プロローグ
ジャックオーランタンを被ったオーガ達を討伐するために現れた、ウィンクルム達。オーガ達の特殊な攻撃やゲームに翻弄されつつも、少しずつではあるが対策を練ってきているようだ。
「流石は、対オーガ組織……いや、流石はウィンクルムと言うべきかな」
推理の館と書かれたアトラクション内で、青年が姿を隠すこともせずに歩みを進めていた。
カップルや友人同士で一度離れ離れに個室に離され、片方が拘束され片方が謎を解いて拘束されたパートナーを助ける――どうやらそれがこの推理の館の醍醐味のようだ。愛する者を救うために、奮闘する。なんて美しいことなのか。
このアトラクションで謎を解けなかった場合はその時点でアトラクションから出される。解けた場合はパートナーを拘束する敵を推理で論破して、パートナーを救った上に景品がもらえるらしい。
「これで友情や愛情を深めるきっかけにするってことだね」
青年はアトラクション内を徘徊するオーガを横目で確認しながら、アトラクションのルールを確認していく。
「ん……? これは……」
『このアトラクション内では、赤字はすべて真実である』。どうやら、このアトラクションでは、発言を物体に変化させることができるようだ。そして、その発言が真実の場合、それは赤く染まる。
「なるほどね……これはとても面白いね」
そう呟きながら、青年はふらふらとアトラクションの奥へと進んでいく。
「このアトラクションを利用するのも、悪くないかもね」
青年はそう呟き、アトラクションの奥へと歩を進めていった。
あなたは、推理の館と呼ばれるアトラクションの前に立っていた。
このアトラクションに潜むオーガは、『ゲームバトル』を仕掛けてくるという。ただそれだけならば他のウィンクルムが倒してしまっていそうなものだが、アトラクションのギミックが特殊で、先行したウィンクルムの何組かが帰って来ていない状況だ。
決死の思いで館内にある受話器から連絡をとり、A.R.O.A.に情報を送ってくれたウィンクルムの言葉によると、そのゲームのルールでは、精霊と神人は離れ離れにされて神人はオーガに囚われてしまうことが第一条件で、精霊は神人を助けるために推理をしながら館の奥に進み、神人と待つオーガに答えを突きつけ倒さねばならないらしい。
推理を当てれば神人を助けることが出来、オーガも倒せる。が、推理を間違えればゲームオーバー。つまり、オーガにお菓子にされて食べられてしまうという。
けれど、推理するのはたったの一問。それさえ正解すればオーガを倒せる。
先行したウィンクルムの情報によると、問題はこうだ。
『神人は、亡くなりました。
亡くなった場所は密室であり、窓も扉も鍵がかかっていて外からは開きません。
密室内は、冷暖房完備水道あり水洗トイレがありましたが、他には何もありませんでした。
密室は完璧であり、犯行者も神人も出入りすることは出来ません。
部屋に罠はありません。
神人の死体が発見されたのは、神人が失踪してから20日後です。
オーガによる犯行ではありません。
神人は自殺ではありません』
答えるのは犯人ではなく、犯人がどのようにして神人を殺したか。
問題文からそれを導き出せば、オーガを倒すことが出来る。
あなたは意を決して、推理の館の扉に手をかけた。
解説
『ゲームバトル』です。
仮装をしている場合、仮装についてプランに記載してください。
館に入ると突然床から壁が出現し、神人と精霊が別々に別たれてしまう、というところからスタートします。
この時、何をしようとも別々になってしまいます。
【ルール】
・神人と精霊は会話する手段を持たない。
・このゲームでは、【】この記号での発言がすべて真実。真実を口にするときは、これを用いる。(【】内の文が、プロローグにある赤字の発言です)
・精霊は大広間に移動させられ、大量のオーガに囲まれる。オーガは精霊が神人への愛を【】で語りながら攻撃しなければ倒れない。
・そうして、最後のボスのオーガに向かって、謎の答えを示す。
・神人をどのようにして殺したか、を解答してください。
・誰か一人でも正解していれば、ウィンクルムの勝利です。
・問題を提示してくるオーガには、仮装能力や物理攻撃は効きません。他のオーガには、攻撃と仮装能力は効果がありますが、倒すことは出来ません。真実を言い放ちぶつけることで倒すことが出来ます。思い切り愛を叫びましょう。
・人間は呼吸している!など、あたりまえの発言ではオーガは倒せません。
・罰ゲームは、『ロシアンルーレットで1/6、2/6……と弾をこめて行き、最後に6/6で自分の頭部を銃撃する』というものです。
※出題文の答えは、ノックスの十戒、ヴァン・ダインの二十則に準じます。
(そう難しく考えなくとも、おそらく答えは導き出せると思います)
ゲームマスターより
ハロウィンイベントのエピソードです!
