【悪戯】動物レースと空飛ぶ邪魔者(如月修羅 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 ジャック・オー・パークの一角に、動物を象った乗り物でやるレースがある。
 小さい子供が乗って小さな広場を一周する姿をみたことがあるかもしれない。
 それの巨大バージョン……そんな場所を、Dスケール・オーガが占領してしまったのだ。
「ふふん♪ 私と勝負しなさい!」
 それは女性の声だった。
 ずびしと指名されたウィンクルム達が、どういうものかと問いかければ、既に数人、子供達を食べてしまったオーガは楽しげに笑う。
「この動物の乗り物で、ここを一周するの。妨害や障害物があるから頑張って私に勝つことね!」
 曰く、誰か一人でもゴールまでに残ればウィンクルム側の勝利ということらしい。
 だがしかし、条件は当たり前だが厳しい。
「ちょっとでもその乗物から足が地面についたら失格よ。
失格者はそのままその場所から動くことは出来ないわ。
全員が地面に足をついたらそこで終了、貴方達にはあの巨大パンダに踏まれてもらうわよ!」
 そういって指差された向こうには、三メートルはあるパンダがずずんと立っていた。
 勿論、踏まれるだけではない。
 最後はみんな、あのハーピーの被ったカボチャ頭に食べられてしまう……というわけだ。
「質問なんだが、俺達が攻撃するのはありなのか?」
「勿論よ、そういうゲームだからね。私が足を地面につけてしまったら私の負けよ」
 だがしかし、不安定な中攻撃をしかけるのも大変かもしれない……。
 攻撃をしかけるタイミングを計らないと、無駄撃ちな挙句に即終了になってしまいそうだ。
 敵はハーピー、ぱたぱた飛べてしまうために、そこも考えないといけないだろう。
 地面に引きずり落とすのか、それとも誰か一人だけでもゴールに行かせるのか。
 考えることは沢山ありそうだ……。
 それぞれが好みの動物に乗り込む。
 スタートと書かれた門からぐるっと視線をやれば、がたがたした地面エリアや坂道の向こうがないもの……ようはジャンプ台のようなものも見える。
 あと何もない空間もあるようだが、そこは妨害しあうエリアだということだろうか。
 なんだか黄色い物が点々と落ちているようにも見える。
 ゴールはどうやらこのスタートの裏側……ぐるりと一周回ってここに戻ってこれた者が勝者だということだ。
 10人のウィンクルム対ハーピー。
 一体勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか……。

解説

●敵
 ハーピーが一体。
 ぱたぱた飛べてしまいます。

●乗り物
 お好きな動物を指定してください。
 全部性能に違いはないです。

●障害物
・ガタガタ地面(かなりのガタガタで、不安定です。足がついちゃいそう)
・坂道ジャンプ(坂道を上った先からぴょーんと落ちます。しっかり捕まってないと落ちそうだ)
・突如、空から小さな南瓜やタライが降り注ぎます(痛くて手を離しちゃいそう)
・滑るバナナ(凄く滑ります/バナナは回避可能です)

●妨害/攻撃
・チョコレートケーキ投げ飛ばし(視界が10秒間真っ黒になります)
・巨大チョコレートケーキで押し潰し!(1体を巨大ケーキで押しつぶします) 

●ヒント
 地面に足が付かなければ、失格にはなりません。
 ただし、持ち込めるのはコンビニで買える程度のもので、そこまで沢山の持ち物を持ち込めるわけではありません。 

●仮装について
 ウィンクルム達は仮装することで特殊効果を利用することが出来ます。
 神人と精霊、どちらも仮装することは出来ますが、どちらかの能力を一度しか使えませんのでご注意ください。

ゲームマスターより

ハロウィンですね、皆様、よろしくお願い致します!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  *共にJOランタンの仮装

俺達はランスが薦める狼に跨る
俺は、脱落防止に乗物の首にコンビニで買ったビニール紐を二度三つ編みして太く編んだ物を手綱に結ぶ
せめてこれ位はな

ランスと並んで声をかけ合い進むよ
攻撃は出来たら避ける
避けれない時は防御(コンビニ透明傘を片手で開いて盾に
大ケーキは2人で左右に分かれて回避

凸凹道は姿勢に注意し足を付かない
高低差も落着いて飛ぶ
パナナ踏まないよう確実なコース取り(踏んだら慣性に逆らわず転ばないよう滑り、停止後リスタート
タライが当たっても手綱をギューっ

