プロローグ
穏やかな陽気に包まれて、人々が静かに過ごす癒し空間。
「はい、貸出ですね。お預かり致します」
「返却ですね、ありがとうございました」
情報の宝物庫、それが図書館である。
豊富な蔵書数に加え、視聴覚スペースや喫茶スペースなども充実したこのタブロス市内の図書館は、利用者に人気のスポットである。
視聴覚スペースでは二人まで同時に映画や音楽を楽しむことができ、カップルの利用者がよく見られる。
イヤホンをつけて恋愛映画を見ていると、非常にムードが出るとか。
喫茶スペースでは、借りた本を読みながらお茶を楽しむことができる。
学習スペースとは離れているので、視聴覚スペースでも喫茶スペースでも気兼ねなく過ごす利用者が多い。
普段は様々な年代の利用者がひしめくあうこの図書館だが、イベントが重なり比較的人が少ない時期がある。
なお、その時期には他のイベントより集客力をあげようと、図書館の司書たちは毎年「恋愛」をテーマに展示をおこなう。
図書の恋愛小説スペース、恋愛心理学スペースが特別設置中だ。
また、視聴覚スペースでも恋愛映画や恋愛にまつわる音楽を紹介するようだ。
人がすいているときに、ゆっくりと二人で図書館で過ごしてみるのはどうだろうか。
「はい、行きます」
恋愛がテーマということで、A.R.O.A.職員のもとに図書館のことをアピールしにきた司書。
対応してくれた若い女性の職員は、即答だった。
「え、いえあの。ウィンクルムの方にそう伝えていただければと」
「あ。ああ、はい! そうですよね、はい……」
職員がそんな反応を見せるとは思わず、ついそう言ってしまった司書だったが、すぐに笑顔になる。
「どなたにでもご利用いただけますので、ぜひいらっしゃってください。お名前を登録いただければ、貸出もできますので」
「ありがとうございます! 行きます!」
A.R.O.A.職員はすぐに自分のスケジュールを確認して、にやにやとし始めた。
解説
ということで、タブロス市内の図書館の案内です。
●蔵書のコーナー
哲学コーナー(恋愛心理学は移動されています)
小説コーナー(恋愛小説は移動されています)
旅行コーナー
雑誌コーナー
絵本コーナー
スポーツコーナー
料理・お菓子コーナー
医学コーナー
植物・生物コーナー
動物コーナー
芸術コーナー
特別展示として
恋愛小説コーナー
恋愛心理学コーナー
なお、ウィンクルムやオーガ等についての文献はまだ不明点ばかりということで、この図書館には資料がありません。
ご了承ください。
●視聴覚スペース
館内で一日に見られる映画は1点まで、視聴できる音楽は2点まで。
貸出は映画3点、音楽4点まで。
返却期限は1週間です。
二人一組の半個室スペースで、イヤホンを着用した状態でお楽しみいただけます。
恋愛展示では、恋愛映画と恋愛にかんする音楽が解説付きで紹介されています。
●喫茶スペース
貸出処理が終わった本を、お茶しながら楽しめます。
飲み物はすべて100ジェール
コーヒー(アイス・ホット)
紅茶(アイス・ホット/アッサム・ダージリン・セイロン)
オレンジジュース
りんごジュース
食べ物はすべて70ジェール
クッキー(プレーン・ココア)
ケーキ(ショートケーキ・チョコレートケーキ・チーズケーキ)
なお、小さなお子様だけの飲食しながらの読書は禁止事項です。ご協力ください。
大きなお子様が本に危害を与えてしまいそうなときも、残念ながら飲食禁止とさせていただきます。
注意する司書があらわれますので、ご協力ください。
●貸出について
名前などの個人情報を提示した上で、利用者登録が可能です。
利用者登録が済めば、自由に貸出ができます。
図書は10冊まで同時貸出ができます。
期限は2週間です。
館内だけでの利用ですと、利用者登録は必要ありません。
視聴覚スペースで映画や音楽を楽しむだけ。
館内で本を読むだけ。
といった方は、登録せずともお楽しみいただけます。
ゲームマスターより
こんにちは。
ゲームマスターのタカトーです。
