【お菓子】(色んな意味で)可哀想なオーガ(真名木風由 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●地味にむかつく
 『あなた』達は、怒りに震えていた。
 目の前には、ヤックドーラがちょこんと座っている。
 それだけなら、良くはないけど、怒りに震えるかと言われると、そうでもない。だって。1体だし、何の巡り合わせか偶然複数のウィンクルムがここに揃っているのだから、幾らヤックドーラでもフルボッコ案件である。
 じゃあ、何で『あなた』達が怒っているかと言うと。
 ヤックドーラがちょこんと座っているのが、アイスのワゴンだからだ。
 他のウィンクルムがアトラクション解放したし、今日は状況確認がてら見て回ろう……そんな『あなた』達は、今日は何だかアイスが食べたい気分になって、ハロウィンっぽいアイスでもあったらいいねという話をしてアイスのワゴン販売を探していた。
 やっと見つけたら、ヤックドーラがちょこんと座っている。
 人がいない所を見ると、アイスの販売員はお菓子にされて食べられてしまったのだろう。
 しかも、よく見ると、アイスはほとんど空、シンプルなバニラアイスしかない。
 お前、食ったのかよ。
 ハロウィンっぽいアイスとか食べたかったのに!!
 そういう訳で、『あなた』達は怒りに震えていたのだ。
 食べ物の恨みは、根が深い。

 が、ちょこんと座っていたヤックドーラはウィンクルムをまじまじと見ていた。
 何か様子がおかしい。

「ヨソウドオリヘイトガアガッタヨウダナ、ウィンクルムタチヨ」
 たどたどしい言葉は、何かちょっと嬉しそう。
 ヘイト上がりまくりだから、頭差し出せ。
 ウィンクルム達が1歩前に踏み出そうとしたその時だ。
「コレデワタシモオーガトシテクイナクイケルトイウモノダ」
 何か、変なこと言い出した。
 『あなた』達は顔を見合わせると、ヤックドーラはおもむろに語り始めた。

●打ち所が悪かったらしい
 このヤックドーラ、ジャック・オー・パークへ他のオーガ達と共にやってきたらしい。
 ジャックオーランタンの被り物も被って、他のオーガ達と元気に人間をお菓子にして食べてしまおうと思ったのだそうだ。
 そして、向かったジェットコースターを占拠しようとした所を他のウィンクルム達が純粋な戦闘で阻止したらしいが、ウィンクルムの1人の攻撃が後頭部に命中、その拍子に運良く近くの池に落ちた為自身は討伐を免れたそうだが、ヤックドーラは思った。
 男同士のいちゃいちゃはいいものである。
 どうやら、男性同士、恋人同士のウィンクルムの攻撃を受けたようだが、当たり所が悪かったらしく、何か変な方向に思考がいっちゃったらしい。
「ダガ、ワタシハオーガ……モハヤシュッセカイドウモデキナイダロウガ、ソレイジョウニソンザイイギノモンダイニナッテクル……」
 しゅん、となるヤックドーラ。
 まぁ、オーガ的には男同士のいちゃいちゃを見てグフフとなるのは、存在意義の問題になるのだろう。オーガになったことがないから、推測の話になるが。
 出世街道……は、よく分からないが、これ以上強くならないとか、弱くなっちゃうとか、消えちゃうとか、仲間外れ、いや仲間から手を下されるとかそっち方面なんだろう。やっぱりオーガ社会に入ったことがないから、推測の話になるが。
 が、存在意義の問題としょんもりしているヤックドーラは、色々考えたらしい。
「ワタシモオーガノハシクレ、オーガラシクヒトヲコマラセ、セカイハカイニコウケンシタウエデチッテイクベキダトカンガエタ」
 それでアイスのワゴン占拠なのかよと思わなくもないが、ヤックドーラは人の言葉が話せるとは言え、人並の知性がある訳ではないから、こんなものなんだろう。
「トイウワケデ、ポチットナ」
 ヤックドーラはアイスを作る機械を押すと、勢い良くアイスにならないアイスがぶしゃーっと出て、あなた達はアイスまみれになってしまった。
「コノアイスハ、ワタシノショウキノエイキョウデオカシナアイスニナッテイル」
 ヤックドーラは、大変真面目にそう言った。
「フタリニトッテシレンニナルダロウ、ワタシノショウキヲノリコエテイチャイチャデキレバ、ワタシハリアジュウバクハツシロトバクハツシテチッテイクガ、ノリコエラレナカッタラ、ソッチガソウナルノデガンバッテホシイ」
 『あなた』達へ乗り越えてという期待の眼差しを向けるヤックドーラ。

 打ち所が悪かった為に変な方向へ思考がいった可哀想なヤックドーラ。
 本人希望でオーガらしく散っていただく為にも、お菓子になった人々の為にも、アイスの為にも、このバトル……勝たねばなるまい。
 そして、次の瞬間、『あなた』達は試練を実感する……!