他の仲間への攻撃を傘の盾で防げるなら手助け
倒れそうになった仲間は乗物を密接させ支えるよ

誰か一人がゴールすればいい
助け合うんだ



カイン・モーントズィッヒェル(橘 雅臣)
  仮装
ドラキュラ

乗物

※白の長毛、青と金のオッドアイ
「久しく会えていないいい女を思い出してな」
※櫻GMのにゃんこのたまりば。にいるハルル嬢

所持品
タオル
※予備忘れてたので買ってた

ハーピーがデミ・ハーピーなのか確認

先行する雅臣の後ろを進む
進行ルートを確認、雅臣にも注意を促す
足元の障害物関係は回避可能なものは回避する
頭上攻撃は一度停止、当たった際の異常を確認、痛いだけなら無視して早期突破でダメージ減、他に何かあれば回復まで待つ
巨大ケーキ…食わず、内部で作業的にスポンジ押し退け脱出狙う

雅臣の策は便乗
「俺の嫁は死んだ昔の嫁も最近迎えた今の嫁(イェル)も永遠に可愛いから、こいつの個性だろ」
※真顔でツッコミ



咲祈(サフィニア)
  動物:鹿
仮装:ジャックオーランタン
可愛い動物の上を乗るのはなんだか気が進まないんだが

…にしても乗る動物の選択肢には猫はなかったのかい?
ああ、問題ない
…必ず勝とう

随分と大きな熊? ぱんだ? だね。…負けたらあれに……
動物は嫌いじゃあないが踏まれたくは…ないな

にしても障害物とはなかなか興味深い……どういう原理だい

・回避できなさそうな場合は他ウィンクルムが先にいけるよう相手を妨害(仮装の特殊効果使用)
・バナナは回避できそうな状態なら回避
基本的に妨害は神人が担当



●レース開始!
 本来ならば楽しい時間を過ごすはずのジャック・オー・パーク。
 まさかこんなことになるなんて誰も想像していなかっただろう。
(デミ・オーガ化してるか……)
 油断なく視線を投げるのは、ドラキュラの仮装に身を包んだカイン・モーントズィッヒェル。
 そんな彼の視線を物ともせず、ハーピーがさぁどれにするの? と楽しげにウィンクルム達を見つめる。
 ハーピーに示された乗り物は、沢山あった。
「久しく会えていないいい女を思い出してな」
 白の長毛、青と金のオッドアイの猫、それはいつか見た「いい女」を彷彿とさせた。
 ハーピーがほんの一瞬だけ首を傾げた姿が見えたが、そんな彼女にカインは明確な答えを返さない。
 「いい女」もとい、彼の思う猫に会えるのは次はいつだろうか。
「じゃぁ僕はこれだな」
 橘 雅臣はそう言って見つめた先には、ドールと言われるイヌ科の生き物、別名アカオオカミが居た。
 尾の先端は黒くなっており、細部まで凝ったつくりになっている。
 乗り込む前に、持っていた食料や飲み物をバッグへ移動し、ビニール袋で靴を覆うようにしてみる。
(意味はなさそうだけど)
 摩擦により滑り止めになるような気もするが、逆に滑りやすくなるかもしれないし、それこそ本当に意味はないかもしれない。
 そんな雅臣と同じように手を加えようとビニール紐を手に持つのはアキ・セイジだ。
 ヴェルトール・ランスに勧められた狼の前に立ち脱落防止に乗物の首に、二度三つ編みして太く編んだビニール紐を手綱のようにして結んでおく。
「一度の三つ編みじゃ細いから二回編んだのか、なるほどな!」
 アキのその工夫に感嘆の吐息を零すヴェルトールは、同じく狼の乗り物の前だ。 
 性能に違いがないというのならば、狼以外にあり得ない。なぜならば、自分が狼のテイルスだからだ。
 ジャックオーランタンの仮装から見える耳と尻尾が、まさに狼だと主張している。
 同じくジャックオーランタンの仮装に身を包んだアキが瞳を和ませたように見えた。
 その頃、同じくジャックオーランタンの仮装に身を包んで乗り物を選んでいたのは咲祈とサフィニアだった。
「可愛らしい動物の上に乗るのはあんまり気が進まないんだが……」
 咲祈が言うのに、サフィニアが分からないでもないけれどと頷く。
 鹿にしようか、と指差すのに視線をやり、そしてサフィニアにと視線を戻す。
「……にしても乗る動物の選択肢には猫はなかったのかい?」
「ね、猫……? いや、選択肢どうこう言う前に、いるわけないからね?」
 自分の相棒を見つめ、案じるように声を掛ける。
「さっきから発言が迷走してるよ咲祈。大丈夫?」
「ああ、問題ない……必ず勝とう」
 そういう咲祈の視線の先は、今度は巨大な『何か』に。
 ずずんっと音を立てそうなそれは、妙な威圧感を醸し出していた。
 皆が選んだのをみたハーピーが我慢できないとばかりに声を上げる。
「さぁ、やりましょう? 楽しい楽しい、競争を!」
 ハーピーの楽しげな声が響き渡る中、皆が一列に並んだその脇には、巨大なパンダが威圧的に立っていた。
「随分と大きな熊? ぱんだ? だね」
(……負けたらあれに……)
 咲祈の視線が巨大パンダに注がれる。
(動物は嫌いじゃあないが踏まれたくは……ないな)
 そんな彼の心を読んだかのように。
「……あんな大きなパンダに踏まれたらひとたまりもない」
 サフィニアが言えば、皆が頷いた。
 あんな巨大なモノに踏まれた上にたべられるとか、それは途方もない恐怖だ。
「油断せずにいくよ」
 咲祈が小さく頷いた。
「さぁ、いいわね?」
 ハーピーはパンダの乗り物に跨りながら皆を見渡す。
 流石にレースが始まっていない今の段階では手を出さないということだろうか。
「大丈夫だ」
 油断なくコースを、そしてハーピーを見詰めたカインが答えを返せば、他の皆も頷いた。
「じゃぁ、スタート!」
 皆が動物の乗り物に跨り、スタート! という合図と共に走りだす。
 どこか牧羊的にも見えるその光景だが、皆の表情は真剣そのものだ。
 勝利の女神は誰に微笑むのか。
 それは、まだ誰にも分からない……。


