について
 ドレスは基本黒一色、タキシードもベースカラーは黒ですがシャツは白です。
 希望がある場合はどのような形のドレス・タキシードかプランに書いてください。
 また、化粧や髪型に希望がある場合も書いてください。
 書いてない場合は青ネコが荒ぶって好き勝手描写します。

●プランについて
 塗っているところは必ず書いてください。
 待っている時間や最後の写真撮影はご自由に。こちらは書いてあっても無くても大丈夫です。

●イベント代について
・300Jrいただきます。


ゲームマスターより

跪いて足をおn……じゃなくて。
爪を塗ってもらう、というのはセクシーにもキュートにも転ぶことが出来るなぁと思ってます。
いい写真を撮るために綺麗に楽しく着飾ってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)

  服装など
細身のドレス
コーデのイヤリング装備
髪は編み込みを使ったアップ

心情
うふふ、私は足フェチです!
脚線美も良いと思いますが、本命は足首から爪先の部位!

行動
ラダさんにペディキュアを塗ります!
好きな人の素足を合法的に観察できるどころか、足の爪まで塗れるなんて至福の時ですね!

緑色をベースに、細い毛先でオレンジと白の模様を描きます。異国情緒と気高さを意識して。
爪を塗っている時はかなり真剣で無言です。

神人の皆さんに挨拶とマニキュアの色について雑談。
私は紫や赤が好きですが、たまに爪をケガしていると誤解されてギョッとされることがあります。
ナチュラルな色なら時と場所を選びませんが、いまいち塗った気がしなくて。


向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  ◆交流歓迎

おめかしして写真撮影…素敵ね

ねぇ、カルさん?
ワタシ…カルさんの手にマニキュアを塗ってみたいの
…ダメかしら?

カルさんが良いって言ってくれたら早速準備よ!
色の希望はあるかしら?
そうね…ライムグリーンはどうかしら?
はみ出さない様に集中して塗るわ
シンプルに、色だけよ
…ごつごつしていて、男の人の手だけれど…綺麗な手
この手で、素敵な音楽を奏でるのよね…

あら、塗ってくれるの?
色は紫が良いわ!
ワタシね、白が好きなの。ミルクの色だから
でも、一番好きな色は紫なの
家族が褒めてくれる、ワタシの瞳の色だから

…カルさんの、ライムグリーンの瞳も素敵よ

●衣装
黒のレースをふんだんにあしらった
ワンピースタイプのドレス


アンダンテ(サフィール)
  爪の為だけの部屋なの?すごいわね、豪勢だわ
内装を眺めつつわくわく

他の組にも挨拶しておくわね
みんながどんな仕上がりになるか楽しみだわ

他の組が塗りあっているのを眺め
塗りっこするのって楽しそうよね
さあ、サフィールさん!私達も…あっ、冷たい

まあ仕方ないかしら
じゃあとりあえず手からね
不器用+弱視で塗りムラが酷め
これちゃんと塗れているのかしらと目元に爪近づけ

あら、いいの?ありがとう、ぜひお願いするわ
だってきっと以前だったら私がどんなに苦戦していようと我関せずって態度をしていた気がするもの
だからね、何だかそういう些細な事が嬉しいの

じゃあ後は写真撮影ね
大丈夫よ、サフィールさんの分まで私が笑ってあげるから



スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  クロスケ、似合ってるわよ?
傭兵って言うよりもアーテル中尉って感じで。
将校の貴方にならエスコートさせてあげられるから安心ね。

私もマニキュアは塗るけど…折角だからクロスケ、貴方も塗っていきなさいな。
剣を握って手のガサガサな男もある意味魅力かもしれないけれど、手の綺麗な男の方が一層惹かれるもの。

何?私が好きな真っ赤なのは塗らないわよ。貴方に塗るのは透明なマニキュアよ。
これを塗ると爪が割れにくくなるのよ?
それに爪にも艶が出て、綺麗に見えるわよ。
細部に神は宿るって言うでしょう?指先から綺麗にしなきゃ。