解説

●目的
・ヤックドーラが仕掛けた試練を乗り越える

●状況整理
・アイスを食べようとしたら、打ち所が悪くて変な方向へ思考がいった可哀想なヤックドーラにワゴンが占拠されてた。
・ヤックドーラが自分の瘴気の影響を受けたアイス(固まってない)をブシャー、アイスまみれになった『あなた』達は、ヤックドーラから試練を受けることに。

●試練内容
・瘴気のアイスの影響でおかしくなった状態から心を通わせ合い、バニラアイスをお互い「あーん」して食べさせてあげる。

●瘴気の影響
・神人
会議室で6面ダイスを2個振っていただきます。
2個のダイスの合計数値で状態異常が変化します。

合計値1~4 本心と真逆のことを言う(書き記す・メールにしてしまう)、表情もその言葉に相応しく。
※行動や心の中そのものはいつも通り。表に出そうとすると真逆になります。
合計値5~9 厨二病を強制的に患い、しかもナルシストになる。
※凄まじいナルシスト、厨二病! 恥ずかしくない!
合計値10~11 性格反転。
※いつもの性格から100%異なる状態になります。性格反転に伴い、感受性も変わります。
合計値12 上記3つ全部出る。
※大当たりです。やったね!

・精霊
一律で、本心は変わらないのに、口では神人を拒絶し、ヤックドーラへの愛を捧げ(表情も言葉も)、愛しそうに寄り添うようになります。

●消費jr
・アイス被ったので、クリーニング代として1組300jr

●注意・補足事項
・全員その場にいます。皆で頑張って試練を乗り越えましょう。
・あーんは木のスプーンで。口移しNG。
・ウィンクルム達は『仮装』して、特殊効果利用可能。ただし、リザルトでは神人・精霊の仮装どちらか1つの特殊効果利用となります。
仮装の種類と特殊効果については、下記にてご確認ください。

https://lovetimate.com/campaign/201510event/halloween_episode.html

ゲームマスターより

こんにちは、真名木風由です。
今回は、頭の打ち所が悪くて腐ったヤックドーラの試練(?)に勝つ話です。
ヤックドーラが負ければ跡形もなく爆発しますが、皆さんが負けると爆発した上お菓子になります。
腐ってるので、本人がオーガの存在意義を憂いたように、いちゃいちゃへのハードル(状態変化をどうするか)はそこまで高くないですが、ある意味ヒドイことになります。でも、そんな状態を乗り越えていちゃつければ、きっとお互い仲良くなる……んじゃないですかね。
バトルとも言えないバトルの末にヤックドーラの望みが叶い、アイスのワゴンも解放されますよう……ガンバッテクダサイネ。

それでは、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハティ(ブリンド)

  ・二人共仮装はドラキュラ
・性格反転

菓子をくれたら悪戯しないぞ
初めて聞いたなその設定
だが今日は俺が始祖だ
大体アンタ甘いものが好きってわけでもないだろ
何で俺が持て成す前提なんだ
リンは…されるのは良くてもするのは嫌なのか
俺に流されてるだけじゃないのか
オーガとの絡みが面白いが面白くないのと
自分からするのは気が引けて言い連ねる

だって恥ずかしいから…
何の話って……あーんの話だろう
言わせるなよ恥ずかしい…

待つが素通りされて消沈
もういい、自分で食べる
スプーンを奪われて発見する
これはされる方が気恥ずかしい
そうだなリンにもアイスを…このスプーンでか?
それは……いやだ
差し出して赤面

からの青ざめ
やめろ俺を始祖と呼ぶな



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  *厨二病に
*2人共ドラキュラ仮装

アビスの皇子たる俺に気付いたという事だな
それで俺を封じようと…

だがその為とはいえ始原の魔力塊ホワイトマナを持ち出したのが貴様の敗因
これを俺が喰らえば魔力が解放される
今此処で食べて貴様を葬ってくれる(アイスに手を伸ばす

白濁液は封印の妖糸
アイスは魔力塊という設定だ

大人しく俺がこれを食べつくしオーガが倒されるのを見てろ、とランスへ挑発台詞
オーガを守りたかったら止めてみろ(ふん

ランスとのもみ合いの中で匙に掬ったアイスがランスの口に!
離せ、これは俺が
*ランスも匙を取る。食べさせあう結果を目指す

ランスから感謝や心配が伝わってくる
黒歴史もランスと一緒なら…(改めてあーんしあう


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  出目合計4
ジャックオーランタンな仮装。
カボチャアイス食べたかったのに。それをこの魚頭が…しかも腐ってやがるし(頭の中身が)。
アイスの恨みをぶつけねば(ぐぬぬぬ)。
と思うのに口をつくのは思っている事と逆の事!?
いやおちつけ。言いたい事と逆の事を思えば…。

