【お菓子】幸せの彫像(月村真優 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ジャック・オ・ランタンの柔らかな光が、二人乗りのゴンドラ内にやわらかく降り注ぐ。
 その明かりを受けた二人を、大理石の彫像たちがじっと見下ろしていた。
 手を伸ばせば届きそうな所にある彫像たちの間をすり抜け、ゴンドラはゆっくりと進んでいく。

 翼を広げる竜。月に吠える狼。墓場に佇む黒猫。

 頭に矢が刺さった林檎を乗せた少年。
 カブの頭の案山子とその上で翼を揺らすカラス。
 箒に乗った魔女と十字を掲げる魔法使い。
 その他もろもろ、ハロウィンのものなら何だってあるんじゃないかと思うほどである。

 ハロウィンの月を背負う彫像の佇まいは、恐ろしいというよりは荘厳とか美しいといった方が似合いそうだ。
 とはいえ、蝙蝠とじゃれる少年ヴァンパイアの石像など、中にはコミカルなものも混じっている。
 だがどれも、元はただの石であったとは思い難い程生き生きとした表情を浮かべていた。

 マントを広げた男の像の前で、がくんとゴンドラが揺れた。
 揺れたゴンドラはちゃぷちゃぷと水音を立てながら、方向を変えてまた進み始める。同時にわずかに上昇を始めているようだ。
 だんだんと周囲が明るくなってきた。ゴンドラの中で小さな感嘆の声が上がる。
 彼らの視界に飛び込んできたのは精霊の五種族だ。それぞれハロウィンの仮装姿で生き生きとしたポーズを取っている。

 やがて蜘蛛の巣をモチーフとしたアーチを抜ければアトラクションは終わりだ。
ゴンドラを降りて螺旋階段を昇れば小さなカフェがある。見渡せば隅っこにもいくつか愛らしい彫刻が飾られているのが見つかるだろう。


 薄暗いゴンドラの中で、二人は一体何を語らい、何を見るのだろうか。

 そう言えば、係員が出発の際にウィンクしながらこんなことを言っていたか。
「この『彫刻の水路』の中には、彫刻家のウィンクルムが祈りを込めて作ったものが置いてあるんですよ。『二人で一緒に触れると幸せになれる』なんて言われているようです」
 効果がどれほどのものかはわからないが、探してみるのも一興だろう。

解説

●『彫刻の水路』
ゴンドラで彫像の間をゆっくりと廻っていく二人乗りのアトラクションです。
絶叫系やホラー系ではなく、ただゆっくりと世界観を鑑賞するタイプのものになります。そのため仕掛けはかなり控えめで、たまに動く彫像が混じったり狼の遠吠えなどが響いたりする程度となっております。
また、展示数は結構あり、プロローグにない物も沢山あります。ので、プラン中で遠慮なく作ったり描写したりしていただければそのように描写いたします。
(ただし最後のウィンクルム五精霊は一つずつしかないので描写が被ったときはご了承くださいませ)
 また、ゴンドラの間は十分開いているので他のペアの声や姿が届くことはありません。したがって描写は全て個別となります。

●『幸せの彫像』
 触ると幸せになれるというものが混じっていますが、リザルトノベルでそれがどれであったのかを明確に描写することはありません。ウィンクルムお二人が「これだ!」と思って触ったものが当人たちにとっての幸せの彫像、という事です。触らなくてもそれはそれで一つの楽しみ方です。

●消費ジェール
 入場料として一律300 jr頂きます。

カフェのメニューは以下のようになります。勿論寄る寄らないは自由です。

飲み物 
 コーヒー・紅茶・ココア……一律50 jr (ホットかアイスかが選べます)
 かぼちゃジュース・オレンジジュース・林檎ジュース……一律40 jr
 
ケーキ類
 かぼちゃパイ・アップルパイ……一つ80 jr


ゲームマスターより

こんにちは、月村真優です。
彫刻、というとどうにも美術館にある触ってはいけない芸術品、というイメージが先行しますが、どうやら中には触ってもいい彫刻も結構あるそうですね。
サンピエトロ大聖堂のペテロ像なんかはみんな足に触るので片足だけツルツルだそうです。

