《bird》晴れわたる(紫水那都 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●爽やかな朝の街角で
チュンチュン、チチチ……
爽やかに晴れ渡った秋空の下、小鳥が囀り気持ちの良い陽気だ。
あなたは、パートナーである精霊と一緒に出掛けていた。
「こんなに気持ちの良い日は、散歩も良いかもね」
 そんなあなたの言葉に、彼が頷く。その様子に、違和感を覚える。
彼は、笑顔だった。それも、満面の。
その周囲には、音符や花が飛び交っているようにさえ見える。
「ど、どうしたの? 何だかやけに嬉しそうじゃない……?」
 少々驚いて、あなたは彼に問いかける。
「いや? いつもと変わらないぞ!」
 るんるんという効果音がしそうなほどの機嫌の良さで、彼が答える。そして、
「さ、行こうか!」
 軽くスキップをしながら、彼が歩き出す。彼の機嫌の良さをいぶかりながらも、あなたも続いて歩き出した。
先程から囀る小鳥の群れの中に、スズメに紛れるように一羽の茶色い小鳥が彼を見つめている事にも気付かずに……

●人騒がせ研究者コンビの受難?
「もうすぐ完成ですね、ミツキさんっ!」
「ええ、これもサージさんのご協力のお陰ですよ」
 ここは怪しさ溢れるタブロス市内の小さな研究所、ストレンジラボ。謎の研究に勤しむのは白衣姿の2人の青年――A.R.O.A.の科学班に所属するサージと、ストレンジラボ代表のミツキである。
「あ、でも……僕がここに通っていること、科学班の皆――特にクレオナ先輩にはご内密にお願いしますね! 叱られてしまうので……!」
 次にフラスコに注ぐ禍々しい紫色の液体を用意しながら、サージはふにゃりと苦い微笑を零した。「ええ、心得ていますよ」というミツキの返事に安堵したように、フラスコに満ち満ちる透明の液体へと、サージは試験管から紫の雫を垂らす。と、
「うわっ!?」
 フラスコから淡いラベンダー色の煙がもくもくと立ち上がり、あっという間に研究室中を満たした。
「あああっ、失敗!? どこがいけなかったんだろう……?」
「とにかく窓を開けましょう! 万一人体に影響があっては危険です!」
 あわあわとしてサージは背中を背後の鳥籠に強かにぶつけ、白衣の袖で鼻と口を抑えたミツキは手探りで窓を探し一気に開け放つ。その瞬間、煙と一緒に幾らもの小鳥が窓から外の世界へと飛び立っていった。先程のごたごたで、研究用に小鳥を飼育していた鳥籠の扉が開いてしまっていたらしい。
「ど、どうしよう……先輩に怒られる……!」
「そうですね、これは……」
 なかったことにしましょう、とミツキは言った。
「えええっ、なかったことって、どういう……」
「科学の進歩に失敗は付き物です。あの煙も幸い人体に影響はないようですし、この件は僕たち2人の胸の内に留めておくのが良いかと」
 2人は知らない。人体には影響を与えなかったあの煙が、青空の向こうに消えた小鳥たちの鳴き声に不思議な効果を纏わせてしまったことを……。

解説

●起きたこと
不思議な小鳥の鳴き声のせいで、精霊がとても陽気になってしまいました。

●すること
陽気になった彼とお散歩デート。
ウィンドウショッピングをするもよし、いつもと違う小路に入ってみるもよしです。

●小鳥の鳴き声の効果時間
半日ほどです。
小鳥の鳴き声を聞いてから、半日ほど経つといつもの彼に戻ります。

●重要事項
陽気になっている間の記憶はなくなりません。
小鳥に気付いても、退治はしないでください。小鳥は敵ではありません。
各組、別々の日時・場所で起こったこととします。他の組と出会う事はありません。
交通費等として、一律<400Jr>消費します。

●書いてほしいこと
陽気な状態でのデートを第一部、元に戻ってからを第二部という想定でお書きください。陽気な状態だけではなく、元に戻ってからの様子も描写いたします。