じっくり敵を見たら、…精霊達に囲まれてるとは。
奴の真の狙いはコレか!
これにはモンクを言わねば。
オレ、冷静に状況を語るんだ。
そうすれば感情的にモンクが言えるはずだ。
やればできる。自分を信じろ、オレ!

ラキアにあーんて言われたら条件反射で口を開く。
アイスの美味しさが口に広がったら素直にもなる!
アイスは正義。
貰ったらいつものようにお返しするぜ(条件反射。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  仮装:ジャックオーランタン(気分が高揚、普段言わないようなことなどを言い、表情豊かに)

フィンがヤックドーラにべったり…嬉しい、清々する(嫌だ、早く離れろよ)

(フィンの態度にカチン)

その美しい人と、さっさと離れてしまえ!羨ましい!寂しい!
(その化け物と好きなだけイチャイチャすればいいだろ!羨ましくなんて、寂しくなんてないから!)

ち、違わない!(違うんだ)
羨ましい!俺にも構えよ!(羨ましくない、俺の事は放っておいてくれ)

俺は…
(ああ、もうぐちゃぐちゃで良く分かんなくなってきた
でもヤックドーラとイチャイチャするフィンは…嫌だ。嫌い)
好きだ(嫌だけどぱくっとアイス食べて、フィンにもアイスを食べさせる)


咲祈(サフィニア)
  合計5 厨二/ナルシ

…アイスのおかげでべたべた、だ
まあそれは置いとくとして、

サフィニア、何故オーガに…?
手はかかっても僕の方が良いに決まっているのに
(相方に構ってもらえないのが悔しいのではなくて、
オーガに構う相方が解せない)

当たり前だ。僕は完璧で美しいからね
この上なく完璧に…
…でも左腕の疼きはどうすれば良いのだろう?
厨二病? なにを言う。僕は完璧なんだからそんなことあり得ない(どやぁ

…あり得ない、がオーガに愛を捧げる姿はいただけない
何故だか分からないけれど、君が愛を捧げるべき相手はオーガじゃないだろう?