という訳で(規模は大幅に落ちますが)今回は彫像鑑賞アトラクションです。

思う存分触って語らって幸せになっちゃいましょう!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  ねぇ桐華
手を、繋いでいてくれる?
ありがと。じゃあ、いこっか

れっつらゴンドラ
激しいのも好きだけど、こういうゆったりも楽しいよね
見て見て桐華、魔女に吸血鬼、あっちのは幽霊かな
質感が凄いねぇ…動き出しそう
でも、お化け屋敷ほど怖くないよね?
…しないよ。流石にもう、必要ないからね
迷子ごっこも、程々にする
桐華が物足りないなら、続けるけど

あれこれ彫像を眺めては一人でわいわい
出口を抜けるまで、何にも触れず
桐華が何も言わないって事は、解ってくれてるのかな

桐華、南瓜と林檎のパイ、一個ずつ買って半分こしよう
飲み物はホットの紅茶二つね
ウィンクルムっぽい姿を見かけたら、ご挨拶くらいしたいな
お邪魔じゃなきゃ、ね


羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  大理石の彫像なんて見るのはいつ振りだろう?
ラセルタさんのおうちには幾つも並んでいそうだったけれど
乗り気な彼に連れられてゴンドラへ

淡い光が照らす彫像は想像よりもずっと幻想的で綺麗で
本当は触ったら柔らかくて、動き出すんじゃないかなんて思えて
落ち着かない気持ちについ膝の上で固まる手

愛嬌の少ない怪物も触ってしまえば怖くない
面白くなって次々触れて、伸びてきた腕に漸く振り向き
ごめん、触ってみたら楽しくて。ラセルタさんの言う通りだね
?…もしかしてやきも(むぐ

幸せの彫像、触れていたらいいね
もう想いを伝える事は怖くないから
俺は貴方と一緒に幸せになる事を願ってもいいんだなって
…やっぱり、手、まだ繋いでいてもいい?



柳 大樹(クラウディオ)
  本当ならこういう場所で言う事じゃないけど。
「クラウディオ」(目を合わせる
「この前はごめん。俺の所為であんたが死ぬとこだった」
いつもそれ。(溜息
「気を付けるよ」できたらね。

彫像を眺めて係員の言葉を思い出す。
「二人で触ったら幸せにかあ」恋人御用達って感じ。
「ねえ、どれか触ってみる?」(近くの彫像を気だるげに指す
「どうだろう」(首傾げ
別にそういう関係に成りたいとか、思った事はないけど。
近くにいるのは慣れたかな。

カフェに寄る。
「ハロウィンといえばかぼちゃだよね」
かぼちゃパイとかぼちゃジュース注文。(超甘党
「ん?同じのにしたの」

自分で注文するようにはなったのか。
後は、もう少し砕けてくれると良いんだけど。



カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  ※ドラキュラ仮装

世界観と彫像が一致してるか見て楽しむか
※職人なのでそういうのを見るのが好き

幸せの彫像?
興味ねぇ
それは叶えて貰うんじゃねぇ、自身の努力や心がけ次第だろ
触るんだったら…(手を伸ばす)こっちだな(頭撫で)
「たまにはいいな」
(頭撫でられ→手首を掴んで甘噛み)
「血は吸えねぇけどな?」
手首のキスの『意味』は…さてな?

カフェも行く
他の奴を見かけたら2人で挨拶
紅茶とかぼちゃパイ頼む
「ハロウィンならカボチャだろ?」
「紅茶はてめぇの淹れたヤツのがいいな」
こういうのが幸せって俺は思うから、誰かに叶えて貰わなくていい
当たり前がいいんだよ

「素直でもそうでなくても俺はてめぇが可愛くて仕方ねぇから安心しろ」



咲祈(サフィニア)
  ごんどら……ふむ。遅い乗り物? なんだね
…なんだ? サフィニア
いや、怒ってないさ。僕はそれくらいじゃ怒らない
ちなみに、その件については黙秘する。僕が答えるべきじゃないだろう

…ん? あれは…シュルレアリスムといわれる類、だね
女の子が持っている花、でも違和感を感じる

…茎に羽が生えているし、女の子の腰から下はかぼちゃ?
…ふむ。あの彫刻からは、慈愛のようなものを感じる
そうかい? まあ、感じ方など人それぞれだけれど、僕はとても素敵に思う
これを作った人は天才だろう…!