今回は私の好きなスポット、図書館を舞台にさせていただきました。
あたたかな春の一日。
図書館デートを楽しんでいただければ嬉しいです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
葵(レント)
最近覚醒したばかりで色々分からないことも多いので、 精霊に関する資料なんかを狙って探してみます。 地域の伝承がオーガに繋がっていたこともあったので、 小説のコーナーで怪物退治の英雄譚のような物を探しまわってみたり 一通り探して、積み上げて、腰を据えてじっくりと読みふけります レント君はあんまり本に興味はなさそうな感じですけど、 退屈じゃなさそうなら 「一緒に読みます? もっとこっちおいで?」 と近くで座って一緒に読みます 喫茶スペースでは二人分の紅茶とクッキーを 本は読まずに一緒に食べながら、 本にかかりっきりだったことを謝ります 「ごめんね? せっかくお休みに付き合ってくれたのに、ずっと本ばっかり読んでて…」 |
エリザベータ(ヴィルヘルム)
心情: 恋愛映画か…興味あるかも。 目的: 視聴覚ブースで恋愛映画を見るぜ 行動: 今日はあたしの好きな奴にすっぞ 強面の領主の所に心優しい令嬢が嫁ぐ奴で 最初はすれ違いが多いけどお互いを理解して結ばれる話なんだぜ 「今日はこれでいいか?あたしの好きな奴だけど…」 イヤホン…片方ずつ付けて観ねぇとだよなぁ …み、密着して落ち着かねぇ…コイツいい匂いするし…! 「あ、あんまこっち見るなよ…」 …良いなぁ、恋愛。 あたしも好きな人と恋愛してみたい…って、なんでウィルを見てんだろ …まつ毛長いし、意外と色男だな 嫌じゃねぇぞ、てめぇの事は… たまに他の女と話してるの見ると無性に悲しいけど… …なんだろ、この切ない感じ…モヤモヤするな |
エルザ(ジョシュア)
本っていいですよね 心が豊かになる気がします 折角なので恋愛小説を読んでみます て、テーマだからです 普段は他のものも読んでますから そういうジョシュアさんは何を読むんですか? えっ、いいんですよわざわざ同じ本持ってこなくても… まあ喫茶スペースに行きましょうか 私はりんごジュースで そういう小説を読むわけですし甘いものな気分です ジョシュアさんすごく真剣に読んでますね 眉間に皺が寄ってます 黙っていれば格好いいんですけどね。黙ってれば いえ、何も言ってません うん、中々面白かったです やっぱりハッピーエンドが一番ですね 同じ本を読んでも全然違う感想が出るものですね 今度来た時はジョシュアさんが読みたい本も教えて下さいね |
ひろの(ルシエロ=ザガン)
精霊? この前会ったばっかりだから、悪いかなって思うんだけど警戒してる。 今日はA.R.O.A.職員の人に丁度いいからって、送り出された。 人付き合いは苦手だからちょっと嫌なんだけどね。 本は好きだし、一通り見て回るつもり。 少しはさ、仲良くなるべきだって解ってはいるんだけど。 …とりあえず、改めて今後の挨拶はするべきかな? ・各コーナーをぐるりと回って折り紙と、花言葉の本に目を通す。 ・途中、なんとなく鳥の図鑑を確認して、この時期にいる鳥を調べ始める。 ・集中しすぎてハッとなり、精霊がどこにいるか確認する一幕も。 ・相手の精霊がディアボロの為、角と尻尾が気になってチラ見が多い。 |
●それは、関心
館内案内図のついたパンフレットを隅から隅まで眺めながら、『ジョシュア』と『エルザ』は本棚の間を歩いていた。
「ウィンクルムやオーガ関連の本は……ないのか。で、エルザ。どうするんだ」
ジョシュアの問いに、エルザは展示コーナーに目をやりながら答えた。
「折角なので恋愛小説を読んでみます」
「恋愛小説……」
ジョシュアが繰り返すので、なんだか恥ずかしくなってくるエルザ。
「テ、テーマだからです。普段は他のものも読んでますから……」
「? そうか」
ジョシュアの言葉に、他意はなかったようだ。
それを確認したエルザは、すっと装丁の美しい本を一冊手にとる。