推理モノを書く機会があまりないので、ハロウィンイベントに便乗して書いてみました!
問題はさして難しくないかと思うので、オーガをぶっつぶしちゃってください!
ではでは、参加お待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【仮装】 ゴースト 周囲に状況を確認 自分がいる部屋を見回す 動けるか、身体に異常はないかを確認する。 拘束されているなら、どういう風に拘束されているかを観察する。 縄での拘束なら身をよじってゆるみを作ってみる あまりにぎちぎちに縛られているなら力ずくだと逆に負担になってしまうかもしれないのでゆっくりと。 それでも無理なら仮装の効果を使って拘束を抜けれないか試す。 オーガに囲まれているなど、動くのが圧倒的に不利な状況の場合はおとなしくしています。 先行していたウィンクルムは何故正解を言ってくれなかったんでしょう 助けられるなら全員助けてあげたいです ひとまず自身をなんとかしなければいけませんけどね。 |
マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
目的 オーガの討伐 可能なら被害者の救出 館に入る直前 トランス 祈り 勇猛果敢な立ち振る舞いで敵を退けるお姿を信じております 旦那様ご無事で~ 心情 離れ離れになる事は判っていたけど恐ろしく心細い 無力な自分に出来る事は信じ祈る事 行動 旦那様のお姿を確認出来たら 感極まって涙が溢れるのを堪える 雄姿(ゴーストだけど)に見惚れる 終始手を組んで祈りのポーズ 無事救い出して貰えたら 旦那様の行動にされるがままに もし抱しめられたら真っ赤になって固まる 討伐する事ができたら 行方不明のウィンクルムと被害者一般人の捜索と保護をする |
●愛の踏み台
先行したウィンクルムの情報の元、推理系アトラクション『推理の館』に踏み入る四人のウィンクルム。
不気味な雰囲気を醸し出すアトラクションに、ここを踏破しなければならないのかと些か辟易とする。
『推理の館』を踏破するために呼び出されたウィンクルムは二組。
マーベリィ・ハートベル、ユリシアン・クロスタッドの二人と、ハロルド、ディエゴ・ルナ・クィンテロの二人だ。
ディエゴとハロルドが意を決し扉を開こうとすると、
「あ、少しだけ待ってください」
ハートベルは二人が扉を開け放つのを遮り、クロスタッドに「旦那様」と柔らかな声で呼びかける。
クロスタッドはそれに呼応するようにしてハートベルに近づき、そっと横に立つ。
クロスタッドが頬を差出して、ハートベルは頬を朱色に染めながらも、クロスタッドの頬に優しく唇を触れさせた。
「「仰せのままに私の旦那様」」
途端に二人の体躯からオーラが湧き上がる。トランス状態だ。
戦闘準備に入ったハートベルとクロスタッドとアイコンタクトをとり、ハロルドとディエゴが入口に建てつけられた大きな扉を開け放つ。
ギィ……と古い扉が開くような音が響き渡り、薄暗い館の中に外界の光が差し込めた。中はまるでミステリ小説で描写されるクローズドサークルものの洋館のような構造で、不安を掻き立てる雰囲気が蔓延している。
「なんだこれは……」
ディエゴが目の前に佇んでいるモノに目を剥き、つぶやきを漏らす。他の三人も息を飲んで眼前に出現しているモノから視線を離せないでいた。
そこに出現していたのは、巨大な碑文。
碑文に書かれているのは、不気味な言葉の羅列。
『神人は、亡くなりました。
亡くなった場所は密室であり、窓も扉も鍵がかかっていて外からは開きません。
密室内は、冷暖房完備水道あり水洗トイレがありましたが、他には何もありませんでした。
密室は完璧であり、犯行者も神人も出入りすることは出来ません。
部屋に罠はありません。