…サフィニア、『幸せの彫刻』というのは、これじゃないのかい?
違ってても良いじゃないか。これはこれでスリリングだろう?

分かってる。心配要らない



●羽瀬川千代とラセルタ=ブラドッツの場合

大理石と言うのはひんやりとしていて案外触り心地の良いものだ。それが美しい彫像ともなれば尚更のことである。彫像に触れると聞いてラセルタ=ブラドッツは内心わくわくしていた。
その恋人たる羽瀬川千代はラセルタに連れられながら、何とはなしに呟いた。
「大理石の彫像なんて見るのはいつ振りだろう。ラセルタさんのおうちには幾つも並んでいそうだったけれど」
その小さな呟きに、ラセルタはゴンドラの椅子に腰かけながら答えた。
「昔の屋敷には並んでいたな。毎日、顔が変わって……」
 彼が千代の顔を見て「冗談だ」と付け加えたのとゴンドラが進み始めたのはほぼ同時だった。

 ゴンドラはゆっくりと暗がりのなかを進んでいく。その暗がりの中、淡い光に照らされて佇む彫像たちは千代が想像していたよりも遥かに幻想的だった。わずかに揺れる光を受けた彫像はどれも生き生きとした表情を浮かべていて、石から掘り出されたとは思われぬほど柔らかそうだ。
傍らのラセルタは興味津々と言った風に有翼の獅子像の頬を撫でたりしている。だが傍らの千代はあまり落ち着かなかった。本当は触ったら柔らかく表面が沈み込むんじゃないか。そして動き始めるんじゃないか。そんな風に思えてきていたのだ。彼は膝の上で揃えた手をぎゅっと握りしめていた。
無論、それに気づかないほどラセルタは熱中していた訳ではない。千代の心情はお見通しだ。ラセルタはゴンドラの前方を見渡した。ハロウィンの怪物が立ち並んでいる中で、一匹の愛らしい細身の猫が目に留まる。あれがいいだろう。
「千代」
ラセルタは優しく名を呼びかける。振り向いた千代に、彼はそっと先にある南瓜に前足をかけた猫の像を示した。言わんとした事を察した千代がそっと手を伸ばし、猫の頭に手を添え、その硬い表面を撫でた。そしてその確かな感触にほっとしたように表情を緩め、次々と手を伸ばし始める。せっかくの機会だ、楽しんだらいい。
そう思っていたはずだった。
だがどうだろうか。彫像に夢中で次々と触れていく千代を見ていてラセルタの胸中に湧いたのは胸中を焦がすような苛立ちであった。自分で導いた事だというのに、我ながら心が狭い。
 ラセルタは千代の手を取り、「…二人で触れなくては意味がないと聞いたが」と囁いた。心情を悟られないよう、努めて冷静に。どうやら声にそれは浮かんでいなかったようだ。
 千代は伸びてきた手に振り向いて、素直にその手をとった。
「ごめん、触ってみたら楽しくて。ラセルタさんの言う通りだね」
「何ならずっと繋いでやってもいい」
 そう言うラセルタの表情を見て、小さく千代は首を傾ける。そして一つの可能性に思い当たった。
「……もしかしてやきも」
 だがそれを言う前に唇は塞がれ、台詞は中断された。「ムードを壊す口は、塞いでやる」との台詞付きで。だがその表情から図星であった事が見て取れる。
 そうこうするうちに周囲が明るくなってきた。水路の終わりが近いのだ。千代はぽつりと呟く。
「幸せの彫像、触れていたらいいね」
頷いたラセルタに対し、さらに「もう想いを伝える事は怖くないから」と続ける。
「俺は貴方と一緒に幸せになる事を願ってもいいんだな、って。……やっぱり、手、まだ繋いでいてもいい?」