ゲームマスターより

るんるん。
らんらん。
るんらるんら。
秋晴れって気持ちが良いですね!紫水です。
今回は精霊がうきうきるんぱっぱ、もとい、陽気になってしまいました。
さて、そんな彼とどうデートしますか?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  彼がご機嫌なら私も嬉しい…ですが
なんだかおかしいですね
急な通り雨に降られ(日傘を持っていましたが、彼だけが濡れてしまうのは嫌だったので私もさしませんでした)
二人の服は湿っています、いつものディエゴさんならすぐさま帰って洗濯するように言うんですけど
今日はそんなことにも構わず通り雨も楽しむかのように歌っています。

ここは私も彼の様子にのってあげましょう
一緒に歩きながらも傘を持ったまま、彼の歌と通り雨を表現するようにタップダンスを踊ります。(【ダンス】スキル使用)

【その後】
覚えていないようなので、上機嫌だった時の事を話します。
恥ずかしがっていますが…、私は楽しかったですよ
ディエゴさんの歌、素敵でした



シルキア・スー(クラウス)
  冒険装備の買物


異変に驚き(心配

「調子悪いの?

「変なもの食べた?

「精神攻撃を受けているのかも

「問題ないんだね?(高揚!?





買物続行

いつもからの変貌に戸惑いつつ
なんだか嬉しくなってきた
つられて自分も笑み
‥恋人同志みたい?
今ならお願いしてみても
意を決し

「手‥繋いでもいいかな?


ポロリに

(それは‥精霊の役目としての言葉‥よね 心には遠い‥

「うん困った時はじゃんじゃん頼るから!






帰途

繋いだ手が解ける
いつもの落ち着きが戻ってる?
顔が赤い様な

「忘れるのはムリ
だってすっごく楽しかったから!


何があったか分らないけど
いつか自然にあんな表情見せてくれる関係になりたい
言わないけどね(言ったらそう振る舞う人だから



スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  第一部
散歩に行こうって誘った時は嫌がってたのに…
クロスケ、何か変なものでも食べた?
な、何か調子狂うわね。まあいいわ。折角だからデートに付き合ってあげる。
街に駆り出してお茶とショッピングでもしましょ。

笑うと意外と可愛いわね。
真面目で優しい男だってのは分かってたんだけど、いつもは私にツンツンしてるから滅多に笑ってくれなくて気づかなかったわ。

第二部
…いきなりどうしたのよ。突然ものすごく暗い顔しちゃって。
え?さっきのこと覚えてない?

…嘘ばっかり言っちゃって。
いいわ。別にそれでも。私だけが貴方のあの顔、覚えていればいいんだもの。
うふふ。貴方とっても可愛かったわよ。頭撫でてあげるわ。



 研究所を文字通り飛びでた無数の小鳥のうちのその一羽。
 特に誰かを傷つけるような能力を付与されたわけではないが、それでも鳴き声には人の性格に特別な影響をおよぼす効果が

あった。

 それもあるタイプの人間にとっては非常に厄介な鳴き声を……


●小鳥、さえずる


 スティレッタ・オンブラは眉をひそめた。
 知らない誰かに怒鳴られたからではない。よく知っている男が朗らかに笑っているからだ。
(散歩に行こうって誘った時は嫌がってたのに…)

「ホラ、道路の外側は危ないぞ?」
「人ごみも多いしはぐれない様に手でも繋ぐか?」

 以上の台詞はバルダー・アーテル氏の口から出た。彼はともすれば下心とでもとれそうな言葉をかけている相手がスティレ

ッタだと理解しているのだろうか。
「クロスケ、何か変なものでも食べた?」
「…何だ? 俺は普通だが?」
 とりあえず拾い食いの線は捨てる(元より信じてなどいないが)。
「買い物がてら街にいこうか」
「な、何か調子狂うわね」
 もはや同一人物かどうかですら怪しくなってきた。彼にロールシャッハテストを受けさせれば、何かとんでもない結果が出

るかもしれない。
 しばらくの間スティレッタは難しそうに眉をひそませていたが、やがてゆるく首をふった。
「……まあいいわ。折角だからデートに付き合ってあげる」
 理由はわからない。だが誘ってくれるというのなら、のってやろうそうしよう。
「街に駆り出してお茶とショッピングでもしましょ」


(今日はどうも気分がいいな。……そうか。天気がいいせいだな)
 スティレッタをさんざん悩ませたバルダーの陽気を、バルダー本人は天気のひと言で片付けた。
 今日より天気がよかった日などいくらでもあり、なおかつバルダーの機嫌が急転直下な雷雨(※主にスティレッタ低気圧に