神人の死体が発見されたのは、神人が失踪してから20日後です。
オーガによる犯行ではありません。
神人は自殺ではありません』
とてもいい気分がするものではないが、先行したウィンクルム達の情報によると、碑文に書かれた文言はとても重要なものらしい。
ただの意味のない文言ではなく、これ自体が問題文となっているというのだ。
「神人は、亡くなりました……」
問題文を復唱して、ハートベルはきゅっとクロスタッドの服の端を掴む。
異様な雰囲気をしたこの空間で、自分と同じ立場の人間が死んだなんて文章を見せられれば、それは誰でも不気味に思うだろう。
ハロルドも鞭を手にかけながら意識を周りに集中させ、ディエゴとクロスタッドはオーガが現れた瞬間対応出来るように同じく武器を構える。
けれど、その意識の集中を掻い潜るように、入ってきた扉がバタンと音を立てて閉まった。
「なっ?!」
各々の驚愕の声が漏れ、館内に反響する。意識は扉にも集中させていた。にもかかわらず、まったく反応できなかった。
外の光で明るく彩られていた館内が真っ暗になり、咄嗟にハートベルはクロスタッドの二の腕に抱き着く。クロスタッドは抱き着かれていない方の腕で短剣を抜刀し、扉を閉めたであろう者の襲撃に反撃しようと本気で構える。
ハロルドとディエゴもついに本気で気配を探り始め、暗闇の中に存在しているだろう敵を追いかける。
しかし、一向に敵の姿が見当たらない。数秒経っても敵が攻撃を仕掛けてくることもなく、それがまた相手の真意を読めずに不気味であり、重く嫌な空気に場が支配された。
訝しげに構えていると、突如として碑文の真下から火の手が上がり始めた。といっても、火事というわけではない。松明に火がついたのだ。同じくして、取り付けられていた松明に一斉に火が灯され、洋館内が明るく照らされる。
視界を奪うために扉を閉めたのではないのか、そう疑問を呈したくなるほど真意の読めない行動をする敵の動き。
「何を考えているのかはわかりませんが。……そちらから出てくる気はないということですね?」
ハロルドが灯された松明を睨みながら武器を固く握り、ディエゴもその後ろに着くようにして歩を進める。
「考えが読めないのは、不気味だね……」
ハートベルを背に庇いながら、クロスタッドがゆらゆらと揺れる影を睨みつける。
『ようこそ、ウィンクルムの皆さん』
突如として碑文から粘り気を含むような声が響き渡り、全員がそちらを注視する。
「だ、誰でございますか!?」
ハートベルの警戒を隠さない声色に謎の人物は薄く笑い声を溢し、
『ウィンクルムの敵なんて、ひとつしかないじゃないか』
ウィンクルムの敵。ウィンクルムの対極となる存在。それは、ウィンクルムである自分達自身がよくわかっている。
オーガだ。声を発している者、その正体。
身構えるウィンクルムに、青年の声をしたオーガは続ける。
『まぁまぁ、そんなに固くならないでよ。たかがゲームでしょ?』
命をゴミのようにしか思っていないような発言に、ハートベルが絶句する。
「下種が……」
ディエゴは忌々しく吐き捨てるように一蹴し、青年は笑い声を上げた。
『僕は君達に期待しているんだよ? 前に来たウィンクルム達はダメだった。愛の足りない、名前や役職だけのウィンクルムだったよ。酷い話だよね、人々を護るヒーローみたいな存在の彼等が、護るための力を蓄えていなかったんだからさ』
「力がなきゃ、死んでもいいってこと?」
クロスタッドが侮蔑を込めた視線で碑文を睨む。
『死んでも良い? いや、そんなわけないよ。だって、大切なウィンクルムだよ? ただの犬死なんてダメに決まってる。――他のウィンクルムの礎になってもらわないと』
その一言でついに怒りのメーターが振り切られたハロルドとディエゴ、そしてクロスタッドは一斉に碑文に向かって攻撃を仕掛けようとする。