そう照れくさそうに言う彼に、ラセルタはそっと彼の手をとって唇を寄せる。

そして、「彫像に願わずとも、お前の願いは俺様が叶えてやろう」と誓ったのだった。

●咲祈とサフィニアの場合
「ごんどら……ふむ」
 初めてのゴンドラに咲祈は興味津々だった。縁をぺたぺたと触り、舳先の飾りをしげしげと眺めている。ハロウィンだからか、舳先の鉄はどうやら悪魔を模した造形になっているらしい。ハロウィンじゃなければどんな形なのだろうか。帰ったら調べてみよう、なんて思っているとゴンドラがゆったりと動き始めた。
「遅い乗り物?」
 身を乗り出して水に手を浸し、その流れの速さを確かめながら彼は呟く。

身を乗り出した途端ゴンドラが揺れ、静観していたサフィニアは口を出した。
「こら。あんまり乗り出すと、落ちるよ?」
「わかったよ、お母さん」
 咲祈はあっさりと座席に戻り、今度は大人しく席に戻って彫像を見始めた。といっても相変わらず好奇心を全身から溢れさせてはいたのだが。

「……ところで、咲祈」
「……なんだ? サフィニア」
「俺がペタルムと仲良くなれないの…怒ってるの」
 ずっと引っかかっていた事を問いかける。少し前に言われた「サフィニアもペタルムと仲良くなってくれたら、もっと楽しかったかもしれない」という台詞がどうしても気になっていた。彼にはその真意がわからなかった。
「いや、怒ってないさ。僕はそれくらいじゃ怒らない」
あっさりと咲祈はそれを否定する。そうかあ、と思っているサフィニアに彼はこう付け加えた。
「ちなみに、その件については黙秘する。僕が答えるべきじゃないだろう」
(要するに自分で考えろってことね…)
そう解釈して、サフィニアは内心小さく溜息をついた。

 二人を乗せて、ゴンドラは進む。
「……ん?」
 サフィニアの思考は隣で咲祈があげた声によって急に中断された。
見れば彼はサフィニアの肩を軽くたたきながら前方の彫像を指さしている。目を凝らせば、立ち並ぶハロウィンの怪物像の間に隠れるようにして一人の少女の像がひっそりと佇んでいた。一輪の花を手にした少女だ。なぜこんな所に?
 だが、接近するにつれ二人は違和感に気付いた。
 少女の持つ花の茎には羽が生えているし、腰から下はふわりと広がって南瓜になっている。
「あれは…シュルレアリスムといわれる類、だね」
 奇妙な少女像を見つめながら咲祈は呟く。
「あの彫刻からは、慈愛のようなものを感じる」
「うーん……そうかな? 俺はあの彫刻からは慈悲を感じるけど……」
それに少し不気味かな、とサフィニアは率直に付け加えた。咲祈はやや興奮気味にサフィニアのほうを振り返る。
「そうかい? まあ、感じ方など人それぞれだけれど、僕はとても素敵に思う。これを作った人は天才だろう……!」
「そこまで!? そこまで感動しちゃう!?」
 最近ますます咲祈のことが分かんない、と驚いているサフィニアをよそに彼はさらに続ける。
「サフィニア、『幸せの彫刻』というのは、これじゃないのかい?」
「え、そう、かな? ちょ、ちょっと待った咲祈ちゃん、違うかもしれないじゃん?」
「違ってても良いじゃないか。これはこれでスリリングだろう?」

 どうやら本当に深く感銘を受けていたらしい。仕方ないな、とサフィニアは微笑した。少女像は目の前まで来ている。彼らはその頭にそっと触れ、蔓の編み込まれた髪をなでるのだった。

 彫像が後ろへと流れて行ってからも、しばらく咲祈は少女像を目で追っていた。その様子に苦笑しながらサフィニアは声をかける。
「帰ったら部屋に引きこもらないでよ?  一度興味本位で調べ出したらキリがないんだから」
「分かってる。心配要らない」

 返事は短く明快だったが、さて実際はどうなることやら。


●柳 大樹とクラウディオの場合

 ゴンドラはゆるやかに進み始め、係員の姿も見えなくなった。前後のゴンドラも今は姿も見えない。二人っきりの空間、という訳だ。
「クラウディオ」
 柳 大樹は傍らのクラウディオに呼びかけた。
本当ならこういう場所で言う事じゃない、とわかっている。それでも言わなければならないと思ったのだ。何だ、と向き直るクラウディオの目をまっすぐ見て大樹は謝った。