「ジョシュアさんは、何を読むんですか?」
次はジョシュアが本を選ぶまで付き合おうと彼を見上げるが、ジョシュアもまた、エルザと同じ本を手にしていた。
最近人気の出た恋愛小説らしく、この図書館では2冊同じものが並べられていたのだ。
「えっ、いいんですよ? わざわざ同じ本持ってこなくても……」
何か気を遣わせてしまっただろうか。
エルザはそうジョシュアに告げるが、彼はしっかりとその本をつかんでいる。
変更はないらしい。
「……まあ、喫茶スペースにいきましょうか」
エルザは、本棚から離れたスペースを指差して歩み始めた。
●それは、会話
喫茶スペースにつくと、ちょうど窓際の席が空いているのがわかった。
エルザは一旦そこのテーブルに本を置き、ジョシュアを見る。
「ジョシュアさん。私はりんごジュースを頼んできます。ジョシュアさんは、何かお飲みになりますか?」
「いや僕は……。そうか、注文はあちらでおこなうのか」
席についていたジョシュアだったが、エルザのその言葉に立ち上がる。
「待っていてくれ」
「え、あ、ありがとうございます」
どうやら、運んできてくれるらしい。
そんなジョシュアの心配りは、単純に嬉しかった。
物語が中盤を迎えたところで、エルザはふと本から顔を離して、りんごジュースに口をつける。
そのとき、向かいにいるジョシュアの顔が目に入った。
眉間に皺が寄っている。
だが、そんな様子も端正な彼の顔だと美しい。
黙っていれば、文句なしに格好がいいのだが。
「……なぜここで主人公は身を引くんだ? 何でお互いこうも遠回りな……。
気になることがあろうのなら、悩んでないではっきりさせたらいいだろう」
真剣な面持ちで、何やらそんなことをつぶやいている。
ああ、残念だ。
黙っていれば、格好よかったのに……という思いから、エルザはジョシュアをじっと見つめていた。
その視線に気付いてか、ジョシュアも本から顔をあげる。
心の声が聞こえてしまったのかと、エルザは思わず首を振って否定していた。
「いえ! 何も言ってません!」
「ん? ああ、すまない声に出ていたか」
「い、いえいえ」
「中々理解に苦しむ場面が多くてな」
ジョシュアの反応だと、エルザの失礼な考えには気付いていないようだ。
「そ、そうですか。私は結構、主人公の心情に共感できたのですが……」
「女性はこういった本を好むんだよな……いや、とにかく最後まで読んでみよう」
「はい。そうですね」
二人はそうして、再び本の世界へ旅立っていった。
●それは、始まり
最後まで読み終わり、エルザは静かに本を閉じる。
前を向くと、ジョシュアも読了後のようで外の景色を観察していた。
エルザの本を閉じた動作に気づき、こちらを向く。
「うん、中々面白かったです。やっぱりハッピーエンドが一番ですね」
「そうか。僕は、○○という登場人物の今後があやふやになっていた点が気になったんだが……」
「○○さんも、きっと幸せになるはずですよ!」
「そうだろうか。途中で、彼がしたことは――」
自分がそこまで思っていなかったことを、ジョシュアがすらすらと語り始めるので興味深い。
ジョシュアは、理路整然と一人の登場人物について話し続ける。
「……同じ本を読んでも、全然違う感想が出るものですね」
「まあ、そうだな」
同じものを見ても、感じ方は違う。
だからこそ、こうして話をすることが大事なのだ。
そうして、人の気持ちを知ることが出来る。
自分の考えも、深めることができる。
「また、ぜひこの図書館に来ましょう。今度はジョシュアさんが読みたい本も教えてくださいね」
「え? いや僕としてはオーガ退治のほうが……」
ジョシュアはそこまで言ったところで、エルザの顔をのぞいてから一旦口を閉ざした。
そして、軽く微笑む。
「いや、そうだな。また来よう」
もっと、この人のことを知りたい。
エルザは本を抱いて、微笑み返した。
●資料を探しましょう
きょろきょろとあたりに目をやる『レント』。
図書館にくるのは初めてなのかもしれない。
そんな様子を見ながら、『葵』は彼に声をかけた。