しかし、
『あっははは、まさか碑文に攻撃しようとするなんて思わなかったよ。ダメダメ、これを破壊されちゃゲームにならないんだからさ』
青年の声をしたオーガは心底楽しそうに言い、その言葉が発せられたと同時に床に敷かれたカーペットから、鎖がジャラジャラと音を立てて蠢いた。
驚嘆の声をあげる暇も無かった。軍人あがりのディエゴが反応を遅らせてしまうほどの瞬きするような間に。そんな数瞬の合間に。
神人の二人、ハロルドとハートベルは床から出現した十字架に鎖で縛られてしまう。
「いや、旦那様っ!」
「マリィ!!!!」
縛られたハートベルに、クロスタッドは手を伸ばす。
「ハル!」
ディエゴもハロルドに手を伸ばし駆け寄るが、追いつけない。二人の十字架が、壁に吸収されるかのように飲み込まれてゆく。
「ディエゴさん、なんとか出られないものか色々試してみます。そちらも、何もないとは考えにくい。くれぐれも気をつけて――」
「旦那様、勇猛果敢な立ち振る舞いで敵を退けるお姿を信じております。どうかご無事で――」
ハロルドとハートベルがついに壁に飲み込まれ、その姿を消す。
突然のことに対する混乱は大きいものの、やらなければならないことはわかった。
『さぁ、これで準備は万端だね。はじめようか、ゲームをさ』
むかつくあのオーガをぶっ倒せばいいだけの話だ。
●真実の言葉
ハロルドとハートベルが十字架に貼り付けられたまま連れられたのは、空虚な一室だった。オーガが蔓延っているわけでも毒ガスが蔓延しているわけでもない一室。
「……ここは、どこでございましょう……」
不安げにあたりを見渡すハートベル。身体を拘束され、わけのわからないところにつれてこられたのだから、それは相当な恐怖だろう。
しかし、幸いとして少し離れてはいるものの隣にはハロルドの姿がある。
ハロルドは鎖で拘束された自分の身体をじっと見つめ、どのように拘束されているのかを観察する。鎖での拘束である以上、縄のように身をよじっての脱出はまず不可能であり、力ずくで動いてもただ自分の身体を痛めつけるだけだ。
しかし、それで諦めるつもりもなく、仮装の能力『ゴースト』を使い拘束をどうにか抜けられないか試してみる。
「あの、ハロルド様?」
「マーベリィさん、やはりこちらからも何かしらのサインを飛ばすべきです。一緒にこの拘束から脱出出来ないか試してくれませんか?」
ハロルドに声をかけたハートベルは、ハロルドの意見にはっとした表情を形作り、お互いに頷きあう。
恐ろしく心細く、無力な自分に出来る事は信じ祈る事しかないかもしれない。でも、それでも旦那様と少しでも早く再会したい。
ハートベルは胸中の中でそう呟きながら、ハロルドとともに拘束の抜け目を探し始めた。
一方ディエゴとクロスタッドは、無駄に広大な空間へと移動させられていた。
異様な雰囲気はもはや驚くことではないが、同じくして冷や汗が垂れそうな光景が二人の眼前に広がっている。
「何の冗談だ、これは……」
ディエゴが辟易とした様子で広大な広さを誇る空間を見渡し、クロスタッドもごくりと喉を鳴らしてあたりを一望する。
広大な空間に波打つようにして存在しているのは、ジャックオーランタンの被り物を身に着けたオーガの姿。
「これ全部が、オーガだって!?」
クロスタッドの叫びに、青年の声をしたオーガは「そうだよ」と簡単に肯定する。
『でも安心していいよ。このオーガ達自体はそんなに高い戦闘能力を有してるわけじゃないから。ただ、君達が真実を口にするだけでオーガは倒されていく』
『一番の問題は、碑文に書かれた問題の答えだよね。僕はこのオーガを倒した先にいるよ。さっさと答えて、僕のところに来てね? でないと、』
青年の声をしたオーガはそこで言葉を区切り、
『【大好きな神人がどうなってもしらないよ】?』