・あーん
…ふむ、僕からでも食べれるんじゃないのかい
ほらあーん、だ



●寄り添う精霊達
 ヤックドーラの元へ精霊達が集い、寄り添う。
「ワタシカラノシレンダ。アイニハシレンガツキモノ……ッテ、キイタコトアル」
 ヤックドーラは、そのように述べる。
(アイスまみれでドラキュラ衣装台無し……)
「ヤックドーラ、俺の為にここへ来てくれるなんて嬉しいよ」
 ラキア・ジェイドバインは心の声とは裏腹にヤックドーラへ寄り添う。
 心の中で、生臭いと思っても身体はべったり……精神的に負荷が掛かりそうだ。
(見かけ水棲なのに陸にいていいのかな……。でも、オーガだから関係ない、とか? あと地味に知性高い部類だよね。高いって言っても、幼稚園児位かなぁって気はするけど)
 当て嵌めるとどの程度の知性かは正確な所、ラキアにはよく分からない。
 尚、ラキアのパートナーであるセイリュー・グラシアは、ジャックオーランタンの仮装の無邪気さを凌駕するレベルで怒りに震えていた。
(カボチャアイス食べたかったのに、コイツが……! しかも、盛大に腐ってやがる)
 誰がどの武器でこのヤックドーラの後頭部ぶちのめしたのか、A.R.O.A.の関連報告書全部洗い出したい勢いだ。
「海十なんてどうでもいいよ。ねぇ、ヤックドーラさん。俺と美味しいアイスを食べよ?」
「アイスルモノドウシノシレントハトキトシテザンコクナモノダ」
 ドラキュラ姿も見目麗しいフィン・ブラーシュは、ジャックオーランタンの仮装に身を包む蒼崎 海十そっちのけでヤックドーラへ寄り添う。
 まだ残るバニラアイスを食べようと持ち掛けると、ヤックドーラは重々しく頷いた。
 口振りからして、腐った方向も傍観者としてその世界を眺めて喜ぶ類っぽいが、オーガらしくいけた(ヤックドーラ基準)ことに満足しているらしい。
(誰の所為だよ)
 フィンは愛ある試練の残酷さ発言にツッコミ入れたかったが、口は「海十は放っておいてさ……」と発言、べたべたしている。
(うう、思ってもない言葉がすらすら出て、触りたくないのにヤックドーラにすり寄ってるよ、俺)
 こいつが腐る原因となった攻撃をしたウィンクルムを見つけ出したい。いや、見つけ出す。
 やっぱり、フィンも妙な決意を固めている。
 そのフィンの内心など知らない海十の全身から変な殺気が溢れ出す。
「ふ、くくく……」
 妙に低い声で笑い出す海十。
「フィンがヤックドーラにべったり……嬉しい、清々する」
 その瞬間、ウィンクルム全員が海十の異常を正確に理解した。
 あの、海十が、フィンに嫉妬していない!!
 過去のデータ(A.R.O.A.女性職員提供)から考えても、海十がそれを本心から言うのは、絶対ない(失礼)
 (嫌だ、早く離れろよ)と思っていそうな海十なのに……発言が反転してる?
「羨まし過ぎる状況だぜ……」
 セイリューが続いたのを見、ラキアが(セイリューも同じ異常!?)と気づく。
 勿論、セイリュー本人も(オレも同じ異常?)と思ったので、両者異常は正確に理解した。
「菓子をくれたら悪戯しないぞ。初めて聞いたなその設定」
 そう零したのは、ハティ。
 発言内容的には、まだ彼の平常運行範囲内である。
 が、ヤックドーラに寄り添うブリンドを見て、こう仰った。
「だが、今日は俺が始祖だ」
 ドラキュラの仮装を風に靡かせ、そう言う姿はいつもとノリが違う。
「大体、アンタ甘いものが好きって訳でもないだろ」
「新しい菓子の要求の仕方だな」
 ヤックドーラに寄り添うブリンドは、ハティの要求を拒むように言う。
 ここも、通常営業範囲内だろう。
 時と場合によっては、ブリンドの返答が物理になることもあるし。
 ただし、ブリンドも瘴気アイスの影響はバッチリだった!
「だが、俺は始祖でお前は従属種。このアイスは俺とヤックドーラのもんだ、オメーにやるアイスはねぇ」
「何で俺がもてなす前提なんだ」
 ハティ、何故か後半ではなく前半に食いついた。
「オマエ……クイツクバショチガウ!」
「俺にとっては重要なことだ。あと、アイスはかぼちゃフレーバーの他に季節のシャーベットがあったか気になっている」
「ヨウナシハオイシカッタ」
「くっ……」
「どうでもいい設定に食いついてヤックドーラ困らせてるんじゃねえよ」
 ハティへ向け、ブリンドがツッコミする。
 今の流れのどこにヤックドーラが困る流れがあったのか不明だが、ブリンドはそう判定した模様。
 その時だ。
 1人の男が、ふっと笑った。

●盛大なる疾走
「……全て話は繋がった……」
 左目を己の手で覆うアキ・セイジである。
 彼はその口元に不敵な笑みを浮かべ、ヤックドーラに向き直る。
「アビスの皇子たる俺に気づいたということだな。この俺を封じる為封印の妖糸を解き放った……」
(セイジが凄いレベルの厨二になった! これは中学の時に大学ノートへ書き連ね、引越し整理の時に発見し、読んで思い出し、突っ伏すタイプだ!!)
 アキと同じドラキュラ仮装のヴェルトール・ランスは、ヤックドーラに寄り添いつつも分析。
 尊大な台詞を放つ、『ぼくがかんがえたさいきょうのひーろー』が抱える謎設定……その設定だけで大学ノート、何冊だ?
 直筆で書かれたそのノートは、大人になった時に最強の自爆武器になるのだ!!
 ……というレベルの代物だが、アキの性格を考えれば、瘴気アイスの影響である。
(肉体ではなく、精神に酷い傷が残りそうな気がする。いや、もう、今凄いスピードで心に傷が……)
 そう思うも口はそう言ってくれないアキ、心の中で泣きそうである。
 が、そんなアキに心強い(?)同志がいた。咲祈である。
「サフィニア……君は、どうしてしまったのかい? 僕には理解出来ないよ」
 咲祈の視線の先には、ヤックドーラに寄り添うサフィニアの姿。
「完璧で美しいこの僕に仕える喜びが分からないなんて……。君は僕が仕えてもいいと認める優秀な精霊なのに、理解出来ないね。ああ、これでは左腕が疼いてしまうよ……」
 アイスの所為でべたべたでも美しいと言う咲祈、左腕を押さえ込む。
「そうか、咲祈は左腕に封印を持つゼーレの騎士だったか……」
「完璧で美しい僕を封じるものなどないのだよ」
 アキが声を掛けると、咲祈がそう笑う。
(謎の追加設定……)
 ヴェルトールが厨二病にありがち、何とかして止めないといけないと思う一方、サフィニアはと言うと。
「お母さんそんな子に育てた覚えはありません! お父さんが聞いたら悲しんじゃうよ!?」
 何か違う方向へ突っ走った。それも盛大に。
「そんな上から目線で自分大好きで寝る前に思い出してじたばたするようなこと言ったらダメ! お父さんからも何か言って……」
 ヤックドーラ=お父さん。
 サフィニアは勿論、思うように喋れないもどかしさを感じているのだけど、とりあえず、頭の中で今後の教育方針を並べる。
(変な言葉覚えて実践させないようにしないと。夜更かしもダメだよね。ちゃんと言って聞かせないと……)
 尚、お父さんことヤッグドーラは、咲祈へこう仰った。
「オカアサンヲコマラセチャダメダトオモウゾ」
 これも愛の試練、お母さんの愛を取り戻せと言いたげである。
 微妙にイラッとする諭しだ。
 ウィンクルム達は心の中で示し合わせてないのに一致した見解を抱いた。