「レント君。最近覚醒したばかりですし、私は精霊に関する本を探してみようかと思っているんです。手伝っていただけますか?」
葵の言葉に、レントが大きくうなずく。
図書館という環境に戸惑っていた彼も、この言葉でようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「とは言っても、直接的な資料は無いのでしたね……」
確か、地域の伝承がオーガに繋がっていたこともあったという。
それならば、実際にオーガを目にした人物などが書いたりした、怪物退治の英雄譚なんてものもあるかもしれない。
「まずは小説コーナーに行きましょう。オーガらしき記述があるものなど、出来る限り多くさらってみましょう」
葵とレントは、静かに歩みを進めた。
●高所の本をとりましょう
本の中身をぱらぱらとめくりながら、葵は資料集めにいそしむ。
順番に並べられた本を、丁寧に見ていくのは彼女の性格に非常に合っていた。
何時間でも、こうして過ごせそうなほどに。
ふと、少し遠くにいたレントが一冊の本をもってこちらにやってきた。
「こんな本、どうでしょう」
慣れない作業にもかかわらず、一生懸命探してきてくれたのだろう。
だが、葵がその本をめくってみると残念ながら記述が浅い。
「ありがとうございます。でもこれだと、ちょっと……」
そこまで言ったところで、レントの耳がしょんぼりと垂れるのが目に入る。
「あ、いえでも」
慌ててレントに言葉をかけようとした葵だったが、彼は落ち込んだそぶりをすぐに正して、葵が他に持っていた本に目を向ける。
「必要でない本があれば、返してきます!」
「あ、はい」
レントはてきぱきと、本を棚に戻していった。
引き続きページを繰っていた葵だったが、少し高さのある本棚の前で立ち止まる。
葵は本棚を見上げる。
手を伸ばしたら、ぎりぎり届くか届かないといったところ。
おそらく脚立がその辺にあるだろうとあたりに目をむけたところで、本を片付けたレントが戻ってきた。
葵の様子にすぐ勘付き、本棚と向かい合う。
「あ! 僕がとります! どこですか?」
「え、えっとあの緑の背が左端にある段の……」
「任せてください!」
葵のその言葉を合図に、レントはぐっと手を伸ばした。
「……っ!」
レントは葵より背が低い。
目いっぱいのばした腕は、残念ながら本に届かない。
「えっと。ま、待っててくださいね!」
「…………」
葵は手で口をおさえた。
笑っちゃだめだ。
だが、レントの悪戦苦闘する姿は可愛いし面白い。
「と、とれまし……た」
「わ、すごい! ありがとうございます。レント君」
レントから受け取った本を、葵がぱらぱらとめくる。
「はい、これいいと思います。それじゃあ資料もたくさん集まったことですし、あちらの椅子でじっくり読んできます」
葵の言葉を聞いて、レントも後をついてきた。
葵はテーブルに本を積み上げ、じっくりと読み始める。
手持ち無沙汰になったレントは、そんな彼女の少し後ろで、そわそわと本や葵の表情をうかがっている。
葵は小さく笑い、隣に並ぶ椅子をひいた。
「一緒に読みます? もっとこっちおいで?」
レントはそわそわとした動作のまま、ゆっくりと葵の隣に腰掛けた。
どれくらいそうしていただろうか。
葵がため息をもらしたところで、ぱっとレントが立ちあがった。
「無理しちゃダメです。ちょっと休憩しましょう」
葵も本を置き、腕をひくレントに付き添った。
●お茶をしましょう
あたたかい紅茶に口をつけてから、葵はレントを見つめる。
「ごめんね? せっかくお休みに付き合ってくれたのに、ずっと本ばっかり読んでて……」
時計をみたところ、時間も思った以上に経過していた。
葵はすっとクッキーをレントに差し出す。
これは、せめてものお礼だ。
レントは葵にそのようなことを言われるとは思っていなかったのか、ぱくぱくと無音で口を動かした。
そんな様子を見て、少しだけ葵が困ったように笑う。
謝ってはみたものの、目の前の彼が自分の行いに対して文句など言うはずがないのだ。