もし時間が空いていたら、他のウィンクルムたちと雑談するのもいいわね。
皆の好きな爪の色は聞きたいもの。



■to the nail salon
 ヒールの音が美しい廊下に響く。
 一人は大人になりかけている少女、『向坂 咲裟』だ。黒い膝丈のワンピースドレスは少女の細さを強調するように体に沿っているが、よく見るとスカート部分は幾重にも段違いで重ねられたレースで広がっている。おろしている金の髪は毛先だけが緩く巻かれている。歩くたびにシンプルな黒エナメルのラウンドトゥパンプスが光り、レースと髪が軽やかに揺れ、まるでいたずらな妖精の様だ。
 もう一人は男性で『カルラス・エスクリヴァ』。不惑の年代らしく落ち着いた雰囲気で、着こなしている服は上品だ。ピークドラペルのタキシードの下はレギュラーカラーのシャツにサスペンダー、そしてスクエアエンド蝶ネクタイ。タキシードの前ボタンを留めていないが、体格がしっかりしているからかスーツを着慣れているからか、少しも崩れた印象にはなっていない。
「おめかしして写真撮影……素敵ね」
「タキシードか……普段はスーツだが、偶には良いか」
 豪勢な更衣室で着替え終えた二人は、最後の支度を整える部屋へと向かっていた。
 そう、指先を彩る為の部屋へ。
 木製の重厚な扉をカルラスが押し開ければ、二人の視界に飛び込んできたのは立ち止まり楽しそうに内装を眺めている一組の男女だ。
「爪の為だけの部屋なの? すごいわね、豪勢だわ」
 高揚した声で言うのは『アンダンテ』だ。
 ビスチェのフィッシュテールドレスは細かなドレープが入っている。前は膝が見え隠れする位で、後ろは足首までの長さ。黒のオープントゥパンプスにはガーネットのビジューで飾られたストラップ。濃淡のある藤色の髪はサイドテールにして赤い小花をちりばめている。
「すごいですね」
 そんなアンダンテの横で『サフィール』は常と変らぬ様子で簡潔に感想を述べる。もっとも、表情に出ていないだけでこのクラシカルゴシック調の雰囲気を楽しんでいた。
 サフィールはウィングカラーのシャツにショールカラーのタキシード、ポインテッドの蝶ネクタイ。ボタンを留めきっちりと着こなしているが、胸元のポケットチーフが、鮮やかな赤。赤い布がアイビー・フォールドで入れられていて、花のように魅せている。
 アンダンテとサフィールはぐるりと部屋の中を見回して、そして自分達の後ろ、開いたばかりの入り口に立っている咲裟とカルラスに気付く。
「ごめんなさい、ここで止まってたら邪魔ね」
 言いながら動き、四人は挨拶しながら部屋の中を確認する。爪を塗る場所にはまだ使用中の人がいたので、部屋の片隅の待合場所として用意されているスペースへと一緒に向かう。
「あら、あなたは」
 そこにいた先客の一人は、咲裟の顔を見るとひらりと笑顔で手を振った。
 艶やかな黒髪はサイドに一房ずつ垂らして高く結い上げ、赤いダリアが飾られている。ホルターネックのマーメイドラインドレスは深いスリット。そこからガーターベルトと黒タイツに包まれた美しい脚を惜しげも無く見せ、黒のピンヒールをかつりと鳴らして近づいてくる女性。
『スティレッタ・オンブラ』だ。
 スティレッタと咲裟はつい先ほどアトラクション『ラッキーパイレーツ』をオーガの手から救ったばかりなのだ。
「さっきはお疲れさま、もうフラフラはしない?」
「ええ、お疲れさま。大丈夫よ、ここは揺れたりしないもの」
 二人はそう言って小さく微笑んだ。
「皆さん、お茶は飲みますか?」
 そう言ったのはもう一人の先客の『エリー・アッシェン』で、皆頷いてお茶を囲むことになった。
 エリーはスレンダーラインのドレスを着ていた。一見シンプルな細身のドレスは、繊細なレースで肩と腕を包んでいて、透けて見える白い肌を上品に見せている。編み込まれた髪は首筋を見せるようにすっきりとあげられ、イヤリング「蝙蝠の囁き」が目立つように煌いている。さらに目元までかかるくらいの短い帽子ベールをつけていた。
「今、スティレッタさんとマニキュアの色について話してたんですよ」
「ここで会えたのも何かの縁でしょ、皆の好きな爪の色は聞きたいもの」
 エリーは紫や赤が、スティレッタは赤が好きという事で盛り上がっていたようだ。
「紫や赤を塗ってると、たまに爪をケガしていると誤解されてギョッとされることがあるんですよね」
 困ったものです、と溜息をつくエリーに皆苦笑する。
「色かぁ、今日は何色を塗ろうかしら」
 具体的な色を決めていなかったアンダンテが口にすれば、もう一人、咲裟もどうしようかと小首を傾げた。
 小首を傾げ、そして神人達から少し離れて集まっていた精霊達を、カルラスを見る。いや、カルラスの手を、爪を見る。チラチラと見るその様子に他の神人達がクスリと笑う。
 その時、マニキュアを塗るスペースが空いたと係員が呼びにきた。
「どうぞ」
 スティレッタが咲裟に言う。
「え、でもワタシの方が後から……」
「いいのよ、私はもう少しお話したいから譲るわ」
 スティレッタは悪戯っぽく笑って「ほら、精霊を誘って」と促す。それに後押しされるように、咲裟は「ありがとう」と言ってカルラスの方へ向かった。
 マニキュア用のテーブルに向かう二人を見ながら、アンダンテはそっと呟く。
「みんながどんな仕上がりになるか楽しみだわ」