●ガタガタ道にて
 それは本当に悪路だった。
 ガタガタと揺れる地面、体がその動きに合わせてガタンガタンと飛び跳ねる。
 そんな中、誰よりも早くハーピーに追いつこうとするかのように飛び出したのは雅臣だった。
「へぇ、さっすがー! 何回もやってるから余裕ってわけ?」
 先行くハーピーにそう声を掛けるが、今はまだ雅臣の言葉通りハーピーも余裕なのだろう。
 ゆっくりと行けばいったで途中で止まってしまって動けなくなりそうなため、絶妙な速度で駆け抜けていく。
 同じように出来たらいいのだろうか、そこは初めてだ。
 なかなか簡単には行かない。
 調子に乗ったふりをしつつ声をかけ、ハーピーの出方を探るが、なかなか隙は見せてこない。
 そんな彼の後ろを走るカインは、冷静に状況を見極めようとしていた。
(少し溝が緩やかなとこがあるみたいだな……)
 自らも走らせつつ見れば、どうもすべてが同じ溝だということでもないらしい。
 ガタガタと揺れる大地にバランスを崩したのは雅臣だった。
 先行を走る彼がバランスを崩したのを見て、カインの瞳が険しくなる。
「もう少し右側だ」
 そちらの方が、少々溝が緩やかに見える。
 その言葉に雅臣が従っていく様子を見て、ハーピーが酷く楽しそうに笑ったのが気配で分かった。
「へぇ、少しは「考える頭」があるのねぇ?」
 馬鹿にしきったその口調は、自分が有利に立っていると信じて疑わない自信に満ちたものだ。
 そんな彼女の様子が変わったのは、いつの間にか近くにと来ていたヴェルトールの姿を確認してからだった。
 足を曲げ、胴体の横につけるという競艇のレーサーのような格好だ。
 被弾面積と風の抵抗を出来るだけ減らそうと言うその試みは、しっかりと機体に体をひっつけることでこの悪路にも他の面々とは違い、比較的耐えられたようだ。
(ランスなら大丈夫だな……)
 アキはほっと息を付き、辺りを見渡せば、サフィニアと咲祈の姿が見える。
 2人とも皆より遅れ気味ではあるものの、しっかりとついてきていた。
「咲祈、気を付けてちょっと先溝が深いよ」
「わかった……にしても障害物とはなかなか興味深い……どういう原理だい」
 それを説明出来そうなハーピーは、ヴェルトールや雅臣に向けて巨大ケーキを召喚しまくっていた。
 パタパタと絶妙に浮いているようで、ハーピーにはこの道も特に弊害はないのだろう。
「……っ!」
 幾ら注意していても、やはり体が揺れればその分、足もつきそうになる。
 此方は空を飛べないし、条件的に不利な状況にある。
 されど、チームワークという強い切り札があるのだ。
「大丈夫?」
 アキがサフィニアの元へ寄せて行く。
「ありがとう」
 地面に足さえ着かなければいい。
 着きそうになった側に寄せてやれば、態勢を整えることも容易かった。
「……!! なによなによなによー!!」
 それはハーピーにとって予想外だったようだ。
 彼女にはチームワークという言葉などきっとないのだろう。
「なるほど、これなら勝てるかもしれないな」
 先を見つめるカインの言葉に、妨害しようと一歩先に行く雅臣が頷いた。