「とにかく、ここではのんびりしましょう。クッキー、食べてください」
レントは勧められるままクッキーに手を伸ばすが、そこでぼそっとつぶやいた。
「今、こうしているから良いんです」
「…………え?」
葵の緑の目が揺らぐと、レントは慌ててクッキーをほおばる。
照れているのだろうか。
顔を赤らめながら、視線を少し斜めに泳がせていた。
「おいしいですね、クッキー」
葵もクッキーに手を伸ばしながら、今度は穏やかに笑った。
●気まずい二人
にこやかにA.R.O.A.職員に送り出されて、『ひろの』と『ルシエロ=ザガン』は図書館へと来ていた。
「え、と」
ひろのは隣に並ぶ長身の男を見上げ、館内に入る前に声をかける。
「この前会ったばかりだし、改めて言う。……まだ互いのこと全然わかっていない状況だけど、とりあえずこれからよろしく」
「……まあ、よろしく」
会話、ここで終了である。
ひろのがさらに何か言いかけたところで、ふとルシエロの髪が風になびいた。
通りすがりの女性陣が、ほうと声をあげる。
「……ふっ」
女性たちの反応が、自分にむけられたものだとはっきり認識しているのだろう。
ルシエロは満足げに笑った。
「…………」
人付き合いは苦手だし、会ったばかりの人物で警戒しているし。
それでも、本は好きだからここまでやってきたけれど。
仲良くなるべきだって解ってるけれど。
「はあー」
今日一日、彼といることにさっそく不安を抱くひろのだった。
●観察する/される二人
ルシエロはあまり興味がないようで、特に図書館内で回りたいところもないらしい。
ということで、ひろのの後をついてくる。
……すれちがう女性たちを、魅了しながら。
もう気にしないでおこう、とひろのは各コーナーを回ることにした。
芸術コーナーのとある一角で、ひろのは折り紙の本をみつけた。
「…………」
凝った折り紙作品に目を奪われながら、ひろのは黙々とページをめくる。
ルシエロはそんな彼女に近づき手元を覗き込むが、本の中身を確認するとすぐにまた離れた。
その後に、植物・生物コーナーで花言葉の本を見ているときも同じだった。
ルシエロはひろのの読んでいる本に目をやり、確認すると距離をとる。
動くたび、彼の角と尻尾に目がいく。
なんなんだ、と思いながらもひろのも何も言わず、ひたすら自分の興味のある本を手にとっていった。
花言葉の本を大体読み終わると、足元の棚に並ぶ鳥の図鑑が目に入った。
鮮やかな色を持った鳥が表紙を飾るそれに興味がわき、ひろのは近くにあった椅子に座り込んで図鑑を開く。
その図鑑は、季節ごとにこの地方にやってくる鳥をまとめていた。
そういえば、この間名前を知らない鳥を見た。
ひろのはこの時期にみられる鳥を調べ始め、あのとき見た鳥は載っているだろうかと集中してページをめくる。
これだろうかとようやく目星がついたところで、その隣に掲載されている、赤色の羽をもつ鳥を見て気付いた。
今、何時だろう。
思えば、この図書館利用は本来ルシエロとの交流が目的ではなかったか。
顔をあげると、精霊がいない。
首をふってあたりに目をむけると、彼は絵本コーナーの近くにいた。
「ねーこれ読んでー」
子どもたちがルシエロにむかって絵本を差し出すが、彼はそれを受け取らずすっと離れていく。
「…………」
見ず知らずの子どもとはいえ、その対応はどうなんだと思う。
●話をする二人
子どもに絡まれたことで疲労したルシエロが見ていられず、とりあえず喫茶スペースまでつれてきた。
ルシエロはそこでも子どもが腰掛けている場所を避けていた。
「なぜこのオレがあんな目に……」
そうぼやいてテーブルに突っ伏しそうになるが、周囲の大人たちを意識した途端、ルシエロはぐっと背中を伸ばす。
なんでこんなにいつもきっちりしようとするんだろう、とひろのは思いながら、また彼の角と尻尾に目がいっていた。
あれ、触るとどんな感触なのだろう。
最早会話をする気がないひろのだったが、ルシエロは美しい姿勢のまま口を開いた。