■One point
「ねぇ、カルさん?」
 マニキュア用のテーブルに着いた咲裟は、自分の手をテーブルの上に出さないまま切り出した。
「ワタシ……カルさんの手にマニキュアを塗ってみたいの」
 カルラスは目を丸くする。咲裟は咲裟自身の爪を塗るだろうと思っていたカルラスにとって、それは予想外の発言だった。
「……ダメかしら?」
 上目遣いで頼んでくる咲裟に、さりとてかたくなに断る理由も特に無く、カルラスはわざとらしく息を吐いてから「やりたいなら、どうぞ」と了承した。その言葉に咲裟はパッと顔を明るくし、張り切って準備を始めた。
「色の希望はあるかしら?」
 上着を脱いでいると飛んできた問いに、カルラスは数瞬考えてから「色はお嬢さんが決めてくれ」と返す。塗る予定などなかったのだから希望も何も無いのだ。
「そうね……」
 咲裟は言いながらも既に決めていたようで、迷わず一つの色を選ぶ。
「ライムグリーンはどうかしら?」
 カルラスは問題ないと頷いて、ボルドーのハンドクッションの上に手を出す。
「じゃあ塗るわね」
 飾りをつける予定はない。シンプルに、色だけを乗せる。だからこそ丁寧に塗りたかった。
 咲裟ははみ出さない様に集中する。集中しながらも、抑えるように触れている手に、塗る先の指先に、少しだけ意識が飛ぶ。
(……ごつごつしていて、男の人の手だけれど……綺麗な手)
 綺麗な手が生み出すものを、咲裟は知っている。いや、生み出すものを知っているからこそ、一層綺麗に見えるのか。
(この手で、素敵な音楽を奏でるのよね……)
 素敵な音楽に相応しい、素敵な指先を。そう思いながら、咲裟は丁寧に塗っていく。
 そんな真剣な様子を、カルラスは何が面白いのやらと半ば呆れたように見ていた。
 じっと指先を見るその眼差しに、どこか落ち着かないものを感じながら。