●ジャンプ台と妨害と
 次にあったのはジャンプ台だった。
「僕としりとりしない? お互い妨害になるでしょ」
 ここでハーピーによる攻撃まで加わったら、かなり辛いだろう。
「そうね……まぁいいわ、少しの間やってあげる!」
 少しの間、というのがどれくらいなのか分からないものの、乗ってきたのに雅臣がにやりと笑う。
 気が変わってしまったら大変だとすぐにしりとりを始める。
「じゃぁ僕からね、杏!」
 ず、ずね……と考え始めるハーピー。
 これならば長考を誘えそうだと雅臣は思う。
 最後が同じ語尾になるように徹底して先に負けさせてしまうか、暫し悩むのだった。
「……上手いこと長考誘われてるね」
 アキが感嘆しつつそう言えば、ヴェルトールも先程とは違い少々ゆっくり目に進みつつ頷く。 
 ここで振り落とされてしまってはゴールどころではないからだ。
 同じようにしっかりと握りしめジャンプを終えたサフィニアが、心配そうに咲祈をみた。
「結構面白いね」
「…………なら、良かった」
 咲祈は大丈夫そうだとほっと息をついた所で、ハーピーの悔しげな声が響き渡る。
「大したことないね、お ば さ ん!」 
「あぁぁぁもう! ガキの癖に生意気よ!」
 どうやら雅臣が勝ったようだ。
 激怒したハーピーが雅臣をきつく睨みつける。
 雅臣のお陰で、ハーピーによる妨害が来ず、ジャンプ台に集中できたウィンクルム達は、そろそろジャンプ台エリアが終わるのが目に入ってほっと息をつく。
 あともう少しで最後…というジャンプから着地をしたその時、空から突然降ってきたのは南瓜だった。
「いたたっ」
 咲祈が悲鳴を上げ手を離しそうになる、そんな彼を助け上げたのはサフィニアだ。
「……っ、ごめん」
「大丈夫、それより……」
 さっと体が支えられ、落ちることはなかったものの……。
「なんなの? どうして助けるの? 意味がわかんないわ!」
 サフィニアが地面に足が着いてしまったのと同時に、ぐるぐると簀巻きにされてしまう。
「咲祈、頼んだよ」
「わかった」
 されど、彼のお蔭でその先に進むことが出来た咲祈は小さくお礼を言うとハンドルを持つ手に力が籠る。
「もー意味わかんない!」
 それでも楽しげなハーピーを見つめつつ、次のジャンプ台に備える。
 ここで彼の犠牲を無駄にするわけにはいかない。
「それにしても……」
 ヴェルトールが他のウィンクルムを心配しつつも、きちんと黄色のバナナを避けながら呟く。 
「黄色だから目立つよな」
 皆も同じようにバナナだけは華麗に避けて行く……。
「でも半分は来てるな」
 アキの言葉に、頷く。
 だからこそ、これからが勝負だ……! 