●愛を取り戻す!
(オレと海十は思ったこと真逆だよな。メールにしてもそれっぽい。逆のことを考えるとかが対策法?)
 セイリューは先程から携帯電話を操作し、メールの文面で本心を訴えてみようとしたが、ダメだった。
 逆のことを考える……嘘偽りが苦手なセイリューにはとてもハードル高い。
「って、ハッ!? 精霊によるハーレムが形成されているッ!! これか、これが狙いかッ!?」
「シレンダ。ワタシハオトコドウシノシアワセヲミルノガイイノデアッテ、トウジシャキボウデハナイノダ。モエトイウガイネンデアル。オーガトシテトウジシャハイケナイダロウ」
(筋が通っているようで、半端なく腐っている論理だな)
 セイリューは頬をひくつかせる。
 だが、これには物を申したい。
 どうすればいいのか……うんうん考え始める。
 その思考を打ち破るように、海十が叫んだ。
「その美しい人と、さっさと離れてしまえ! 羨ましい! 寂しい!」
「なら、海十、あっち行っててよ。俺はこの人と2人きりになりたい」
 見事なまでに瘴気アイスの影響絶好調の海十とフィンだ。
(ヤックドーラと好きなだけイチャイチャすればいいだろ! 羨ましくなんて、寂しくなんてないから!)
(海十、行かないで……!)
 言葉と内心の温度差半端ない。
 すると、海十の肩をセイリューが叩いた。
「オレは、ちっとも分かってない!」
 ドヤ。
 が、反転しているから、セイリューが理解してくれているというのを海十は理解する。
「セイリュー、分かってくれないのか!」
「ああ、全く分からない!」
 口調と表情とは裏腹に、2人は分かり合っているのを感じる。
(俺もセイリューと同じように理解してよ……!)
 心の中でフィンは滝涙。
 セイリューと海十は反対言葉で何やら相談し合う。
 フィンの様子を見ながらも、ヤックドーラの頭を撫でるラキアは思った。
(でも、反対言葉って理解すれば意思疎通は可能なんだよね。俺達は違う影響が出てるし、何より……)
 フィンが好きなら、海十は性格的に尚のこと素直にならないのでは。
 そう思うけど、口に出せない。
 口を開けば、ヤックドーラを可愛いと言ってしまうから。