と、真実の言葉で言葉を紡いだ。
この空間では真実の言葉は赤字で表され質量を持ちオーガに向かってゆく。
それは、碑文の答えを解くときも同じことだ。
「……ユリシアン、戦闘中の俺の言葉は全て忘れてくれ」
恥ずかしそうにディエゴが呟きを漏らし、クロスタッドは頷きを返す。お互いにこれからとても恥ずかしいことを口走る。これは、その前置きだ。
ディエゴとクロスタッドは意を決して息を吸い込み、オーガ達の波の中に突っ込んでゆく。
先に仕掛けたのは、クロスタッドだった。
「【厚い眼鏡から覗く大きな瞳が愛らしい】!」
赤字で紡がれた言葉がオーガに向かって行き、直撃した数匹のオーガは悲鳴とも似つかぬ声をあげて消滅した。
いきなりそんなに飛ばすのか、と言いたそうな視線でディエゴはクロスタッドを見やるが、もはや気にしている余裕はない。ディエゴも覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。
「す……ハァ……【好きだ】!!」
シンプルながらも威力の高い真実が紡がれ、数十匹のオーガがディエゴの言葉に掻き消される。
クロスタッドもオーガの攻撃を潜り抜けながら、さらに続けて発言。
「【小動物の様な仕草はぼくの癒しだ】」
オーガが目を見張る速度で消し飛ばされてゆく。
ディエゴは拳銃を取り出してオーガに向ける。発動するのは、スキル、ダブルシューターⅡ。息をつかせる暇もないほどに連射し、オーガの動きを封じてから、
「【そばにいないと落ち着かない】!!!!」
特大の一撃をオーガに食らわせ、ほとんどの敵を掻き消す。
その発言にあわせるようにして、クロスタッドも大きく叫ぶ。
「【マリィ きみはぼくを活かす運命の女性】」
二つの真実の言葉が空間中を駆け巡り、オーガ達を一掃した。
反響した自分達の声にやや照れくささを覚えつつも、オーガを一掃し見渡しがよくなった空間を一望する。
すると、空間に残る一匹のオーガが目に留まった。
二人を待っていたかのように席に腰を下ろし、背には碑文を鎮座させている。
『いやぁ、素晴らしい愛だったよ! 感動したもん。まさかオーガを一掃してここまでくるなんて、期待通りで嬉しいよ』
青年の声をしたオーガはそう言い放ち、席を立ってディエゴとクロスタッドの前に立つ。
『でも、これからが本当の試練だよ。【この碑文を解かなければ、君達も神人も僕に食われる】んだからさ、ちゃあんと謎を解いてもらわないと』
あくまで楽しそうにするオーガに忌々しい視線を送りながら、二人は碑文を見やる。
『ああ、そういえば忘れていたよ。【この碑文の答えはひとつではないよ】。ルールにさえそぐっていれば、それはすべて正解なんだ。確かに本当の真実は一つしかないのかもしれない。でも、主観による真実の齟齬は仕方の無いことだよね』
青年の演説に反吐がでるとでも言うように、ディエゴは耳を貸さないまま推理を口に出す。
「外から開かない鍵と窓というのは、出られるのに部屋内で死亡し自由に動けなかったという解釈であっているか」
ディエゴの言葉に青年の声をしたオーガは、
『ううん。【外部からも内部からも脱出は不可能だった】し、【部屋内では自由に動けた】よ』
続いてクロスタッド。
「問題文には他者の犯行である決め手が無い。他者でないならば神人自身が要因だろう」
『うん、認めるよ。【他者でないならば神人自身が要因】その解釈で合ってるよ』
ディエゴがしかめっ面で、自分の推理を紡ぐ。
「【神人の死体が発見されたのは、失踪から20日後】。……触れられるべき存在が描写されていない、精霊だ」
ディエゴは青年の声をしたオーガを睨みつけながら、
「ゴミ箱ひっくり返してでも探すはずだ。死ぬまで発見できないのは信じ難い」
そこで、「もしも」と区切って、