 ジャンプ台を抜ければ、妨害エリアだった。
 雅臣にしてやられ、そしてサフィニアの行動が理解できず、ハーピーはとてもいらいらしていた。
「もうもうもう、あんたたち、いい加減おちろー!」
 なり振りかわまず巨大なケーキも視界を覆うチョコケーキも飛ばしてくる。
 もちろん、此方だってただやられているわけではない。
「ほら、受け取れ!」
 ヴェルトールがタライを落とせば、クリティカルヒットしたハーピーが悶える。
 雅臣がそんなハーピーに攻撃を仕掛ければ、余計に怒りを増幅させたようで、ぶんっと振った手からチョコレートケーキが飛来した。
「……っ!」
 カインの目の前に黒いチョコレートが掛った。
 冷静に対処しようとするが、そこには黄色いバナナが落ちている。
「危ない!!」
 アキが身を呈して支えたお陰で、カインが態勢を直す。
「……っ!」
 コンビニ傘のお陰でケーキを阻止することが出来ていたアキだからこそ出来た手助けだ。
 助けた際に足をついてしまい、ここで脱落となったものの、これで、また1人、仲間を前に進めさせることが出来る。
「なんでよなんでよ、自分を犠牲にするとかバカじゃないの!」
 アキにはそれが、少し可哀想にも思えた。
 彼女は信頼することを知らないのだろうか。 
「セイジ!」
「あとは任せたよ、ランス!」
 2人のやりとりに、もう許せないとばかりにハーピーがうるさぁぁいと雄たけびをあげた。
 この怒りようならば、ハーピーを引きずり落とせるかもしれない。
「おばさん、怒るとしわが増えるよ?」
 敢えての挑発に、ハーピーがとうとう雅臣の近くまで降下してくる。
「くそがきー!」
「ガキ? 僕若いから。若作りの必要なし、可愛い」
「はぁ?! 何言ってるのよ、かわいいとか……」
 その言葉に被せるように、カインが唇を開く。
 雅臣の作戦には便乗していくスタイルだ。
「俺の嫁は死んだ昔の嫁も最近迎えた今の嫁も永遠に可愛いから、こいつの個性だろ」
 真顔での突っ込みに、ハーピーが無言になった。
 それは呆れなのか、それとも当てられたのか、ハーピーのみぞ知るである。
 だがしかし、そんな隙を逃すはずもない。
 ゴインと音を立て発動されたタライが頭を直撃する。
「い、いったぁぁ」
 いまだ!
 雅臣がそのまま飛びかかれば、ハーピーがはっとしたように後ろへと飛びずさる。
 だがしかし、伸ばされた雅臣の指先がぐっとハーピーの腕を捉え、引き寄せようと力を込めた。
「落ちるもの、ですかぁ!」
 ぐいっと上に引っ張られるのと、重力に逆らえきれず足をつくのはほぼ同時。
「……っだめ、か!」
 引きずり落とす前に地面に足がつくのは、想定していた。
 それでも飛びついたのは、ぐるぐる巻きにされるまでの少しの間、ハーピーの動きを自らの手でよって阻害するためだ。
 阻害される時間は、とても僅かなものかもしれない。
 されど、それは残されたカイン、ヴェルトール、そして咲祈の3人にとって、有意義な時間である。
 ゴールもあと、もう少しだ……!


●勝利の女神が微笑んだのは
 すぐに復帰したハーピーは既に乗り物など使っていなかった。
「それってずるくないか……」
 カインの突っ込みにも答えを返さない。
 確かに地面に足はついていないけれど、とカインは思いつつ、彼女が既に余裕がないということを理解していた。
「妨害してやりたいところだけど」
 そういうヴェルトールは、既にタライを使ってしまっている。
「じゃぁ、任せて」
 目の前を走るのは、ヴェルトール、カイン、そして自分の順、と、なれば……。
 咲祈のパチンと指パッチンで鳴らされた音とともに、タライがハーピーの頭に当たってぐわんぐわんと頭を揺らす。
 一体、今日何度目のタライなのか。
「あんたねぇぇぇ!!」
 漸く動けるようになったハーピーが一気に距離を詰めてくる。
「咲祈……!」
 身を案じるサフィニアが身動き出来ないながらも声を張り上げる。
 それが聴こえたのだろうか、咲祈がはっと振り向いた先では手を伸ばすハーピーの姿。
 自分をこんな目に合わせた咲祈の肩を掴み、引きずり落とそうとした所で、手をつかんだのはヴェルトールだった。
「足さえつかなければいいんだよな?」
「え……」
 ハーピーが驚いた声をだす。
 ぐいっと自分の狼の乗り物にのせて、にっと笑う。
「よし、いっけー!」
 速度が落ちる前に駆け抜ける……。
 そう判断したヴェルトールが駆け抜けて行くのに、カインもラストスパートを掛ければ、ハーピーが慌てたように動きはじめる。
 されど、彼女の動きはとても鈍い。
 体力的なものもあるだろうけれど、何よりもウィンクルム達の行動が理解出来なかったのだ。
 追いつめられれば、きっと今までの人間と同じだと思っていたのに。
 だがしかし、そんな彼女を追いつめる声が聴こえてくる。
 それは仲間を、大事な人を案じるアキや雅臣、サフィニアの声だった。
「セイジ、頑張って!」
「カインさん、あとちょっと……!」
「みんな、頑張って!」
 簀巻きにされた皆の応援の声が響く。
 理解できない生き物の前で、平常心等保って居られない、そんなハーピーの前では、応援を受けた3人が俄然に迫ったゴールに速度を落とさない。
 ゴールと書かれた門が、もう、目の前。
 先に入ったのは、一体どちらだったのか。
「これで……」
「ゴールだ!」
 カインとヴェルトールの声が、ゴールを潜るのと同時に揃う。
 その時、ハーピーはあともう少し、という位置だった。
「嘘……うそよ」
 ゴールしたのはヴェルトールとカイン、そして咲祈だ。
 ハーピーとの距離を考えれば、ごねようもない、完全なる勝利。
 だからこそ咲祈はじっとハーピーを見据え、その「負け」を宣言する。
「君の、負けさ」
 咲祈の事実のその言葉に、ただただ呆然と見つめるハーピーは、既に満身創痍であった。
 漸く理解できたのか、南瓜頭がゆらゆらと怒りと困惑に震えはじめる。
 今回、ウィンクルムが勝ったのは、皆がそれぞれに対策を練っただけではない。
 なによりの功績は、お互いがお互いを助けあったことにあっただろう。
 そして、ハーピーが負けたのは。
「嘘よ、こんなのうそよぉぉ!!!!!」
 ハーピーの悲痛な声が、響き渡たる。
 彼女は最後まで理解が出来なかった。
 お互いを信頼し助け合うこと。
 その絆の前に、彼女は完全に敗北したのだった。