「で、ヒロノは楽しかった?」
「え? あ、うん。楽しかった」
「まあ、そうだろうな。特にあの『~~~~』って本を読んでたときは、笑顔で……」
「え! なんで、知って!?」
ひろのが声をあげると、ルシエロが目を細める。
なんとなく嫌な予感がした。
「あとは『~~~~~』って本を読んだときに驚いて」
「…………!」
「『~~~』って本には興味深深で」
「え、え」
ルシエロはすらすらと、今日ひろのが読んだ本のタイトルをあげていく。
いつのまにか完全に自分の趣味を把握されてしまっていた。
そうか、とようやくここでひろのは気付く。
今日、自分は彼にずっと観察されていたのだ。
自分が彼を見ているよりずっと。
「で、ヒロノは手にしてなかったけど。『~~~~』系統で面白そうな本見つけたから、あとで紹介してやろうか?」
「…………」
「どうする?」
「お願い、します……」
ルシエロは、ひろののその言葉を聞いて、手の甲をなでながら満足げにうなずいた。
なぜ、いつのまに。
ひろのは一方的に自分のことを知られてしまったことに驚き、困惑している。
だが、いつのまにか当初感じていたルシエロとのよそよそしさが、少しだけ緩和されている気がするのはなぜだろうか。
よくわからないが、とにかくルシエロの紹介してくれる本を手にとってみよう。
何はともあれ、ルシエロが自分にと、見つけてくれた本ならば。
●ゆっくり誘導
『エリザベータ』と『ヴィルヘルム』は、立ち寄った図書館前で館内図を見ていた。
「図書館なんて久しぶり~♪ エルザちゃん、まずはどこに行く?」
蒼藍の瞳を輝かせながら、ヴィルヘルムが明るい声を出す。
「そうだな。あ、あたしはここが気になるな……」
エリザベータが示したのは、視聴覚スペース。
特別展示で恋愛映画などが並べられているのだと、事前に耳にしていたのだ。
「あら、いいわねー。さっそく行きましょう」
ちょうど、図書館の入り口にあたる自動ドアの前に、人が集まっていた。
エリザベータはそれを避けるように端の手動ドアに手をかけようとするが、それよりはやくヴィルヘルムが扉をあける。
「どうぞ?」
そのしぐさはとても自然なもので、エリザベータは目を見開く。
「お、おう……」
この男、飄々としていながら実に紳士的なのだ。
●じっくり視聴
「あ、これ……」
特別展示を前にして、エリザベータが手にしたのはとある恋愛映画だった。
「あら? エルザちゃん、それ知ってるの?」
「ああ。強面の領主の所に心優しい令嬢が嫁ぐ奴で、最初はすれ違いが多いんだけど……最終的には、お互いを理解して結ばれる話なんだぜ」
ふんふんと、関心をもったらしいヴィルヘルムがうなずいてくれる。
「今日はこれでいいか? あたしの好きな奴だけど……」
この映画は、2時間近い長さがある。
それを思っての言葉だったが、杞憂であったらしい。
ヴィルヘルムはにっこりと笑ってくれた。
「もちろん。ワタシも映画とか大好きよ」
「そうか。……そっか!」
二人は、視聴覚スペースへとむかった。
半個室の視聴場所は思ったより広かったが、どこも人で埋まっている。
空いているのは、ただ一箇所だけだった。
ぎりぎり間に合ったようだ。
エリザベータはほっとして、カウンターにいる司書に声をかけた。
「お忙しいところすみません。二人一組で、こちらの映画を館内視聴したいのですが……」
最初は微笑んでいた司書だったが、エリザベータの発言を聞いて深くお辞儀を返してきた。
「誠に申し訳ございません。ただいまこちらのスペース大盛況にて、イヤホンが一組しかご用意できないのですが……」
「え」
「あらまあ」
すっと差し出された、赤いイヤホン。
長さは多少あるが、密着することには変わりない。
司書がちらっとエリザベータとヴィルヘルムの様子をうかがう。
戸惑うエリザベータだったが、ヴィルヘルムがイヤホンを受け取った。
「大丈夫よ、ありがと。それじゃあ行きましょうかエルザちゃん」
「お、おう……」
少し緊張しながら、エリザベータはヴィルヘルムと空いている半個室へむかった。