「出来た……!」
 満足気に顔を上げた咲裟に、カルラスも手を上げて染まった爪を眺め、目を細める。
 咲裟が塗ったのだ。綺麗に、丁寧に、自分の指を。
「どれ、お嬢さんの爪を塗ってやろう」
 何だか気分が良くなってそう提案すれば、咲裟は嬉しそうに「あら、塗ってくれるの?」と食いついてきた。
「色は紫が良いわ!」
「はいはい」
 咲裟の希望を聞いて紫のネイルを取る。自分がしてもらったように、はみ出さないよう、注意して塗っていく。
「ワタシね、白が好きなの。ミルクの色だから」
 塗りながら聞こえてくる声に、カルラスは塗る手を止めずに聞き入る。
「でも、一番好きな色は紫なの」
 咲裟のミルク好きはよく知っている。それでは、紫は何なのか。
「家族が褒めてくれる、ワタシの瞳の色だから」
 言われて、納得する。同時に、一つ思いついて飾りを引き寄せる。
 綺麗に塗られた紫の爪。その右の小指に、小さな白いストーンを乗せる。ミルクのような、滑らかな白いストーンを。
 指輪は、指によって違う意味を、違う願いを込めるという。
 この小さなストーンは指輪ではないけれど。
 愛されている紫。好きなミルクの白。
 右の小指の指輪が幸せを呼び込むと言い伝えられているように、この幸せな存在が更に幸せを呼び込むように、なんて事を考えながら。
「ほら、出来上がりだ」
 そのオマケに、咲裟は嬉しそうに笑う。
 仕上がりを見つめるその瞳は輝いていた。
「……確かに、美しい瞳だな」
 ほんの少しだけ口元を緩めて言えば、咲裟は一度パチリと瞬きしてから、とっておきの秘密を告げるようにそっと言った。
「……カルさんの、ライムグリーンの瞳も素敵よ」
 ライムグリーンの瞳と紫の瞳が交錯して、同時に笑い合った。