 ぐるぐる巻きにされていたアキと咲祈とサフィニアを助け出した後、倒されたカボチャ頭のハーピーから、子供達は無事救出された。
 楽しい笑い声がジャック・オー・パークを満たすのは、時間の問題だろうか。
 皆で集まり、健闘を讃えあう。
 ここに居る誰か1人でもかけたら今日の勝利はきっとなかっただろうから。
 特に、お互いに助け合った神人と精霊同志ではその気持ちは強いようだ。
「お疲れ様、ランス」
「セイジ、大丈夫だったか?」
 大丈夫だと微笑む姿にほっと息を吐くヴェルトールの脇から、カインが顔をだした。
「さっきはありがとうな」
「いや、良かったよ」
 カインに声を掛けられアキが口元を緩めるのに、雅臣が話は終わったかな? と問いかける。
「ん? どうした?」
「カインさん、怪我はない?」
 雅臣が問いかければ大丈夫だとの答えが返る。
「それにしても、引きずり落とそうしてくれて助かった」
 あれがなかったら、最後のラストスパートは違ったかもしれないというカインににっと雅臣が笑みを零す。
 そんな彼らと同じように相方を心配するのは咲祈だ。
「サフィニア、大丈夫?」
「大丈夫、お疲れ様」
 どこかほっとしたような咲祈に、ほらほらと背中を押す。
「ほら、咲祈、お礼言わないと」
 まるでお母さんのようなサフィニアに言われ、咲祈がヴェルトールに先程のお礼を言えば、にっとヴェルトールが笑った。
「よし、どうせだから……」
 ん? なに? とアキが答えを返す。
 それの答えは……。
「俺達の勝利だ!」
 ぱぁんっと高く響く、皆のハイタッチの楽しげな音色だ。

 こうして、皆の絆により、ジャック・オー・パークは守られたのだった……。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 10月19日
出発日 10月25日 00:00
予定納品日 11月04日

参加者

会議室

  • [7]アキ・セイジ

    2015/10/24-22:25 

    相棒が「性能に差が無いんなら好きなのでいいよな?狼にしようぜー」って言うので俺達は狼。
    レースは真剣にやるよ。ハーピーを仮装の効果で妨害する予定だし。
    誰か一人がゴールに先に入れたらいいと思っているので、皆へのカバーも書いてみた。

    プランは提出できているよ。上手くいくと良いな。

  • [6]咲祈

    2015/10/24-21:16 

    咲祈とサフィニア、だ。
    ……動物、乗らないといけないのかい(なんとも言えない微妙な表情
    …頑張ろう。よろしくね。

  • っと、プランは出した。
    一応、こちらは雅臣がハーピーへの妨害を行ってる。
    上手くいけばいいが。

    そんじゃ、まぁ……

  • カインだ。
    今回のパートナーは橘 雅臣。
    取り急ぎ挨拶だけしとく。

  • [1]アキ・セイジ

    2015/10/22-00:16 


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