「この前はごめん。俺の所為であんたが死ぬとこだった」
「私は大樹の護衛だ」

返事は即答だった。自分が彼を庇ったのは当然の行為だったというように。いつもそれ、と一つ大樹は溜息をついた。
「だが、不用意な発言は控えるべきだ」
「気をつけるよ」
 大樹はそう答えるとぼんやりと彫像を眺め始めた。その後一言付け加えたのが聞こえてくる。
「出来たらね」
今度はクラウディオが内心溜息をつく番だった。あまり効果はなかったようだ。
 クラウディオは護衛の目で彫像を眺めている大樹を眺めた。どうやら常の調子を取り戻したようだ。そのことに少しだけ安堵を覚える。

「二人で触ったら幸せにかあ」
恋人御用達って感じ。大樹の後頭部を眺めていると、ぽつりと大樹が呟いた。黙ってクラウディオが首を傾げていると、大樹は適当に手近な彫像を指差して「触ってみる?」と問いかけてきた。見ればカボチャ頭の案山子の彫像だった。

だが、クラウディオには幸せの定義が掴めなかった。ついでに言うと恋人御用達、の意図するところもわからない。だから逆に問い返した。
「幸せになりたいのか?」
「どうだろう」
 大樹はただ首を傾けた。大樹にもわかっていないのだろうか。そうこうするうちにも彫像は後ろへと流れていく。いや流れているのは二人の方なのだが。
 大樹が望むのなら一緒に触ろうかとも思っていたが、眺めているだけでいいらしい。彼が望まないのならそれでいいのだろう。彼の行動原理は至って単純だ。
 二人が沈黙し、ただ周囲には水音だけが響く。だが居心地の悪い沈黙ではない。
(別にそういう関係になりたいと思ったことはないけど)
 ぼんやりと大樹はウィンクルム五精霊像を見ながら考える。近くにいるのは随分と慣れた。これから自分たちは何をもって幸せとするようになるのだろうか。答えは出ないまま、ゴンドラの旅は終着点へ辿り着いた。

 その後二人は付属のカフェに立ち寄る。ハロウィンと言えばかぼちゃだよね、という事で大樹はかぼちゃのパイとジュースを頼んだ。
横を見ればクラウディオも全く同じものを選んでいる。
「ん? 同じのにしたの」
 自分で注文するようにはなったのか。そんな事を思いながら尋ねる。
「ハロウィンにはかぼちゃなのだろう」
クラウディオは座席につきながらそう答える。彼にはそういった定番というものがわからない。ので、ひとまず大樹に従ってみたという訳だ。

 漂う甘い匂いに目を上げれば、店員が黄金色のかぼちゃジュースとかぼちゃパイを2セット運んできていた。そこそこ控えめな甘さのジュースを飲みながら目前の大樹をみやれば、満足そうにパイをつついている。
それに従って彼はパイを口にしてみた。やはりというか、甘かった。
 大樹は甘いパイをつつきながら考える。この先のことはわからないが、それなりに現状には満足している。後はもう少し砕けてくれるといいんだけどな、と思いながら彼はジュースに手を伸ばすのだった。