■God is in the details
 咲裟達と交代にマニキュア用のテーブルに来たのは、スティレッタと『バルダー・アーテル』だ。
「全く……お前が来たいと言うから何かと思えば……」
 こんな格好をするだなんて聞いていない、と文句を言いたげなバルダーに、スティレッタはクスリと笑いながら「クロスケ、似合ってるわよ?」と言う。
 バルダーのタキシードは二つボタンが付いたピークドラペルのスリーピースタキシード。ボタンをあけた状態でも中のベストが体を引き締めて見せている。更に蝶ネクタイではなく、細いストレートタイ。それらを難なく着こなしているのに、笑顔を一切見せない不機嫌な顔が、パーティーに遊びに来たというよりも何処か仕事でもしているような堅さを感じさせていた。
「傭兵って言うよりもアーテル中尉って感じで。将校の貴方にならエスコートさせてあげられるから安心ね」
 エスコートという言葉と、さらりとつつかれた過去が、バルダーの眉根の皺を深くする。
「『スティレッタ女王陛下のエスコート』か。勘弁してくれ」
 そう言っても、スティレッタはその蠱惑的赤い唇の端を楽しげにあげるだけだ。バルダーは諦めたように一つ溜息をつき、それでも勘弁してくれと伝える。
「昔のことは思い出させんでくれ。社交界はロクな思い出が無い。出世が掛かってなかったらああいう会合ではずっと壁にもたれ掛っていたかったぐらいだ」
 スティレッタはそれ以上つつく事はせず、笑んだまま「そう」と言ってネイルを選び始める。
「それはともかく、だ。お前はマニキュアを塗るんだな」
 幾つかの赤いネイルを選んだスティレッタに、たまには赤じゃなくて他の色でもいいんじゃないか? と思いながら聞くと、じっとバルダーの手元を見てきた。
「私もマニキュアは塗るけど……折角だからクロスケ、貴方も塗っていきなさいな」
 バルダーの思考が一瞬止まる。今なんと言った。塗る? 貴方も? 貴方って?
「って、俺に? 勘弁してくれ。俺はそもそも乗り気じゃないんだ」
 仰け反り距離をとるバルダーに、スティレッタは逆に身を乗り出して近寄る。
「剣を握って手のガサガサな男もある意味魅力かもしれないけれど、手の綺麗な男の方が一層惹かれるもの」
 それは別に自分じゃなくていいし、赤い爪をした自分なんて嫌だ。そう言おうとスティレッタの手にある赤いネイルをねめつけていると、視線に気付いたスティレッタがクスリと笑う。
「何? 私が好きな真っ赤なのは塗らないわよ。貴方に塗るのは透明なネイルよ」
 赤いネイルを置いて、透明なネイルをコトリとテーブルの上に置く。
「これを塗ると爪が割れにくくなるのよ? それに爪にも艶が出て、綺麗に見えるわよ」
 バルダーは赤い爪じゃないことに少しほっとする。
「細部に神は宿るって言うでしょう? 指先から綺麗にしなきゃ」
 そして、爪が割れにくくなる、という言葉に合理性を見出した。
 乗り気ではない。それはさっきから変わってない。
「だがお前の言うことも一理あるからな」
 煌びやかに飾る必要は無くとも、綺麗に身を整えておくという意見は受け入れられる。
「今回ばかりは素直に聞いてやる」
 そう言って塗りやすいようまっすぐに指を伸ばしてみれば、面白そうににやにやと笑っている自分の神人がいた。
「勘違いするな。正しいから受け入れるだけだ」
「はいはい、さぁ塗るわよ」
 塗られていく透明なネイルは爪を輝かせて、丈夫にして。
「乾くまで動かしちゃ駄目だからね」
「むぅ。動いてはいけないか」
 指を伸ばしたまま待っている目の前で、スティレッタは器用に自分の爪を赤く染め上げていく。
 塗られていく赤いネイルは爪を輝かせて、彩らせて。
 そうして細部まで完璧に作られたスティレッタが出来上がっていく。
 それを思わずじっと見ていたバルダーに塗り終わったスティレッタは気付き、ひらりと染め上げられた指先を振る。
「お揃いね」
「いや、色が違うだろう」
 それでも同じように輝く互いの爪。
 果たしてそこに宿ったのは、いかなる神なのか。いかなる想いなのか。