よる)であった事実もあるというのに。
 とにもかくにも二人は適当なカフェを見つけて席につく。バルダーがメニューを開く。それから依然として集中しているス

ティレッタの視線に気がついた。
「どうした?」
「何か、企んでないでしょうね?」
「まだ疑ってるのか?」
 やれやれと呆れるそのバルダーの顔もやはり笑んでいる。
「いつもお前と喧嘩しているのも疲れるさ。たまにはこうやって一緒に歩いたってバチは当たらんだろう」
「ならいいけど」
「それで何を頼む? 俺は……」
 スティレッタはメニューに目をうつしながらも、時折チラチラと、バルダーを盗み見る。
(笑うと意外と可愛いわね)
 彼の新しい表情が、スティレッタの興味をひく。
(真面目で優しい男だってのは分かってたんだけど、いつもは私にツンツンしてるから滅多に笑ってくれなくて気づかなかっ

たわ)
 思い返せば記憶にある彼の表情は怒った顔やげんなりした顔ばかり。惜しげもなくプラスの表情を見せてくれたのは今日が

初めてではなかろうか。
「決まったか?」
「そうね、今日のおすすめブレンドと……」
「アクセサリーはどうだ?」
「あら、いいわ……え?」
 彼女の声がわずかに裏返る。
「休戦記念日だ。俺の予算内だがな。希望はあるか?」
 どうやら本気らしい。
――あのバルダーが。
――スティレッタに。
――プレゼントを。
「クロスケのセンスに任せるわ。でもあまり変なのはやめて」
 バルダーは短く笑い飛ばした。
「ケーキがうまけりゃ、苺の形なんぞ誰も気にしないだろう?」


※※※


 気のせいかと思った水滴は、やはり雨だった。
 雨粒は地面を、木を、建物を、そしてハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロの両名を濡らしていく。
 デートの途中の通り雨など不運以外の何物でもないが……
(歌って気分だな)
 ディエゴの気分は、なぜか晴れあがっていた。
 そして古い舞台の歌を思い出していた。なぜ雨で舞台なのだといえば、その舞台に今のような雨が降っていたのだ。
 ただし今回は本物の。
 彼同様、ハロルドの服にも髪にも水滴が吸いこまれ、湿らせていく。嫌な気分になってはいないだろうか。胸を覆った曇り

空を吹き飛ばす方法はないものか。
 あるじゃないか! 突如ふってわいた思いつきこそこの答えだ。
 ディエゴは歌を口ずさんだ。


(彼がご機嫌なら私も嬉しい…ですが)
 ハロルドはちらりと隣を盗み見る。
(なんだかおかしいですね)
 ディエゴの様子が変だ。少なくともこの類の笑顔はあまり見たことがない。一瞬、偽者かと疑ったがすぐに否定した。偽者

にこんなかわいい顔ができるはずなどない。
 彼らに文字通りふりかかった通り雨。一応ハロルドは日傘を持っていたのだが、決して使おうとはしなかった。
 ディエゴが濡れるのが嫌だった。相合い傘に応じてくれるかも怪しかった。了解したところでハロルドひとりを雨から庇う

ようなさしかたをするとも限らない。
 ともかくハロルドは傘からディエゴへと注意を変える。
(間違いありません。これはディエゴさんです)
 いつものディエゴなら、こんな雨が降ろうものなら、即座に帰宅し洗濯をしそうなものだが、ディエゴがお母さんモードに

切り替わる様子はいっさいない。
 むしろ雨がやまないことを願っているようにさえ見える。
 不意に歌声の節が変わった。サビなのだろう。声がよくのびている。
 ハロルドは決意した。
(わかりました。私は踊りましょう)
 この男にしてこの女である。
 ハロルドが脳内でどういった式をたて、この答えを導きだしたのかはわからない。
 それでもひとつだけ確かだと信じていることがある。