 さて、こちらも絶好調である。
「厨二病ナルシストの咲祈の為お母さんはお父さんと……」
「厨二病? 何を言う。僕は病などではない」
「そう、咲祈はゼーレの騎士……アビスの皇子である俺とは異なる、魔力を滅する者……」
「完璧で美しい僕が彼と天上へ貫く深淵の光を解放すれば、世界は滅んでしまうだろうね……」
 サフィニアの意見を封じるように咲祈、アキが近づいてくる。
「ヤックドーラよ、我らを封じる為、始原の魔力塊ホワイトマナを持ち出したのが貴様の敗因……今こそ解放の刻……!」
(セイジ、それただのバニラアイスだから!)
 アキがバニラアイスをカップへ盛りつけるのを見、ヴェルトールは心の中でツッコミする。
「封印の妖糸が俺を縛ろうとも、アビスの皇子とゼーレの騎士が集った今、ホワイトマナで全てを解放する……!」
「サフィニア、君が愛を捧げるのはお父さんではないだろう。その姿は、僕に仕えるべき者としていただけない」
(やっぱりバニラアイスに手を伸ばすんだね……)
 サフィニアも内心ツッコミ。
 でも、言葉になるのは、
「お父さん以外に愛を捧げる相手? それ、どういう意味……」
 で、ある。
 察しろと咲祈の目は言っていたが、厨二病ナルシスト絶好調の今はそれより大事なことがある。
「大人しく俺がこれを食べ尽くし解放の瞬間(とき)を見ていろ。解放され、絶望の塵と消えるオーガを見るがいい。塵と化すのを己が眼に刻むのを拒むなら、止めてみるか? 封印があろうとアビスの皇子の力は絶大、味わう覚悟があればの話だが」
「倒すなんて許すか! この方を、俺は守る……!」
 ヴェルトールがヤックドーラの前に立ちはだかる。
「モエルテンカイ……!」
 ヤックドーラの目が輝いているのがアレだが、2人は真面目に対峙した。

 そんな真面目な対決の傍らで、修羅場じみた口論が続いている。
「リンは……されるのは良くてもするのは嫌なのか?」
 対決に目を輝かせてるヤックドーラへ観戦用のバニラアイスを盛り付けるブリンドを見、ハティはすんごく面白くないと言わんばかりの空気を身に纏っている。
「されるのが良くてするのが嫌?」
「俺に流されてるだけじゃないのか?」
 何か違う方向に話が行ってるような、噛み合っていないような。
(こういう時状況に左右されねえのがおめーの強みだろーが。いや、これが瘴気の影響だろうな)
 ブリンドは心の中で分析しつつ、
「ヤックドーラならしてもされても嫌じゃないぜ」
 とか言っているので、自分の口に銃口押し当てたくなる神秘。
「で、何を言わせてぇの? 言ってみろ、聞くかは別だが」
「だって恥ずかしい……」
 ハティは頬を染めて、もじもじ。
 性格も変わっただけあり、感受性も変わっているようだ。
「……あーんの話なんて、言わせるなよ恥ずかしい…」
(今更どの口で言ってんだこいつ……)
 今まで恥じらいを持つべきと思った案件を全て並べてやりたいが、向こうもこっちも瘴気の影響真っ只中というのは分かるから、口は開かない。
 だが、心の中は自由領域である。
(俺の好きになった相手なら自分も好きになれるなんて言ってた奴になぁ)
 ヤキモチと意識されてると分かる恥じらいを向けられ、妙に落ち着かない。
(これまで何でもなくやってたことが相手が違えばまるでカップルじゃねーか)
 ヤックドーラを世話しながら、そう思うブリンド。
 カップルじゃないのに、ハティになさっていた今までについては、ハティはブリンドを追及してもいいと思うが、返答(物理)になる確率が高いので追及のタイミングはよく見極めることを勧める。
「あーん、ねぇ……」
 木のスプーンでバニラアイスを掬いながら、ブリンドが呟いたその時だ。