■give me your hand
 スティレッタ達がマニキュア用のテーブルに行ったのと同じタイミングで、エリーと『ラダ・ブッチャー』がペディキュア用の場所へと向かった。
 ラダは写真撮影のためとはいえ正装をしているという事から、モヒカンをワックスで整えソフトさと清潔感を出し、短めの後ろ髪は黒く細いベルベットのリボンで束ねている。
 ピークドラペルのタキシードはショート丈で、細身のパンツ。大きめなスクエアエンドの蝶ネクタイ。さらにはイヤリングの「バッドクリスタル」。間違いなく正装の範囲で、それでも遊び心を見せた小洒落た装いとなっていた。
(こういう服装は慣れてないから緊張するねぇ)
 自分だけだろうかと横にいるエリーを見れば「ふふ、うふふ」とどこかうっとりとした顔で興奮していた。
(エリーのテンションが高すぎて怖いんだけど!?)
 エリーのテンションが高いのにはわけがある。
 二人が向かっているのはペディキュア用のソファー。手ではなく足の爪を塗るのだ。
(うふふ、私は足フェチです!)
 そう、足フェチのエリーにとって、こんなにも美味しい話はない。
(脚線美も良いと思いますが、本命は足首から爪先の部位! ああ、これからその部分をたっぷりと見て触って塗ってまた見て……!)
「ねぇエリー、座らないの?」
 いつまでも別世界にいるエリーを呼び戻すべく声をかけたラダだったが、現実世界に戻ってきたエリーはなおも座らない。首を横に振る。
「ラダさんにペディキュアをします!」
「は?!」
「うふふぅ、好きな人の素足を合法的に観察できるどころか、足の爪まで塗れるなんて至福の時ですね!」
「ボクの足の爪を塗っても、革靴で隠れちゃうんじゃないかな?」
 好きな人、の辺りはスルーしてもっともな事を言うが、エリーはグッと握りこぶしを作る。
「見えない部分にもオシャレするのがたしなみです!」
 たしなみ。そう言われてしまうと、この『魔女のたしなみ』というイベントには相応しい気がしてきてしまう。
 というかこのテンションのエリーに逆らえる気がしなくてもういいですお好きにどうぞ、とラダはソファーに腰掛けた。
 靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、素足をさらしてフットスツールに置く。そうすれば跪いたエリーが足に触れてネイルを塗り始める。真剣に、黙ったままで。
 その感触が、この状況が、何だか落ち着かなくてくすぐったい。
 ラダは気恥ずかしさを誤魔化すようにエリーの作業をじっと見る。
 塗られていくのは緑色。全て塗り終わったと思えば、今度は細い毛先を使ってオレンジと白のネイルで模様を描いていく。
(凄いなぁ)
 ラダは素直にその器用さと模様の美しさに感心する。
 その不思議な模様は異国情緒を醸し出し、同時に気高さも感じさせるようなものだった。
「堪能しまし……じゃない、出来ました」
「今堪能したって言った?!」
 ペディキュアが終わればいつものエリー。やっぱり少しテンションは高いけれど、さっきまでの落ち着かなさはもうない。
 残るは写真撮影とラダは靴下と靴を履いて立ち上がるが。
 何ともいえない、違和感。
 普段ペディキュアなどしない身からすれば、足に違和感があって歩きづらい。
 そんな少し困っているラダに気付いたのか、エリーが笑顔で手を差し伸べる。
「お手をどうぞ」
 ラダは一瞬躊躇って、けれど負けたように「お願いします」と唸りながら手を重ねた。
 歩きやすくはなったけれど、その点では助かったけれど。
(すっかりエリーのペースに乗せられてなんか恥ずかしい!)
 さっきまでの落ち着かなさが戻ってきてしまったようだった。


■smile
「塗りっこするのって楽しそうよね」
 仲間達が塗りあっているのを眺め、残されたアンダンテはワクワクしながらサフィールの方を向く。
「さあ、サフィールさん! 私達も……」
「よそはよそです」
「あっ、冷たい」
 サフィールにも言い分はある。
 アンダンテはそそっかしいのだ。塗らせると酷い仕上がりになりそうだという事が予想でき、単純にそれは避けたかったのだ。
(まあ仕方ないかしら)
 一蹴されたが、アンダンテに気にした様子はない。サフィールのこんな対応はいつもの事だし、自分の不器用さを考えれば上手く塗れる自信は無い。となれば、ますますもってサフィールの反応は正しいのかもしれない。
 もう他に客はいなくなった。二人が最後のようだ。
 かくして、二人はそれぞれ自分の手だけを塗ることになった。