――“夫が歌うのなら、妻は踊るべき”だと

 ハロルドは傘を小道具として構え、ディエゴの歌に合わせてステップを踏んだ。足音を打楽器に変えるタップダンス。
 踵、踵、つま先、踵、踵、つま先、ぴょんと跳ねて素早く踵つま先踵。
 手首を軸にクルクルと傘を回しながら踵、踵、踵。
 雨のストリートが、即席のステージへと変わる。BGMはもちろん雨音である。
 ハロルドのダンスにますます気分がのったのか、ディエゴの歌声がより冴える。
 冴えた歌に、ハロルドのダンスもより巧みに軽やかなものになる。
 こんなにも目立つような真似をしておきながら、二人は他者のことなど少しも気にならなかった。
 “ついてこれるか”とディエゴが挑発的な視線を投げれば、“受けて立ちます”とハロルドも笑顔で返した。
 この突発イベントに立ち会えた観客はあまりいない。
 通りの角で、不審そうに顔をしかめた警官が恋人たちを眺めていた。


※※※


 シルキア・スーは心配そうに隣を見た。
 クラウスが笑っている。そう、笑っているのだ。
「調子悪いの?」
「いや、変調は自覚しているが体調は万全だ」
 少なくとも、朝の彼はいつもの彼だった。
「変なもの食べた?」
「それならばお前にも起きているだろう?」
 シルキアとクラウスは同じ食事をとっている。
「精神攻撃を受けているのかも」
「ならば失敗だな。この程度の高揚何の支障もない」
 高揚!?、とシルキアは出かかった言葉を飲みこんだ。
「問題ないんだね?」
「ああ。多少混乱を覚えるが、フフ」
(笑ったー!?)
 演技でも故意でもない自然な微笑み。これがあのクラウスとは。
 一瞬シルキアは即刻買い物を中止し病院へと考えるが、陽気なふるまい以外クラウスに変化は見られなかったため、予定の

変更は一旦保留にする。
 買い物は続行。二人はショッピング街に飛びこんだ。


(何か……楽しいかも)
 最初こそ戸惑ってはいたものの、普段とは違う明るく親しみのあるクラウスにあてられてか、次第にシルキアも楽しくなっ

ていくのを感じた。
 ド、レ、ミ、と音階があがっていくように、シルキアの心が弾んでいく。
 ちらりとショーウィンドウに目をやれば、そこには仲がむつまじそうな男女の姿が。
 もちろん、シルキアとクラウスである。
(……恋人同志みたい?)
 なかなかお似合いではなかろうか。そんな自画自賛で頬が緩んでしまう。
 弾んだ気分に背中を押されたのか、ささやかな願望がシルキアに芽生えた。
(今なら……)
 シルキアは意を決してクラウスに声をかける。
「手……繋いでもいいかな?」
 思った以上に恥ずかしい台詞だったと、言ってしまってから気づいた。
 大胆だっただろうか。少し後悔を覚えたとき、シルキアの小さな手を温もりが覆う。
「あ……」
 クラウスの手だった。
「嫌か?」
「嫌じゃない! 嫌じゃないよ!」
 頼んだのはシルキアなのだ。
(クラウスの手……あたたかい……)
 シルキアはそっと握り返す。
 クラウスもシルキアの手の温かさに心がゆるんだのか、普段は控えている本音が声となってこぼれる。
「お前はもっと俺を頼っていい。なんでも叶えてやりたいといつも思っている」
 自立心が強く、なかなか頼ってくれないシルキアに、クラウスはいつももどかしさと、そしてわずかな寂しさを感じている


「――その為の俺だ」
 これはクラウスの“お願い”だ。
 だがシルキアは……
(それは……精霊の役目としての言葉…よね 心には遠い……)
 クラウスの言葉を、神人に仕える義務からくるものだととらえてしまった。
 矢印の向きはまだそろわず、二人の気持ちはすれちがう。
 シルキアはわざと明るい笑顔を見せた。
「うん困った時はじゃんじゃん頼るから!」
 彼女の胸にひそむ、暗い光にクラウスは気づいただろうか。
 大きな手を握る小さな手に、きゅっ、と力がこもった。