●カイン・モーントズィッヒェルとイェルク・グリューンの場合

 ゆったりと進むゴンドラの中で、イェルク・グリューンは隣で彫像たちを眺めるカイン・モーントズィッヒェルの横顔を眺めていた。
並びたつ彫像に視線を走らせながら時折照明やゴンドラの舳先の南瓜飾りなどを見ている彼は、おそらく世界観の調和を見て楽しんでいるのだろう。職人の彼らしいな、とイェルクは思う。
 ……彫像の方を見なければ。
 そう思って彫像たちを見渡せば寄り添う髑髏が目に留まった。
その様を見て、ふと係員の言葉を思い出す。一緒に触れば幸せになれる、だったか。
「幸せの彫像があるそうですね」
「幸せの彫像? 興味ねぇ」
 カインの返事はばっさりとしたものだった。一緒に撫でてみたかった、なんて思うイェルクに気づいてか気づかないでか、彼はそのまま言葉を続ける。
「それは叶えて貰うんじゃねぇ、自身の努力や心がけ次第だろ」
 そう真っすぐに言い切った後、「むしろ」とつけ加える。むしろ何なのか、というようにこちらを見たイェルクの頭にカインは手を伸ばした。何か反応される前にそのまま頭に手を置き、わしゃっと頭を撫でる。
「触るんだったらこっちだな」
 触った髪とその間から覗く角は温もりを持った生者のそれだ。近くにいる悪魔像の角と形はよく似ているが、質感や温かみは全然違う。断然こっちのほうが触り心地がいい、とカインは思う。
「そ、それでしたら……」
 そう思っていたら少し恥ずかしげに、イェルクもおずおずと手を伸ばしてきた。カインの頭にぽふ、と手を置いて彼の短い髪をそっと撫ではじめる。
「たまにはいいな」
 思わず本音を漏らしながら、しばらくカインはその感触を楽しんだ。堪能してから急に顔を上げ、頭の前におかれた手を掴む。そしてその手を自分の口元まで運び、かりっと軽く歯を立てた。いわゆる甘噛みと言うやつだ。
目を上げれば、イェルクは呆気にとられたような顔をしている。
「血は吸えねぇけどな?」
にやりと笑ってそう告げると、ワンテンポ遅れてイェルクは顔を赤く染めた。手首への口付けに込められた意味は、どうやら伝わったようだ。
「……私以外にはしないでくださいね」
イェルクはカインにもたれかかるようにしてぽつりと言う。好きな人が他の人にそのような行為をするのは嫌だ、と。ドラキュラの甘噛みには素直になる効果、それも無自覚。これが彼の、普段は言いそうもない本音なのだろう。

イェルクはふふ、と笑ってしみじみと言うのだった。
「あなたが好きでよかった」

やがて時はゆっくりと流れ、彫像に囲まれた旅も終わりを告げる。
そうして二人はゴンドラから降り、並び立ってカフェに立ち寄ったのだった。
「紅茶とかぼちゃパイ」
「私も同じものを」
 席に戻ってから「単独ですと似合わなさが目立ちますから」と補足する。
甘噛みの素直さはこういう時にも顔を出す。
「ハロウィンならカボチャだろ?」
 そう言ってパイを食べながらカインは紅茶に口をつける。うん、と一つ頷いてからぽつりと「紅茶はてめぇの淹れたヤツのがいいな」と呟く。
「ありがとうございます」
イェルクはティーカップを置きながらそう微笑んだ。そうして「好きな人に言われるのは嬉しいです」と続ける。
その微笑みを見て、こういうのが幸せなんだよ、とカインは思う。当たり前がいい。
誰かに叶えてもらうようなものじゃないのだ。

「素直でもそうでなくても俺はてめぇが可愛くて仕方ねぇから安心しろ」
その呟きに、イェルクは嬉しそうに微笑んではい、と返すのだった。

なお、甘噛みの効果が途絶えてから我に返ったイェルクが恥ずかしさに悶絶したのはまた別の話。

●叶と桐華の場合

 係員に案内された先は仄暗い通路だった。天井につるされたジャック・オ・ランタンが柔らかい光を石の壁に投げかける。壁に映った二人の影はランタンの揺れを反映して頼りなく揺れていた。
「ねえ桐華。手を、繋いでてくれる?」
 ゴンドラ乗り場に向かいながら開口一番に叶はそう言った。
「手? ……いいよ。ほら」
 そう言って桐華が手を差し出せば、叶は嬉しそうに微笑んでそれを握る。
「ありがと。じゃあ、いこっか」
 かくして二人は手を取り合ってゴンドラへと乗り込んだのだった。

「激しいのも好きだけど、こういうゆったりも楽しいよね」
 そう言いながら叶は彫像を眺めてはわいわいと喋る。魔女に吸血鬼、向こうのは幽霊。そう言って次々と指差したりするが、繋がれた手は座席に置かれたままだ。
「質感が凄いねぇ…動き出しそう」
 その感想に桐華はわずかに眉を顰めた。たしかに動きそうではあるのだが。それに気づいた叶は確認するように問いかける。
「でも、お化け屋敷ほど怖くないよね?」
「怖がらせる目的で作られたわけじゃないし、怖くない……つーか、そう言う目的でも連れてくるだろ。人が苦手なの知ってて」
 拗ねた様な口調の桐華に、叶は少し苦笑しながら「しないよ」と返した。もうその必要はない、と。
「迷子ごっこも程々にする。……桐華が物足りないなら続けるけど」
「……物足りないなら、ね」
 やっぱり突き放されていたか。そんな思いが胸を去来する。だがそうだったとしても、と彼は思うのだ。愛想を尽かすつもりなどさらさらない。
(まぁ、それでお前を手放すわけでもないし、何処消えても必ず見つけ出すし)
手の中にある叶の手に目を落とし、思いを新たにする。
(だから…いつでも逃げて良いからな?)