「精霊も探せない状況だったら?」
推理を間違え、食べられるか頭を撃てば俺の神人も問題文の神人と同じ目にあうだろうよ。……そうなら俺が神人を殺したも同然だな。
胸中で胸糞の悪くなる推理をしてしまい、渋面を浮かべるディエゴ。
『なるほどね、つまり君は精霊が神人を助けられない状況下にあったと言いたいわけだね。うん、確かに外部からの接触は出来なかったわけだし、その通りだよね。【精霊も探せない状況だった】、認めるよ』
なら、とディエゴが言葉を紡ぐ。
「精霊が問題を外し、結果的に神人はオーガに食われるかして殺された、そうじゃないか?」
嫌な推理だ、とディエゴは思う。神人を精霊が助けられないなんてそんなことは悲しすぎる。
青年の声をしたオーガは、ディエゴの推理を聞いて、笑顔のまま言い放った。
『【オーガによる犯行ではないよ】。もっと言えば、【オーガは神人にも精霊にも触れてすらいない】』
ディエゴの推理がはじかれ、しかしディエゴは今の真実によって浮かんだひとつの仮説を脳裏に復唱する。
推理を固めるディエゴに続くように、クロスタッドが続ける。
「問題文に想うよ。――悲しいな。最期を看取る精霊がそこに居ないというのは。喪ったのか出逢えなかったのかわからないけど」
でも、とクロスタッドは呟き、
「ぼくは出逢った。必ず救い出し共に帰る」
青年の声をしたオーガがより一層面白いものを見ている、という表情を形成し、それを睨みつけるようにしてクロスタッドが言葉を紡ぐ。
「自殺でないなら答えは一つ」
答えを待ち望むオーガに、真実の刃を食らわせてやる。
クロスタッドとほとんど同時に、ディエゴも推理を固めて口を開く。
「冷暖房完備水道トイレあると示されているのに、食料がない」
二人は脳内で固めた推理を反芻し、むかつく眼前のオーガに叩きつけようと準備をする。
そして、楽しみだとでも言うように待つオーガに向かって。
二人の真実が放たれる。
「【神人は病で死んだのだ】」
「【神人は、餓死した】」
一方は刃、一方は銃弾となってオーガへと向けられる。
身体を撃ち抜いた真実と、身体を切り裂いた真実を見て、青年の声をしたオーガは恍惚の表情で床に伏す。
『あは、あはははははっ! 素晴らしいよ! 君達の勝ちだよ! 申し分のない解答だった……僕ごときじゃあ邪魔なんて出来ない、美しい愛だった』
口角から血を垂らして、青年の声をしたオーガは立ち上がる。
「終わったな、二人を解放しろ」
ディエゴがオーガに拳銃を向けて言い放つ。
けれど、
『終わった? 何を言ってるのさ? まだゲームは終わってないでしょ?』
オーガは銃を取り出して、弾をひとつ込める。
「まだ抵抗するのかっ!」
クロスタッドが忌々しいモノを見るように短剣を構えて、オーガを一瞥する。
『まさか。抵抗なんてしないよ。ただ、遠足は帰宅までが遠足って言うでしょ? 同じさ。【罰ゲームを終わらせるまでが、ゲーム】だよ』
言うが早いか、青年の声をしたオーガは弾を一発込めた銃を自身の頭部に当てて、カチリと引き金を引く。
そして、撃つ。
だが、確率は1/6。弾は発射されず、続け様に青年の声をしたオーガは弾をもう一つ込める。
撃つ。弾は発射されず、青年の声をしたオーガは楽しそうに弾を込める。
「狂ってる……!」
目の前の不気味な行動をしているオーガに冷たく言い放ち、クロスタッドはおぞましいものを見てしまったかのように視線を逸らした。
4/6、5/6と繰り返し、ついに弾は発射されず、
「悪運の強いヤツだ」
そういってディエゴが銃口をオーガに向けると、
『まさか、これで終わりなわけないでしょ。これは罰ゲームだよ?』
青年の声をしたオーガはもう一度弾を込め――つまり弾は必ず発射される状態――にして引き金を引いた。
発砲音が響き渡り、硝煙をあげる銃が地面に落ちる。