●小鳥、飛び立つ


 再び、スティレッタは眉をひそめた。
「……いきなりどうしたのよ。突然ものすごく暗い顔しちゃって」
 隣の男が、この世の終わりのような酷い顔をさらしているのだ。
 声をかけられて、バルダーの肩がびくりとはねる。
「あ、う、え。そ、その…あー…なんだ」
 笑ったり、落ちこんだり、慌てふためいたり、今日のバルダーは忙しい。
「私にプレゼントしたこと、後悔してるの?」
「お、俺は知らん! 何も覚えていない!」
「え? さっきのこと覚えてない?」
 聞けば、散歩もカフェもショッピングもプレゼントも、彼の中ではなかったことにしているらしい。
「なに言ってるのよ。満面の笑みで私をジュエリーショップへ引っ張っていったくせに」
 途端、バルダーの口から「わーっ!?」と嘆きのような叫びがでた。
 バルダーはいつものように小憎たらしい神人が、自分をからかっているのだと信じたい。
 だがスティレッタの腕にかかるショップの小さな袋が、財布の中の領収書が、何よりバルダー自身の記憶が、紛れもない現

実なのだと彼の眼前に突きつけていた。
「お、覚えていないことにしてくれ! 思い出すだけで恥ずかしい!」 もはや裁判の加害者の慟哭である。

 そんな彼の一挙一動を、スティレッタはもらさず見つめていた。
「……嘘ばっかり言っちゃって」
 もうあの笑顔を見せてくれないかと思うと、少しだけおもしろくない。だけど。
「いいわ。別にそれでも。私だけが貴方のあの顔、覚えていればいいんだもの」
 逆にいえば、彼女のかわいいクロスケの秘密は彼女だけのものなのだ。それはそれで悪くはない。
「うふふ。貴方とっても可愛かったわよ。頭撫でてあげるわ」
 ほっそりとしたしなやかな手が、少し硬い黒髪をなぜる。
 バルダーは彼女の手を振り払うかのように激しく頭を振った。
「やめろ! だから頭を撫でるな! 可愛いって言うな!」
「あら、照れてる顔もなかなか。ねえ、こっち向いてクロスケ」
「ちょっと本当…照れて顔が熱いから…やめてくれ…恥ずかしくて死ぬ……」
 最後のほうは、ほぼ懇願になっていた。
 茹で蛸のような真っ赤な顔をうつむかせて、バルダーはひたすら羞恥をやり過ごそうと努めている。
 しかし、バルダーは思い切って振り向いてみるべきだったかもしれない。
 スティレッタは、まるで少女のような無邪気な笑顔を彼にそそいでいたのだから。


※※※


「……と、いうことがありました」
「……そんなことしてたのか、俺は」
 ディエゴがすべてを知ったのは、とっくに帰宅したあとだった。
 ハロルドの話が本当ならば、記憶の外で、恐ろしいミュージカルが上演されていたようだ。
「警察の方らしき人が、私たちを睨んでました」
「……不審者を捕まえるのも仕事だからな」
「でも、私は楽しかったですよ」
 ふん、とどこか満足そうに気合いをいれているハロルドに、やってしまった過ちの大体の大きさを知る。
 たぶん、思い出してはいけないやつだ。
「はぁ…過ぎ去ったことは良い、が……」
 過去の流し方にもだいぶ慣れてきたディエゴはひとまず問題をおいて、そもそもの原因のほうに思いをはせる。
「大分昔に聞いた歌だからもしかしたら、歌ってみたい気持ちがあったのかもな」
「昔、ですか?」
「舞台があったんだ。印象的なシーンだったから歌ごと覚えていた」
 今までどれだけ芝居を見てきたか、あの舞台がいつのことだったか、記憶は定かではない。
 イマイチと評判の脚本をおもしろいと感じたこともあったし、名作とうたわれながらも胸の悪さを覚える話もあった。
 あの歌の舞台はどう評価していただろうか。
「ディエゴさんの歌、素敵でした」
 少なくとも、主演エクレールとの今日の舞台は成功だったようだ。
 ならば終わりよければの拍手で幕を閉じよう……
 突如鳴り響く、ハロルドの両手。
「だから歌ってください」
「うん?」
「ディエゴさんが突然歌いだしてしまったので、私は途中からしかダンスができませんでした。今度は通しでいきましょう」
 どうやらハロルドは第二部をおっぱじめたいらしい。ご丁寧にダンスシューズまで用意してきた。
「それより、洗濯しないと、臭いがついてしまうぞ」
 だがすっかり母さんモードになっていたディエゴは提案を下げると、ちゃっちゃとハロルドを風呂場に追いやった。
 衣類の汚れ、においは時間との勝負なのだ。
 納得いかずに文句をいうハロルドを背中で聞き流して、ディエゴは洗濯機の電源をいれる。
 雨ではない水がぐるぐると回って、今日のスターたちの衣装を泡で包んだ。