「分からない!」
 セイリューと海十の声が揃った。

●取り戻された愛
(冷静に状況を語ろうとすれば、感情的なモンクが言える筈。落ち着け、オレ。ラキアみたいに言う気持ちで。やれば出来る。自分を信じろ、オレ!)
 セイリューは、超ポジティブに心の中で言い聞かせる。
 そのポジティブたるや、雨雲は霧散し、気温は10℃は上がりそうな勢い。
 一方、海十もセイリューの言葉で言うべきことを整理し始める。
(ああ、もうぐちゃぐちゃでよく分かんない、けど。ヤックドーラとイチャイチャするフィンは……嫌だ。嫌い。オーガの瘴気の影響だろうけど、瘴気位何とかしろ)
 エライ無茶振りだが、海十も単独であったら負けそうなレベルだった。
「羨ましい! 俺も構えよ!」
 実際は見ていたくないから放って置いて欲しい。
 違う、と否定しようとして、違わないを連呼する海十……そう、セイリューと海十は相談の結果、言っていることが真逆の為、言葉を整理することで相手に本心を伝えるように考えたのだ。自分達は真逆同士と分かる分、相談内容が反対でも逆に考えればいいから特に混乱しなかったらしい。
「ラキアは帰ってこない……!」
 思い切り感情的に嘆くセイリュー。
 絶対に帰ってくると信じているポジティブセイリューだからこそ出来る真逆クレームである。
「セイリュー、暑苦しい。カッカするのは良くないよ」
 ラキアはセイリューの言い分を理解していた。
 自分のことを信じてくれているから、このクレームなのだと。
「ま、慈悲深いヤックドーラのアイスでも食べて落ち着いて。はい、あーん」
 ラキアがヤックドーラの為に落ち着かせる名目でバニラアイスを差し出すと、セイリューは反射的に口を開いた。
 腕を甘噛みすると、驚いたのか仮装の効果なのかは分からないが、セイリューはバニラアイスを無事に食べる。
(流石セイリュー、食べ物に素直! 美味しく食べれば、後は俺だけ!)
「邪悪なバニラアイスの反撃だ!」
 バニラアイスは正義と思うセイリューがすかさず美味しさのお裾分けをカウンター名義でラキアに食べさせれば───
「元に戻った、みたいだね」
「やったー! バニラアイスウマー!!」
 まず、セイリューとラキアが突破。
 それを横目で見ていたのは、フィン。
(こ、これは……この流れに乗れたら…! 海十のツンがデレになっているし、いける!)
 ツン状態だからこそデレが駄々漏れの海十、本人的にはかなり恥ずかしいようだが、セイリューとの協議もあった為か、デレ続行中。
「ふふ、海十は、俺達が羨ましいんだ。俺と一緒にヤックドーラを愛する? 素直な子は、好きだよ」
「愛する訳など……!」
「ワタシヨリコイビトヲエラブ、ジツニイイコト」
 セイリューとラキアの盛り上がりを堪能したヤックドーラがうんうん頷く。
 ヤックドーラを愛する訳がない=自分の気持ちに変わりないという意味だからだ。
(海十……)
 トゥンクと胸を高鳴らせるフィンは、バニラアイスを木のスプーンで掬う。
「素直な子にはバニラアイスをあげるのに。ヤックドーラを愛せないなんて」
「俺は……」
 フィンがヤックドーラにバニラアイスをあーんしようとするのを見、海十はフィンとヤックドーラの合間に割り込むと、妨害するようにバニラアイスを食べた。
「フィンなんか大好きだ!」
 涙目の海十、フィンからバニラアイスを強奪。
 木のスプーンでバニラアイスを掬うと、強引にフィンの口へ突っ込んだ。
「大好きだ大好きだ大好きだ俺のバニラアイス要るだろ!?」
 そして、フィン咀嚼。
「うん、甘くて美味しいね」
 フィンがにっこり笑うと、戻ったことに安堵する海十の頭へ手を伸ばすと引き寄せる。
 甘噛みしてから、囁くように謝った。
「海十、ごめんね」
「……フィンじゃなかったら、家に帰ってる」
「俺には海十だけだから……家に帰る時は一緒だよ」
 海十がフィンの肩に顔を押しつけてこくりと頷いた。

「そもそも母親が父親にだけ感けているというのは育児放棄……美しく完全なる僕を放棄するなど、世界が許すと思うのかい? 君はゼーレの騎士の母親を名乗りたいなら、僕に愛を捧げるべきだ」
 咲祈が証拠にバニラアイスを食べさせろと仰る。
 サフィニアは我が子に捧げるという名目で何とか食べさせることに成功した。
「子からの施しも受けないと、子を捨てた母親として闇よりも深い場所を未来永劫彷徨うことになるね」
「咲祈……」
 戻ったら忘れさせないと、と教育方針を見直しまくってるサフィニアも食べることに成功、無事に元へ戻った。
 それを見ていたのが、互いの間合いを計るアキとヴェルトールだ。
「ゼーレの騎士はその魔を絶った……。天を貫く時は、今……!」
「覚悟するのは、セイジの方だぜ……!」
 両者、じりじりとにじり寄り。
「セイジのアイスは俺が食う!」
 そうすれば、全て終わる(色々な意味で)
 ヴェルトールはアキの手首を掴んで、スプーンにあるバニラアイスを強制的に自分の口へ入れる。
「なっ……」
「代わりに、この因果を取り込め!」
 厨二病になってない筈のヴェルトール、アキに便乗する形で自身のバニラアイスを強制的に食べさせた。
「大丈夫か? セイジ」
 それまで離せと暴れていたアキが大人しくなったのを見て、ヴェルトールは彼を抱き寄せて甘く噛む。
「もう大丈夫だから」
 黒歴史から解放してやるよ。
「黒歴史もランスと一緒なら……」
 感謝と心配を感じたアキは、落ち着いたら、あーんをやり直そうと思った。