「じゃあとりあえず手からね」
 むん、と気合いをいれてはみたものの。
 アンダンテは不器用である。更には弱視である。
 そんな条件が重なれば当然小さな爪に小さな筆で色を乗せる事など……。
「これちゃんと塗れているのかしら」
 目元に爪を近づけて確認すれば、あからさまに酷い塗りムラとはみ出し。
「うーん……」
 やり直せば大丈夫かしら、というかやり直してどうにかなることかしら、などと考えていると、目の前から大きな溜息が聞こえた。
「手伝います」
 自分の分の透明に近い水色のマニキュアを終えたサフィールが、除光液でアンダンテの爪を戻していく。
「あら、いいの? ありがとう、ぜひお願いするわ」
 ほっとしたアンダンテは素直にサフィールに任せる。
 色は、髪に散らばる小花と同じ赤。
 アンダンテはサフィールによって塗られていく自分の爪を見ながら、顔がほころんでいくのを止められなかった。
「何か?」
 ふと顔を上げたサフィールと目が合い、笑っていたアンダンテに不思議そうに尋ねた。
 アンダンテは一度声に出してふふっと笑ってから答える。
「だってきっと以前だったら私がどんなに苦戦していようと我関せずって態度をしていた気がするもの」
 言われてサフィールは自分を振り返る。
 そうだっただろうか。そんな態度だっただろうか。そんな気がするが、それなら今の自分は。
「だからね、何だかそういう些細な事が嬉しいの」
 アンダンテへの態度、接し方。
 自分は変わったのだろうか。ああ、変わったのだろう。
 けれどそれを素直に「そうですね」とは言えず、煙にまくように「というか不器用すぎですよ」とアンダンテにちくりと刺した。
 赤く塗られた爪は、最後に金のラメを散りばめて完成した。
「じゃあ次は私が……」
「乾くまで大人しくしていてください」
 やる気をみせたアンダンテを静止すると、もう使われていないペディキュア用のスツールを持ってきてアンダンテの横に置く。
「足をどうぞ」
「え?」
「オープントゥなんですから。どうせなら完璧の方がいいんじゃないですか」
 言われたアンダンテは数秒目を丸くして、そしてくしゃりと笑って「そうね」と靴を脱いで足を乗せた。
 サフィールがアンダンテの足に触れる。その爪も指と同じように赤く染め金の装飾を施していく。
「後は写真撮影ね。大丈夫よ、サフィールさんの分まで私が笑ってあげるから」
「お願いします」
 塗りながら言ったサフィールはアンダンテからは見えなかったけれど、微かに微笑んでいた。


 写真の中の着飾った二人がどんな表情だったのか。
 それは二人だけが知っている。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月23日
出発日 10月30日 00:00
予定納品日 11月09日

参加者

会議室

  • [7]向坂 咲裟

    2015/10/29-23:37 

    そろそろ出発ね。
    プラン提出したわ。

    文字数に負けちゃって、みんなとの交流についてきちんと書けなかったけれど…交流歓迎、とは入れているわ。
    素敵な時間になる事を、祈っているわ。

  • [6]アンダンテ

    2015/10/29-21:44 

    みんなでお喋りできたら楽しそうよね。
    私も挨拶とかそういったもの、少しだけになっちゃうかもしれないけど入れておくわ。

    それじゃあ改めて、みなさんよろしくね。
    素敵な時間を過ごせますように。

  • [5]エリー・アッシェン

    2015/10/28-23:57 

    では、ご一緒する皆さまよろしくお願いします~。
    文字数次第ですが、ご挨拶と、あとは好きなマニキュアの色とかの雑談を入れたいと思ってます。

  • [4]向坂 咲裟

    2015/10/28-23:16 

    挨拶遅れてごめんなさい。
    向坂 咲娑よ。精霊はカルラスさん。
    よろしくね。

    ワタシはカルさんにマニキュアを塗りたいと思っているけれど…塗らせてくれるかしら…?

    皆さんと一緒にお喋り…素敵ね。
    ワタシもプランに入れてみるわ。…モ=ジスウに負けなければ、ね。

  • 遅れて申し訳ないわ。私はスティレッタ・オンブラ。

    そうね……私は自分で自分のマニキュア塗る予定だけど……。そうね。私の精霊にも塗ってあげようかしら? むしろそっちのほうが楽しいことになりそうだわ。
    うふふ……vv

    ホント、他のウィンクルムの方々とお話出来る機会があればいいわね。プランに書くだけ書いてみようかしら?

  • [2]エリー・アッシェン

    2015/10/26-21:53 

    エリー・アッシェンです。よろしくお願いします。
    とりあえず精霊のラダさんにペディキュアを塗りたいと思ってます。

    タイミングが合えば、自分たち以外のウィンクルムの方と雑談するのも楽しそうです。

  • [1]アンダンテ

    2015/10/26-21:25 


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