さっと機器の電源をつけて、ヴィルヘルムがイヤホンをつなげる。
それから椅子に座ったエリザベータに、イヤホンの片方を差し出した。
軽く二人の肩がぶつかる。
ヴィルヘルムは、上背があるのだ。
エリザベータの胸が高鳴り、顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「再生するわね」
ヴィルヘルムの漆黒の髪がゆれると、控えめないい香りがした。
「…………!」
再生ボタンを押したあと、ヴィルヘルムがこちらを見てきたので慌てて顔をそらす。
「あ、あんまこっち見るなよ……」
「え?」
エリザベータはこんなにもどきどきしているのに、彼は涼しい表情なのが悔しい。
集中、集中と急いで画面の中に目を向ける。
「…………?」
本編が始まる前に、肩になにか感触があったのは気のせいだろうか。
いや、もう何も考えられない。
エリザベータは数分後ようやく映画の世界に入り込み、夢中で映像を追っていた。
そして気付けば、ラストの領主と令嬢の笑顔のシーンになっていた。
体格のいい領主の姿にヴィルヘルムが重なって、少しうっとりしていると隣の身体がなぜか動いた。
やっぱり、窮屈だからだろうか。
エリザベータがそんなことを考えていると、エンドロールが流れ始めた。
ヴィルヘルムはエンドロールまでしっかりと見るようで、まだ目線を画面から動かさない。
エリザベータは映画の内容にひたりながら、すっとヴィルヘルムの横顔をのぞいた。
『好きな人と、恋愛してみたい』という思いを抱きながら、ヴィルヘルムに目がいくのはなぜだろう。
こうしてよく見てみると、彼はまつ毛が長いし、意外と色男だ。
それに、こんなに密着していても不快感などはまったくない。
「素敵だったわね。ああ、ワタシも情熱的な恋愛がしたいわあ」
ヴィルヘルムの何気ないその一言に、ぴくりと反応してしまう。
「あ、ああ……」
イヤホンを外し、二人は半個室を出た。
「でさー!」
「えーまじでー?」
外に出ると、なにやら度の越えた大声で話す二人組の少女がいた。
エリザベータが注意しようとしたが、それよりはやくすっとヴィルヘルムが彼女たちの前に立つ。
「ここは図書館よ? お静かにね?」
「は、はい……」
優しい口調で、すぐさま彼女たちを黙らせてしまった。
そんな様子を見た途端、エリザベータの心がなんだかもやもやとし始める。
「さ、行きましょうかエルザちゃん」
「……ああ」
自分に笑いかけてくるヴィルヘルムを見て、少しだけそのもやもやは解消される。
だが、まだなんだかしこりのように形容しがたいなにかが残る。
この切ない感じは、何なのだろうか――。
図書館の、楽しみ方は人それぞれ。
依頼結果:成功
MVP:
名前:葵 呼び名:葵さん |
名前:レント 呼び名:レント君 |
名前:エルザ 呼び名:エルザ |
名前:ジョシュア 呼び名:ジョシュアさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | タカトー |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月11日 |
出発日 | 04月17日 00:00 |
予定納品日 | 04月27日 |
参加者
会議室
-
2014/04/16-02:15
はじめまして、エルザです。
パートナーはジョシュアさんといいます。
みなさん、どうぞよろしくお願いしますね。 -
2014/04/15-12:56
え、と。ひろのです。
最近神人に覚醒したばかりで、精霊とも会ったばかりです。
精霊の名前は、ルシエロ=ザガン。
ちょっと偉そうですけど、気にしないでいただければと思います…。 -
2014/04/15-10:46
うぃーっす、エリザベータだぜ。
精霊はヴィルヘルム……女みてぇな喋り方だけど悪い奴ではないから……多分。
名前似てる人が居たから入ろうか悩んだけど来ちゃったぜ。
初めましてって人しかいないかな、よろしくな。