「ノコルハオマエタチダナ」
 ヤックドーラに言われ、ブリンドは恥らっているハティを見る。
(仕方ねーな。ってか頑張れよ始祖)
 けれど、その手は勝手にヤックドーラへ向かってしまう。
「もういい、自分で食べる、食べさせる」
 ハティはブリンドの腕を引っ掴んだ。
 そして、自身にと確保したスプーンを掴ませて気づいたことは。
(これはされる方が気恥ずかしい)
 けれど、でも!!
 ハティは、そのままスプーンへ顔を近づけてバニラアイスをぱくり。
「オラ、等価交換寄越せ」
「等価交換? なら、リンにもアイスを……」
「アイス……毒見しないと、ヤックドーラに食わせられないが、等価交換は別だろ」
 ブリンドは、ハティの様子に気づく。
「テメーのじゃないと、ヤックドーラと間接キスだな」
「それは……いやだ……」
 (言えないので)言外にそう言うと、ハティは真っ赤な顔で自身のスプーンでバニラアイスを掬い、毒見名目のブリンドへあーんした。
 直後、戻ったらしく、ハティの表情が青ざめたのは言うまでもない。

「ミゴト……ワタシハオーガラシクヒトヲコマラセ、ソシテ、モエテイク!!」
 ヤックドーラが満足そうにそう言った。
「リアジュウバクハツシロー!!」
 ばーん。

「始祖ー、おかわり」
「やめろ、俺を始祖と呼ぶな」
 戻ったから通常営業に戻ったブリンドとハティを他所に、何となく「無茶しやがって」と跡形もなく爆発したヤックドーラへ敬礼したフィンの頭を海十が張り倒した。

 とても……酷い戦いだったね。
 お疲れ様でした。



依頼結果:成功
MVP
名前:ハティ
呼び名:お前、ハティ
  名前:ブリンド
呼び名:リン、ブリンド

 

名前:蒼崎 海十
呼び名:海十
  名前:フィン・ブラーシュ
呼び名:フィン

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 明星花夜  )


エピソード情報

マスター 真名木風由
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月16日
出発日 10月22日 00:00
予定納品日 11月01日

参加者

会議室

  • プランは提出できた・・・何とかなったかはカミノミゾシル。
    いい結果になりますように!

    チュウニな人達がどんな感じに弾けてるか楽しみにしてる。

  • [8]蒼崎 海十

    2015/10/21-23:55 

  • [7]ハティ

    2015/10/21-23:53 

    お疲れさま。こちらもなんとか提出してきた。文字数やらなんやらで激戦だった…
    三種盛りだったらどうなっていたかと思うと恐ろしいな…

  • [6]アキ・セイジ

    2015/10/21-23:08 

    闇の炎に抱かれて消えろ!
    …ではなくて(汗)、プランは提出できているよ。

    提出できたけど、なかなか難しいよな、これ。
    相棒が事実上の敵になってるシチュからいかにアイスを食わせるか…ってことだしさ。
    あの肉弾戦魔法使いが大人しく「あーん」してくれるとは思えないので、シチュを利用することにはしたが…
    なんだか、終わった後に、心に傷が残りそうだよ(とほほ
    うまくいってることを祈りつつ。

  • [5]アキ・セイジ

    2015/10/21-12:01 

    いい昼だな。
    最後の「ガンバッテクダサイネ」を見て、
    マスターにオーガが憑依したのではないかと考えてしまった(笑)アキ・セイジだ。
    相棒はウイズのランス。
    では、よろしくな。

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):3】

  • [4]咲祈

    2015/10/21-01:24 

    …瘴気の影響というのはなかなか……。
    おっと。咲祈とサフィニア。飛び込み、失礼する。
    このオーガは頭のネジというものをどこかで紛失したのだろうか…?

    ……興味深いが、これは酷い。

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):3】

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    オーガであろうとも、拗らせると大変なことになるな!
    しかも発想がナナメウエだぜ……ワケガワカラナイヨ。

    ここは無心に運命のダイスを振るか。

    【ダイスA(6面):1】【ダイスB(6面):3】

  • [2]蒼崎 海十

    2015/10/20-00:07 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、今回もよろしくお願い致します!

    夢の中以外で、オーガと会話したのは俺も初めての気がします。
    しかし、どーしてこうなった…!

    と、取り敢えず、余りヒドイ事にならないように…!(ダイスころころ)

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):2】

  • [1]ハティ

    2015/10/19-07:13 

    ……オーガに声を掛けられたのは初めてだ。
    オーガと話ができると思ったらなんだかブリンドと話が通じなくなった。
    話ができるなら聞きたいこともあった気がするがなんだか思い出せない。これが瘴気か…
    今はかぼちゃフレーバーがあったのか気になっている。季節のシャーベット…

    【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):6】


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