青年の声をしていたオーガは地面に倒れて、ぴくりとも動かなくなった。
●再開
青年の声をしていたオーガが倒れてすぐに碑文が窓のように半分に開け放たれ、中からハロルドとハートベルが飛び出してきた。
「マリィ!」
「ユリアン様っ!」
お互いに高揚した気分のまま、クロスタッドがハートベルを強く抱き寄せる。
思い切り抱きしめられて、ハートベルは顔を真っ赤にして身体を硬直させてしまった。頭を撫でられ、怪我がないかいたる所を視線で確認され、ハートベルの顔が完熟したトマトのようにさらに赤くなっていく。
「ハル、大丈夫だったか? 何もなかったか」
ディエゴがハロルドに駆け寄り、足元から頭のてっぺんまでを怪我がないか確認する。
「私は大丈夫です。ハートベルさんと協力して拘束を抜け出したまではよかったのですが、今度は密室内から抜け出す事が出来なくなりまして。ディエゴさんこそ、大丈夫でしたか?」
ハロルドがディエゴの手を取って、まじまじと怪我がないかを見つめる。お互いに確認したが、どうやら怪我はないようだ。
安心して、二人は安堵の声を漏らす。
クロスタッドのされるがままに抱きしめられ、真っ赤になっているハートベルを横目に見ながら、ハロルドはゆっくりと歩を進める。
「このアトラクション内にまだオーガが存在してるかもしれません」
ハロルドはディエゴの手を引き、
「ついて来てください」
やはり寂しさや心細さを感じていたのか、ハロルドはアトラクションを出るまでディエゴの手を放すことはなかった。
●真実の愛を見て
「いてて……うん、本当に銃で頭撃ち抜いても中に居る僕には傷一つないんだね」
消えうせたオーガから飛び出してきた青年は、身体をぱきぱきと鳴らして立ち上がる。
「でも、流石に死なないとはいえちょっと躊躇したよ、自分の頭を撃つなんて正気の沙汰とは思えないもんね」
とてもこの男から出た言葉ではないと思わせることを言いながら、青年はあたりを見渡す。
どうやら、ジャックオーパークを占拠していたオーガ達も、ウィンクルムに討伐されて数を減らしているようだ。
この分ならば、もう少し経てばオーガの姿はなくなるだろう。
「うん、けど満足したから今回はこれくらいでいいかな」
楽しそうに、青年は微笑を溢す。
「また付き合ってよ、ウィンクルムさん」
依頼結果:成功
MVP:
名前:ハロルド 呼び名:ハル、エクレール |
名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ 呼び名:ディエゴさん |
名前:マーベリィ・ハートベル 呼び名:マリィ |
名前:ユリシアン・クロスタッド 呼び名:ユリアン様 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 東雲柚葉 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 推理 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 2 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 10月12日 |
出発日 | 10月18日 00:00 |
予定納品日 | 10月28日 |
参加者
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
会議室
-
2015/10/17-23:42
-
2015/10/17-17:25
悪い、今になって答えを変える
参加人数が少ないし答えは二種類あったほうがいいと思ったんだ、二人の回答が同じものかはわからないが
あと先ほどの法則を見直したんだが、死因について誤解していた部分があった