※※※


 つないだ手が解けた。
 小鳥がかけた効果も消えた。

 クラウスはハッとした顔で辺りを見回した。
 胸から陽気な快さが消えている。
「去った……」
「クラウス?」
 きょとん、とした顔でシルキアが様子をうかがっている。
 無垢な瞳が鏡となって、クラウスの姿を映す。
 クラウスはつい先ほどまでの行動を思い返した。
(どうかしていた……)
 考えるだけで羞恥、羞恥、羞恥ばかりの後悔だ。
(こんな浮ついた精神状態で、大事が起こらず良かったものの)
 “大事”の具体例はとても口にできそうもない。
 自分は神人を守るべき立場だと言うのに。
 みるみる内に顔を赤く染めていくクラウスを、シルキアは不思議そうに見つめている。
(いつもの落ち着きが戻ってる? 顔が赤い様な……)
 今朝のクラウスで、いつもの真面目なクラウスだ。
 今度は彼の身に何が起こったのだろう。
「大丈夫? 体おかしかったら病院行く?」
「いや、必要ない」
 シルキアの気遣いに、クラウスは急いで自己の不調を否定する。
 それからできるだけ落ち着きを装いながら、いつもの静かな口調で詫びをいれた。
「すまない、もういつもの俺だ。迷惑を掛けた……その、今日の事は忘れてほしい」
 あってはならぬ失態を晒してしまった。今日のことは犬に噛まれたと思って、水に流してはくれまいか。
「忘れるのはムリ、だってすっごく楽しかったから!」
 だが間髪いれずにシルキアは申し出を断った。虚を突かれ声を失ったクラウスに、シルキアは慌てて理由をつけ加える。
「迷惑なんてなかったよ。できたらクラウスとまたこんな休日すごしたいなって……」
 本音を言えば、いつか自然にあんな表情見せてくれる関係になりたい。
(言わないけどね)
 言ったらきっとクラウスはそう振る舞う。そしてそれは決して自然とはいえない。
「……そうか、楽しかったか」
 クラウスは静かに笑った。とても自然に。
「ならば余韻を楽しむのも良いか」
 大きな手が、小さな手をとった。
「え?」
「嫌か?」
「い、嫌じゃない! 嫌じゃないよ!」
 小さな手が握り返す。
「……嬉しい」
 シルキアははにかんだ笑顔を見せた。
 指と指はしっかり絡んでいる。心と心が近づいていく足音を感じる。この絆は本物だ。
「帰ろう」
「うん」
 夕闇の街を二人は歩く。
 藍色が混ざり始めた空に、気の早い一番星が瞬いていた。
 



依頼結果:成功
MVP
名前:スティレッタ・オンブラ
呼び名:スティレッタ、お前
  名前:バルダー・アーテル
呼び名:バルダー、貴方

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紫水那都
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月20日
出発日 10月25日 00:00
予定納品日 11月04日

参加者

会議室

  • [4]ハロルド

    2015/10/24-00:06 

    あー、ごめんなさい
    よろしくお願いします、が抜けてました(ぺこり)

  • [3]ハロルド

    2015/10/24-00:06 

    ハロルドとディエゴ・ルナ・クィンテロです
    彼がご機嫌なら私もご機嫌になってみます。

  • こちらこそ初めまして。スティレッタよ。
    ……そうね。こっちもちょっと連れが陽気すぎて調子狂ってる。何なのかしらね?
    まあいいわ。プランも送信したし。
    お互いこのいい日よりを楽しみましょ?

  • [1]シルキア・スー

    2015/10/23-09:04 

    はじめまして
    シルキア・スーって言います
    となりで満面の笑み浮かべているのはパートナーのクラウス

    ‥いつもは落着いていて穏やかに笑んでる人なんだけど‥
    ど どうしちゃったの!?

    これだけ機嫌がいいなら
    普段言えないおねだりしちゃってもいいかな‥

    うわー恥ずかしくなってきた


    プランはよし! 提出


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