 それからも叶は彫像を見ながら賑やかに喋っていた。叶の声と、たまに入る桐華の相槌が暗い水路に響き、吸い込まれてゆく。それ以外に聞こえるものといえば静かに二人の乗るゴンドラの下を流れる水の音くらいで、逆にそれが静けさを際立てている気さえした。
繋がれた手はずっと二人の間に収まっている。ふと桐華はその手に少しだけ力が籠った事に気づいた。見れば精霊五種族像が並び立っていた。その中のディアボロ像を見ているのだ、と気づく。
 結局出口まで、叶が何かに触ろうとすることはなかった。
 桐華にはその理由がわかっている。叶はまだ、自分が幸せになって良いとは思ってないのだ。
(……幸せに、するけど)
 そう心に決めて、彼はアトラクションを後にしたのだった。

 寄ったカフェでは、叶は普段通りの様子に戻っていた。たまたま居合わせたカインとイェルクに挨拶しに行った時は完全にいつものテンションだ。
「他人様に迷惑かけるなよ」
 そう言いながら自分も軽く挨拶をすませる。向こうはお揃いの南瓜のパイを食べている様子だ。自分たちはどうしようか。二人で顔を見合わせる。
「桐華、南瓜と林檎のパイ、一個ずつ買って半分こしよう」
「半分こな、はいはい」
 座席に着いたら二人はそれぞれパイを二つに割って交換する。そうして暖かい紅茶と一緒に分け合ったパイは両方とも甘く、さくさくとしたものだった。
分け合ったのはパイだけではない。流れる時間もまた、甘く共有されていたのだ。



依頼結果:成功
MVP
名前:羽瀬川 千代
呼び名:千代
  名前:ラセルタ=ブラドッツ
呼び名:ラセルタさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 月村真優
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月14日
出発日 10月21日 00:00
予定納品日 10月31日

参加者

会議室

  • おっと、もうそろそろ出発だな。
    お互いのんびり過ごそうや。
    カフェで誰か見かけたら挨拶程度はするって書いてあるが、まぁ、その時はよろしく頼むわ。

    って訳で……

  • [6]羽瀬川 千代

    2015/10/17-22:50 

    こんにちは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    見るものがたくさんあって、カフェまで行けるかは分からないけれど…行けたら良いなと。
    皆さんが楽しい一時を過ごせますように。

  • [5]叶

    2015/10/17-22:15 

    はろーはろー。叶と愉快な桐華さんだよー。
    賑やかなハロウィンも楽しいけど、しっとり雰囲気も良いよね。ふふー。

    甘い物にも目がない僕としてはカフェもメイン!
    ゴンドラは完全個別みたいだけどー、終わったらカフェにいくよー、くらいのノリだったら、
    相席とか押しかけちゃってもいいのかな?いいのかな?ってちらっちらと見ちゃう僕です。
    まー、文字数とかの都合でさっくり諦めるかもしんないけど、ちょっとだけそんなつもり。

  • カインとパートナーのイェルクだ。
    帰りのカフェは寄る予定。
    ハロウィンはカボチャっていう大樹の意見に同意する口だ。
    楽しんだ後、ゆっくりかぼちゃパイでも食うかな。

  • [2]咲祈

    2015/10/17-19:51 

    ごんどら……。ふむ、これはなかなかだね。
    やあ、咲祈(サキ)とサフィニアさ。よろしく、ね。

  • [1]柳 大樹

    2015/10/17-14:29 

    柳大樹です。
    よろしく。

    ハロウィンならかぼちゃ、ってことで。
    カフェには寄ってこうと思ってるよ。


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