(脱字があったため修正しました) -
2015/10/17-14:49
…まあな、そのひっかかりは俺も感じている
二つの推理においての法則に準ずるなら
犯人は被害者や事件において大きい意味を持つ者であること
その事件に登場していること
被害者が「神人」であることを踏まえると、自分にとっては嫌な方向に考えが行き着く
これが正解なら、素直に喜べないな -
2015/10/17-12:09
(ユリシアン)
独り言として聞き流してくれて構わないんだが
推理している中でずっと引っかかっていて
でもあえて無視した要素があるんだ
亡くなったのが神人だという事
絶対ではないが神人には精霊が付きもの
なのにその情報が無い
あるいは神人の死体を発見したのが精霊だったのかとも考えたが
だからなんだという繋がる情報も見当たらないし
ひっかけの1つとして考えない事にしたんだが
ひっかかるな
神人である理由があるんだろうか…? -
2015/10/17-09:50
いや、良いんだきにしないでくれ
そうだな凝り固まっていってるのは俺も同じ状況だ
どちらかが正解すれば良いことだ、正解があると良いな。
-
2015/10/17-09:02
(ユリシアン)
おはようを言ってなかった 失礼した
今の時間なら早めの反応が出来るよ
ぼくは自分の解答に凝り固まってしまって他の考えに頭がいかなくなっている
是非ともぼくとは違う解答を導き出してほしいと思うよ
でももし同じ解答にたどり着いたらそれが正解なんだろう -
2015/10/17-08:50
ああ、おはよう
速い返答をありがとう
俺が考え付いた答えだと、ウィンクルムごとに殺し方が違うことになってしまうんだよな
難しく考えることはないということだから、道具を使わない素手の犯行なのかとも思うが
-
2015/10/17-08:35
(ユリシアン)
ぼくも犯人は中にいると考えているよ
ああでもぼくの解答が合っているかはもちろんわからない
ただ出ている情報で考えられる死因は1つしか思いつかなかった -
2015/10/17-07:51
殺害方法は一つなんだよな?
外側からは扉は開かない点と犯人を求められているわけではないとすると
犯人はまだ密室内にいるっていう考えで良いのか?
ここまでで
犯人は神人の身近な存在という考えにたどり着いたんだが
自分ではあり得ないと思いたい -
2015/10/17-05:32
初めまして
ユリシアン・クロスタッドです
ぼくの意見をお求めの様だが
既にプランは提出済なんだ
だから考えを述べるのは
ぼくの解答を言うのと同義になる
言ってもいいのかな?
1つ言うのなら
密室は『外から』は開かないって事が推理の大きな鍵になった
…それにしてもこの問題文には心が痛むな -
2015/10/17-00:22
滑り込みの参加、失礼する
ディエゴ・ルナ・クィンテロとハロルドだ
一日しか猶予がないが、できるだけやろう
まず思い付く限りの考察
・部屋の設備に冷蔵庫、食料の描写がない
・抵抗の痕跡がない
→神人は失踪直後にここに来たわけではない
食べ物による毒殺や、勿論十戒や二十則に反する餓死の可能性は消える
望んで入室したか、入室した時点で既に神人の意識がなかったか
この部分は問題文の「亡くなった場所は密室であり」の所が変になってくるから違うかもな
密室を作るなら
ありがちだがセロテープと糸を使って外から鍵をかけるやり方がある
(一般的なサムターン錠でしか通用しないっぽいですが)
殺人方法はまだわからない
空調を使い毒を吸わせたか…
だが俺は、部屋の描写から神人は部屋の外で殺されそのあとに部屋に放り込まれたとしか思えない。
殺害方法を答えなければいけないわけだから困ったもんだな。
変に難しく考えてしまうところもあるから意見を聞きたい。